『99歳 母と暮らせば』谷光章監督インタビュー

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谷光章(たにみつあきら)監督 プロフィール 
1945年香川県生まれ。記録映像を撮る会社に10年務めたのち、フリーの映像作家となる。『華 いのち 中川幸夫』(2014年)、『DX(ディスレクシア)な日々 美んちゃんの場合』(2012年)などを発表するかたわら、発達障害の子どもたちに関わり続けている。

作品紹介 
71歳の谷光監督の母千江子さんは99歳。認知症が進んで目が離せなくなってきた。谷光監督は仕事の場を実家へ移し、同居して介護を始めた。料理を作り、下の世話をし、デイケアへ送り出し、と気負うことなくこなしている。千江子さんは、物忘れはあっても食欲旺盛、社交的で明るい。母と息子の関西弁の会話は漫才のようで、思わず笑ってしまう。老々介護の一年間を淡々と映している。体調の波もうまくやり過ごし、二人手をつないで桜を愛でる。この穏やかな日々が続きますように。(92分)
★2019年6月8日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
(C)Image Ten.

◎インタビュー

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―拝見してまず思ったのは、息子はお母さんに優しいなぁということでした。
介護にあたる前から谷光監督とお母さんの関係がとても良かったのだろうと想像しました。

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いやーどうなんですかね。僕は3人兄弟の末っ子なんです。ですから小さいころは甘えん坊でした。兄夫婦は母と同じ敷地内に、姉は今もピアノ教師をしていて近所に住んでいます。姉は長女ですからしっかりしなくては、と思うんでしょうか。母への接し方を見ているとやっぱりきついんですね。自分の常識や感覚と違うところは許せないところがあるのかなと思います。ですから何度か、「きちんと認知症のことを勉強してお袋と接してよ」という風には言っているんですけど、「そんなんわかってるわー」と(笑)。
認知症の人は同じことを何度も何度も言ったりしたりするとか、我々の常識から外れたことはいっぱいあるわけです。そういったことに対して叱ったり、怒鳴ったりしても決して良くなるわけはないんですね。そのへんきちっと踏まえて、じゃあどんな風に接してあげれば介護する側もされる側も不安なく、不愉快な思いをせずに日常を送れるのかなと、ずっと思いながら母と接しているんですけどね。
それぞれの立場によっては、そういうところがなかなか身につかないのか、理解しにくいのか、つい口に出てしまうようです。

―たぶん「しっかりしたお母さん」というこれまでのイメージから外れていくのが、娘としてはやっぱり悲しいし納得できないのだと思います。どこも娘のほうが母親にきつくなりがちと思います。
監督は認知症についてどうやって勉強されたのですか? 身体介護のトレーニングなどしたことがありますか?


勉強というほどのことはないんです。認知症についての本を何冊か読んではいます。
トレーニングはしていないですね。それで、映画を観たケアマネージャーさんに言われました。母がベッドの下で寝ているときに、私が抱えてベッドに戻すシーンがあるんですが、「あれはダメ、基礎ができてない」と(笑)。こちら学んだことがなくて全く素人なのでね。

―男性は力があるので、つい力任せでやってしまうんですよね。私は自分が腰痛になりやすいので、身体を密着させてどちらも楽なように気をつけていました。これから先もあることですし、監督もぜひ要領を身につけられるといいと思います。


ときどき風呂に入りますが、1人ではもう出られないんです。私が呼ばれて抱えてあげようとするんですが、これがなかなか。うちの母は60キロくらいあるんですよ。重いし、すべりますし怖いですよ。

―お風呂の介助はできるだけ二人でされるのが安心ですよ。裸だと支えにくいですから。
介護をするのに、他の兄弟との分担が難しいかと思います。それは監督が中心になって調整されているのですか?


私が同居する前は兄夫婦がデイケアに出かける準備などしていました。べったり世話をすることはできなかったので、昼食は業者に頼んだりしていたようです。今も私がいないときは、兄夫婦に代わってもらっています。
姉はわりと近いところに住んでいて、このところよく顔を出してくれます。本人が骨折したり、転んだりいろんなことがあって自分が弱ってきたからかもしれないです。来てくれるのはいいんですが、母が太らないようなメニューを考えているのに、材料や食べものを持ってくるんです。母は、あれば食べてしまうので、もう食べすぎなんです(笑)。

―お母さんはカメラを向けられるのを全く意識していないように見えましたが、イヤとおっしゃることはなかったですか? これまでも家族の映像を撮ってこられたのでしょうか?

