『旅するダンボール』岡島龍介監督インタビュー

今、捨てようとしているものにも価値があるんじゃないですか?


映画『旅するダンボール』が、2018年12月7日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国で順次公開される。
本作は段ボールアーティスト島津冬樹が世界30カ国の街角で捨てられた段ボールを拾い、デザインや機能性を兼ね備えた段ボール財布に生まれ変わらせる活動を迫う。そして、島津が一目惚れした徳之島産じゃがいもの段ボールの源流を辿って行く旅では、この段ボールと関わった人たちとの温かい交わりも映し出す。
撮影も兼ねて、島津に同行した岡島龍介監督に本作への思いを聞いた。

<岡島龍介監督 プロフィール>

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宮城県出身。日本でのオンライン/オフラインエディター&番組ディレクターとして活動後、2007年に渡米。Santa Barbara City Collegeに入学後、2009年にInternational School of Motion Pictures へ編入。卒業後はロサンゼルスでフリーランスの工ディター&ディレクターとして活動。編集を手掛けた『Stranger』(2010)はビバリーヒルズフィルムフェスティバルに正式出品される。自身が監督を手掛けた『Listen to Your Bird』(2012)はフィンランドで行われたフィルムフェスティバルONE CLOUDFESTの短編ドキュメンタリーにてOCFFAV Award観客賞を受賞。CM、MV、ドキュメンタリー、ファッション、長編、短編映画とジャンルを問わず監督、編集業に関わる。2015年に日本へ拠点を移し、Avalon Picturesとして活動中。近年はMIZUNOのテレビCMなどを監督、また自身初となる長編ドキュメンタリー映画『旅するダンボール』は、初監督作ながらSXSW (サウス・バイ・サウスウエスト) 2018、ドキュメンタリー・スポットライト部門に正式出品された。

『旅するダンボール』
<STORY>

島津冬樹。いま世界が最も注目をあつめる話題の段ボールアーティスト。本人は自身を段ボールピッカーとも呼ぶ。これまでに世界30カ国を巡り、なにげない街角から捨てられた段ボールを拾ってきた。もう8年もの間、誰もが見向きもしない段ボールを、デザイン、機能性を兼ね備えた段ボール財布に生まれ変わらせている。こうして島津が生み出す段ボール財布は世界中を旅し、リサイクルや再利用といった概念のさらに先を行く<アップサイクル>の可能性として受け入れられているが、島津の思いはソーシャルな反応とは無関係に、ただひたすら段ボールが好きという、純粋さそのもの。『旅するダンボール』は、そんな島津がある日徳之島産のジャガイモの段ボールを見つけ、その源流を辿って行く旅の途中で出会う、この段ボールと深く、浅く、近く、遠く、関わった人たちとの温かい交わりを3年間にわたり追ったドキュメンタリー映画。東京で偶然に見つけたかわいらしいポテトのキャラクターの段ボールがきっかけで、島津と段ボールのつながりは、日本を飛び出し、世界へと広がっていきます。(公式サイトより引用)

監督:岡島龍介
出演:島津冬樹
ナレーション:マイケル・キダ
配給:ピクチャーズデプト

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★2018年12月7日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国順次公開


―段ボールアーティスト島津冬樹さんについてのドキュメンタリー作品を撮ろうと思ったきっかけをお聞かせください。

島津くんが「段ボールの映画を作りたい」とプロデューサーに持ち込んだのがきっかけです。しかし、段ボールの映画と言われても誰もイメージできず、島津くんがカメラを持って現地に行き、好きな段ボールを撮ったり、自撮りしたりするというセルフドキュメンタリーの形でスタートしました。ただ、島津くんがやり始めたものの、撮影するのは初めてで恥ずかしい。目的の段ボールを見つけると夢中になってしまい、カメラには地面しか映っていない。撮れ高が全くない状態でした。これでは映画を作ることはできません。客観視する人が必要ということになったのです。当初、僕は編集を頼まれていて、いつ来るかわからないプロジェクトとして、頭の片隅にありました。それがある日、島津くんから監督と撮影をやってもらえないかと相談があり、そこから僕も参加するようになりました。

―ナレーションが英語です。なぜ日本語ではなく、英語にしたのでしょうか。

英語にした理由は、本作がゴミ問題を含む社会派の映画でもあるからです。環境問題は日本だけの問題ではありません。日本に留まらず、世界に向けて発信するとなれば、最初から英語で作った方が伝わる人数が増える。そこで、ナレーションを英語にしました。また、プロデューサーが当初からサウス・バイ・サウスウエスト映画祭への出品を意識していたからというのも理由の一です。

―ポップな感じがして、入っていきやすい印象でした。

それも狙っていました。ドキュメンタリーは取っつきにくいイメージがあるので、「この作品はこういうポップな雰囲気ですよ」と伝えたかったのです。
それと、島津くんの作品ということで、完成形はかわいい感じになるだろうと思っていました。ナレーションも子どもにしようかと思っていたくらいです。しかし、後半はシリアスなシーンに突入するので、子供ではなく大人にした方がいいのでは?ということで、優しい声の雰囲気がマッチしていると思いマイケル・キダさんにお願いしました。

