『THE PROMISE/君への誓い』 テリー・ジョージ監督 インタビュー

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第一次世界大戦中の1915~16年にオスマン帝国統治下で起こったアルメニア人の悲劇を背景にした4人の男女の友情や愛憎を描いた壮大な物語『THE PROMISE/君への誓い』。
テリー・ジョージ監督が『ホテル・ルワンダ』製作中に知ったアルメニア人の追放問題。現在のトルコ共和国政府は、戦争中の悲劇として、大虐殺が行われたとは認めていません。この歴史的タブーに挑んだテリー・ジョージ監督が2月3日からの公開を前に来日。お話を伺う機会をいただきました。

◆史実を徹底的に検証した
― 真実は当事者のみ知ることですが、私自身、東トルコを旅した時に、今は使われていない立派なアルメニア教会をいくつも観ました。そこにかつてアルメニアの人たちが暮らしていた証で、 彼らはどうして土地を離れなければならなかったのだろうと思いました。監督も東トルコにはいらしたのでしょうか? また、製作にあたって、どのように調査されたのでしょうか?

監督: 東トルコには残念ながらISISの台頭などもあって行けませんでした。東トルコに使われなくなったアルメニア教会が多数あることは聞いています。まったく使われてなくて荒廃した状態のようですね。また、4000人のアルメニア人たちが逃げ込んで戦ったモーセ山にも行ってみたかったのですが、叶いませんでした。
(注:モーセ山に立てこもったアルメニアの人たちが、最後にはジャン・レノが演じたフランス海軍のフルネ提督率いるフランス軍によって救出されている。)

どの映画を製作する時も同じですが、本作を作るのにあたっても徹底的に調査しました。いろいろな書籍や資料を読みあさりました。まずアルメニアに行き、学者に会ったり、アルメニアの悲劇の記念館を訪れたりしました。イスタンブルにも行き、第一次世界大戦下、内務大臣および大宰相としてオスマン帝国を率いたタラート・パシャのお墓や、軍事博物館を訪れました。ロータリーの真ん中にタラート・パシャの記念碑があって、トルコでは彼はヒーローです。ドイツでヒトラーの像があったとしたら、どう思うだろうと考えました。
ベルリンのタラート・パシャがアルメニア人に暗殺された場所シャルロットバーグにも行きました。
(注:メフメト・タラート・パシャ:1874年 - 1921年。オスマン帝国末期の政治家。1921年3月15日、アルメニア人非合法組織のアルメニア革命連盟に所属する青年によりベルリンで殺害された。享年47歳。)

アメリカではトルコやアルメニアの学者に会って話を聞きました。
史実を描く時には、徹底的にリサーチしています。史実に則してない、真実じゃないといわれたらおしまいです。メインの人物はフィクションですが、タラート・パシャや、ジャン・レノが演じた提督など実在の人物も登場させています。

― トルコ側からの反応はいかがでしたか?

監督:とても気をつけて撮影もし、注目をあびないようにひっそりと撮影しました。撮影前も撮影中もまったく宣伝しませんでした。セキュリティガードもしっかりしました。 私の映画が出たあと、『The Ottoman Lieutenant』(2017年/アメリカ、製作会社はトルコ)という私が描いた背景と同じオスマン帝国時代のトルコを舞台にした映画が突如公開されました。
http://www.imdb.com/title/tt4943322/?ref_=nm_flmg_act_9
私の映画とは真逆の善良なトルコの将軍がアルメニア人を救ったという内容。アメリカだけでの公開でしたが、私の映画がいろんな論争を起こしたのは事実です。

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◆壮大なラブストーリーで歴史を肌で感じてもらいたい
― 監督はこれまでにも民族の対立や虐殺をテーマに映画を撮られてきています。このテーマに興味を惹かれるのは、監督が北アイルランドご出身ということも関係あるのでしょうか?

