『君から目が離せない ~Eyes On You~』篠原哲雄監督インタビュー

夢を追うことの苦難とそれを克服していく逞しさを感じてほしい

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映画『君から目が離せない ~Eyes On You~』が2019年1月12日(土)~25日(金)に 2週間限定レイトショーとして公開される。
本作は篠原哲雄が監督を務め、一人の青年が役者として、男として成長していく姿を描いた。主人公の健太を演じるのは、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」やミュージカル「忍たま乱太郎」といった舞台を中心に活動している秋沢健太朗。相手役は篠原哲雄監督の『月とキャベツ』でヒバナを演じて一躍有名になった真田麻垂美が演じている。
公開を前に、篠原哲雄監督に作品の成り立ちやキャスティングについて、話を聞いた。

<篠原哲雄監督 プロフィール>

1962年2月9日生まれ、東京都出身。
大学在学中に映画の現場を経験、卒業後、助監督として森田芳光、金子修介監督らに師事。
一方、自主映画も作り始め、『Running High』(8ミリ)が89年のぴあフィルムフェスティバルにて特別賞を受賞。
93年『草の上の仕事』(16ミリ) が神戸国際インディペンデント映画祭にてグランプリを受賞、劇場公開に至る。
初の劇場映画の長編が1996年の『月とキャベツ』。以降『はつ恋』(1999年)、『昭和歌謡大全集』(2003年)、『深呼吸の必要』(2004年)、『地下鉄に乗って』(2006年)、『スイートハート・チョコレート』(2012年)、『起終点駅 ターミナル』(2015年)などがある。
『花戦さ』(2017年)が第41回日本アカデミー賞で優秀作品賞、優秀監督賞を受賞。
2018年には『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』『ばぁちゃんロード』が公開される。
最新作『影踏み』が本年公開予定。

『君から目が離せない ~Eyes On You~』
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<STORY>
劇団員の健太(秋沢健太朗)は、ヨガ講師の年上の女性、麻耶(真田麻垂美)に一目惚れする。麻耶をデートに誘うが、彼女には秘密が…。しばらくして劇団を離れていた廣畑(中村優一)がスターになって帰ってきた。役者としての夢と希望、麻耶への純粋な想いが交差する。近づけそうで近づけない恋、徐々に明かされる麻耶の過去。2人の恋の行方は? 役者として進んで行く道は?

監督: 篠原哲雄
出演:秋沢健太朗 、真田麻垂美、中村優一、田中要次、根岸季衣
音楽:山崎将義
主題歌:「Eyes On You」作詞・作曲 山崎将義 歌 山崎まさよし(EMI Records)
脚本:菅野臣太朗 岡部哲也
撮影:上野彰吾(JSC)
録音:田中靖志 日下部雅也
企画・製作・配給:アトリエパード
Ⓒ2018 アトリエレオパード
公式サイト:http://kimikara-movie.info/

★2019年1月12日(土)よりシネマート新宿にてレイトショー

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― 本作の監督を引き受けた経緯について、お聞かせいただけますか。

22年前に『月とキャベツ』という映画を撮りましたが、その作品でメイクを担当していた馮さんが今、舞台を中心に活動している秋沢健太朗くんをマネージメントしています。彼のファンのために映像作品を作りたいと頼まれて、引き受けました。

― 秋沢健太朗さんに初めて会ったときの印象はいかがでしたか。

一見、細身で繊細そうに見えました。しかし、肉体的には鍛えていて強靭。それを作品に活かしたいと思いました。性格的には威勢よく、少々調子のいいところもあるので(笑)、女性に体当たりしていく中で、それが露わになって変わっていくという様が撮れたらと思いました。

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― 冬編、夏編、秋編と1年通して撮影されているので、秋沢さんの成長が伝わってきました。

