『ベイビーわるきゅーれ』阪元裕吾監督インタビュー

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*プロフィール*
1996年生まれ。大阪出身。20歳で発表した殺人を趣味にするカップルを描いた『ベー。』で「残酷学生映画祭2016」のグランプリを受賞した際に、白石晃士監督(『不能犯』)に「才能に嫉妬する」と言わしめ、サイコ殺人鬼と凶暴兄弟の対決を描いたウルトラ暴力映画『ハングマンズ・ノット』では「カナザワ映画祭2017」で期待の新人監督賞と出演俳優賞のダブル受賞、続くパン屋を舞台にしたブラックコメディ『ぱん。』では「MOOSICLAB」で短編部門グランプリ、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」で短編コンペティション部門グランプリを受賞、さらに海外映画祭初参加で挑んだ「プチョン国際ファンタスティック映画祭」では審査員特別賞受賞を果たすなど、大学在学中に圧倒的な暴力描写で自主映画界を席巻。2018年より開催された「夏のホラー秘宝まつり」では、その才能が注目され早くも特集上映が組まれた。
商業デビュー作となった『ファミリー☆ウォーズ』は実際に起こった事件からインスパイアされ、不謹慎だとSNSで大論争を巻き起こしたが、上映の際にはホラー映画やバイオレンス映画のファンが劇場に駆けつけ、残虐さと滑稽さ、血と笑いの絶妙さを絶賛。『ある用務員』(主演:福士誠治)が公開中、『黄龍の村』(主演:水石亜飛夢)が2021年9月に公開予定と、若い世代で最も多くの作品を世に送り出している注目の存在である。

『ベイビーわるきゅーれ』監督・脚本:阪元裕吾
女子高生殺し屋2人組の杉本ちさと(髙石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)は、高校卒業を前に途方に暮れていた・・・。
明日から“オモテの顔”としての“社会人”をしなければならない。組織に委託された人殺し以外、何もしてこなかった彼女たち。突然社会に適合しなければならなくなり、公共料金の支払い、年金、税金、バイトなど社会の公的業務や人間関係や理不尽に日々揉まれていく。

作品紹介はこちらです。
(C)2021「ベイビーわるきゅーれ」製作委員会 
★2021年7月30日(金)テアトル新宿ほか全国順次公開

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―まず2人の名前が可愛かったです。「ちさと」と「まひろ」、オリジナル脚本ですから監督が生みの親で名付け親で。名前はどこから思いつくんでしょうか?

名前作るのめっちゃ嫌いで。好きな人いないと思うんですけど。名前作るのが一番苦痛っていう人がたまにいて、自分もそうです。

―タイトルもですか? みなさん苦労するみたいです。つかみですから。

そうなんですよ。タイトルも苦しい。やりたくない。誰かにつけてほしい…(笑)。これもめちゃくちゃ悩んで。延々「仮」でした。仮のままずーーっといって、ぼや~っとこの名前になったっていう(笑)。

―ぼや~っと(笑)。最初、え?なんだろうと思ったんですが、このお2人を見て、この子たちが「ベイビーでわるきゅーれ」なのね。2人が歌う挿入歌が「らぐなろっく~ベイビーわるきゅーれ~」で、おお!と(笑)。
*ワルキューレ=戦場で生きる者と死ぬ者を選ぶ女性。
*ラグナロク=終末戦争


「ワルキューレ」という単語は、ほとんど語感だけで採用しただけだったので、そんな広げ方があるのかとびっくりしました。撮影が終わってから挿入歌を作ろうとなりまして、そういう想定の作品じゃなかったので、最初は大丈夫かな~?と思っていたのですが、お二人とも歌も達者で、素敵な挿入歌になってよかったです。

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―この作品は日常と殺し屋の仕事とのギャップが面白いです。
その切り替え、緩急のバランスがうまいなぁ、こんなにお若いのに、と思いました。何と言ってもこのお2人が良かったです。台詞が面白いですし、アクションもうまくてつっこみどころは何もありませんでした(笑)。なぜ殺しを生業にするんだ?っていうのは、まあ置いといて。
なぜ殺し屋になったかは、描かれてないですよね?