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カメラを置いて撮影したのは今回が初めてですが、ほとんど気にしていなかったですね。ベッドからトイレには廊下を伝っていくのですが、つき当たりのところに三脚につけたカメラが置いてあるんです。それを見たときに不思議がって「あれ、なんね?」と言っていました(笑)。普段はなるべく目につかないように注意して置いていました。

―すごく自然でしたね。監督が映っていらっしゃるシーンも多いので、どこで固定しているんだろうと思っていました。三脚なんですね。

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三脚を立てて、多少寄り引きもありますので動かしながら、これくらいの画角なら入るかな、という感じですね。

―これまでたくさんの映像作品を作ってこられましたが、他人を撮るのと身内のお母さんを撮るのは何か違いましたか?

他の仕事のときはこちらである程度頭の中で組み立てて、それで臨んでいます。それでもドキュメンタリーの場合は、まあなかなか思い通りには相手だって動いてくれなかったりします。それは臨機応変にやるしかないんですが。
母の撮影のときは、そういった撮影技術などには重きを置かないで、ほんとに自分たちの自然な生活の様子をおさめていきました。この先ずっと撮っていって、どうなるか分からない。全くありのままを1年間撮りました。それを再構成してまとめました。ですから、正直言って特に起承転結があるわけではないんですね。わりと淡々と日常の生活を記録すことに徹しました。

ーお母さんは寝ているだけでなく、いろいろなところに出かけられるし、メリハリのある生活ですね。ハモニカを吹くし、達筆だし、明るくて楽しい方で、とても被写体として魅力がありました。
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確かにいろんなことに手を出していました(笑)。私もずっと今まで見てきましたので、母の歩んできた人生を入れていけば、それなりに見ていただける作品になるかなと頭におきながら撮影していました。

―おうちにも今までのお母さんの歴史のようにあちらこちらに記念品がありましたね。


そうなんです。もうね、自分の気に入ったものがあると、置いておきたいんです。小さいこまごましたものがたくさん、居間の壁なんかそういうものでうずまっています。いろんなところに自分の思い出のものがあります。それはこちらで片づけられません。そういう環境が母にとって気持ちよく穏やかなものになっているならば、まあいいかな、と。

―お母さんは昔から、何にでも興味があって活発な方だったから、今もお若いのかな。ほんっとにお若いですよね。


昔スポーツやっていたり、専業主婦といっても洋裁習いに行ったり、琴や三味線もやったり、クロスステッチにはまり込んだり、短歌やったり…。非常に幸せですよね。なかなか主婦でそんなにいろいろやれないと思うんですけどね。

―お身体丈夫なんですね。まだまだ大丈夫ですね!


そうですね。ときどき近くのお医者さんで診てもらったりしますけど、内臓はもう全然大丈夫ですよ、といつも言われます。

―親子とはいえ、長く介護をしていると途中で疲れたり、投げ出したくなったりしませんか?


5年になりました。意外と私は料理を作ったりするのも、楽しんでやるほうなんです。兄夫婦も週に2回3回と来て着替えなどやってくれますし、下の世話もポータブルトイレなど使って片づけます。そういうことがルーティンになっていますし、それがいやだとかはないですね。

―出ないより出るほうがいいですしね、私も「出ないと大変、出てくれてよかったね」と言ってました(笑)。

やっぱりそういった日常の接し方によって、介護される方もある程度変わっていくのかなと思いますね。認知症の人によっては、介護されててもときどき暴言を吐いたりすることがあるんですけども、それも周囲の環境や接し方によって、そのときの怒りとか不満とかをうまく吸収したり、違うことに向けてあげたりできます。忘れるんですよね(笑)。
今、週2回デイケアサービスに通っていますが、「今日雨降っててしんどいからもう行かん!」と駄々こねるんですよ。こっちもたまに出かけてくれたほうが息抜きできますしね、なんとか行ってもらう方法を(笑)。しばらく置いてから違う話題を出します。「お母さん顔まだ洗ってないよ。洗って」と、顔洗うと一応鏡の前に座って、なんか(お化粧)しだしたりするんで、しめしめと(笑)。

―今、息抜きとおっしゃいましたが、ストレスをためないよう息抜きや気分転換に、これというものがありますか?

