『誰もがそれを知っている』公開記念 高橋ユキ、中瀬ゆかりトークイベント

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『別離』『セールスマン』で2度のアカデミー外国語映画賞に輝いたイランの名匠アスガー・ファルハディ監督。待望の最新作『誰もがそれを知っている』は15年前のスペイン旅行で目にした壁に貼られた行方不明の子供の写真に着想を得て、ずっと温めてきた物語だという。スペインを代表する国際的スター俳優夫婦のペネロペ・クルス、ハビエル・バルデムを主演に迎え、オールスペインロケで挑んだ。
このたび、6月1日公開を前にトークイベントが開催された。登壇したのは、フリーライター高橋ユキと新潮社出版部長の中瀬ゆかり。高橋は2013年に山口の集落で起きた連続放火殺人事件を2017年に取材したルポ「つけびの村」が“最恐の村サスペンス”としてSNSで話題を呼び、noteの有料記事が8000購入を突破、書籍化が決定した。一方、中瀬はアスガー・ファルハディ監督の大ファンであり、「事件マニア」として数々の取材記事を取り上げてきた。高橋と中瀬がスペインの村と日本の村で起きた事件の共通点について語った。

『誰もがそれを知っている』(英題:EVERYBODY KNOWS)
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スペインの故郷で久々に再会した家族と幼なじみ。しかし、結婚式で起きた娘の失踪をきっかけに、隠していたはずの真実をめぐり家族の秘密と嘘がほころび始める…。

監督・脚本:アスガー・ファルハディ
出演:ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、リカルド・ダリン 

2018年/スペイン・フランス・イタリア/スペイン語/133分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch//日本語字幕:原田りえ
配給:ロングライド  
© 2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINÉMA - UNTITLED FILMS A.I.E
公式サイト:https://longride.jp/everybodyknows/
6月1日(土) Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開


ファルハディを観ていない人にとって一番入りやすい作品

作品の上映が終わり、興奮冷めやらぬ会場に高橋ユキ、中瀬ゆかりが登壇した。まず高橋が「つけびの村と共通点があるのか、半信半疑で見始めたが、見終わった後は共通点があると感じた」と話した。そして、誘拐劇というよりも村における噂がテーマになっていると指摘し、「田舎の噂は経済状況について、詳しく把握される傾向があり、この映画でもそういうシーンがよく出てきて、万国共通だと思った」と語った。
続いて、ファルハディ監督の大ファンで、これまですべての作品を見てきた中瀬は「余韻としては『彼女が消えた浜辺』が一番近い」と分析。主演の二人がトップスターであり、ファルハディ監督作品に見られる多くの要素が入っている本作を「ファルハディを観ていない人にとって一番入りやすい作品」と位置付けた。その上で「みな何かを失い、幸せになっていない。村の閉鎖的な環境の中で、出ていける者と出ていけない者がいる。残らざるを得ない者はこれからもまた新たな秘密が加わったこの村で、あの事件のことをずっと囁き続けて、10年後20年後も昨日起こったことのように噂するのだろうと考えてしまう」と振り返った。

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村の閉そく感とその中での筒抜け感

ここで、高橋が2013年の夏に起きた『つけびの村』の事件について簡単に説明した。限界集落に住む60代の男性がある夫婦を殺して家に火をつけ、その裏手の家でも女性を殺して火をつけて、家を燃やした。さらに別の家に忍び込んで2人殺害し、 “平成の八つ墓村”と言われていた事件である。一審、二審とも死刑判決が下され、最高裁で継続して審議中。加害者は妄想性障害と診断されているが、高橋は個人的には嫌がらせがあったのかが気になって取材をしたという。
つけびの村事件の話を受け、中瀬はファルハディ監督が土地にこだわり、作品の舞台は都会でなく村でなくてはならなかったと言っていることから、「村独特の人間関係、閉そく感がこの作品の大きなテーマ」だと話す。そして、「サピエンス全史」を取り上げ、この本で人類の言語は噂話と陰口で発達したと書かれているといい、「人間は言語の獲得によって、今、そこにいない人や物について、時空を超えて話せるようになり、危険や情報を共有していった」と動物と人間のコミュニケーションの違いを指摘し、噂話と陰口が人類の歴史と密接な関係にあることを説明。「人間が会って話しているとき、8割はそこにいない人の話と言われている」と付け加えた上で本作のタイトルを引き合いに出し、他人が知らないはずの個人情報を意外に多くの人が知っていることについて触れた。それに対し、高橋も「(つけびの村やこの作品の村が)なぜか筒抜けみたいな感じ」と同調した。

