『旅するダンボール』岡島龍介監督インタビュー

今、捨てようとしているものにも価値があるんじゃないですか?


映画『旅するダンボール』が、2018年12月7日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国で順次公開される。
本作は段ボールアーティスト島津冬樹が世界30カ国の街角で捨てられた段ボールを拾い、デザインや機能性を兼ね備えた段ボール財布に生まれ変わらせる活動を迫う。そして、島津が一目惚れした徳之島産じゃがいもの段ボールの源流を辿って行く旅では、この段ボールと関わった人たちとの温かい交わりも映し出す。
撮影も兼ねて、島津に同行した岡島龍介監督に本作への思いを聞いた。

<岡島龍介監督 プロフィール>

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宮城県出身。日本でのオンライン/オフラインエディター&番組ディレクターとして活動後、2007年に渡米。Santa Barbara City Collegeに入学後、2009年にInternational School of Motion Pictures へ編入。卒業後はロサンゼルスでフリーランスの工ディター&ディレクターとして活動。編集を手掛けた『Stranger』(2010)はビバリーヒルズフィルムフェスティバルに正式出品される。自身が監督を手掛けた『Listen to Your Bird』(2012)はフィンランドで行われたフィルムフェスティバルONE CLOUDFESTの短編ドキュメンタリーにてOCFFAV Award観客賞を受賞。CM、MV、ドキュメンタリー、ファッション、長編、短編映画とジャンルを問わず監督、編集業に関わる。2015年に日本へ拠点を移し、Avalon Picturesとして活動中。近年はMIZUNOのテレビCMなどを監督、また自身初となる長編ドキュメンタリー映画『旅するダンボール』は、初監督作ながらSXSW (サウス・バイ・サウスウエスト) 2018、ドキュメンタリー・スポットライト部門に正式出品された。

『旅するダンボール』
<STORY>

島津冬樹。いま世界が最も注目をあつめる話題の段ボールアーティスト。本人は自身を段ボールピッカーとも呼ぶ。これまでに世界30カ国を巡り、なにげない街角から捨てられた段ボールを拾ってきた。もう8年もの間、誰もが見向きもしない段ボールを、デザイン、機能性を兼ね備えた段ボール財布に生まれ変わらせている。こうして島津が生み出す段ボール財布は世界中を旅し、リサイクルや再利用といった概念のさらに先を行く<アップサイクル>の可能性として受け入れられているが、島津の思いはソーシャルな反応とは無関係に、ただひたすら段ボールが好きという、純粋さそのもの。『旅するダンボール』は、そんな島津がある日徳之島産のジャガイモの段ボールを見つけ、その源流を辿って行く旅の途中で出会う、この段ボールと深く、浅く、近く、遠く、関わった人たちとの温かい交わりを3年間にわたり追ったドキュメンタリー映画。東京で偶然に見つけたかわいらしいポテトのキャラクターの段ボールがきっかけで、島津と段ボールのつながりは、日本を飛び出し、世界へと広がっていきます。(公式サイトより引用)

監督:岡島龍介
出演:島津冬樹
ナレーション:マイケル・キダ
配給:ピクチャーズデプト

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★2018年12月7日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国順次公開


―段ボールアーティスト島津冬樹さんについてのドキュメンタリー作品を撮ろうと思ったきっかけをお聞かせください。

島津くんが「段ボールの映画を作りたい」とプロデューサーに持ち込んだのがきっかけです。しかし、段ボールの映画と言われても誰もイメージできず、島津くんがカメラを持って現地に行き、好きな段ボールを撮ったり、自撮りしたりするというセルフドキュメンタリーの形でスタートしました。ただ、島津くんがやり始めたものの、撮影するのは初めてで恥ずかしい。目的の段ボールを見つけると夢中になってしまい、カメラには地面しか映っていない。撮れ高が全くない状態でした。これでは映画を作ることはできません。客観視する人が必要ということになったのです。当初、僕は編集を頼まれていて、いつ来るかわからないプロジェクトとして、頭の片隅にありました。それがある日、島津くんから監督と撮影をやってもらえないかと相談があり、そこから僕も参加するようになりました。

―ナレーションが英語です。なぜ日本語ではなく、英語にしたのでしょうか。

英語にした理由は、本作がゴミ問題を含む社会派の映画でもあるからです。環境問題は日本だけの問題ではありません。日本に留まらず、世界に向けて発信するとなれば、最初から英語で作った方が伝わる人数が増える。そこで、ナレーションを英語にしました。また、プロデューサーが当初からサウス・バイ・サウスウエスト映画祭への出品を意識していたからというのも理由の一です。

―ポップな感じがして、入っていきやすい印象でした。

それも狙っていました。ドキュメンタリーは取っつきにくいイメージがあるので、「この作品はこういうポップな雰囲気ですよ」と伝えたかったのです。
それと、島津くんの作品ということで、完成形はかわいい感じになるだろうと思っていました。ナレーションも子どもにしようかと思っていたくらいです。しかし、後半はシリアスなシーンに突入するので、子供ではなく大人にした方がいいのでは?ということで、優しい声の雰囲気がマッチしていると思いマイケル・キダさんにお願いしました。

―最初と最後のイラストもかわいい感じでしたね。

あのイラストは島津くんが描いたものです。イラストを入れることで、彼の世界観を演出したかったのです。ただ、冒頭だけのイラスト演出では全体のバランスが悪いので、随所にそれを挟んだり、エピローグも彼のイラストを入れることで、彼の世界観を崩さないように意識しました。

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―冒頭で世界観を示した後で、たくさんの方が大切なものについて語ります。奥さんが直してくれたコーヒーカップ、お母さんが作ってくれた受験のお守りなど心温まる宝物ばかりでした。

僕が伝えたかったのは、「みんなで段ボールを好きになろうよ」ではなく、「アップサイクルのタネは段ボールだけではなく、僕らの周りにいっぱい落ちていることに気づいてほしい」ということです。冒頭の「みんなの宝物って何ですか?」と、最後のアップサイクルへの取り組みをくっつければ、僕の言いたいことは終わる。その例として取り上げたのが島津くんの段ボールへの愛情という三部構成になっています。

―アップサイクルという言葉をこの作品で知りました。

実は僕も島津くんも知りませんでした。
映画の撮影は2017年4月にスタートし、10月にほぼ撮り終えたものの、編集を始める時期になって「エンディングはどうしよう」という話になりました。この映画を通じて何を訴えたいかが、僕の中で見つかっていなかったのです。スタッフみんなでいろいろ考えるものの、腑に落ちない。そんなとき、プロデューサーが「これからアップサイクルが来ると思う」と、会議に出してきました。当時、アップサイクルという言葉は世界でポツポツと出始めていましたが、日本ではまだ認知度が低く、僕たちもそこで初めて知りました。
そこでアップサイクルという言葉を調べてみると、島津くんがやってきたことはアップサイクルのど真ん中だったということに気づいたのです。島津くんは当初から「不要なものから、大切なものへ」というスローガンを掲げていたので、プロジェクトが始まった時点で、実は本質的な事ではあったのですが、それが「アップサイクル」という言語に行き着くまでに、ちょっと時間がかかってしまいました。それと同時期に、エースホテルでのワークショップの話が決まり、中国から環境系のエキシビションのオファーがきたりと、映画のエンディングにとっては必要不可欠な撮影が次々と決まりました。サウス・バイ・サウスウエスト映画祭の締め切りもあり、ギリギリな決断でしたが、「これは行くしかない」と取材を決行しました。いろいろな意味で、プロデューサーにとって、かなりリスキーな作品だったと思います。

―ききつ青果が扱った徳之島産じゃがいもの段ボール箱のルーツを辿る「里帰りプロジェクト」は到着点がわからないままのスタートで、こちらもリスキーでしたね。

島津くんはこの作品を撮る前に、別案件で里帰りプロジェクトの原型となる企画をやっていますが、そのときは動画ではなく写真ベースだったそうです。「もう一回やってみたい」という島津くんの希望で始めました。ただ、その時点では、ききつ青果という情報しかなく、届け先も、受け取った人の反応もどうなるかわからない企画でした。徳之島に行くかもしれないし、長崎で取材が終わるかもしれないし、まだ何もわからない状態でしたが、まずは長崎へ行ってから、、、ということでここから全てがはじまりました。

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―「里帰りプロジェクト」には泣いてしまいました。

取材を続けていく中で、ポテトの段ボールは熊本にいる丸尾さんという方のデザインだという事が分かりました。しかし、数年前から発祥した病気が原因で、あまり当時の事は覚えてないかもしれないと、当時部下だった方から聞いたのは今回の取材の後でした。結果、島津君が聞きたかった事はあまり聞けなかったのですが、丸尾さんの人柄に出会った事で、なぜ自分が段ボールに惹かれているのか?なぜ段ボールが温かいのか?という本質に気づく旅となったのです。丸尾さんの奥様も段ボール財布を手に取り、旦那様の働いていた当時の姿が脳裏に浮かんでいたのでしょう。財布を手に取りながら泣いていました。涙の本当の意味は分からないですが、奥様から「この5年間は暗いトンネルを歩いているようだった。ただ財布をもらった事で光を感じる事ができました」という言葉を頂いた時は、このプロジェクトは必然的だったのだなと感じました。

―編集の進め方は? 