仕事をやるときと手を抜くところ、ズボラなところももちろんありますんでね。しんどいなぁと思ったら、ちょこっと音楽を聴いたり、テレビつけてみたりとか、それなりの解消法です。

―監督は今も映像のお仕事をなさっているので、介護とは全く違う世界もあって、それも気分の切り替えになりますね。

そうですね。編集に2時間3時間とかけていると、あきてしまいますので、母がいれば「ちょっと甘いもんでも食べる?」と一緒のお茶の時間作ったりしています。

―いちばんホロッとしたのは、お母さんと一緒に桜を見る場面です。来年私も親と一緒に桜が見られるかな、とか、亡くなった母と一緒に見たかったなと思って。自分が来年どうかというのもあるんですけど(笑)。日本人にとって桜って特別なんですね。

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独特ですよね。自宅のちょこっとした桜とすぐ近くの公園の山桜、立派な桜があって毎年楽しませてもらっています。ほんとにあと何年くらい見られるかわからないですけどね。

―お母さんが「同窓会の案内が来てももう誰もいない。もう人生終わり~」なんてあっけらかんとおっしゃっていて(笑)明るいですよね。もちろんこの映画をご覧になったと思いますが、なんとおっしゃっていましたか?

自宅で見せて、市民ホールでも見せて、もう3回は見ているんですが、覚えていないんですよ(笑)。

―見てすぐに感想はおっしゃらなかったですか?


見てすぐは聞いたことがないなぁ。

―あの最後の場面が最新でしょうか? 映画は時系列ですか?


うーん、必ずしも時系列にはなっていないですね。最後は秋の終わりぐらいです。

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―お孫さんが最初のお誕生日のお祝いのシーンに登場していましたが、普段の介護に携わったりは?

全くないですね。姉の子どもが近くにはいますが、誕生日などに顔は出しますが、普段は没交渉ですね。

―今、お年寄りと一緒に住んでいる人が少ないですよね。病院や施設に入る方多くなっていますし。
自分もそうですが、年を取っていくのを見せることも教育というか、役目ではないかと思うんです。


当然そうですね。昔は大家族で三世代が一緒に住んでいるから、どんな風に年を取って衰えていくか。死ぬ場面もみんなちゃんと見て経験するわけです。それがほとんど核家族になってしまって見られないですからね。老いや認知症に対する感覚を、若い人たちはなかなか掴めないままです。
それで、例えば書面だけで勉強して介護施設に入って、実際にそういった人たちに接すると、この前あった虐待事件のような対応になってしまうのかな、という感じがします。
よく言われていますけど「2025年には3人に1人は65歳以上、そのうちの5人に1人は認知症」って。

―はい、みんな入っています。予備軍です(笑)。

周りにそういう人たちが必ずいる社会になってくるんです。そんな中でちゃんとした認識を持つとか、どんな対処をすればいいかということを「自分とは関係ない」というのではなくて、同じ社会の中で生きていく人間として最低限は知っておいてもらいたいですね。

―そういうお気持ちは監督が介護を始める前と後では変化しましたか?


基本的にはそんなに大きく変わっていないと思います。確かに認知症に対してきちんと向き合って、それなりに考えたり書物を読んだり、ということでは自分なりに勉強して知識を得てきたとは思います。
私は20年近く発達障害の子どもたちを支援するNPOと関わってきました。発達障害の子どもたちというのは、どうしても表に出る症状で判断されがちです。そして戸惑ったり叱ったり、追い込んだり、そういう形が今まで多かったんです。彼らのそういった行動には、必ず彼らなりの理由があるわけです。それをちゃんと理解して、彼らの持っているいいところを引き出してあげれば、立派に社会の中で生きていけると思っています。
それは、認知症の人にも共通しています。その人の個性、性格、好き嫌いとか、どんなことをされたら嫌なんだとかを、一人の人間としてよくわかっていれば、接し方は自ずと変わってくると思うんですよ。

―認知症はわかりませんが(運よく免れるかもしれない)、年だけはみんな公平に取りますね。上手に年を取るための秘訣はなんでしょうか?


