『母さんがどんなに僕を嫌いでも』舞台挨拶

完成披露試写会 舞台挨拶 2018年10月30日(火)

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ーいよいよ本日お客様にお披露目のはこびとなりました。ゲストのみなさんに今のお気持ちとともにご挨拶を頂戴いたしたく思います。

太賀 みなさんこんばんは。主人公の歌川たいじ役を演じました太賀です。今日こんなにもたくさんのお客様の目にこの映画がふれて・・・えーと、緊張してきちゃいましたけど、ほんとに今日という日を迎えられて嬉しく思っています。少しでもこの映画がみなさまに伝わればいいなと思っています。どうか最後まで楽しんでいってください。今日はよろしくお願いします。

吉田 みなさんこんばんは。吉田羊です。今日はお集まりいただきましてありがとうございます。高いところから失礼いたします。今の私の最大の懸念は明日の写真は全部「鼻の穴」だろうなということです(笑)。怖いな。(太賀さんへ)ね?あご引いて喋らないと。(笑)
この作品は去年の3月に撮影しました。1年半ぶりにみなさまにやっとお披露目ができますので、ほんとに嬉しいです。と同時にすごくデリケートな題材なものですから、みなさまに私たちの伝えたい思いがきちんと伝わればいいな、と願うような気持ちでおります。短い時間ではございますが、最後までよろしくお願いいたします。

監督 みなさま 本当にようこそおいでくださいました(拍手)。ありがとうございます。
歌川たいじさんが痛みを引き受けてしたためた、人生のギフトのような原作を手にしてから5年が経ちます。こうして映画が完成してみなさんに見ていただけるのをほんとうに今日嬉しく思っております。歌川さんはこの映画の母のような人ですが、母はやはり心配で心配でしょうがなくて、僕とずっと目が合っているんですけど(笑)、壇上からのご紹介で恐縮ですが、歌川さん立っていただけますか?(客席で立たれた歌川さんに満場の拍手)よろしくお願いいたします。

ーそれではここでいろんなお話を伺ってまいります。今ご紹介にありましたように、この作品は歌川たいじさんのご自身の経験を綴った同名のコミックエッセイ、実話を元にした映画ということで、キャストのお二方は演じる上で、そして監督は演出する上で気にかけた点やご苦労なさった点などあったのではないかと思います。そのあたりからお聞かせいただけますか。

太賀 やっぱり歌川さんの実人生を演じるというのはやっぱり簡単なことではなくて、どれほどの思いで、歌川さん自身がこの原作を書き上げたのか、頭の下がる思いというか・・・傍から見たら壮絶な人生をされています。この物語の本質は悲しいできごとだけを描こうとしているのではなくて、その悲しみをどうやって乗り越えていくのかという、生きる上での力強さだったり人と人とが寄り添いあう喜びだったりが描かれているんです。僕が歌川たいじという役を演じる上で、実際に歌川さんが感じてこられた喜びも悲しみも一つとしてこぼすことなく、丁寧に演じたいなと、そういう思いでやりました。

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ー実際に歌川さんにお会いになって、演じる上でのヒントなどありましたか?

太賀 歌川さんは毎日のように現場に応援しに来てくださって、手料理をふるまったりお菓子をスタッフのみなさんに差し入れしてくださったりして、献身的に現場を支えてくださいました。歌川さんと、作品についての深いコミニュケーションは意図してとることでもなくて、なんかこう他愛もない会話や、歌川さんの佇まいや表情を盗み見ては、演じるヒントにしていました。
ー映画の母でもあり、現場の母でもあったというところなんですね。吉田さんはいかがでしょうか?

吉田 実在のお母様でいらっしゃいますので、歌川さん本人から聞き取りをしまして、お母様に関するエピソードをいくつか聞かせていただいたんですけれども、聞けば聞くほどほんとにひどいお話ばっかりで、どうしてもお母様が虐待するにいたった思考回路が理解できなくて、どうしようかなって、この人どうやって演じたらいいのかなって思っていたんです。
でも、ひどい話ばっかりなのに最後に歌川さんが「でも一生懸命生きた人だったんです」って笑顔でおっしゃるんですよね。その歌川さんをみたときに「あ、そうか。この歌川さんの思いを私は伝えればいいんだ」と思って。私はその光子さんを「未熟なまま母親になることを強いられた人」だと認識しているんですけれども、私が未熟に演じれば演じるほど、逆説的に「それでも息子は母の愛を求めている。愛しているんだ」ということが色濃く伝わればいいなと、半ば願うような気持ちで演じました。

ーなかなか壮絶なシーンも多くあったかと思うんですけれども、乗り越えるのはたいへんでしたか?