描かれてはいませんが…「たまたま殺しという仕事が適応していた」というキャラクターにしようと思っていました。(演じた)伊澤さんは普段はスタンマンをやってるんですけど、「私もそんな感じでスタントマンになりました」と言ってましたね。「スタントマンになりたーい!」ってなったわけじゃなくて、「流れ」でなった、と。
小学生からの夢を一直線に叶える人ってあんまりいませんよね。好きなことを仕事にできる人もいれば、そこは割り切ってる人もいるし、まあそういうことをごちゃごちゃ考えてはいます。殺人鬼や快楽殺人者じゃなく、職業としての殺し屋を描こうとは思っておりました。

―去年の12月に撮られたんですね。どのくらいかかりましたか?

撮影が6日半くらいです。追撮がありました。
伊澤さんと三元雅芸さん=ラスボスが1対1でずっと闘う場面はどうしても撮り切れなくて途中で撮影が終わってしまって。で、1ヶ月後にもう一回集まって、続きをそのまま撮りました。
照明やら美術やらも全部バラしてまた最初から作らなきゃいけなかったですし、アクションの途中でぶつ切りになってしまっていたので、再撮して繋がるか不安だったのですが、伊澤さんも三元さんも1カット目からバチバチに仕上げてくださったので無事撮り終わりました。

―鶯谷のアパート、ターゲットのアパート、外の場面、喫茶店、メイド喫茶、ラストバトルの廃屋と…いろんな場所で撮っていますね。それでも6日半! 『ある用務員』のときの2人の特徴が今に繋がっている感じがしました。

『ある用務員』のときは、アニメのキャラを見せて「アニメっぽく」「強烈なほうに振り切ってほしい」と言いましたね。そのときの雰囲気が、わりとオドオドしているのが伊澤さんのほうで、なんかどーんとしているのが、髙石さんのほうでした。
その2人の様子をそのまま『ベイビーわるきゅーれ』の脚本に入れて、後は自分の要素を2人にそれぞれふっていったみたいな形です。

―監督の要素。監督のnoteを読んで、監督の中にまひろがいると思ったのは当たっていました(笑)。コンビニのサンドイッチの値段とか、1000円を使えるのは大人になった感じがするとか、noteに書いてあったことがいろいろ映画に生きていますね。

そうですね(笑)。(メイド喫茶の同僚の)姫子に言わせたり。あのnoteを書いたのは脚本を書く前だったので、そのまま使ったりしています。

―脚本はいくつか同時進行で執筆するんですか?

その当時は三池崇史さんの「かちんこProject」もあったり、あと性依存症の男の話も書きたくて、それも書いてこっちも書いて…

―色の違う何本かを書き分けるんですね。気分がのったほうとか?

そうです。気分がのったほうと締め切りがあるほうと。僕の作風は、元はアクションというよりは、がっつり暴力系だったんです。

―『べー。』は予告編だけ観ることができました。

『べー。』や『ハングマンズ・ノット』で評価された暴力描写のテイストは、『ある用務員』や『黄龍の村』には入れられなかったので、『ベイビーわるきゅーれ』では復活させたいと無茶苦茶思いましたね。だから和菓子屋さんやハイエースで拉致される男の長いショットとか、そういうのは昔の名残です。

―元々バイオレンス系がお好きだった?

最初はスピルバーグの『宇宙戦争』(2005)を映画館で観て感動して、そこからよく映画を観るようになりました。
ああいう、日常が圧倒的な暴力によってぶっ壊されていく様は、子ども心に見ていて恐怖と興奮が入り混じった感情になりまして。もとから「ゴジラ」とかすごく好きだったんですが、それで花開いた感じになりましたね。「GANTZ」のカタストロフィ編とかもすごく好きで。ああいうのを撮りたいなってすごく思っているんですが、夢がかなうのはだいぶ先になりそうです(笑)

―以前藤子不二雄さんのキャラの2次創作の物語にハマったとか。

深作監督の『バトル・ロワイアル』を藤子キャラがやるという小説があって、凄いボリュームのテキストをサイトで読めたんです。今はもう消えてしまったんですけど。エスパー魔美とかキテレツとかいっぱい出てきて闘う(笑)。

―そのキャラの特色を生かしてですか!?
消えちゃったとは惜しい…監督もぜひやってください。


え、著作権の問題が(笑)。

―いえ、自分の作品をたくさん撮って自分のキャラでってのはどうですかね。私は観たいです。

それはやりたいですね(笑)。

―この2人も出して。あ、これって『ある用務員』からの2次創作じゃないですか?

