映画『居眠り磐音』 “大入り”御礼舞台挨拶レポート

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『居眠り磐音』を見るなら女性はメイクポーチが必須
連れの男性はメイク直しを待つ心の余裕を持ってほしいと
木村文乃がアドバイス


松坂桃李が“時代劇初主演”を務めた『居眠り磐音』が5月29日(水)に新宿ピカデリーで“大入り”御礼舞台挨拶を行った。登壇したのは主人公の磐音を演じた松坂桃李、磐音が江戸で住む長屋の大家の娘・おこんを演じた木村文乃、本木克英監督の3人。松坂の紺のスーツに合わせたかのように、木村は青いノースリーブのワンピースで登場。和服とは違った美しさを披露した。監督はシンプルな黒のスーツだった。
なお、舞台挨拶を前に、スクリーンの入口で松坂と監督がサプライズで観客を出迎え、大入り袋を直接手渡した。観客のほとんどが女性。松坂が「ありがとうございます」とはにかむような笑顔で感謝の言葉を口にしながら手渡そうとすると、驚きのあまり、立ち止まる、後ずさりする、うれしさのあまり動かなくなる、「応援しています」と話しかけるなど反応はさまざま。しかし、誰もがうれしそうだった。ちなみに監督も手渡すはずだったが、手前に松坂が立ったため、みなが松坂から受け取り、監督は補充係と化していた。しかし、穏やかな顔で横に立ち、監督の人柄の良さがにじみ出ていた。
(舞台挨拶詳細は作品情報の後に)

<映画『居眠り磐音』 “大入り”御礼舞台挨拶>
日程: 5月 29 日(水)
場所:新宿ピカデリー スクリーン1 (東京都新宿区新宿3-15-15 )
舞台挨拶登壇者:松坂桃李、木村文乃、本木克英監督

『居眠り磐音』
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<STORY>
友を斬り、愛する人を失った。 男は、哀しみを知る剣で、悪を斬る。
主人公・坂崎磐音(松坂桃李)は、故郷・豊後関前藩で起きた、ある哀しい事件により、2人の幼馴染を失い、祝言を間近に控えた許嫁の 奈緒(芳根京子)を残して脱藩。すべてを失い、浪人の身となった。江戸で長屋暮らしを始めた磐音は、長屋
の大家・金兵衛(中村梅雀)の紹介もあり、昼間はうなぎ屋、夜は両替屋・今津屋の用心棒として 働き始める。春風のように穏やかで、誰に対しても礼節を重んじる優しい人柄に加え、剣も立つ磐音は次第に周囲から信頼され、金兵衛の娘・おこん(木村文乃)からも好意を持たれるように。そんな折、幕府が流通させた新貨幣をめぐる陰謀に巻き込まれ、磐音は江戸で出会った大切な人たちを守るため、哀しみを胸に悪に立ち向かう。

出演:松坂桃李、 木村文乃 、芳根京子、 柄本佑、 杉野遥亮、 佐々木蔵之介、 奥田瑛二、 陣内孝則、 石丸謙二郎、 財前直見、 西村まさ彦、谷原章介 、中村梅雀、 柄本明 ほか
監督:本木克英
原作:佐伯泰英「居眠り磐音 決定版」(文春文庫刊)
脚本:藤本有紀
音楽:髙見優
主題歌:「LOVED」MISIA(アリオラジャパン)
製作:「居眠り磐音」製作委員会
配給:松竹
©2019映画「居眠り磐音」製作委員会


松坂が忙しさのあまり日曜日と勘違い
舞台挨拶は松坂がうっかり日曜日と勘違いし、連ドラの撮影などで忙しく、曜日の感覚がなくなっていることを恥ずかしそうに告白することからスタート。「公開してしばらく経ってから、またこうして来ていただけてうれしいです」
続いて、木村はまた舞台挨拶ができたことに感謝の言葉を述べた後、「居眠り磐音をたくさん愛して、みなさんの心に留め置いて、いえ、留め置かなくても広めていただいても大丈夫なんですが(笑)、これからも好きになってください」
最後に本木監督は「大入り袋配布のときに8回見たといっていた人がいた」と喜びを語った後、「見ていただいた方の話を聞くと居眠り磐音が心に残る作品になったのではないかと感じています」と挨拶した。

