『バイス』公開記念 映画評論家・町山智浩氏トークイベント

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アダム・マッケイ監督作『バイス』はジョージ・W・ブッシュ政権(2001~2009年)で副大統領を務めたディック・チェイニーの驚くべき裏側を描いた前代未聞の実話。チェイニー役をクリスチャン・ベールが演じるほか、チェイニーの妻役にエイミー・アダムス、ラムズフェルド国防長官役にスティーヴ・カレル、ブッシュ大統領役をサム・ロックウェルが演じて脇を支える。
アメリカ在住ジャーナリストで映画評論家の町山智浩氏は本作をアメリカで観て、アダム・マッケイ監督、クリスチャン・ベール、エイミー・アダムスにインタビューを行った。果たして、アダム・マッケイ監督は『バイス』でチェイニー副大統領をどう描いたのか。
公開に先立ち行われた試写会に、ディック・チェイニーの等身大と思われるパネルを抱えて町山智浩氏が登場。「この映画は登場人物が100人超えるんです。『この人、誰?』とわからない人がいても当然。俺もわかんないですよ。一瞬だけそこにいる、名前も解説されない人が実在の政治家だったりする映画です」とざっくばらんな語り口で作品を徹底解説した。

『バイス』原題:VICE

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<ストーリー>
「バイス」:バイス・プレジデント(副大統領)を指すだけでなく、“悪徳”や“邪悪”という意味もこめられている―ワイオミングの田舎の電気工から“事実上の大統領”に上り詰め、アメリカを自在に支配し、アメリカ史上最も権力を持ったチェイニー副大統領の姿の前代未聞の裏側を描いた社会派エンターテイメント!

監督・脚本:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェル
日本語字幕:石田泰子
字幕監修:渡辺将人
提供:バップ、ロングライド 
配給:ロングライド
2018年/アメリカ/英語/シネマスコープ/5.1ch/カラー/132分
公式サイト:http://longride.jp/vice/
© 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.
★2019年4月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー

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アダム・マッケイ監督が戦争を予言していた!

アダム・マッケイは元々お笑いの人。即興お笑いコント劇団みたいなところでギャクを書いて、自分も演技をしていました。その後、テレビのお笑いバラエティ番組「サタデーナイトライブ」で作家になり、ちょっと演出もするうちに、ウィルフェレルと知り合って彼の映画を作るようになりました。ここから監督に転身。『タラデガ・ナイト オーバルの狼』を監督して、そこから『俺たちニュースキャスター』など、段々と政治的なものを描くようになっていきました。
『俺たちニュースキャスター』は70年代のニュースキャスターの話ですが、アメリカでも当時は女性がニュースキャスターをするのはとんでもない時代。みんなで追い出そうとする様子を描いています。ついこの間のことで、アメリカも短い間に世の中が変わったことがわかりますね。
「サタデーナイトライブ」は1週間に起こった政治関係のニュースをコメディアンが政治家に扮して事件そのものをコントで見せます。ディック・チェイニーのこともイラク戦争が起こる前に、茶化しています。
ブッシュとゴアのどちらが大統領になるかを争っていた2000年の頃、チェイニーは副大統領候補としてブッシュと一緒に出ていたので、コメディアンがチェイニーのフリをして出てきて、「ブッシュが大統領になったら戦争を起こすからな!軍需関係の株を買っておけよ」と言うんです。911テロの前、2000年ですよ。予言が当たったんです。アダム・マッケイすげえと思いました。

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ルアーとナレーターが作品を象徴

ルアーが何度も出てきますね。あれはフライフィッシング。餌をつけないで、ルアーを動かして、餌のふりをして魚を釣る。911テロの黒幕はイラクではありませんでした。911でブッシュや国民を釣って、イラクを攻撃させた。「ブッシュを魚扱いかよ」と思いますよね。ルアーはチェイニーが国民やブッシュを釣る男の象徴です。
カートさんは中産階級の白人で都会に住んでいない。オフィスワーカーではなく、ブルーカラー。でも、真面目な人で、戦争が起これば自分から戦争に行く。共和党の典型的な支持者で、ブッシュに投票し、トランプに投票した人です。
でも、支持したブッシュ政権によって、散々な目にあっていきます。肉屋を支持する豚という話ですね。彼のハートをチェイニーがもらう。チェイニーは今、自分のハートがありません。アメリカの真面目で愛国心のある典型的な国民のハートを奪ったのです。

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なぜ、副大統領を主役にしたのか

副大統領を主役に映画を撮るのは前代未聞。チェイニーは頭のいい人だと思われがちですが、この作品を観ると、あまり頭が良くないことがわかります。イエール大に入りましたが、成績不良で叩き出される。その後、ワイオミング大を卒業していますが、イエール大は全米3位の名門校。ワイオミング大は183位。完全に挫折人生です。
ところが副大統領になり、湾岸戦争、イラク戦争と2回も戦争を起こしました。合計の死者数はものすごい。ブッシュとチェイニーが組んで、選挙に出たけれど、誰もチェイニーに入れたつもりはないでしょう。誰も投票していない人がアメリカを引っ張って戦争を起こしてしまった。なぜそんなことになったのかとアダム・マッケイ監督が思って映画にした話です。

4月5日(金)全国公開『バイス』アダム・マッケイ監督_インタビュー映像


クリスチャン・ベールの役作りは意外なところで役にたった

チェイニーを演じたのが、クリスチャン・ベール。これまでもクリスチャン・ベールは『マシニスト』ではがりがりになり、『バッドマン ビギンズ』で筋肉もりもりになって、シャブ中の役を演じた『ザ・ファイター』ではまた、がりがりに痩せ、その後、『アメリカン・ハッスル』でぶくぶくに太っています。痩せたり太ったりを短期間で繰り返して大丈夫なのか。インタビューで聞いてみました。

4月5日(金)全国公開『バイス』クリスチャン・ベール_インタビュー映像


チェイニーが心臓麻痺になった演技をするため、心臓外科医にいろいろな話を聞いて、研究したところ、「俺がやっていることが一番まずい」とわかったのでやめると言っていました。
実はこの作品の撮影中にアダム・マッケイが心臓を悪くして倒れたんです。そのときに、クリスチャン・ベールが「俺、何でもわかるから」と言って、助けたそうです。役者って勉強するんだなと思いましたね。彼が話すには、心臓が苦しくなると胸を押さえて倒れるというのは嘘で、腕がおかしくなるらしいです。それで、本作でもそういう演技にしたといってます。
役者ってみんな物知りですよ。その役のことを徹底的に研究するから。アダム・マッケイはそのお蔭で助かったとクリスチャン・ベールが言っています。チェイニーのおかげで助かってんじゃん。

チェイニーを真似するときのポイントは?

チェイニーはいつも口を曲げているんですけど、映画で見てみると最初の方は曲げていません。実際にも昔は曲がっていなかったようです。政治家をやっているうちにどんどん曲がってきた。クリスチャン・ベールはそれを「防衛本能とか何らかのサイコロジカルに彼自身、抑圧があるから、それが押さえきれずに曲がっていくのだろう」と分析していましたが、俺はかみさんが原因だろうと思いますね。もともと政治に興味がなかったチェイニーを奥さんが無理やり政治家にしたのです。本当はワイオミングで釣りをしたり、鳥と間違えて人を撃ったりしている方が楽しいでしょうね。それをなんでワシントンなんかで暮らさなきゃいけないんだという気持ちから、どんどん口が曲がっていったと思います。

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町山によるエイミー・アダムス評

エイミー・アダムスはこの作品の撮影と同じ頃に、「KIZU-傷-」というテレビドラマに出ていました。そちらのキャラクターはリンと全く逆で、母親から虐待を受けていたことでトラウマを抱えている弱いヒロイン。身体じゅう自傷癖で傷だらけになっています。それと同時期に国を操っているマクベス夫人を演じている。「全然キャラが違うのによくできましたね」といったら、本人も「大変だった」と。女優としてすごいですね。『ザ・マスター』(2012年)ではサイエントロジーという宗教団体の教祖を操っていた奥さんをやり、『バイス』ではディック・チェイニーの奥さんをやって、スーパーマンの奥さんも片手間でやっていますからね。大変な人だと思います。

4月5日(金)全国公開『バイス』エイミー・アダムス_インタビュー映像


リン・チェイニーがイラク戦争のきっかけを作った?!

娘が2人いて、1人が本当にレズビアンです。もう1人の娘が保守的な支持層を集めようとしているときに、同性婚に反対するという道を選んだのはチェイニーではなく、この人。自分の娘がレズビアンで同性婚をしたいと言っても、政治のために否定する。怖い人。普通できませんよね。それでどういう人かわかります。ちなみにコロラド大学主席なので、頭は本当によかった。ただ、ワイオミング出身なので、自分がそこから政治家になるというのは思想的にできなかった。自分の娘にはさせていますけれどね。
これまでみんな、ブッシュは操り人形で、ディック・チェイニーが操っていると思っていました。ところが、この作品では「いや、ディック・チェイニーも操り人形だよ」となっています。エイミー・アダムスがインタビューで最初にリン・チェイニーは悪い人だと思わないと言っていますが、リン・チェイニーの目的は国を操ることではありません。自分が政治家になることができなかったので、夫を通じて自己実現したいという個人的な理由でした。それが、巡り巡って大戦争が起きてしまった。とんでもない話だと思います。その辺りはオリバー・ストーンが撮った『ブッシュ』では、ブッシュは父親への対抗心、コンプレックスで戦争を起こしてしまったと精神分析しています。どちらも個人的な理由で戦争を起こしたとしているわけですね。しかも、ディック・チェイニーは国防長官もやっていますが、ベトナム戦争のとき、戦争から逃げているんです。軍事経験がまったくない男がアメリカを使って戦争を起こしてしまうという。とんでもない話ですね。

ブッシュを演じたサム・ロックウェルがそっくり!

