『海辺の彼女たち』藤元明緒監督インタビュー(前編)

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藤元明緒監督プロフィール
1988年生まれ、大阪府出身。ビジュアルアーツ専門学校大阪で映像制作を学ぶ。日本に住むあるミャンマー人家族の物語を描いた長編初監督作『僕の帰る場所』(2018/日本=ミャンマー) が、第30回東京国際映画祭「アジアの未来」部門2冠など受賞を重ね、33の国際映画祭で上映される。長編2本目となる『海辺の彼女たち』(2020/日本=ベトナム)が、国際的な登竜門として知られる第68回サンセバスチャン国際映画祭の新人監督部門に選出された。現在、アジアを中心に劇映画やドキュメンタリーなどの制作活動を行っている。
『僕の帰る場所』インタビューはこちら

『海辺の彼女たち』
ベトナムから来た3人の女性、アン、ニュー、フォン。彼女たちは日本で技能実習生として働いていたが、ある夜、過酷な職場からの脱走を図った。ブローカーを頼りに、辿り着いたのは雪深い港町。不法就労という状況に怯えながらも、故郷にいる家族のため、幸せな未来のために懸命に働き始めたが……。 より良い生活を求めて来日したベトナム人女性たちを主人公に、未来を夢見ながら過酷な現実と闘う姿を描く。

作品紹介はこちらです。

脚本・監督・編集:藤元明緒
撮影監督:岸建太朗
プロデューサー:渡邉一孝、ジョシュ・レビィ、ヌエン・ル・ハン
出演:ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニュー他
2020/日本=ベトナム/カラー/88分/ベトナム語・日本語
©2020 E.x.N K.K. / ever rolling films
★2021年5月1日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

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―この映画を作るきっかけはなんでしたか?

監督 2016年に地方に住んでいるミャンマー人技能実習生の女性から連絡がありました。「職場がちゃんとお金を払ってくれない、契約にない仕事ばかりさせられる、助けてほしい」ということでした。全然面識もない方でしたが、そのころ妻と二人facebookでミャンマー人向けに日本の観光地やビザの情報などを発信していたので、そこにメッセージが届きました。「周りのみんなは全員逃げてしまって、会社の寮に一人でいる。逃げるのも怖いし、このまま働くのも辛いし、なんとか助けてほしい」と。
そういうケースは初めてだったので、あちこちへ相談しましたが全然うまくいかず、1~2週間経ってしまいました。彼女は待ちきれずに、どこかへ出ていってしまいました。そのままではたぶん不法滞在になってしまうんですが、何もできなかった。その体験がとても強烈でした。
それが『僕の帰る場所』を編集しているときです。なんだかすごく頭に残っていて、いつかその実習生のことを題材にした映画を撮りたいな。その女性を追いかけようかなとふっと考えたりしました。

―その後の消息はわかりましたか?

監督 もう全然わからなくなりました。もし僕に言ってしまうとそこから漏れたりするかもしれない、とそういう心配もあったと思うんです。

―映画は3人ですが、その方はたった1人で。

監督 たぶんほかのミャンマー人を頼っているんじゃないかと思います。そのときは東京に行くと言っていました。

―製作がスタートしたのはいつですか?

監督 2019年の1月ころです。そのころ、妻が妊娠してどこで子ども育てようか、帰ろうか、とちょうど『僕の帰る場所』みたいな(笑)。日本に戻ろうとしていたところでした。もうあと数年いる予定だったんですけど。

―映画を地でいってます。

監督 ほんとですね。自分に還ってくることがあるんだと思いました(笑)。
そのときにあの技能実習生のことを思い出して、実習生が(来日して)うまくいかなくなったその後のことを僕たちは知らないですよね。実習生ということば自体もあまり知られていませんが。

―興味がある人じゃないと。あと何か事件があってニュースになって初めて知ることもありますね。

監督 実習生のその先、どっちかというとルールの外へ出てしまった人が、どういう場所でどういう思いでいるのか、というところを描きたいなと思いました。そこのパーソナルな要因も。

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渡邉プロデューサー、藤元監督

―3人の女優さんを決めるときのお話を。
キャスティングのときはすでに脚本は出来上がっていたんですか?


監督 ロングプロットが5月にできていました。今の内容とは全然違うんですけど(笑)。

―前の『僕の帰る場所』もそうでした(笑)。

監督 初稿では農業だったんです。海じゃなかった。
3人の女性で、ということでベトナムの現地のオーディションに行ったんです。日本に暮らしている方はたぶん忙しいし。前は演技をしたことのない人、一般の人に出てもらいましたので、次は女優さんもしくは演技をやってみたい人たちとやりたいなぁというのがあって。
僕と渡邉さんと、カメラマンの岸さんと3人で渡航したのが6月です。
ハノイとホーチミン、2都市で開催しました。元々主演のあたりはつけていったんです。
着いたら、その方が「数日前に女優やめました」「ええ~!」ってなって(笑)。じゃもう一から探していこうということに。出だしから大変だったんです。

―あてにした人じゃない方たちに決まったんですね。

監督 3人ってすごい難しいんですよ。2人はなんか組みやすいんです。3人って一人が突出して良くてもダメ。ビジュアルとかもそうなんですけど、それが3人セットで成立するのがなかなか。それがオーディションの一番の壁でしたね。
この人がいいなと思ったら身長がめちゃくちゃ高くて並んだときにバランスが悪い(笑)。