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ひとりひとりの目を見て感謝の言葉を言えるのは貴重な機会

大入り袋のサプライズ配布の話になると、松坂は11回見たと言っていた人がいたことに驚き、「僕らより見ている。僕らよりセリフが言えるんじゃない?」というと、監督も「私よりディティールに詳しいんじゃない?」と続けた。そして松坂が「直接、ひとりひとりの目を見て感謝の言葉を言えるのは貴重な機会だなと思いました」と答えると、本木監督が「みなさんの目が松坂さんを見て、驚きとともに喜びでキラキラと輝いていましたね。いいものだなと思いながら、横で見ていました(笑)」と重ねた。

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磐音は愛されるニューヒーロー

公開から2週間ほどが経過し、総動員数が24万人を超え、31名の著名人からコメントが届いていると司会が伝えると、はるな愛のコメントがスクリーンいっぱいに映し出された。

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そこには「 愛する人、家族、友達に対してこんなにまっすぐに向き合ったことがあるでしょうか? 人の思いが重すぎるほど見えてくる愛を教えてくれた映画でした。殺陣のスピード感、景色の綺麗さ、桃李くんのカッコ良さ、この作品は時代劇を好きになっていく、いいきっかけになると思います」と書かれていた。それに対して、松坂は「本当にありがたいですね。これだけ影響力のある方にこうして発信していただけるのは、 より時代劇を知るきっかけにもなるのでうれしいです」とコメントすると木村が「公式なものでは苗字で呼ぶのがスタンダードなのかなと思いますが、桃李くんといっているあたり、はるなさんの重すぎる愛を感じました(笑)。それくらい愛されるニューヒーローなんだなと思いました」と続けた。本木監督は「最近、時代劇は敷居が高いと敬遠されがちだったが、磐音をきっかけに、時代劇の美しさや深い感情の表現を感じてもらえるとうれしい。はるな愛さんは演出意図を分かっていただけたのを感じます」とコメントに対する喜びを表現した。

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感想コメントを聞き、「監督の演出意図がしっかり伝わった」と松坂

続いて、北斗晶のコメント「昔から、私が思う本当に強くて優しい男は【無口で孤独】。正に坂崎磐音は、私が思う本当に強い男そのものでした。 時代劇の映画は数々観てきましたが、この時代ならではの、こんなに切なくて淋しくて…どうしたらいいんだろう? と考えさせられる映画は初めてでした。そして衝撃過ぎる結末とそれでも諦めない人を愛する心に号泣でした」が映し出され、女性を中心に涙を流した人が多かったようだと司会が一般の人の似たような感想を読み上げた。それに対して松坂が「監督の演出で意図したものがしっかり伝わっていた」と反応すると、本木監督は「2人(松坂や木村)が磐音とおこんを演じてくれたから」と答えたが、木村が松坂との間を広げて「本当はここにもう一方いて、私は横からじーっと見つめているだけでしたからね」と自虐的に笑いを誘った。

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時代劇を撮ってきた先輩たちから「いいじゃん、松坂」と言われた監督

松坂は司会に女性からの反応を聞かれ、ちょっと戸惑いながらも、予告編が公開されたときに磐音が自分のことを“某(それがし)”と言っていたことをドラマの撮影の現場で照明部の男性からいじられていたことを告白。女性からの反応を問われていたが、さらりと男性との話にすり替えた松坂。その照明部の男性から「某って言ってたね」と言われたと、この質問を締めた。
木村は女性として感じることを問われ、「女性に観ていただきたい映画だなと思います。 ただ、女性は泣いてしまうので、カップル、ご夫婦で行かれたときはメイクポーチが必須。男性には化粧直しを待っている心の広さと余裕を持っていただいたら、その後のご飯がもっと楽しくなる」と男性へのアドバイスに繋げた。
監督は「時代劇を撮ってきた先輩方から、よくここまでちゃんとした時代劇にしてくれたとお褒めいただいた。『いいじゃん、松坂』と言われました」

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好きな気持ちを原動力に変える!