確かに。2次創作といえば(笑)自分で自分の2次創作(笑)。
でも元々は小学生くらいのときにドラえもんの2次創作小説を書いてたのがすべての創作の始まりだったので、2次創作は自分の創作の根底にありますね。
だから自分の作品を見て、ファンの方が画を描いてくださったり、自分の作品から創作が広がっていることが何よりうれしいです。

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―ちさととまひろ2人のお喋りにアドリブは??

アドリブはちょこちょこ入ってたかな。8割くらいは脚本で、アドリブ入れたいところは撮影前に伝えてました。2人が死体が転がっているところでグダグダ喋っているシーンはアドリブですね。「ああいうやつに限って午後の紅茶を午前に飲む」とか、「金曜ロードショー見てムスカの真似する」とか。

―「人がゴミのようだ」。アドリブが達者ですね、このお2人。

達者です。達者でしたね。

―髙石さんは映画初主演で、伊澤さんは今までも映画にたくさん出ているけどスタントでしたし。

はい、2人ともすごいなって。伊澤さんは台詞を言うのは今回が初めてだそうです。

―アドリブは言いっぱなしでなく、受けなきゃいけませんよね。

それもちゃんと受けていただいて。

―まひろはコミュ障を自認していて、ちさとは2人分明るいですね。

『ある用務員』は2人のキャラをはっきり分けたんですけど、本作はいろいろ話して分けなかったんです。コミュ障おたくキャラと元気溌剌キャラがあまりはっきり分かれると面白くないかなと、シャッフルしました。たとえばメガネはこっちがかけそうだけど、こっちにしようとか、逆をやらせてみたりそのままにしたり。家事をちゃんとやるのが、意外にもちさとだったり。
ファッションは、こっちはサブカル系で、こっちは普通の大学生っぽく、みたいに。

―黄色の服が多かったですね。

黄色多いですね。ソファはオレンジ色で。

―殺し屋=黒のイメージと違ってポップでした。この日常のお喋り部分と後半多くなるアクション部分の配分は最初から決めてありましたか?

前の稿ではもっとダラダラが長くてどんどん切りました。「エヴァ」の話や「刃牙」の小ネタとか、もっと会話に入れまくってたんですけど、監督の趣味を女の子に喋らせるのもちょっと気持ち悪いかなと思って全部なくしちゃいましたね。逆に、パンフレットに付属の「ドラマCD」では、髙石あかりさんが「アベンジャーズ」シリーズを見ているとのことだったので、そのまんまシリーズの好きなところを語ってもらいましたね。やっぱり監督の妄想を詰め込んで会話してもらうより、ちさとに最も近い髙石さんから出たアイディアのほうがしっくりきました。

―女性はあるあるで面白いですけど、男性は女性の話をあんまり聞かないので長いと飽きるかも。私はちょうどよかったです。同年代の人はもっと面白く観られるんじゃないかな。

それは嬉しいです。

―アクション監督は園村健介さんですが、このアクション場面はお任せですか?

この映画を作るってなったときに、スタッフの中では最初に園村さんと1,2時間話しました。「こういうことがやりたいです」とか「こういうイメージです」っていうのを話して、あと自分の好きなアクションシーンを延々見せて「これ、いいですよね」「いいね」と言ってる時間があって(笑)。
初期の自主映画とかは知らないですけど、ここ数年の園村さんのアクションシーンは見ていて、全部理想的だったので、なんの心配もないとお任せしました。
Vコンみたいなのは送っていただいて「素晴らしいです!」しか言わなかったです。

―監督は格闘技とか、アクション系・闘う系の経験は?

えっ、俺?(笑)プレイヤー系の?(笑)ないです。運動系というものとは無縁で。現場ではぼんやり観ているというか。

―観客になっています?

そうですね。「すごいですねぇ!」としか言ってなかった。
個人的な意見なのですが、自分が茶々入れられる程度のアクションだったらアクション監督を雇う必要がないというか、自分が理解できないからこそ別の監督を立てる必要があるのかなと。
「カット!」ってなって、園村さんが「ここもうちょっとこうで」とか言ってるんですけど、何が違うんやろ?って、わからなかったです。すごいなぁと思ってました。でも、アクション監督を雇うっていうのはそういうことなのかなと、いまは思っています。

―すごいですよね。早送りじゃなくあのスピードで!動ける人がいっぱいいるんですね。

スタントマンさんで揃えたので。しかも園村指名の相当な人たちが集まりました。

―伊澤さんはプロのスタントマンですが、髙石さんはこれまで何か習っていたんでしょうか?