もともと似ていましたが、あの顔真似がすごいですよね。ハの字眉毛と(顔真似しながら)口がこんな感じ。これのブッシュ感がすごい。またサム・ロックウェルが意地悪だから(笑)、バカみたいにやっている。でも、ブッシュはイエール大学を卒業して、ハーバード大学のビジネススクールも出ています。チェイニーより頭がいい。バカにすんな(笑)と思いましたけれど。とにかく、メチャクチャ似ていておもしろい。

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アダム・マッケイ監督のトランプ大統領への評価

ディック・チェイニーがラムズウェルに「思想とか信条とか、そういったことで信じていることはあるんですか」と聞いたら、「信じていること、いいね、そのギャグ」というシーンがあります。本当はそんなこと、言っていないでしょうから、いろいろなところで面白く作っているなと思いますね。
アダム・マッケイはトランプ大統領のことはそんなに嫌いじゃない。インタビューで、トランプが大統領になったことで撮った映画なのかと聞いたら、「そうじゃない。トランプの方がましだ」といっています。
トランプは戦争しない。世界から軍隊を撤退させる方向に向かっている。最初に出てきたときに、“アメリカが韓国や日本、NATOを助けるのはおかしい。お金や軍隊をなぜアメリカが負担しなきゃならないの”と言って、トランプは右からも左からもある一定の支持を集めました。トランプは国際安全保障についてよくわかっていないのですが、アメリカ第一主義だからいいんですよ。世界で誰が死のうが、アメリカと関係ないというモンロー主義です。アメリカが世界の警察になっていったのは、国際連盟を創設したウッドロウ・ウィルソン大統領が世界の平和に対して、世界一豊かなアメリカは何らかの貢献をすべきだと言い始めたことがきっかけです。それまでは世界で何が起ころうと知ったこっちゃないというスタンスでした。トランプはそこへ戻っているし、アダム・マッケイはそれでいいと言っている。アダム・マッケイは“アメリカは関わるべきではない”という立場なんです。

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アメリカでアダム・マッケイ監督が受けている批判は?

チェイニーはハリバートンという会社でCEOをやっていました。ハリバートンは戦後復興のための仕事を政府から受注しています。株主でもあるチェイニーは、自分が儲けるためにイラク戦争を起こしたことが作品から見えてきますが、この映画では戦争の理由をそれしか描いていないとアダム・マッケイは非難されています。
ポール・ウォルフォウィッツ、ジョン・ボルトンが出てきますが、彼らはシオニストで、イスラエルの安全保障を重要視しています。そんな彼らにとって大事なのは、イラクにイスラエル以外に親米国家があること。イスラエル以外は全部、反イスラエルなので、他の親米国家が欲しくて、イラクを攻撃したと、ちょこっとだけ出てきますが、その部分が強調されていないと批判されています。

「アメリカ」という曲が最後に流れるのはなぜか

この曲は『ウェスト・サイド・ストーリー』で、プエルトリコ系の女性が“アメリカは最高”といい、男性は“ひどい目に合って、差別されている”と掛け合うシーンで歌われます。金持ちばっかり優遇され、苦労するのはカートのようにアメリカを真面目に信じ、政治家のいうことをただ聞いて、戦争があるといわれれば、それが全然意味のないものであっても、信じて行くような不公平なことが行われているということを意味しています。

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法律の研究家が水攻めを肯定?

チェイニーは水攻めや拷問について、若い韓国人の法律専門家に、大丈夫かどうかの理論を組み立てさせました。なんで、彼がいいと言っただけでよくなるのか、わからないですが、水攻めは拷問に当たらないという言葉の言い換えをしていきます。
それまで水攻めは拷問だったのですが、その後、表現をちょっと変えて、強化された尋問としました。板の上に寝かせて、頭の方を少し下げて、そこに水を掛けるのが水攻め。そのまま続けても死なない。だから拷問ではない。尋問がちょっと強くなっただけとしたんです。
最近、ユダヤ系のイギリス人俳優のサシャ・バロン・コーエンが「WHO IS AMERICA」というどっきり方式の番組で、モサドという名のイスラエルの秘密警察の人のフリをして、ディック・チェイニーに会いに行き、「あなたがイラクに攻め込んでくれて、イスラエル人、感謝しています」とでたらめな訛りで話していました。サシャ・バロン・コーエンは実はユダヤの言葉を話せるんです。
で、サシャ・バロン・コーエンがメイクしているから、チェイニーはサシャ・バロン・コーエンだとは気が付かないんです。サシャ・バロン・コーエンは水を入れるポリタンクを持って行って、「あなたの大ファンです。特に水攻め最高です!」といって、ポリタンクにサインを頼むと、チェイニーが喜んでサインしていました。全然、悪びれていない。釣り師が釣られましたね。その番組を見たアダム・マッケイは「サシャ・バロン・コーエンはすごい」と言っていました。テレビ番組で政治家を騙して、バカなことをやらせるなんて、日本では誰もやらない。言わせなくてもバカなことをいいますけれどね。

政治家批判の映画を日本で作れるか?

日本で政治家を実名にした映画を作れますか? 口が曲がっている人、いますけれど。やらないでしょ、法律で禁じられていないのに。「アメリカはこれを作って大丈夫なの?訴訟とあるんじゃないの?」って思いません? アメリカではこんなことで訴訟を起こしたら恥ずかしいからやらないですよ。だってこれ、映画ですから。言論に対するひどい弾圧になってしまいます。でも、いくらでもネタがあるのに、日本では誰もやらない。日本人は腑抜けばっかりです。
「サタデーナイトライブ」では毎回、政治家の真似をコメディアンがやっていて、トランプ大統領は毎週出てきます。いつもアレック・ボールドウィンが演じているので、アレック・ボールドウィンのことをトランプだと思ってる人も多いと思いますよ。アメリカ人は昔の映画を見ないから、アレック・ボールドウィンが昔、イケメンだったと言っても若い人は信じないでしょう。昔はイケメン俳優としてキム・ベイシンガーと結婚していたというと、「嘘だ」といわれますよ。

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最後はアダム・マッケイ監督のインタビュー映像で町山はトークイベントを締めくくった。
「一つ言えるのは“権力を疑え”ということだ。監視を怠れば政府は暴走する。国の危機に陥り崩壊するだろう。政府に動きがない時も自分のすべてを懸けてでも疑わなければダメだ。時には仕事を失い、恥をかくかもしれない。でも歴史が証明してくれる。最終的には、あなたが正しいことをね」
(取材・構成:堀木三紀)

『記者たち 衝撃と畏怖の真実』 ロブ・ライナー監督来日記者会見

『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』『最高の人生の見つけ方』などの大ヒット作をはなってきたロブ・ライナー監督。リンドン・B・ジョンソン大統領の伝記映画『LBJ ケネディの意志を継いだ男』を経て完成させた本格的な社会派ドラマ『記者たち 衝撃と畏怖の真実』の公開を前に、初来日されました。

2019年2月1日(金)14:45~16:00
会場:FCCJ 公益財団法人 日本外国特派員協会
(東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビル5F)


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登壇者:左からロブ・ライナー監督、ダン・スローンFCCJ理事、ケン・モリツグ氏


『記者たち 衝撃と畏怖の真実』
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2003年3月20日のアメリカによるイラク侵攻。その理由の一つ「大量破壊兵器の所持」が、ねつ造だったことは今や明白だ。
だが、2001年9月11日の同時多発テロ後、ジョージ・W・ブッシュ大統領が愛国心をあおった結果、多くのアメリカ国民が、テロの首謀者であるビン・ラディーンとイラクのサッダーム・フセイン大統領が手を組んで大量破壊兵器を開発しているというマスメディアの報道を信じて疑わなかった。
そんな中、中堅の通信社ナイト・リッダーの記者たち4人は、政府の流す「大量破壊兵器所持」情報がねつ造ではないかと真実を追い求めた・・・
★2019年3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
作品紹介


記者会見

◎ロブ・ライナー監督
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◆嘘を根拠に戦争に突き進むことに怒り
今日はお招きいただきありがとうございます。アメリカのプレスよりも、アメリカ以外のプレスからの質問の方が面白いので期待しています。
ベトナム戦争のとき、徴兵される年齢でした。2003年、イラク侵攻に至る過程で、なぜこんなことが起きているのだろうと怒りを感じながらみていました。ベトナム戦争と全く同じように嘘が根拠になって戦争になるのは、なぜ?という疑問、そして、なぜ止められないのか?という思いから、この映画を作ろうと思いました。
世界中で抗議活動が起こって、私も妻とデモに参加しました。子どもが道路に飛び出して車にひかれるのがわかっているのに、それを止められないという無力な気持ちでした。