この話をいただいたとき、『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』と『ばぁちゃんロード』を控えていて、映画を1本作るだけのまとまったスパンで時間を空けることが難しかったのです。しかし、短期間での撮影ならできる。そのときにヒントになったのが韓国の『ひと夏のファンタジア』という作品でした。45分くらいの短編2つによって構成されているのですが、第一話は韓国から奈良へロケハンにきた監督が不思議な夢を見る話。第二話は若い韓国人女性と奈良で知り合った日本人青年の淡いラブストーリー。第一話と第二話は違う話ですが、同じ俳優が演じています。この作品を見たときに、いくつかの短編を連作することで、何か今までと違う映画を作れる可能性があるのではないかと思ったのです。
『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』を撮って、冬編を撮る。8月の『ばぁちゃんロード』の前に、3日間で夏編を撮る。11月は秋沢くんと僕が偶然、空いていて、スタッフも合わせてくれた。普通はこういう撮り方をしません。俳優の成長に合わせて作ったと言っていますが、実は計画的だったわけではなく、結果としてそうなった。秋沢くんの成長物語なので、彼の変化が追えて、かえってよかったと思っています。

― フィクションと現実が交錯していて、ドキュメンタルな感じがしました。

フィクションとドキュメンタリーの兼ね合いという意味では、秋沢くん自身がちょうど、この作品が始まったころに舞台でも主役をもらったのです。そこで、主役に上り詰めている途上であるという本人の設定を劇中に活かしました。
真田さんもかつて映画に出ていて、『心に吹く風』で女優に復帰したばかり。ヨガの先生も本当にやっています。作品では舞台という形は取っていますが、女優に復帰するという意味では同じ。真田さん本人の現実を活かしています。
リハーサルを繰り返しながら、健太と秋沢健太朗、麻耶と真田麻垂美は次第にリンクしていきました。名前が似すぎていたかもしれませんが、見た人が「これ、現実なの? フィクションなの?」と思うところが面白いのではないかと考えました。

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― 脚本は菅野臣太朗さん、岡部哲也さんのダブルクレジットです。ストーリーはお二人と相談して作られたのでしょうか。

秋沢くんが菅野さんの舞台に出ていて、元々2人は仲がよかったのです。その繋がりで、菅野さんが「映画の脚本に興味がある」と言っていたのを覚えていた馮さんが「自主制作なので脚本を書いてみませんか」と誘いました。僕と馮さんでアウトラインを作っていたころのことです。
演劇をやっている方の脚本でどうできるか。自分にとっては未知数でしたが、菅野さんが持っているコメディリリーフ的なストーリーの作り方に興味があったので、最初の本を書いてもらいました。
ところが、僕の目指すものと少し違っていました。言葉のやりとり1つ取っても、演劇と映画の差異が生じてしまったのです。映画の場合、現実にあるかのようなリアリティを求めてしまうところがあります。菅野さんの本はやりとり自体の面白さを目指していて、かなり脚色がされていました。しかし、それは映像のワンカットの中では活きません。それで修正をする必要がありました。しかも、二話目、三話目になると『月とキャベツ』の色が濃くなり、菅野さんには分からない世界が出てきてしまったのです。
とはいえ、僕は『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』と『ばぁちゃんロード』が重なって、身動きが取れない。偶然、助監督の岡部くんの時間が空いていたのです。こちらの要望を伝えた上で、岡部くんのアイデアを加えてもいいよということで、映画的にまとめて直してもらいました。それで脚本は菅野さんと岡部くんのダブルクレジットになっています。

― 今のお話に岡部さんへの信頼を感じました。

岡部くんは『歯まん』(2019年3月2日(土)よりアップリンク渋谷にて公開)がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015「オフシアター・コンペ部門」で北海道知事賞を受賞していて、既に作り手の人です。助監督をしながら自主映画を作っているのは、『草の上の仕事』を撮っていた頃の僕と重なるものがありました。そういう意味でこの作品に関わってもらったのですが、作品を通しで演出部として関わってくれたのは彼だけでしたし、助監督としも最小限の人数でやれたのは彼のおかげだと思っています。

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― 秋沢さんの相手役を真田麻垂美さんにお願いしたのはどうしてでしょうか。

真田さんはアメリカに行き、俳優業ではないことを始めたと聞いていたので、もう女優と監督という立場で仕事をすることはないだろうと思っていました。ところが帰国して、『月とキャベツ』の後に撮った『きみのためにできること』の同窓会で顔を合わせたので、この作品のことを話したら、「ぜひ参加したい」と言ってくれたのです。
『月とキャベツ』当時の真田さんはまだ若かったので、事務所に守られている存在でした。それが20年経ち、自分のセルフイメージを自分自身でコントロールできる立ち位置になったんだなあと感じました。