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吉田 そうですね。ただ、現場にいる太賀くんがたいじさんそのものだったんです。なので、太賀くんが演じるたいじさんに反応していけば、自然と感情ができていった。そういう意味ではほんとに太賀くんに助けられました。

ーそして監督は思いも強い分こだわりもあったかと思いますがいかがでしょう。

監督 こだわりじゃないですけれど。原作を読まれてる方もそうでない方もいらっしゃると思うんですけど、これから歌川さんの壮絶な過去をみなさん目の当たりにするんですね。
僕が原作を読んで一番心を打たれたのは、「人生は循環できる」っていうことだったんです。歌川さんの人生ほど壮絶でないにしても、この会場のみなさんそれぞれ振り返るのが辛くなるような記憶、かさぶたのまま放置しているような傷、生きていたら必ずひとつや二つ抱えているものだと思うんですよ。
それを最近定着してしまった「断捨離」のごとく切り捨ててしまったり、なかったことにしてしまうんではなくて・・・嬉しいことも悲しいことも全部自分を形成してきたものだから、今現在進行形で得られた友情や愛する人から得られた優しい気持ちを、かつて愛されなかった自分の意識に、自分の中で渡してあげることができる。人生は循環していくことができるんだ、僕はそのことを原作から大きな気づきとして得られて、今日よりも明日、明日よりも明後日とちょっと気分のいいものにしていくためのエネルギーになるんじゃないかな。それを映画にしたいと思ったんですね。
ですから今日は特別なお客様なので、いたるところで人生が循環する。映画を見終わった後に、幸せな円がくるりっと心の中に描かれるような印象をみなさんが感じてくれるといいなと思っています。いろんなところにまん丸なキーワードが隠されていますので、ぜひそれを楽しんでください。

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ーそうですね、キャストのお二方が演じてらっしゃるこの親子関係ひとつとってもその中に様々な関係性、メッセージがこめられているかと思いますので、受け取っていただければと思います。
続いての質問に移る予定ではあったんですけれども。実はですね、太賀さんと吉田さんにはナイショにしていたことがございまして。主題歌「Seven seas journey」を歌っていらっしゃいますゴスペラーズのみなさんが今日この会場にお越しくださっています。

(太賀さんと吉田さん顔を見合わせる)
(会場は「え~!」「きゃ~!」の歓声と拍手)
ーそれではご登場いただきましょう。どうぞお入りください。ゴスペラーズのみなさんです。(拍手)
初対面でございます。


 みなさん今晩は。ゴスペラーズです。ありがとうございます。(拍手)
太賀さん、吉田羊さん、そして御法川監督完成披露試写会おめでとうございます。と、今お話にあったとおり実はお三方と我々ゴスペラーズ今日が「はじめまして」ということで、この映画のために書き下ろしました「Seven seas journey」をみなさんへのプレゼントとしてここで歌わせていただきたいと思います。

ー素晴らしい!歌を披露していただけるということで。実は監督はご存知だったんですけど、おふたりにはナイショだったので、かなり驚かれていらっしゃいます。

太賀 なんで監督は知ってたんですか。(笑)

吉田 おかしいじゃないですか。(笑)

 さっきから監督だけちらっとこっちを見るんですよ。見ないで下さいよ、ばれるじゃないですか。(笑)

吉田 思いもしませんでした。

 はい、トイレも一時間前に済ませまして隠れていました。(笑)

ここで準備。監督、吉田さん、太賀さんは端へ移動。

 では聞いていただきます。「Seven seas journey」

ゴスペラーズさん 主題歌「Seven seas journey」を披露

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ー太賀さん吉田さんいかがでした? こうして歌声を聴いてみて。

太賀 やばかったです(笑)。いやなんかこんなに・・・なんだろう。完成披露試写会でこんな気持ちになったのは初めてです。ほんとになんか・・・素敵なものを見せていただいてほんとに嬉しかったです。ありがとうございました。感動しました。歌川さん、良かったですねー!

