『僕はイエス様が嫌い』奥山大史監督インタビュー

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デビュー作から各国の映画祭で異なる反応を学べた幸運

公開初日から満席の快挙。その後も口コミ効果か日本有数のシネコンで好調な入りが続いている『僕はイエス様が嫌い』。鮮やかな監督デビューを飾った奥山監督に話を聞いた。

《プロフィール》
奥山大史(おくやまひろし)
1996年生まれ。映画美学校入学時から監督志望で、お笑いコンビ「FUJIWARA」の原西孝幸主演の短編『白鳥が笑う』(2015)、大竹しのぶ出演の短編『Tokyo 2001/10/21 22:32-22:41』(2018)を製作。GUのテレビコマーシャルも手がけた。
青山学院大学在学中に製作した長編デビュー作『僕はイエス様が嫌い』が、世界三大映画祭に続き権威があるとされるサンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を受賞。第29回ストックホルム国際映画祭の最優秀撮影賞、第3回マカオ国際映画祭のスペシャル・メンションなど受賞を重ねた。既にフランス、スペイン、韓国での公開が決定している。


監督:監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
出演:佐藤結良、大熊理樹、チャド・マレーン、木引優子、佐伯日菜子、ただのあっ子、二瓶鮫一、秋山建一、大迫一平、北山雅康

祖母と暮らすことになった少年ユラは、東京から地方のミッション系の小学校に転校する。毎日の礼拝に困惑する彼の前に、とても小さなイエス様が姿を現す。ユラ以外の人には見えないが、いつも彼の願いをかなえてくれるイエス様をようやく信じかけた矢先、彼に苦難が降り掛かる。

作品紹介 http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/465919453.html



ーー受賞おめでとうございます。映画祭上映では各国で反応が分かれたそうですが、どのように違いましたか?

上映された5カ国では、マカオが宗教文化が最も根付いていましたね。事前に入る質問に宗教的なものが多いので分かるんですよ。アイルランドのダブリンでは宗教的な質問は少なく、日本の映画自体に興味があるらしく、小津監督に関する質問とか聞かれました。他、スペイン、スウェーデンなど、カソリックの国とプロテスタントの国の違いがあるのかな?とも思いましたが、どこの国でもクリスチャンである観客に認められたのが嬉しいです。
共通していたのは、どの国もイエスが出てくるたびに爆笑が起こるんですよ(笑) 如何にも”ジーザス”という感じではなく、コミカルな動きをするのが面白かったみたいです。こちらは神に対する誤解を招きたくないと思ったのですが、その点の反発はありませんでした。

ーー紙相撲とか日本独特の遊びだと思うのですが、分かったのでしょうか?

分かったみたいですよ。笑ってましたね〜。それから紙幣=お金だということも分かったみたいです。お金は各国共通の概念ですからね。

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選んだ子役に共通した点

ーー子役たちの演技が自然体でいながら、きちんと台詞が聴き取れる発声をしていて感心しました。どのように選んだのですか?

70人くらいオーディションしました。玩具を与えてのびのびと遊んでるところを撮影したいと思っていました。主役の結良くんはずっと撮っていたい、という気持ちになったんです。

ーーそれはどういうところが決め手になったのでしょう?

小さい頃の自分に似てるというか…。別に敬語が使えるからいいという訳ではないんですが、結良くん以外でも大人に対してきちんと敬語が使える子を結果的に選びました。

ーー今のお答えで分かりました!どの子役も品が良いんですよね。メディア擦れしていないというか…。興味深いお話ですね。

台詞の音声については、自主製作では珍しくガンマイクだけではなく、一人一人にピンマイクを付けたから明瞭に聞こえたのではないかと思います。スタッフは以前から知っている人ばかりだったので、僕の方針を分かっており、音声・音量も理解してくれていました。
演出面では、リハーサルに時間をかけました。台本を渡さず、説明もしないんです。感情だけを伝えて演じて貰いました。結良くんと友だちがサッカーをする場面では好きに動いて反応したところを撮っています。
大人の俳優さんには脚本は見せましたけどね。

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屋外は基本的に自然光撮影

ーーロケ地はどのように選んだのですか?

群馬県にある雪の中の廃校で撮りました。この映画では雪国の空間といったイメージがずっとあったんです。

ーー撮影がとても美しいですね。元々カメラマン志望だったのですか?

監督を目指して映画美学校に入りました。写真が好きだったのでカメラは撮るうちに写真の延長線上にあり、面白くなったんです。

ーー撮影手法にこだわりはありますか?

構図は頭の中にあるので、なるべく絵コンテには縛られないようにしています。縛られないことで、子役を軸にして自由に動かせたんです。役者を入れた構図を考えています。
物や配色へのこだわりはあります。学校の渡り廊下を子どもたちが袋を持って歩きますが、それぞれどんな色の袋にするか、こだわったつもりです。

ーー自然光撮影のように見えましたが…。

屋外では自然の光線を活かしたいと思って、レフ板も使っていません。影が映ったら映ったでいいと思うんです。室内ではライトを使っています。
なるべく画角を広く取りました。結良くんがおばあちゃんと、おじいちゃんの仏壇へ手を合わせる場面では、仏壇の中へ小さいカメラを仕込んであります。紙相撲とか室内の場面は、窓から棒を付けたカメラで撮ったり、あまりカメラを意識しないで演技してもらうよう心がけました。

ーーワンカット長回しが効果的ですね。

本当は全てワンシーンワンカットで撮りたかったのですが、そういう訳にも出来なくて…。ただ、フィルムっぽい質感にしたいなと思っていました。統一感を出すために望遠で撮ったりしています。後からイエスとの合成をしなくてはならないので、編集のことも視野に入れ、大きな広角レンズを使い、パンフォーカスにしています。

ーー映像が作品世界を雄弁に語っていました。その理由の一端が理解できたような気がします。邦画では暫定1位の傑作だと思っています。これからのご活躍を期待しています。


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☆☆ 話を伺ったのは、晩春の午後だった。23歳の若い監督の門出を祝うようにピンク色の桜吹雪が舞う中、印象的なインタビューとなった。
(取材・撮影 大瀧幸恵)