『新感染半島 ファイナル・ステージ』オフィシャルインタビュー

『新感染半島 ファイナル・ステージ』(原題:반도、英題:Peninsula)
sinkansen final.jpg
*ストーリー* 
半島が謎のウイルスの感染爆発で崩壊してから4年。家族を救えなかったジョンソクは、香港で義兄と身を潜めて暮らしていた。ある日大金を手に入れる仕事が舞い込み、二度と足を踏み入れるつもりのなかった半島に潜入する。そこはさらに増殖したゾンビと、凶暴な民兵集団で地獄のような有様だった。双方に追いつめられたジョンソクは、生き残っていたミンジョンと娘たちに助けられる。ここから脱出するためにジョンソクとミンジョンたちは協力して戦うことになった。
https://gaga.ne.jp/shin-kansen-hantou/
(C)2020 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & REDPETER FILMS.All Rights Reserved.
★2021年1月1日(金)公開

来日の叶わなかった主演のカン・ドンウォンとヨン・サンホ監督のリモート取材によるオフィシャルインタビューを提供していただきました。

=カン・ドンウォン インタビュー=


74qmOyS8.jpg

1981年生まれ。優れた演技力で韓国国内外問わず最も称賛されている俳優の一人。2000年にモデルデビューし、TVドラマ「威風堂々な彼女」(03)で俳優に転身する。以降、工作員、死刑囚、超能力者や詐欺師など、様々な役を演じてきた。
主な出演作は、『オオカミの誘惑』(04)、『彼女を信じないでください』(04)、『デュエリスト』(05)、『私たちの幸せな時間』(06)、『M(エム)』(07)、『あいつの声』(07)、『チョン・ウチ 時空道士』(09)、『超能力者』(10)、『義兄弟 SECRET REUNION』(10)、『世界で一番いとしい君へ』(14)、『群盗』(14)、『プリースト 悪魔を葬る者』(15)、『華麗なるリベンジ』(16)、『MASTER/マスター』(16)、『隠された時間』(16)、『1987、ある闘いの真実』(17)、押井守原作の『人狼』(18)、伊坂幸太郎原作の『ゴールデンスランバー』(18)など。
新作はハリウッド映画『Tsunami LA(原題)』(撮影中)に主演、さらに『ブローカー(仮)』(是枝裕和監督/韓国映画)が2021年にクランクイン予定。


ー本作へのご出演、一番の決め手になったポイントを教えてください。

事前に監督とお話しすることが出来て、シナリオ・ビジョンが良いなと感じたことだと思います。

―前作『新感染 ファイナル・エクスプレス』のご感想を教えてください。

4年前に劇場で拝見しました!とても楽しかったです。わくわくしました。

―『ソウルステーション』、『新感染 ファイナル・エクスプレス』に次ぐ作品ということで、どのような思いで挑まれましたか?プレッシャーはありましたか。

監督とたくさんの話し合いをして、自信をもって挑むことができました。過去2作とまったく違う映画ですし、ポストアポカリプス背景の映画にぜひ出演したいと思っていたので、良い経験となりました。

ーヨン・サンホ監督とは、どのように打ち合わせを重ねたのでしょうか?監督の印象もお願いします。

この準備時期はロサンゼルスにいたので、リモート会議でたくさんコミュニケーションをとりました。監督は本当に愉快な方で、もともと抱いていたクールな印象と違って愉快で面白い方でした。すごく優しい方だと思います。器の大きい監督で安心して撮影できました。

―今回演じたジョンソクは、どのようにキャラクターを構築していかれましたか?

とにかくシナリオに忠実に演じました。シナリオの初稿をもらった時には、ジョンソクのキャラクターは断片的な部分もあったので、その点をどんどん肉付けして立体的な人物にしていこうと考えました。
観客の皆さんが、しっかりとジョンソクのあとを追って映画を観ることができるように、ジョンソクの心境の変化を見せられるように努力して演じました。

ー本作でのアクションは、これまでと違いはありましたか?ゾンビと戦うのは初めてだと思うのですが。

今までと違うところは、やはりゾンビとのアクションという点ですね。ゾンビとの闘いが難しかったです。ゾンビ役の方が怪我してしまわないように、すごく注意しました。ゾンビ役の方は、ある程度動きが決められていて防御ができないので、こちらも気を付けながら演じました。

―銃を使ったアクションがとてもリアルでした。訓練されたのでしょうか?

実は特に訓練はしませんでした。その時ロサンゼルスに滞在していたので韓国にいるアクションチームの方と、ビデオ通話で何度もミーティングしたのですが、僕自身、もともと銃の訓練をかなり受けていたので、アクションチームからも「とにかく運動して体を作って欲しい」という話がありました。

ーちょうど新型コロナウイルスのパンデミックの最中に公開されるということについて、どのように思われましたか?

この映画が公開されるのは、世界で日本が最後くらいになるのではないかと思います。皆さんぜひ気を付けながら映画館へ行って安全を確保して観てください。韓国では劇場公開した時に二次感染はなかったんです。日本の皆さんも気を付けながら、映画館でお楽しみいただければと思います。
また、このパンデミックの状況の中で、ワールドワイドで公開される作品というのはおそらく本作が初めてだと思います。最初は心配もあったのですが、世界各国で公開していただいて評価をいただくことができたので本当に感謝しています。日本でも公開されたらこの映画にたくさん愛情を注いでくれると嬉しいです。

ー日本にも仕事で来日されていますが、また新たな一面を本作でファンの皆さんに観て頂く事になると思います。どういう面を重点的に見て頂きたいですか?

とにかくこの映画は楽しんで盛り上がってわくわくしながら観ていただきたいです。この映画を撮っているときはまさか世界がこんな風になるとは予想もしていなかったのですが、出来上がってみたら今の現実と重なるところがたくさんある映画だと思います。とても感慨深い気持ちで観ていただけると思います。いろいろなことを感じさせてくれる時間になると思いますし、この映画を観ると、きっと癒されると思います。


=ヨン・サンホ監督 インタビュー=


gt8KIL6B.jpg
1978年生まれ。祥明大学西洋学科を卒業。長編デビュー作『豚の王』(11・日本未公開)で、韓国のアニメーション映画としては初めてカンヌ国際映画祭に招待され、監督週間部門に出品される。続いて2013年に『我は神なり』を発表。2016年、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)が、カンヌ国際映画祭のミッドナイト・スクリーニング部門に招待され、またたく間に世界中で絶賛され、ファンタジア国際映画祭で最優秀作品賞、シッチェス・カタロニア国際映画祭で監督賞など数々の栄えある賞に輝く。続くアニメーション映画『ソウル・ステーション/パンデミック』(16)は、どのように感染爆発が始まったのかという『新感染~』の前日譚が描かれた作品で、ブリュッセル・ファンタスティック国際映画祭シルバークロウ賞、アジア・パシフィック・スクリーン・アワード最優秀長編アニメ賞などを受賞する。

―続編のアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

前作の『新感染 ファイナル・エクスプレス』を製作するときに、ロケーションで色々なところを回りました。そこで廃家を見たときに世界観としてアイデアを思いつきました。製作会社に話したところ「ぜひやってみよう」ということになって『サイコキネシス -念力-』という作品の公開の後に企画を立ち上げました。 

―本作は感染者よりも人間同士の対決に比重が置かれていますが、そこに込めた意図はなんでしょうか?

『新感染 ファイナル・エクスプレス』で描かれたのはアポカリプスの初期段階でした。でも本作の舞台は感染爆発が半島を襲ってから四年後の世界。なので、ゾンビも変種のゾンビになっていると考えたわけですね。希望のない人間こそがゾンビだと思って、このような構図になりました。

―本作を作る上で影響を受けた作品はありますか?

色々な作品がありますが、特に参考にした作品の一つに大友克洋さんの『AKIRA』があります。アニメではなく、漫画の方です。漫画の方ではポスト・アポカリプスを背景とした「ネオ・トウキョウ」にアメリカの特攻隊が潜入にしてくるといったエピソードがあるんですが、そういったところを今回の作品に取り入れてますね。

―三部作がどれも手触りの違う作風になっているのはなぜでしょうか。

『ソウル・ステーション/パンデミック』は寓話的で残忍なブラックコメディを作ろうという気持ちで取り掛かりました。『新感染 ファイナル・エクスプレス』はそれとはまったく違うものを作ろうと考え、結果的にこの二つの作品はカラーも規模も異なる作品に仕上がり、周囲からとても驚かれました。今回も続編と言えども、まったく異なる作品に仕上げようと思ったんです。独特なシリーズになって個人的にも満足しています。

ー現在のコロナ禍の状況について監督はどうお考えでしょうか?