特別企画として「お仕事相談コーナー」が開かれ、会場からの仕事上の悩みに登壇者が応えた 。最初は松坂桃李ファンの女性から、「桃李さんがステキすぎて、磐音さまがステキすぎて、日中仕事に集中できないのですが、どうしたらいいですか」と苦しい胸の内の告白があると、松坂が「僕も撮影のときに、好きなアニメや週刊ジャンプについて考えてしまうことが確かにあります(笑) 。これが終わったらアニメを見る、これが終わったらコンビニに行ってジャンプを買おうとその気持ちを原動力に変えると、目の前の仕事に対して集中して、あっという間に時が過ぎると思います」と答えた。

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初めての環境に馴染むには名前を呼ぶことが大事

続いて、4月から働き始めた新社会人が「みなさんは新しい環境にはすぐに馴染めますか」と質問をした。それに対して、木村が「初めての環境は大変ですよね」と相槌のようなコメントをすると、 松坂が「我々は派遣みたいなものですから」と言った後、「スタッフさん同士が何と呼びあっているかをさり気なく聞いたりして、その名前で呼んでみたり、スタッフさんが会話で何かで盛り上がっていたら、自分もちょっと入ってみたりする。仕事に向き合っていれば心配なくスムーズに時間が経てば馴染んでいるじゃないでしょうか」。木村も松坂の答えに賛同し、「名前って魔法がありますよね。 積極的に名前を呼ぶと絆は強くなる」と答えると、質問者が「名前を早く覚えます」と返事をした。
ここで、松坂たちはいったん降壇し、大きな大入り袋を持って会場中央に再登場。フォトセッションをした後に、松坂が「本日はみなさん、ありがとうございました。こうやってもう一度舞台挨拶ができるということはみなさまの応援のおかげだと思っております。これだけ多くの方に支えられているんだなと改めて実感しております。もっともっと時代劇が多くの方に見てもらえるようにこれからも自分自身も精進していこうと思っておりますので、ぜひともこの『居眠り磐音』応援のほどよろしくお願いいたします」と締めて、大盛況のうちに幕を下ろした。
(取材:白石映子・堀木三紀、文:堀木三紀)

『僕はイエス様が嫌い』奥山大史監督インタビュー

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デビュー作から各国の映画祭で異なる反応を学べた幸運

公開初日から満席の快挙。その後も口コミ効果か日本有数のシネコンで好調な入りが続いている『僕はイエス様が嫌い』。鮮やかな監督デビューを飾った奥山監督に話を聞いた。

《プロフィール》
奥山大史(おくやまひろし)
1996年生まれ。映画美学校入学時から監督志望で、お笑いコンビ「FUJIWARA」の原西孝幸主演の短編『白鳥が笑う』(2015)、大竹しのぶ出演の短編『Tokyo 2001/10/21 22:32-22:41』(2018)を製作。GUのテレビコマーシャルも手がけた。
青山学院大学在学中に製作した長編デビュー作『僕はイエス様が嫌い』が、世界三大映画祭に続き権威があるとされるサンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を受賞。第29回ストックホルム国際映画祭の最優秀撮影賞、第3回マカオ国際映画祭のスペシャル・メンションなど受賞を重ねた。既にフランス、スペイン、韓国での公開が決定している。


監督:監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
出演:佐藤結良、大熊理樹、チャド・マレーン、木引優子、佐伯日菜子、ただのあっ子、二瓶鮫一、秋山建一、大迫一平、北山雅康

祖母と暮らすことになった少年ユラは、東京から地方のミッション系の小学校に転校する。毎日の礼拝に困惑する彼の前に、とても小さなイエス様が姿を現す。ユラ以外の人には見えないが、いつも彼の願いをかなえてくれるイエス様をようやく信じかけた矢先、彼に苦難が降り掛かる。

作品紹介 http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/465919453.html



ーー受賞おめでとうございます。映画祭上映では各国で反応が分かれたそうですが、どのように違いましたか?

上映された5カ国では、マカオが宗教文化が最も根付いていましたね。事前に入る質問に宗教的なものが多いので分かるんですよ。アイルランドのダブリンでは宗教的な質問は少なく、日本の映画自体に興味があるらしく、小津監督に関する質問とか聞かれました。他、スペイン、スウェーデンなど、カソリックの国とプロテスタントの国の違いがあるのかな?とも思いましたが、どこの国でもクリスチャンである観客に認められたのが嬉しいです。
共通していたのは、どの国もイエスが出てくるたびに爆笑が起こるんですよ(笑) 如何にも”ジーザス”という感じではなく、コミカルな動きをするのが面白かったみたいです。こちらは神に対する誤解を招きたくないと思ったのですが、その点の反発はありませんでした。

ーー紙相撲とか日本独特の遊びだと思うのですが、分かったのでしょうか?