吉田 私もそう思ってたの。聞きながら。ほんとにね、歌ちゃんが(横を向く)、いやだほんと泣いちゃう。いろいろと歌ちゃんが・・・

監督 僕がちょっとだけ、羊さんが泣いてる間に。(ゴスペラーズへ)ほんとにありがとうございます。観客のみなさんにお伝えしたいんですけど、ゴスペラーズのみなさんは原作を読んで、脚本を読んで、編集した映画も見て、たくさん候補の歌詞や曲を作ってくれたんですよ。映画を拡げるために主題歌をというのはお約束でもあるんですけど、僕はこんなに愛情深く主題歌を作っていただいたことをほんとに光栄に思いながらとても感謝しています。ありがとうございました。(拍手)

ー吉田さん、何かおっしゃりたいことがあれば(笑)。

吉田 はい、落ち着きました。ほんとに歌ちゃんがね、お母さんの愛を諦めずに生き続けてこの本を書いたおかげで、こんなに素晴らしいギフトをいただけるんだということを、きっと歌ちゃんは今しみじみと感じているんだろうなと、歌ちゃんの気持ちになったら泣けてきました。

ーひとことだけぜひゴスペラーズのみなさんにも伺いたいんですけど、映画をご覧になっていかがでしたでしょう。

 はい、この映画には愛すること、そして愛されることの両方が描かれています。どちらも決して一人ではできないことで、相手がいて誰かがいて初めてできることです。一人でできないことだからこその難しさもあるし、でもだからこその美しさもあるし。そんな思いをこめて我々ゴスペラーズも決して一人では歌えない歌い方で、歌わせていただいたのがほんとに光栄でした。ありがとうございました。みなさん、この映画を見終わった後にいろんな思いが胸に降りそそぐと思うんですけれども、そんな言葉にならない思い、それを形作るための道しるべにこの歌がなったら嬉しいなと思っております。ありがとうございました。(拍手)

ーありがとうございました。
ここからフォトセッション

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ー最後にキャストのお二方と監督からもう一言

太賀 ほんとにこんなに素敵な完成披露試写会になって嬉しく思います。この作品がこれから先多くの人の目に触れることを祈りつつも・・・そうですね。見てもらう方にはそれぞれの受け取り方をしていただければと思うんですけれども、最終的にこの歌川たいじという役を少しでも愛おしく思っていただければ、もちろんお母さんもそうですし、出てくる登場人物がみな愛おしくて、愛されたらいいなと思いました。ほんとに今日はありがとうございました。よろしくお願いしますっ。(拍手)

吉田 この映画はほんとにデリケートな内容ですので、いろんな議論があると思います。私は、この映画でネグレクトの当事者を救うことはできないだろうとずっと思ってきましたし、様々な取材でもそう話してきました。けれどもあるつぶやきを見ていたら「予告で流れている“あんたなんか産まなきゃ良かった!”という台詞は私自身も母からずっと言われてきた。きっとこの映画を見るのは私には辛いことになると思う。けれども母と向き合いたいから、この映画を見ます」と書いてくださっている方がいて、「ああそうか」と。この映画は「当事者の背中を押す力もあるかもしれない」と思いなおしました。私は当事者のかたにっもこの映画を見ていただきたいですし、そしてその周りの方々にもこういう見方もある、支えかたもあるんだな、というヒントにしていただけたら嬉しいなと思います。
愛し愛されたいと願っている親子の姿を通して、見終わった後もしかしたらぐぐっと考え込んでしまうかもしれないですけれど、この親子の間には確かに愛があったのだと感じていただければ。そして生きていればいろんな出逢いがあって、いつからでも人生はやりなおせるんだ、いくらでも人生を変えていけるんだと、小さな希望の光のようなものを感じていただけたら、我々が文字通り戦って作ったこの作品の意味があるかなと考えております。
今日この会場には、歌ちゃんご本人と、本作をご覧になればわかると思いますけれども、歌ちゃんに大きな影響を与えたキミツ、大将、カナちゃんというとても大切なお友達、モデルになった3人が会場にいらっしゃいます。どの人だったんだろうと探しながら、帰ってください。ヒントはマスク!(笑)というわけで映画を最後まで楽しんで帰ってください。本日はありがとうございました。(拍手)

