11月1日からの公開を前に、シカゴ在住のエミリー・レイルズバック監督とスカイプインタビューの機会をいただきました。
『ジョージア、ワインが生まれたところ』
原題:Our Blood Is Wine
監督・撮影・編集:エミリー・レイルズバック
出演:ジェレミー・クイン、他
紀元前6000年からワインが醸造されてきたジョージア。 だが、伝統的な甕を使ったクヴェブリ製法は、ソ連時代の大量生産政策でつぶされてしまう。
シカゴのレストランでソムリエを務めていたジェレミー・クインは、シカゴでの仕事を辞め、ワインの起源を知るためにジョージアにやってきた。各地を巡り、家庭で自家用に細々と伝統的製法でワインが作られ続けてきたことを知る・・・
作品紹介
2018年/アメリカ/78分/英語、ジョージア語/DCP/1:2.35
字幕翻訳:額賀深雪/翻訳協力:ニノ・ゴツァゼ/字幕監修:前田弘毅
配給・宣伝:アップリンク © Emily Railsback c/o Music
公式サイト: https://www.uplink.co.jp/winefes/
★2019年11月1日(金)、シネスイッチ銀座、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
◎エミリー・レイルズバック監督インタビュー
◆伝統的製法は口伝えで細々と守られてきた
― ジョージアは、グルジアと呼ばれていたソ連時代から行ってみたかった憧れの国。映画を観て、まさにジョージアを旅しているようでした。ソ連崩壊後、ワインの生産がどのような状況にあるのかが各地方ごとによくわかり、とても興味深く拝見しました。
伝統的なクヴェヴリ製法がソ連によってつぶされた中、家庭で細々と作り続けられてきたとのこと。クヴェヴリ製法は書かれたものがなく、口伝えとのことですが、歌によって伝えられてきた面が大きいのでしょうか?
監督: 歌によっても伝えられてきた面はありますが、毎年、収穫の時期になると、人を雇うのではなく、家族や近所の人たちがやってきて、協力しあって作るという形で伝えられてきました。
◆スプラ(宴会)は男たちのもの
― ジョージアで大切にされてきたスプラという宴席ですが、スプラはもともと食卓に敷かれる布のこととのこと。 私はイラン文化を学んできたのですが、食事の布のことを「ソフレ」といいます。絨毯の上にソフレを敷いて、その上に料理を並べて、皆で囲みます。スプラとソフレ、恐らく語源が同じではないかと推測しました。ペルシアはジョージアを攻めた国ですが、お互い文化的に影響もしあっているのではないかと思いました。
監督:その繋がりについてはわからないのですが、ジョージアのスプラのことでしたらお話できます。ジョージアは家父長制の強い文化の国で、スプラに参加するのはほとんどの場合男性だけです。私が参加させていただいたスプラも、女性は私だけか、もう一人いる程度でした。女性たちは台所にいて、料理を作ったり運んだりして、女性は女性だけで料理を囲みます。時代と共に変化していて、若い女性たちは男性たちのスプラに参加することも増えてきましたが、高齢の女性たちは男性の席に一緒に坐ることはほとんどありません。
― イランでは今はイスラーム政権でお酒は禁止ですが、それ以前は、ワインも作っていました。特にウルミエ湖の近くで見つかった数千年前の壺から葡萄の種が見つかっていて、かなり古い時代からワインが作られていたことも証明されています。壷の形も、ジョージアのクヴェヴリに似ています。
監督:ジョージア、トルコ、アルメニアといった地域には、あちこちに行く民族がいましたので、ペルシアとの繋がりもあると思います。とても興味深いですね。
◆小さな国なのに多様なジョージア
― ソ連からの独立後、2006年~2013年にかけて、ロシアがジョージアに対してワインを出荷禁止にさせたとのこと。出荷禁止の解けた2013年に奇しくもクヴェヴリ製法がユネスコの無形文化遺産に登録されたことに興味を持ちました。
監督:はっきりしたことはわかりませんが、映画に出て来た友人のニコラゼが当時、文化庁に勤めていて、無形文化遺産登録になんらかのかかわりがあったかもしれません。
ジョージアに居る時に、ジェレミーがブログを書いていて、古代のことなども詳しく説明していますので、ぜひお読みください。
― 撮った映像が、170時間以上もある中、どういう点を重視して映画に取り上げたのでしょうか? 78分という比較的短い中に収めていますが、もっと長くすることもできたと思います。
監督:いくつかの違ったバージョンを作ってみました。編集は1年半かけて、私以外の人にも入ってもらってやりました。トルコやアルメニアにも行って、いろいろな映像を撮りました。馬のレースや、山あいの村でいけにえの儀式なども撮ったのですが、ワインとは関係ないのでカットしました。
― そういう場面の入ったバージョンもぜひ観てみたいです。
ところで、重いワインのところは歌が重厚、軽いワインのところは歌も明るいとのこと。地域的な特色を教えていただけますか?