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― 真田さん以外にも、キャストとして田中要次さん、スタッフとして撮影に上野彰吾さん、録音に田中靖志さんと、『月とキャベツ』のキャストやスタッフが再結集していますね。

8ミリの『ランニングハイ』や1993年の『草の上の仕事』から1998年の『きみのためにできること』までの、僕の初期の頃の作品は上野さんと組んで撮っています。今回はその頃の、ある意味、現場で起きる即興演出的な要素を大切にしていく撮り方をしたかったので、上野さんにお願いしました。プロデューサーの馮さんも『月とキャベツ』の人です。われわれが組むということならば参加しようと田中要次さんも録音の田中さんも参加してくれました。
山崎まさよしさんが音楽で関わってくれたのは大きかったですね。「麻垂美ちゃんが出るの! 馮さんがプロデューサー! じゃあやるよ」と引き受けてくれました。

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― 山崎まさよしさんは書き下ろしの主題歌「Eyes On You」を提供しています。監督はどのようなイメージで依頼されたのでしょうか。

日本映画における主題歌はどこかタイアップ的なことで使われたりする要素もあります。この作品ではそういう必要もなく、純粋に映画の内容に即した主題歌を作れるという意識が強かったのです。山崎さんもそこを理解して、音楽も主題歌から逆算して作曲してくれました。
『月とキャベツ』は音楽を通じて挫折から再生を描く映画でしたから、やりやすかったのですが、今回は映画のラッシュを見てもらってから、主人公の心理に合わせて曲を作ってもらいました。「Eyes On You」というフレーズはこちらから提案しました。

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― 監督ご自身も劇団の演出家役で出演しています。

最初は菅野さんにお願いするつもりでしたが、現場に来れないということが分かって、僕がすることになりました。最初から出演することを意図していたわけではありません。秋沢くんをどう引き立たせるかということにも関わっているので、結果として、よかったと思います。
監督という仕事は俳優を動かすこと。俳優的な要素が監督にも必要です。
橋口亮輔監督が『二十才の微熱』という作品で、袴田吉彦くんと遠藤雅くんが演じる2人のゲイの男の子を操縦する客の役で出ていました。監督が出演しながら演出するということは、他の監督ではないこと。少なくとも、僕がついた森田芳光監督や金子修介監督はご自身が出るというスタイルはされていなかった。僕は『二十才の微熱』に助監督で関わっていて、橋口監督がどういう風に俳優を導きたいのか、よくわかりました。
この経験が意識の中にずっとあったのだと思います。それで、菅野さんの代わりに僕が出て、秋沢くんがどういう風に劇団の中で主役になっていくのかを、ストーリーの中に織り込んでみました。

― 監督のセリフがアドリブのように聞こえました。

僕の役は台本にセリフが書かれていません。書かれているのは「健太が演出家に怒られる」といった流れだけ。その場に応じてセリフを言っていました。普通の芝居の作り方とはちょっと違う。エチュードをやっているような感じです。
本番の時はこうしようと決めていましたが、リハーサルでは毎回、違うことを言っていました。そうしないと飽きちゃうんですよ。他の人もリアクションが固まってしまう。どういう演出をしようか、考えながらセリフを言っていました。だから、あれは僕でないとできません。今になってみると、もう少し計画性があってもよかったかもしれないとちょっと思っています(笑)。

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― 最後に、これからこの作品をご覧になる方に向けて、ひとことお願いいたします。

俳優として一人前になろうとしている男の成長物語であると同時に、年上の女性に惹かれる恋の話でもあります。若い人たちにとって、等身大に感じられる作品だと思います。秋沢くんの姿を通して、夢を追うことの苦難とそれを克服していく逞しさを感じてもらえるとうれいいですね。
また、最近は企画ありきで監督することが多く、ここ数年、初期衝動に駆られて映画を作るということができていませんでした。自分から発想した話ではありませんが、久しぶりに制約をされずに作りました。僕のこれまでの作品を見てきた人でも、何か別の要素を見出せる可能性があります。そんな意味でも楽しんでいただけたらと思います。
(インタビュー:堀木三紀)