『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』 坂田栄治監督インタビュー

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〔プロフィール〕
1975年4月3日生まれ。埼玉県出身。東京農業大学林業学科卒業後、1998年に東京放送(現・TBSテレビ)に入社。大ヒット番組「マツコの知らない世界」「細木数子のズバリ言うわよ!」のプロデューサー、総合演出。TBSの現役社員でありながら、“テレビ業界の枠を超えて世界に挑戦する”をテーマに、自身初のドキュメンタリー映画『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』を製作・監督。元プロレスラーの獣神サンダーライガーのyoutubeチャンネルをプロデュースするなど、活動の領域を着々と広げている。

〔作品紹介〕
1500年以上もの歴史の中で日本人の暮らしに深く根付き、今や国技となった「相撲」。
そこには知られざる世界があった―。
約半年間、境川部屋と高田川部屋の二つの稽古場に密着。想像を絶する朝稽古、驚きの日常生活、親方・仲間たちとの固い絆、そして、本場所での熱き闘いの姿を追いかける中で、相撲の魅力を歴史、文化、競技、様々な角度から紐解いていく。
勝ち続けなければいけない、強くなくてはいけない、サムライの魂を宿した力士たち。極限まで自分と向き合い、不屈の精神で「相撲」と闘い続けるサムライたちの生き様を描いた唯一無二のドキュメンタリーが生まれた。
監督/製作総指揮:坂田栄治
制作:PRUNE
制作協力:日本相撲協会 Country Office
出演:境川部屋 髙田川部屋
遠藤憲一(ナレーション)

配給:ライブ・ビューイング・ジャパン 配給協力:日活 
2020年/カラー/シネマスコープ/5.1ch/104分/ 
(C) 2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会
公式サイト: https://sumodo-movie.jp/
公式Twitter:@sumodomovie
★2020年10月30日(金)よりTOHO シネマズ錦糸町、
10月31日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
 
シネジャ作品紹介はこちら

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―監督は以前からお相撲ファンでしたか?
ドキュメンタリーまで作られるほどお好きだったんでしょうか?


年代的に若貴とか曙さんとか、あの頃に家でお相撲を見るようになって、普通に興奮して楽しんでいました。でも、それから見ない期間がずっとあって。ですので、元々はお相撲マニアでもなく、相撲ファンでもなかったんですよね。
自分がTBSに勤めてバラエティ番組をずっとやって、人気番組も作れたし、自分は映像を作る技術には自信があるから、その技術を使って日本人として日本のために何かやりたいと思ったんです。オリンピックが決まったとき、2017年かな。オリンピックで日本が世界から注目されるな、と。
そんなことを考えていた時に、僕が担当していた「マツコの知らない世界」に本作の監修そして出演もされている相撲漫画家の琴剣(ことつるぎ)さんがゲストで出られたんです。
後で琴剣さんにお相撲の朝稽古を見せてもらえて、それで久しぶりにお相撲というものに向き合ったんです。日本人だから力士のことはもちろん知っていたし、頭のどこかにお相撲はあったし、ドキュメンタリー番組で白鵬やいろんな方も見ました。だけど、「お相撲という文化」をそもそも知らないということが衝撃だったんですよ。朝稽古でさえ、毎日こんなことをやってんの!と衝撃だった。

ドキュメンタリー番組、お相撲を撮ってみたいな、と思って数か月後に国技館で生の大相撲を見たんですよ。NHKさん(テレビ)では伝わりきらない衝撃を受けました。
音、観客の声援、お祭りのような盛り上がり、ほんとに頭と頭でぶつかる! 稽古以上の気迫を持った力士たちのぶつかり合い、全てが衝撃で、これを表現するのは映画だな!と思ったんです。

―大相撲を見て衝撃を受けたことが「映画を撮りたい」に繋がったんですね。“生で観る”と全然違いますよね、私も1回だけ桟敷席で見て、その伝統的なしつらえとかお相撲さんの身体とか「美しい」と思いました。

美しいんですよ。朝稽古のときもお相撲さんの身体が大きい理由がわかったんです。大きくしないと強くなれない。大きい人がいかに有利か。太っているんじゃなく「大きい」し「美しい」。それがよくわかって、映画で表現したいなと思ったのがきっかけなんです。

―特に贔屓の力士はいなかったんですか?この人のファンという。

特にいなかったです。このドキュメンタリーも豪栄道(ごうえいどう)関(現・武隈親方)と竜電(りゅうでん)関をフューチャーしていますけど、「相撲の文化」を撮ったんです。お相撲はこんなんだよというものを撮ったので、何年経っても観られる。10年後、形が変わっているかもわからないけど、「こんな人いたよね」でなく「お相撲ってこうだったよね」というものを作ったつもり。

―琴剣さんが相撲部屋につないでくださったんですね。
たくさんある部屋の中から境川部屋と髙田川部屋のふたつを選ばれたのは?


