原一男監督 プロフィール
1945年6月8日 山口県宇部市生まれ。
1972年2月 『さようならCP』でデビュー。
1974年4月 『極私的エロス・恋歌1974』完成。
1987年1月『ゆきゆきて、神軍』完成。
1994年4月 『全身小説家』完成。
2005年1月 初の劇映画『またの日の知華』公開。
2018年3月 『ニッポン国VS泉南石綿村』公開。
2019年 ニューヨーク近代美術館(MoMA)にて全作品特集上映。
『ゆきゆきて、神軍』などのドキュメンタリー映画で知られる原一男監督の新作『れいわ一揆』は、2019年の参議院選挙で脚光を浴びた「れいわ新選組」の候補者に迫るドキュメンタリー。女性装の東大教授・安冨歩氏をはじめ、個性的な10名の候補者が選挙運動に臨みます。原監督の新レーベル「風狂映画舎」の第1弾となる本作について、原監督に取材しました。
***『れいわ一揆』は4月17日公開予定でしたが、新型コロナウイルスの影響により公開延期になったため、本インタビューは3月に行いました。
ーーーーー大変面白く拝見しました。1人でも多くの方に観てほしい作品ですね。
原
有難うございます。撮影したフィルム素材の量が多く、編集し直したり、仕上げに時間がかかりました。カメラを回したのは、私とプロデューサーの島野の2人ですから。
ーーーーー編集作業は監督が?
原
編集のデモ田中さんの技術がスゴいんです!イラストの安倍首相と蝉のシーンは、文字と蝉の両方を動かしました。蝉が飛び立つ時に排尿しますけど、点線から放物線を描くのに1週間かかりました。排尿の行き先は総理にかけるしかないですよね。海外で上映した時には、安倍首相の「モノマネ」がウケました(笑)。
ーーーーー企画の発端となった安冨さんについては?
原
安冨さんが、故郷の堺駅前の演説で子ども時代の話をして涙ぐんだのが印象的でした。安冨さんにとって故郷は縁遠い筈だったのに。自身の心が動いたんでしょう。
安冨さんのお母さんが教育ママだったので、名前を呼ばれるだけで恐怖だったそうです。勉強する兵士のように育てられた、と聞いています。
ニューヨークのMoMA(ニューヨーク近代美術館)で上映できた時、安冨さんが1番喜んでました。エリートとして勝ち取った肩書きのようなものとは違う喜びだったようです。「これで選挙が終わった」とも言ってました。
映画が完成してから気が付いたのですが、米国にいる時に安冨さんから映画化の依頼があり、最初に山本太郎代表へ映画について連絡した時の安冨さんの表情が微妙なんです。自分が主人公の映画だと思ったのに監督は群像劇と言っている。おかしいな?という感じ。安冨さんは私の作品は1度も観てないんですよ。米国のマイケル・ムーア監督が私に駆け寄るのを見て、映画化を依頼したくらいなんです。
ーーーーーれいわ新選組という政党については?
原
どういう政党かも知らなかった。ただ、内的葛藤として政治を追うドキュメンタリーなのでプロパガンダと言われることを懸念しました。資金はないけれども映画製作は即断しました。『ゆきゆきて、神軍』の時も、奥崎謙三のプロパガンダでもいいと思ってましたから。2019年の記録として政治の本質を深追いしたかった。政党からお金は貰ってないですよ。昼食代だって安い店で自腹か経費(笑)。
ーーーーードキュメンタリー作家は資金繰りに苦しむ?
原
米国のフレデリック・ワイズマンは、ドキュメンタリー作家でも金持ちですよ。ハーバードとパリに豪邸を持ってる。日本と違いますよね。
ーーーーー撮影期間は?