習ってなかったと思います。頑張っていただいて。

―ちさとのアクションはタメも何もなくいきなりですよね。ガンアクションも向き合ったと思ったらもう撃っている(笑)。決断が速い、思い切りがいい。

世の中には向かい合ってからグダグダある作品って多いですが、「早く撃てよ」っていつも思っているんです(笑)。

―私もそう思っていたら、香港映画のパロディで向かい合ったとたん撃ったのがあったんです。そしたらちさとはもっと速い!!(笑)早いもん勝ちですよね、遅けりゃ死んじゃいますし。

(笑)観客に予想されない速さじゃないと、あんまり意味ないなと。スタントマンとアクションの経験のない人が並んで(劣らないよう)強くするというのはアクションを考えなくちゃならない。

―その差を埋めるのがスピードなんですね。

そうです。そうです。だからキルカウントではまひろよりちさとの方が多いはずなんです。

―私も数えてみたんですが、途中でわからなくなりました(笑)。

大量に死んでます。まひろのフィジカルに対して、ちさとの暴力チックな決断の速さでキャラクターの強度をつけた。まひろとちさとは同じ強さにしたかったんです。バディムービーで片っぽが強かったり弱かったりすると成立しないと思い。

―同級生の設定ですが、実際は髙石さんが伊澤さんよりずっと年下ですね。でもちさとがしっかりしているのと、戦った後のまひろが、「んー」って両手を出して立たせてもらったりが可愛くて、同じくらいに見えます。

ああ可愛かったですね。

―女性のアクション映画(アメリカ)を観ていて、みんな制服のようにタンクトップ姿なのがイヤだったんです。『ダイハード』か!男優が皮ジャケットでも女優は肌の出るタンクトップで、そうやらないと役が来ないのかもしれないなぁと。それがこの映画では全くない。

なくしましたね。ほんとに。なんて言うんですか、女性、異性って視線で撮ったら気持ち悪いだろうと思って。
日本のアクション映画って女の人が戦っていると無駄にパンチラとかお色気カットがあったりして、個人的には凄い嫌いで。アクションシーンでなんで「女」を強調するようなことをするんだろうと。
だから異性としてや女性としてではなく、ちゃんと人間として描こうという気持ちはずっとありました。『ある用務員』でリカとシホの衣装合わせをしているときに「二人はキスとかしてるの?」と、とあるスタッフに聞かれて。「してないですよ」とハッキリ言ったんですが、キスがどうこうって話は男性の殺し屋たちの衣装合わせのときは出てこなかった意見で、なんで女の子2人組になったら急にそんな話になるんだろうって、なんか気持ち悪いなって思って。今回も色々そういう戦いはありましたね。

―女の子を売りにしているようなところはなかったから、余計すっきりしました。
(メイド喫茶のシーンはありますが、パンチラなどはありません)


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―面白いと思ったのが、洗濯機と冷蔵庫の内側から外の2人を撮るシーンです。あれは監督の希望ですか?

いや、あれは撮影の伊集守忠さんのアイディアで、「これやりましょうよ」ってGoPro(ゴープロ/小型のデジタルビデオカメラ)で撮りました。

―何本も映画を撮ると新しいことをしたくなりますし、前作でも観なかったので、監督が入れてみたのかなと思っていました。伊集さんとはこれまでも一緒にお仕事したことがありましたか?