境川部屋ひとつだけ撮ってしまうと、その境川部屋の話になってしまいます。お相撲部屋はそれぞれ各部屋に個性があります。全部は描ききれないけど、違うタイプの部屋を二つ。
琴剣さんにお相撲の部屋を教えてくださいと頼んで、初めて境川部屋に行ったときに近寄りがたい空気、緊迫感がありました。撮影していいんだろうか、見ていていいんだろうか、という張りつめた空気、よそ者を受け付けないような迫力があったので、だからこそこれを撮るのは意味がある。観た方にも驚いてもらえるのではないか。それで境川部屋を決めて、また違うところないですか?って。
髙田川部屋に行ったら、親方や竜電関がいて。竜電関は、明るくてよく笑う好青年でした。稽古のやり方も親方が自らまわしを締めて教えるんです。
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―私も子どものころ見ていたのに、その後見ていなくて今のことがわからないんです。監督もわからないところから始められたんですね。

はい、むしろわからないことを武器にしました。周りからあんまり情報を得ないようにして、自分の目で見て面白いと思ったことを大切にしました。映画を作るのは、お相撲ファンはもちろんですが、そうじゃない人に観てもらってお相撲ファンを増やそうというのが目的なんでね。それでいうとお相撲ファンじゃない人の目線と、自分の目線が一緒でなきゃいけないなと思った。目で見て知りえたこと、音を聞いて知りえたこと刺激を受けたことを詰め込んで、自分と同じように体感してほしいと思ったんです。

―ああ、だからこれを観ると楽しいんですね。知りたいことも出てくるし、またお相撲にハマりそうな気がしています。

ははは、有難うございます。

―今は娯楽が山ほどある時代です。そういう中でお相撲ファンを増やすのはなかなか大変な気もします。これからの展望は?

自分で言うのはなんですけど、「お相撲さんカッコいい!」と観た方には感じてもらえると思うんですよ。試写で観た何人からか、「豪栄道関カッコいい!」とファンになったのに、「え、もう引退してるの!?」と、言われました。見るとファンになる人がいると思います。
相撲は番付表とか最初は難しいですけど、普通に単純にすぐ結果が出るじゃないですか。娯楽として見やすいですよね。サッカーとか野球の試合とかは、ずーっと見てないといけないけど、お相撲は一瞬一瞬で決まって、自分の好きな力士ができると観るのが楽しみになります。
だからまずは、「カッコいい」というところから始まっていいと思います。そこから拡がるチャンスはあると思います。

―カッコいい上にお相撲さんは裸にまわし1本で、無防備です。こんなスポーツはほかにないですよね。

そうです。防具もなしで。あと頭突きのあるスポーツもほかにないです。頭って一番危険な攻撃なので、
ボクシングも総合格闘技もダメです。おでこは硬くて、それで鼻なんかやっちゃうと一番いけないんですけど、お相撲のあんなに大きい人たちが頭突きって大変なことなんですよ。ほんとにすごいことをこの人たちはやっているということをこの作品で感じてほしいです。

―武器も防具もなしで、あの「土俵から出たら負け」っていうのが潔い。モンゴル相撲も土俵はないですし。

ないですね。非常に簡単なルールです。足が出るか、手がつくか、土がつくか。2か月ごとに15日間ワクワクできますしね。この15日間がいいんですよ。

―毎日毎日が勝負で、これ(興行)考えた人すごいですね。

すごいですよ。ほんとよくできています。やっているほうとしたら大変ですけどね。僕は力士として土俵に立ってはいないけど、映画撮っている最中はずっと一緒にいたので、毎日ほんとにしんどかったです。疲れちゃう(笑)。

―15日間頑張った人たちは賞をもらって、次の場所で昇進しますし、応援しがいがありますよね。

お相撲にはストーリーがあるんですよ。15日間のストーリーもあるし、力士一人ひとりのストーリーもある。
出ているみんなの「喋り」が、観ている人たちにとって「そうだよな」とか、「私ももっと頑張らなきゃ」と思えるんです。親方の「努力をするのは当たり前」、そういう言葉が世の中で生きている人たち、社会で戦っている人たちに何かしら元気を伝えてくれると思って。