CMやMVは事前に台本を作って、セリフとかいろいろ決めてから撮る。ドキュメンタリーはそういうわけにはいきません。最後にディレクションを持ってきて、お客さんの深層心理を考えながらピースを入れ替え、編集していくパズルのようなものです。

―いい段ボールとそうでない段ボールがあると島津さんは語っていました。その違いを監督は理解できましたか。

全部が分かるわけではありませんが、島津くんの好みは何となくわかってきて、確かにデザインを見て、かわいいと思うことはありました。
島津くんが言っていましたが、ピザなどが入っていた段ボールをゴミ箱から拾うときは悩むそうです。自分ではいいと思っているけれど、ピザのカスや油がついていて、あまりにも汚い。「そこまでして、自分は拾いたいのか」と自問自答するらしいです。ただ、後悔したくないという思いが強いので、結局は拾ってきてしまう。
島津くんは旅をしているとき、段ボール以外のものも拾ってきます。小麦粉が入っていた袋を拾って、ホテルで洗っていたこともありました。島津くんは元来、集めるのが好きなんです。小さい頃は貝、百合、飛行機模型などを集めていて、段ボールもその延長線上にあるようです。しかも、島津くんは集めて終わりではなく、ちゃんとお披露目する場所を作り、反応を見る。この行為は里帰りプロジェクトにも繋がっていますね。

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―段ボールを集める旅は苦労も多かったのではありませんか。

かなり苦労しました(笑)。
海外に行くとき、島津くんはすでに重量オーバーしているケースを半分以上、空にして持っていきますが、帰りはその中にぎっしり段ボールが詰まっています。それでも入りきれない段ボールは現地でものすごいでかい段ボールをケースにして、他の段ボールを敷き詰めて、エクストラチャージを取られてでも持って帰る。
いつもの事なんですが大抵、出国も入国も税関で引っかかります。すったもんだで、島津待ちということが多々あります。ピッツバーグへ取材に行ったとき、パーキングチケットを切られてしまったのですが、ふつう落ち込むところを彼は、逆に「やったー」と喜んでいましたね。現地のパーキングチケットの紙を手にしてすごく喜んでいました。二度ともらえない、二度と出会えない恐怖にかられるようですね。

―監督ご自身は段ボールで財布を作ったことはありますか。

実は作ったことがないのです。僕はワークショップのとき、みんなの反応を撮ることにフォーカスしています。最初から最後まで撮っているので、作る時間は全くない。
しかし、使ったことはあります。僕の使っているものはちょっと特殊で、名刺入れとコインケースが合体したもの。島津くんの試作品をもらいました。違和感なく、普通に使えます。

―国内外でのワークショップの様子が映し出されていました。日本人と外国人では反応に違いはありましたか。

ワークショップの雰囲気はほとんど同じですね。最後にボタンをつけて終わりますが、ぱちんと閉める瞬間はみんな、「うぁーっ」、「やったー」、「できたー」と叫び、このシーンは世界共通でした。

―段ボールに対する認識に変化はいかがでしたか。

ここに段ボールの山があるとします。ワークショップでない、ただの何でもない時だったら、その段ボールはすべてゴミになる。WSで「あそこから段ボールを選んでください」というと、、参加者は自分の名刺入れを作る材料として見ています。選ぶという行為がすでに段ボールがゴミでなくなっていることを意味しています。
ゴミとして見ているのか、材料として見ているのか。多くの人がその違いに気づいていません。ワークショップがそろそろ終わるという頃に、「みなさん、先ほど段ボールを選んでいましたが、あれはゴミなんです」というと、「あっそうか、言われてみればゴミですよね」と気づく。
ワークショップを終わると、段ボールを見る目が変わる。アップサイクルを伝える試みとしては成功していると思っています。

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―今後もアップサイクルに関する作品を撮っていくのでしょうか。

取材対象者がアップサイクルに関心がある人であれば、このままアップサイクルを追求する路線になります。ただ、今、ちょっと気になっている人は全然違うプロセスの人。もちろん、この映画を通じてアップサイクルの知識は増えたので、それは次の作品に大きな気づきになると思います。

―フィクションではなく、ドキュメンタリー作品ということでしょうか。

絶対ドキュメンタリーでなくてはダメということはありません。今回、初めて、長編作品を撮りましたが、CMやMVもこれまで通り、撮っていきたいと思っています。いずれも共通しているのは、見ているお客さんの大衆心理をコントロールしていく作品。そういうことを追求していきたい。それがCMなのか、ドキュメンタリーなのか、フィクションなのかは、特に決めていません。

―本作をこれから観る方々にひとことお願いいたします。

映画内では直接、アップサイクルについて語っています。ここが一番伝えたいこと。しかし、この映画には裏テーマがあるんです。島津君が好きな段ボール活動を続けるために、大手広告代理店を辞めるシーンがあり、その後の彼の様子を映画では描いています。彼の「好きな事をやっていきたい」という彼の姿は、昔の僕にも共通する部分があります。自分も映像制作という好きな事をするために、大学を辞めたり、アメリカで学んだり、いろいろな所で大きな決断に迫られました。とても困難な道でした。でも後悔はないんです。島津君も死ぬ間際で「あれしとけばよかった。」みたいな人生を送りたくないという想いから、いま段ボールの活動を続けています。後一歩前にでればできるのに、後少しの勇気があればあそこに行けるのに、やりたいことがあるのに勇気がなくでできない、そんな人達の背中を押す映画になってくれればなと思って作りました。
(取材・写真:堀木三紀)


『旅するダンボール』島津冬樹さんインタビュー 

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12月7日より公開予定のドキュメンタリー『旅するダンボール』に登場する段ボールアーティスト島津冬樹さんにお話を伺いました。
(2018年11月14日)

=島津冬樹さんプロフィール=
1987年、神奈川県生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒。2015年、広告代理店を経てアーティストヘ。日本のみならず世界中を周り、路上や店先で放置されている段ボールの中からお気に入りの逸品に出会う旅を続けている。
「不要なものから大切なものへ」をコンセプトに、2009年より段ボールから財布を作るCartonをスタート。段ボールの良さを伝えるため、国内外での展示や、お財布作りのワークショップを多数開いている。

『旅するダンボール』監督:岡島龍介

島津冬樹さんの活動に密着したドキュメンタリー。ただただ純粋に段ボールに魅せられている島津さんは、国内外で道端やゴミ捨て場にうち捨てられている段ボールを拾い集める。絵柄やロゴを生かして世界にたった一つの財布やカードケースを作り出す。ガラクタから価値あるものを生み出す「アップサイクル」は世間の注目を集め、展示やワークショップを通じて広がっていく。ある日、市場でたまたま目についた「徳之島産のジャガイモの段ボール箱」の作り手を捜し出すことになった。カメラはその旅を追っていく。

☆岡島龍介監督インタビューはこちら
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★2018年12月7日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国順次公開


-子どものころからものを集めるのがお好きでしたか?

はい。生まれたのが江ノ島の近くだったので、幼稚園のころは貝拾いして、図鑑で調べたりしていました。当時はお土産やさんに珍しい貝も売られていたので、自分が持っていないものを親におねだりして買ってもらったり。ホネガイとか。次が、男の子がふつう通る道で、ミニカー、飛行機、船、乗り物系ですね。
植物だと、ラン。エビネとか。

-ランで、しかもエビネ!渋いですね!それはいくつのときですか?

小学3年生くらいです。知り合いのお爺ちゃんお婆ちゃんがいて、同じデザインでも色や柄がいろいろなんですね。それでちょっと興味を持ったりして。それからキノコ、菌類です。いろんな種類があって面白かったですね。キノコの図鑑も買ってもらって、見つけたキノコを調べたりして。次は魚。

-そのへんのタンポポ、スミレじゃないんですね。子どもにしては渋すぎです(笑)。たくさん集めたものは保存されたんですか?