この作品を作っているときは、まさか世界がこのようになるとは思っていなかったです。この作品のテーマは「孤立した、絶望した世界の中でどんな希望を見つけられるか」です。そう考えると今の時代に適したテーマなのではないかと思います。クリエイターとしては幸運だったと思います。

―今後の活動予定について教えて下さい。

まず、私が去年シナリオを書いたドラマ「謗法~運命を変える方法~」の続編の台本を書いています。それはこのドラマを演出されたキム・ヨンワン監督が撮る予定です。私自身はNETFLIXが企画している、韓国タイトルだと「地獄」、英語だと「Hellbound」という作品があるんですが、この撮影に入っています。来年の下半期にオリジナル作品としてNETFLIXでたぶん皆さんに見てもらえると思います。


☆シネジャ作品紹介はこちらです。

『AWAKE』完成報告会見

IMG_5013b.jpg

12月8日(火)、グランドハイアット東京にて『AWAKE』完成報告会見が開催され、キャストの吉沢亮、若葉竜也、落合モトキ、山田篤宏監督が出席。ピカピカの【新電王手さん】も登場しました。ほぼ書き起こしでお届けします(聞き取れなかったところは省略)。(司会:いとうさとり)

―まずは一言ずつご挨拶をいただければと思います。清田英一を演じられました吉沢亮さんです。
吉沢 ありがとうございます。清田英一を演じさせていただきました吉沢亮です。初めてこの脚本を読ませていただいたときから、すごく大好きで思い入れのある作品だったので、着々とこう皆様にお届けできる日が近づいていることにドキドキしています。今日は最後までよろしくお願いいたします。(拍手)

―英一のライバル浅川陸を演じられました若葉竜也さんです。
若葉 初めまして、若葉竜也です。このようにたくさんの記者の方々に集まっていただき、ほんとに嬉しく思っています。もうすぐ、こんな時期なのに公開できるということで、すごく嬉しく思っています。よろしくお願いいたします。(拍手)

―英一の大学の先輩磯部達也を演じられました落合モトキさんです
落合 初めまして、落合モトキです。こうやって完成報告会見を今日開けるということで、まずこの作品は一歩前に勧めたんじゃないのかなと思います。25日公開できるように願うばかりです。今日はよろしくお願いします。(拍手)

―監督・脚本を手がけられました本作が商業映画デビューとなりました山田篤弘監督です。
監督 初めまして、山田篤弘と申します。今日はお集りいただきましてありがとうございます。素晴らしいキャストとスタッフで、とても自信を持ってお届けできるエンターテイメント作品になったのではないかと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)

=演じた役柄=

―吉沢亮さんにお伺いしたいと思います。本作が発表されたときに、これまで出演した映画の中でかなり好きという風におっしゃっていたと伺っておりますが、どんなところが特に惹かれたんでしょうか?
吉沢 やっぱり最初に読ませていただいた脚本がものすごい面白くてですね。商業映画でAIを使っている映画なので難しいのかなぁという思いもあったんですけど、全然そんなことなく「ど直球」のエンターテイメントで。メッセージ性とかもわかりやすいし、すごく爽快感のある青春ストーリーになっていて面白い。完成した作品を観て、なんですかね。今まで自分の出た作品って冷静に観れずに、わりと自分の芝居のイヤな部分ばっかり目立っちゃって。今回は自分の芝居がどうこうじゃなく、単純にすごい面白いなあと思った。すごくいい作品ができたな、それに参加できて良かったなと最初に思ったので、この作品は自分の中では新鮮な感じでしたね。出来上がったものを見てすごい好きでした。はい。

吉沢亮 as 清田英一_DSC02701.jpg

―将棋の棋士を目指す英一の目線から動きからも「わ、ほんとに棋士の人みたいだ」と見ていたんです。そこは準備されたことが結構あったんじゃないですか?
吉沢 とにかく英一という人間はちっちゃいころから将棋しかやってこなくて、将棋以外のことを何も知らないというか、将棋以外こいつは何も持っていないんだというものを全面的に出したくて。撮影始まる前に太ってみたりとか、姿勢から将棋を指しているときのちょっとした体の揺れとか表情の変化とか、いろいろ現場で工夫しながらやってましたね。

―そんな英一のライバルになります天才棋士を演じられた若葉さんに伺いたいと思います。圧倒的な天才棋士ということで、台詞もすごく少なくて、ほぼ無口だったと思うんですけれども、今回演じるにあたってご自分で肌で表現することとかいろいろ準備されたことがあるんじゃないでしょうか?
若葉 やっぱり棋士の方々の指し手とか所作とかというのは、絶対条件として、身体に落とし込まないといけないなと思ったので、そこは気をつけました。
―どんなことをリサーチされたんですか?
若葉 最初に子どもたちの将棋を見に行って、その後に映像でプロの棋士たちの立ち居振る舞いを見て、そこでアマチュアからプロになっていく段階でのサインみたいなものを見たりとか。もちろん指し手が一番たいへんでしたけど。彼らの歴史が詰まっているので、そこを軽んじて演じることはできないなと思いましたね。

―続きまして落合さんに伺いたいと思います。今回英一の先輩の磯野という役ですけれども、この二人とは違って非常に早口の専門用語を使うということで、台詞もすごく多かったと思うんですけれども、監督から何か演出を受けたこととか、ご自分で意識したことはどんなことでしょうか?
落合 衣装合わせで監督と初めてお会いしたときかな?そのときに「どういう形で演技しましょうか?」という話をしたときに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクをイメージしてやってくれ」という風に言われて、「こっちではカタカタやりながら、こっちは全然別のことをまくしたてて言ってるみたいな感じ」のことを言われたので、確かにそうなんだろうけど、台詞が専門用語過ぎてたいへんだなぁと。でもなんていうんだろ、考えて覚えるというよりも、呪文のように覚えるといいんだろうなと思って、自分が演技してきた中でも「考えないで物事を言ってた」というのに近いかもしれないですね。

―それを横で吉沢さんはごらんになっていたわけですよね。
吉沢 はい。めちゃめちゃ大変そうでした。聞いたこともない単語をずっとペラペラしゃべっていて、すごい早口だし。それが全然違和感なく落とし込まれている感じがやっぱりすごいなぁと思いました。台本読んだときの磯野と、モトキ君が演じた磯野って僕の中ではギャップがあったんです。なんか想像の斜め上をいくなぁと思ったんですけど、それがすげー面白くて、英一といるときのバランス感とか、なかなかおもしろいことになったと思いますね。
落合 そうですね。わーーって羅列したことを言ったときに、亮君がその後の台詞で「わかりました」っていう台詞があったんですけど、その台詞も亮君がつきあってくれたりして。前から亮君のファンだったので、ほんとにいいお兄ちゃんだなと思いながら現場にいました。(吉沢「いやいや」と手を振る)

IMG_5009.jpg

―さて、監督に伺いたいと思います。2015年に実際にあった「電脳戦 ファイナル」の対局がモデルになっていると伺っています。この対局をご覧になって、どんなところから映画にしたいと思われたんでしょうか?
監督 2015年の「電脳戦 ファイナル」という対局自体がドラマチックな対局でして。何がドラマチックだったかというと、開発者が元奨励会員であって、プロになれなかったけれども開発者としてもう一度プロと戦うという。前提そのものも魅力的だったんですけれども、その後の実際の対局の顛末も非常にドラマチックなものでした。それを見たときにもうこの二人・・・実際の二人は顔見知りではなかったんですけど・・・この二人が小さいころからライバルだったら面白いだろうなと想像しまして、それを元にオリジナルストーリーとして脚本を書いた感じですね、はい。
―それで、こうやって吉沢亮さんと若葉竜也さんがその二人を演じたということですよね。
監督 そうですよね。すごいなぁと思って見てますけど。いまだにすごいなぁと思って(笑)。