―そうですね。政治家の言葉と違って実践している人たちの言葉だから(笑)。

わははは!ウソのない言葉で。裸で戦っているし、全部まっすぐなんですよ。で、まっすぐに生きないと勝てないんですよ。身体も心も裸でまっすぐ稽古しなければ強くなれない。自分はこれで大丈夫じゃなく、ここからまだいけるんだと毎日稽古している人が強くなる。というのは取材をしていてすごく感じましたね。

―監督自身はこの撮影をする前と後とで、何か変わりましたか?

僕は、さっきの言い方で言うと「裸で生きている」んです(笑)。そのくらいの覚悟じゃないと、たぶんこの映画撮れていないんです。本気でお相撲のことをちゃんと描きたいんだと、僕が覚悟を決めて撮りに行ったので、二つの部屋に受け入れてもらえたと思うんです。
マスコミってお相撲のこと悪く言ったりするじゃないですか。

―ゴシップとか?

多いじゃないですか。僕はゴシップが出ているとコノヤローと思っていたので、そんなのを出す気は1ミリもなかった。自分がウソがない裸の生き方をしてきたから、撮ることができたんだと。だから変わったというより、やってきたことは間違ってなかったと、そういう気持ちです。
僕は会社の中でも良い会社員じゃないと思うんですよ(笑)。いわゆる上司になびくような生き方をしてこなかったし、正しいことは正しいと言ってしまうし、先輩とも喧嘩しちゃってたんです。
普通なら「マツコの知らない世界」という人気番組をあてたんだから、そこにいればいいんですよ。これをやり続けることは、自分がせっかくこの技術を手に入れたんだから、ここにいるのは正しくない。これを世の中のために使いたいと思って、こうやって撮れたから、やってきたのは間違ってなかったと思います。

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―最初は映画にして出していくという確かな目論見もなかったそうですが。

ないです。でも自分が撮ったものに関しては、絶対にどこかが興味を持ってくれるはずだと思っていました。何も決まっていないまま走っていたんです。このドキュメンタリーはすごくいい機材のカメラで撮って、すごくいい音響システムで録っています。何年後にも観てもらいたいから。
テレビ番組で自分がトップのときはみんなに指示出してやってもらっていたのを、この映画では自分が運転して技術さんの送り迎えしたり。技術以外なんでもやらないといけない。自分でやると決めたことだから、やり抜きました。

―それは大変でした。どのくらいかかったんでしょう?

取材はずっとやっていて、その間に何ができるかがすごく大事で。カメラを持って行って「はい、撮ります」ではいいものなんかできるわけがないと思ったので、まずこの力士たちと一緒にいようと。住み込みはしないけど、朝稽古見たり、昼にちゃんこ食べさせてもらったり、その中でコミュニケーションをとって皆さんから話を聞き出したりとか。どこが魅力的なのか探る時間もかけていました。

―そのときにカメラ回しているわけではないんですね。下準備というか知るための助走みたいなもの?

そう、知るために。撮影は毎日じゃなく、会社員なので、土日、会社の有給、正月休み、を使って飛び飛びで4ヶ月くらい。

―よくその中で撮り切りましたね。監督の意思の力ですね。

はい、撮り切ろうと思っていましたので、やるときはやる!(笑)

―では今まで観た映画の中での「この1本」を。

(間髪入れず)『スティング』(1973)!大学生のときにビデオレンタルで。名作だけどストーリーを全く知らないで観たから、最後の大どんでん返しを観たときに「なんて気持ちいいんだ!」(笑)。
全て頭から最後までのフリと最後の最後のオチ、こういう作品ってすばらしいなと思って、すぐ観直して何回も観ましたよ。それからカイザー・ソゼ…あの『ユージュアル・サスペクツ』(1995)。これもすごい。2回目も楽しめる。
あのね、この『相撲道』も、一回は先頭(最前列)で観てほしいんですよ。

―砂かぶりですね。

そうそう、砂かぶり。目の前で観ると、筋肉とか、お相撲さんの身体はこうなっているとか、違うフューチャーする場所が出てくるんです。そしてまた観てほしいですね。

―映画を作るのは楽しかったですか?