監督:ジョージアには多くの民族がいます。映画に出て来るメインキャラクターのギオルギさんは南のトルコとの国境の近くの方で、軽くてフレッシュなワイン。ペルシアの影響もみえます。東のカハティ地区では平坦な土地で、ワインはシリアス。いろんな民族に侵攻されて、血が土にしみこんでいる土地柄です。
◆案内役のジェレミーさんと映画完成後に結婚
―映画学科の学生時代にシカゴのワインバーで働いていた時、ソムリエのジェレミー・クインさんと出会われたとのこと。いつごろから公私ともにパートナーになられたのでしょうか?
監督: (ケラケラ笑って、照れながら答えてくださいました)
映画を作り始めたころには、まだ友人というカジュアルな感じでした。映画にお金を出してもらう段になって、出資者とのミーティングの時に、出資者から二人の関係が真剣なものでないと映画がうまくいかないのではないかと指摘されました。隣に座っているジェレミーの反応が心配で顔をまともに見れなかったのですが、「私たちの関係は真剣で絶対別れることはありませんので出資してください」とお願いしました。ですので、そのミーティングの中で宣言したような形です。
― 映画がお二人の橋渡しをしたのですね。
監督:はい、映画を撮り終わって、結婚しました。(大いに照れる監督!)
◆ワインが文化であり人生であるジョージアに感銘
― ジェレミーさんは、出来上がった映画をご覧になってどのようにおっしゃっていますか?
監督:映画を作ったことよりも、ジェレミーはジョージアという国に感銘を受けています。ワインの飲み方がアメリカとジョージアでは全然違います。彼はワインバーで長く働いていて、アメリカではワインがトレンドのようになっていて、何を飲むのがクールだとか、ワインに対するうんちくがどれくらい詳しいかといったことを気にしていることに飽き飽きしていました。ジョージアに行ってみたら、皆がワインを楽しんでいて、ワインが血になっている。ワインが文化であり、人生であることに、とてもリフレッシュして、ジョージアが大好きになりました。
今日は残念ながらここに同席できませんでしたが、何かご質問がありましたら、ぜひご連絡ください。
― 今日はありがとうございました。ジェレミーさんにも、どうぞよろしくお伝えください。
取材:景山咲子
エミリー・レイルズバック
Emily Railsback
イリノイ州シカゴを拠点に活躍するインディペンデント映画の監督、脚本家、デザイナー、撮影監督。2014年にコロンビア・カレッジ・シカゴを映画芸術科学の美術学修士(MFA)を取得して卒業。ソムリエのジェレミー・クインと共に映像制作会社、バーント・シュガー・プロダクションを設立。タッグを組んだ2人の仕事のテーマは、飲み物への理解を通しての文化やアイデンティティーに特化している。
案内役ジェレミー・クイン
Jeremy Quinn
20年近くソムリエとしてのキャリアを持つ。全米トップのソムリエ賞(『Food & Wine』誌)、最優秀ワインリスト叙情詩人賞(『Chicago Reader』誌)など受賞歴多数。ワインの調査のために24カ国以上を旅しており、この10年以上、その中の5ヵ所のブドウ園で収穫の仕事をしている。自然農法の積極的な支持者であり、彼のワインに対する見識は、ラジオやポッドキャスト、書物で目にすることができる。現在は、世界中の農園を飛び回り、ワイン醸造、ワイン文化、そして土地の特性について調査をしている。
(二人のプロフィール: 公式サイトより引用)