原
自作7本の中では最短の撮影期間。『さようならCP』より短いです。こんな気持ち良い現場はなかったです。候補者たちの発言が面白い。北海道で安冨さんが馬に乗っている場面は私がカメラを回しましたが、大変でした。馬の脚運びは速い!馬の前に回って撮っていると直ぐ追い越される。また走って行って撮る、の繰り返し。汗だくになりました(笑)
ーーーーー安冨さんの選挙運動に帯同しているピアニカ奏者が気になりました。
原
片岡祐介さんという音楽家です。安冨さんが音楽の知識があるので、2人は波長が合うみたい。MoMAの上映の時には、坂本龍一さんも気になっていたようで、演奏を褒めてました。浜松市の場面で楽器を弾いたのは、片岡さんが楽器を幾つか持っていっていたから、あのような場面が撮れました。
『れいわ一揆』スタッフ&出演者たち(撮影 宮崎暁美)
第32回東京国際映画祭(2019)オープニングのレッドカーペットで
第32回東京国際映画祭(2019)オープニングのレッドカーペットで
ーーーーーマイケル・ジャクソンの「スリラー」を踊るシーンは?
原
最初は曲も入れていたのですが、東京国際映画祭の上映に間に合わせるため、慌てて曲だけ切りました。楽曲を使用するだけで億単位のお金がかかると脅されたから(笑)モブシーンの映像を残し、肉声だけ。息遣いと足音だけアフレコで入れたました。4回連続ダンスしてもらい、息が上がってましたね。センターにいる親子も踊ったんですよ。風刺の意味でスリラーの場面を入れ、拍手・手拍子は私のセンスで。片岡さんが音で盛り上げてくれました。
MoMA上映の時、想田和弘さん(観察映画監督)も観に来ていて、スリラーのシーンがいい、と言ってました。
ーーーーー全体を通してリアリティ度が凄いですね!
原
今でも小川紳介さん(ドキュメンタリー監督の巨匠。’92年56歳没)が劇場の外にいるような気がする。小川さんの反応が怖いですよ。ただ、本作だけは一緒に観てて飽きないと思う。
ーーーーー対象との距離感は?
原
全くの中立というのは無理かもしれません。好きじゃないと最後まで撮れないでしょうね。先入観なく自然体を心掛けましたが、当選した時には気が付いたら涙ぐんでました。
選挙の2ヶ月後に候補者たちへ個別インタビューするシーンは各1時間もらってました。皆さん、本音を話してくれた。渡辺てる子さん(シングルマザー、元ホームレスの候補者)が「もう蓄えを使い果たした。以前よりも貧乏になったけれど、貧乏そのものが愛おしい」と語ってる姿は、編集していてもポロポロ涙がこぼれるんですよ。個別インタビューの場面は気持ちが溢れてます。
ーーーーー続編は?
原
2019年の一瞬は政治史の中で特筆に値すると思う。候補者10人の人選が絶妙です。候補者たちに「こうして」と演出したことは一切ありません。もうこれで完結。今後、撮る気はないですね。本作を大事にしたい。
【取材を終えて】
原監督のこれまでの作品は、年単位の長い撮影期間を経て生み出されてきました。ところが、本作は選挙戦を追ったドキュメンタリーのため、17日間という制約があり、異例の短期決戦だったわけです。安冨歩氏を中心に、10人の候補者たちの行動や言葉、表情を丹念に撮りあげ、緊張感とユーモア溢れる映画になりました。まさに娯楽性と社会性の幸せな融合。熱く語って下さる原監督のお話に共感しきりでした。新型コロナウイルスの影響で公開延期が決まった時には、”今年中に公開できるのかしら?”と心配しましたが、今回このように作品紹介と併せ、皆さんにお伝えする日を迎え、感慨深いものがあります。尚、8月31日には皓星社より、「れいわ一揆 製作ノート」が出版されました。
(まとめ・写真 :大瀧幸恵)
作品紹介はこちら http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/474311582.html
監督・撮影:原一男
製作・撮影:島野千尋
出演:安冨歩、山本太郎ほか
2019年製作/248分/G/日本/DCP / 16:9
配給:風狂映画舎
(C) 風狂映画舎
公式サイト:http://docudocu.jp/reiwa/index.php
★20209月11日(金)よりアップリンク渋谷ほか全国公開★
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