分かったみたいですよ。笑ってましたね〜。それから紙幣=お金だということも分かったみたいです。お金は各国共通の概念ですからね。

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選んだ子役に共通した点

ーー子役たちの演技が自然体でいながら、きちんと台詞が聴き取れる発声をしていて感心しました。どのように選んだのですか?

70人くらいオーディションしました。玩具を与えてのびのびと遊んでるところを撮影したいと思っていました。主役の結良くんはずっと撮っていたい、という気持ちになったんです。

ーーそれはどういうところが決め手になったのでしょう?

小さい頃の自分に似てるというか…。別に敬語が使えるからいいという訳ではないんですが、結良くん以外でも大人に対してきちんと敬語が使える子を結果的に選びました。

ーー今のお答えで分かりました!どの子役も品が良いんですよね。メディア擦れしていないというか…。興味深いお話ですね。

台詞の音声については、自主製作では珍しくガンマイクだけではなく、一人一人にピンマイクを付けたから明瞭に聞こえたのではないかと思います。スタッフは以前から知っている人ばかりだったので、僕の方針を分かっており、音声・音量も理解してくれていました。
演出面では、リハーサルに時間をかけました。台本を渡さず、説明もしないんです。感情だけを伝えて演じて貰いました。結良くんと友だちがサッカーをする場面では好きに動いて反応したところを撮っています。
大人の俳優さんには脚本は見せましたけどね。

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屋外は基本的に自然光撮影

ーーロケ地はどのように選んだのですか?

群馬県にある雪の中の廃校で撮りました。この映画では雪国の空間といったイメージがずっとあったんです。

ーー撮影がとても美しいですね。元々カメラマン志望だったのですか?

監督を目指して映画美学校に入りました。写真が好きだったのでカメラは撮るうちに写真の延長線上にあり、面白くなったんです。

ーー撮影手法にこだわりはありますか?

構図は頭の中にあるので、なるべく絵コンテには縛られないようにしています。縛られないことで、子役を軸にして自由に動かせたんです。役者を入れた構図を考えています。
物や配色へのこだわりはあります。学校の渡り廊下を子どもたちが袋を持って歩きますが、それぞれどんな色の袋にするか、こだわったつもりです。

ーー自然光撮影のように見えましたが…。

屋外では自然の光線を活かしたいと思って、レフ板も使っていません。影が映ったら映ったでいいと思うんです。室内ではライトを使っています。
なるべく画角を広く取りました。結良くんがおばあちゃんと、おじいちゃんの仏壇へ手を合わせる場面では、仏壇の中へ小さいカメラを仕込んであります。紙相撲とか室内の場面は、窓から棒を付けたカメラで撮ったり、あまりカメラを意識しないで演技してもらうよう心がけました。

ーーワンカット長回しが効果的ですね。

本当は全てワンシーンワンカットで撮りたかったのですが、そういう訳にも出来なくて…。ただ、フィルムっぽい質感にしたいなと思っていました。統一感を出すために望遠で撮ったりしています。後からイエスとの合成をしなくてはならないので、編集のことも視野に入れ、大きな広角レンズを使い、パンフォーカスにしています。

ーー映像が作品世界を雄弁に語っていました。その理由の一端が理解できたような気がします。邦画では暫定1位の傑作だと思っています。これからのご活躍を期待しています。


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☆☆ 話を伺ったのは、晩春の午後だった。23歳の若い監督の門出を祝うようにピンク色の桜吹雪が舞う中、印象的なインタビューとなった。
(取材・撮影 大瀧幸恵)