テレビと映画は画面が全然違うから。楽しかったし、またやりたいですよ。

―きょうはありがとうございました。

=取材を終えて=
坂田監督は熱くて楽しい方でした。お相撲から受けた衝撃を伝えたいという、監督の熱い思いがビシバシ飛んできました。監督が大切にしているのは、文中にもある「ウソのないこと、覚悟を決めてやること」だそうです。「監督の熱を伝えられるよう、頑張って書きます」と約束してきましたが、伝わりましたか?私もかつては相撲ファンでしたので、熱が再燃しそうです。
テレビと映画の違いなどをもう少し伺いたかったのですが、時間切れでした。またの機会がめぐってきますように。(まとめ・写真 白石映子)

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『本気のしるし 劇場版』初日舞台挨拶 

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作品紹介はこちら
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/477615990.html
2020年製作/232分/G/日本
配給:ラビットハウス
(C)星里もちる・小学館/メ~テレ
公式HP  https://www.nagoyatv.com/honki/
★2020年10月9日(金)より全国順次公開

10月9日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷
3時間52分の本編上映後森崎ウィンさん、土村芳さん、深田晃司監督が拍手に迎えられて登壇しました。客席との間に飛沫防止シートがあるので、ゲストはマスクをせずにご挨拶。(MC:小沢まゆ)


森崎 辻一路役を演じさせていただきました森崎ウィンです。本日は足元の悪い中お越しくださってまことにありがとうございます。みなさまのお陰でカンヌ映画祭のオフィシャルセレクション2020に選ばれたこの作品、ご覧になっていかがだったでしょうか?(拍手)よろしくお願いします。(拍手)
土村 葉山浮世役を演じさせていただきました土村芳(つちむらかほ)です。ドラマとして始まったこの作品が映画としてまた新しい姿で、こうしてみなさんにお届けすることができて、すごく嬉しく思います。本日はよろしくお願いします。(拍手)
監督 本日は4時間、長い時間をご覧いただきましてありがとうございます。そろそろお尻も疲れてきているんじゃないかと思いますが、もうちょっとお付き合いください。この作品は20年前に初めて漫画を読んで、映像化したいと願ってからほんとに20年かけて。願いは叶うものなんだなと実感しています。今日はみなさんに観ていただけてとても嬉しいです。ありがとうございました。
(ここで着席)

―それでは森崎ウィンさん、本作は「共感度0,1%」というキャッチコピーがついていますように、演じられた辻くんも善人なのか悪人なのかわからない。女性に対しても二股、三股という八方美人のような役どころでした。どのようにこの辻役を掴んでいかれたのでしょうか?
森崎 これはすごく個人的に思うことでもあるんですけれども、僕もウィンとして生きていく中で、ウィンがどういう人間なのかというのを自分で紐解いても100%紐解けない瞬間がやっぱりあるんですね。なので辻くんに関しても100%理解しているかと言われたら、そうとも限らず。現場で辻くんが二股も三股もかけている女優さんたちとキャッチコピー、じゃなくてキャッチボール、会話や芝居のキャッチボールを楽しみながら純粋に演じさせていただきました。一つだけ勘違いしてほしくないのは、僕は二股三股しません(ざわざわ笑)。えー、あんまりウケなかったですね(笑)。すみません。ごめんなさい。

―映画の中でやはり受け身だった浮世という存在によって、自ら人生を選び取るようになっていくのも見どころでしたよね。
森崎 おっしゃるとおりです。実際の人生のたくさんの出会いの中、恋愛に限らず仕事の中―それこそ今回土村さん、そして深田監督に出会って、また役者として一つも二つも変わった自分もいます。そういう意味では人と出会うことによって、人は変化していくんだなというのをこの作品を通じて僕自身もすごく勉強させてもらったと思っております。
今日は口が回ります(爆)。

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―土村さんが演じる浮世という役は、見る人のイライラをどんどん加速させていくような、そんな役だったと思います。ただ、浮世自身はいたって悪気がないというか天然というか、かなり難しい役どころだったんじゃないかなと思いますが、浮世と言う女性をどのように捉えて演じられたのでしょうか?
土村 おそらく大多数の方が「なんだ、この女性は?」と思ったと思うんですけど…。確かにめちゃくちゃな行動が目立つ女性ではあるんですけど、私はすごく興味を持って浮世という女性を追ってしまいました。なせそうなってしまうのか、と考えたときにその一見めちゃくちゃな行動っていうのは、浮世さんの表面的な部分であって、その行動の裏にひたむきさやピュアな部分があるから憎み切れない、っていうんですかね。私もその裏に見え隠れしている部分を意識して大事にして演じさせていただきました。はい。