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監督 僕は今日みなさんに申し上げるとしたら、おおいに笑って泣いていただきたい。羊さんが出演された4回泣ける『コーヒーが冷めないうちに』、とっても素敵な映画で僕大好きです。泣ける映画ってね、意地悪な人が斜に構えていろいろ言うけれど、そんなに自由に生きられていないと思うんですよ。普段いつも空気を読みながら、自分の本当の気持ちを抑えこんで日々営んでいると思うんですね。せめて暗闇の中でスクリーンを見つめながらふだん抑えている喜怒哀楽を解放していただきたい。さっき太賀さんも言ってくださいましたけれど、ほんとに一人の人間が懸命に生きている姿のおかしみと愛おしさ。それを大いに笑っていただきたいし、愛おしさに涙を流していただきたい。自分の体の中にこんなに涙がたまっていたんだと知ることって絶対力に転じると思うんですね。ですから今日は暗闇になってしまいますと、隣にどんな方が座っていても恥ずかしくありませんので。
今月釜山映画祭に羊さんと歌川さんと行って、初めて上映に立ち会って来たんですけれど、そのときはびっくりしましたね。(泣きまね)それがこだまするんですよ(笑)。でもね、僕はとってもすてきだなと思いました。太賀さん羊さんが伝えてくれた思いを受け止めていただくとともに、この可愛らしく元気な映画を楽しんでいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)

http://hahaboku-movie.jp/
©2018 「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会
★11月16日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

☆御法川修(みのりかわおさむ)監督インタビューはこちら
☆歌川たいじさんインタビューはこちら

東京国際映画祭中だったので、映画の合間をぬって駆けつけました。取材席は最前列ですが、この近くにいらっしゃる若い女性ファンの方々は、ずいぶん早くから並ばれていたようです。舞台上の立ち位置を示すガムテープの数を見て、「誰がゲストなのかしら」と言い合う姿に内心「びっくりするよ~」とうふふ。プレスには知らされていましたが、ゴスペラーズ登場に吉田さん太賀さんは目を丸くして驚いていました。目の前で聴く生歌はすばらしかったです!役得~♪
映画上映後、客席にいらした歌川さんに向かって大きな拍手が沸き起こったそうです。一緒に座っていたキミツさんもたくさんの方々に握手を求められたとか。映画と同じ暖かい雰囲気で終了した試写会であったようです。その場にいられなかったのが惜しい・・・。
今回もほぼ書き起こしました。音声と歌は届けられませんので、ぜひ劇場へお出かけくださいませ。(写真・取材 白石映子)

アジア三面鏡2018:Journey『碧朱』 松永大司監督インタビュー

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東京国際映画祭で今年も「アジア三面鏡」の新作が上映されました。第2弾の「アジア三面鏡2018:Journey」テーマは「旅」。短編3本のうち、『碧朱』の松永大司監督にお話を伺うことができました。(10月26日六本木ヒルズ)

プロフィール 1974年生まれ。東京都出身。ドキュメンタリー『ピューぴる』(2011)を初監督。『おとこのこ』『トイレのピエタ』(2014)、『ハナレイ・ベイ』(2018)など。平成30年度新進芸術家海外研究制度により、2019年1年間ロサンゼルスに留学。

『碧朱』ストーリー 
ミャンマー ヤンゴン市内を巡る環状線の電車に乗っている鈴木。声をかけてきた男に、この環状線の速度を上げる仕事をしていると話すと、なぜかと問われ、早くて楽になるからと答える。マーケットで縫い子の少女スースーと知り合い、自分と地元の人々との乖離に気づいていく。

★2018年11月9日(金)よりほか全国公開
(C)2018 The Japan Foundation, All Rights Reserved
「アジア三面鏡2018:Journey」作品紹介はこちら

-最初に「碧朱(へきしゅ)」の意味を教えていただけますか?