―最初と最後のイラストもかわいい感じでしたね。

あのイラストは島津くんが描いたものです。イラストを入れることで、彼の世界観を演出したかったのです。ただ、冒頭だけのイラスト演出では全体のバランスが悪いので、随所にそれを挟んだり、エピローグも彼のイラストを入れることで、彼の世界観を崩さないように意識しました。

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―冒頭で世界観を示した後で、たくさんの方が大切なものについて語ります。奥さんが直してくれたコーヒーカップ、お母さんが作ってくれた受験のお守りなど心温まる宝物ばかりでした。

僕が伝えたかったのは、「みんなで段ボールを好きになろうよ」ではなく、「アップサイクルのタネは段ボールだけではなく、僕らの周りにいっぱい落ちていることに気づいてほしい」ということです。冒頭の「みんなの宝物って何ですか?」と、最後のアップサイクルへの取り組みをくっつければ、僕の言いたいことは終わる。その例として取り上げたのが島津くんの段ボールへの愛情という三部構成になっています。

―アップサイクルという言葉をこの作品で知りました。

実は僕も島津くんも知りませんでした。
映画の撮影は2017年4月にスタートし、10月にほぼ撮り終えたものの、編集を始める時期になって「エンディングはどうしよう」という話になりました。この映画を通じて何を訴えたいかが、僕の中で見つかっていなかったのです。スタッフみんなでいろいろ考えるものの、腑に落ちない。そんなとき、プロデューサーが「これからアップサイクルが来ると思う」と、会議に出してきました。当時、アップサイクルという言葉は世界でポツポツと出始めていましたが、日本ではまだ認知度が低く、僕たちもそこで初めて知りました。
そこでアップサイクルという言葉を調べてみると、島津くんがやってきたことはアップサイクルのど真ん中だったということに気づいたのです。島津くんは当初から「不要なものから、大切なものへ」というスローガンを掲げていたので、プロジェクトが始まった時点で、実は本質的な事ではあったのですが、それが「アップサイクル」という言語に行き着くまでに、ちょっと時間がかかってしまいました。それと同時期に、エースホテルでのワークショップの話が決まり、中国から環境系のエキシビションのオファーがきたりと、映画のエンディングにとっては必要不可欠な撮影が次々と決まりました。サウス・バイ・サウスウエスト映画祭の締め切りもあり、ギリギリな決断でしたが、「これは行くしかない」と取材を決行しました。いろいろな意味で、プロデューサーにとって、かなりリスキーな作品だったと思います。

―ききつ青果が扱った徳之島産じゃがいもの段ボール箱のルーツを辿る「里帰りプロジェクト」は到着点がわからないままのスタートで、こちらもリスキーでしたね。

島津くんはこの作品を撮る前に、別案件で里帰りプロジェクトの原型となる企画をやっていますが、そのときは動画ではなく写真ベースだったそうです。「もう一回やってみたい」という島津くんの希望で始めました。ただ、その時点では、ききつ青果という情報しかなく、届け先も、受け取った人の反応もどうなるかわからない企画でした。徳之島に行くかもしれないし、長崎で取材が終わるかもしれないし、まだ何もわからない状態でしたが、まずは長崎へ行ってから、、、ということでここから全てがはじまりました。

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―「里帰りプロジェクト」には泣いてしまいました。

取材を続けていく中で、ポテトの段ボールは熊本にいる丸尾さんという方のデザインだという事が分かりました。しかし、数年前から発祥した病気が原因で、あまり当時の事は覚えてないかもしれないと、当時部下だった方から聞いたのは今回の取材の後でした。結果、島津君が聞きたかった事はあまり聞けなかったのですが、丸尾さんの人柄に出会った事で、なぜ自分が段ボールに惹かれているのか?なぜ段ボールが温かいのか?という本質に気づく旅となったのです。丸尾さんの奥様も段ボール財布を手に取り、旦那様の働いていた当時の姿が脳裏に浮かんでいたのでしょう。財布を手に取りながら泣いていました。涙の本当の意味は分からないですが、奥様から「この5年間は暗いトンネルを歩いているようだった。ただ財布をもらった事で光を感じる事ができました」という言葉を頂いた時は、このプロジェクトは必然的だったのだなと感じました。

―編集の進め方は? 