監督:元々アイルランド人は、ストーリーテリングが好きな民族です。歴史的にもジェイムズ・ジョイス、オスカー・ワイルドなどの作家を輩出してきています。私自身、北アイルランドで育って、紛争を見てきたということもあります。ジム・シェリダンと一緒に脚本を書いた『父の祈りを』をあらためてみると、二人の主人公を通して、何が起こり、いかに無実の罪をきせられたかがわかります。映画は政治的、人道的テーマを一番強く語れるもので、観客に知らしめる力強いツールなのだと、あらためて感じます。
同様のジャンルには、デヴィッド・リーン監督の名作の数々『アラビアのロレンス』『ライアンの娘』『ドクトル・ジバゴ』、その他の監督作品では、『アルジェの戦い』『シンドラーのリスト』『ミッシング』などがあります。一個人にストーリーを語らせて、共感してもらうことができるし、凶悪な歴史的出来事について肌で感じてもらうこともできます。映画の中で、一番重要なジャンルだと思います。

『父の祈りを』(1993年/イギリス 監督:ジム・シェリダン)
 1974年にIRA暫定派によって実行されたロンドンでのテロ事件で、英国の司法界史上最大の汚点とされるバーミンガム・パブ爆破事件を元に、冤罪で逮捕されたアイルランド人ジェリー・コンロンとその父親の、再審への長い戦いを描いたもの。

◆ヒスパニック系のオスカー・アイザックが、アルメニア青年を体現
― アルメニア人を演じられる俳優はハリウッドでもそれほどいないと思うのですが、オスカー・アイザックはいろいろな人種を演じられる俳優だと思います。将来、ベン・キングスレイのようになるのではと。彼を起用した理由は? ほかにどんな俳優が候補にあがったのか差支えなければ教えてください。

監督:キャストで一番最初に決めたのが、クリスチャン・ベイルでした。製作陣から映画を売るためにはスターがいないといけないと言われてましたから。脚本を読んですぐにOKしてくれました。ベイルを決めたら、後は皆、とんとん拍子で決まりました。ミカエル役にアルメニア人の役者も探しましたが、あれだけの役を演じられる幅のある役者が見つかりませんでした。そんな中でオスカー・アイザックの名前が出てきました。『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』や『エクス・マキナ』をすでに観ていて気に入っていて、多様な人物を演じられる俳優だと思っていましたので、ぜひお会いしたいとコンタクトを取りました。ジャック・ヒューストンさんも実は検討していました。最終的にオスカーに決めました。オスカーはヒスパニック系だけど、ルックス的にもアルメニア人に見えます。訛りも完璧にこなしてくれました。
次に配役したのがシャルロット・ルボンさんです。これは我ながらなかなかの発見でした。二人の名優に拮抗するような女優を据えないといけません。エミリー・ブラントを検討したこともありましたが、いままであまり観られてない女優を選びたいと思いました。イメージしていたのは『ドクトル・ジバゴ』的な叙述的なものでした。ジュリー・クリスティーのようなイメージを持っていました。スピルバーグがシャルロットをべた褒めしているインタビューをみて発見したのですが、フランスのテレビのレイトナイトショーのウェザーガールというコメディーコーナーで存在感をはなっているという記事でした。実際番組を見てみたら、ものすごく自信がある人に見えました。ニューヨークに来てもらってオスカーやほかの俳優と一緒にオーディションしました。コスモポリタンな役で、二人の男性が恋い焦がれるという女性を信憑性を持って演じて貰えそうだと彼女に決めました。キャスティング的にもう一つうまくいったのが婚約相手マラルを演じる女優としてアンジェラ・サラフィアンを抜擢したことでした。ミカエルが故郷に戻ってきて、ほんとに愛する女性を演じられると思いました。この4人で、観客が四角関係をひしひしと感じられるものになったと思います。

アンジェラ・サラフィアン: 1983年アルメニア共和国の首都エレバン生まれ。4歳の時にアメリカに移住。
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やはり本物のアルメニア女性が演じているのは信憑性があります。なにより、気品があって綺麗。彼女のもとに戻るでしょう! 

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一つ一つの質問に、時間をかけて多くを語って下さった監督でした。
監督はニューヨーク在住。奥様と共に、東京に大雪の降った1月22日に初来日されました。インタビューを終えて、京都にいらっしゃるとのことでした。 (取材:景山咲子)


テリー・ジョージ  
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*プロフィール*
1952年、イギリス、北アイルランドのベルファスト生まれ。アイルランドの名匠ジム・シェリダンの『父の祈りを』(1993)、『ボクサー』(1997)などで脚本を担当。自身でも1996年の『Some Mother’s Son』で監督デビュー。2004年には1994年にルワンダで起きた虐殺事件を描いた『ホテル・ルワンダ』を発表。

『THE PROMISE/君への誓い』
シネジャ 作品紹介 →http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/456514291.html
公式サイト:http://www.promise-movie.jp/
★2018年2 月3日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー