『焼いてはいけない』(Dung dot/英語題 Don’t Burn)ダン・ニャット・ミン監督インタビュー

日越外交関係樹立45周年記念事業
“ベトナム映画祭2018”
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【ダン・ニャット・ミン監督プロフィール】
1938年ベトナム中部のフエ生まれ。1954年国費留学生としてソ連へ。1957年に帰国し、ソ連や東欧の映画の台詞を翻訳する仕事につく。1962年ハノイの映画学校へ翻訳・通訳者として転職。1965年ドキュメンタリーを初監督する。国営の映画スタジオに採用され、映画製作を続ける。1975年『5月いっぱいの表情』を完成させ、いったん映画から距離をおいた。自作のシナリオを監督するスタイルを選択し『射程内の街』(1982)『十月になれば』(1984)『河の女』(1987)『帰還』(1994)『ニャム』(1996)『ハノイ、1946年冬』(1997)を発表。特に『焼いてはいけない』(2009)は、国内のみならず海外でも高く評価された。ベトナムを代表する国民的監督である。

『焼いてはいけない』(Don’t Burn)
1970年、ベトナム戦争中の野戦病院の焼け跡に落ちていた手帳が拾い上げられた。米軍士官のフレッドは通訳に「焼いてはいけない」と言われる。野戦病院にいたダン・トゥイー・チャムという女医が書いた日記だと知る。フレッドはアメリカに持ち帰り、少しずつ翻訳して読む進むうち、戦争中誇り高く生きた愛情深いこの女医のことが頭から離れなくなる。35年後、日記はダン・トゥイー・チャムの母親の元に返された。
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-原作の「トゥイーの日記」※を読みました。ミン監督がこの本に出会われたのは?

ご存知のとおり、原作はベトナムでベストセラーになってたくさんの人に多くの衝撃を与えました。私も同じようにその本を買って読み、たいへん感動すると共に魅力を感じました。

-映画化するまでの経緯を教えていただけますか?

そのときはまだ映画化しようとは思っていなくて、その後新聞に断続的に掲載された記事を読んだのがきっかけです。それにはアメリカ軍士官だったフレッド・ウォーター・フォードのことが書いてありました。トゥイー・チャムの日記を戦場で拾ってアメリカに持ち帰った人物です。彼は情報収集をする士官で、戦場に残されているものを集めるのが任務でした。実際に拾ったのは傀儡軍のベトナム人兵士のヒェンで、上官であるフレッドにメモをつけた日記を提出したのです。メモには「燃やしてはいけない。この中に炎がある」と書かれていたそうです。それを見たとき、映画にしよう!と思いました。そしてこれは、今までに作られたベトナム戦争の映画とは全く違う作品になるだろうと考えたのです。

アメリカで作られたベトナム戦争の映画は、いつもアメリカ人は勇敢で人道的、それに対してベトナム人は鬼である。共産主義を振りかざし銃を振り回す、まるで石や砂、鉄のような人間に描かれています。また一方ベトナムで作られるものも結局同じです。つまりベトナム人は英雄で、正義のために戦っているとても我慢強い人たち、アメリカ人は汚い人間という風に描かれています。私が作ろうと考えたのは、双方の良い人物像です。ただ戦争という周りの環境に流されて戦わざるを得なくなっているのです。チャムは明らかに良い人です。また日記を拾った傀儡軍の兵士も良い人、アメリカ人の上官も良い人でした。でなければ日記を持ち帰って大事にするわけがありません。しかし、その良い人たちが互いに殺しあわなければならない。
ベトナム戦争というテーマをこれまでのプロバガンダの域を越えて、描きたいと思いました。アメリカ人が観ても感動する、今世界中どこにあってもみなさんが認めてくれるということは、この映画がプロバガンダ映画なのではなく、人の心、魂を現しているからだと言えます。
映画を作るにあたって、アメリカの士官フレッドに日記のどこに感動したのか尋ねました。彼は「チャムの家族、母親や妹たちに対する愛情にもっとも感動した」と答えました。ごらんになっておわかりいただけたと思いますけれど、私は映画の中でも、チャムの愛情を強調しています。それが彼女の力になると同時に、彼女の人間性というものを現していると思うからです。気をつけて観ていると映画の中でチャムが銃を持っているようなシーンは一つもありません。私の映画の中には、女性兵士が銃を構えている銅像のようなシーンを入れたいとは思いませんでした。
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さきほどNHKのインタビューに答えたんですけれど、この映画はアメリカ、フランス、インドなど世界中で上映され、皆さんに暖かく受け入れられました。特に日本で熱心に観ていただき理解され、受け入れられたと感じています。日本とベトナムはアジア人として同じ心を持っているからだと思います。そしてチャムというキャラクターが日本人と似ているからではないかと思います。日本の次に感動してくださったのがアメリカです。ベトナム戦争から帰った兵士がたくさんいます。私が思うのは人の情というのはどこも同じだ、ということです。