貝は標本にして箱に入れて、今も実家にあります。キノコは残しておけないので、スケッチして絵でコレクション。自分で図鑑を作るような形で残してあります。好きなものに対してアウトプットする、じゃないですけど伝える方法を考えるというのは常にありました。

-それは後に美大に入られたり、クリエイターになられたりしたのに繋がりますね。素質ですねえ。

親がそういうふうにやったら、と促してくれたんですよ。

-じゃあ何を集めても顰蹙をかうことはなかったんですね。

はい。ただ、粗大ごみを拾ったときは邪魔だって言われました(笑)。


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-段ボールにたどり着くまで、途切れず何かしらに凝っていらしたんですね。で、ここから段ボールのお話になるんですが、段ボールを拾うポイントは?

まず色から入りますね。色でピンときて、よくよくデザインを見て、珍しいもの。例えば海外から来たもの。日本でもJA(農業協同組合)系でない、大きなところに属していないインデペンデント系の農家の(笑)。

-インディーズ!?

そうインディーズ(笑)、野菜に限らずそういうところのほうが、デザインが面白い。

-出回っている数も少ないでしょうから希少価値があると。
お気に入りになった徳之島産ジャガイモのPOTATOの段ボール箱ですが、作者を知りたい、探したいと思ったのはこの1件だけですか?

厳密にいうと、もう1件「えだまめ」の段ボールがあったんです。草加から来たえだまめで、すごくゆるいデザインで、絶対に家族の誰かが描いたにちがいないって感じの絵なんですよ。

-えだまめ家族、みたいな感じですか?

ほんとに家族みたいな感じで絵が描かれていて、お父さん、お母さん、子ども。うまいイラストっていうのではないんですが、そのゆるさがほんとにいい。どっちにしようかなと思ったんですけど、POTATOのほうが(産地まで)距離もあるので。埼玉は近すぎるんですよね。

-ああ、そうですよね。「旅する」には遠いほうが。

はい。そっちのほうから掘ってみようということで。

-POTATOの段ボール箱を見つけて、作り手にたどりつくまではどのくらいかかったんですか?

どのくらい・・・2~3ヶ月かな。長崎でその先を教えてもらったときに、出かければその日のうちにもうたどり着いたかもしれません。でもいったん東京に帰ったんですよ。

-調べるのは、島津さんお一人じゃなくプロデューサーさんたちチームでするんですね。ある程度のストーリーというか、作った方を見つけ出して感激の対面!というような予想は立てられていたんでしょうか?

わかっていたのは段ボールにあった住所だけでした。選果場を撮影できるか、とかいう交渉や問い合わせはプロデューサーたちが。ただ、行ってみないと先方のリアクションなどはわからないことです。どういうことになるのかは、全く未知のままでした。

-作り手さんの奥様が泣いてらっしゃいましたね。私ももらい泣きしてしまいました。島津さんはいかがでしたか?

いいシーンでしたよね。映画でも言っていますが、段ボールの財布の活動がこういう違う形で一人の個人を勇気付けられたというのは嬉しかったです。

-Carton(カルトン=島津さんが段ボールの魅力を紹介するためのプロジェクト)の活動と映画撮影を一緒にやっていたんですね。

そうですね。撮影と平行してやっていましたね。ワークショップも密着して撮影されていますし。

-そのワークショップですが、ノースフェイスの箱から作ったカードケースがよかったです!

あれはね、デザインが絶対にカッコイイ!

-どこをとっても素敵ですよね。箱は提供していただいたんですね? 私も参加したかった!またやらないでしょうか?

使われない箱をいただきました。またワークショップやるんですよ。(と、11月23日開催の情報をいただき、本題へ戻る。私も申し込みしました!)

-段ボールで最初に作ったものがお財布なんですね。お財布を段ボールで作ろうとはなかなか思いつきません。

大学生2年のとき、自分の手持ちがないとき財布を作ろうとしたんです。皮もやってみたんですけど、自分には合わなくて扱えないし、どうしようと。たまたまカッコいいデザインの段ボールがあったので作ってみようかな、と思ったのがきっかけなんです。でもまだそのころは今のように段ボール好きだったわけではないんです。

-あら、そうなんですか。お財布の「素材」として手に取ったと。

段ボールのデザインが秀逸だなぁとは思っていて、それが生かせないのがもったいないという気持ちがあって。段ボールがカッコいい、お洒落だなという気持ちはずっとありました。

-そしてカッコよく出来上がって、それから改良を繰り返して。

それから9年間。今にいたるまで。

-9年間!すごい! で、今のが最終形態というか、完成品?

改善して、値段も最初は500円、4500円、10000円と上がりました。

-値段も変わったんですね。10000円は産みの苦しみ(汗と涙?)が入っているお値段だと思いました。あれは完全にオリジナルの1点ものですし。

そうですね。9年の重みと。値段は、安ければ安いほど使えないんじゃないかと思われてしまうかなと。
財布のマイナーチェンジは結構あるんです。後は新しいタイプの財布を作っています。今だとこういう小さい財布。
小銭とお札とカードと・・・(と言いながらポケットから取り出す)

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使用中の小さめのお財布。
二つを背中合わせに留めることも外して単体で使うこともできます。

-けっこういっぱい入りますね。これはなんという名前ですか?

まだ名前がないです。未公開のもので今度ノースフェイスの展示で売ろうかなと思っているんです。

-訪ねた国は映画の時点で27ヶ国。HPで30カ国に増えていましたが、どこに行かれたんでしょう。近場ですか?

今年になって3つ増えました。アフリカに行ってきました。エジプト、エチオピア、南アフリカ共和国。

-めちゃめちゃ遠いじゃないですか(笑)!自前ですよね?

自前です。段ボールのためだったら(笑)。

-ええ~!お財布いくつ売ればいいんでしょ(笑)。誰かスポンサーがついてくれるといいのに。全ては段ボールから!この先、段ボール以外に興味がもてそうなものは?

うわぁ、ないですねぇ。ポテンシャルがありすぎてなかなか。

-今のところ究極?

まだまだ可能性が。段ボールはけっこう残っていくものだと思います。

-段ボールそのものって、これ以上変わらないんでしょうか?

構造としてもやっぱり優れていますし、変わらないんじゃないかと思います。

-避難所の間仕切りなどにも使われましたよね。まだまだ色んな方面で利用価値がありそうですね。これからどうやって活動は展開していくんでしょうか?Cartonでも島津さんご自身でも。

世界中の段ボールを拾い集めて、それを見せる場を作りたいと思っているので「段ボール・ミュージアム」という構想はずっと持っています。国ごとの段ボールの違いとかを見せていきたいと思っています。

-あと行ってみたいところは?

今は小さな孤島に興味があります。たとえば太平洋に浮かぶ小さい島々、ツバルとか気になるんです。

-ツバルってあの沈みつつあるところじゃないですか(温暖化で海面が上昇している)!早く行かなくちゃ!

だからなくなる前に急がないと。あとコーカサス地方。

-ロシア方面ですか?あんまり寒いところには行ってないですか?

ノルウェーとか、北欧にはまだ行ってないんです。

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-持ち帰れなかったことはありますか? さぞ心残りだと思うんですが。

ありますね。心残りになりたくないので、なんとかその断片だけでも持ち帰ります。
ほんとは全部持ち帰りたいんですが、時間がないこともあるし、手放さなきゃいけないときもあるので。特に周遊しているときは、1箇所でどのくらい拾えるかっていうのは未知なんですよ。予想しながらです。

-出かける前にはその国のリサーチされるんですね。

そうです。どんな言葉が使われているか何が採れるか。バナナの箱のときは、その国でいっぱい使われているだろうという予測だったんですが、国内流通には麻袋に入れて輸送していたんです。箱はあるんですが、少なかった(フィリピンに行ったけれど、築地で多く見つけた)。日本ではみかんとか全部段ボール箱に入っていますよね。あれはとても贅沢なんです。

-日本の段ボール箱って質はいいんですか?

いいほうだと思います。ただデザインがほかの国に比べるとすごく淡白です。色使いとか。ゆるキャラも含めて可愛いキャラクターが多いです。可愛くて、渋いという(笑)。あんまり同居しないようなものですが、色使いは海外のほうが慣れている。西洋の油絵と日本画みたいに、それは文化の違いがあるんでしょうね。

-文化が出るんですね~。面白い! こんな段ボールがほしいなという夢の段ボールは?

