『声優夫婦の甘くない生活 』豪華声優夫婦登壇トークイベント付試写会レポート

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ソ連でスター吹き替え声優だった夫婦がイスラエルに移民して夢の第2の人生をスタート。しかし、仕事にありつけない2人が始めたのはなんと闇仕事!
長年連れ添った夫婦が甘くない世の中で、お互いがかけがえのない存在であることを思い知る。
エフゲニー・ルーマン監督が旧ソ連圏から移民した自身の経験をもとに、7年の歳月をかけて丁寧に作り上げた本作はフェデリコ・フェリーニや、ハリウッドの往年の名作へのオマージュがクラシカルな映像と相まって、甘美なノスタルジーに誘ってくれます。

主人公が声優夫婦という設定にちなみ、11/ 22 (日)のいい夫婦の日に、リアル声優夫婦のトークイベント付き試写会が実施されました。
「ONE PIECE」の主人公ルフィの義兄ポートガス・D・エース、「ドラゴンボール」シリーズのピッコロ、「うる星やつら」の諸星あたる、洋画の吹き替えでは『バットマン フォーエヴァー』のジム・キャリーや『愛と哀しみの果て』のロバート・レッドフォードなどの声を担当した古川登志夫さん。そして、「美少女戦士セーラームーン」大阪なる、「ドラゴンボール改」ビーデル、「クッキングパパ」芹沢マリ、「きんぎょ注意報」智恵子などの声を担当した柿沼紫乃さんの、日本を代表するレジェンド声優夫婦をゲストに迎え、本作について語っていただきました。

<概要>
【日時】11月22日(日)15:30トーク開始〜16:00 トーク終了
【ゲスト】古川登志夫さん、柿沼紫乃さん 声優夫妻
【場所】アキバシアター(千代田区神田練塀町3 富士ソフトアキバプラザ2F)

<古川登志夫(ふるかわとしお)さんプロフィール>
日本大学芸術学部卒業後、劇団「櫂(KAI)」に参加。「劇団青杜(せいとう)」の創立・主宰し、作・演出を担当。青二プロダクションに移籍後、声優として『ドラゴンボール』のピッコロ、『ONE PIECE』のポートガス・D・エース、『うる星やつら』の諸星あたるなど数々の国民的人気アニメのキャラクターの声を演じ、人気を博す。洋画吹き替えでは『バットマン フォーエヴァー』のジム・キャリー、『愛と哀しみの果て』のロバート・レッドフォードなど多くのハリウッドスターの声を務める。2019年より青二プロダクション附属俳優養成所「青二塾」東京校の塾長も務め、後進の輩出にも力を入れている。


<柿沼紫乃(かきぬましの)さんプロフィール>
国立音大附属音楽高等学校卒業後、「劇団青杜(せいとう)」に入団。ラジオパーソナリティーとしてデビュー。人気アニメ「美少女戦士セーラームーン」の大阪なる、「ドラゴンボール改」ビーデル、パン、「クッキングパパ」芹沢マリ、「きんぎょ注意報」智恵子などの声で知られる。また、ゲームやテレビのナレーションなど幅広い分野で、現在も第一線で活躍している。


司会
この映画を観た感想をお聞かせください

古川登志夫さん(以下、古川)
映画にはさまざまなジャンルがあって、さまざまな楽しみ方があると思う。夫婦の心の機微を扱った作品は今年に入ってからかなりの本数を見ていますが、その中でも特に良質な作品でしたね。
良質とはどういうことなのかと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、夫婦生活って長くなればなるほど、空気や水のようになって、会話も少なくなっていきますよね。あるいは話はしても本心が聞こえなくなってくる。齟齬が生まれることがあるかもしれません。
先日、声優仲間から夫婦の問題を相談されたのですが、そいつにこの作品を見せたらいいんじゃないか。何かヒントがあるんじゃないかと思いましたね。


司会
妻と夫、それぞれ気づかないところに気づかせてくれる映画ですよね。

柿沼紫乃(以下、柿沼)
アニメーションのイベントで、イスラエルにお招きいただいたことがあったのですが、建物や道路といった街全体がエルサレムストーンという色で統一されていたのです。この映画を拝見したときに、エルサレムストーン的な色で包まれていたので懐かしく感じました。
そして、本当の声を聞くのにハリウッド映画のようなドラマチックな台詞は必要ないのかもしれないと思いました。


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司会
声優夫婦の日常の中で繰り広げられる物語でしたが、声優夫婦だからこそ共感したポイントは?