政府は、9.11同時多発テロ事件とサッダーム・フセイン大統領は何の繋がりもないのに、大量破壊兵器を保有しているのが見つかったという嘘をでっち上げました。
嘘だとわかっているのに、なぜ戦争を止められなかったのか・・・と、心を悩ませました。
当時のイラク侵攻は、9.11事件が起こって一般市民が恐怖心を持っていたのを当時の政権がうまく利用して、自分たちの目的のために使いました。

◆健全な民主主義は、独立した自由なメディアなくしては成立しない
元々ネオコンのシンクタンクが作った「米新世紀プロジェクト」の中で、ソ連崩壊後、スーパーパワーであるアメリカがどう自分たちの力を使えばいいのかを提示していました。9.11事件の起こる前に作られたものですが、その中で、すでにイラク侵攻が決められていました。

頭を悩ませてしまうのは、「米新世紀プロジェクト」に関わった人たちが決して知性がなかったわけではなかったけれど、あの地に西欧的民主主義を植えつければイスラエルを守ることができて、中東が安定するのではと考えていたことです。
そもそもフランスや英国が第二次世界大戦後に介入したけれど、シーア派、スンニー派と宗派も分かれ、民族も多様で、そういう地に西欧的民主主義を持ち込むのは無理だとわかっていたのに、政府は目的のために、国民の不安をあおって戦争に突っ走りました。
私としては、なぜアメリカの一般市民がこんなにも政府のつく嘘を鵜呑みにしたのかが検証したいことでした。

映画にする時、『博士の異常な愛情』のような風刺劇にするか、ドラマにするか、あれこれ考えましたが、いずれもうまくいかない。リンドン・ジョンソン米元大統領の報道官だったビル・モイヤーズのドキュメンタリーを観て、今回題材にしたナイトリッダーの記者たちのことを知りました。彼らは真実を知って一般市民に届けようとしたのに、皆に知らしめることができなかった。それはなぜなのか?が映画の基盤になりました。
映画の冒頭にも掲げた「健全な民主主義は、独立した自由なメディアなくしては成立しない」が作品を作った理由です。

◆トランプ大統領の登場で今に届く作品に

製作当時は、現代に響く作品になると思っていませんでした。トランプが当選して大統領になって、「メディアは民衆の敵。フェイクニュースを流している」とメディアを攻撃しています。彼のやり口は、権威主義的で、独裁政治そのもの。恐怖心を一般市民に植え付け、混乱させ、解決できるのは自分だけだと主張するものです。プーチンも同じ手口です。
独裁主義と民主主義の闘いのテンションが高まっている今こそ、ジャーナリズムが真実を伝えていかなければいけないと考えています。


◎ケン・モリツグ氏

映画を作ってくださって、ありがとうございます。
ナイト・リッダーで記者として働いていたので、胸の熱くなるような思い出が蘇りました。2003年当時には、ワシントンにいました。知られざる勇気ある記者たちの姿を伝えてくれたことに大きな意義があると思いました。
当時、このような記事が出ていたことを知らない人が多いのです。真実を伝えたくない政府が存在する中、ジャーナリズムは民主主義の為に真実を伝える必要があります。
私は安全保障ではなく、経済部に所属していて、2001年9月11日には、経済関係の会議があって、ニューヨークにいました。そのため、9.11同時多発テロの取材もすることになりました。
4人の記者がフラストレーションを持って、一生懸命いい仕事をしていたのに、彼らの声は誰の耳にも届かなかった。地方紙30紙には記事を送ってリアルな状況を伝えていたけれど、影響力のない新聞だとワシントンの権力者には届きません。
わくわくするような激動の時代でした。どんどんイラク侵攻を実行する雰囲気が色濃くなってきた時、「イラクに侵攻するとは信じられない」と言ったら、ワシントン支局長のウォルコットさんから「信じなさい、これから実際に戦争になるから」と言われました。
*注:ワシントン支局長のウォルコット氏を、映画の中ではロブ・ライナー監督が演じています。

◎質疑応答
― 日本は報道の自由が2011年に11位だったのが、阿部政権のもと、67位に下がりました。日本で、この映画はどのような評判になると感じていますか?
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監督:アメリカ以外で、自分が実際に反応を感じることができたのは、チューリッヒとドバイの映画祭と日本です。3カ国ともいい反応です。アメリカ国内よりも、国外にいらっしゃる方のほうが何が起きていたのかクリアーに把握し、イラク侵攻は間違っていると抗議活動も起こっていました。アメリカ国内では、まだ9.11のトラウマを抱えていて、メディアも政府に対して批判的なことをいうと非愛国的だとみられるのではと感じていると思います。日本での反応はいいものになると確信しています。自由な国として、この作品を認めてくださると思っています。

― ホワイトハウスから現実をゆがめるような発信が多いので、メディアの正当性が失われつつあると、監督はある番組で発言されていました。現政権に対する現在のメディアのスタンスは、2003年当時の状況と比べていかがでしょうか?

監督:トランプ大統領が当選して、国営メディアとも呼べるようなメディアがある一方、政府に対して反論しているCNNやワシントンポスト、ニューヨークタイムズといったメディアも存在しています。両方が存在している状態だと思います。
2003年とどう変わったか・・・ それが真実かどうか、きちんと精査されていなかったと思います。とはいえ、2016年の大統領選でも同様だったと思います。
アメリカのテレビ局CBSの社長が、「国のためにトランプはよくないけれど、CBSためには良い」と発言しています。つまり金儲けに繋がるということです。
今もトランプが取り上げられることが多いのですが、民主主義が崩壊しかねない存在として観ている場合と、単純に売れるから記事にするという場合があります。後者の場合でも、究極的に真実が市民に届くのであれば意義はあると思います。
1960年代以降のニュースがどんなものであったかを思い起こしてほしいと思います。それ以前は収益に繋がらなくても、公益サービスの一つとしてニュースは存在していました。1960年代に「60minutes」というCBS放送のドキュメンタリー番組が誕生して以降、ニュースが収益性に繋がっていき、プレゼンの仕方にシフトしていって、一つの商品のようになったように感じています。それでも、真実にたどり着くのであればいいと思ってはいます。
ただ、報道機関が大企業の傘下にどんどん入っているという状況があります。気を付けなければいけないのは、報道機関が独自性を持ってニュースを伝えているかどうかです。
あるコメディアンがメディアに向かって、「皆、トランプのことが嫌いというけど、ほんとは大好きでしょう。だって金儲けさせてくれるから」とジョークを飛ばしていました。このことをトランプ氏もよく知っています。まさに、ホワイトハウスにリアリティ番組のスターがいるような状況です。メディアは彼のことをどんな風に報道していいか模索している段階です。見たいメディアしか見ない人たちに、どう真実を伝えていくかが大事だと思います。

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最後の質問は、ケン・モリツグ氏から
ー近年は『スポットライト 世紀のスクープ』や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のような報道の真実について描いた作品が続いていますが、こういったジャンルの映画が確立されてきていると思いますか?

監督:それはどうでしょう。観客はひたすらキーボードを打つ人の姿を映画で観るより、爆発シーンを観たいのでは? でもこういった映画が真実に光を当てることができるのであれば、それは素晴らしいことだと思います。

**★***★**
NHK BS1 3月22日(金)の「キャッチ! 世界のトップニュース」”映画で見つめる世界のいま”で、東京大学大学院教授 藤原帰一さんがロブ・ライナー監督にインタビューしていた中での発言を引用しておきます。

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市民が真実から切り離されていたら悲劇が起こります。
自由で独立したメディアがいかに大切かを語っています。
同時多発テロとイラクは全く関係なかったことをメディアはちゃんと伝えませんでした。
事実が明らかになった後でもアメリカの75%の国民は、サダムがテロと関係していたと信じていました。それこそプロパガンダの力です。
アメリカ以外の国では、この映画を理解してくれました。
アメリカでもいい反応も得られましたが、気に入らないという人も多く、反愛国的映画だと思われました。
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一度植えつけられた情報は、なかなか変わらないことを物語っています。
サッダーム・フセインは独裁者で悪魔、だから処刑されて当然と思われています。
擁護するわけではありませんが、サッダーム・フセインが大統領だった時代、イラクでは教育も行き届き、女性も社会で活躍していました。
様々な勢力がせめぎ合い、未だに落ち着かないイラクを見ていると、部外者のアメリカの勝手な思惑で、気に食わない独裁者を倒した後のことも考えずに侵攻したことに憤りを感じます。

そして、このイラク侵攻、お馬鹿なジョージ・W・ブッシュ大統領を裏で操り、実行させたのがディック・チェイニー副大統領。
その悪名高き副大統領を描いた映画『バイス』も、4月5日(金)からTOHOシネマズ 日比谷他で全国順次公開されます。
ぜひ、『記者たち 衝撃と畏怖の真実』とセットでご覧ください。 

   取材:景山咲子

第60期日本映画ペンクラブ 授賞式

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今年で設立60周年となる日本映画ペンクラブ。
映画を愛し、評論・報道・出版・放送・制作・マルチメディアなど様々な分野で映画に関する仕事に就いている方たち約160名の会員が選んだ、2018年度の日本映画ペンクラブ賞等の授賞式が開かれました。