夢の・・・。宇宙に行っている段ボールあるのかな、って思うことあります。NASAで、スペースシャトルに段ボール積んでないかなぁと。あと、映画に出てくる段ボール。『チャーリーとチョコレート工場』のWonkaのチョコレートの段ボール箱がほしい(笑)。どっかにあるんじゃないかな。

-映画会社の倉庫に美術さんが作ったのが残ってるかも。いやいや奥深いです。

常にどんなときでも段ボールに目が行っちゃうので(笑)。映画見てもニュース番組見ても段ボール(笑)。警察で家宅捜査のときに箱もってくるでしょ?

ああ、あれって文字入ってましたか?

入ってるんですよ~。神奈川県警とか、警視庁とか(笑)。あれも(本物を)ほしいなぁって思いながら見てます(笑)。

富山の展示に出かけたおり、会場の裏が警察署だったので「ダメもとで聞いてみた」お話が飛び出しました。話だけは聞いてくれたけれども「やっぱりダメでした」とのこと。ここでプロデューサーさんも交えて、どうやったら手に入るかと、ない知恵を絞る我々。けれども身内に警察関係者もいないので、やはりわかりません。この激レアな段ボールを島津さんがほしがっております。と書いておきます。

-ワークショップを外国でも開かれていますが、その国ならではのリアクションはありますか。

総じて同じですね。日本の段ボールは人気です。漢字や平仮名など文字が使われているので珍しがられます。

-漢字のTシャツありますよね。島津さんが大事にしているのが「イスラエルのコカ・コーラ」の段ボールでしたね。あれが今もナンバーワンですか?

今は変わって、「ブルガリアで拾ったシリアの赤十字団体」の段ボールです。普通そういうのは難民キャンプでしか拾えないんですけど、ブルガリアの道に落ちていました。なぜ落ちていたかはわからない。

-ほんとになぜそんなところにあったんでしょう。その「なぜ」が物語ですね。

そこに、どういう背景があるかを考えちゃいます。

-ずっとお聞きしていたいのですが時間なので、ここまでで。ありがとうございました。

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試写受付にあった段ボール座布団。スポーツ観戦などにも。

=インタビューを終えて=

8月半ばに試写を見たときから気になっていた、主人公の島津冬樹さんにお目にかかれました。嬉々として段ボールを物色している姿が、夏休みの少年のようです。その根っこのところには、子どものときから好きなものを好きなように集めさせてくれたご両親の存在がありました。クリエイターはほかの誰も思いつかないことを形にするのがお仕事だと思いますが、島津さんの「段ボールでお財布」という発想がまずユニークです。そして珍しい段ボールのためならどこまでも行ってしまう、その愛とパワーに敬服。
レベルアップさせてきたお財布、商標登録とか特許とか申請しないんですか?と伺いましたら「難しいんです」とのこと。誰かが真似してもいいんですか?「段ボール愛に関しては自分ほどではないだろう、という自負があります」とニコニコ。島津さんを超える人はいないでしょう。
不要なものから大切なものを生み出す発想は、暮らしのあれこれに応用することができそうです。

もともと箱や袋が好きですが、試写の後、道端の段ボールにも目が留まるようになりました。段ボールは英国が発祥の地で、英語では「cardboard」、日本では「のあるボール紙」ということから命名されたそうです。古紙とパルプとでんぷん糊で作られて、何度でも再生可能な段ボールは95%以上の回収率を誇っています。エコの優等生です。なんでも軽く、小さく、簡便になっていくこのごろ、段ボールも丈夫さを保持しつつさらに軽く薄く美しくなっていくのかもしれません。
(取材・写真 白石映子)
11月23日ワークショップに参加してクラッチバッグを作ってきました。

☆段ボールに興味の出てきた方はこちらを参考に。
全国段ボール協同組合連合会 https://zendanren.or.jp/

★今後のイベント

『旅するダンボール』公開記念フェア
開催日時 : 2018/12/5(水)~2019/1/31(木)
※12/25(火)~1/8(火)年末休館
10:00~18:00 (金曜日、土曜日のみ~20:00)
定休日:毎週火曜日
(祝日又は休日に当たる場合は営業し、翌日休み)
場所 :スーベニアフロムトーキョー
東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館1F, B1
www.souvenirfromtokyo.jp
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「スーベニアフロムトーキョー」ワークショップ
・開催日 :
2018/12/20(木) 第一部 13時/第二部 15時
2019/1/26(土) 第一部 13時/第二部 15時
・所要時間 : 約1時間
・定員 : 各回4名
・会場 : 国立新美術館内B1 スーベニアフロムトーキョー
・参加費 : 3,500円(税込)
・応募方法 : info@carton-f.com までメールでご応募下さい。
予約の受付は各回前日の18:00にて締切らせていただきます。
(各回先着順4名様となります。席が埋まり次第受付終了とさせていただきます事、ご了承ください。)
・段ボールはご用意いたしますが、お気に入りをご持参いただく事も可能です。
お問い合わせ先 スーベニアフロムトーキョー 03-6812-9933

『青の帰り道』完成披露上映会&舞台挨拶

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日程:11月13日(火)時間:18:30開演
※上映前 舞台挨拶約30分
場所:新宿バルト9 スクリーン9
登壇者:真野恵里菜、清水くるみ、横浜流星、秋月三佳、冨田佳輔、藤井道人監督
【ビデオレターにて】森永悠希、戸塚純貴

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映画『青の帰り道』舞台挨拶&完成披露上映会が11月13日(火)新宿バルト9にて行われました。主演の真野恵里菜、清水くるみ、横浜流星、秋月三佳、冨田佳輔、藤井道人監督が登壇。ふだんから仲が良いという出演者のみなさんは、「同窓会みたいだね」と、明るい笑顔を見せていました。この日、仕事で参加できなかった森永悠希さん、戸塚純貴さんからも、沖縄、北海道からビデオ映像で挨拶。

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みなさんそれぞれの、この映画への熱い思いを語ってくれました。紆余曲折もあって、ようやく完成披露の日を迎え、「この映画がみんなに届くように願っている。何か自分に重なる部分を見つけてくれたらうれしい」という監督の思いが語られると、主演の真野恵里菜さんは感極まって涙ぐんでしまう一幕も。

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それぞれの心のこもった挨拶の後、映画の内容に関するトークは、以下に書き起こしました(敬称略)

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司会 みなさんそれぞれ自分の役を大事に演じてらっしゃると思ったんですけれども、それぞれの役について、どんなところに共感したかお話ししていただけますか? 


IMG_0187.jpg真野恵里菜

真野 演じているときはそんなに重要だとは思ってなかったんですが、「過去には戻れないんだな」っていうことをすごく痛感します。「あのとき楽しかったなあ」って話すことあるけど、それがマイナスに出てしまったシーンの時には、私たちと重なるなーって。戻りたいけど戻れないっていう苦しい現実もあったりするので、その中で今をどう生きるのかっていうのをまさにこの映画は描いてるんだなって。この青の帰り道のポスターだけを見て、映画を観ると、良くも悪くもびっくりすると思うんです。決していい気持ちでは帰りづらいのかな、と。やっぱり笑って欲しいし、感動して欲しいし、楽しい気持ちになって欲しいとも思うけど、この作品はそうではなくて、何の変哲もない7人がそれぞれ青春を過ごして大人になっていって、挫折したり悩んだり、やりたいことが見つからなかったりという、、、それぞれの「ただの人生」なんですけど、みんなそういう人生を歩んでると思うので。それで共感してもらったり懐かしんでもらったり、「自分は明日からこうしてみよう」って思ったり。そういう「考える映画」になっていると思う。今日お友達と来てくださっている方もいると思いますが、「どう思った?」とか、みんなが明日を過ごすのにヒントになる映画になってるんじゃないかと思います。だから、「考える映画」を楽しんで欲しいです。


IMG_0191.jpg清水くるみ

くるみ 全部真野ちゃんがおっしゃってくれたんですが、、、自分自身も、みなさんも両親とぶつかった経験てあると思うんですね。そういう部分でまた考えさせられるというか、あのときはぶつかったけど、今考えるとあのときの経験てすごく良かったな、とか、あのときの両親の言葉って、今の自分にすごく役立ってる、とか、いろんなことを考えて自分に言ってくれてたんだなっていう、またこの作品を観て、演じて痛感したなって、思います。たぶんみなさんにも経験があることだと思うので、そういうところを共感していただけたらなって、思います。