―土村さん自身は浮世に似ているなぁと思うところがありますか?
土村 いえ、全くありません。(会場 笑)。えっ?
森崎 これ、たぶんあの作品に出ていた役者みんな否定しますよ。(本人は否定しても、それを否定するという意味。つまり似ているとみんな思っている)
土村 えっ!そんな。(笑)
監督 石橋けいさんも、アパートで撮影している土村さんを見ながら「ほんとにいいキャスティングだよね」って(笑)。だからって浮世みたいってわけではないんだけど、キャスティングの評判は良かったですね。
土村 喜んでいいのかちょっととまどってしまうんですけど。(笑)

―土村さんがおっしゃった浮世の内側にあるひたむきさとかピュアさとかは、土村さんご自身が持っているものが現れたんじゃないかな、と。
土村 あ、そうかもしれません。
監督 そこですね。みんなが注目したのは。
森崎 感謝ですね。(MCさんに)
土村 そうですね。(笑)

―深田監督は20年前にこの原作と出会ってどうしても映像化したい、と思い続けて夢が叶ったとおっしゃっていましたが、どんな部分に惹かれて映像化を熱望されたのでしょうか?
監督 まずストーリーの運びがめちゃめちゃうまくて、これはすごいなと思ったんです。元々星里先生の漫画はその前から読んでいて好きだったんです。「夢かもしんない」「結婚しようよ」とか。それはちょっと遊びで森崎さんの台詞に引っ張ってきて言わせて(星里)ファンにはわかってもらえるような感じで入れました。
それまでラブコメが得意だった星里先生が一切コメディの部分を封印して、ヒリヒリするような恋愛だけを描くというのはものすごく異様で、迫力があると思ったんです。「本気のしるし」ってほんとに星里先生は本気だなというところにすごく惹かれて。今#Me Tooの時代を経て振り返ってみると、青年誌の中での浮世という女性の描き方が現代的だったなと。いわば男性社会の中で「擬態」のように、自分を守る術のように男性を引きつける言葉を言ってしまったり、思わせてしまったりとか、そうすることでしか身を守れない女性。そこが面白かったですね。

―ご覧になった方の感想や反響を受けて今どんな風に感じていらっしゃいますか?
監督 想定通りというか、想定以上にイライラする方がすごく多かったみたいです。ドラマ放送当時にも「本気のしるし」と検索すると、勝手に関連ワードに「イライラ」が出てくる(笑)。自分自身、浮世にそんなにイライラしないと思っていたんですが、想像以上に反響があったんです。
それでもみんな見続けてくれて、その印象が後半になるにつれ、どんどん反転していくのが面白くて、後半になればなるほど、「浮世よりむしろ辻の方がヤバい」という感想も出てきたりして、そこを視聴者の人と一緒に見続けられるというのが面白かったです。今またみんな一気見してどうだったのか、感想を聞きたいなと思っています。

―森崎さん土村さん、深田監督の演出で心に残っているようなことはありますか?
森崎 レストランのシーン、浮世がご飯食べていなくて「私辻さんに…」あれ?「心許してる?」(監督と土村さんからフォローが入る)「油断してるのかな」というところを演出していて、「これ、浮世がどういう形で言うのがいいのか、目を見て言うのか、外して言うのか。目の前に座っている辻くんとしてどう思う?」と聞いてきたときに…(監督に)目は外しているんですよね?
監督 使ったのは…「辻の肩あたりを見て」という指示でやってもらったのを本番では使っています。
森崎 それ聞かれたのが初めてだったので、すごく印象に残っています。

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―印象的なシーンですものね。
森崎 はい。たしかオーディションのときもあのシーンをやったんです。
監督 そうですね。あのシーンをやりました。辻(森崎)さんにも土村さんにも、別々でしたけどやってもらいました。とても核になるシーンだと思います。映画の。

―土村さんいかがですか?
土村 一度現場中に迷いがあって監督に「この台詞はどういう気持ちで言ったらいいでしょうか」と相談したときに、その話の流れだったか「そもそも役というのを100%理解して演じるのは必ずしも正しいとは限らない」とお話ししていただいたことがありまして。そのお話しを聞けたおかげで私も浮世さんに対して、何かこう言葉でうまく言えないんですけど、感覚的な余白というかそういうものが存在していた方が、きっと浮世さんの魅力も現れてくるんじゃないかと思えた瞬間でした。演じさせていただく上でとてもためになりました。