-お聞きしたかったことの解答をほとんどお話してくださいました。ありがとうございます。
一人ひとりは良い人なのに、戦争に巻き込まれてしまうと敵味方として戦わねばならず、抜け出せなくなります。ミン監督は大人になってベトナム戦争を体験していらっしゃいます。そのころのこと、今のお気持ちなど伺えたら、私たちが戦争をしないようにするためのヒントがあるのではないかと思うのですが。


おっしゃったように、私自身大人になってからベトナム戦争を経験しています。ハノイで爆弾を投げましたし、ホーチミンルートにも入りました。私の父もホーチミンルートでB52の爆撃を受けて亡くなっています。そのとき医師だった父はマラリアの薬を研究していました。
それから良い人同士なのに、戦争に流されて互いに殺しあったり憎みあったりしなけれならないということですけれども、村上春樹さんの文学賞を受賞のスピーチの中にあった「見えない大きなシステムによって、そうならざるを得ない」ということだと思います。そしてこのシステムというのがどうしてあるのか、芸術家である私にはわかりません。分析については学者や政治家にまかせたいと思います。私は芸術家ですので、中にいる人々の運命というものを映画で描き続けていきます。
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戦争が起きないようにするには「みんなが愛し合うこと、そして生き続けること。お互いに意地悪をしない」(笑)。映画の中に詩が出てきます。「愛し合いなさい、愛こそが人の翼に力を与え、飛び立たせてくれる」という意味の詩です。人間はとても小さな存在ですから、力といえば愛情だと思います。私は政治家ではないので、具体的に戦争を止める方法はわかりませんが、言えるのはこういうことです。
村上春樹さんがスピーチでこうも言っていました。「もし卵と壁があるなら、私は卵の側に立つ」卵は力のない弱い人たちのことです。私も壁側に立って描いたことは一度もありません。壁は戦争という恐ろしいものです。映画を完成させてから、そのスピーチを読みました。まさしく私の映画はこうだ!と思いました。検索してみてください。※

-これからも弱い人の側から映画を作り続けてくださいますように

今脚本を書いています。私は自分の脚本しか監督しません。プロデューサーが「自分が感動したから、これを作って」と言うのは、やりません。今5本の作品が引き出しに入っています。このうち1本でも実現させたいです。映画界も変容してきました。『焼いてはいけない』は初め民間の映画会社に持ち込みましたが、そこは若い人向けのエンタメ作品を作るところで、結局国のお金で作りました。
今は全部民営化されていて、娯楽映画が席巻しています。意義のあるプロジェクトについては支援があります。『ニャム』はベトナム・日本の共同製作となっていますが、NHKの資金が100%。たくさんの人の支援もあって作れました。
私の映画には商業映画の側面は全くありません。若い人のように外国の映画祭に行きたいとも思いません。それなのに、アメリカ、フランス、日本では福岡の映画祭によばれました。福岡では観客賞をいただいて喜びました(2009年/第4回アジアフォーカス・福岡国際映画祭/タイトルは『きのう、平和の夢を見た』)。
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(2009年9月9日 主演女優ミン・フーンさんと 景山撮影)

-そのときの映画祭を取材したスタッフがいます。

どうぞその方によろしくお伝えください。
ベトナムの作家が私を「私たちの国を映像で物語ってくれる人」と言ってくれました。意識して作ってきたつもりも、自分が歴史や社会学者になったつもりもないのですが、そうかなぁと思いました。これまでの全ての作品に、1945年の8月革命ほか近・現代史が映し出されていると思います。