IMG_0247.jpg秋月三佳

秋月 この映画は本物の友情を感じられるなー、って思っていて、一人一人が高校を卒業してから成長していく中で、歳を重ねながら、その都度その都度、壁を乗り越えて行かなきゃならないっていう、、、、ほんとうにどん底になったときにそばに誰が居てくれるかっていうことが、ものすごく色濃く描かれています。映画が終わった後で「ああ、そばにいてくれる人が居て良かった」「味方が居て良かった」とか「私はあの人の味方になれるかな」とか、友情もそうですし、家族もそうですし、「生きてて良かった」と思えるような映画になっっているので、そこが私は共感します。


IMG_0196.jpg横浜流星

流星 お三方ともとても素敵なことをおっしゃっていたので、、、ぼくは個人的なことになってしまいますが、自分が演じたリョウという役のことで共感できるなあと思ったのは、いろんな人生を歩んでいく中で、環境も変わっていく中で、仕事とかやってて周りとか見てると、「自分は空っぽだな」と。やりたいこともあるけど、漠然と意味もないことを考えているけど、実は空っぽなんですね。その時に、焦りだったりとか、弱さを見せたくなかったりとか、そういうところがリョウにもあって、共感できる部分でした。


IMG_0202.jpg冨田佳輔

冨田 ぼくも演じたユウキという役の話になるんですけれども、高校生の時にあのポスターにもあるように、みんなで楽しく過ごしたっていうのがあって、やっぱり夢を持って上京した後に、みんな、思い描いていたこととちょっと違ったり、思い描いていたような楽しいこともあったりして、その中で自分との葛藤があって、今後どうしていったらいいか、頼れる人は友達しかいなくなったりとか、そういう感情移入しやすい、いちばんよくいる男の子の役というイメージがあったので、ぜひそこを見ていただきたいな、と。僕自身もユウキに共感したし、共感しやすい役なんじゃないかと思いました。


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司会 みなさんの話を聞いて監督はすごくうれしそうにニコニコしてらっしゃいましたが、、、このポスターの7人の表情はほんとうにキラキラしていて、、、ここから物語が始まるんですが、、(司会は伊藤さとりさんです)


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(c)映画「青の帰り道」製作委員会

IMG_0218.jpg藤井道人監督

監督 これはクランクインの時に撮った写真ですね。思い切りやってくれって言って、流星に引っ張っていってもらって。


流星 おれ、コケましたよ。


監督 あぜ道にね、、(笑)。この映画を撮るっていうときに、このビジュアルしか浮かんでなくて。後々「恋愛キラキラ映画かと思った」ってすごい言われて、あそうか、そういう見方もあったかって後悔してしまった部分もあるんですけど、僕としては「これが撮りたいんだ」っていうことを彼らにいちばん最初に伝えて、後は俳優部が自分たちで全部やってくれたっていうか、、、そういう感じです。


司会 『青の帰り道』っていうタイトルは、自分たちが自分たちに戻れる場所っていう意味合いがあるということなんですが、キャストのみなさんにとって、自分が自分でいられる場所ってどこですか?


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真野 私は17歳で東京に出て来て一人暮らし始めたんですけど、この間実家に帰ったときに、地元の駅に降りた瞬間に、今まで感じなかった「地元の匂い」っていうのを感じて、あー、返ってきたなあっていうのをすごく感じましたね。けっして何か有名なものがあるとか目立ったものは特にない「ふつうの田舎」なんですけど、その空気感が東京とはやっぱり違うなー、とも思ったし、ホッとするなあ、っていうのを最近感じました。


司会 この映画にも通じる、、


真野 そうですねー。良くも悪くも、変わらないなあって。わたしも変わってないんだって思いましたね。


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くるみ わたしは、今ここにいる自分のいちばんの選択っていつだったかなあって思うと、それは受験したときかな、、って。その時は何にも考えてなかったけど、その時の選択がいちばん今の自分につながってるのかな、、って。その頃の塾とかお好み焼き屋さんとかもう今はないんですけど、その前通ると、「ああここにあったなあ」と思います。帰る場所無いんですよねもう、だから前を向くしかないっていう、そういう意味でも、その前を通ると、ああがんばらなきゃって思います。


秋月 私は自分の部屋ですね。狭いんですけど、好きな映画や舞台のポスターが貼ってあるんです。家の外で悩んで「わたしはこれからどうすればいいんだー?」って思っても、家に帰ってポスターを見ると「あーそうだー、これが好きだったんだー」って落ち着いて。こうやってボーッと立ってるんですよ、自分の部屋を眺めながら。そうすると入ってきた母親に「何やってるの?大丈夫?」って心配されて、、「大丈夫だよ」って。私の部屋はそうやってリセットされる場所です。


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流星 同じく、僕も自分の部屋ですね。やっぱり誰にも気を使わず、自分の好きなことを好きな時間にできるっていうのもそうですし、僕はけっして友達が居ないわけじゃないけど、あまり他人に相談しないタイプで、だからこそ自分の部屋にいるときに自分を見つめ直す時間とか、向き合う時間っていうのをすごく大切にしていて。だから家にいる時間が多くなります。


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冨田 僕は場所というより、、、友達少ないんですけど、仲のいい友達といるときですかね。もちろんここにいるみんなも含め、ほんとにプライベートの友達も含め、そういう仲間と一緒にいるときがいちばん、、、自分が自分でいれる場所ですかねー。これはホントです。


司会 ありがとうございました。


このあと真野さんと監督から、「ここまでたくさんの思いを語ってきたけど、ここからこの映画が大きく育っていくには、みなさんの力が必要です。この映画を実際にこれからご覧になるみなさんが、感じたことを素直に伝えていただくことで、たくさんの人に届くように、よろしくお願いします」という内容のメッセージが語られ、フォトセッションの後、映画が上映されました。

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映画の舞台は北関東…埼玉大宮で生まれ育った私には共感するトコロ多々あり、でした。夢を持て、目標をもって生きろ、とか10代の私には本当にウザくて何処か遠くに逃げたかった…カメラを持って。自分だけの薬にはイロイロあって、それが音楽だったり演劇だったり恋人だったり仕事だったり… あれからン十年、カメラだけは相変わらず小学生の時から肌身離さず持っている。そっか、カメラは私の薬だったのだと、映画を観ながらあらためて気付かされて そっと背中を押してもらえたのでした。主題歌を唄うamazarashiの「たられば」にも心打たれてライブへ行きたくなったほど!! 青森出身のバンドと言えば今までずっと私の中では「人間椅子」だったんですが。amazarashiも最高。 
一時は公開が危ぶまれた作品です。念願の劇場公開です、是非!! 
(取材 山村千絵)


シネジャ作品紹介 http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/462754633.html

(c)映画「青の帰り道」製作委員会
★2018年12月7日より新宿バルト9ほか全国順次公開

【先行特典情報】 映画「青の帰り道」の全国公開に先駆けて
ユナイテッド・シネマ前橋(けやきウォーク前橋内)では11月30日(金)より先行公開となります。先行特典といたしまして、先着500名様に「非売品マスコミプレスシート」をプレゼント。

amazarashiの歌も堪能できる予告編です!!


『母さんがどんなに僕を嫌いでも』舞台挨拶

完成披露試写会 舞台挨拶 2018年10月30日(火)

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ーいよいよ本日お客様にお披露目のはこびとなりました。ゲストのみなさんに今のお気持ちとともにご挨拶を頂戴いたしたく思います。

太賀 みなさんこんばんは。主人公の歌川たいじ役を演じました太賀です。今日こんなにもたくさんのお客様の目にこの映画がふれて・・・えーと、緊張してきちゃいましたけど、ほんとに今日という日を迎えられて嬉しく思っています。少しでもこの映画がみなさまに伝わればいいなと思っています。どうか最後まで楽しんでいってください。今日はよろしくお願いします。

吉田 みなさんこんばんは。吉田羊です。今日はお集まりいただきましてありがとうございます。高いところから失礼いたします。今の私の最大の懸念は明日の写真は全部「鼻の穴」だろうなということです(笑)。怖いな。(太賀さんへ)ね?あご引いて喋らないと。(笑)
この作品は去年の3月に撮影しました。1年半ぶりにみなさまにやっとお披露目ができますので、ほんとに嬉しいです。と同時にすごくデリケートな題材なものですから、みなさまに私たちの伝えたい思いがきちんと伝わればいいな、と願うような気持ちでおります。短い時間ではございますが、最後までよろしくお願いいたします。