―とても素敵なお話です。「本気のしるし」というタイトルにかけまして「思わず自分が本気になってしまうこと」を教えていただきたいですが、いかがですか?
森崎 本気になってしまったこと…僕は常にゼロか100かの人でして、やるならとことんやる、やらないならやらないっていう風で。辻くんとは真逆で「優柔不断」という言葉は自分には合わないな、と思うんですけど。なんですかね、本気になってしまったこと。今日一日本気を出したら…ツイッターにも書かれたんですけど、「ウィンが本気を出したら雨が降る」(爆笑)
監督 雨が降るし、台風も来るって書いてありましたね。(笑)
だからファンの方が「雨や台風で喜んでいる」っていう風な(笑)不思議なツイートが(笑)
森崎 マネージャーが僕に見せてくれたのが検索トレンドに「台風、台風、森崎ウィン」ってあった(笑)。「台風も来て、ウィンも来てるね!」ってつまらないギャグと共に(笑)。あのー、以上森崎ウィンでした。(笑)
―今日は森崎ウィンさんの本気が台風に現れているということですね。
森崎 すいません。(笑)

―土村さん思わず本気になってしまうことは?
土村 つい先日の話なんですけど、食器棚が新しく届きまして、それを一晩かけて夢中で組み立てたこと。扉を取り付けるのに観音開きの高さを合わせるのがけっこう難しいんですよね。(客席へ)やったことない?いらっしゃいませんかね。あの微調整するのがすごく難しくて、でも寸分の狂いなく揃えたくてなってしまう。 
森崎 それって元々あるところのネジ回すだけ、とかじゃなくて?
土村 ネジを調節して高さだったりを…
森崎 日曜大工にハマってる?
土村 すごくハマってる。あの“カムロック”(金具)がすごく難しい。
森崎 カムロック、ちょっとわからない。

―共感度が(笑)
監督 お客さんの上にハテナマークが、「カムロックって何?」(笑)
―0,1%に持ってくるところがさすがだなと(笑)
土村 すみません、それが本気になってしまうことだったんです。失礼しました。(笑)

―可愛いです。ありがとうございます。深田監督はいかがですか?
監督 仕事に関しては「本気だ」みたいなことは一応言っとくんですが(笑)思わず本気になるっていうと…映画が撮り終わって宣伝に入るじゃないですか、監督は別に宣伝部ではないから、宣伝は宣伝部に餅は餅屋に任せておけばいいんですけど、宣材を勝手に作るっていうのは趣味でやっていて…フォトショップっていうソフトで画像をいじったりすると、お絵描きしているような感じでけっこう楽しいんです。あれがハマり始めると徹夜で作ったりして。たいていハマっているのは脚本とかが煮詰まっているときで、まあ逃避なんですけど。宣材物作りは本気になっちゃいますね。
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―この『本気のしるし 劇場版』のポスターも監督がお作りになった?
監督 あっ、はいはいはい。ドラマ版のときに何か盛り上げられないかな、何かやりたいって思って…ドラマは毎週毎週感想が届くっていうのが新鮮だったんです…その感想をばーっと並べてやろうとTwitterからいろいろ拾ってきて。輪郭に合わせて切ったりするのは意外と地道な作業で、そういうのチマチマやるのが楽しいんです。そのときには単に趣味で、日曜大工的に作ったんですけど、劇場版を作るとなってちゃんとデザイナーの方が整えて作ってくれています。だいたいあんな感じのものを作りました。

―皆様のTwitterにあげた感想ももしかしたら入っているかもしれないので、ぜひじっくりと読んでみるといいかなと思います。

ここでマスコミのフォトセッション、続いて観客も短い時間ですが、撮影可となりました。

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―では登壇の皆様を代表して、深田監督からひとことご挨拶をいただきたいと思います。
監督 今のこのパネルも星里先生が俳優をイメージして描いてくれたもので、この作品はほんとに星里先生あってのものだと思っています。先生もドラマから今回の劇場公開も楽しみにしていろんな絵をあげてくださっているので、よければ先生のTwitterを見てみてください。
今回劇場版にしたいと思った理由の一つは、ドラマは東海三県と一部の地域しか放送されていなかったので、見たいけど見られないという人がとても多かった。今回映画という形で全国の映画館に回していきたいです。今映画館は大変な状況で、コロナでお客さんも減っていたりしています。そんな中ですがぜひ多くの方に来てほしい、この映画は予告編がテレビに流れるようなタイプの作品ではないので、ほんとに口コミがすごく大事なんです。今日観て面白いなとか、琴線に触れる部分があれば、そのことを友達や家族や同僚やSNSなどで拡散していただければ嬉しいです。本日はどうも有難うございました。