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キャラクターの濃さが本作の魅力

さらに中瀬は本作ではお金の話が重要になっていると話をした後、ラウラが妹の結婚式で村に帰ってきたとき、美人でお金持ちオーラ全開だったために嫌な雰囲気が感じられたとし、「みんなの目つきがけっして祝福していない。結婚式の場面でさえ、村人の目は厳しかった」と話すと、高橋もその点が作品はリアルだと共感し、「めでたい話のときに親戚の人が集まると、『でも、あれはなあ』みたいな話になるのに似ている。ぞっとするものがある」と続けた。
さらに作品の具体的な展開について触れながら、中瀬は「1人1人ちゃんと描かれていて面白い」とキャラクターの濃さが本作の魅力とし、「ラウラの姉マリアナがおばさんで、その夫フェルナンドがおじさんだと思って、パンフレットで年齢を確認したら、フェルナンドは私と同じ歳で、マリアナは年下でした(笑)。これがリアル。そちらもショックでした」と会場の笑いを誘った。

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SNSの発達により、噂話や陰口のスケールが大きくなった

続いて裁判の傍聴をしている高橋に、「噂話が事件の引き金になったものがあるか」と中瀬が尋ねると、金銭目的の犯罪は噂を鵜呑みにしたものが多いと高橋が指摘。中瀬も「Facebookなどでリア充アピールするよりも、『金、ないよ。またキャッシングしちゃったよ』と逆のアピールをした方が今の世界はリスク管理になる」と返し、会場にはまた笑いが起こった。
そのままSNSの発達について話が及んだ。高橋が「(噂話や陰口の) 場所が変わってきたのを感じる」と話すと、中瀬は噂話や陰口のスケールが変わってきたとし、「立ち聞きしてハッとなるシーンがドラマにもあるが、昔は聞かなくていいことが耳から入ってきた。今は活字で自分の悪口を見る。思わず画面の前で声を出してしまうこともある」といい、「エゴサーチはできるだけしないようにしているが、誰かに言われて気になって見てみると、ろくなことは書かれていない。あのパンドラの箱を開けてはいけない」と自らの話を出した。

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45歳で二児の母とは思えないペネロペ・クルス

高橋も中瀬も地方出身で、田舎の閉そく感が大学進学を目指す勉強の原動力だったという話になり、“ラウラもパコではなく、アレハンドロなら村を抜け出せると考えたのでは”と推測。さらに、(ラウラを演じた)ペネロペ・クルスは45歳の二児の母でありながら美貌と体型を維持していることへの賞賛に女子トークが展開。中瀬は「ファルハディ監督の映画に出てくる女優は全員美人。好きな顔なのか、美人ばっかり使うから、顔が見分けにくい。最初の頃、みなさん混乱しませんでしたか」と会場にも話題を振った。
最後に中瀬が「ファルハディ監督は高橋の好みの映画監督ではないか」といい、高橋も「他にも観てみようと思った。」と応えて、イベントは幕を閉じた。

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『誰もがそれを知っている』トークイベント
日時:5月20日(月)20:45〜21:15 ※上映後トークイベント
場所:ユーロライブ(渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F)
登壇:高橋ユキ(フリーライター/「つけびの村」著者)、中瀬ゆかり(新潮社出版部長)

<プロフィール>
【高橋ユキ】
1974年福岡県生まれ。2005年、女性4人で構成された裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成。殺人等の刑事事件を中心に裁判傍聴記録を雑誌、書籍等に発表。現在はフリーライターとして、裁判傍聴のほか、様々なメディアで活躍中。著書に「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(新潮社)、「暴走老人・犯罪劇場」(洋泉社)、「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)、「木嶋佳苗劇場」(宝島社)ほか。Twitterアカウント:@tk84yuki
▷ルポ「つけびの村」note記事URL:https://note.mu/tk84yuki/n/n264862a0e6f6

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【中瀬ゆかり】
1964年和歌山県生まれ。「新潮」編集部、「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部長。『5時に夢中!』(TOKYO MX)には番組開始初期からレギュラー出演。他にも、『とくダネ!』(フジテレビ)などにコメンテーターとして出演している。

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