期日:2019年3月12日(火) 午後6時より
会場:コートヤード・マリオット銀座東武ホテル
司会:宮内 鎮雄氏(元TBSアナウンサー)


まずは、日本映画ペンクラブ代表の渡辺祥子さんによる開会の辞。
映画少年、映画少女の頃の気持ちで今も映画になんらかの形で携わっている、まさに映画好きの会員たちが選んだ賞であることを強調されました。

◆2018年日本映画ペンクラブ賞
 独立行政法人 国立美術館 国立映画アーカイブ


*授賞理由*
2018年4月 独立行政法人 国立美術館・映画専門機関「国立映画アーカイブ」は、これまでの東京国立近代美術館フィルムセンターから改組され、新たな位置づけで設置された。フィルムセンターは、これまでも映画の収集・保存・公開・活用を行ない、映像世界に多大な貢献を行ってきたが、装いも新たに、「映画を残す、映画を活かす。」を主要ミッションとし、日本の映画文化振興のためのナショナルセンターとして、一層の機能強化を目指すとされる。一般映画ファンから研究者まで 多くの人々のための、自由で柔軟な映像文化の中核機関としての充実と今後への期待を込めて。

村川 英さんより花束贈呈

京橋フィルムセンターと呼ばれていた学生時代から、ほんとにお世話になりました。
先人たちが苦労して作り上げた結果をよく存じております。
大学で教えるようになってからは学生を連れてよく参りました。
今後も是非、映画界の拠点となって、いい意味で私たち映画人を鼓舞していただければ大変ありがたいと思っております。

受賞者:独立行政法人 国立美術館 国立映画アーカイブ 田島尚志館長
由緒ある名誉ある栄えある賞をいただき、国立映画アーカイブを代表して心より感謝申し上げます。大きな励みとなる賞だと思っております。デジタルの時代になり、フィルムかデジタルか、保存か未活用なのかなど二者択一を迫られる大変な時代になりました。

「チャップリン」の著書で有名な映画史家デイヴィッド・ロビンソンが、ある雑誌の中で、「野兎と一緒に走ることと、猟犬と一緒に兎を追いかけることは同時にはできない、二つのことを一緒にできないならば、まず保存せよ」と述べていて、大変感動しました。保存と未活用を同時にやらなければいけない大変難しい時期にきております。そのことを映画のジャーナリストの皆さんが理解してくださって、我々の励みになるような今日の賞をくださったと理解しております。

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写真左端:田島尚志館長



◆2018年日本映画ペンクラブ賞 特別功労賞
 字幕翻訳・プロデューサー ショーレ・ゴルパリアン


*授賞理由*
イラン出身 1979年初来日。「友だちのうちはどこ?」(アッバス・キアロスタミ監督)以降イラン映画の普及に尽力、多くのイラン映画の日本ロケも実現させる。その一方 山田洋次作品や「北の国から」シリーズなど、日本映画のイランへの買い付け・紹介も行い、その功績から2018年には外務大臣表彰を受ける。くしくも日本・イラン外交樹立90年を迎える2019年。その長年の功労に対して。

推薦者である齋藤敦子さんより花束贈呈
字幕の翻訳をやっておりまして、最初にイラン映画の翻訳をやったのは、キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』と『そして人生はつづく』の2本でした。その時はまだショーレが関わっていただけなくて、大変苦労しました。その後、ショーレが発見されまして、キリスト教以前と以後という区分がございますが、日本の映画界では、ショーレ以前と以後では、がらっと変わりました。こんなにたくさんのイラン映画が日本で観られるようになったのは、すべて彼女のお陰だと思っています。ありがとう。

受賞者:ショーレ・ゴルパリアンさん

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心から皆さんに感謝しております。この会場には、様々な形で仕事をした方たちがいて、齋藤さんをはじめ皆さんとお会いできて嬉しいです。
日本には、33年ほどいます。5歳の時にママがくれたペルシア語に訳された日本の昔話を読んで、絶対日本の侍の嫁になりたいと思って、日本に行きたいと思いました。20歳の時、日本に行こうとしたら、お母さんから「もっと近い国はないでしょうか?」と言われましたが、日本に来ました。日本に来たら、日本の人がイランのことをあまり知らないとわかりました。イランでは、皆、日本映画を観て、日本のことや日本人のことをよく知ってました。1990年代に入ると、皆さん覚えていらっしゃると思いますが、イランから労働者がたくさん日本に来ました。ニュースはイランの悪口ばかりでした。そこで私は思ったんです。イランでは日本のことが映画の力で紹介されました。私も映画の力でイランを紹介しようと決めました。まず字幕のお手伝いをして、キアロスタミ監督やマフマルバフ監督などを日本で紹介したり、日本の現在の姿がわかる映画をイランに紹介したりしました。映画を使って両国の文化を繋いだことがとても自分の身に合うと思いますし、嬉しいです。
これからも頑張ってやろうと思いますので、皆さんよろしくお願いします。


◆2018年日本映画ペンクラブ賞 特別奨励賞
 映画監督・俳優 齊藤工


*授賞理由*
2001年斎藤工として俳優デビュー。以降多くの映画作品に出演。また 映画情報番組のMCとしても幅広く活躍。2014年からは移動映画プロジェクト「cinema bird」、「ワールド・シアター・プロジェクト」など、多くの映画啓蒙活動に関わる。2018年「blank13」で長編作品監督デビュー。俳優だけの活動を超えた行動は、同世代の俳優や業界にも多大な影響を与えている。今後の更なる活躍を期待して。

推薦者である中山 治美さんより花束贈呈
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私は記者として役者としての斎藤さんの方を取材することが多くて、フェロモンでイタリア女性をメロメロにしたことなど記事にしています。今回の授賞は、ご本名の方の難しい漢字の齊藤工さんとしてのものです。監督、プロデューサーなどのほか、移動映画館プロジェクトを2014年からされています。震災がきっかけだったとのことですが、あまりにも地方に映画館がないので、どうやったら映画を観れるだろうと、幼い子どもたちに映画を観せたい思いで映画館を連れていってしまう。軽やかに活動をされています。
一俳優という枠を越えて活動することは、日本の映画界では時間もなかなかないし、売名行為だという人もいるのですが、そういうことを越えて、齊藤工さんの活動が俳優や映画人を引っ張っていってくださることと奨励賞を差し上げることに決めました。

受賞者 齊藤工さん
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普段、出演するドラマやバイト探しをして暮らしているのですが、もともとは映画が大好きな少年で、今もその延長線上にいます。
移動映画館ですが、始めた理由は大それたことでなくて、自分が映画館のあるのが当たり前の中で暮らしてきて、映画で疑似体験をしてきたのが、そういう環境にない子どもたちがいることに気づいて、自分がその地域の子だったらということから発案したんです。一個人がアイディアを持っても、実行するのには大勢の方たちの力がいります。個人の名前で賞をいただきましたが、多くの方とのファミリーツリーが受賞したと思っています。
映画製作も俳優、写真家活動も同じで、一個人で出来ることの限界を知り、他者と関わることで、足し算、掛け算でいろいろなことをして数十年経って、形にしてきたと思っています。
様々な形で映画と向き合おうと思って、映画を包囲してきたと思います。少し映画が振り返ってくれたかなと思います。
海外で移動映画館をした時に印象的だったのが、マダガスカルやパラグアイなど、映画の文化がない地域での上映で、子どもたちが初めて映画を体験する瞬間に立ち会ってきました。映画が先進国の一部の娯楽なのだなということを知りました。映画は誰のものかと思うと、映画でいろんな疑似体験をして未来の選択肢を増やすことができる力が映画にはあるので、できるだけ果ての地でも上映したいと思っています。
俳優を英語でactorといいますが、行動する人という意味です。論じるより行動して映画の可能性に自分なりに関わっていければと思っております。本日はありがとうございました。


◆2018年日本映画ペンクラブ60周年記念特別賞
 岩波ホール


*授賞理由*
 1968年 開館 当初 芸術性の高い文化活動の為の多目的ホールとして営業。 1974年 エキプ・ド・シネマ(商業ベースにはなりづらいと考えられている名作を上映することを目的)を開始。以降文化的に質の高い映画を上映する映画館として機能。2018年 50周年を迎え、56か国・地域の250本以上の作品を上映。常に良質な映画を独自の視線で上映し続けている功績に対して。

大竹洋子さんより花束贈呈:
私は日本映画ペンクラブの会員で、これまでにも花束を差し上げるお役目が多かったのですが、私自身、岩波ホールにずっとおりましたので、岩波律子さんに花束をあげることにはまさかならないと思っておりましたら、まさかになりました。私が差し上げても喜ばれないのではないかと思ったのですが、律子さんがいかによく頑張って岩波ホールをやってらっしゃるかを申しあげたくて、引き受けました。ご存じない方が多くなりましたが、高野悦子さんという女性がいました。私はずっと子分で、鬼の大竹、仏の高野と皆さんから言われてきました。私は岩波ホールを定年退職した最初の人間です。
50周年に当たって、どんな映画を上映するのか非常に関心がありました。ほんとうに見事なプログラムを作ってくださいました。私が岩波ホールに入った頃は映画の黄金時代で、上映する映画、どの映画もドアを開けるとすぐ満員になってしまう。入れなくて帰る人の方が多い時期もありました。そんな頃にヒットしたヴィスコンティの『家族の肖像』や、香港の『宗家の三姉妹』などの作品を企画するのかなと思っていたら、そういう作品は一切やらないで、非常に地味で、これまで上映したくても、なかなか上映できなかった国の名画を上映してくださいました。
高野悦子さんはとても華やかな方で赤い洋服しか着ないような方でしたので、その後を引き継いだ岩波律子さんはどんなに大変かと思いましたが、実の姪ですし、高野さんのこともよくわかっていて、ほんとに頑張ってくださいました。
これからも岩波ホールをどうぞよろしくお願いします。