-新しい作品でまたお目にかかれるのを楽しみにしております。

★インタビューを終えて
9月1日(土)から9月9日(日)まで、横浜でベトナム映画祭2018が開催されました。『焼いてはいけない』の上映&シンポジウムもあり、来日したダン・ニャット・ミン監督にお話を伺うことができました。南北に分断されているころから映画界を牽引してこられたベテラン監督です。お目にかかるまで緊張しましたが、たいへん穏やかで優しい方でした。『焼いてはいけない』はミン監督がおっしゃっていたように、日本で書籍化もされて深い共感が寄せられました。今回はNPO法人津山国際交流の会の協力で無料上映したものです。
主人公のダン・トゥイー・チャムさんのお誕生日が、夫と4日違いなのに気づきました。遠い人だったのに輪郭が見えた気がしました。戦いの中でも小さな花に目をとめ、家族を思う愛情深いチャムさん。傷ついた人を全身で受け止める彼女が永らえたなら、どんなにか良いお医者さんになったことか。奇跡的にお母さんの手に戻った日記は、彼女からの命がけのバトンです。しっかり受け止めて次に渡したいものです。
(取材・写真 白石映子)


※参考
「トゥイーの日記」(ダン・トゥイー・チャム著/高橋和泉訳/経済社)
村上春樹 エルサレム賞受賞スピーチ(卵と壁のスピーチ)
https://www.kakiokosi.com/share/culture/89
英文 http://d.hatena.ne.jp/m_debugger/20090218/1234917019

今後のベトナム映画祭予定
10.6 (土) ~10.19 (金) 大阪 シネ・ヌーヴォ
★10/13(土)14:30、10/15(月)14:30@シネ・ヌーヴォX 『焼いてはいけない』は入場無料
11.10 (土) ~11.23 (金) 東京 新宿K's cinema
11.24 (土) ~12.7 (金) 愛知 名古屋シネマスコーレ
●スケジュール詳細はお出かけ前にHPをご確認下さい http://vietnamff2018.com/

ベトナム映画祭を運営する熊谷睦子さんのインタビューはこちら
(1) cineja-film-report.seesaa.net/article/460412704.html
(2) cineja-film-report.seesaa.net/article/460491913.html

宮尾俊太郎《ロメオとジュリエット》トークイベント

8月25日(土)"METライブビューイング アンコール上映2018″開催中の東劇にて、《ロメオとジュリエット》上映前に宮尾俊太郎さんスペシャルトークイベントがありました。
 登壇者:宮尾俊太郎(Kバレエカンパニー プリンシパル) 
 司会:朝岡聡(フリーアナウンサー)
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☆宮尾俊太郎プロフィール☆
北海道生まれ。14歳よりバレエを始め、2001年に元パリ・オペラ座エトワールのモニク・ルディエールに見いだされ、フランス カンヌ・ロゼラハイタワーに留学。在学中にカンヌ・ジュヌ・バレエのツアーに参加する。2004年10月Kバレエ カンパニーに入団。『ドン・キホーテ』のバジル役で主演デビュー後、『白鳥の湖』『シンデレラ』『ロミオとジュリエット』『くるみ割り人形』『ジゼル』『海賊』『カルメン』などの主要作品で主演を担う。2015年よりプリンシパルを務める。TVドラマや映画、CMへの出演、ミュージカル出演など、バレエダンサーの枠にとらわれず、様々なメディアで活動の場を広げている。(資料より)


ー「ロメオとジュリエット」のオペラはフランスの作曲家が書いていて、ジュリエットは、ロシアのアンナ・ネトレプコという今世界中で一番人気のある人です。東劇の上のほうのアンコール上映(10月5日まで)の看板に出ている女性です。ロメオはロベルト・アラーニャ、マルセイユ出身のフランス人。共に大スター・歌手でございます。これはラブストーリーの中でも1,2を争う名作。宮尾さんは、いろんな場面を踊るわけですが、一番好きな場面はどこですか?

宮尾 有名なバルコニーのシーンはもちろん踊っていて酔いしれるんですけれども、一番気を使うのは最後の死ぬシーンですね。バレエはセリフがないので、自分の身体表現プラスオーケストラの音なんです。その音が相手を思う気持ちに聞こえたり・・・聞かせなきゃいけないわけですよ。そのへんがラストシーンになるにつれて繊細になっていくなぁと思います。

ーみなさん、まさか「ロメオとジュリエット」を知らないっていう人はいらっしゃらないですよね?