いえ、今回が初めてです。伊集さん撮影の『許された子どもたち』(2020)を観て、素晴らしい撮影だなと思って、お願いしました。最近何を観てもなんか綺麗だな、綺麗なカット割りだなぁで終わってしまうことが多かったんです。その中で『許された子どもたち』のとんでもないクローズアップとか、ボウガンにGoProつけて、とかiPhoneで人を追っかけてとか、綺麗だなで終わらない撮影をやられているイメージだったんです。この人は面白いなと。

―スタッフの方々は観客に見えないので、どんな風につながるのかなと。

プロデューサーには自分で脚本を書いて、送りました。
衣装は、入山浩章さんっていう全然映画の人ではないスタイリングの人にお願いしました。「忘れらんねぇよ」っていうバンドのTシャツを持ってきたりと面白かったです。

―最初の面接でまひろが着ています。バンドのTシャツだったんですか。上着に隠れて文字が半分しか見えないので、なんて書いてあるのか気になっていました。

入山さんはバンドとか、“THE RAMPAGE from EXILE TRIBE”さんとか菅田将暉さんとか、バラエティのスタイリングをしている方で音楽とか強いんです。

―その衣裳さんと着る人と…監督の希望は?

ありました。めちゃ話して、アイディアをのっけてくれて。俺のイメージ通りのものを持ってきてくれるのもそれでいいんですけど。入山さんはちょっと変わっていて。
「バンドTとか着るような子じゃないの?」って、提案してくれたり。
美術の子は「猫好きの設定にしよう」と言ってくれたりで、スマホに猫が貼ってあったりする。

―「猫はいいねぇ」ってまひろが動画を観ていました!

はい。それも彼女の案です。

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―映画を作るとき大事にしていることを教えてください。

自分が観て楽しめる面白いものを作りたい。
「なんなんだろう、このシーン?」っていうのはなるべくなくしたい。
全部のシーンになるべくアイディアを入れたい。
全部のキャラに意味があるようにしたい。
と思っています。

―この二人の背景も詳しく考えてあるんですか?

背景…世界はすごく考えています。出てないほかのキャラクターもいっぱいいて、みたいな。
彼女たちがあの殺し屋業界の中で、どんな立ち位置なのか。田坂(水石亜飛夢)とマネージャー(ラバーガール飛永)は、ちょこちょこ飲みに行って2人の愚痴を喋っているとか。田坂は忙しい人で(後始末に)部下を連れていろんなところに行ってるとか。

―2人とも田坂やマネージャーに注意されていましたね。殺し屋に普通のことを言うのが面白い(笑)。そういう埋め込みも上手ですね。

ありがとうございます。そういう殺し屋組織の話をもっとできたらなと思っています。

―じゃあやっぱり第2弾できるじゃないですか~。次の作品ももう頭の中にあるんですか?

あります、あります。締め切りがあって、もう書かなきゃいけないんですけど。やっと流れができてきたところです。

―次の予定があるって幸せなことですね。これからも注目しております。ありがとうございました。


=取材を終えて=
阪元裕吾監督はまだ25歳です。これまでお目にかかった監督さんで最年少です。オタクなおばちゃんの私、前作のチラシなどから香港映画ファンかな、と予想しましたが韓国映画をよくご覧になるそうです。香港が1997年に復帰してはや24年。香港映画も様変わりして、阪元監督の年齢では、その後どんどん入ってきた韓国映画のほうを観ていて当然でした。
この作品はバイオレンス描写もありながら、日常のゆるさやちょっとしたユーモアで一息つかせてくれます。笑っていいですよね。
ちさととまひろが請け負った仕事に、恨みつらみの私情は混じりません。新しくて可愛い殺し屋コンビ『ベイビーわるきゅーれ』第2弾もぜひぜひ!期待しています。
(まとめ・撮影 白石映子)

【現職の首相を題材に、日本の危機的状況を解明する政治バラエティ映画『パンケーキを毒見する』】問題の根幹はコロナではなく、政治にあるのかもしれないと内山雄人監督が語る

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現職の首相にスポットを当て、コロナ禍で閉塞感が漂う日本を描いた映画『パンケーキを毒見する』が7月30日から公開される。菅首相のパンケーキ好きにかけたタイトルが示すとおり、笑いの要素をふんだんに盛り込んだ政治バラエティだ。現役の政治家や元官僚、ジャーナリスト、そして各界の専門家がそれぞれの立場から日本の現状と危うい将来を語り、国会ウォッチャーの大学教授は過去の菅首相の答弁を徹底検証し、アニメーションで風刺する。菅首相本人へのインタビューがかなわなかった分、あの手この手でさまざまな角度からデータも駆使して菅政権の本質に迫り、笑って見ている観客はいつしか日本が置かれた危機的な状況のいくつかに気付かされる。内山雄人監督に作品に込めた思いを聞いた。

菅義偉とはどんな人物なのか?