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左:大竹洋子さん  右:岩波律子さん


受賞者 岩波律子さん
大竹さんから過分なお言葉をいただき恥ずかしい気持ちです。高野悦子はがむしゃらな人で、皆でついていくのが息切れがするような人でした。亡くなりましてから、無我夢中でやってきました。私が頑張ったというより若いスタッフがすごく頑張ってくれて、私が支えられてきました。
50年も続いてきたのは、ここにいらっしゃる映画ジャーナリストの方たち、映画を作ってくださった監督たち、配給会社の方たち、そしてお客さまがあってのことだと思います。初期の頃は、歴史の古い規模の大きな配給会社にお世話になってきましたが、近年は、歴史が2~30年の規模の小さい配給会社の方々と一生懸命仕事をしてきております。当たる映画でなくて、自分たちがほんとに好きな映画、日本で紹介すべき映画を配給しようと頑張っている方たちです。
映画館ですので、お客様のことも少しお話したいと思います。女性の観客が多くて、熱心に来られています。女性は一人でいらっしゃることはまずなくて、女友達やカップルでいらっしゃいます。帰った後には、「あの映画よかったわよ」と広めてくださいます。ところが、男の方は一人で来る方が多くて、中には奥さんに引っ張って来られる方もいるのですが、感動を大事に自分の胸に収めて、広めてくださらないんです。
珍しく男の方でいっぱいになったのは、最近では『阿片戦争』。司馬遼太郎が好きな感じの男性方がむっつりとお待ちになっていたのが印象的でした。
上映中の『ナポリの隣人』ですが、配給会社の方が日本で上映すべき映画とおっしゃってくださったけど、むっつりした男性が主人公の映画でどうかなと思っていましたら、ほんとにお客様がいらしてくださってます。この間、映画が終わって出てきたおじいさんが、外で待っていたおじいさんに「どうだった?」と聞かれて、「良かったよ」とおっしゃっている姿を目撃して、口数少ない男の方どうしなのにと感動しました。
監督さんが大切に作られた映画をお客様にお届けするだけでなく、何が正しいのかわからなくなった世の中で、一緒に勉強しましょうという気持ちで上映しております。



◎日本映画ペンクラブ会員選出ベスト発表


☆各部門の第2位~第5位の作品については、日本映画ペンクラブのサイトでご確認ください。

◆日本映画部門 2018年第1位
 『万引き家族』 
 パリで編集作業中の是枝裕和監督に代わり、是枝監督と5回目のタグを組んだプロデューサーの松崎薫さんが受賞。  

日本映画ペンクラブ代表の渡辺祥子さんより授与:
日本映画ペンクラブでは、年に一度、ベスト5を選ぶのですが、すごく皆、映画にはうるさいんです。その中で1位に選ばれたのが『万引き家族』でした。観終わった後で、いいね、好きという人がとても多かったんです。おめでとうございます。

松崎薫プロデューサーに、堀木三紀さんから花束贈呈。

松崎薫プロデューサー

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私の立場では興収を気にしないといけないのですが、始める前に、監督から、この作品はあまり公衆受けしないで、そっと好きな人に差し出したい作品にしたいと釘を刺されました。低予算で押さえないといけませんでしたし、監督にもご負担をおかけしました。派手な宣伝もするなと言われました。ほんとに、そっと差し出すつもりでやってきたのですが、まさかこんなに多くの方にご覧いただけることになるとは夢にも思わず、監督の言葉を借りれば、「作品が我々の手を離れて素晴らしい旅をした」と思います。世界中で多くの方にご覧いただき、幸せな作品になったと一同喜んでおります。
60年という伝統のある日本映画ペンクラブの厳しい目を持った皆さまから選んでいただき、光栄に思っております。関係者一同を代表してお礼申しあげます。

是枝裕和監督からのメッセージ
この度は、ベストに選んでいただき、日本映画ペンクラブの皆さまに心からお礼申しあげます。『海街diary』に続き2度目の受賞で、自分としてはまったくタイプの違う作品を評価いただいて、ほんとに嬉しく思っております。本日はパリで新作の編集作業をしておりますためにお伺いできず申し訳ごさいません。次回作のことをお話するのは間違いかもしれませんが、来年は外国映画部門での受賞を狙えればと思っております。本日はありがとうございました。


◆外国映画部門 2018年第1位
 『スリー・ビルボード』 (監督:マーティン・マクドナー)

 20世紀フォックス・アソシエイトディレクター 平山義成さん:
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マクドナー監督はじめとするフィルムメーカーの皆さんに代わりまして、御礼申しあげます。私が担当している作品は必ず試写室で拝見します。映画を言葉で語る方々の表情を見て、また、お仕事で書かれたものを拝見して、常に刺激を受けております。一番厳しいプロの目を持った皆さんから賞をいただけることが最大の栄誉だと思っております。


◆文化映画部門 第1位  
 『沖繩スパイ戦史』 (監督:三上智恵 大矢英代)

三上智恵監督
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ほんとうに感動しています。こんなに伝統ある賞の、しかも60周年の節目の年に選んでいただいて光栄です。映画少年や映画少女の皆さんが好きとおっしゃってくださった一番に選ばれて、こんなに嬉しいことはありません。
今日、私は沖縄から参りましたが、もう一人の監督、大矢さんは現在アメリカに留学していまして来られませんでした。今日は私が2人分しゃべろうと思います。
私も大矢も、那覇の放送局でテレビ報道に携わってきました。私は20年やってきましたが、二人同じ気持ちでいるのは、ずっと沖縄で取材していると、軍事植民地のような状況を何十年続けなければいけないのかという思いです。早く沖縄を解放しなければならないとあせりながら現場を走り回ってきました。それが、10年位前から、沖縄を解放するとか負担を軽くするというレベルではなく、アメリカの中国に対する軍事戦略の戦場の一つとして沖縄が見られていること、今は日本全体が戦争に巻き込まれるという状況が沖縄にいるとあからさまに見えてくるので、それを全国の皆さんに伝えないといけないという思いで、4本の映画を作ってきました。今回の作品は、もろに沖縄戦の厳しい映画になりました。沖縄戦がどんなに悲惨かはこれまでにもずいぶん学ばれたことと思います。沖縄戦がなぜ悲惨だったのか、なぜ止められなかったのかは、まだほとんど学ばれてないと思います。なぜ悲惨だったのか? それは軍隊が住民を守らなかったからです。パニックになった日本軍がたまたま沖縄の人を殺してしまったという簡単な話ではありません。見捨てられた軍隊が住民を巻き込んでやる戦争は、たまたま沖縄で起きた悲惨なことではありません。れっきとしたマニュアルがあったことで、旧日本軍の体質ややり方が今も引き継がれていたらどうなるだろうか。差し迫った問題として、沖縄にいると警告を発せざるをえません。沖縄が対岸の火事ではなく、沖縄が燃えているだけでなくて、皆さんの服にも火がついているのですよとお伝えするために、映画を作っています。それでもまだ、沖縄大変ねと、自分たちの問題ではなくて、まだまだ民主主義の中にいて国は自分たちを守ってくれるという日本本土とのギャップを感じています。ですので、沖縄戦の中から、一番効く処方箋を全国にお届けしなくてはと、この映画を作りました。
少年ゲリラ兵に仕立てられていった少年たちの取材をまだ続けていて、明日は厚木に住んでいる91歳のおじいさんのところに話を聞きにいきます。

齊藤工さんが映画はたくさんの選択肢を与えてくれるものとおっしゃいましたが、ほんとにそうだと思います。この映画は、小学校高学年から10代の子どもたちに特に観てもらいたいと思っています。ほんとに素敵な賞をありがとうございました。


*****

最後にフォトセッション。
そして、その後は、和やかな懇親会の場となりました。

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齋藤敦子さんとショーレ・ゴルパリアンさん


スタッフ日記 イランのショーレ・ゴルパリアンさんが日本映画ペンクラブ賞特別功労賞受賞 (咲)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/464654333.html


             取材:景山咲子




posted by sakiko at 18:00Comment(0)授賞式

『ブラック・クランズマン』映画評論家・町山智浩氏徹底解説イベント詳細レポート

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人種差別問題が過熱するアメリカを背景に、KKKへの潜入捜査をコミカルかつ軽快なタッチで描いた『ブラック・クランズマン』のジャパンプレミアが2月21日(木)に東京・シネクイントで行われ、映画評論家の町山智浩氏が登壇した。
本作は1979年、街で唯一採用された黒人刑事が白人至上主義の過激派団体<KKK>に入団し、悪事を暴くという大胆不敵なノンフィクション小説を名匠スパイク・リー監督が映画化。主人公の黒人刑事ロン・ストールワースジョン・デヴィッド・ワシントンが、相棒の白人刑事フリップ・ジマーマンをアダム・ドライバーが演じている。第71回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。第91回アカデミー賞では作品、監督など6部門にノミネートされ、脚色賞を受賞した。


