登壇したのは、大日本帝国軍側の連合艦隊司令長官・山本五十六を演じた豊川悦司、 第一航空艦隊司令官・南雲忠一を演じた國村隼。第二航空戦隊司令官・山口多門を演じた浅野忠信は自宅からリモート出演して、3人はハリウッドでの撮影時を振り返りトークを繰り広げた。
さらにパトリック・ウィルソン、ローランド・エメリッヒ監督からのビデオメッセージも紹介された。
なお、本作は第二次世界大戦の中でも歴史を左右するターニングポイントとなった激戦として知られるミッドウェイ海戦を描いた作品。『インデペンデンス・デイ』『パトリオット』などで知られるローランド・エメリッヒ監督が約20年かけて徹底的にリサーチした上で、新たに発見された日本軍側の資料をもとに製作した。キャストとしてウディ・ハレルソン、パトリック・ウィルソン、デニス・クエイド、アーロン・エッカート、豊川、國村、浅野忠信など日米の実力派俳優が集結し、山本五十六やチェスター・ニミッツをはじめとした実在の人物を演じている。
<映画『ミッドウェイ』公開記念初日トークイベント概要>
日時: 9月11日(金) 19:00~
会場: スペースFS汐留(東京都港区東新橋1-1-16 汐留FSビル3F)
登壇者:豊川悦司、國村隼
リモート参加者:浅野忠信
コメント動画参加:パトリック・ウィルソン、ローランド・エメリッヒ監督
MC:伊藤さとり
まず実在の人物を演じることについて、山本五十六役を演じた豊川悦司は「ほとんどの日本人が知っているビッグネームでありますし、歴史上の素晴らしい人物。お話をいただいたときにはびっくりしました。自分の中では類似点をまったく見いだせなかったので、なぜぼくにという気持ちでした」と語った。役作りについては、「偉大な大先輩たちが何人も演じていらっしゃるので、その映画を片っ端から見て、先輩方がどういう風に山本五十六というキャラクターと対峙していったのかを見られたのはラッキーだったと思います」と振り返る。
山口多聞を演じた浅野忠信は、「多聞さんのことを調べていくうちに多聞さんの魅力をいろいろ知ることができましたし、映画を見ていただくと分かるのですが、とても複雑な状況にいて、過酷な戦いを強いられる中でも最後まで冷静に生きた人なんだなと尊敬しています。インターネットを通じてリサーチできる時代になったので、インターネットを使っていろいろ調べ、多聞さんのお墓参りに行って、気持ちを高めました」と役作りの方法を明かした。
南雲忠一を演じた國村隼は、「山本五十六さんにしろ、山口多聞さんにしろ、演じられる立場として光栄だとお二人がおっしゃるのを羨ましいなと思って聞いていました。南雲さんってミッドウェイの海戦においていちばん“お前があかんやろ”と言われている人なので。南雲さんを演じる上でありがたいなということはなかったのですが、南雲さんもあのときになんであんなとんでもない判断ミスをすることになってしまったのか、そこは僕も興味をそそられ、彼がミッドウェイで実際に執った作戦行動、爆弾と魚雷の載せ替えとか、なぜあの時にあの判断を下したのかというところを糸口に僕の妄想を広げるという形でイメージしてやってみました」と語った。
撮影現場でのエピソードについて、豊川は「海外をベースに仕事をされている日本人の俳優さんがたくさんいらっしゃることに驚きました。夢をもって、生活を懸けて厳しいフィールドで仕事をしている同業者を見たことにはすごく感銘を受けました」とし、「緊張感のあるシーンですが、浅野さんがいて國村さんがいて、言っちゃあいけないのでしょうけれど、やっていて正直、楽しかった。とても安心してできました。浅野さんとは共演するシーンが多かったので、早く國村さん来ないかなと言っていたのですが、いらっしゃった当日にホテルの目の前が有名な教会で、そこのライトアップをご覧に行かれて、その帰りにホテルでお会いして」と語ると國村が「そうそう、仕事で行っといて何しとるねんって感じでしたよね」と引き取った。
浅野は「カナダで撮影して、日本とは全然違う環境だったのですが、共演の方々を含めて新鮮な気持ちでしたし、監督がとても穏やかな方だったので、現場は和やかに進みました」とし、豊川悦司との共演について尋ねられると「昔から共演させていただいているので心強かったですし、先輩がきちんと先輩の役を演じてくださるのはありがたかったですね。僕も楽しかったです」と豊川を立てた。