「上手に年取る」ね、どうしたらいいんですかね? なんかいい答えがあったら聞きたいなぁ(笑)。

―好きなことをたくさん持っていることかな、と思うんですけど(お母さんみたいに)。

好きなこと、そうですねえ。私もこういう業界に属しているのは昔から映画が好きだからなんですが、好きなことに携わってこられたというのは、やはり幸せな人生を送っているなと思いますね。

―それが一番ですよね。私たちもそうです(笑)。
それで私たちがいつもしている質問なんですが、この道を選ばれたきっかけになった映画はなんですか?


いやーいろいろあって、ありすぎて困っちゃいますね(笑)。『市民ケーン』『第三の男』チャップリンの映画なんかも大好きでしたし、エノケンの映画も好きでしたし。黒澤明の映画とか、それはもう凄いなぁと思いながら見たりとかね。だから漠然と映画の世界にあこがれていたけれども、私がこの世界に入ろうとしたころは、映画業界が斜陽でそのどん底でした。大手五社が全く人なんか採っていない時代でした、それでもなんとか映画に関わりたいな、ということで探しているうちにひっかかったのが記録映画を作っている会社でした。そこで10年くらいニュース映画に携わりました。それからフリーの演出家になって民放各局で仕事をしました。NHKさんはエンタープライズのほうで本局ではなかったです。
映画はフィルムからビデオ、それからデジタルになりました。フィルムのときは映画ってすごくお金がかかって、人も何十人と関わって映画を撮るのは大変だったんですよね。それが今は嬉しいことに私みたいになお金がない人も作れる、若い人もどんどん作れるような時代になっています。

―これから作りたい映画は?


う~~この年ですからね(笑)、ドキュメンタリー畑を来たので、またいいテーマが出てくればそれにのめりこむという可能性は無きにしも非ずですけど。ほんとはね、オリジナルでミュージカルがやりたいんです。

―あらー、素敵ですねぇ。


それはね、ずっと「夢のまた夢、叶わぬ夢」です。
日本もやっとミュージカルに対してそんなに抵抗がなくなってきまして。この前町の商店街でミュージカルを皆さんに見せるというのがあったんです。どこの町だったかな。

―町を巻き込んだパフォーマンスっていう感じでしょうか? その舞台裏を撮影したドキュメンタリーも観たいですね。

町の活性化みたいなことで、そういったことを仕掛けるところがあれば、ドキュメンタリーも作れますね。歌と踊りが好きな市民も巻き込んで。蜷川幸雄さんも高齢者を俳優に使って舞台を作っていらしたしね。

―夢をぜひ実現なさって、そのときはまた取材させてください。長時間ありがとうございました。


【 取材を終えて 】
自宅介護歴10年の私、ついあれこれとおしゃべり弾んでしまいました。世のお父さんたち、息子たちに谷光監督を見習ってほしいです。女性陣におまかせで「口は出すけど手は出さない」そこのあなたですよ。
お二人が病気のびの字もなく、お元気なのが明るい介護ができている要因ですが、前向き、楽天的なお母さんの性格を谷光監督も受け継いでいるのも大きいです。お顔も表情もよく似たお母さんと息子さん、あの笑顔を向けられたらやっぱり笑顔になります。(白)

約束の時間より早めに着かれた監督と、(白)さんが到着前に四方山話。監督がお母様と関西弁で話されていましたが、神戸生まれで15歳の時に東京に移った私も、母とは最後まで関西弁で話していたことをお話しました。監督にお伺いしてみたら、やっぱり普段の生活ではどちらかというと関東のアクセントなのだそうです。丸亀市生まれの監督ですが、高松に3年間住んだことのある(白)さんが、「讃岐弁じゃないですね」と指摘すると、大阪や甲子園に住んでいたことがあるとのこと。どうりで私には違和感のない心地よい関西弁だったのだと判明。監督が甲陽学園在学中の国語の村上先生が、作家の村上春樹のお父様だという話も飛び出しました。
監督ご自身のお父様は、70代半ばでお亡くなりになったとのことで、お母様はもう四半世紀にわたって一人暮らし。さて、私の父は96歳。認知症になって8年前に亡くなった母と違って、すこぶる記憶力もよく元気。監督のお母様を見習って、100歳目指して頑張って欲しいものです。この映画で学んだ気負わず介護する術を私は活かしたいと思います。(咲)