<イベント概要>
【日 時】 2月21日(木)21:20~21:50(30分)
【場 所】 渋谷シネクイント
                     〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町20-11 渋谷三葉ビル7階
【登壇者】 町山智浩氏


『ブラック・クランズマン』(原題:BlacKkKlansman)
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<STORY>
1970 年代半ば、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署でロン・ストールワースは初の黒人刑事として採用される。署内の白人刑事から冷遇されるも捜 査に燃えるロンは、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体 KKK(クー・クラックス・クラン)のメンバー募集に電話をかけてしまう。自ら黒人でありながら電話 で徹底的に黒人差別発言を繰り返し、入会の面接まで進んでしまう。問題は黒人のロンは KKK と対面することができないことだ。そこで同僚の白人刑事フリップ・ジマーマン に白羽の矢が立つ。電話はロン、KKKとの直接対面はフリップが担当し、二人で1人の人物を演じることに。任務は過激派団体KKKの内部調査と行動を見張ること。果たして、型破りな刑事コンビは大胆不敵な潜入捜査を成し遂げることができるのかー!?

監督・脚本:スパイク・リー
製作:スパイク・リー、ジェイソン・ブラム、ジョーダン・ピール
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、アレック・ボールドウィンほか 
配給:パルコ
2018 年/アメリカ/カラー/デジタル/英語/135分
©2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://bkm-movie.jp/

★2019年3 月 22 日(金)TOHO シネマズ シャンテほか全国公開


1978年の実話をブラックパワーブームが
最高潮に達した1972年に設定変更

本作の上映が終わると、映画評論家・町山智浩はアフロのカツラと帽子をかぶって登場した。町山は、「僕が子どもの頃は日本でもアフロが流行っていましたね。この作品は1972年が舞台。世界中であらゆる人種の人がアフロヘアーにしていたブラックパワーの時代の映画です」と語り始める。
まず、作品の冒頭に、アレック・ボールドウィンが白人至上主義者の学者ボーリガード役で登場し、「アメリカはかつてグレートだったのに」と嘆いたシーンについて、アレック・ボールドウィンはアメリカで放映されているお笑いバラエティ番組「サタデー・ナイト・ライブ」で毎週のようにドナルド・トランプの真似をしていると説明。そして、トランプが「もう一度アメリカをグレートにする(=アメリカをかつてのような白人至上の国に戻す)」と言っているのを茶化していると指摘した。
続いて、主人公が彼女である女子大生パトリスと歩きながら、ブラックスプロイテーション映画について話題にしていることを取り上げた。このブラックスプロイテーション映画とは何か。町山はまず、そのきっかけとなったブラックパワーの隆盛に話を遡ってこのように説明した。
「この映画は実話ですが、パトリスは実在しないキャラクター。ただ、モデルはおり、それが黒人への意味のない暴力に対する自警団組織だったブラックパンサーの女性指導者のアンジェラ・デイビスです。それまで、アフリカ系の女性は髪が膨らむのが恥ずかしく思い、いろいろな方法で隠していました。ところが、アンジェラ・デイビスがアフロヘアーはかっこよく、これこそが自分たちの美しさであり、黒人は肌やくちびるを誇りに思うべきと提唱したのです。そこから、『ブラック・イズ・ビューティフル!』という言葉が生まれ、大流行語になりました。その結果、黒人のファッションセンスをカッコいいと白人が真似をするようになったのです。それと同時にソウルミュージックの大ヒット。世界的なブラックパワーブームが1972年くらいに最高潮に達しました。スパイク・リー監督はブラックパワーが盛り上がっていたときに移しちゃえということで、この作品でかなり遊んでいて、実際には1978年に起こった事件ですが、作品では1972年に設定変更し、ファッションなどもそれに合わせてあります」

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ブラックスプロイテーション映画は
白人たちがお金儲けのために作った黒人ヒーローの映画

そして、ブラックスプロイテーション映画については次のように語った。
「ブラックパワーブームによって、“黒人はかっこよく、最高なんだ”という価値観の大逆転が起こりました。それに合わせて、かっこいい黒人のヒーローが悪い白人をやっつけるというだけのアクション映画が次々と作られるようになったのです。その1作目がゴードン・パークスの『黒いジャガー』。黒人の映画監督が作った、黒人の映画ですが、黒人を主役にすると白人も黒人も見に来るからと、白人たちがお金儲けのために黒人の映画を作り始めます。それをブラックスプロイテーション映画と呼ぶようになったのです。エクスプロイテーションとは搾取とか金を騙し取るという意味。ただ、『黒いジャガー』は黒人が作っているので、実際にはブラックスプロイテーション映画ではありません。
作品の中で、ロンとパトリスは『黒いジャガー』と『スーパーフライ』どっちが格好いいかと話しているけれど、『黒いジャガー』の主人公シャフトは私立探偵で、『スーパーフライ』の主人公プリーストは麻薬の売人。どちらもニューヨークで撮られていて、その二つが当時の黒人映画のヒーロー。『スーパーフライ』はゴードン・パークスの息子が撮ったものです。
さらに2人は『コフィー』とタマラ・ドブソンが演じる女性特命麻薬調査員クレオパトラ・ジョーンズを主人公にしたシリーズと比較します。『コフィー』で主人公を演じるのは黒人の巨乳女優パム・グリア。すごくセクシーな女優で、白人、黒人を超えて、ものすごい人気だった。クエンティン・タランティーノやスパイク・リーもパム・グリアが大好きでした。ジョンレノンはパム・グリアをナンパして振られています。
しかし、ブラックスプロイテーション映画は消えていきました。その最大の理由が『燃えよドラゴン』のヒット。クレオパトラ・ジョーンズも空手が得意。黒人の黒帯ヒーローが出る『黒帯ドラゴン』が作られるなど、空手ブームが黒人映画を消していったのです。その後に夫婦映画ブームがドカンとくる。アフリカ系の人やアフリカ系のアクション映画を見ていた観客層がごっそり夫婦映画に持っていかれ、ブラックスプロイテーション映画は消えてしまいます」

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頭のいい黒人が頭の悪い白人をやっつける

ロンとパトリスがブラックスプロイテーション映画について話すとき、それぞれの映画がワイプで入ることについて、町山は「この作品は、はっきりコメディとして演出しているかと思うと、ドキュメンタリーになっています。それぞれのシーンごとに全然違うタッチ。そういう自由自在な編集をして、かなり遊んでいます。特に後半はそれまでのドラマと関係なく、現実にアメリカで起こっていることをぶつけるなど、ルールなしの映画だと思います」とスパイク・リー監督の自由自在な脚色を解説した。
さらに、「白人があまりにもバカに描かれていると思いませんか」と、この映画での白人の描かれ方について言及する。頭のいい黒人が頭の悪い白人をやっつけるのがブラックスプロイテーション映画のスタイルであり、それまでのハリウッド映画で黒人がバカとして描かれていたことに対する反動だと指摘。この作品も“黒人は頭がいいから、彼らを騙した”という話にしていると町山はいう。

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ずるくて間抜けなジムクロウという黒人キャラクターが
黒人のステレオタイプを作り上げた

キング牧師が人権を勝ち取った1965年くらいまでのアメリカ映画では、シドニー・ポワチエが演じた役は例外として、黒人は頭が悪く、臆病で、ずるい存在として描かれていた。いちばん典型的な例が、この作品でも取り上げられた『風と共に去りぬ』の女中である。この描かれ方について町山は次のように説明する。
「メラニーが妊娠したとき、知ったかぶりをして『お産婆さんをやったことあります』といったから、スカーレットオハラは安心して彼女と一緒に子どもを取り上げようとしたのに、土壇場になって『実は何にもやったことありません』と言って、超役立たずのバカで無責任の人として描かれているんです。ただ、もう一人乳母の人が非常に頼りになる黒人のおばさんとして描かれていて、バランスを取っているとは言われていますけれどね」
なぜ、黒人はそんな風に描かれるのか。町山は「南北戦争以前に白人の芸人が顔を黒く塗って、ずるくて間抜けなジムクロウという黒人キャラクターを演じて人気になり、黒人のステレオタイプを作り上げてしまったことが一因となっているんですよ。その結果、南北戦争が終わって黒人が解放された後も、白人が勝手に作り上げた“黒人はバカ”というイメージを理由に、南部では黒人に選挙権を与えなかった。その法律はジムクロウ法と呼ばれています。例えば、祖父が投票していない人は投票できない、黒人は投票前に窓口でアメリカの歴史や法律に関するテストを受けなくてはいけないといったことが決められていました。『グローリー 明日への行進』にそのテストを受けているシーンがありますが、間違えるまで続けるから黒人は絶対に合格できない」と説明する。1965年に黒人も投票できる投票権法ができ、黒人の権利が声高に叫ばれるようになった。ブラックスプロイテーション映画で、「黒人は白人より頭がいい」と訴える必要があったのは、黒人は頭が悪いと言われることによって選挙権を奪われたから。喧嘩が強いことより頭が良いことが大切な理由はそこにある。「これはアニメにも影響を与えており、その代表例がバックスバーニー。うさぎを狩ろうとする白人をうさぎが騙していく。バックスバーニーは黒人のことです」と日本では知られていないので理解されにくい事情まで話した。