宮尾 いらっしゃいます?

ーいや、言えませんよw。宮尾さんの前で知らないなんて死んでも言えませんよ。w
シェークスピアの書いた物語です。基本的なところを申し上げておくと、舞台は北イタリアのベローナという町。ここにモンターギュ家とキャピュレット家という二つの家があって、ものすごく仲が悪い!それぞれの御曹司ロメオとお嬢さんのジュリエット。これが恋に落ちる、だけども上手くいかない。いいですか、みなさん。オペラってのはラブストーリーですが、決してうまくいかない。


宮尾 バレエもそうです。決してうまくいかない。そして誰か死ぬ、というw

ーこれはね。自分が恋するときには何にも問題がない、ハッピーなのがいい。わかったとたん両思いでお互いの家族も友だちも「良かったねー」という。めでたしめでたし。ところが、人の恋を見たり聞いたりするときはそうじゃない!人間というのは。うまくいかない、どーしてー?ひどーい!うっそー!ww これみなさん大好きだと思うんです。なぜならその方が面白いから。だから源氏物語だって、失楽園だってみんなうまくいかない恋物語ばっかりじゃないですか。

宮尾 普段お客様、みなさんが、そこまで私体験できないっていうのを代弁して、その気持ちを感じていただくっていう。
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ーさっき宮尾さんがおっしゃったバルコニーのシーンは、ロメオがジュリエットの屋敷に忍び込んでいく。ジュリエットが「なぜあの方はうちと仲が悪いモンターギュ家の方なの。その名前を捨ててほしいわ~」と独り言を言っているのを聞いて、ロメオは感激するわけです。それをどうバレエで?振り付けは決まっているんでしょうけど。

宮尾 そのセリフがお客様に聞こえてくるように、心の中でそのセリフを言いながら踊っています。16歳と14歳の若い男女の愛が止まらなくなっていく勢いと、その初々しさを大事にしています。

ーバレエって手の使い方が大事ですよね。「好きだ~~~」(と手を伸ばす)ww スピードとか。

宮尾 ありますね。最初初々しさを出すためには(手のふりをつけて)「好きって言えない」とか、「好き、あ、言っちゃった」とかいろいろあります。w

ーねぇ。これはオペラの歌手もそう。歌手だけじゃなく、俳優、女優ですから。だから動きがとても大事なんです。バルコニーの2人が語らっているときに、どんな動きをしてどんな表情をしているかというのも見所なんです。

宮尾 それでびっくりしたんですよ。先にDVDで見せていただいたんですが、オペラの方がシュッとされている。体格が大きいイメージだったんです。そんなに大きくない、そして、すごくよく動く!戦うシーンなんかも信じられないくらい動いていて、よくあれで息が切れない!僕もこの前初めてミュージカルに出させていただいたのでわかるんですが、あんなに激しく戦って息が切れないというのにびっくりしました。

ーとにかく動くんですよね。主役の2人もそうですが、仲の悪い両家が戦うシーンで脇の人たちが計算された動きで、戦い抜いていくんです。ここはうなっちゃうんですよね。

宮尾 今までオペラっていうのはそんなに動かないイメージだったんですけど、最近はこういうふうになってきて新しい迫力のある現代的な演出をされていて、そのうちダンサーなみに踊れるオペラ歌手が出てくるんじゃないかな、って思っちゃうんですよ。

ーほんとにね、昔みたいにばーんっと太った人が「私はもうすぐ死んでしまう」って言うんじゃなくw、美しい人が主役をするようになってきてる。棒立ちでなんて歌いません。この第4幕でロメオとジュリエットが、ベッドに入るシーンがあります。このベッドがね、宙に浮いてる。星空に浮いているようなベッドの上で愛し合いながら二重唱を歌っているんです。幻想的なまさに2人だけの世界って感じで。ベッドで見事に歌っているんです。
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宮尾 すごいですよね。ほんとに。落ちないか心配でしたけど。wとても甘美で美しいですよね~。シュッとされてるオペラ歌手の方は、この映画で「寄り」(アップ)になっても美しいんです。それを大きな画面で見て、とってもいいなと思いました。