日本の政治家。自由民主党所属の衆議院議員(8期)、内閣総理大臣(第99代)、自由民主党総裁(第26代)。秋田のイチゴ農家に生まれ、高校卒業後上京。板橋区の段ボール製造工場に勤務、2年後に法政大学へ入学。大学卒業後73年、建電設備株式会社(現・株式会社ケーネス)に入社。75年、政治家を志して衆議院議員小此木彦三郎の秘書となる。87年、横浜市会議員選挙に出馬し初当選。その後、横浜市に大きな影響力を持っていた小此木の代役として秘書時代に培った人脈を活かして辣腕を振るい「影の横浜市長」と呼ばれた。横浜市会議員(2期)、総務副大臣(第3次小泉改造内閣)、総務大臣(第7代)、内閣府特命担当大臣(地方分権改革)、郵政民営化担当大臣(第3代)、自由民主党幹事長代行(第2代)、内閣官房長官(第79代・第80代・第81代)、沖縄基地負担軽減担当大臣、拉致問題担当大臣などを歴任した。2019年(平成31年)4月1日に、官房長官として新元号令和を発表したことから、「令和おじさん」の愛称がある。(作品公式サイトより転載)


<内山雄人監督プロフィール>
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1966年8月24日生まれ。早稲田大卒業後、90年テレビマンユニオンに参加。93年「世界ふしぎ発見!」でディレクターデビュー。情報エンターテインメントやドラマ、ドキュメンタリー等、特番やレギュラー立ち上げの担当が多く、総合演出を多数行う。インタビュー取材、イベント、舞台演出、コンセプトワークも得意とする。主な作品に、2001年12月〜日本テレビ「歴史ドラマ・時空警察」Part1〜5監督&総合演出、2006年〜09年日本テレビ「未来創造堂」総合演出、2010〜15年日本テレビ「心ゆさぶれ!先輩Rock You」総合演出、2015〜20年NHKプレミアム アナザーストーリーズ「あさま山荘事件」、「よど号ハイジャック事件」、「マリリン・モンロー」、「ドリフターズの秘密」などがある。

――本作の監督オファーを受けたときのお気持ちからお聞かせください。

2020年11月後半くらいにプロデューサーの河村さんから電話をいただきました。現役の首相を取り上げたドキュメンタリー映画を作ると聞き、正直、ためらいましたね。一方でこれはチャンスだと思いました。私たちのような制作会社の人間は報道ではありませんから、現役の政治家を素材にすることはほぼありません。しかし、ここ数年、政治に対する忸怩たる思いがありましたから、映画という自由な立ち位置で撮れるのなら、やる価値があるのではないかと考えたのです。
しかし、公開時期がオリンピックや総裁選の直前と決まっていて、制作期間が半年くらいしかありません。こんな短い時間で撮るのは無茶な話です。即決はしませんでした。
先日、マスコミ向け試写会に登壇したら、河村さんが「6~7人の映画監督の方に断られた」とおっしゃっていました。菅さんに取材申請しても断られるでしょうから、撮れるものがはっきりしていない。それなのに半年で映画に仕上げなければならないと聞けば、誰だって尻込みするでしょう。ただ、僕は映画ではなくテレビの人間だったので、半年しかないのなら半年でできることは何だろうと考える。発想が逆なんです。とはいえドキュメンタリーで準備期間が半年というのは異例の短さ。ギリギリまで編集して、例えば4回目の緊急事態宣言が2021年6月20日まで延長されたことも作品に取り込んでいます。

――企画の段階ではどのような内容にすることになっていたのでしょうか。

河村さんからは「菅という人間の正体を暴いてくれ」としか言われませんでした。正体を暴くと言っても何をもって正体を暴くことになるのかわからない。細かな指示はなかったので、どういうものなら映像になるかを自分なりに考えました。
インタビューで構成するのは誰でも考えつきますが、インタビューだけでは飽きてしまって画がもちません。しかも本編に出てきていますが、インタビューをお願いしてもことごとく断られました。想定していたことがばんばん壊れていき、映像になるものは何かを撮りながら考え、撮り終わってもまだ足りなくて、いつまで経っても終わりが見えませんでした。