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イギリス系とスコットランド系
入植時期の違いが差別意識を増長させた

さらに、人種差別においてリーダーシップを執ったのはスコットランド系の人たちと町山は指摘する。それはなぜか。町山はこう説明する。「南部の土地のほとんどが、最初に入植したイギリス系の人たちによって支配されていて、あとから入ってきたスコットランド系の人たちは土地が持てず、小作人になるしかなかったのです。彼らの仕事は黒人の奴隷を虐待すること。だから、スコットランド系の人たちは映画において南部の奴隷農場が描かれたときに、監視人、拷問者として描かれることが多い。しかも、彼ら自身が差別意識を持っていなくても、その上にいる地主が階級社会を作って、その中間にスコットランド系の人たちを置き、貧乏の鬱憤を黒人たちにぶつける構造を作りました」

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KKKの敵は黒人から非プロテスタントに移行

ロンが潜入捜査をしたKKK(Ku Klux Klanクー・クラックス・クランの略称)についても町山は詳しい解説を繰り広げた。まず、その結成の歴史についてはこのように説明している。
「南北戦争が終わった後、黒人はいったん、投票権を獲得し、実際に選挙で黒人の議員も生まれました。南部は少数の白人農場主たちが大量の黒人労働者を使っていたので、人口比では白人が負ける。「南部を乗っ取られてしまう」と危機感を持った白人がKKKを結成。黒人に「殺すぞ」といって脅かしたり、吊り下げたりして「見よ、これが投票に行こうとした奴らだ」といって、投票を妨害しました。その後、南部を監視していた北軍が撤退して、リンカーンが殺された後、副大統領が大統領になりますが、彼は南部監視をしなかったので、南部の白人が政治的実権を取り戻します。そして、黒人の投票を妨害する法律を次々と各州で作ったのです。それらは総称してジムクロウ法と呼ばれ、その結果、KKKは必要なくなって消滅しました。
その後、D・W・グリフィス監督の『國民の創生』(1915年)が大ブームになって、KKKが白人のために黒人の投票を妨害したと称える内容に感化された人たちがKKKを結成します。ただし、彼らの敵はユダヤ人。1900~1920年ころ、アメリカに新移民と言われる人たちが大量に入ってきました。彼らはユダヤ系、ロシア系、ポーランド系、チェコ系、イタリア系、アイルランド系、ギリシア系。共通点は1つ。プロテスタントでない。彼らはカトリック、ギリシア正教、ロシア正教、ユダヤ教。非プロテスタントの人口増加に対する恐怖がKKKに結びついたのです。そのときのKKKは政治的に正式な政党として各州のかなりの議会で議席を獲得し、非常に大きな反移民グループとして政治的権力を振るうようになりました」

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スパイク・リー監督はKKKに支持された大統領を危惧

そして潜入捜査について、「何も事件を起こしていない段階で、警察が潜入捜査をすることはなかったでしょう」という。ロンがKKKに入ったことはあったが、潜入捜査に関しては何の証拠もない。最後の爆弾事件も原作には書かれていない。町山は「事実ははっきり言って半分くらい」と言い切る。その上で「黒人の主人公ロンがKKKの最高幹部であるデビット・デュークを警備したのは事実。作品の中で一緒に写真を撮っていますが、実際にあるようです。また、意外なことにロンが掛けた電話にデビット・デュークが直接、出たのも事実。でも、ラストに電話をして、『本当は俺、黒人だよ』と言ったのは事実ではありません」という。どこまでが事実で、どこからが事実でないのか。「スパイク・リーは面白くなるように話を作っています」と町山は言い、アカデミー賞脚色賞にノミネートされた理由を自由奔放で勝手気ままな脚本と推測する。(※トークイベントはアカデミー賞の発表前に実施)デビット・デューク自身も映画はでっち上げと反論している。ただ、KKKの最高指導者であったデビット・デュークがトランプを全面的に支持し、「トランプ大統領こそ我々の理想を実現する政治家だ」と言った。町山は「KKKに支持された人が今のアメリカの大統領なんですよ。それがいちばん恐ろしい。よく考えるとアメリカは大変な事態になっている」と現在のアメリカを憂う。そして、スパイク・リー監督が今、この映画を作らなくてはいけないアメリカの状況をこのように説明した。
「ドナルド・トランプ自身が黒人を差別しているかどうかということよりも、政治的権力を得るために、黒人を差別している人たちの票を得ようとしたことが問題です。2017年8月、南部の将軍の銅像を撤去すると言っている市に対して、それをさせないぞとアメリカ中の白人至上主義者が集まりました。ヴァージニア州シャーロッツヴィルで開かれたユナイト・ザ・ライト・ラリーです。それを地元の人たちは白人も黒人も関係なく、そんな奴らは来るんじゃねえということでデモをやりました。そのデモにネオナチの人の車が突っ込み、反対運動をしていた女性を轢き殺すという事件があり、映画の最後で描かれていました。トランプがそれに対して、『デモしている方も悪い』といい、作品の中にそのスピーチビデオが出てきましたね。何が何でも白人至上主義者を糾弾しないというトランプのやり方をスパイク・リー監督はこの映画の中で叩いています」

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プリンスの歌が流れたのは何を意味するのか

最後にプリンスの『泣かないでメアリー(Mary Don’t You Weep)』が流れるが、この曲は旧約聖書の出エジプト記が背景になっている。かつてエジプトでは多くのイスラエル人が重労働を課せられていた。そこにモーゼと呼ばれる人物が現れ、リーダーとなってイスラエル人を率いて、エジプトから脱出する。その際、モーゼは紅海を2つに割る奇跡を起こし、イスラエル人が海の向こうに渡り終えると海は元に戻り、追いかけてきたファラオの軍勢は海水に流されてしまった。『泣かないでメアリー(Mary Don’t You Weep)』は聖書と同じように正義がなされると、苦難に苦しんできた黒人たちを慰める歌で、アレサ・フランクリンがずっと歌ってきた。この曲を最後に流したことに対して町山は「途中は利口な黒人とバカな白人という感じで、マンガみたいに楽しく見せていましたが、現実を突きつけてくる。その上で最後にまた救いを与える。泣いたり笑ったり怒ったり。感情の起伏の激しいスパイク・リー監督らしい映画だなと思いました」と話した。
さらに、この作品がアカデミー賞で6部門にノミネートされたことを受け、「これまでスパイク・リーは、『マルコムX』など、たくさんのヒット作があったにもかかわらず、アカデミー賞にずっと無視されてきました。ハリウッドがスパイク・リーを受け入れなかったのです。しかし、やっとこの映画で追いついた気がします。今回、アカデミー賞作品賞に8作品入っていますが、そのうち3作品がアフリカ系アメリカ人の映画。時代は大きく変わったと思います。今までだったら1本、アカデミー賞作品賞に入っただけでも大変だと言われていたのが、今はダイバーシティで多様性のあるアカデミー賞作品賞になっているので、この映画がいくつ取るかが非常に楽しみです。僕はスパイク・リーにあげたいですね」と締めくくった。

(取材・構成:堀木三紀)

『きばいやんせ!私』初日舞台挨拶

2019年3月9日(土)有楽町スバル座にて、初日を迎えた『きばいやんせ!私』の舞台挨拶が行われました。

夏帆(児島貴子)、太賀(橋脇太郎)、愛華みれ(ユリ)、伊吹吾郎(牛牧猛盛)、主題歌を歌う花岡なつみ、武正晴監督、脚本家の足立紳が登壇しました。(敬称略)
作品紹介はこちら


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夏帆 今日お客様がいらっしゃらなかったらどうしようと心配していたんですけれども、こんなにたくさんの方に足をお運びいただいて嬉しく思っております。短い時間ですがよろしくお願いします。

太賀 (声援)ありがとうございます。約1年たってようやく皆さんにお届けできるようになって、ほんとに嬉しく思います。短い時間ですがよろしくお願いします。

愛華みれ 鹿児島弁が伝わるのか不安ですが、こうして久しぶりにみんなと集合して、たくさんのお客様にみていただけることに感激しております。今日スタートですので、よろしくお願いします。

伊吹吾郎 こんなにも大勢の人がお忙しい中、足を運んで下さいましてありがとうございます。南大隅町という本土の最南端のところなんですけど、ほんとに風光明媚な、静かで穏やかな自然いっぱいのいい町です。撮影できたことを喜んでおります。私は時代劇が多いんですが、こうした憎まれ役を演じられたのも嬉しく思っております。

花岡なつみ 主題歌を歌わせていただきました花岡なつみです。 今日は緊張していますがよろしくお願いいたします。(なっちゃーん!と声援)

足立 脚本の足立と言います。こんなにたくさんの方々に映画を観ていただけてほんとに嬉しいです。僕もさっき監督と一緒に観ていて「すげーおもしろかったな(笑)、良かったな」と思っています。ありがとうございます。