取材:白石映子(文)景山咲子(写真)







『月極オトコトモダチ』穐山茉由監督インタビュー

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男女の関係って恋愛や結婚だけじゃつまらない
型にはまっていない人間関係って何だろう


男女の友情が成り立つのか。『月極オトコトモダチ』は、この究極の命題に対して、Webマガジン編集者が月極のレンタル男友だちを使って検証記事を書くうちに、恋に落ちてしまう姿を描いたラブコメディ。現役OLでありながら映画監督も務める、穐山茉由の長編デビュー作である。MOOSIC LAB(ムージック・ラボ) 2018で長編部門グランプリに輝き、東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門にも選出された。
果たして、男女の友情は成り立つものなのか。穐山監督にテーマに対する思いやキャスティングについて聞いた。

<穐山茉由 プロフィール>
1982年生まれ。東京都出身。ファッション業界で会社員として働きながら、30代はやりたいことやろうと思い立ち映画美学校で映画制作を学ぶ。監督作『ギャルソンヌ -2つの性を持つ女-』が第11回 田辺・弁慶映画祭2017入選。本作が長編デビュー作品となる。

『月極オトコトモダチ』

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大人になると異性の友達ってなかなかできない。男女の間に友情は本当に存在しないの? WEBマガジン編集者の望月那沙(徳永えり)は、あるきっかけで「男女関係にならないスイッチ」を持つと語る柳瀬草太(橋本淳)に出会う。実は、彼は依頼主に雇われた「レンタル友達」だった。那沙はPVの数字の取れるネタとして、編集長に「レンタル男友達」を提案し、柳瀬をレンタルする。一方、那沙のルームメイトである珠希(芦那すみれ)は音楽を通じて柳瀬と距離を縮めていく。

監督:穐山茉由
劇中歌・主題歌:BOMI
出演:徳永えり、橋本淳、芦那すみれ、野崎智子、師岡広明、三森麻美、山田佳奈
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
2018年/日本/カラー/79分
©2019「月極オトコトモダチ」製作委員会
公式サイト:https://tsukigimefriend.com/
2019年6月8日より東京・新宿武蔵野館、UPLINK吉祥寺、イオンシネマ板橋ほかにて全国で順次公開

作品紹介はこちらからご覧ください。

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―男女の友情が成り立つかどうかをテーマにした作品ですが、物語を思いついたきっかけをお聞かせください。

男女の友情については以前から気になっていました。ただ、この企画は、人はいつ、どうやって友達になるのだろうという疑問からスタートしました。そして、ちょうどその頃、ネットニュースでレンタル友だちの記事を読んだのです。レンタル友だちと写真を撮ってSNSに投稿し、リア充ぶりをアピールする人がいると書かれていました。面白いなと思って、レンタル友だちを絡めて友だちの話を書くことにしたのですが、友だちの少ない人がただ友だちを雇ってもありきたり。暗い話になりそう。もう少しポップなラブコメにしたいと思って、同性ではなく男女の友情があるのかをレンタル友だちを使って取材するという話にしました。

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―作品の中で主人公の後輩が「友情で男女にこだわるのは世代ではないか」と言っていました。しかし、こだわるのは世代ではなく、育った環境の違いではないか、このテーマを思いついた監督は女子校出身ではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。

私は中・高・大と女子校で、勤めてからも割と女性が多い職場でした。学生時代は確かに、男性を恋愛対象で括っていたと思います。こちらもそんな風に括られることが多く、そこに疑問を感じずに生きてきたのです。ですから、結婚はゴールではないものの、男女関係の行き着く先だと思っていました。
ところが、大人になって、それだけではないことに気がついたのです。男女の関係って恋愛や結婚だけじゃつまらない。結婚をしない人生もある。型にはまっていない人間関係って何だろう。ここ数年、そんなことを考えるようになりました。作品は自分の実感に基づいているのです。