=お互いの印象=

―今回共演されての印象を聞いてみたいと思うんですが。あらためて落合さん、吉沢さんとの共演シーンがたくさんありましたが、どんなところをすごいな、とか面白いなと思ったところありますか?
落合 亮君には入ったときに「〇〇観たよ、俺ファンなんだよ」と開口一番に言ったと思うんですよ。年下の子と共演する機会が増えてきたんですけど、その中でも素晴らしい役者さんだと思うので(吉沢お辞儀)嬉しい気持ちで毎日やってたし、竜也はいなかったんだけども二人の空間でやってたって感じで、ね。毎日楽しかったです。

―そう言われてますけど、吉沢さんどうでしたか?
吉沢 楽しかったですよ、ほんとに。この作品の中で会話する人って、ほぼほぼ磯野だけなんで、僕は。二人で作っている空気感とかも・・・共演させていただくのは初めてですけど、なんかすごく居心地の良いというかやりやすい空気感でやらせていただいてました。すごく楽しかったです!
若葉竜也 as 浅川陸 _DSC09449_hosei.jpg

―若葉さんちょっと孤独なシーンも多かったと思いますが、どうですか?吉沢さんと共演されてみて。

若葉 僕、吉沢くんとほとんど3日くらいしか、ね?
吉沢 そうですね。4シーンくらいしか一緒にシーンがないんで。
若葉 一緒のシーンがなくて、後はほぼほぼ一人で悩んでるシーンなんで全然楽しくなかったですね(笑)。
―お会いになってみていかがでしたか?ファーストインプレッションというか?
若葉 え、吉沢君とですか?吉沢君は・・・勝手なイメージですよ、僕の。爽やかでスターな感じかな、と思ってたんですよ、勝手に。そしたらもう、死ぬほど暗くて(笑)。こんな感じなんだと思って・・・英一が吉沢君の本来の姿に近いのかなと、僕は勝手に思いました。どうなんすか?(吉沢へ)
吉沢 近いですねぇ。(笑)
若葉 暗いよね?(笑)
吉沢 暗いです。自分で言うのもあれですけど、演じていて彼のなんか、暗いんだけど、別にそれを・・・なんていうんだろ。ほんとは周りに興味あるんだけど、暗いしどう接していいのかわからないから全然興味ない振りをしている感じとか、すごく理解できるし。ここまで内心が役とフィットする瞬間があんまりないなぁと思いながらやっていましたけどね。

―落合さんはそういう風に思いました?横で見ていて。
落合 うーん、じゃ俺の前では気丈に振舞ってくれていたのかな?(吉沢 笑)
若葉 そうそうそう。たぶん。一回ね、吉沢君がある女優さんと映画の宣伝をしているラジオを聞いたの。めっちゃ明るくて(吉沢 笑)
落合 ヤバいよねあれは。
若葉 ヤバいよね。全然違うじゃん。あれはなんかスイッチがあるの?それとも日によってあんなに高低差があるの?
吉沢 たぶんどっちもほんとなんですよ。作ってるわけじゃなくて。
若葉 いや、ずるいそんなの。もっとほんとのことが知りたい。(笑)
吉沢 違うんですよ。ほんとに根は暗いけども、ふざけたりするの大好きだし、騒ぐのも大好きなんです、ほんとは。
若葉 じゃもっと話しかけると、もっと吉沢亮が見れる?
吉沢 見れますね。わりとモトキ君はその段階まで来てましたね。
若葉 え、二人でいるときどんな感じだったの?モトキと。
落合 亮君だいたい座らない、かな。
若葉 いやいや、おかしな人になってる。座らず?(笑)二人で飲みに行ったりしたんでしょ?
吉沢・落合 行った。行きました。
落合 ちゃんとほろ酔いになるまで飲んで。でも吉沢亮君が連れてく店ってことだから、俺値段設定がわかんなかったから、しこたまATMで金おろして(笑)・・・楽しく飲めた。
若葉 ああそう。僕は一回も飲みに行ってないですけど。ほんと現場で5言くらいしか喋ってないです。
―ジェラシーですね。
若葉 ジェラシーとか?僕はもう暗い人だと思ってたんで。勝手に。「次に行って」ってカンペ出てます。(爆)

=「〇〇超え」は何?=

―みなさんがどういう性格なのかわかりそうな深堀りの質問をしていきます。空前の将棋ブームの今年、藤井壮太二段が出した一手が「AI超え」と話題になりました。そこでみなさんに共通質問です。個人的に今年「○○超え」、以前の自分を超えたことはなんでしょうか?すっごいシンキングタイムになってますけど。
若葉 誰からですか?
―誰からいきましょうか?
吉沢 これはあれですよね。出た人からいけばいいんじゃないすか?
―じゃ吉沢さん
吉沢 えっ(笑)。僕から?えー、難しい。何何超えですもんね、何かを超えなくちゃいけないんですよね。ほんとに出てこない。ちょっと待って。
若葉 「何何超え」ってどういう意味?(みんなからフォロー)新しくチャレンジしたことじゃダメなんですか?(いいよと声)
吉沢 そういうこと。あります?なんか。
若葉 俺はね、今まで服にお金かけなかったの。現場にいけばすぐに衣裳に着替えちゃうし、別に何でもいいやって思ってたの。だけど「ありえない金額のコートを急に買った!」(笑)それくらいしかない。
落合・吉沢 超えたね~!
若葉 なんかね、ほとんどが数千円で買えるものばっかりだったんだけど、1着だけ何十万もするコートがある。
落合 それさ、逆に合わせづらくない?
若葉 だけどね、今回のスタイリストさんが「上下スウェットにそのコート着てたら、外人のお洒落みたいでいいね!」って言ってくれた。(笑)それ得意技にしようかと思って。
吉沢 筋トレ、超え。
―具体的に教えてください。
吉沢 筋トレを始めました。役でです。今まで筋トレとか全然やってこなくて、けっこうぽちゃぽちゃしてたんですけど、役で、っていうのもそうだし、人前に出る仕事だからと思って、去年の末くらいから始めて。
若葉 ムッキムキの吉沢君ってどうなんだろうね。ムキムキになるつもりなの?
吉沢 細マッチョよりはもうちょい。ガタイ大きい感じの。最近舞台でけっこう体力使って痩せちゃいましたけど。ちょっと前までもっと腕とかも、ポン、ポンポン(胸)と、来てたんですけどね。はい。
監督 僕はね、緊張を越える瞬間がずっと続いておりまして。もう今もよくわからないことになっていますけど、こんなに人前に出ることは人生で一度もなかったんで。自分の緊張をコントロールできてるんじゃないの最近は、ってなってますね。みなさん(俳優陣)ね、表に出るからなんともないでしょうけど、僕はもういいです。

落合モトキ as 磯野達也_DSC03525.jpg

落合 僕、今年30になったんでいろいろ、「食」を見直そうと思って。昼ご飯今までラーメンとか、カレーライスとか食べてたんですけど、最近「鰻」を食べるようになって。鰻重食べています。全然「超え」に落とせないんだけど(笑)、とりあえず「鰻超え」です。
吉沢 意味あるんですか?鰻をとるってことに。
落合 なんかおとなっぽくない?肝串食って一杯やって白焼き食うか、鰻重食うか、選択肢みたいな。それはちょっと大人っぽいというか、ぶってるというか。
吉沢 ああ・・・超えてます。
落合 超えたでしょ?超えました~(笑)。