――法政大学の上西充子先生が首相の不誠実な国会答弁について解説されていましたが、それを聞くと政治に疎い人でも国会中継を楽しく見られますね。

上西先生は以前から国会パブリックビューイングをされていて、国会がおもしろいということを教えて頂きました。今回はとにかくエンターテインメントに仕上げたいと思っていましたから、上西先生にいくつか場面候補を挙げてもらってすべての映像を解説していただき、その中でどれがいちばん面白いか、どうやって伝えたらさらに笑えるかをものすごく考えて、作品に取り上げました。そのままではヤジは聞こえにくいので、聞こえるように編集で音を持ち上げています。僕らは映像のプロですから。
この作品をご覧になる方にとって、国会が実は面白いというのはある種の発見だと思います。こんなにもちゃんと答えていないんだっていうことを、僕も改めて知りました。国会中継を楽しく解説する番組を定期的に作って、いじり倒したくなりますね。

――日本の変なところを風刺するブラックなアニメーションが合間に挟み込まれていました。あのアイデアも監督が考えられたのでしょうか。

今、この世の中に起きている不条理みたいなことがまるでコントのように思え、それをとにかく笑える形に表現しようとアニメーションにしました。社会はこれくらい歪んでいるんだといじりたかったのです。僕のほかに作家の方に1人入っていただき、案を出し合いました。
教室の花瓶を割ってしまった小学生が「記憶にございません」と言う話がありますが、僕があんな風に大人を困らせたいタイプの子どもでした。「今の学校ではこういうことは起きていないのか。君たちもこうやって大人を困らせてみろ」というくらいの気持ちでアニメーションにしています。
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――私はデジタル庁の話や羊の話がおもしろかったです。

デジタル蝶は、デジタルやサイバーなんてモノに最も不向きな政府と官僚が、作り出す「ヤバいもの」を子供でもわかるバカバカしさで表現したかった物語です。
羊はモグモグしている口を繰り返してますが、「黙々と…(生きる)」みたいな意味を込めて。
無垢で愚かで騙されようが倒れようが黙って生きる…何のメタファーか、誰でもわかるはずです。

――そのアニメーションを担当されたのは「べんぴねこ」さんですね。

政治的なものをこのタイミングで、短期間に作ってもらう。しかも依頼内容がその人の意に沿うかどうかわからない。よく知っている人でないと依頼するのは難しいと思ってべんぴねこさんに頼みました。彼は以前、テレビマンユニオンにいて、一緒に仕事をしたことがあるのです。
まず1つ、菅さんが五輪とGOTOを砂浜で引きずっているアニメを仕上げてきました。それを見て、「こういうシュールな世界を描けるんだ」と安心して任せられましたね。細かい修正のキャッチボールはありましたが、書いた本を渡すとカット割りも全部、イメージ通り完璧に作ってくれました。しかも、ものすごく出来がいいんですよ。もともとあがってきたものは自分で声を変えて入れてくれてありました。プロの人が吹き替えてアテレコしましたが、それでも彼の声をそのまま使いたい所は、残した程 彼はウマいんです。

――アニメーションをもっと見たくなりました。

こういう皮肉や風刺ならいくらでも作れます。これをやり出したら楽しくて、こればっかり考える思考になってしまいました。仕事にできるなら、毎週のように作りたいです。

――作品の後半に車窓から見える都会の夜景をバックにいろいろな統計データを表示しつつ、ivoteの学生さんが意見を述べる映像が映し出されましたが、学生さんの映し出し方が縦長でスタイリッシュな印象を受けました。

あそこは試行錯誤したところなんです。統計データを出したいけれど、若い人たちの言葉も入れたい。テレビはそういうときにちいさいワイプを使って、コメントとして入れるじゃないですか。でもそれはテレビみたいで嫌だったんです。
かといって、全員の顔を撮り切り画面にする気もありませんでした。あそこでいちばん伝えたいのはあくまでも統計データです。それでも学生の言葉がすーっと頭に入って “学生たちはこう思っているんだな”、“俺たち大人が夢を与えていないんだな”ということにも気がついてもらえるとうれしいですね。

――あれだけたくさんの統計データをよく見つけてきましたね。

日本が優れているという統計データはたくさんあるけれど、劣っている統計データもあります。それをみんなが見ないふりをしてきただけ。日本がどれだけ危機的な状況にあるのかを経済産業省出身の古賀茂明さんが本に書いていたので、それをヒントにして、リサーチの人や助監督総出で探しました。集まった統計データをどういう順番でどういう風に見せていくか。これがなかなか難しかったです。