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―友だちを作っていく過程に興味を持ったとのことですが、友だちと知り合いの違いをどう考えますか。

私はすんなり友だちができるタイプではありません。意識し過ぎなのだと思いますが、一度会っただけで友だちと言える人が羨ましいなと思いますね。友だちと知り合いの違いは難しいですし、 “親友はどこから親友なのか”、“友だちにランクをつけていいのか”といったことも考えてしまいます。
ただ、友だちは人と人の距離が近づくことだと思います。それを映像として作りたい。そのためにはいろいろな要素が必要です。今回、自分自身を冷静に棚卸して、人と向き合うことや自分をさらけ出すことを課題にして取り組みました。

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―主人公には監督が投影されているのでしょうか。

主人公を追い込む状況を作ろうと思ってシナリオを書いたので、もがいている感じは、自分に近いところがあるかもしれませんね。キャラクターに自分がストンと落ちていると感情が書きやすいですし、実体験の方が細かい描写ができるので、利用する形で書いています。しかし、書いているときはあまり意識していたわけではないので、後から人に言われて「そうだったのかもしれないな」という感じです。

―他の人にも言われたのですね。

作品を観た人だけでなく、徳永さんも撮影中に那沙は私だと思っていたらしくて、ずっと私を見ていたそうです。私の佇まいを参考にしていたと後から聞いて知りました。私にとっては発見でしたね。

―主人公の那沙に徳永えりさんをキャスティングした理由をお聞かせください。

那沙は29歳で、子どもの頃に男の子とサッカーをして活発に遊んでいたという設定だったので、そのくらいの年齢の方を探していました。何人か候補として名前を挙げていったときに、徳永さんを見たら、そのキャラクターが動き出した感じがしたのです。すると、彼女のプロフィール欄に得意なスポーツがサッカーだと書いてありました。偶然というか、巡りあわせを感じて、これはいけるかもしれないと思ったのです。徳永さんはキャリアがあるので出ていただけるか心配でしたが、自主映画に理解があって、今回のキャスティングに繋がりました。

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―徳永さんの女優としての印象はいかがですか。

徳永さんは那沙とはまったく違い、とてもしっかりした方です。現場でもお姉さんのように座長として仕切ってくれました。ただ、そのため、彼女が持つ、お姉さん感というか、面倒見の良さがちょっと出てしまう。例えば、野崎智子さんが演じた後輩のユリと話すときにお姉さんぽく話していたので、抑えてもらいました。徳永さんは勘のいい方なので、私がちょっと言ったことを糧に、撮影が始まると瞬く間に、那沙が憑依した感じになっていました。

―柳瀬草太が給水塔に似ているというセリフがありました。橋本淳さんをキャスティングしたのは給水塔に似ていたからでしょうか。

キャスティングはシナリオを書く前でした。単純に男女分け隔てなく、フラットな友だち役が似合いそうだなと思ったのが、橋本さんを選んだ理由です。あのセリフは橋本さんに決まってから書きました。偶然、給水塔に似ていたのです。
実際にお会いしてみたら、すごくジェントルマン。しかも、話が面白い。でも、「この人、腹の底では何を考えているか分からない」という雰囲気がある。そのバランス感覚が柳瀬にぴったりだなと思いました。そして、徳永さんが小柄で、橋本さんは背が高い。2人が並んで立つとかなりアンバランスなので、それもネタにしようかなと考えました。

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―那沙と柳瀬は給水塔巡りをしていましたが、監督の趣味でしょうか。

脚本を書いているときに、「男友達とはどこに行くか」を考えていたら、給水塔を回るアイデアが出てきました。最初は釣り堀や雀荘といった女同士では行かないところを考えたのですが、それでは型にはまってしまって、しっくりこない。もっとパーソナルな話にしようと思い、「珠希は興味がないからついてきてくれないけれど、那沙は給水塔が好き」という設定にしました。すると「背の高い、大きなものが好き」ということで、柳瀬と給水塔がリンクしたのです。いろいろな偶然やピンときたものは全部拾い集めて、脚本を作りました。