武正晴監督 今日は朝からありがとうございます。お客さんと一緒に映画館で見るのはいいなぁと。作った映画がみなさんのおかげで力強くなったような気がいたします。今日はどうもありがとうございます。

-まずはひとことずつみなさまからご挨拶をいただきましたが、ここからは撮影中のエピソードなども含めて、もう少し詳しく伺っていきたいなと思っております。
それでは主人公の貴子を演じた夏帆さんから、演じて、また南大隅町の撮影いかがでしたでしょうか?。


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夏帆 足立さんのオリジナルの作品なんです。貴子という人物をすごく魅力的に書いて下さって、私が映画の中でどこまで体現できるのか、プレッシャーを感じていました。とにかく演じていてすごく楽しかったです。くだをまいているところとか、演じていてどんどん快感になっていく(笑)。言葉のチョイスも面白いですし、可愛いだけじゃなくてちょっと毒のある彼女がすごく好きです。

南大隅町は今回初めて行ったんですけれども、空港から遠いしお店もないし、ここに3週間いれるのかなっていうのが、最初の正直な感想だったんです(笑)。実際滞在していて、すごく自然豊かですし、土地の力というのをすごく感じていました。何もないからこそ、シンプルに作品に向き合える時間が取れたのが貴重でした。撮影が終わる頃には南大隅町という町が大好きになりました。

-太賀さんは同級生役で、畜産業のお仕事をなさっているということでした。お祭りのシーンであの大きな鉾を持ってらっしゃって、観ているほうも力が入ってしまうようなシーンがございました。

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太賀 あの鉾すごく重かったですね。何キロあるんですかね?
撮影当日雨が降って、鉾の旗が雨でより重くなったんです。練習の時から南大隅の地元の、実際にお祭りをやられている方々にとても丁寧に指導していただきました。撮影中もずっと横につきそっていて下さったんです。やっぱり地元の方々の支えが力強くて、実際ほんとに耐えかねるくらい重くてしんどかったんですけど、みなさんに背中を押していただいて、とても気合が入った撮影でした。

-続きまして愛華さん。みさき食堂の店主ユリを演じてらっしゃいました。ご出身地の南大隅町の撮影ということで、感情もぐっと入ってしまうんじゃないかなぁと思うんですが、いかがでしたか?

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愛華 今あらためて夏帆ちゃんがあの町の良さをお話くださったのほんとかなと(笑)。不安に思いながら「次もう来ないでしょ?」って聞いたら「自分の力では行けません」と(笑)。どんなことがあってもみんなで引き連れてまたあの町に行きたい。私は個人的に看板でも作ろうかって言ってたくらい(銅像って言ってたよとつっこみ)。
太賀くんたちのあの鉾は持てないだろう、と吹き替えするのかどうするのか心配しておりましたが、見事に担がれて。しかも人知れずやっていた知られていないお祭りが、こうやって日の目を浴びて「武監督が来た!」っていうだけで、町はもうすごい熱気で。今もこの思いが全国にどうやって伝わっていくんだろうと思って力が入りそうです。
太賀くんたちが見事に(鉾や神輿を)持ち上げて、あれは1300年ごと持ち上げているんだなと思うと、演技ではない涙があふれ出します。監督がその思いをくんで、足立さんがお世辞を入れるでもなく、町の良さを語ってくださいました。
皆さん、遠い~とは思うんですけど、昔はハネムーンで行った町だとうかがっているので、次はフルムーンでいかがかなと思っています(笑)。よそ者がきても受け入れるし、困った人は見捨てないという、みんなウェルカムですので、皆さんこの映画をたくさん観て南大隅町ごと広めていただければと思います。

-牛牧会長を演じられました伊吹さん、今回鹿児島弁の台詞が地元の方なのかと思うくらいでした。

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伊吹 どこにでもいる、何を決めるんでも口を出してしまうのが牛牧の役どころです(笑)。何を反対しても夏帆さんが立ち向かってきて、反対する理由が何もない、と成功をおさめていく。お祭りを再現をするのは大変な作業なんです。実際にあることを積み重ねてやっていくので、太賀くんが棹(鉾)を持ち上げて・・・あれは触ってはいけないところがあるんですよ。よくぞあれを持ち上げて振り回したなと。そしてまた、あの神輿もあの道をよく担ぎ通したな、と見ていてびっくりしましたよ。涙が出るほど嬉しかったですね。

そして鹿児島弁(笑)。西郷隆盛でもやったことがあるんですけど、方言っていうのは芝居以前にプレッシャーがかかるものなんです。一つ出てこないと次も出てこないんです。意味はわかるんですけど、言葉が出てこないので何回かNG出しました。でも小気味良さが後に残る作品です。みなさん、宣伝よろしくお願いいたします。

-主題歌を歌った花岡さん、映画をご覧になったご感想と貴子にどんなイメージをお持ちになりましたか?

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花岡 夏帆さんが演じてらっしゃった貴子が、どん底の状態から御崎祭を復活させる熱意とか、ばらばらだったみんなを一つにまとめようと奔走する姿にとても感動しました。貴子は最初プライドが高くなげやりな性格だなぁという印象だったんですけど、祭りを復活させるために様々な問題に立ち向かっていく。本気になって立ち向かっていく姿にかっこいいなって思いましたし、自分に正直に生きている姿がとても素敵な女性だと感じました。

-足立さん、原作はオリジナルということですが、どこから発想が生まれたのでしょうか?

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足立 最初にプロデューサーから「鹿児島に御崎祭りというのがあるんだけど、それをモチーフにした映画を作りませんか」と誘われて、それが千何百年か続いているということだけで撮影の1年前に、その祭りを見に行きました。不勉強のまま行ったんですが、ものすごく正直にいうと「こうやって祭りって消えていくのか」と思った(笑)部分がありました。
もともと夏帆さんが演じていたような「生きのいいキャラクター」を書きたいという気持ちがずっとあったんです。この町にこういうキャラクターを放り込んでいったら楽しい映画ができるんじゃないかと思って。祭りは神事なので、派手にわいわいやるようなことではないと、重々わかってくるんですけど、そういうずっと書きたかったキャラクターをこの町で暴れさせるような、物語を作ってみたいなと台本を書きました。

-武監督、撮影中のエピソード、足立さんとのタッグをくんだ映画作りなどをお聞かせください。

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武監督 父が鹿児島出身なんです。偶然こういうお話をいただいて「ああ、一番はじっこの」と。あだちさんがシナハン(=シナリオハンティング)から帰ってきたときに「どうだった?」と聞いたら「お神輿、トラックで運んでましたよ」って(笑)。それ、そのまんま台詞にしたらいんんじゃないの?って、そこから始まった映画です。よく南大隅の方々がシナリオ読んでやらせてくれたな、と(笑)。ああいう役場の人もああいう町長もいないんですけど、何かああいうコミカルなおおらかなのが出せないかなと。1300年もやっているお祭りを2月にやったばかりなのに、我々の撮影は3月。あんな大変なお祭りをまた?と思ったんですが、町のみなさんのご協力をいただきました。

夏にあの山道を見たとき足が震えました、ほんとに。ここを神輿を担いで降りていくのは何の意味があるんだろうと思いましたね(笑)。意味じゃなくて、やはりいろいろ継承していくこと意義があるってことがわかりました。足場もね、どういう風に降りていくか、その階段も昔の人が作ったと聞きました。おかげで我々も撮影を乗り切れたと今日観ていても思いました。

後はもう俳優部のみなさまが合宿生活の中で。夏帆さん、太賀くん、天音くんもね、天音は泣きながらやってましたから、ほぼドキュメンタリーです(笑)。あの坂を下りてるときだってみんな標準語に戻ってましたよ(笑)。「危ねーぞ!」「危ない危ない」「はい、大丈夫です!」とか(笑)。でもそれでいいのかな。
あそこで足滑らせないでくれ、と思ってました。急に雨が降ってきたりしてね。でもお祭りっていう儀式は雨が降ろうが続けていく。僕は雨が降ってくれて良かったなと思ったんですが、俳優の皆さんは大変でしたでしょうけど(笑)。ああいう自然の力を映像にできた。協力してくださった地元のみなさんが生き生きと、俳優には出せないような表情だとか、そういうところも映画の力となったと思います。観ていて非常に感動しました。

-まだまだお話を伺いたいのですが、お時間がせまってまいりました。最後に夏帆さん武監督からお客様にひとことを。今伺ったばかりですが、武監督お願いいたします(笑)。

武監督 そんなに大きなことが起こる話ではないんですが、神輿をかつぐというのをどういう映画にしようかとプロデューサーと考えて始まった映画です。そこにこの素晴らしいキャスト陣が賛同して、町の方々が協力してくださって。この映画が今度はどのように縁もゆかりもないみなさんのところに届いていくのかな、と楽しみにしております。どうぞ今日観ていただいたみなさんのお力を借りて、日本全土だけではなく、外国も含めて広げていっていただければ映画の力になると思います。どうぞよろしくお願いいたします。

夏帆 この作品は南大隅町という町で撮影させていただいたんですけど、ただのご当地映画の枠に収まらない、貴子という一人の女性の成長物語としても、とても力のある作品だと思っております。観てくださる方の背中を押せるような、そんな作品になっていれば幸いです。本日はほんとにありがとうございます。

(書き起こし・写真 白石映子)