監督 みなさま 本当にようこそおいでくださいました(拍手)。ありがとうございます。
歌川たいじさんが痛みを引き受けてしたためた、人生のギフトのような原作を手にしてから5年が経ちます。こうして映画が完成してみなさんに見ていただけるのをほんとうに今日嬉しく思っております。歌川さんはこの映画の母のような人ですが、母はやはり心配で心配でしょうがなくて、僕とずっと目が合っているんですけど(笑)、壇上からのご紹介で恐縮ですが、歌川さん立っていただけますか?(客席で立たれた歌川さんに満場の拍手)よろしくお願いいたします。

ーそれではここでいろんなお話を伺ってまいります。今ご紹介にありましたように、この作品は歌川たいじさんのご自身の経験を綴った同名のコミックエッセイ、実話を元にした映画ということで、キャストのお二方は演じる上で、そして監督は演出する上で気にかけた点やご苦労なさった点などあったのではないかと思います。そのあたりからお聞かせいただけますか。

太賀 やっぱり歌川さんの実人生を演じるというのはやっぱり簡単なことではなくて、どれほどの思いで、歌川さん自身がこの原作を書き上げたのか、頭の下がる思いというか・・・傍から見たら壮絶な人生をされています。この物語の本質は悲しいできごとだけを描こうとしているのではなくて、その悲しみをどうやって乗り越えていくのかという、生きる上での力強さだったり人と人とが寄り添いあう喜びだったりが描かれているんです。僕が歌川たいじという役を演じる上で、実際に歌川さんが感じてこられた喜びも悲しみも一つとしてこぼすことなく、丁寧に演じたいなと、そういう思いでやりました。

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ー実際に歌川さんにお会いになって、演じる上でのヒントなどありましたか?

太賀 歌川さんは毎日のように現場に応援しに来てくださって、手料理をふるまったりお菓子をスタッフのみなさんに差し入れしてくださったりして、献身的に現場を支えてくださいました。歌川さんと、作品についての深いコミニュケーションは意図してとることでもなくて、なんかこう他愛もない会話や、歌川さんの佇まいや表情を盗み見ては、演じるヒントにしていました。
ー映画の母でもあり、現場の母でもあったというところなんですね。吉田さんはいかがでしょうか?

吉田 実在のお母様でいらっしゃいますので、歌川さん本人から聞き取りをしまして、お母様に関するエピソードをいくつか聞かせていただいたんですけれども、聞けば聞くほどほんとにひどいお話ばっかりで、どうしてもお母様が虐待するにいたった思考回路が理解できなくて、どうしようかなって、この人どうやって演じたらいいのかなって思っていたんです。
でも、ひどい話ばっかりなのに最後に歌川さんが「でも一生懸命生きた人だったんです」って笑顔でおっしゃるんですよね。その歌川さんをみたときに「あ、そうか。この歌川さんの思いを私は伝えればいいんだ」と思って。私はその光子さんを「未熟なまま母親になることを強いられた人」だと認識しているんですけれども、私が未熟に演じれば演じるほど、逆説的に「それでも息子は母の愛を求めている。愛しているんだ」ということが色濃く伝わればいいなと、半ば願うような気持ちで演じました。

ーなかなか壮絶なシーンも多くあったかと思うんですけれども、乗り越えるのはたいへんでしたか?

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吉田 そうですね。ただ、現場にいる太賀くんがたいじさんそのものだったんです。なので、太賀くんが演じるたいじさんに反応していけば、自然と感情ができていった。そういう意味ではほんとに太賀くんに助けられました。

ーそして監督は思いも強い分こだわりもあったかと思いますがいかがでしょう。

監督 こだわりじゃないですけれど。原作を読まれてる方もそうでない方もいらっしゃると思うんですけど、これから歌川さんの壮絶な過去をみなさん目の当たりにするんですね。
僕が原作を読んで一番心を打たれたのは、「人生は循環できる」っていうことだったんです。歌川さんの人生ほど壮絶でないにしても、この会場のみなさんそれぞれ振り返るのが辛くなるような記憶、かさぶたのまま放置しているような傷、生きていたら必ずひとつや二つ抱えているものだと思うんですよ。
それを最近定着してしまった「断捨離」のごとく切り捨ててしまったり、なかったことにしてしまうんではなくて・・・嬉しいことも悲しいことも全部自分を形成してきたものだから、今現在進行形で得られた友情や愛する人から得られた優しい気持ちを、かつて愛されなかった自分の意識に、自分の中で渡してあげることができる。人生は循環していくことができるんだ、僕はそのことを原作から大きな気づきとして得られて、今日よりも明日、明日よりも明後日とちょっと気分のいいものにしていくためのエネルギーになるんじゃないかな。それを映画にしたいと思ったんですね。
ですから今日は特別なお客様なので、いたるところで人生が循環する。映画を見終わった後に、幸せな円がくるりっと心の中に描かれるような印象をみなさんが感じてくれるといいなと思っています。いろんなところにまん丸なキーワードが隠されていますので、ぜひそれを楽しんでください。

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ーそうですね、キャストのお二方が演じてらっしゃるこの親子関係ひとつとってもその中に様々な関係性、メッセージがこめられているかと思いますので、受け取っていただければと思います。
続いての質問に移る予定ではあったんですけれども。実はですね、太賀さんと吉田さんにはナイショにしていたことがございまして。主題歌「Seven seas journey」を歌っていらっしゃいますゴスペラーズのみなさんが今日この会場にお越しくださっています。

(太賀さんと吉田さん顔を見合わせる)
(会場は「え~!」「きゃ~!」の歓声と拍手)
ーそれではご登場いただきましょう。どうぞお入りください。ゴスペラーズのみなさんです。(拍手)
初対面でございます。


 みなさん今晩は。ゴスペラーズです。ありがとうございます。(拍手)
太賀さん、吉田羊さん、そして御法川監督完成披露試写会おめでとうございます。と、今お話にあったとおり実はお三方と我々ゴスペラーズ今日が「はじめまして」ということで、この映画のために書き下ろしました「Seven seas journey」をみなさんへのプレゼントとしてここで歌わせていただきたいと思います。

ー素晴らしい!歌を披露していただけるということで。実は監督はご存知だったんですけど、おふたりにはナイショだったので、かなり驚かれていらっしゃいます。

太賀 なんで監督は知ってたんですか。(笑)

吉田 おかしいじゃないですか。(笑)

 さっきから監督だけちらっとこっちを見るんですよ。見ないで下さいよ、ばれるじゃないですか。(笑)

吉田 思いもしませんでした。

 はい、トイレも一時間前に済ませまして隠れていました。(笑)

ここで準備。監督、吉田さん、太賀さんは端へ移動。

 では聞いていただきます。「Seven seas journey」

ゴスペラーズさん 主題歌「Seven seas journey」を披露

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ー太賀さん吉田さんいかがでした? こうして歌声を聴いてみて。

太賀 やばかったです(笑)。いやなんかこんなに・・・なんだろう。完成披露試写会でこんな気持ちになったのは初めてです。ほんとになんか・・・素敵なものを見せていただいてほんとに嬉しかったです。ありがとうございました。感動しました。歌川さん、良かったですねー!

吉田 私もそう思ってたの。聞きながら。ほんとにね、歌ちゃんが(横を向く)、いやだほんと泣いちゃう。いろいろと歌ちゃんが・・・

監督 僕がちょっとだけ、羊さんが泣いてる間に。(ゴスペラーズへ)ほんとにありがとうございます。観客のみなさんにお伝えしたいんですけど、ゴスペラーズのみなさんは原作を読んで、脚本を読んで、編集した映画も見て、たくさん候補の歌詞や曲を作ってくれたんですよ。映画を拡げるために主題歌をというのはお約束でもあるんですけど、僕はこんなに愛情深く主題歌を作っていただいたことをほんとに光栄に思いながらとても感謝しています。ありがとうございました。(拍手)

ー吉田さん、何かおっしゃりたいことがあれば(笑)。

吉田 はい、落ち着きました。ほんとに歌ちゃんがね、お母さんの愛を諦めずに生き続けてこの本を書いたおかげで、こんなに素晴らしいギフトをいただけるんだということを、きっと歌ちゃんは今しみじみと感じているんだろうなと、歌ちゃんの気持ちになったら泣けてきました。