國村は「3人が一緒だったのは1シーンだけでしたが、撮影現場にいるとハリウッド映画を撮っている気がせず、日本で別の映画を撮っているような気がしました」と懐かしんだ。
日本との違いについて尋ねられると、豊川は「月並みですがスケール感、スタジオ1つ取っても大きいですし、働いているクルーの数も多い。僕らは1つ1つトレーラーが与えられて、それが控室になっている。日本ではそれだけのスペースがないので、そういうことはできません。全体を作ることはできませんが、空母であったり、戦艦であったり、ブリッジであったり、甲板の一部であったりは作ってありましたし、それだけでもボーリングができるんじゃないかと思うくらいスペースがありました。しかもローランド監督がその場で背景をはめ込んだ映像を見せてくれたので、その世界観にすんなり溶け込めたのはありがたかったです」。
浅野は「早い段階で、戦艦の甲板でみなさんとお話をする重要なシーンを演じたのですが、ローランド監督は力が入っていましたし、僕も力を入れていましたから、疑似的にその時間を経験できた感じがありました。緊張感も高まっていいシーンが撮れたと思います。船の中のシーンもいくつかありましたが、内部のディティールにもこだわっていらっしゃいました」。
國村は「いろいろな作品で特殊効果の機材を見てきましたが、今回、すごいなという機材に出会いました。主人公が急降下して爆弾を落とし、それが艦のすぐ脇に着弾するというシーンを撮ったのですが、直径が5~60㎝はあるバズーカ砲みたいな筒が3~4本立っていて、水柱を打ち上げたんです。高さでいえば10mくらいドーンと上がって、爆弾が着弾してできる水柱を再現する特殊効果の道具だったんです。監督もそのシーンの撮影はかなりテンションが上がっていて、『これ何テイクでできるかい、本来なら1テイクでいきたいんだけど』とおっしゃり、日本でもよくある“一発で撮らなきゃ”みたいな緊張感がありましたね。ハリウッド映画で珍しいことです。そして僕が甲板に行くと横からドーンと水柱が上がってその水柱を被るのですが、それが痛いこと、痛いこと。びっくりしました。あそこはCGじゃないんです」。
ここで、いったん浅野が退室し、アメリカ海軍の分析官、エドウィン・レイトン少佐役を演じたパトリック・ウィルソンからのビデオメッセージがスクリーンに映し出された。
パトリックは日本語で「こんにちは」と挨拶をし、来日できなかったことを残念だと話した上で「この映画は日米両方の視点を大事にしている作品だ。アメリカと日本の海軍を丁寧に描き、これまでにない戦争映画が完成した。ぜひその点に着目してほしい。この映画で僕が最も心を動かされたシーンの1つが日本軍を描いたシーンだった。日本人俳優の活躍は本当に素晴らしかったと思う。悦司の英語は見事だが、僕の日本語は全然ダメだ。ぜひ大目に見てほしい。短い期間だけれど日本語の勉強は楽しかった。いろいろ教えてもらったよ」と語り、最後も日本語で「ありがとう」と締めた。
続いて、ローランド監督からのビデオメッセージがスクリーンに投影された。モントリオールで新作を作っているローランド監督も「東京にはぜひ行きたかった」と来日できなかったことを残念がり、「この映画を撮る時、僕が重要視したのは日本軍を単なる“敵”ではなく“人間”として描くことだった。戦争映画で人々を描くときにただの敵という描写はよくない。彼らは任務を遂行する人々だ。ミッドウェイ海戦について学び、非常に感銘を受けたことがあるそれは日本人の気質だ。特に日本海軍の人々というのは実に高潔な人々の集まりだった。これは大事なことだから、本当は直接お話したかった。ビデオ参加は想定外だったよ」と語った。そして、配役について、「この作品では日本人俳優が不可欠だ。キャスティングはあちこち探し回った。そしてたくさんの日本映画を見ていたら、豊川悦司という俳優が目に留まった。彼の起用については驚いた人も多かった。彼は山本五十六を演じているが、素顔の彼に軍人の雰囲気はない。だが、さっき説明したとおり、僕は人物の描写にこだわりがあった。悦司にはとても知的な雰囲気があり、高貴さを感じさせる俳優だから、山本五十六役にぴったりだ。本当に素晴らしい仕事をしてくれたよ。浅野忠信という俳優はアメリカ映画で見て知っていた。彼の起用は早くから決めていた。國村隼という俳優に関しても同様で何の迷いもなく決めていた。彼も自分の役を完璧に演じてくれたね。だからこそ、僕が楽しみにしているのが日本の人たちの反応なんだ。とにかく、この作品はアメリカを初めとする世界の観客向けに漫然と撮った映画じゃない。アメリカと日本の観客が対象だ。目指したのは両軍に対する敬意を表することだ。ぜひ、この作品を楽しんでほしい。僕はこの作品をどうしても撮りたくて、長年、努力を重ねてきた。実は20年前から構想を練っていたんだ。やっと公開になって本当にうれしい。楽しんでください」と語った。