人生は四季の色にたとえられます。「青春」といいますよね。青を「碧」、夏は赤になります。赤を「朱」にして、ミャンマーの国が成熟していく状態を表した僕の造語です。今回撮影・照明が中国のチームだったんですけど、彼らはそういうイメージが湧いたみたいです。

-ミャンマーの国のイメージの造語でしたか。雰囲気のある言葉ですね。
画面の自然だけでなく、色とりどりの市場の場面など映像・色使いが綺麗でした。人の表情は優しいし、手付かずのものが多く残っている国だと思いました。


そうですね。日本がもう何十年前に失ってしまったような景色がミャンマーにはありました。

-発展するにつれ、これからも失われていきますよね。

それがこの作品のテーマの「進化」と「喪失」ということだと思います。それが全てかなと。
日本人である僕がそのミャンマーの状況に対して、それをいいとか悪いとかいう資格はないと思うんです。ただ僕自身がヤンゴンに感じた魅力を考えたときに、たぶんこの先この景色というのはなくなっていくんじゃないかと思って。電車に乗りながらいろいろ考えたんです。今は効率、時間を短縮していくことって、人類の命題みたいになってきちゃっています。時間は短縮されるわ、寿命は延びていくわで、僕たちの一生のうちにやれることの数がすごいじゃないですか。それが果たして幸せなのかどうか、一回ふと立ち止まって考えてもいいんではないかと感じました。

-それはロケハンで感じられて、徐々に固まっていったんですか?

今回は「これをやりたい」というテーマをその国にあてはめるのではなく、僕が日本人としてどこかの国に行ったときに感じた“今”を描いてみたいと思いました。

-主人公の鈴木さんには監督が投影されているんですね。

両方ですね。鈴木とニコラス・サプラットラが演じる男性(電車で隣り合ってバッグを忘れていく)との二人が僕自身です。何かのためにちゃんとした大儀を持ってその国に貢献しようと思うことと、どこかでそれが本当に幸せなんですか、って問われたときにハタと思うこと、相反する両方の思いがある。
日本はほんとに豊かだと思います。気持ちの面ということより、経済的・物質的に。山手線なんてほぼ遅れることなく来ますよね。で、ちょっと遅れたらすみませんとアナウンスがあるし(笑)。この国の正確さってすごいことだと思います。

-正確なあまり息苦しいこともあるかも。いいところも悪いところも。

うーん、よしあしですね。これが当たり前になっていますから、これが崩れたときが大変ですよね。災害とか。
通常のルーティンから外れたときに適応できなくなっています。

-日本で停電すると全てが止まってしまいますが、映画の中では違いますね。(家族で食事中に停電したらハッピーバースディを歌った)いいシーンでした。

あそこは僕が作りました(笑)。ミャンマーってしょっちゅう停電するんです。

-私が子どもの頃もよく停電しましたが「今につくよ」って感じでした。

そう、「今につくよ」なんです。人間として柔軟で適応能力が高い人たちだと思いました。

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アジア三面鏡2018 journey(撮影:宮崎暁美)

-ヒロインの可愛い女の子スースーは現地で見つけられたんですね。

役者のオーディションもたくさんさせてもらいました。ハワイで撮った『ハナレイ・ベイ』でも素人が出演しているんですが、最近面白みを感じていて、素人を使いたいと言ったら現地の美大へ連れて行っていただいたんです。授業を見たり、学内を歩いたりして僕が気になった人にオーディションに来てもらいました。けっこうたくさん来たのですが、ナンダー・ミャッアウンはちょっと違いましたね。
彼女自身もミャンマーという国を体現する存在にしたかった。少女から大人の女性に変革する過渡期の子だと思ったんです。非常にうぶな感じなんだけれど、芯はしっかりしていて、それで危うい感じもするのが面白かった。カメラの前でも物怖じすることがなかったです。

-長谷川博己さんはどうやって決まりましたか?ストーリーは長谷川さんありき、ですか?