ーライブビューングは高音質、高画質が売り物ですので、音楽はもちろん素晴らしい音で聞こえてきますけれども、今宮尾さんがおっしゃったように、アップになったりアングルが変わったりしたときに、実にいろんな演技や表情が見えてくる。リアルにわかります。
今日は5幕ありますけど、どの画面も画面に吸い込まれるように感じられると思います。それから、幕間(まくあい)に、インタビューがあるんですよ。


宮尾 あれも面白かったですねぇ。演じている人が戻ったらカメラがあって、みなさん嫌な顔ひとつせずてきぱきと応えていらっしゃって。あればっかりはこういったライブビューイングでないと見られないですよね。

ー普通は幕が閉まるとどんなふうに休んでるのかしら?と思うんですけど、さすがにスター歌手というのは「ハァーイ!」なんて言ってw またインタビュアーが歌手だからいいんですよね?

宮尾 そうですね。仲間ですから気持ちわかっていますから。

ーだから宮尾さんがね、終わった後に熊川(哲也)さんが出てきて、「今日どうだった?」なんて聞いたら?

宮尾 (明るく)「いや最高ですね!!」ってwww

ーこのインタビューは、ライブビューイングの売り物の一つ。登場した人たちの本音がすぐその場で聞ける、という。
「ロメオとジュリエット」の話に戻りますが、仲の悪い両家なのに恋に落ちた2人、ロメオがちょっとした諍いがもとで、ジュリエットの従兄弟を殺してしまう。それで追放になってしまうわけです。2人は結婚したいけど、ジュリエットには親の決めた婚約者がいる。神父に相談すると、薬をくれるんですね。一日だけ仮死状態になるけれどお墓で目覚めるから、日本みたいに火葬じゃないから、そうしたら2人で遠くへ逃げなさいと。ところが、こんな大事なことがなぜかロメオに伝わらない。


宮尾 携帯電話とかないですからねえ。w 

ーそ、メールもできない電話できない。で、仮死状態になっているジュリエットを見て、ロメオは「もう生きていけないー!」と毒を飲んでしまう。こっちは本物の毒で、効いてきてるときにジュリエットが目覚めて、毒を飲んでしまったといって死んでいくロメオに私も生きていけない!とグサッ。これがさっき言った死んで行くシーンのオーラス。死んだときって、動かなくなったらいい、ってもんじゃないですよね。

宮尾 いや、死んだ後は動かないんですwww 死ぬまでは動いてます。
真面目な話をしていいですか? 「ロメオとジュリエット」ってずっとどの時代でも愛されてきましたけど、人々の争いが消えないかぎり、この作品は愛されるていくんじゃないかと。争いがあるからこそ愛が浮き立って見えるので、そこにみなさんが感情移入できるところがある。争いがもしなかったらこの話はつながらなくなるんじゃないかなって思っちゃったんですけど。どう思います?

ーそれをいうならね、人間は恋愛が大好きなんですよ。一回愛して懲りた、もうしないとかよく言うでしょ?でもまた恋しちゃうんですよ。人間の世の中から、愛も恋も一回でOKってみんな思っちゃったら、バレエもオペラもなくなっちゃう気がするんです。

宮尾 最近厳しくなってきている浮気とかもそういったものもドラマの一つ?

ーまあ、それをしろってことじゃないんですよ。現実世界では、「愛のために死ぬ」ってことは普通できないのよ。どんなに相手のことが好きになっても、簡単には死ねない。だけど、頭の中では「愛のために死ねたらいいなぁ」とは思ってるんですよ。

宮尾 「愛のために死にたい!」という気持ちは、いつも自分でも持っています。
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ーそれをね、実現するのがバレエであり、オペラじゃないかって私思っているんですよ。疑似体験という。「ロメオとジュリエット」には、ドンピシャリ「愛と死」というテーマが入っている。音楽でも、演技でも、バレエでもしみじみ納得させてくれるんですよね。

宮尾 ほんとそうですよねぇ。いつも、舞台上でそういう愛のために死んでいるので、日常は抜け殻のようになっていますww

ー演じるってことに、それだけエネルギーは必要だってことだと思う。

宮尾 演者さんによってはその引き出しを増やすために、私生活もその近い状態にもっていくみたいな方もいますからね。

ーええー!精神状態を? 役作りというか、気持ちを作って盛り上げていくために?
今度10月に宮尾さんがおやりになる「ロメオとジュリエット」は、旧ソビエト時代の有名な作曲家プロコフィエフのですね。いろんな作曲家が心をとらえられて、オペラやオーケストラのために書いています。今日のオペラはグノーですが、プロコフィエフとの違いは?