このメッセージを受け、ハワイのプレミアに参加した豊川が監督、脚本家、プロデューサー、アメリカ側のキャストと話をしたときにみんなが日本の観客はこの映画をどういう風に見るかを気にしていたと語った。そして、ミッドウェイ海戦を題材にする以上、日本軍側をどうセンシティブに描くのかということは彼らのとても大きなチャレンジだったとし、「できあがった映画を見ても、彼らのチャレンジは成功したんじゃないかなと思います」と話した。
そして「この3人の中でいちばん英語ができないんで、監督の演出も『今、何て言っていたんだろう?』と聞いたりしていたんで、このお二人には本当に助けていただきました」と恥ずかしそうに語った。
また國村は「余談なんですが…」と断りながら、監督と自分が1955年11月生まれで同じ歳であることを明かし、当時はまだ戦争の影が色濃く残っている時代だったこと、監督がドイツ、自分が日本で日独伊三国同盟の負け組3国の2国の人間がミッドウェイ海戦をの映画を一緒に作ったことに不思議な縁を感じているといい、「撮影しているときに分かっていたらもっと話ができたのに」と残念がった。
人生のターニングポイントを聞かれ、豊川は大学で新歓の時期に演劇部に誘ってもらったことが役者を始めるきっかけになったといい、「演劇部に入らない?とキレイなお姉さんに誘われて、ふらふら部室について行き、そのお姉さん目当てに部室に通っているうちに芝居が好きになった」と話した。
浅野も中学生のときに役者を始めたことを挙げ、舞台出身の國村は映画というメディアに出会ったこととし、「映画はそもそもグローバル。どこの国で誰が作ろうが、できあがった作品はそのまま世界中の人が見るし、見られる。こういうメディアは他にない。このメディアで何ができるのかという興味がすごく強くなった」と語った。
そして、戦後75年の節目に、本作をどのように観てほしいかという質問に対して、國村は「僕ら世代が最後かもしれない。両親は戦争の渦中にいましたから、その話を聞いたり、両親を通して何となく感じたり。でもだんだん世代交代が続いて、戦争の記憶は史実の中のことになっている気がします。このミッドウェイ海戦を通して、かつて日本が起こした戦争という過ちをちゃんと記憶として風化させないように、この作品を見てくださった人に戦争のことを知ってもらえたらなと思います」と語った。
浅野は自分がクウォーターであることを明かし、「戦争はいけないことですが、それがあったから祖父母が出会い、自分が生まれた。その自分がこういう映画に出演する。不思議なことだなと思います。世界中の人が力を合わせて、映画を作れるということに感謝したい。どうか作品を堪能してください」と繋げた。
最後に、豊川は「楽しさも悲しさも、痛さや辛さ、笑うこと、泣くこと、いろんな感情を映画から学びました。考えてみたら役者をやる前、子どもの頃からいろんな映画やドラマの中でいろんなことを学んできました。楽しみながら学べるのは映画の本当に素晴らしいところ。この『ミッドウェイ』を観て、何かを感じたり、楽しんでいただけると素晴らしいものになると思います」と語り、トークイベントは幕を閉じた。
『ミッドウェイ』
監督・製作:ローランド・エメリッヒ
脚本:ウェス・トゥーク
出演:エド・スクライン、パトリック・ウィルソン、ルーク・エヴァンス、アーロン・エッカート、豊川悦司、浅野忠信、國村隼、マンディ・ムーア、デニス・クエイド、ウディ・ハレルソン
2019年/アメリカ/カラー/138分
配給:キノフィルムズ/木下グループ
Midway ©2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved.
公式サイト:https://midway-movie.jp/
TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中