古川
声優の仕事がないかと知人を頼っていくシーンがありましたよね。自分も声優の仕事を始めたばかりの若い頃は自らアルバムや資料を作って、大学のサークルの先輩でプロデューサーになった方に連絡を取って、「何か仕事はないですか」と頼んで歩いたのです。あのシーンはとてもリアリティがあって、昔の自分を思い出して身につまされました。
でも、最近の日本における声優事情は全然違います。日本の声優の大半の方が事務所に所属しています。たとえば、僕たちは2人とも青二プロダクションに所属していますが、400人強のタレントが所属していて、それに見合うだけのスタッフ編成で、スタッフの方々がシステマティックに仕事を取ってきてくださる。自分の仕事を頼みに行くことはほとんどありません。
現在、日本のサブカルコンテンツをコンセプトにした海外でのコンベンションが数多く行われていて、僕らも過去9年間に21回くらい呼ばれてあちこちに行きました。そこで海外の声優の方々とシンポジウムやフォーラム、個人的に話をするとみなさん、「日本の声優事情は天国だね」とおっしゃるんです。海外には事務所がない。どうやって仕事をしているのかを聞いたら、2~3人のグループで力を合わせて仕事を頼みに行ったりするそう。声優の地位が日本と比べて低い。それを聞いて驚きました。


柿沼
ラヤが電話の仕事でマルガリータになったときに、相手にあわせて、キャラクターを変えていきましたよね。突然、ものすごく低いトーンになったりしていましたが、あれは声優あるあるです。セールスマンの方がピンポーンと来たり、電話を掛けてきた時に、子供のフリをしたり、すごく具合が悪そうなフリをしたり、あからさまに忙しそうに演じたりしちゃいますから。


古川
それ、あなただけでしょ。


柿沼
いやいや、業界あるあるですよ。インターフォンだとご近所の方に聞こえて、「あの奥さん、またやっているわ」と思われているかもしれませんが、そういう風にどんどん変えてしまうことがあるので、あのチェンジの仕方はあるなぁと思いました。
声優夫婦としては、最初のディナーシーンで乾杯をしていましたが、ラヤがヴィクトルにハリウッド的なセリフを言ってくれて乾杯になるのを期待して、「何か挨拶を…」と促したら、ヴィクトルは台本がないので「えっ」となって、固まってしまいますよね。あういうのはうちの中でもあります。
「(家族が)声優だといろんな声が聞けていいね」と言われますが、普段の生活ではそんなことはなくて、時々、妙にかっこつけていたりするので、「今、誰の真似をしているの?」、「今、ビル・ プルマンをやった?」、「今、ピッコロになっている?」と言ったりします。


古川
たまに機嫌が悪いとピッコロみたいになってしまうことがありますけれどね。


司会
いろんな声が使い分けられてうらやましいです。声という点でヴィクトルはラヤの声にほれたという話がありましたが、お二人はそれぞれ、お互いのどんな声が好きなのでしょうか。

柿沼
声優には2タイプありまして、まったく声のトーンを変えずに自分の持ち味だけでいく人と彼のように千変万化する人に分かれます。本当に彼はものによって、まったく別人に変えてしまうんです。業界の人でも最後のクレジットを見るまで古川登志夫だと気がつかれないくらい変えるところがあります。中でも『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』のロバート・カーライルを演じたときの声は、悪役なのに寂しく抑えて痛みを感じない苦しみを表現していて、あの声が一番好きですね。あれは業界の方にも最後まで古川登志夫と気づかなかったと言われるんです。ヨイショ!


古川
今のヨイショだったんですか?(笑)
あれは僕の中では最も低い音を使うように監督さんから言われたんですよ。相手役は田中秀幸さんのピアーズ・ブロスナン。僕は敵役でしたが、2人で昔、「白バイ野郎ジョン& パンチ」やっていたので、お互いがどんな芝居を返してくるか、だいたい想像がついてしまう。楽しく仕事をさせていただきましたが、あれは「テロップ見るまで分からなかったよ」とよく言われましたね。


司会
古川さんは柿沼さんのどんな声がお好きですか。

古川
今やっている、「ワンピース 和の国編」のお鶴とかがいいかな。彼女はラジオからスタートしました。「忌野清志郎の夜をぶっとばせ」とか「What’s in?」で忌野清志郎さんのパートナーをやって、七色の声を出すからという洒落で「レインボー柿沼」というあだ名がつけられていました。うちの劇団に入ってきた研究生だったので、それをラジオで聞いたときに鼻にかかった面白い声だなと思いましたね。