――統計データを見ていていちばん驚いたのは、日本が貧困だということでした。

残念ながら、これは事実です。数字にすると貧困層は6人に1人。驚くことに貧困で困っている人が日本にはたくさんいるのです。残念ながら編集の段階で全部落ちてしまいましたが、今回、炊き出しやこども食堂も取材しました。炊き出しをやっていたNPOの人によると、炊き出しに来るのは昔からいる浮浪者だけでなく、自分たちは浮浪者ではないという若い世代が増えていました。彼らは非正規雇用で不安定な職場に長く勤めていた中、コロナで仕事がなくなり、当初はネットカフェで過ごしていたが現金もなくなり、とうとう食べるものにも困って炊き出しにきたのです。子ども食堂はコロナで子どもたちが集まれなくなっていて、ボランティアの方々が自宅に食事を届けていました。

――見えないところでじわじわと貧困が忍び寄ってきているのですね。

コロナで飲食店の人が大変なことは報道されていますが、もっと生活に困っている人がいる。この10年くらい、際どい生活をしている非正規雇用の人たちが潜在的にものすごく増えていて、最終的にコロナで堰を切ったようになったのです。
NPOの方がいうのは、「コロナが貧困の始まりじゃない。非正規雇用の常態化した頃から潜在的に貧困は始まっていた。コロナは顕在化するきっかけに過ぎない」
大手企業優先の政治の政策が原因の根本にあると思いますが。
そういったことも作品に取り込みたかったのですが、画として使えるものが撮れなかったので、残念ながら入れていません。それで“せめて統計データだけでも載せて、日本の貧困状況を伝えなくては”と思ったのです。

――ナレーションを古舘寛治さんがされています。独特な間合いがいいですね。

古舘さんはTwitterでご自身の主張を発信されています。政治の色がついた作品ですが、もしかしたら意気に感じて引き受けてくれるのではないかと思ってお願いしたところ、快諾していただきました。
正直、ここまで味のあるナレーションになるとは思っていませんでした。僕は早口なのでものすごくたっぷり間尺を取って余裕あるつもりでしたが、古舘さんの独特の間合いでナレーションを撮るとけっこうきちきちになるので、焦りました。でも撮りながらものすごく話に深みと立体感がでたようで楽しかったです。
収録が終わったときに「僕でよかったんですか?」とおっしゃっていましたが、古舘さんにお願いして本当によかった。「俺が矢面に立ってしまうんじゃないの?」と古舘さんも笑っていました(笑)。

――ラストのナレーションが心に響きました。あのときの映像は朝でしょうか、それとも夕方でしょうか。

あれは希望のある朝と受け止めるか、不安に陥っていく夕方と受け止めるか、それはどちらでも構いません。ご覧になる方次第です。

――これから作品をご覧になる方にひとこと、お願いいたします。

政治ドキュメンタリーは敷居がすごく高くなりますから、政治バラエティとして作りました。「ちょっと見てみようか」という軽い気持ちでご覧いただくとすごく笑えるし、楽しめると思います。そうしているうちに「これ、ちょっとヤバいぞ」と日本の現状が分かってきて、最後はこれからの日本について、このままでいいのかと考えるきっかけになるのではないかと思います。
今、コロナの影響で辛い思いをしている方が大勢います。しかし、その根幹はコロナではなく、本当は政治に問題があるのだと、そう気づいてもらえるといいいですね。

(取材・文:ほりきみき)


『パンケーキを毒見する』の作品紹介はこちらです。
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/482626111.html

「ゆきえの集まれシネフィル」での作品紹介はこちらです。
https://cinemajournal1.seesaa.net/article/482528274.html

『パンケーキを毒見する』
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企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸 
監督:内山雄人 
音楽:三浦良明 大山純(ストレイテナー) 
アニメーション:べんぴねこ 
ナレーター:古館寛治
2021年/日本映画/104分/カラー/ビスタ/ステレオ 
©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会
制作:テレビマンユニオン 
配給:スターサンズ 
配給協力:KADOKAWA  
公式サイト:https://www.pancake-movie.com/
7/30(金)より新宿ピカデリーほか全国公開