じゃないです。僕はそういうやりかたはできなくて、基本的には自分で話を考えて、そこから役者を考えます。
年齢的には30代半ばから40代半ばの人。いい意味でドキュメンタリーチックに撮っていこうと思っていたので、その画面の中で、あんまり自己アピールをしない人がいいなと思っていました。役者って存在感あるのが価値みたいなところがあるじゃないですか、長谷川さんって作品によって上手く足し引きができる人。長谷川さんを知らない人が観たら普通の人、どこにでもいそうな人に見えるのがいいなと思いました。

-そして、やる時はやるんだ!って感じですよね。

そうなんですよ。だから『シン・ゴジラ』なんかすごい存在感ある。この作品では存在感なくしてストンと入ってくれたというか。

-なんだかどこにも力が入ってなくて、これは長谷川さんの素なのかしら、こういう方なのかと思ってしまいました。

近いかもしれない。長谷川さんにはなるべく役作りしないでポンと入ってくださいと言ったので。

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(C)2018 The Japan Foundation, All Rights Reserved

-『ハナレイ・ベイ』も見せていただいたんですが、失われていくものに対しての惜別と、とどめておきたいという情がそちらにもありました。

うーんと、情っていうか、「失われていくものに対して、残された人はどう接していくのか」というのが、僕たちが生きている間の永遠のテーマじゃないかと思っているんです。喪失しないと得ることができないものも当然ある。
そういうことをよく考えていますね。人が亡くなるっていうことをポジティブなものとしてはとらえにくいですけど、生きている僕たちは絶対死ぬんで、死ぬことをネガティブなこととするなら、僕たちはネガティブに向かって生きていることになると、それはちょっと辛いんじゃないか。さっきの話のように寿命は延ばしたいし、いろんなことやりたいわけですよね、死ぬまでに。
日本以外の国って「死は生の始まり」とか「輪廻」とか、ちゃんと循環するという考え方をするんですよ。ミャンマーの人たちは、死後の世界に対しての徳を積んで生きていく人たちなんです。次の世界のために今いいことをしていくという考え方なんですね。日本とは相当違います。それは今の生きていく時間にすごく大きく影響すると思います。
そんな国だからこそ、時間を短縮するとか考えて生きている人ってそんなに多くないんじゃないかな、と思った。
時間に対しての考え方が違いますね。

-次の世もあると信じられれば、まだ終わりじゃないですものね。それは、年代が違っても同じですか?

やっぱり若い子たちは時間に対してより、お金に関しての執着がすごく大きいです。映画の中でも描きましたけど、それはかなり感じました。例えばある国では「今日生きていくための最低限のお金があればいい」と考える。自給自足に近い暮らしをしているところもあれば、貯蓄をしていくところもある。若い子たちには物質的な欲が当然ありますね。

-今は、情報の入り方が違いますから。

そうです。だから電気や水道が完全に普及していないような田舎の村でも、スマホだけは持っているんですよ。このアンバランスがすごくて。

-えー、高くないんですか?

高いとは思うんですけど。経済的なバランスがもしかしたらおかしくなっているのかもしれないです。日本でいうなら、戦後復興していく中で、高度成長時代があって段階をへて国民生活が向上していきました。パソコンができてスマホができて、世界の成長に国の成長が伴っていった。でもミャンマーはまだ国として成熟していないんですよ、たぶん。そこへ超成熟した国の情報や産物が入ってくる。国の経済状態はまだまだこれからなのに、ネットで見る情報って世界均等に入ってきますから情報過多で、バランスが悪いんです。そこが大変です。

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-そろそろ時間が迫ってきました。監督として映画を作るときに大事にしていることはなんですか?

大事にしていることね・・・(しばし考える)「映画に対して嘘をつかない」ってことかな。すごく漠然としているけれど、ものを作るときに真摯に向き合うってこと。それは大切にしています。

-映画は大きな嘘をつくものですけど、それは監督の心情的にってことですね。

伝えたいものを伝えるための嘘、方法論については騙すことも必要だけれど、伝えたいものに対して嘘をつかない、真摯に向き合いたいということです。まあいっか~と思って作れない。そうやって作れたら楽だと思うけど、たぶんそれをやったらダメだろうなと思って。良くも悪くも。

-制約多いですものね。お金と時間も要るし。

どこで折り合いをつけるかね。でも、何か悪いこと、ネガティブなことがあったときに、ポジティブなものに変えていくと、それが好転していく。真摯に向き合うとそういうことになる。常に一生懸命やっていく、最後まで頑張って走りぬく、一つの作品を作るまで。そういう思いで作っています。

-来年から1年間ロサンゼルスに行かれますよね。向こうでこれをやってこようとか、これを掴みたいとか目標はありますか?