司会
映画の中ではヴィクトルがラヤの声を電話でも一瞬で分かりましたが、電話のお客さんは半日一緒に過ごしても分かりませんでした。気づく、気づかないは夫婦の愛情や長年連れ添ってきたところの愛情表現の1つでしょうか。ご自身だったら気づきますか。

古川
僕はどんなに化けてもすぐに分かりますね。


柿沼
家でセリフの練習を聞いていて、準備段階を知っているから、どこでオンエアされてもだいたいわかりますね。でも、もし、練習を聞いていなかったら、セリフだと分からないかも。フリートークならわかるかもしれませんが…。これ、褒め言葉?


古川
それは愛情が少ないんですね。(笑)


柿沼
それだけ演技の幅が広いと受け取ってはいただけませぬでしょうか。


司会
それでは、お二人にとって忘れられない映画は?

柿沼
フェリーニだと『道』が好きです。ジュリエッタ・マシーナが監督の実の奥さんであることを後から知って、ピュアなあの役を奥さんにあてるという心根に惚れましたね。
2人で旅行することが大好きなのですが、ロケ地巡りも好きなんです。エルサレムに行ったときにオリーブの丘とかを見上げながら、パゾリーニの『奇跡の丘』に思いを馳せました。


古川
僕が映画好きなので、毎週末に映画を見ています。リビングにでっかいスクリーンを設置して、彼女が4本くらいチョイスした中から2本くらい。年に120本くらい見ますかね。
海外に行く時は映画を事前に調べてロケ地にいく。サンフランシスコでは『めまい』のゴールデン・ゲート・ブリッジの撮影地に行ったりしました。
僕が印象に残っている映画は『カサブランカ』でしょうか。何と言ってもイングリッド・バーグマンの美貌のすごさにやられました。部屋にバーグマンの写真をかけたら、(柿沼さんに)私の写真にしなさいと言われました(笑)。そのくらい好きですね。


司会
劇中でヴィクトルが「映画は豊かな世界そのもの 吹き替えはその入り口だ」と語る台詞がありましたが、ふたりにとって、映画の吹き替えとは?

古川
神様が与えてくれた天職。これ以外にできることがないという気がしています。そして映画などのサブカルコンテンツは民族や国民性を一気に飛び越して理解し合えます。言葉の障壁を越えて豊かな世界に誘う。そういう橋渡しをする役目だと思っています。


柿沼
翻訳マシーンで翻訳はできますが、国民性によって感情表現が違います。欧米だとこう表現するけれど、日本ならここは抑えた方が伝わるんじゃないかとか。そういう感情表現のところも翻訳してお伝えするのが吹き替えの仕事として心がけています。


最後に、主人公の声優夫婦ヴィクトルとラヤの声をおふたりにやってほしいと司会から振られると、会場からも大きな拍手が起こった。古川さんは「ぜひやってみたい」と熱望し、柿沼さんも「うまい俳優さんが演じている作品は、吹き替えに挑戦したいし、乗り越えたいと思う。」と熱いコメントで、会場も盛り上がり、まだまだ熱く語りたい空気の中、トークイベントは終了した。
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『声優夫婦の甘くない生活』
<STORY>
1990年、イスラエルへ移民したヴィクトルとラヤは、かつてソ連に届くハリウッドやヨーロッパ映画の吹き替えで活躍した声優夫婦。しかし、夢の第2の人生のはずが、新天地では声優の需要がなかった!生活のため、ラヤは夫に内緒でテレフォンセックスの仕事に就き、思わぬ才能を発揮。一方ヴィクトルは、違法な海賊版レンタルビデオ店で再び声優の職を得る。ようやく軌道に乗り始めたかに見えた日々。しかし、妻の秘密が発覚したことをきっかけに、長年気付かないふりをしてきたお互いの「本当の声」が噴出し始める。

監督:エフゲニー・ルーマン 
脚本:ジヴ・ベルコヴィッチ エフゲニー・ルーマン
出演:ウラジミール・フリードマン マリア・ベルキン
2019年/イスラエル/ロシア語、ヘブライ語/88分/スコープ/カラー/5.1ch/英題:Golden Voices/日本語字幕:石田泰子 
後援:イスラエル大使館 
配給:ロングライド 
公式サイト: longride.jp/seiyu-fufu/
12月18日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開