宮尾 説明が難しいですけど、違いますね。先日仕入れた情報によると、プロコフィエフさんはアメリカに行って新しい技法を仕入れてソビエトに戻ったんですが、共産主義のもと自由に曲を書けない。実はアメリカで得た新しい技法を曲の中に入れていると聞きました。

ープロコフィエフは20世紀の作曲家ですからね。(宮尾 グノーさんは?)グノーは19世紀の真ん中あたりの人です。当時のフランスはとても華やかな時代。オペラの規模も大きくて、その中にバレエが入っていて一緒に楽しむ時代の作品なんです。ロートレックたちが描いた絵がありますよね。ああいう風な紳士淑女がパリのオペラ座に行って社交するわけですよ。すごく立派な建物で、中に入ると立派な階段があって、ホワイエ、ロビーが広い。イタリアの昔の劇場は玄関に入るとすぐ客席になっちゃう。フランスのガルニエ宮とオペラ座は世界で初めて鉄骨作りで作られたので大きいんです。休憩時間にボックス席から出てきてホワイエでお酒を飲んだり話したり、というのはオペラ座ができてから初めて始まったんですよ。

宮尾 シャンパンと生ハムとか。

ーさきほどDVDの感想を伺いましたが、そのほかに印象に残ったところは?

宮尾 セットですね。星座を意識して作っているセットと、現代的というんでしょうか、お洒落で豪華。これは凄いなと思いました。

ー衣装はたしかにクラッシクな感じなんですけど、回る舞台がちょっと斜めに傾いていたり、遠近法をうまく使った背景だったり後ですよね。

宮尾 そのあたり細かく“寄り”で見ていただけたら、楽しめると思います。

ーバレエの場合は舞台から正面で見るでしょ。(宮尾 そうです)オペラの舞台はセットに凹凸があったりするのが違いますね。

宮尾 バレエは舞台上でナチュラルな動きっていうのは少なく、バレエの基本に基づいた動きをしますので、あまり段差があったりするとそこから外れてしまう場合があります。ところがこの作品の戦い場面なんかは、みなさんが飛び上がったり飛び降りたりしています。

ー戦いの場面でロメオが向こうの御曹司(ジュリエットのいとこ)を殺してしまうんですが、ああいうところ迫力があって、日本の殺陣によく似た計算された動きの中でやっているんですね。

宮尾 けっこう本気で剣をふりまわしていて、リアリティがありました。

ーライブビューイングは1ヶ月くらい前に上演したものを鮮度そのままに高音質・高画質で見られるんですけど、さっき宮尾さんがおっしゃたポイントや、アップになったりアングルが変わったり、幕間のインタビューがあったり、見所がたくさんです。アンコール上映は10月5日まで、11月から新しいシーズンが始まり、その一番目が「アイーダ」です。今日ご覧になったアンナ・ネトレプコのジュリエットは10年前、アイーダのアンナが10年後。すっかり貫禄がついて。w バレエのプリンシパルも変わっていくことがありますか?

宮尾 あります。20代前半は勢いがあって、テクニックに走り勝ちですが、30代に入ってくると深みが出てきます。

ー声も同じ。若いうちは軽やかで、だんだん充実、重厚になってくる。アンナ・ネトレプコが歌う「私は夢に生きたい」という有名なワルツがあるんですけど、それが10年前。10年後は「アイーダ」を歌っている。どんな風に歌っているかは、11月にご覧下さい。

宮尾 いいですね。でも10年後は42歳です。引退している可能性が・・・重厚な踊りが踊れるようになって、僕もライブビューイングしていただけてるといいですが。

ー引退はまだまだ。バレエももちろんですが、俳優もなさっていますし、いろんな充実したフィールドに拡がっていくと思っています。

宮尾 そうですね。僕もミュージカルでもバレエでも「ロメオとジュリエット」やらせていただきました。後はオペラですね。www

ーそんな風にみなさまのモチベーションを刺激する「ロメオとジュリエット」でございます。どうぞお楽しみください。どうもありがとうございました。

宮尾 ありがとうございました。
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(取材・写真 白石映子)