向こうの魅力的な俳優と知り合って、僕の映画に出てもらって、いい作品を作りたい。それは本気で思っています。
いい俳優、魅力的な表現者とやりたくてやりたくてしょうがないです。それは素人でも関係ないです。それは僕の劇映画のデビュー作の『トイレのピエタ』で野田洋次郎に出てもらったように、魅力的な人に出会って作品ごとに必要な人をキャスティングしていきたいです。肌の色も問わず。

-ぜひぜひいい出逢いがありますように祈っております。

僕ほんと出逢いには恵まれているんですよ。

-ありがとうございました!


=インタビューを終えて=
写真を撮りながら子どものときにどんな映画を観ていたのか伺いました。当時人気の『グーニーズ』や『ネバー・エンディング・ストーリー』、ジャッキー・チェンの映画などを観ていたそうです。『BMXアドベンチャー』(85公開)を観てBMX(バイシクル・モトクロス競技の略)にはまっていた少年時代であったとか。
『いまを生きる』(ピーター・ウィアー監督/ロビン・ウィリアムズ主演/90年公開)で衝撃を受けて、それまでの娯楽作品とは違い、監督で見るようになられたそうです。これは型破りで魅力的な先生によって生徒たちが変わっていく、私もとても好きな映画です。高校生のころに観た監督の心にはさらに深く残ったのでしょう。俳優をしていた時期もあり、ドキュメンタリー、短編から長編にと拡げてこられた監督は脚本も書かれるせいか、どのシーンにも全てに繋がる糸が織り込まれている感じがあります。
『ハナレイ・ベイ』『碧朱』と海外での撮影、スタッフとのコラボにも積極的な松永監督、ロサンゼルスで素晴らしい方々に出会って、目には見えない財産をたくさん懐に入れて帰って来てください。またお目にかかれますように。
(まとめ・監督写真 白石映子)

『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』  完成披露舞台挨拶

11月3日からの公開に先立ち、10月11日シネマート新宿にて、藤原知之監督、出演の矢野聖人さん(鯨岡太一)、武田梨奈さん(白石唯)、岡本玲さん(間柴望美)の完成披露が行われ、上映前に舞台挨拶がありました。
藤原監督から観客へのお礼の言葉に続き、映画についてのトークに入りました。

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矢野 ほかの仕事のためこんな髪色です。こんな太一は出てきません(笑)。20代のうちに舞台、ドラマ、映画の主演をするのが夢でした。この映画の主演ができて良かったです。

武田 クジラの映画を撮ることで、ただの青春映画だけで収めてはいけない作品だと思いました。私はこう思っている、と熱く監督に語ってしまいました。自信を持ってみんなで愛情をこめて作った作品です。ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。

岡本 和歌山出身で観光大使をしています。やっと和歌山の映画に関われました。お芝居で地元の歴史や人の温かさを伝えたいと思っていたので、単純に嬉しいです。

ー和歌山でのオールロケでしたね。

矢野 僕は初めての和歌山です。海と山、自然の溢れている場所でロケができて、気持ちものびのびできてよかったです。

武田 人もとても暖かくて、場所にも助けられました。仲良くなったきっかけが、ホテルの前にあるラーメン屋さんなんです。撮影の後みんなが自然と集まりました。

ー3人の関係性がほのぼのして素敵です。

岡本 同い年の91年生まれです。「盛り上げたいね」「頑張ろう」「いい作品にしたいね」という熱い思いはみんなにあって、ラーメン食べながら話しました。和歌山ラーメン、豚骨しょうゆ味で美味しいです。食べに行ってください!

矢野 へんに気を遣わないでよかったし、共通の話題もありましたし。

監督 最初の顔合わせでは3人ほとんど喋らなくて、大丈夫かなと思いました。

岡本 矢野君お洒落で、話しかけにくかったんです。

矢野 え~!(笑)

武田 住む世界違うね、って感じ(笑)。私たちのほうはジーンズとかでラフだったんです。

監督 矢野君はなんかマイケル・ジャクソンみたいな格好で(笑)。初めてのときもすごい格好だった。僕はチャライ若い役者嫌いなので、どうしようと思ったんですけど、話したら違ったのでよかったです(笑)。