(取材・写真 白石映子)
★スタッフ日記はこちら

『ホテルニュームーン』とイランの女性について語る

アップリンク吉祥寺で、日本イラン合作映画『ホテルニュームーン』の上映後、イラン女性二人のトークが行われました。

2020年9月26日(土)16:50からの上映後

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登壇者:
ナヒード・ニクザッド(写真右:NHK Radio Japan ペルシャ語部門 アナウンサー・翻訳者)
ショーレ・ゴルパリアン(写真左:本作プロデューサー)

ショーレさんは、日本在住40年近く、ナヒードさんも20年以上。お二人のトークは、もちろん日本語で!

◆イランを映画や文化を通じて紹介してきた
ショーレ:ナヒードさんをNHKペルシャ語放送のアナウンサーと紹介しましたが、それだけにおさまらない活動をされています。

ナヒード:日本に入ってくるイランのニュースが悪いものばかりなので、政治は別にして、イランの日常生活や文化を紹介したり、イラン料理の先生などをしてきました。歌手としても活動しています。

ショーレ:1991~92年ごろ、イラン・イラク戦争が終わって、たくさんのイラン人が労働者として日本に来た時に悪い話ばかり流れて、とても悲しかったです。何かできることはないかと、映画を通じてイランを知って貰おうと、キアロスタミ監督の「友だちのうちはどこ?」などを紹介してきました。

ナヒード:映像の力は大きいですよね。

◆イランの女性は強い!
ショーレ:革命後は現実に基づいた映画が作られていますので、イランの姿を知って貰えると思いました。ナヒードさんは、この映画、イラン人としてどのように感じましたか?

ナヒード:女性3世代が描かれていて、女性中心の映画で面白いと思いました。
私も18歳と16歳の娘がいて、ヌシンさんとオーバーラップしました。私も厳しい母親かも。10時過ぎて帰ってこないと心配して電話したりします。

ショーレ:イランの若い女性と日本の若い女性の違いは?

ナヒード:映画のモナを見ていると似ていると思いました。私の世代だと違ったと思います。中学1年生の時に革命があって、そのあと8年間、大学まで戦争でした。色がない暗い時代でした。モラルポリスがいて、男性に挨拶しても注意されそうでした。大学も男性と女性と入り口が違ってすごく厳しかったです。この映画のモナは、カフェに行ったりボーイフレンドがいたり、今の日本の若者とあまり変わらないと思います。インターネットのおかげかもしれませんが、グローバル的に全部似てきたと思います。

ショーレ:日本人から見ると、イランの女性はスカーフを被って頭を隠さなければいけないとか、制約を受けているように見えるかもしれませんが、イランの女性は実はとても強いです。厳しい中でも仕事もしているし、家族を守っています。でも、未婚で妊娠してしまって、出来ちゃった結婚というのは、イランではありえません。ヌシンはフィアンセが子供ができたと聞いて逃げてしまって、彼女は一人で日本に来たというガッツのある女性です。
革命があって、女性にとってプレッシャーがバネになりました。ちょっとだけ手を放すとすごく飛びます。今のイランの女性は、革命前よりもっともっと強くなったと思います。


ナヒード:女性の権利が法律的に男性より低いけれど、なんとかしなければと頑張っています。弁護士たちも活動しています。ノーベル平和賞を受けたシーリーン・エバディさんもいます。法律がおかしいと思ったら闘います。
日本は一応男女平等と言ってるけど、日本に来ていろいろ驚きました。女性が差別されていることがありますよね。女性がお茶を出さなければいけないとか。

ショーレ:日本に来て、英語と日本語ができたので、社長秘書として雇ってもらったのですが、「おい、お茶」と言われてびっくりしました。イランではありえないです。ごみを片付けなければならなかったりしました。何度泣いたことかわかりません。
(注:私が初めてイランを旅した1978年、勤務していた会社のテヘラン事務所を訪れたら、お茶を男性が出してくれました。専任のtea boyがいるのです。私も日本の会社でお茶出しが仕事の一つだったので、うらやましく思ったものです。)
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◆母親を大事にするイラン社会
ショーレ:イランでは母親がすごく大事にされています。男性がマザコンじゃなくて、当然のこととして母親を大事にしています。