CMやMVは事前に台本を作って、セリフとかいろいろ決めてから撮る。ドキュメンタリーはそういうわけにはいきません。最後にディレクションを持ってきて、お客さんの深層心理を考えながらピースを入れ替え、編集していくパズルのようなものです。

―いい段ボールとそうでない段ボールがあると島津さんは語っていました。その違いを監督は理解できましたか。

全部が分かるわけではありませんが、島津くんの好みは何となくわかってきて、確かにデザインを見て、かわいいと思うことはありました。
島津くんが言っていましたが、ピザなどが入っていた段ボールをゴミ箱から拾うときは悩むそうです。自分ではいいと思っているけれど、ピザのカスや油がついていて、あまりにも汚い。「そこまでして、自分は拾いたいのか」と自問自答するらしいです。ただ、後悔したくないという思いが強いので、結局は拾ってきてしまう。
島津くんは旅をしているとき、段ボール以外のものも拾ってきます。小麦粉が入っていた袋を拾って、ホテルで洗っていたこともありました。島津くんは元来、集めるのが好きなんです。小さい頃は貝、百合、飛行機模型などを集めていて、段ボールもその延長線上にあるようです。しかも、島津くんは集めて終わりではなく、ちゃんとお披露目する場所を作り、反応を見る。この行為は里帰りプロジェクトにも繋がっていますね。

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―段ボールを集める旅は苦労も多かったのではありませんか。

かなり苦労しました(笑)。
海外に行くとき、島津くんはすでに重量オーバーしているケースを半分以上、空にして持っていきますが、帰りはその中にぎっしり段ボールが詰まっています。それでも入りきれない段ボールは現地でものすごいでかい段ボールをケースにして、他の段ボールを敷き詰めて、エクストラチャージを取られてでも持って帰る。
いつもの事なんですが大抵、出国も入国も税関で引っかかります。すったもんだで、島津待ちということが多々あります。ピッツバーグへ取材に行ったとき、パーキングチケットを切られてしまったのですが、ふつう落ち込むところを彼は、逆に「やったー」と喜んでいましたね。現地のパーキングチケットの紙を手にしてすごく喜んでいました。二度ともらえない、二度と出会えない恐怖にかられるようですね。

―監督ご自身は段ボールで財布を作ったことはありますか。

実は作ったことがないのです。僕はワークショップのとき、みんなの反応を撮ることにフォーカスしています。最初から最後まで撮っているので、作る時間は全くない。
しかし、使ったことはあります。僕の使っているものはちょっと特殊で、名刺入れとコインケースが合体したもの。島津くんの試作品をもらいました。違和感なく、普通に使えます。

―国内外でのワークショップの様子が映し出されていました。日本人と外国人では反応に違いはありましたか。

ワークショップの雰囲気はほとんど同じですね。最後にボタンをつけて終わりますが、ぱちんと閉める瞬間はみんな、「うぁーっ」、「やったー」、「できたー」と叫び、このシーンは世界共通でした。

―段ボールに対する認識に変化はいかがでしたか。

ここに段ボールの山があるとします。ワークショップでない、ただの何でもない時だったら、その段ボールはすべてゴミになる。WSで「あそこから段ボールを選んでください」というと、、参加者は自分の名刺入れを作る材料として見ています。選ぶという行為がすでに段ボールがゴミでなくなっていることを意味しています。
ゴミとして見ているのか、材料として見ているのか。多くの人がその違いに気づいていません。ワークショップがそろそろ終わるという頃に、「みなさん、先ほど段ボールを選んでいましたが、あれはゴミなんです」というと、「あっそうか、言われてみればゴミですよね」と気づく。
ワークショップを終わると、段ボールを見る目が変わる。アップサイクルを伝える試みとしては成功していると思っています。

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―今後もアップサイクルに関する作品を撮っていくのでしょうか。

取材対象者がアップサイクルに関心がある人であれば、このままアップサイクルを追求する路線になります。ただ、今、ちょっと気になっている人は全然違うプロセスの人。もちろん、この映画を通じてアップサイクルの知識は増えたので、それは次の作品に大きな気づきになると思います。

―フィクションではなく、ドキュメンタリー作品ということでしょうか。

絶対ドキュメンタリーでなくてはダメということはありません。今回、初めて、長編作品を撮りましたが、CMやMVもこれまで通り、撮っていきたいと思っています。いずれも共通しているのは、見ているお客さんの大衆心理をコントロールしていく作品。そういうことを追求していきたい。それがCMなのか、ドキュメンタリーなのか、フィクションなのかは、特に決めていません。

―本作をこれから観る方々にひとことお願いいたします。

映画内では直接、アップサイクルについて語っています。ここが一番伝えたいこと。しかし、この映画には裏テーマがあるんです。島津君が好きな段ボール活動を続けるために、大手広告代理店を辞めるシーンがあり、その後の彼の様子を映画では描いています。彼の「好きな事をやっていきたい」という彼の姿は、昔の僕にも共通する部分があります。自分も映像制作という好きな事をするために、大学を辞めたり、アメリカで学んだり、いろいろな所で大きな決断に迫られました。とても困難な道でした。でも後悔はないんです。島津君も死ぬ間際で「あれしとけばよかった。」みたいな人生を送りたくないという想いから、いま段ボールの活動を続けています。後一歩前にでればできるのに、後少しの勇気があればあそこに行けるのに、やりたいことがあるのに勇気がなくでできない、そんな人達の背中を押す映画になってくれればなと思って作りました。
(取材・写真:堀木三紀)