『メモリーズ・オブ・サマー』アダム・グジンスキ監督インタビュー

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試練にさらされた親子の絆 母親と息子はどうなるのか

映画『メモリーズ・オブ・サマー』は母と子を結びつける特別な絆とその崩壊を軸に、初めての恋や友情、性を取り巻く感情に戸惑う思春期の痛々しさをサスペンスフルに描く。主人公のピョトレックを演じたマックス・ヤスチシェンプスキはワルシャワの小学校に通っていたときにグジンスキ監督に見いだされ、本作が俳優デビュー作。あどけなさが残る少年が精神的に成長していく様が瑞々しい。舞台となった1970年末ポーランドの音楽やファッション、インテリアが見事に再現されているのも見どころである。
公開を前に来日したアダム・グジンスキ監督に物語の着想や作品への思いを聞いた。

<プロフィール>
アダム・グジンスキ監督 Adam Guziński
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1970年、ポーランドのコニンに生まれ、14歳の頃、父親の仕事の都合で中央部のピョートルクフに移る。ウッチ映画大学でヴォイチェフ・イエジー・ハスの指導を受け、短篇「Pokuszenie」(96)を発表。続いて、父親のいない少年を主人公にした短編『ヤクプ Jakub』(97)がカンヌ国際映画祭学生映画部門で最優秀映画賞を受賞したほか、数々の映画祭で賞を受賞する。本作は、2007年に東京国立近代美術館フィルムセンター(現国立映画アーカイブ)で開催された「ポーランド短篇映画選 ウッチ映画大学の軌跡」でも上映された。短篇「Antichryst」(02)を手がけた後、2006年、初の長編映画となる「Chlopiec na galopujacym koniu」を発表。作家の男とその妻、7歳の息子の静かなドラマを描いたこのモノクロ映画は、カンヌ国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門に正式出品された。『メモリーズ・オブ・サマー』はグジンスキ監督にとって長編2作目となる。

『メモリーズ・オブ・サマー』(原題:Wspomnienie lata)

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1970年代末―夏、ポーランドの小さな町で、12歳のピョトレックは新学期までの休みを母ヴィシアと過ごしている。父は外国へ出稼ぎ中。母と大の仲良しのピョトレックは、母とふたりきりの時間を存分に楽しんでいた。だがやがて母はピョトレックを家に残し毎晩出かけるようになり、ふたりの間に不穏な空気が漂い始める。一方ピョトレックは、都会からやってきた少女マイカに好意を抱くが、彼女は、町の不良青年に夢中になる。それぞれの関係に失望しながらも、自分ではどうすることもできないピョトレック。そんななか、大好きな父が帰ってくる。

監督:アダム・グジンスキ
撮影:アダム・シコラ 
音楽:ミハウ・ヤツァシェク、
出演:マックス・ヤスチシェンプスキ、ウルシュラ・グラボフスカ、ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ

2016年/ポーランド/83分/カラー・DCP
配給:マグネタイズ 
© 2016 Opus Film, Telewizja Polska S.A., Instytucja Filmowa SILESIA FILM, EC1 Łódź -Miasto Kultury w Łodzi
公式サイト:http://memories-of-summer-movie.jp/
2019年6月1日(土)より YEBISU GARDEN CINEMA 、 UPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー

作品紹介はこちらから

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―本作は監督のオリジナル作品です。物語の着想を得たきっかけをお聞かせください。

母親と息子、父親と娘という感情的に最も強い親子の結びつきが以前から気になっていました。これが試練にさらされるとどうなるか。
ポーランドでは1970年代後半、父親が母親と子どもを家に残して、外国へ出稼ぎに行くことがよくありました。そこで、この時代の母親と息子でストーリーを考え始めました。
私自身が子どもだった時代ですが、描かれている母親と息子の関係は私が経験したことではありません。子どもたちの関係性に私の周りで起きたことが反映されています。

―監督はウッチ映画大学でヴォイチェフ・イエジー・ハスの指導を受けたとのことですが、ハスの作品は幻想的な手法が取られています。この作品にも何か影響を与えていますか

ハスの指導の下で初めての劇映画を撮りました。ご存知のようにハスはヨーロッパの映画界でとても重要な人物です。ハスは言葉の力ではなく、映像の力で物語ることを学生に教えてくれました。俳優の顔を映す。いろいろなディテールを映す。たくさんのオブジェを組み合わせることで新しい文脈を作っていく。そもそもハスの授業のテーマはセリフなしの映画を作ること。カメラを使って映画の新しい可能性を見せてみろというのが課題でした。
ハスのことを尊敬し、たくさんのことを学びました。だからといって、この作品に直接、影響を与えたというような単純なことでありません。
世界には他にも多くの監督がいます。素晴らしい監督だけれど、私の創作には何の関係もない人もいます。そういう意味で言えば、ハスは私に影響を与えた、多くの監督の1人だとは言えます。