=立ち直る方法=

―ありがとうございます。ではもう一つ聞いてみたいと思います。主人公英一はコンピューター将棋に出会ったことで再起いたします。みなさんに質問です。これまでにくじけそうになったとき、どうやって自分を奮い立たせたり、立ち直ったりしましたか?若葉さんいきますか?
若葉 俺?俺ですか?ほぼ毎日くじけそうになってるんで、何だろうな?ええ、くじけてますよ、もうとっくに。
僕、大衆演劇出身でずっと芝居に触れて来たんで、正直役者業とか馬鹿にしてて、役者以外になりたいってずっと思ってたんで。だけどあるときから・・・プロ棋士もそうですけど、ボクサーとか年齢制限があるじゃないですか。自分ができることの可能性がどんどんなくなっているって思って。唯一生活できる可能性が高いのは、産まれた時からやってるこの仕事だっていう。だから挫折的に役者になった人間なんで、今現在挫折している状況ですね(笑)。
吉沢 挫折をどう乗り切るか、ってことですもんね。挫折とはまたちょっと違うかもしれないんですけど、あまりにも目の前の壁が大きいとか、どうやって乗り越えたらいいかわかんないってときは、めちゃくちゃネガティブになるんです。自分をネガティブに落とし込んで、いざ蓋開けてみたらそうでもなかった、みたいなパターンが多いですね。
若葉 じゃ『AWAKE』撮影中はそんな感じだったの? あれはスタンダードな吉沢君?
吉沢 ちょっと難しいな、どういうことですか?
若葉 落ち込んで「こんな芝居できないかもしれない」と思ってくるわけでしょ?地獄に着いているのか、スタンダードなのか?
吉沢 あ、そういうこと。あれはスタンダードです。
若葉 ああそう。へええ。
吉沢 今回も台詞難しかったりとか、挑戦しなきゃいけないようなシーンも結構いっぱいあったんです。そういうときも落とし込めば落とし込むほどなんかこう、心配になってきちゃってやるしかなくなってくるじゃないですか。それでやったら意外とできる、みたいなことが多いですね。
―ちょっとMっ気があるんですね。
吉沢 ・・・はい。そうかもしれない(笑)。
落合 挫折はみんなの言葉を借りればほんと毎日しているし、カメラの前でワンシーン、ワンカット撮るたびに挫折してるいうか、後悔しているような気持ちだし。でもどうにか続けていかなくちゃ、と。どうするかというか、ほんと時間が解決するものかなって思いつつも、応急処置は必要だなと思ってるので。うち猫2匹飼っているんで、帰ったら猫が2匹寄り添って寝てるところに顔をうずめて猫に迷惑をかけるっていうのが一番の応急処置かな。猫に癒されて次の日も頑張ろうって思う。
長い台詞のとき、山場だなこれ、っていうとき行けるかな?って思うときあるじゃないですか。次の日の夜(のことを)考えたりしません?この時間には終わってんだろ、このシーンって。
吉沢・若葉 あるあるある・・・
若葉 12時間後には終わってるなとか。
落合 そうそうそう!
吉沢 確かに。ありますよね。
落合 何とかなるんだろ、って思いながらお芝居をしてるっていう。それも応急処置のひとつかもしんない。(笑)
監督 僕はにぶいのか、挫折ってあんまり経験してないような気がしますね。まあ、あるとすれば、そういう気になったときは「なるべく人のせいにする」っていうか(笑)、自分が悪いんじゃなくてそれ以外の何かの要素がきっと悪いんだってことで、自分の身からなるべく離して考えると、あんまり深刻にならなくてすむのかなと思ったりします。

―ありがとうございました。では最後に吉沢亮さん、12月25日に公開になりますので、メッセージいただけますか?
吉沢 もちろん将棋ファンの方にも、そうでない将棋の知識があまりない方にも楽しんでいただける内容になっています。友情の話だったり、青春、成長、普遍的なものを根本のテーマとしておいている作品なので、いろんな世代のいろんな方に観ていただきたいと思っております。クリスマス、ぜひ『AWAKE』を観に来てください。お願いします!(拍手)

(C)2019「AWAKE」フィルムパートナーズ
http://awake-film.com/
作品紹介はこちら
★2020年12月25日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

『レディ・トゥ・レディ』公開記念舞台挨拶

DSC_7718.jpg

12月13日(日)ヒューマントラストシネマ渋谷
W主演を務めた大塚千弘さん、内田慈さん、これが商業映画監督デビューとなる藤澤浩和監督が登壇しました。
公式レポが届きましたのでご紹介いたします。
作品紹介はこちら
大塚千弘さん、内田慈さんインタビューはこちら
(C)2020 イングス
http://lady-to-lady.net/


◆誕生日が同じ二人が全集中
大塚 こんなにも体力と筋肉が必要なのかと驚きました。約2ヶ月の練習では朝から2時間くらい“全集中”で踊っていたので、ダンスの稽古だけで4キロ以上体重が落ちました。ダンス後はお腹がペコペコでした。
内田 大会シーンはプロのダンサーの方々が大勢いる中で、色々なダンスが同時進行します。何テイクも撮影できないので、ダンスシーンは“全集中”で臨みました。まさに“阿吽の呼吸、ダンスの形”でした。

DSC_7605.jpg

大塚 大勢のダンサーの方が参加してくれて、私たちも煌びやかに着飾らせてもらいました。撮影ではダンス練習期間の想いが溢れてきて、一回目のワルツで感情が溢れ出て涙が…。二人で目を合わせながら“泣ける~!”となって、藤澤監督から『泣くのは早いです!』とNGになりました(笑)。

◆役作り
大塚 自分の専業主婦の母を見て、そこから盗めるものは盗みました。例えばサンバイザーを付けたり、ウォーマーを付けたり。そういったものを衣装合わせの際に御提案しました。

内田 かつて店頭販売のバイトをしていたので、アルバイトシーンは当時を思い出しました。またオーディションのシーンでは客観的に見て下手に思われるように、緊張してちょっと声が上ずっているような演技を意識しました。
大塚 オーディションのシーンは見ていて爆笑しました(笑)。

DSC_7622.jpg

◆商業映画監督デビューで競技ダンス
藤澤監督 「テーマは役割からの解放」です。その中で競技ダンスのリード&フォローの概念を知りました。そしてお互いがお互いを支えるのがダンスだと理解。女性同士でお互いを支えるという設定に辿りつきました。

DSC_7673.jpg

◆みなさまへ
内田 映画の認知はまだまだこれからですが、沢山の方々に観てほしいです。価値観が大きく変わる世の中で、なかなか今までのようにはいかず、どうやったら希望を持てるのかわからない時代かもしれません。真子と一華は前例のないことに突破して、やりたいからやる!と言い切ります。そこに希望がある。夢を語るのはタダ!この映画がみなさんのエネルギーになれば。

大塚 コロナ禍という暗いニュースが多い中で、今こそ『レディ・トゥ・レディ』は公開するべきだと思いました。元気をもらったり、明るくなれたり、観てくれた方がちょっとでも挑戦をしようと思ってくれたら幸せです。明るくスッキリしたスポコン映画。このエンタメで気分転換してもらえたら嬉しいです。

『レディ・トゥ・レディ』大塚千弘さん 内田慈さんインタビュー

IMG_4798 (2).jpg
大塚千弘さん、内田慈さん
2020年11月9日、ダンスビュウ編集部会議室にて

大塚千弘(おおつか ちひろ)鈴木真子役
1986年3月12日、徳島県生まれ。2000年第5回東宝シンデレラ 審査員特別賞受賞。2003年ドラマ「ショコラ」(MBS・TBS)で主役に抜擢される。WOWOドラマW「メガバンク最終決戦」(2016)、TBS「凪のお暇」(2019)、テレビ朝日「鉄道捜査官」(2012~)テレビ朝日「嫉妬」(2020)などに出演。映画では 2014年『東京難民』(佐々部清監督)2016年『僕の妻と結婚してください』(三宅喜重監督)2017年『ゾウを撫でる』(佐々部清監督)、『ジョニーの休日』(新谷寛行監督)、『光』(河瀬直美監督)、2019年『ダンボ』では吹き替え、劇中歌を歌唱。舞台は、ミュージカル「レベッカ」(2019)「ダンスオブヴァンパイア」(2019)、朗読劇「もうラブソングは歌えない」(2020)など。第36回菊田一夫演劇賞。

内田慈(うちだ ちか)城島一華役
1983年3月12日、神奈川県生まれ。日本大学芸術学部中退後、演劇活動を始める。2008年『ぐるりのこと。』(橋口亮輔監督)でスクリーンデビュー。その後、2010年『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(白石和彌監督)ではデリヘル嬢と地下アイドルという2つの顔を持つ女性を演じ注目を集める。主な映画出演作に『きみはいい子』(呉美保監督)、『下衆の愛』(内田英治監督)、『葛城事件』(赤堀雅秋監督)、『響-HIBIKI-』(月川翔監督)、『ピンカートンに会いにいく』*主演(坂下雄一郎監督)などがある。TVでは2019年「Heaven?〜ご苦楽レストラン〜」(TBS)、2020年「トップナイフー天才脳外科医の条件ー」 (NTV)「半沢直樹」(TBS)などに出演。Eテレの幼児向け番組「みいつけた!」ではデテコイスの声を長年つとめている。

作品紹介はこちら
監督・脚本:藤澤浩和 
http://lady-to-lady.net/
(C)2020 イングス
★2020年12月11日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開