グノー《ロメオとジュリエット》
上映時間:3時間28分
指揮:プラシド・ドミンゴ
演出:ギイ・ヨーステン
出演:アンナ・ネトレプコ、ロベルト・アラーニャ
(MET上演日:2007年12月15日)
配給:松竹 (c)松竹
https://www.shochiku.co.jp/met/news/956/

METライブビューイング アンコール上映2018
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配給:松竹 (c)松竹

『妻の愛、娘の時』 シルヴィア・チャン舞台挨拶付きプレミア上映

シルヴィア・チャン監督舞台挨拶付きプレミア上映&衣装デザイナー ワダエミさんとのトークショー
2018.7.3 YEBISU GARDEN CINEMA シネマ2

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左 ワダエミさん 右 シルヴィア・チャン監督

『妻の愛、娘の時』(原題 相愛相親)の公開を記念して、監督・主演のシルヴィア・チャンが7月に来日し、舞台挨拶と衣装デザイナー ワダエミさんとのトークショーが行われました。この作品は9月1日に公開されます。

物語
主人公フイインの母が亡くなり、田舎にある父の遺骨を都会にある母のお墓に移動しようとしたことから騒動が起こります。田舎で夫の帰郷を待ち続けた最初の妻ツォンや村人は遺骨の移動に大反対。フイインの娘ウェイウェイは自分の人生の選択に迷いつつ、強引な母親の行動に反発しツォンのもとを訪ね、良い解決はないものかと思案します。父の遺骨をめぐる騒動を3世代の女性の視点を通して描くこの作品。夫婦、親子、都市対田舎の対立、家族の歴史をユーモア込めて描き、最後は心にしみる物語になっています。
作品詳細 
シネマジャーナル作品紹介
『妻の愛、娘の時』公式HP

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(C)2017 Beijing Hairun Pictures Co.,Ltd.


張艾嘉(シルヴィア・チャン)監督プロフィール

台湾出身。台北アメリカンスクールを卒業後、73年にジミー・ウォング主演『いれずみドラゴン 嵐の決斗』で映画デビュー。『山中傳奇』(79)、『過ぎゆく時の中で』(88)、『フルムーン・イン・ニューヨーク』(89)、『恋人たちの食卓』(94)など数多くの香港・台湾映画に出演してきた。78年には映画製作にも進出し、映画監督・プロデューサーとしても活躍し、監督作としては『君のいた永遠』(99)、『20.30.40の恋』(04)、『念念』(15)などを製作、プロデューサーとしては『美少年の恋』 (98)がある。脚本家としても活躍している。

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左 2015年東京フィルメックスにて 右 今回の催しで

★女優、プロデューサー、監督として40年にわたり活躍するシルヴィア・チャン

『妻の愛、娘の時』のプレミア上映会が7月に東京・YEBISU GARDEN CINEMAで行われ、監督&主演を務めたシルヴィア・チャンが舞台挨拶に登壇した。7月に65歳を迎えたが、「ある程度の年になると、同じテーマの作品でもものの見方や解釈が変わってきます。私はすでにおばあちゃんですが、今回は家族をテーマにしていますので、世代と世代のギャップを埋める橋掛けを私なりにできるとうれしい。いつもそういう形で映画を作っています」と映画製作に携わる姿勢を語った。「おばあちゃん?」という言葉に場内がいっせいにどよめくと、「私の孫娘はもう13歳。長男は今年で38歳です。さらに、息子は3人」と語ると、観客はさらに驚いた。

●3世代の女性の想いをテーマに

シルヴィア・チャン:愛に対する考え方をポイントにしました。そしてお墓のことがひとつのポイント。3世代の女性を描く時、愛に対する思いを中心に考えました。
おばあちゃん世代は夫に合わせ、5,60台の私の世代は夫婦で考える。そして若い世代は自分のことを中心に考える。
この作品は平凡な家庭を描いていますが、平凡だからこそそこにある日常のディティールを丁寧に描きました。その描き方で皆さんに共感してもらえたと思います。
各世代の女性、それぞれの時代を生きて、それぞれの苦難や苦労があるけど、成長していく中で、いろんな関門をくぐり抜けて強くなっていきます。もう私もおばあちゃんになったけど、本当のおばあちゃんの気持ちはまだよくわかっていないかもしれません。でも少なくとも私が今まで体験してきた中で、若い人たちの気持ちを理解しているつもりでこの映画に描きました。

ポスターなど 今回の催し会場で
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下 2017年 東京フィルメックスで 台湾でのポスター?