ーひとことだけぜひゴスペラーズのみなさんにも伺いたいんですけど、映画をご覧になっていかがでしたでしょう。

 はい、この映画には愛すること、そして愛されることの両方が描かれています。どちらも決して一人ではできないことで、相手がいて誰かがいて初めてできることです。一人でできないことだからこその難しさもあるし、でもだからこその美しさもあるし。そんな思いをこめて我々ゴスペラーズも決して一人では歌えない歌い方で、歌わせていただいたのがほんとに光栄でした。ありがとうございました。みなさん、この映画を見終わった後にいろんな思いが胸に降りそそぐと思うんですけれども、そんな言葉にならない思い、それを形作るための道しるべにこの歌がなったら嬉しいなと思っております。ありがとうございました。(拍手)

ーありがとうございました。
ここからフォトセッション

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ー最後にキャストのお二方と監督からもう一言

太賀 ほんとにこんなに素敵な完成披露試写会になって嬉しく思います。この作品がこれから先多くの人の目に触れることを祈りつつも・・・そうですね。見てもらう方にはそれぞれの受け取り方をしていただければと思うんですけれども、最終的にこの歌川たいじという役を少しでも愛おしく思っていただければ、もちろんお母さんもそうですし、出てくる登場人物がみな愛おしくて、愛されたらいいなと思いました。ほんとに今日はありがとうございました。よろしくお願いしますっ。(拍手)

吉田 この映画はほんとにデリケートな内容ですので、いろんな議論があると思います。私は、この映画でネグレクトの当事者を救うことはできないだろうとずっと思ってきましたし、様々な取材でもそう話してきました。けれどもあるつぶやきを見ていたら「予告で流れている“あんたなんか産まなきゃ良かった!”という台詞は私自身も母からずっと言われてきた。きっとこの映画を見るのは私には辛いことになると思う。けれども母と向き合いたいから、この映画を見ます」と書いてくださっている方がいて、「ああそうか」と。この映画は「当事者の背中を押す力もあるかもしれない」と思いなおしました。私は当事者のかたにもこの映画を見ていただきたいですし、そしてその周りの方々にもこういう見方もある、支えかたもあるんだな、というヒントにしていただけたら嬉しいなと思います。
愛し愛されたいと願っている親子の姿を通して、見終わった後もしかしたらぐぐっと考え込んでしまうかもしれないですけれど、この親子の間には確かに愛があったのだと感じていただければ。そして生きていればいろんな出逢いがあって、いつからでも人生はやりなおせるんだ、いくらでも人生を変えていけるんだと、小さな希望の光のようなものを感じていただけたら、我々が文字通り戦って作ったこの作品の意味があるかなと考えております。
今日この会場には、歌ちゃんご本人と、本作をご覧になればわかると思いますけれども、歌ちゃんに大きな影響を与えたキミツ、大将、カナちゃんというとても大切なお友達、モデルになった3人が会場にいらっしゃいます。どの人だったんだろうと探しながら、帰ってください。ヒントはマスク!(笑)というわけで映画を最後まで楽しんで帰ってください。本日はありがとうございました。(拍手)

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監督 僕は今日みなさんに申し上げるとしたら、おおいに笑って泣いていただきたい。羊さんが出演された4回泣ける『コーヒーが冷めないうちに』、とっても素敵な映画で僕大好きです。泣ける映画ってね、意地悪な人が斜に構えていろいろ言うけれど、そんなに自由に生きられていないと思うんですよ。普段いつも空気を読みながら、自分の本当の気持ちを抑えこんで日々営んでいると思うんですね。せめて暗闇の中でスクリーンを見つめながらふだん抑えている喜怒哀楽を解放していただきたい。さっき太賀さんも言ってくださいましたけれど、ほんとに一人の人間が懸命に生きている姿のおかしみと愛おしさ。それを大いに笑っていただきたいし、愛おしさに涙を流していただきたい。自分の体の中にこんなに涙がたまっていたんだと知ることって絶対力に転じると思うんですね。ですから今日は暗闇になってしまいますと、隣にどんな方が座っていても恥ずかしくありませんので。
今月釜山映画祭に羊さんと歌川さんと行って、初めて上映に立ち会って来たんですけれど、そのときはびっくりしましたね。(泣きまね)それがこだまするんですよ(笑)。でもね、僕はとってもすてきだなと思いました。太賀さん羊さんが伝えてくれた思いを受け止めていただくとともに、この可愛らしく元気な映画を楽しんでいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)

http://hahaboku-movie.jp/
©2018 「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会
★11月16日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

☆御法川修(みのりかわおさむ)監督インタビューはこちら
☆歌川たいじさんインタビューはこちら

東京国際映画祭中だったので、映画の合間をぬって駆けつけました。取材席は最前列ですが、この近くにいらっしゃる若い女性ファンの方々は、ずいぶん早くから並ばれていたようです。舞台上の立ち位置を示すガムテープの数を見て、「誰がゲストなのかしら」と言い合う姿に内心「びっくりするよ~」とうふふ。プレスには知らされていましたが、ゴスペラーズ登場に吉田さん太賀さんは目を丸くして驚いていました。目の前で聴く生歌はすばらしかったです!役得~♪
映画上映後、客席にいらした歌川さんに向かって大きな拍手が沸き起こったそうです。一緒に座っていたキミツさんもたくさんの方々に握手を求められたとか。映画と同じ暖かい雰囲気で終了した試写会であったようです。その場にいられなかったのが惜しい・・・。
今回もほぼ書き起こしました。音声と歌は届けられませんので、ぜひ劇場へお出かけくださいませ。(写真・取材 白石映子)

アジア三面鏡2018:Journey『碧朱』 松永大司監督インタビュー

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東京国際映画祭で今年も「アジア三面鏡」の新作が上映されました。第2弾の「アジア三面鏡2018:Journey」テーマは「旅」。短編3本のうち、『碧朱』の松永大司監督にお話を伺うことができました。(10月26日六本木ヒルズ)

プロフィール 1974年生まれ。東京都出身。ドキュメンタリー『ピューぴる』(2011)を初監督。『おとこのこ』『トイレのピエタ』(2014)、『ハナレイ・ベイ』(2018)など。平成30年度新進芸術家海外研究制度により、2019年1年間ロサンゼルスに留学。

『碧朱』ストーリー 
ミャンマー ヤンゴン市内を巡る環状線の電車に乗っている鈴木。声をかけてきた男に、この環状線の速度を上げる仕事をしていると話すと、なぜかと問われ、早くて楽になるからと答える。マーケットで縫い子の少女スースーと知り合い、自分と地元の人々との乖離に気づいていく。

★2018年11月9日(金)よりほか全国公開
(C)2018 The Japan Foundation, All Rights Reserved
「アジア三面鏡2018:Journey」作品紹介はこちら

-最初に「碧朱(へきしゅ)」の意味を教えていただけますか?

人生は四季の色にたとえられます。「青春」といいますよね。青を「碧」、夏は赤になります。赤を「朱」にして、ミャンマーの国が成熟していく状態を表した僕の造語です。今回撮影・照明が中国のチームだったんですけど、彼らはそういうイメージが湧いたみたいです。

-ミャンマーの国のイメージの造語でしたか。雰囲気のある言葉ですね。
画面の自然だけでなく、色とりどりの市場の場面など映像・色使いが綺麗でした。人の表情は優しいし、手付かずのものが多く残っている国だと思いました。


そうですね。日本がもう何十年前に失ってしまったような景色がミャンマーにはありました。

-発展するにつれ、これからも失われていきますよね。

それがこの作品のテーマの「進化」と「喪失」ということだと思います。それが全てかなと。
日本人である僕がそのミャンマーの状況に対して、それをいいとか悪いとかいう資格はないと思うんです。ただ僕自身がヤンゴンに感じた魅力を考えたときに、たぶんこの先この景色というのはなくなっていくんじゃないかと思って。電車に乗りながらいろいろ考えたんです。今は効率、時間を短縮していくことって、人類の命題みたいになってきちゃっています。時間は短縮されるわ、寿命は延びていくわで、僕たちの一生のうちにやれることの数がすごいじゃないですか。それが果たして幸せなのかどうか、一回ふと立ち止まって考えてもいいんではないかと感じました。

-それはロケハンで感じられて、徐々に固まっていったんですか?