ークジラの印象や撮影を通じての感想を。

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矢野 生きものを扱うのはとても難しいとは思っていました。陸の動物ならまだ接しかたはわかるんですが、クジラは未開の地というか、どういう経験も役に立たない。クジラたちも人間っぽいところがあって、こちらが自信を持ってあたらないと、言うことを聞いてくれなかったり、遊びに行ってしまったり。それぞれの個性をわかった上で、接しないといけませんでした。

武田 言葉が通じない分、目や行動で示します。実際目を合わせると通じるところがあります。

矢野 今あんまりジャンプしたくないなとか、わかります。ぼくらクラスになると(笑)。

武田 普通は人間とクジラの1対1ですが、矢野くんは2頭引きといって、私のところに連れてきてくれるシーンがあるので、私とも息を合わせないとなりません。矢野君はクジラになりきってもいたんですよ。撮影前に合宿に行ったとき、先に入っていた矢野君が慣れていない私に「ぼくクジラ役やります」といってくれて(笑)。

矢野 変な人に思われました(笑)

ーでも太一くんはクジラ好きの役ですよね。

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監督 実は脚本を書くときに心がけるのが「自然からまない、人数少ない、動物使わない」なんです。今回その3つが全部入っているんです(笑)。クジラは賢いのでよくやってくれました。フレーム外でサインを出して動くほかにアドリブもあるんですよ。雰囲気でわかるんですかね。芝居をしてくれたシーンが結構あったんです。役者さんは大変だったかもしれませんが、僕はスムーズに撮れました。

ークジラに癒されるシーンが多かったですね。

監督 梨奈さんの感情が出るようなシーンもクジラのアドリブだったんですよ。カメラを構えていたら勝手にやってくれて、すごいなと思いました。飼育員の人たちが見て驚いていました。

ー来館数を増やし、盛り上げるために、壁にぶつかりながら悪戦苦闘する姿が描かれます。みなさんにも多かれ少なかれあると思いますが、乗り越えたり、ストレスを解消するための秘訣は?

矢野 躓いたりし壁にぶつかったりしたときは、自分を応援する人、支えてくれる人を思い出します。そういう人たちがいるから頑張らなきゃ、もっと上に行かなきゃ、ここで躓いてる場合じゃないな、と自分を鼓舞します。自分を一度ゼロにする。リセットして乗り越えます。

武田 自分が一番落ち着ける場所、映画館に行って無になってみます。リセットしてモチベーションをあげて、頑張ろうと。なにかあると必ず映画館に行きます。左端が好きなんです。観終わって出てくるお客さまの顔を見ているのも好きです。

岡本 こないだ”滝行”に行きました。自分の甘さを考えたり、生まれ変わりたいと思ったりして。大雨の後だったのですごい水量だったんです。3回入って「私死ぬ!」と思うくらいでした。痛いのと息ができないのとで、滝にうたれながら号泣していました(笑)。私ってなんて弱い人間なんだ、とストンと自分の中に降りてきて「じゃあ頑張ればいいんだ!」と前向きになれました。自然の偉大さを感じました。

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矢野 見出しに「岡本玲 滝行に」って(笑)。

武田 今度うちの道場(空手)に来なよ。いっぱい殴れるから(笑)

岡本 押忍(おす)!

ーストレス解消になりますか?武田さん。

武田 なります!

監督 僕は20代後半に奥義を見つけたんです。それは「全部自分のせいにする」。なんでうまくいかないか考えると、意外と自分の直接的な原因って1,2割で後は外的要因。「環境がよくない、タイミングがよくない、上司が仕事できない」とか。それを全部自分のせいだと考えると、自分がやることが見えて乗り越えられる。これは映画の太一にも通じる部分があるんです。太一は環境の問題や、みんなの問題を自分のこととして考える。それで解決してみんなと引っ張っていくんです。無理やりつなげてみました(笑)。

ーたしかに人のせいにしたところで解決はしませんね。

監督 そうですね。そこで愚痴しか出ないのでなく、具体的な歩みを考えれば簡単な話になります。

ーみなさん深いお話をありがとうございました。最後に矢野さんからお客様に見所も含めてひとこと。

矢野 この映画には和歌山の自然の美しさやクジラの可愛さもたくさんつまっています。僕はみなさんがそれぞれに、この映画から何か感じ取ってもらえたらと思います。
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