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―白いワンピース、白いテーブルクロス、白いシーツ。これらはアンジェイ・ワイダ監督へのオマージュでしょうか。

ワイダへのオマージュとして、意識的にやっていたわけではありません。ワイダに限らず、いろいろな監督が白に象徴性を込めて使っています。
例えばワンピースが赤いバルシチ(ポーランドの伝統的なスープで、鮮やかな赤色が特徴)で汚れますが、ある種の理想に傷が付くイメージです。ピョトレックがテーブルでバルシチをこぼすかどうか迷っているのは、母親が家を出て行ってしまうのを止めることができるかどうかというメタファ。洗濯が終わったシーツを2人で両端を持って広げ、引っ張ってから畳む作業でピョトレックが手を放してしまうのも2人の関係性の現れ。そういうものを意識下に伝えたい。
ワイダに限らず、タルコフスキーやフェリーニといった監督がオブジェや色彩を機能させることでメタファ化を行っている。つまり、私とワイダが同じ手法を使ったのです。

―ピョトレックの行動には倫理的選択があるのでしょうか。

ピョトレックを動かしているのは倫理観ではなく、感情です。ピョトレックは湖で知り合ったメガネの男の子から見ているよう頼まれたけれども、こっそり逃げてしまいました。彼とは住んでいる世界が違う、彼とは関わりを持ちたくないという感情的な判断が働いたのです。良いか悪いかを考え抜いた末に判断したわけではありません。
その後で子どもが溺れて亡くなる事故が起こりました。ピョトレックは自分が見ていなかったから、あのメガネの男の子が溺れてしまったのではないかという罪の意識に襲われます。別の世界の子どもだから、関わり合いを持ちたくないという単純なエモーションが道徳的な責任感から罪悪感に転じる。つまり、逃げたときではなく、後になって生まれてきたのです。それは移動遊園地で再会するまで続きました。再会は彼の罪悪感が清められる瞬間です。

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―湖での水難事故の際、カメラワークはピョトレックが人垣の合間から覗くような視点になっていました。このカメラワークにはどんな意味があるのでしょうか。

人垣の間から見えるのは、断片に過ぎません。それはこの作品、全体に言えること。何か隙間から物事を見るような、少年の視点で全ての物事を見ていくという方法論を貫きました。

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―夜、出掛けた母をピョトレックが追っていたときに小鹿が現れました。あの小鹿は何を象徴しているのでしょうか。

ピョトレックは12歳です。まだ大人になり切っていません。大人の世界で起きていることを見ることができないのです。
つまり、子どもの側にいるという境界線のシンボルとして、小鹿を出しました。ピョトレックは鹿が象徴するような子どもの世界にいる人間であって、夜、母親たちが何をやっているのか、何が起きているのかを見ることができないのです。

―ラスト近くにマイカと出掛けた以降、ピョトレックの唇が切れていました。

ピョトレックがマイカと2人だけでいたときに何かが起きたことを暗示するような痕跡を残そうと思ったのです。余計なものを具体的に指示し過ぎたかもしれません。

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―家族で回転ブランコに乗るシーンが印象に残りました。

大きな都市に移動遊園地がやってくる。そこに行って、メリーゴーランドや回転ブランコに乗るのは子どもにとっての憧れ。移動遊園地は中東欧社会に娯楽があまりなかった時代の娯楽のシンボルです。幸せの象徴でもありました。それはポーランドに限らず、ハンガリー、ルーマニア、チェコ、ロシアでも同じでした。

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―次はどのような作品を考えていますか。

実はシナリオを書き終わったところです。多くは語れませんが、少しだけお話しますと、主人公は35歳くらいの女性。彼女は父親が亡くなったばかりで、まだ心の整理がついていません。そんなときに、父親と瓜二つの男性と出会います。それをきっかけに自分にとって父親は何だったのかと考え始め、精神的に不安定になりますが、そこから立ち直っていく姿を描いています。
(取材・写真:堀木三紀)