●監督と主演、自分の演じるシーンのOKはどのように

シルヴィア:他の役者がいない時は、自分のシーンを撮れます。だめだしは自分でします。また、スタッフが「あのシーンは、ちょっと」と情報をくれます。それで撮り直しをしたりします。

●最近気になった映画は?

シルヴィア:是枝裕和監督の『万引き家族』が気になっています。非常に丁寧に愛を持って描いていて感動しました。この映画を観て複雑な心境になりました。「家族」は、血のつながりがなくてもいい。ひょっとしたら、血のつながりがない方がいい家族になるかもと思いました。

★途中でシルヴィア・チャンの誕生日&本作の日本公開を祝うため、親交の深い衣装デザイナーのワダエミさんが花束を持って登場。

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シルヴィアは『呉清源 極みの棋譜』に呉清源(張震=チャン・チェン)の母役で出演した際、同作の衣装デザインを担当したワダエミさんと親交を深めた。また同作監督の田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)が『妻の愛、娘の時』にシルヴィアの夫役で出演していることから、2人は彼の話題で大盛り上がり。

●田壮壮について

シルヴィア:『呉清源 極みの棋譜』出演の際にワダエミさんと仲良くなりました。この映画の脚本段階から、夫役は田壮壮監督の顔が頭に浮かんでいてオファーしました。田壮壮に連絡をし北京でゴルフをしたのですが、その時は切り出せなくて、次の日、再度電話をしてオファーしOKしてもらいました。
彼が登場することで、映画にリアル感、人物の情感、雰囲気など、一気に命が芽吹いたと感じました。彼はこれまで俳優としては、ワンシーンだけというような出演をしていますが、セリフがたくさんある役は今回が初めて。妻を優しく見守る役柄でこれがとても素晴らしく、役柄を気に入っています。本作出演後、俳優としての
オファーが殺到してるそうです(笑)。
彼は監督をしている時はシリアスですが、普段は気配りが出来る魅力のある人。若い女性にもとてもモテています(笑)。現場でもみんな彼のことが大好きになりました。でも映画の中では素敵な旦那さんですが、実生活でこの人を夫にしたらけっこう大変だと思います(笑)。


ワダエミ:『呉清源 極みの棋譜』で衣装デザインを担当しましたが、ふだんの田壮壮監督は本当に色っぽいんです。上目遣いで見つめられるとクラクラッときそう(笑)。実際の彼は、ほんとに知的な若い女性にモテるんです。
シルヴィアのの連絡先は知らないんですが、田壮壮が私たちの間を取り持ってくれて、彼に「シルヴィア最近どう?」と聞くと教えてくれます(笑)。

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●新作について
シルヴィア:マレーシアで撮影する新作「夕霧花園(原題)」(林書宇=トム・リン監督)では阿部寛さんと共演します。

●最後に
シルヴィア:日本では映画祭に参加したことはありますが、本日のように映画館で舞台挨拶をするのは初めで、とても嬉しく思います。私は映画の世界に入って40年仕事をしてきましたが、今は、ひとつひとつの作品がとても大切なものだと感じています。なぜかというと私の残りの時間は限られていて、映画を作ることができる機会が少なくなっていると思うからです。
映画を通じ、皆さんと交流できる貴重な機会を大切に、そして、この作品がみなさんに気に入ってもらえるととても嬉しい。

ワダエミ:娘のようなシルヴィアの新作、素晴らしいと思います。等身大の自分を見つめ直すために、ぜひ日本の皆さまにみて欲しいです。世界的に超大作やドキュメンタリー的な作品が多いなか、シルヴィアは彼女が持っている繊細で、愛のある世界を描いています。ぜひ、自らを問い直すためにも観るべき映画だと思います。


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9月1日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー
取材・写真、まとめ 宮崎暁美