『ゴールデンスランバー』ノ・ドンソク監督インタビュー

「少しぐらい損して生きてみたら?」と語る主人公はカン・ドンウォンそのもの

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カン・ドンウォン主演『ゴールデンスランバー』が2019年1月12日(土)に公開される。原作は伊坂幸太郎の同名小説。強大な国家の陰謀に巻き込まれた宅配ドライバーの大逃走劇を描き、第21回 山本周五郎賞、第5回 本屋大賞を受賞したベストセラーである。2010年には中村義洋監督が堺雅人主演で映画化した。
本作は舞台をソウルにし、観光名所として知られる光化門広場で韓国映画初となるロケを敢行。迫力あるアクションシーンなどオリジナルのアイデアが盛り込まれている。韓国版ならではの作品に仕上げたノ・ドンソク監督に作品に対する思いを聞いた。

<ノ・ドンソク監督プロフィール>
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1973年生まれ。韓国映画芸術アカデミー在学中に製作した短編映画が海外の映画祭で上映され、高く評価される。長編監督デビュー作「My Generation(英題)」で夢を追う青春像をリアルに描き、第6回釜山映画評論家協会賞 特別賞を獲得。明日への希望もなく暮らす二人の青年が予期せぬ事件に巻き込まれる「俺たちの明日」でも第60回ロカルノ国際映画祭 審査員特別賞を受賞した。
初めて商業映画として取り組んだ本作では、緊迫感と共に温もりのある演出をし、賞賛を伴う大きな注目を集めた。

『ゴールデンスランバー』原題:골든슬럼버 英題:GOLDEN SLUMBER

<STORY>
人気アイドル歌手を強盗から救い出し、国民的ヒーローになった優しく誠実な宅配ドライバーのゴヌ(カン・ドンウォン)。ある日、久しく会っていなかった友人ムヨル (ユン・ゲサン)から突然連絡が来る。再会の喜びも束の間、目の前で次期大統領候補者が爆弾テロにより暗殺されてしまう。動揺するゴヌに向かってムヨルは「お前を暗殺犯に仕立てるのが“組織”の狙いだ。誰も信じるな、生きろ!」と警告して自爆。
大統領直属の機関である国家情報院はゴヌを暗殺犯と断定し、マスメディアが一斉に報道。大規模な包囲網が敷かれる。身に覚えのない罪を着せられたゴヌだったが、やがて事件の裏に国家権力が潜んでいることを知る。無数の警察に追われる無実の男は、巨大な陰謀にどう立ち向かうのか―?

監督:ノ・ドンソク
原作:伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(新潮文庫刊)
出演:カン・ドンウォン、キム・ウィソン、キム・ソンギュン、キム・デミョン、ハン・ヒョジュ、ユン・ゲサン
配給:ハーク
2018年/韓国/韓国語/108分/スコープサイズ
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★2019年1月12日よりシネマート新宿ほか全国で順次公開

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― 監督をお引き受けになった経緯をお聞かせください。

原作を読んで感銘を受けた俳優のカン・ドンウォンさんが映画制作会社に企画を持ち込み、話がスタートしました。私はある程度、シナリオができあがった段階でオファーをいただき、監督と脚本を引き受けたのです。
平凡な小市民が巨大な陰謀に巻き込まれるというストーリーに魅力を感じました。しかも、それを友人たちの力によって解決し、陰謀から逃れていくというのは新鮮で、ぜひ映画にしたいと思いました。

― 初めての商業映画でしたが、これまでの作品と取り組む上で気負いや意識の違いはありましたか。

これまでインディペンデント映画を2本撮っています。映画を作るという意味においては大きな違いはなかったのですが、商業映画はインディペンデント映画に比べて、遥かに多くのスタッフと資本が投入されます。 準備により多くの時間をかけました。また、大規模なアクションシーンは私にとって初めての経験で緊張しました。

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― 本作は原作の再映画化でしょうか、それとも日本版映画のリメイクでしょうか。

ベースとなる部分は原作を中心に作りました。ただ、原作では過去と未来が混ざるような形で構成されていますが、本作は日本版と同じように主人公の登場を前に持ってきました。そうすることによって、観客が主人公の感情に寄り添い、感情移入しやすいのではないかと思ったのです。

― きっかけとなる爆破事件ですが、原作ではドローンを使って、上から爆弾を仕掛けましたが、本作ではラジコンカーを使っています。

それは直前まで悩んでいました。ドローンを使った作品は前例がたくさんあります。ラジコンカーを使うのは斬新に映るのではないかと思って変更したのです。


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― 冒頭の爆発シーンは都心部での撮影で、ご苦労も多かったと思います。

光化門で撮影が許された時間は4時間。爆破の規模は事前に何度もテストをしていましたが、都心のど真ん中で爆発をさせるのは違う。リテイクは許されません。限られた時間の中で撮るのは大変です。リスクもあり、かなりの緊張感をともないました。

― 日本版と比較して、アクションシーンがふんだんに盛り込まれ、学生時代の仲間との絆もしっかり描かれているように思いました。

ミステリーが持つ緊張感を維持させつつ、友情が紡ぐドラマをしっかり描いていく。この2つ軸のバランスを保つというのが脚本を書く上での課題でした。

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― 主人公たちがバンドで歌っていた曲にノスタルジーを感じました

46歳の若さで亡くなった韓国の天才ミュージシャン、シン・へチョルさんの曲です。この方は不慮の事故で亡くなったのですが、バンドもしていました。韓国の人々は彼の死をとても残念に思っています。
シン・へチョルさんの音楽は韓国の人にとって、いろいろな思い出がある。1人になってしまった友人に対する思いと重なるので、郷愁を呼び起こすのではないかと思って使いました。

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― 「少しぐらい損して生きてみたら?」というゴヌの言葉が印象に残りました。

そのセリフがゴヌを表しています。
少し損をして生きる。これは私たちが生きている速度感とは少し違う生き方かもしれません。しかし、「いい人でいることは罪なのか」、「ゴヌのような人物がこのような状況に置かれたとき、あなただったらその人を助けますか」と観客に問いかけたかったのです。

― ラストがオリジナルですね。

もしこれが映画ではなく、現実に起こっていたのであれば、主人公は地下下水道を抜け出すことができず、死んでしまったかもしれません。でも、観客にはハッピーエンドとして、この物語を届けたい。そう思って、このようなラストを選択しました。

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― 主演のカン・ドンウォンさんはどんな方でしたか。

韓国でカン・ドンウォンといえば大スターです。しかし、実際に会ってみると、人が良くて素朴。当たり前の日常の生活を知っています。外見が放つ華やかなオーラで隠されていますが、内面的にはゴヌに似ている部分があると思いました。ゴヌというキャラクターをよく理解してくれていたので、私が演出することはほとんどなく、撮影はスムーズに進みました。

― 国家情報院の元工作員ミン役のキム・ウィソンさんはアクションスクールに2カ月通ったとのことですが、迫力あるアクションは見応えたっぷりでした。

私からキムさんに「アクションにチャレンジしてみませんか」と強く勧めたのです。気楽にアクションできる年齢ではありませんが、キムさんはとても熱心に取り組んでいました。新しいチャレンジへの情熱と努力がそのまま画面に映し出されたと思います。

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― 今後はどんな作品を撮っていく予定でしょうか。

特定のテーマは考えていません。今の韓国を生きている人間として、同時代を生きる人たちの考えていること、悩んでいることを共に考え、共感できるストーリーを伝えたい。観客に寄り添える作品を作っていきたいと思っています。

(取材・写真:堀木三紀)