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―柳瀬が旧知覧飛行場給水塔のように斜めに立つシーンが印象に残りました。

私もあのシーンが好きなんです(笑)。橋本さんにやらせて、ニヤニヤしていました。
知覧の給水塔は以前、行ったことがあり、給水塔と同じように斜めになって記念写真を撮ったのです。そのときの記憶で脚本を書きました。斜めの度合いを聞かれたので、「このくらいの傾きです」と調べて伝えました。すんとした顔でやってくれましたね。

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―那沙のルームメイト・珠希を演じた芦那すみれさんのハスキーな声と歌が素敵でした。

この作品は「MOOSIC LAB」という、映画監督が音楽アーティストとコラボする映画祭にエントリーしていました。ただ、どこまで音楽を取り入れるか、初めは自分の中ではっきり決めていなかったのです。
その後、芦那さんをキャスティングできたので、彼女にアーティストとして、劇中で存分に歌ってもらうことにしました。彼女あっての脚本です。

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―音楽を担当したBOMIさんには、どのようなイメージで曲作りを依頼したのでしょうか。


主に作曲したのはBOMIさんではなく、入江陽さんです。もともと入江さんの音楽観が好きだったので、基本的には自由に作ってもらおうと思っていました。しかし、脚本に音楽ができていく過程も描いていたので、入江さんが「できるだけ作品に寄り添った形で作りたい」と言って、脚本を読んでくれたのです。
また、この作品は入江さんとBOMIさんと3人で音楽打ち合わせや音楽リハなど、音楽関係の準備も並行して行っているのが特徴だったのですが、そこで私の頭の中にある“こういう空気感”みたいなものを言葉ではなく作品で伝え、私の音楽の好みや方向性を共有しました。

―エンドロールで音楽以外のところにも入江陽さんの名前がありました。

珠希もそうですが、柳瀬も音楽をしている設定です。そこに嘘がないように、演奏やDTMと呼ばれる、パソコンで音楽を作っている描写の監修も入江さんにやっていただきました。それもあって、入江さんも現場に来てくれたのです。「せっかくだから」と美術などいろいろなところに参加し、ノリでエキストラとしても出てくれました。

―入江さんはエキストラまでされたのですね。

すこし分かりにくいのですが、珠希と柳瀬が練習しているスタジオの店員さん役で出ています。

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―これから作品をご覧になる方にひとことお願いいたします。

男女の友情は成り立つのかという大きなテーマはありますが、人と人との距離、人間関係の話でもあるので、誰もが思うことのある作品だと思います。多くの方が劇場に足を運んでくださるとうれしいです。
(取材・写真:堀木三紀)

『誰もがそれを知っている』公開記念 宇野維正、 真魚八重子 トークイベント

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2012年に『別離』、2017年は『セールスマン』で2度のアカデミー賞外国語作品賞を受賞し、イランの至宝とも言われるアスガー・ファルハディ監督。
監督が15年前のスペイン旅行で目にした行方不明の子供の写真に着想を得た物語を実生活では夫婦でもあるペネロペ・クルスとハビエル・バルデムに当て書きし、念願のタッグを実現させたオリジナル脚本の本作。

現在ヒット中の本作公開前にトークイベントが開催された。登壇したのは、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正さんと、映画評論家真魚八重子さんのお二人。
「現代に於いて、もしパーフェクトな映画があるとしたら、それはこの作品」と絶賛する宇野さん、”家族の秘密”を普遍的なものとして身近に感じたと語る真魚八重子さんが、ファルハディ監督作品に通じる演出や撮影裏話などを交え、軽妙なトークを展開した。
以下、ネタばれになる部分を割愛し、採録したい。

『誰もがそれを知っている』(英題:EVERYBODY KNOWS)

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スペインの故郷で久々に再会した家族と幼なじみ。しかし、結婚式で起きた娘の失踪をきっかけに、隠していたはずの真実をめぐり家族の秘密と嘘がほころび始める…。

監督・脚本:アスガー・ファルハディ
出演:ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、リカルド・ダリン 