―この映画のお話がきたときどう思われましたか?
内田 オーディションだったんです。企画書をもらったときに「あ、これ絶対やりたいです!」。ひとつにはとても楽しそうな空気を感じたんです。ダンス!楽しそう!しかも競技ダンスはやったことがないので、知らない世界に触れられるのかな。歳の近い監督さん、出会ってみたいなって。私はそのとき年齢的にも、もう一回何か挑戦してみたいな、初心にかえって何かやりたいなという時期で。迷いなく「これは受けます!」と。オーディションの項目に「30秒ダンスをしてください」っていうのがあって。
大塚 あった!(笑)
内田 舞台の稽古中でけっこう忙しい時期だったんですけど、稽古が終わった後に自分でスタジオを取って(笑)30秒のダンスを作って挑みました。楽しかったです。
大塚 私もマネージャーさんから「オーディションを受けてみない?」と企画書をいただいて。元々『Shall we dance?』やミュージカル映画が大好きなので、ぜひやってみたい!と思ったんです。オーディションは、お芝居と30秒のダンスを踊ることでした。ダンスが好きだったので、オーディションはとても楽しかったですね。
―モダンダンスというか創作ダンスなんですか?
大塚 何でもいいんです。
内田 うん、何でも。
大塚 何でもいから30秒踊るんです。
―残念、動画サイトならここで踊っていただくのに。
大塚・内田(笑) なに踊ったか覚えていない(笑)。
大塚 しかも、しかもですよ、ダンスオーディションなのにめっちゃ部屋が狭かった(笑)。
内田 そうだった(笑)。
大塚 椅子とかに当たらないように踊らなくてはいけない。なんか精一杯踊ったというのは覚えています。
内田 床から出てるコードとかを避けながら一生懸命踊った(笑)。
―これから仕事に入るのに怪我したらたいへんですね。
内田 その環境の中で、どれだけのことができるかを考えながらのぞみました。
―応募のときはどのキャストかわかるのですか?
内田 実は、私は「真子役」で受けていたんです。
大塚 オーディション自体が真子だった気がする。
内田 そうだよね。そうそう、一応真子の台詞と一華の台詞があって。
大塚 オーディションのときに真子と一華、交互に演じましたね。
内田 そのときの台本だと一華のほうがリードの設定だったんですけど、たぶんオーディションをやって、いろいろな組み合わせとか、適性とかで、いろいろ変更があったんだと思うんです。私は一華になって、リードは真子になって。
大塚 監督が脚本も書かれているので、現場でいろいろ変わることもありましたし、最初の一ヶ月、お稽古する中で設定も変わっていく感じでした。
―ダンスのお稽古が一ヶ月ですか?あのワルツやらクイックやら…
内田 タンゴも。
大塚 朝10時から2時間。2時間踊ったらヘトヘトなんです。もうすごい痩せましたもん。
内田 でも千弘ちゃんその後にヨガ行ったりしてたよ(笑)。
大塚 器械体操やダンスを習っていたので、とにかく動くのが好きなんです(笑)。お稽古で踊った後にヨガに行くこともありましたね。

―ぴったりの役ですね。真子さんは主婦とパートとダンスもやって。一華さんは女優さんで啖呵切ったりしていましたけど、あれは…”演技”ですよね?
大塚・内田 (笑)
内田 もちろんです(笑)。
―すみません(汗)。ちかさんはてきぱきしてはっきりものを言うイメージで。
大塚 確かに。そういう役多い?
内田 多いですねぇ。
―そしてリスクがあっても挑戦する、そういうイメージがあったので重なりました。
内田 それはなんだか嬉しいです。

mako1.jpg
―役作りのご苦労は? 
内田 うーん。どう?(大塚さんへ)
大塚 主婦のモヤモヤした感じは想像で演じました。
―娘にわかってもらえなくて辛そうなシーンがありました。
大塚 まだ、母親の経験がないので難しかったですね。
―監督から役についてのアドバイスなどは?
大塚 わりと自由にやらせていただきました。
内田 ダンスの稽古が1ヶ月あるのと、プラス演技のリハーサルが数日間あったんです。あれ、一日??(笑)
―撮影は何年前ですか?
大塚・内田 2年前です。
内田 インする直前に演技だけのリハーサルもあったんですよ。
大塚 私は1日ありました。
内田 人によって違うのかな、私は2日あった気がする。
大塚 私は家族とちかちゃんのシーンを1日で。
内田 家族パートとわかれてたんだね、きっと。だから全体では3日くらいあったかも。
そのとき、「演技体のテンションがどれくらい振り切れるか」によって、コメディの度合いが変わると思っていたのでそれについて聞いたり、一華のグイグイした性格をどう表現するか・どういう人なのか?などを話し合ったりしました。
例えば真子からは「ほんと自分勝手だよね」という台詞をもらうことが多い。たしかに自分勝手な部分もあるけれど、周りが見えないタイプではなく冷静な部分もあるかも、とか。真子との関係において、彼女に対してだけ見せられるキャラもあるだろうなんて話もしました。彼女の強いキャラをキャラとして演じずに、あくまで内面に寄り添ってつくるよう共有しました。

―初共演ですか?
大塚 はい!私たち実は、同じ誕生日なんです。
―(プロフィールを見て)あら!ほんとだ!
大塚・内田 3月12日!(笑)
―うお座?
大塚 うお座B型(笑) 
内田 O型(笑)
大塚 初めて会った時にちかちゃんが「誕生日同じなんだよね」と言ってくれて。
―お誕生日が一緒ってなんだか共通点が多そうでいいですね。
内田 奇跡的!
大塚 身近な感じがします。
―そして一ヶ月身体を酷使しつつ特訓、それもペアで。
内田 そうなんです。千弘ちゃんはミュージカルの方ですし、器械体操もやられていたので、筋力も強いし、身体の使い方も圧倒的で。さらにヒールで踊るので、足が痛かった!
大塚 マメがつぶれて皮が剥けてね。
内田 (ポスターの)このポーズはリードが幹のように立っていて、私は弓形にバランスを取りながら身体をあずけるというか。だから私自身の軸もかなりしっかりしていないといけないんですけど、軸や筋肉がまだまだでグラグラになったりで、よく「ごめん!」って言ってました(笑)。
大塚 いやぁ(笑)。競技ダンスっていうのは、めちゃくちゃアスリートの競技。華やかで綺麗にくるくる回っているって思っていたんですけど、こんなにトレーニングしないとダメっていうくらい、身体を酷使することに驚きましたね。
―なおかつ、苦しい顔しちゃいけないんですよね。
大塚・内田(笑)そうそう!
大塚 それがやっぱり難しいんです。簡単にできることではないです。
―順撮りでしたか?
内田 全然。
大塚 そう!一ヶ月のお稽古後、そのまま撮影に突入して怒涛の2週間でした。競技シーンは夜中の2時位まで撮影していましたね。
内田 うん。
大塚 何回も踊るので、体力の限界でしたね。ドレスを着たまま座って寝ていました(笑)。
―それは大変でした。血豆ができても休めない?
大塚 2,3日はお休みできました。
内田 痛すぎてね。
大塚 ちかちゃんは、レッスンを始めるのが遅かったよね。
内田 舞台の本番中だった気がする。
大塚 ちかちゃんが来てから、女性パートを練習するということになって、その時に休ませてもらいました。
内田 それでも全然時間足りなかったんですよ。その間ににクイックステップ覚えて…とか思っていたのに、クイックステップ私にはほんとに難しくって全然覚えられなくて。
大塚 振り回してたよね、私が(笑)。
内田 こっちだよー!って(笑)。
―会場は広いし、動き回るし、顔や足や全体も撮らなくちゃいけないですね。カメラは何台でしたか?
大塚 普通は1台。競技シーンは2台。カメラマンの麻樹さんがジブみたいなので撮ってた気がするけど。
内田 あれね、面白いんですよ。客席に観客のエキストラさんが最初びっしりいたんですけど、終電が迫ってきてだんだん減っていく(笑)。そうすると「寄ってください」となって、撮れるカットも限られていくんです。
大塚 そうなの、そうそう。夜中だからね(笑)。
内田 あまり回転しちゃうとカメラも回転するので(空席が映って)バレちゃうから(笑)。
―お二人は今どこを撮られているかはわかるものですか?
大塚 最初は一連で全部踊るんですけど、その後に監督が撮りたいパーツを撮っていくって感じです。だから「今、ここを決めれば大丈夫」というのはわかるんです。
―どうやって撮っていくのかなと思っていました。ちょうど撮影の伊藤麻樹さんとお仕事した監督さんの取材をしたばかりです。とても優秀な方だと伺っています。
内田 別の作品でお世話になったことがあるんですけど、新しいアイディアを下さったり、考えさせられる視点を下さるカメラマンさんでした。
大塚 今回のワルツのシーンで二人がくるくるくるっと回ってドレスが円になるところは、麻樹さんのこだわりの絵だそうです。女子同士でドレスだからこその。