今回は「これをやりたい」というテーマをその国にあてはめるのではなく、僕が日本人としてどこかの国に行ったときに感じた“今”を描いてみたいと思いました。

-主人公の鈴木さんには監督が投影されているんですね。

両方ですね。鈴木とニコラス・サプラットラが演じる男性(電車で隣り合ってバッグを忘れていく)との二人が僕自身です。何かのためにちゃんとした大儀を持ってその国に貢献しようと思うことと、どこかでそれが本当に幸せなんですか、って問われたときにハタと思うこと、相反する両方の思いがある。
日本はほんとに豊かだと思います。気持ちの面ということより、経済的・物質的に。山手線なんてほぼ遅れることなく来ますよね。で、ちょっと遅れたらすみませんとアナウンスがあるし(笑)。この国の正確さってすごいことだと思います。

-正確なあまり息苦しいこともあるかも。いいところも悪いところも。

うーん、よしあしですね。これが当たり前になっていますから、これが崩れたときが大変ですよね。災害とか。
通常のルーティンから外れたときに適応できなくなっています。

-日本で停電すると全てが止まってしまいますが、映画の中では違いますね。(家族で食事中に停電したらハッピーバースディを歌った)いいシーンでした。

あそこは僕が作りました(笑)。ミャンマーってしょっちゅう停電するんです。

-私が子どもの頃もよく停電しましたが「今につくよ」って感じでした。

そう、「今につくよ」なんです。人間として柔軟で適応能力が高い人たちだと思いました。

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アジア三面鏡2018 journey(撮影:宮崎暁美)

-ヒロインの可愛い女の子スースーは現地で見つけられたんですね。

役者のオーディションもたくさんさせてもらいました。ハワイで撮った『ハナレイ・ベイ』でも素人が出演しているんですが、最近面白みを感じていて、素人を使いたいと言ったら現地の美大へ連れて行っていただいたんです。授業を見たり、学内を歩いたりして僕が気になった人にオーディションに来てもらいました。けっこうたくさん来たのですが、ナンダー・ミャッアウンはちょっと違いましたね。
彼女自身もミャンマーという国を体現する存在にしたかった。少女から大人の女性に変革する過渡期の子だと思ったんです。非常にうぶな感じなんだけれど、芯はしっかりしていて、それで危うい感じもするのが面白かった。カメラの前でも物怖じすることがなかったです。

-長谷川博己さんはどうやって決まりましたか?ストーリーは長谷川さんありき、ですか?

じゃないです。僕はそういうやりかたはできなくて、基本的には自分で話を考えて、そこから役者を考えます。
年齢的には30代半ばから40代半ばの人。いい意味でドキュメンタリーチックに撮っていこうと思っていたので、その画面の中で、あんまり自己アピールをしない人がいいなと思っていました。役者って存在感あるのが価値みたいなところがあるじゃないですか、長谷川さんって作品によって上手く足し引きができる人。長谷川さんを知らない人が観たら普通の人、どこにでもいそうな人に見えるのがいいなと思いました。

-そして、やる時はやるんだ!って感じですよね。

そうなんですよ。だから『シン・ゴジラ』なんかすごい存在感ある。この作品では存在感なくしてストンと入ってくれたというか。

-なんだかどこにも力が入ってなくて、これは長谷川さんの素なのかしら、こういう方なのかと思ってしまいました。

近いかもしれない。長谷川さんにはなるべく役作りしないでポンと入ってくださいと言ったので。

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(C)2018 The Japan Foundation, All Rights Reserved

-『ハナレイ・ベイ』も見せていただいたんですが、失われていくものに対しての惜別と、とどめておきたいという情がそちらにもありました。

うーんと、情っていうか、「失われていくものに対して、残された人はどう接していくのか」というのが、僕たちが生きている間の永遠のテーマじゃないかと思っているんです。喪失しないと得ることができないものも当然ある。
そういうことをよく考えていますね。人が亡くなるっていうことをポジティブなものとしてはとらえにくいですけど、生きている僕たちは絶対死ぬんで、死ぬことをネガティブなこととするなら、僕たちはネガティブに向かって生きていることになると、それはちょっと辛いんじゃないか。さっきの話のように寿命は延ばしたいし、いろんなことやりたいわけですよね、死ぬまでに。
日本以外の国って「死は生の始まり」とか「輪廻」とか、ちゃんと循環するという考え方をするんですよ。ミャンマーの人たちは、死後の世界に対しての徳を積んで生きていく人たちなんです。次の世界のために今いいことをしていくという考え方なんですね。日本とは相当違います。それは今の生きていく時間にすごく大きく影響すると思います。
そんな国だからこそ、時間を短縮するとか考えて生きている人ってそんなに多くないんじゃないかな、と思った。
時間に対しての考え方が違いますね。

-次の世もあると信じられれば、まだ終わりじゃないですものね。それは、年代が違っても同じですか?

やっぱり若い子たちは時間に対してより、お金に関しての執着がすごく大きいです。映画の中でも描きましたけど、それはかなり感じました。例えばある国では「今日生きていくための最低限のお金があればいい」と考える。自給自足に近い暮らしをしているところもあれば、貯蓄をしていくところもある。若い子たちには物質的な欲が当然ありますね。

-今は、情報の入り方が違いますから。

そうです。だから電気や水道が完全に普及していないような田舎の村でも、スマホだけは持っているんですよ。このアンバランスがすごくて。

-えー、高くないんですか?

高いとは思うんですけど。経済的なバランスがもしかしたらおかしくなっているのかもしれないです。日本でいうなら、戦後復興していく中で、高度成長時代があって段階をへて国民生活が向上していきました。パソコンができてスマホができて、世界の成長に国の成長が伴っていった。でもミャンマーはまだ国として成熟していないんですよ、たぶん。そこへ超成熟した国の情報や産物が入ってくる。国の経済状態はまだまだこれからなのに、ネットで見る情報って世界均等に入ってきますから情報過多で、バランスが悪いんです。そこが大変です。

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-そろそろ時間が迫ってきました。監督として映画を作るときに大事にしていることはなんですか?

大事にしていることね・・・(しばし考える)「映画に対して嘘をつかない」ってことかな。すごく漠然としているけれど、ものを作るときに真摯に向き合うってこと。それは大切にしています。

-映画は大きな嘘をつくものですけど、それは監督の心情的にってことですね。

伝えたいものを伝えるための嘘、方法論については騙すことも必要だけれど、伝えたいものに対して嘘をつかない、真摯に向き合いたいということです。まあいっか~と思って作れない。そうやって作れたら楽だと思うけど、たぶんそれをやったらダメだろうなと思って。良くも悪くも。

-制約多いですものね。お金と時間も要るし。

どこで折り合いをつけるかね。でも、何か悪いこと、ネガティブなことがあったときに、ポジティブなものに変えていくと、それが好転していく。真摯に向き合うとそういうことになる。常に一生懸命やっていく、最後まで頑張って走りぬく、一つの作品を作るまで。そういう思いで作っています。

-来年から1年間ロサンゼルスに行かれますよね。向こうでこれをやってこようとか、これを掴みたいとか目標はありますか?

向こうの魅力的な俳優と知り合って、僕の映画に出てもらって、いい作品を作りたい。それは本気で思っています。
いい俳優、魅力的な表現者とやりたくてやりたくてしょうがないです。それは素人でも関係ないです。それは僕の劇映画のデビュー作の『トイレのピエタ』で野田洋次郎に出てもらったように、魅力的な人に出会って作品ごとに必要な人をキャスティングしていきたいです。肌の色も問わず。

-ぜひぜひいい出逢いがありますように祈っております。

僕ほんと出逢いには恵まれているんですよ。

-ありがとうございました!


=インタビューを終えて=
写真を撮りながら子どものときにどんな映画を観ていたのか伺いました。当時人気の『グーニーズ』や『ネバー・エンディング・ストーリー』、ジャッキー・チェンの映画などを観ていたそうです。『BMXアドベンチャー』(85公開)を観てBMX(バイシクル・モトクロス競技の略)にはまっていた少年時代であったとか。
『いまを生きる』(ピーター・ウィアー監督/ロビン・ウィリアムズ主演/90年公開)で衝撃を受けて、それまでの娯楽作品とは違い、監督で見るようになられたそうです。これは型破りで魅力的な先生によって生徒たちが変わっていく、私もとても好きな映画です。高校生のころに観た監督の心にはさらに深く残ったのでしょう。俳優をしていた時期もあり、ドキュメンタリー、短編から長編にと拡げてこられた監督は脚本も書かれるせいか、どのシーンにも全てに繋がる糸が織り込まれている感じがあります。
『ハナレイ・ベイ』『碧朱』と海外での撮影、スタッフとのコラボにも積極的な松永監督、ロサンゼルスで素晴らしい方々に出会って、目には見えない財産をたくさん懐に入れて帰って来てください。またお目にかかれますように。
(まとめ・監督写真 白石映子)