2018年/スペイン・フランス・イタリア/スペイン語/133分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch//日本語字幕:原田りえ
配給:ロングライド  
© 2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINÉMA - UNTITLED FILMS A.I.E
公式サイト:https://longride.jp/everybodyknows/
6月1日(土) Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

ファルハディ好みの女優が多く登場

宇野 :まず登場する家族関係がややこしいですよね?皆さん、分かりました?
真魚:(説明)
宇野 :2度見ても伏線になるものが分かりくい。
真魚:キーパーソンであるペネロペの旦那が後半から出てくるし。
宇野 :ファーストショットからキーポイントを提示してくる。
真魚:『彼女が消えた浜辺』 でもそう。見せておきながら謎解きしてくれない。
それから女優陣が妙にがエロいですよね?美男美女過ぎて見分けつかない。
宇野 :女優に関しては絶対ファルハディの好みでしょ?(笑)
そういえば、ファルハディは『ある過去 の行方』でペネロペをキャスティングしたかったのに、妊娠中で断念した。今回は念願のキャスティングでしょう。

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題名はファルハディ指令?

宇野:「本題と同じにしろにしろ」と言ったのはファルハディの指令。
真魚:そうそう、『セールスマン』という題名から、あの内容は想像できないですよね。
宇野:映画で描かれた田舎の閉鎖性は、日本と共通してる。
真魚:〇〇(ネタばれにより伏せ)は田舎にはいられない。
宇野:アンダルシア云々ではない 、とファルハディは言いたいのか。僕は冒頭の結婚式シーンが大好き。マドリードの田舎町の雰囲気が濃厚で。あの冒頭がずっと続いて欲しいと思うくらい。
真魚:今までファルハディのはアート系と観られることが多かった。これはアートでもありミステリーという大衆性もある。
宇野:これ見よがしのアートではないですよね。
真魚:観客の皆さんにはもう一度観てほしいんですよ。窓のひび割れとか素晴らしいんですから。

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キーワードは”荷物”

宇野:ファルハディはまだ47歳ですよね。
真魚:ファルハディで注目して欲しいキーワードが、”荷物”。『ある過去の行方』でも別れた旦那の荷物がずっとある。何だかもどかしいんですよね。
宇野:小道具とかのモチーフも大事ですね。
真魚:荷物ないというのは、謎めいたものを捨て去った意味にも捉えられる。

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コスモポリタン

宇野:日本の監督も仏で撮ってますけど、ファルハディはスペインで撮りたかった願望は以前からあったみたい。
真魚:コスモポリタンなんでしょう。スペインが合ってる気がします。
宇野:アカデミー授賞式に出なかったり、米国と喧嘩して(苦笑)多くのコメントはやばいことだらけですよ(笑)

欧州の誘拐事情

宇野:演出技法 、脚本とも完璧。全部が傑作という監督はいない。イランの風土とも違う。
真魚:映画のような誘拐はスペイン・ラテン文化圏でよくある。空き巣も多いそうですよ。有名なサッカー選手宅の試合中を狙う、確実に留守ですからね。都会の警察も 捜査能力が低いんですよ。
宇野:身代金をかき集めたら、ある。集めるフリだけでも殺されない。風土として、そういうのがあるみたい。
真魚:日本では証拠隠滅になりますよね。 向こうは払えば戻る。
宇野:お互いに信用あるんでしょうね。イランもそういうとこあるみたい。
真魚:警察が介入しないのがいい。警察が出てくる映画はつまらない。
宇野:『万引き家族』も警察は最後のほうしか出て来ない。

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ヒットしないと映画界の損失

宇野:興行面でいうと、『セールスマン』はオスカー外国語作品賞なのに(観客が)入らなかった。題名もファルハディ指令だし、キューブリック的なとこもあるけど、今回は幅広い観客に受けるのでは?
真魚:周りに勧めてほしいですね。
宇野:良い分かりにくさというか…。入らないと映画界の損失になる。2回は見てほしいですね。

『誰もがそれを知っている』トークイベント
日時:5月14日(火)20:45〜21:15 ※上映後トークイベント
場所:ユーロライブ(渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F)