lady to lady.jpg
―∞マーク、太極マークみたいでした。衣裳がよくお似合いでしたが、お二人のお好みが入っているんですか?
大塚 作っていただいたんです。
内田 チャコットさんにご協力いただいて。
大塚 色は言った気がする…。
内田 一回着てみて、形はこれとか、なんとなくは言ったよね。
―きっとすごく高価だと思うんですが、汗もかきますよね。1着ですか?
内田 そうですね。でもきっととんでもないお値段だと思うので1着。今、公式のTwitterで監督が「制作日記」を書いているんです。その中で、ドレスのことを書いていて、女性同士だからドレスの正面がつぶれちゃうので、横に広がりを持たせるようにしたとありました。
大塚 サイドに模様が見えるように。前だと隠れて見えないので。
内田 そうそうそう。工夫があったみたいです。
―そして、リボンを踏むシーンもありました。
内田 それが深夜の2時くらい(笑)。
大塚 なんか朦朧としながら(笑)。
内田 ほんとにもう、フン!っとやって(笑)。ヘトヘトだったけど、でも楽しかった。
―あれは脚本にあるシーンなんですね。
内田 そうです。最終稿まではちょこちょこ変わって、その間に役についての意見を聞かれたり、お話する中で変わっていったりした部分もありましたが、基本的な筋は最初から決まっていました。現場でのアドリブを求められるところは基本なかったけれど、俳優からの質問やアイディアなどにとても真摯に寄り添ってくださいました。
大塚 一ヶ月のお稽古を監督が毎日見にいらしてて、その中で二人から生まれる会話を使いたい、と言って下さって。好きに言いたい放題言ったところを使ってくれたんです。
内田 そうだ。ダンスの中で喧嘩するシーンはほぼアドリブだったね。
大塚 お稽古中に「もっとここをこうしたらいいよね」とか「もっと腹筋を入れないとダメだね」とか、いろいろわかって来て。
内田 実際そんな喧嘩したわけじゃないですよ!(笑)実感を元にデフォルメさせたり出し方を変えたりして利用しました。

―完成作をご覧になったのはいつですか?
内田 二人とも最近で、私はつい数日前(笑)。
大塚 私は10月の初号で観ました。
―ご苦労なさって、完成作を観ていかがでしたか?
内田 ほんとに3日前くらいに観たんですけど、向井役の清水葉月ちゃんとこの2年の間に「ちかさん続報聞きました?」
「早く試写観たいよね!」とかやりとりしてて(笑)。やっている舞台に監督が来てくれるたび「試写はいつになりますか?」って聞いて(笑)、いよいよ決まったって時には新納さんとも「やったー!」って連絡したり(笑)。葉月ちゃんが先に試写を観て「ちかさん、これめっちゃいい映画ですよ!」って連絡くれて、永井ちひろちゃん(ドレスやさんの店員役)も「早く観てください。すごい幸せになりますよ」って連絡くれて。ハードル上がってたんですけど(笑)、自分が出ているのも忘れて新鮮に観られた。
エンタメに振り切りつつ、人間の描き方は繊細で、「これぞ映画!」というドラマチックな描き方、でもドラマチックさはあくまで演出的にという意味で、思想としては現実をクールに捉えたリアリティがある。笑いのセンスもコアでなく、ちゃんとみんなに伝わるような間口の広い笑い。一緒に観た方が「フェミ映画だね」「コメディに描かれているけれども、とっても重要な問題提起が軸にあるよね」とおっしゃっていました。エンタメに終わらず楽しくも見られるし、真面目にも見られる、とにかく宣伝をしていろんな方に観ていただきたい映画だと思います。
大塚 やっぱり昔ながらの男尊女卑のようなものが根本に問題としてあるのですが、それを押しつけがましくなく、みんなにわかってもらえるっていうのがすごくいいなぁと思います。

itika1.jpg

―オーディションでの質問や、セクハラ・パワハラ監督やいろいろなエピソードが入っていました。
内田 はい。それを男の監督が描いているというのが面白いですよね。
―共同脚本などで女性が関わっているのかと思いましたが、いないんですね。お二人はどう思うかと意見を聞かれたりはしましたか?
大塚 それはなかったです。ダンスのことは感じたことを監督にお伝えしたんですけど。
内田 台本の話をする中で聞かれたりはあったかな。あ、でもタイトルが。
大塚 タイトルがめっちゃ変わったね。
内田 最初は『アタシは、貴女と踊りたい!』だったんです。「#Me too」やワインスタインのことや、世の中でも色々あって、脚本は脚色されたり、増えたりはしていた、よね。その中でより色濃く出てきた様々なテーマを込めて『レディ・トゥ・レディ』になさったんじゃないかと思うんです。
大塚 この間初号を観たときに監督がいらっしゃって、「2年前より、今こそ観てほしい時期になってきたんじゃないかな」と仰ってました。
内田 そうだね。埋もれさせない世界になっているよね、今の方が。
―はい、一華さんが言っていましたね。「私は黙らない!」って。
内田 はいはいはい!
―いい台詞でした!豪邸からパワハラに屈しないで出てくるところがカッコよかったです。印象的なシーンでした。
内田・大塚(笑)
―豪邸は借りたんですね?
内田 ハウススタジオだったと思います。
―真子さんの旦那様はリストラにあったんでしょうか?
大塚 自分でやめたんじゃないかな。ほんとは何か夫も会社で問題をたくさん抱えて悩んでいたのに、私(真子)が自分のことしか考えてないので、夫の悩みに気づいてあげられなかったということなんです。
―今コロナ禍で、ああいう状況になっている人もいるんじゃないかと思ってしまいました。
大塚 そうかもしれないです。
―真子さんはいきなりスーパーのシフトを増やしましたね。
内田 ずーっと〇で(笑)。
―これ、すごくリアルだ!と、いろんなところで共感できました。主婦の面も、苦労している女優さんの面も。
内田 実際にオーディションでああいう結婚云々とか全く同じ経験があったわけではないですが、ふとした会話の中にとんでもないハラスメントが存在するなっていうのは、コメディタッチに描かれているけれど、すごく共感しながら演じました。

―お二人は女優さんとしてベテラン…ベテランと言っていいでしょうか?
大塚 長いです(笑)。
―いろんな役柄でいろんな人間を生きて来られたと思います。全く知らない世界の役を演じるのと、自分の体験や思いを表現するのとどちらがいいでしょう?
内田 私、その差がないです。どっちにしても自分と何か共通するところというか、何か潜り込める隙を見つけないと演じられないな、と感じています。だから結局すごく遠いような人をやっていても、結果的にすごい自分と似てるなと思いながらやることばかりで。あまり関係ありません。
大塚 あんまりそういう区別をして考えたことがなくて、脚本をいただいて読んだとき、その人の人生を考えてたくさん想像して演じます。けれども演じるのは自分自身なので、表現というかしぐさなどは自分にしか出せないものがあります。それがちかちゃんが言っている「遠いけど似てる」というところに繋がるのかな。あまりこだわらずに演じられたらいいな、と常に思っています。

dancesub.jpg

―女優さんの道を選ぶにあたって、たとえばこの人に憧れたとか、この映画に感銘を受けたとか、きっかけはありましたか?
大塚 私は『釣りバカ日誌』ですね。
内田 意外なんだけど(笑)。
大塚 『釣りバカ日誌』が大好きで西田敏行さんが好きっていうことを「東宝シンデレラ」オーディションの時に言っていたんです。家族で楽しめる映画が『釣りバカ日誌』で。映像の中の世界に入ってみたい、っていう思いが幼な心にあったというか。コロナで自粛のときも『釣りバカ日誌』を観なおしました(笑)。
―面白いこと聞いちゃいました(笑)
内田 聞いたことなかった(笑)。
大塚 今でも好きだなぁと。
―まだ続いてますものね。ちょっとずつ変わって。ちかさんはどうですか?
内田 私、影響を受けたのは松尾スズキさん。
大塚 へええ。
内田 たまたまテレビに出演されていたのを見て、もう衝撃を受けて。皮肉的な表現が、本当は誰もが思っていてもなかなか言えない真実に見えて。舞台映像も流れていて、すっごいヘンテコでむちゃくちゃかっこよくて。こんなに何かを観て笑ったのも初めてだった。今まで見たこともないセンスで、一挙手一投足が想像を超えていくのがすごく面白くて、スズキさんが演劇界の方だから演劇に進んだんです。
大塚 何歳のとき?
内田 17かな。高3の夏。それが、進路が決まった瞬間だったんです。今すごい影響をうけているのは…あのう私「刑事コロンボ」が大好きで(笑)。
大塚 ちかちゃんも同じじゃない(笑)。
内田 元々好きだったんですけど、コロナでシリーズが観られて、なんて素晴らしいんだ!ピーター・フォークになりたい!みたいな(笑)。
―お二人とも渋いですね。
大塚 そうですね(笑)。
内田 クリント・イーストウッドの顔の皺見てるだけで泣けるじゃん。そういう皺の刻み方をしていきたい、というか生き方をしたい。もういろんなもの出たね。釣りバカやコロンボやら。