ナヒード:社会でも母親は大事にされていますね。

ショーレ:よく日本の皆さんに言われたのですが、なぜヌシンが日本に来たのか? なぜ赤ちゃんを連れて逃げたのか? など疑問があるようです。母親としての気持ちが強かったのですね。中絶は表向き認められてないけど、どこかでしようと思えばできます。でも、普通は妊娠したら大事にして、産みます。ヌシンは赤ちゃんを連れてイランに戻って、一生懸命働いて育てます。離婚して、子育てする人もいるけれど、最初から父親がいなくて育てるのは大変です。ほんとに強い母親です。
私のお母さんもとても厳しかったです。脚本を書いたナグメさんはとても有名な方ですが、日本に来た時には私の家にも泊まりましたので、よく話しました。
現実的なものを書いてほしいと、91~92年頃のイラン人が大勢来たときの話もしました。優しい社長もいれば、悪い社長もいたことも話しました。女性も少ないけれど働きに来ていたことも話しました。私のお母さんが厳しかったことも話しました。8時を1分過ぎるとすごく怒られました。


ナヒード:日本は安全だけど、11時過ぎて帰ってこないと心配で何回も電話したりして娘に怒られることもあります。

◆イランと日本、実は似ているところも多い
ショーレ:日本とイランは離れているように見えるけれど、長く日本にいると似たところがあると感じます。家族の絆や、思いやりや気兼ねするところも似ています。日本の方で、アジアのあちこち歩いて、一番日本に近いのがイランという方もいます。
合作映画を作るときには、すごく苦労があるのですが、イラン映画を日本の方が観て、ノスタルジーを感じたといわれます。


ナヒード:イランの歌をよく歌うのですが、日本の方から日本の歌謡曲や演歌に似ているといわれます。こぶしがイランの歌にもあります。
ペルシャ語も教えているのですが、英語にない言葉、例えば「お疲れ様」というのも同じです。会社で会うと、お互いに「ハステナバーシー(お疲れ様)」と言い合います。日本と同じです。NHKで英語からペルシャ語に翻訳するのですが、英語がわからないときに日本語の原文を見るとわかることがあります。

ショーレ:映画の字幕を付けるときに、英語を見ないでペルシャ語から直接訳したほうが日本語のニュアンスに近いと感じます。

ナヒード:文化的にも近くて、タアーロフ(お世辞)の文化や、微笑みも日本と似ています。

ショーレ:イラン人はおとなしい面もあります。私たちはおとなしく見えないと思いますが、声をあげないとか、社会的に似ていると思います。

◆『ホテルニュームーン』でテヘランの旅を!
ショーレ:この映画は、テヘランの町のいろいろなところで撮影しましたので、観ていただければ旅をしている気分になっていただけると思います。
永瀬正敏さんが演じた田中社長が泊まったのは、山の手の高級なホテル。テヘランには大きな山があって、山に近づいていくと空気も綺麗で、お金持ちの家や別荘があったりします。ヌシンがお金がないときに泊まったホテルは下町にあります。
ホテルニュームーンの撮影に使わせてもらったのは、テヘランの南の下町のホテル。ほんとにあのホテルのレセプションの人がそのまま演じてくれて、とても上手でした。イランではお願いすると、街角の人もちゃんと演じてくれます。


ナヒード:日本人の監督とイランに行って撮影されたときに困ったことはありますか?

ショーレ:話を始めたら長くなりますが、この映画は監督と撮影監督が日本人。永瀬正敏さんは10日くらい滞在しました。そして私も日本側とすると3人は、ほとんどすべて諦めました。でも、イランのスタッフと溶け込んですごくうまくやっていました。イラン人はとても優しいし、招き上手で、監督や撮影監督をハグしたりしていました。間に入って大変なこともありましたけれど、もう時間がありませんので、ここで終わります。
皆さん、イラン映画を応援していただいて、ありがとうございます。

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『ホテルニュームーン』公式サイト

ショーレ・ゴルパリアンさんインタビュー(by景山咲子):


★10月3日(土)12:05からの上映後には、諏訪敦彦監督と筒井武文監督(『ホテルニュームーン』)のトークが行われます。
まだ映画をご覧になっていない方、ぜひこの機会に♪