―あの3人の方々とてもよかったですよ。

監督 フォンさんがハノイで、もう二人がホーチミンの方です。100人くらいオーディションして、中には元々実習生で日本に行っていましたっていう人もいて。「日本にいたときはすごく幸せで、最後もちゃんと見送ってくれて、今思い出しても泣きそうです」と急に泣き出して…。「いい職場だった」という方もけっこういらっしゃるんです。

―いい職場もあったと聞くとホッとします。オーディションに来た方からも情報がいただけた。

監督 そうです。オーディションといいながら「本物の方々」に会えました。

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―3人の決め手はどこでしたか? お化粧を全然していないので、みんな姉妹のように似て見えます。

監督 最初にハノイでフォンさんが決まったんです。ファーストインパクトが彼女の「オーラ」でした。直観的に、なんかすごいいい人が来た!と思って。本職はテレビキャスターなんです。ニュースとかお天気とか、報道ステーションみたいな。写真見てもわからないかも。

(渡邉プロデューサーが、フォンさんがキャスターをしている画像を出して見せてくださる)
渡邉P そんなに大きなテレビ局じゃなくて。キャスターだと忙しくて休みが取れないと困るなと思ったんですが、事前に言ったら大丈夫でした。

監督 アンさんとニューさんには、ホーチミンで会いました。アンさんは3人の中でもリーダーシップというか、みんなを引っ張っていくようなキャラクターです。日常からそういう精神を持っている人がいいなぁと思っていました。アンさんと会ったときに、「姉が台湾に出稼ぎに行っていて、国外に出て家族を養う気持ちはすごくわかる」と。彼女は自分でシェアハウスを持って経営していて、すごくしっかりしているんです。オーディションでも唯一英語が喋れました。

―そうでしたね。(オンライントークで見ました)

監督 割とインデペンデントフィルムに出ていて経験がある。女優としての経験もあるというのが、3人の中で引っ張ってくれる要素なのかなと。そういう日常が、映画で僕が想定していたようなアン役にマッチしたので決めました。
ニューさんは初めてオーディションに来てくれたんです。「今までオーディションに来たことはなかったけれど、女優をやりたいんです」と。広告のモデルの仕事をやっていたんです。
フォンさんとアンさんを中和してくれるようなホンワカした人がいい、というのがありました。
みんなに即興芝居をやらせたんです。理由を言わないで「今泣いてください」と。するとみんな「今集中します」としばらく何か準備があるんですが、あの子だけ「わかりました。やります」って言った瞬間にばーっと泣き出して。他にもいろいろ即興芝居で試したんですけど、言った数秒後にパッとできる。できちゃう。岸さんとも、何人だろうとなかなかこの天才には会えないねと話しました。

―それまで俳優をしないでモデルさんだったとは。もったいない。

監督 俳優しないで(笑)。鏡の前で練習していると言ってました。ダイヤモンドを見つけてしまいました。

渡邉P こんなのです(モデルの写真をスマホで)。

―可愛い~。3人ともお化粧したら美人ですね。よくあの疲れた顔になり切ってくれて(笑)。

監督 よくみなさんすっぴんで出てくれたなと。

渡邉p オーディションではすっぴんが見たいから、と「すっぴんで」オーダーかけていたんです。これ共同制作なので、現地の会社がコーディネイトして人集めしてくれて。メイクなしという監督のオーダーを無視する人もいる(笑)。関係が悪くなるからこれ以上言えない。でも彼女たちは(お化粧を)とったりしてくれたよね。

―とってくれないとほんとの雰囲気がわかんないですよね。

渡邉p そういう題材ですからね。

監督 日本で働いているから化粧する暇もない、というその姿が見たかった。

―どういう映画かは説明していないんですか?

監督 すごく大まかに、2行くらい(笑)。日本で働いて最初の職場を逃げ出した3人の女の子という。

―どの役がふられるかもわからない?

監督 あんまり物語を説明してきて合わせてきてもらっても困るので。普段のその子たちの服装や空気感を見たかったんです。

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―撮影はどのくらいかかりましたか?

監督 1ヶ月間です。

―撮影は主に青森ですが、その前に地下鉄など乗り物の場面がありますね。

監督 あれは映画の中でどことは特定していないですが、横浜で撮りました。

渡邉p 特定されないようにしたんです。

ーすごく至近距離のあのシーンはどうやって撮ったんだろうと思っていました。

監督 小さいカメラでコソコソじゃなく、あまりにも大きいカメラでやっているから、(周りの人も)きっと「許容を越えた」んじゃないかな。絶対に見ない日常(笑)。岸さん音声さんアシスタントや・・・5人でした。

渡邉p みんなデカイんです。それで囲んだ(笑)。

―何度もテイク撮れないですよね。

監督 テイクというよりずーっと撮っているんです。1時間弱とかずっと地下鉄を移動していて。
そのうちの一つのカットです。「カットを割らずに使えるシーン」なんです。

渡邉p 東京から撮り始めたので時間はそんなに経っていない。だから(女優さん3人に)長期的な疲れはないです。それをちょっと心配したんですよ。映画ではすごい疲れているはずだから顔に出ないかなって。

監督 基本的に脚本の順番通りに撮っていったかな。順撮りですね。

―フェリーに乗り換えた3人がいったいどこまで行くんだろう?と観ていると、着いたところが青森でした。

渡邉p 実は青森も特定していないんです(ロケ地は青森の外ヶ浜)。雪が降っているどこか。

監督 「都市部」と「地方」というアイコンだけは出てほしかったんです。雪景色を想定していたんですが、その年は暖冬で。行ってみたら、雪が全然なかった(笑)。

前編ここまで。後編はこちら。