―これからのお二人の女優さんとしての目標はなんですか?こういう作品に出たいとか、監督したいとか、ありませんか?
内田 今ほんと、なんだか学ぶことが楽しくて。占いみたら、今、私の好奇心は17歳くらいの感じらしく(笑)、遅れてきた青春を生きてる的なことが書いてあって(笑)。だからとにかくなんでも学びたい。そしていつか監督もしてみたい、ってまだ何にも勉強してないのに言ってみた(笑)。
―池田エライザさん、監督作品出したばかりですよ。
大塚 黒木瞳さんも。
―口に出しておくと「夢」は近づくものじゃないですか?
大塚 言っておこう!
内田 監督か…(笑)。
―大塚さんはいかがでしょう?
大塚 目標、そうですね。コロナの影響でこのような世の中になって、お芝居ってこんなに楽しかったんだってことを思い知らされました。好きなことを続けていられることにあらためて感謝しました。そのうえで必要としていただけるなら、私ができる中で精いっぱいやり続けたいなと思います。

―これから作品を観る方にひとことずつどうぞ。
大塚 皆さんがこの映画を観て、新しいことに挑戦したり、何か始めようと思ってくれたら嬉しいですね。そして元気に明るく過ごしていただければいいなぁと思います。
内田 ほんとですよね。コロナの状況になって思うのが、ご飯を食べて寝るというだけでは、なかなか日々を元気に過ごすのは難しいんだなって。この映画の中では、彼女たちが描いた夢は現実にはすべては叶わなかったわけです。でも彼女たちが生きるために自分のやりたいことを掲げて「希望に向かった」ことはすごい活力、生きるエネルギー。それが観る人にとって、押しつけがましくなく伝わるといいなと思います。特にこの時代だからこそ響くものがあるといいな。
―ありがとうございました。

=取材を終えて=
大塚千弘さん、内田慈さんお二人を前にして、銀幕の中の方がこちらに出てきてくださった~とドキドキしました。後で書き起こして自分の質問の迷走っぷりに汗が出ましたが、なんとかまとめましたので、お届けします。
お二人は初共演だったそうですが、社交ダンスの特訓で共に足にマメを作った仲、息もぴったりのペアでした。テンポの良いやりとりで映画制作の思い出のほか、とても貴重なお話も伺えてたいへん楽しい取材になりました。これから出演作を拝見するたびに、初めてお目にかかったこの日を思い出しそうです。ますますのご活躍を!
(まとめ・写真 白石映子)

『声優夫婦の甘くない生活 』豪華声優夫婦登壇トークイベント付試写会レポート

seiyuhuhu.JPG

ソ連でスター吹き替え声優だった夫婦がイスラエルに移民して夢の第2の人生をスタート。しかし、仕事にありつけない2人が始めたのはなんと闇仕事!
長年連れ添った夫婦が甘くない世の中で、お互いがかけがえのない存在であることを思い知る。
エフゲニー・ルーマン監督が旧ソ連圏から移民した自身の経験をもとに、7年の歳月をかけて丁寧に作り上げた本作はフェデリコ・フェリーニや、ハリウッドの往年の名作へのオマージュがクラシカルな映像と相まって、甘美なノスタルジーに誘ってくれます。

主人公が声優夫婦という設定にちなみ、11/ 22 (日)のいい夫婦の日に、リアル声優夫婦のトークイベント付き試写会が実施されました。
「ONE PIECE」の主人公ルフィの義兄ポートガス・D・エース、「ドラゴンボール」シリーズのピッコロ、「うる星やつら」の諸星あたる、洋画の吹き替えでは『バットマン フォーエヴァー』のジム・キャリーや『愛と哀しみの果て』のロバート・レッドフォードなどの声を担当した古川登志夫さん。そして、「美少女戦士セーラームーン」大阪なる、「ドラゴンボール改」ビーデル、「クッキングパパ」芹沢マリ、「きんぎょ注意報」智恵子などの声を担当した柿沼紫乃さんの、日本を代表するレジェンド声優夫婦をゲストに迎え、本作について語っていただきました。

<概要>
【日時】11月22日(日)15:30トーク開始〜16:00 トーク終了
【ゲスト】古川登志夫さん、柿沼紫乃さん 声優夫妻
【場所】アキバシアター(千代田区神田練塀町3 富士ソフトアキバプラザ2F)

<古川登志夫(ふるかわとしお)さんプロフィール>
日本大学芸術学部卒業後、劇団「櫂(KAI)」に参加。「劇団青杜(せいとう)」の創立・主宰し、作・演出を担当。青二プロダクションに移籍後、声優として『ドラゴンボール』のピッコロ、『ONE PIECE』のポートガス・D・エース、『うる星やつら』の諸星あたるなど数々の国民的人気アニメのキャラクターの声を演じ、人気を博す。洋画吹き替えでは『バットマン フォーエヴァー』のジム・キャリー、『愛と哀しみの果て』のロバート・レッドフォードなど多くのハリウッドスターの声を務める。2019年より青二プロダクション附属俳優養成所「青二塾」東京校の塾長も務め、後進の輩出にも力を入れている。


<柿沼紫乃(かきぬましの)さんプロフィール>
国立音大附属音楽高等学校卒業後、「劇団青杜(せいとう)」に入団。ラジオパーソナリティーとしてデビュー。人気アニメ「美少女戦士セーラームーン」の大阪なる、「ドラゴンボール改」ビーデル、パン、「クッキングパパ」芹沢マリ、「きんぎょ注意報」智恵子などの声で知られる。また、ゲームやテレビのナレーションなど幅広い分野で、現在も第一線で活躍している。


司会
この映画を観た感想をお聞かせください

古川登志夫さん(以下、古川)
映画にはさまざまなジャンルがあって、さまざまな楽しみ方があると思う。夫婦の心の機微を扱った作品は今年に入ってからかなりの本数を見ていますが、その中でも特に良質な作品でしたね。
良質とはどういうことなのかと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、夫婦生活って長くなればなるほど、空気や水のようになって、会話も少なくなっていきますよね。あるいは話はしても本心が聞こえなくなってくる。齟齬が生まれることがあるかもしれません。
先日、声優仲間から夫婦の問題を相談されたのですが、そいつにこの作品を見せたらいいんじゃないか。何かヒントがあるんじゃないかと思いましたね。


司会
妻と夫、それぞれ気づかないところに気づかせてくれる映画ですよね。

柿沼紫乃(以下、柿沼)
アニメーションのイベントで、イスラエルにお招きいただいたことがあったのですが、建物や道路といった街全体がエルサレムストーンという色で統一されていたのです。この映画を拝見したときに、エルサレムストーン的な色で包まれていたので懐かしく感じました。
そして、本当の声を聞くのにハリウッド映画のようなドラマチックな台詞は必要ないのかもしれないと思いました。


seiyu-fufu5.JPG

司会
声優夫婦の日常の中で繰り広げられる物語でしたが、声優夫婦だからこそ共感したポイントは?

古川
声優の仕事がないかと知人を頼っていくシーンがありましたよね。自分も声優の仕事を始めたばかりの若い頃は自らアルバムや資料を作って、大学のサークルの先輩でプロデューサーになった方に連絡を取って、「何か仕事はないですか」と頼んで歩いたのです。あのシーンはとてもリアリティがあって、昔の自分を思い出して身につまされました。
でも、最近の日本における声優事情は全然違います。日本の声優の大半の方が事務所に所属しています。たとえば、僕たちは2人とも青二プロダクションに所属していますが、400人強のタレントが所属していて、それに見合うだけのスタッフ編成で、スタッフの方々がシステマティックに仕事を取ってきてくださる。自分の仕事を頼みに行くことはほとんどありません。
現在、日本のサブカルコンテンツをコンセプトにした海外でのコンベンションが数多く行われていて、僕らも過去9年間に21回くらい呼ばれてあちこちに行きました。そこで海外の声優の方々とシンポジウムやフォーラム、個人的に話をするとみなさん、「日本の声優事情は天国だね」とおっしゃるんです。海外には事務所がない。どうやって仕事をしているのかを聞いたら、2~3人のグループで力を合わせて仕事を頼みに行ったりするそう。声優の地位が日本と比べて低い。それを聞いて驚きました。


柿沼
ラヤが電話の仕事でマルガリータになったときに、相手にあわせて、キャラクターを変えていきましたよね。突然、ものすごく低いトーンになったりしていましたが、あれは声優あるあるです。セールスマンの方がピンポーンと来たり、電話を掛けてきた時に、子供のフリをしたり、すごく具合が悪そうなフリをしたり、あからさまに忙しそうに演じたりしちゃいますから。


古川
それ、あなただけでしょ。


柿沼
いやいや、業界あるあるですよ。インターフォンだとご近所の方に聞こえて、「あの奥さん、またやっているわ」と思われているかもしれませんが、そういう風にどんどん変えてしまうことがあるので、あのチェンジの仕方はあるなぁと思いました。
声優夫婦としては、最初のディナーシーンで乾杯をしていましたが、ラヤがヴィクトルにハリウッド的なセリフを言ってくれて乾杯になるのを期待して、「何か挨拶を…」と促したら、ヴィクトルは台本がないので「えっ」となって、固まってしまいますよね。あういうのはうちの中でもあります。
「(家族が)声優だといろんな声が聞けていいね」と言われますが、普段の生活ではそんなことはなくて、時々、妙にかっこつけていたりするので、「今、誰の真似をしているの?」、「今、ビル・ プルマンをやった?」、「今、ピッコロになっている?」と言ったりします。


古川
たまに機嫌が悪いとピッコロみたいになってしまうことがありますけれどね。


司会
いろんな声が使い分けられてうらやましいです。声という点でヴィクトルはラヤの声にほれたという話がありましたが、お二人はそれぞれ、お互いのどんな声が好きなのでしょうか。

柿沼
声優には2タイプありまして、まったく声のトーンを変えずに自分の持ち味だけでいく人と彼のように千変万化する人に分かれます。本当に彼はものによって、まったく別人に変えてしまうんです。業界の人でも最後のクレジットを見るまで古川登志夫だと気がつかれないくらい変えるところがあります。中でも『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』のロバート・カーライルを演じたときの声は、悪役なのに寂しく抑えて痛みを感じない苦しみを表現していて、あの声が一番好きですね。あれは業界の方にも最後まで古川登志夫と気づかなかったと言われるんです。ヨイショ!


古川
今のヨイショだったんですか?(笑)
あれは僕の中では最も低い音を使うように監督さんから言われたんですよ。相手役は田中秀幸さんのピアーズ・ブロスナン。僕は敵役でしたが、2人で昔、「白バイ野郎ジョン& パンチ」やっていたので、お互いがどんな芝居を返してくるか、だいたい想像がついてしまう。楽しく仕事をさせていただきましたが、あれは「テロップ見るまで分からなかったよ」とよく言われましたね。


司会
古川さんは柿沼さんのどんな声がお好きですか。

古川
今やっている、「ワンピース 和の国編」のお鶴とかがいいかな。彼女はラジオからスタートしました。「忌野清志郎の夜をぶっとばせ」とか「What’s in?」で忌野清志郎さんのパートナーをやって、七色の声を出すからという洒落で「レインボー柿沼」というあだ名がつけられていました。うちの劇団に入ってきた研究生だったので、それをラジオで聞いたときに鼻にかかった面白い声だなと思いましたね。


司会
映画の中ではヴィクトルがラヤの声を電話でも一瞬で分かりましたが、電話のお客さんは半日一緒に過ごしても分かりませんでした。気づく、気づかないは夫婦の愛情や長年連れ添ってきたところの愛情表現の1つでしょうか。ご自身だったら気づきますか。

古川
僕はどんなに化けてもすぐに分かりますね。


柿沼
家でセリフの練習を聞いていて、準備段階を知っているから、どこでオンエアされてもだいたいわかりますね。でも、もし、練習を聞いていなかったら、セリフだと分からないかも。フリートークならわかるかもしれませんが…。これ、褒め言葉?


古川
それは愛情が少ないんですね。(笑)


柿沼
それだけ演技の幅が広いと受け取ってはいただけませぬでしょうか。


司会
それでは、お二人にとって忘れられない映画は?

柿沼
フェリーニだと『道』が好きです。ジュリエッタ・マシーナが監督の実の奥さんであることを後から知って、ピュアなあの役を奥さんにあてるという心根に惚れましたね。
2人で旅行することが大好きなのですが、ロケ地巡りも好きなんです。エルサレムに行ったときにオリーブの丘とかを見上げながら、パゾリーニの『奇跡の丘』に思いを馳せました。


古川
僕が映画好きなので、毎週末に映画を見ています。リビングにでっかいスクリーンを設置して、彼女が4本くらいチョイスした中から2本くらい。年に120本くらい見ますかね。
海外に行く時は映画を事前に調べてロケ地にいく。サンフランシスコでは『めまい』のゴールデン・ゲート・ブリッジの撮影地に行ったりしました。
僕が印象に残っている映画は『カサブランカ』でしょうか。何と言ってもイングリッド・バーグマンの美貌のすごさにやられました。部屋にバーグマンの写真をかけたら、(柿沼さんに)私の写真にしなさいと言われました(笑)。そのくらい好きですね。


司会
劇中でヴィクトルが「映画は豊かな世界そのもの 吹き替えはその入り口だ」と語る台詞がありましたが、ふたりにとって、映画の吹き替えとは?

古川
神様が与えてくれた天職。これ以外にできることがないという気がしています。そして映画などのサブカルコンテンツは民族や国民性を一気に飛び越して理解し合えます。言葉の障壁を越えて豊かな世界に誘う。そういう橋渡しをする役目だと思っています。


柿沼
翻訳マシーンで翻訳はできますが、国民性によって感情表現が違います。欧米だとこう表現するけれど、日本ならここは抑えた方が伝わるんじゃないかとか。そういう感情表現のところも翻訳してお伝えするのが吹き替えの仕事として心がけています。


最後に、主人公の声優夫婦ヴィクトルとラヤの声をおふたりにやってほしいと司会から振られると、会場からも大きな拍手が起こった。古川さんは「ぜひやってみたい」と熱望し、柿沼さんも「うまい俳優さんが演じている作品は、吹き替えに挑戦したいし、乗り越えたいと思う。」と熱いコメントで、会場も盛り上がり、まだまだ熱く語りたい空気の中、トークイベントは終了した。
seiyu-fufuposter.jpg

『声優夫婦の甘くない生活』
<STORY>
1990年、イスラエルへ移民したヴィクトルとラヤは、かつてソ連に届くハリウッドやヨーロッパ映画の吹き替えで活躍した声優夫婦。しかし、夢の第2の人生のはずが、新天地では声優の需要がなかった!生活のため、ラヤは夫に内緒でテレフォンセックスの仕事に就き、思わぬ才能を発揮。一方ヴィクトルは、違法な海賊版レンタルビデオ店で再び声優の職を得る。ようやく軌道に乗り始めたかに見えた日々。しかし、妻の秘密が発覚したことをきっかけに、長年気付かないふりをしてきたお互いの「本当の声」が噴出し始める。

監督:エフゲニー・ルーマン 
脚本:ジヴ・ベルコヴィッチ エフゲニー・ルーマン
出演:ウラジミール・フリードマン マリア・ベルキン
2019年/イスラエル/ロシア語、ヘブライ語/88分/スコープ/カラー/5.1ch/英題:Golden Voices/日本語字幕:石田泰子 
後援:イスラエル大使館 
配給:ロングライド 
公式サイト: longride.jp/seiyu-fufu/
12月18日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開