*プロフィール*
吉村界人(よしむらかいと)
1993年生まれ。東京都出身。2014年『ポルトレ PORTRAIT』で映画主演デビュー。 第10回TAMA映画賞(18)にて最優秀新進男優賞を受賞。主な代表作に、映画『太陽を掴め』『悪魔』『ミッドナイトスワン』『神は見返りを求める』ドラマ『左ききのエレン』『列島制覇』『ケイ×ヤク-あぶない相棒-』など。今年は『遠くへ、もっと遠くへ』『人』『人間, この劇的なるもの』の主演作も公開された。
武田梨奈(たけだりな)
1991年生まれ。神奈川県出身。2009年、『ハイキック・ガール!』で映画初主演。15年日本映画プロフェッショナル大賞」にて新進女優賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。主な出演作は映 画『デッド寿司』(13)『進撃の巨人』(15)
『世界でいちばん長い写真』(18)『いざなぎ暮れた』(19)『ナポレオンと私』(21)、ドラマは人気シリーズ「ワカコ酒」(BSテレ東)などがある。
*ストーリー*
大晦日。アメリカ留学中だった妻が死んだ。 絵描きの男(吉村界人)は、新年までに「死んだ妻の“肖像画”」を完成させなくてはならないが、「生きた“瞳”」をどうしても描けない。そんな時空港で、妻に似た女・リン(武田梨奈)と運命的な出逢いを果たす。彼女もまた、新年までに“終わらせたい”ことを抱えていた。ふたりはタイの三輪タクシー(トゥクトゥク)に惹きつけられて乗り込み、“終わらせる”ための旅に出る!
Japanese Style【ジャパニーズスタイル】は英語で『袋とじ』という意味である。旅の途中で、二人が互いに隠していた『袋とじ』も暴かれていく…!タイムリミットは年越しのカウントダウン!“終わらせたい”二人の運命はいかに?!年末にぴったりの『袋とじ』ロードムービー!!
監督:アベラヒデノブ
配給:スタジオねこ
作品紹介はこちら
(C)2020 映画「ジャパニーズスタイル」製作委員会
★2022年12月23日(金)よりユーロスペース、シネマ・ロサほか全国順次公開
★映画の内容にふれていますので、気になる方は鑑賞後にお読みください。
―お二人が企画されたそうですが、この映画の始まりは?
武田 深夜に突然、吉村さんから電話がかかってきて、脅されたんです(笑)。
吉村 犯罪者みたいじゃん。「こいつが言いました」みたいな(笑)。
武田 アベラ監督も最初から一緒です。
吉村 最初はラフで、シリアスな感じではなかったんです。「大晦日用事がありますか?映画やりませんか?」という感じでした。こんなにみんなが関わって作るようになるとは思ってなかったですが。
―お二人の出会いはいつだったんでしょう?
武田 映画の話より前にアベラ監督に呼ばれて、紹介していただきました。居酒屋さんで、3人で会ったのが最初ですね。
吉村 超~前ですよね。6年くらい前かな。そのときは映画の話をしたわけではないですよ。
武田 たぶん6年以上前ですね。映画になるまで6年かかっていますから。
―大晦日に、二人が抱えていることを終わらせたい、結果を出したいというストーリーですが、完成までにいろいろ変わっていったんでしょうか?
吉村 けっこう何回も変わりましたね。
武田 ベースは「大晦日の二人」で、そこだけは変わっていません。最初は「Before Sunrise」シリーズのようなロードムービーにしようというところまではあって、そこからいろんなアイディアをそれぞれ出し合って作り上げていったという感じです。
―そのロードムービーにトゥクトゥクを使おうというアイディアは?
武田 最初はまったくなくて、吉村さんから突然「トゥクトゥクいいじゃん」というアイディアがありました。
吉村 「トゥクトゥク乗りたいな」と。タイで乗ったのを思い出して「どうですかね?」という話をしました。
―日本では見かけませんよね。日本の映画で初めて見ました。小さいトゥクトゥクにあの絵が載ると屋根みたいになって面白いです。吉村さんは大きな絵を持って走り回るのは大変でしたでしょう?
吉村 大変でしたよ。重かったですし。風圧がすごいんですよ。指が持っていかれそうでした(笑)。ハードでした。
―キーポイントになる絵ですが、重野(吉村さん)が眼を描けなくていつまでもうんうん唸っているので、早く描け~と思ってしまいました(笑)。絵は吉村さんが実際に描かれた?
吉村 違います、違います。
―絵に似ていると、リンに声をかけますが、武田さんの二役ということはなかったんですね。
武田 そうですね。監督からは「眼だけで探してみよう」ということだったので、そこがポイントでした。
吉村 あのこだわりはアベラ監督自身に近いところがあるのかなと思います。人がそんなに思わないようなことでも、「いやぁ・・・」って一人で考えこんだり。僕はあんなにはこだわりません。
―後半友人が登場して話が変わりますね。主演の男女はカップルになるよね、と観ていました。
武田 最初、この二人が出演するということだけは決まっていたので、そこには特にこだわっていました。男女二人になると、どうしても恋愛になりがちですが、それだけは避けようと。なので、絶妙な距離感が面白いと思います。
―袋とじを「ジャパニーズスタイル」というのを初めて知りました。タイトルの『ジャパニーズスタイル』は日本の生活様式や習慣のことをいうのかと思っていたんです。
吉村 普通はそうですよね。僕もそう思ってました(笑)。でも、そう教えてもらってからジャパニーズスタイルという言葉が真新しい言葉に感じて新鮮でしたね。言葉は意味と観念的な捉え方。の二つでもいいのかなと。
―ところどころに入る「赤い鳥居に和装のお二人」の綺麗なショットはどんな風に説明されて撮られたんですか?
吉村 お正月の初詣的な、海外へわかりやすい日本的な「ジャパニーズスタイル」をやりたいからと説明をさらっと受けました。が、リハの時から監督の演出に僕は、その場で全て理解できなくとも、まず目の前の監督の言葉を信じてやってみようと思って神社に仁王立ちしました(笑)。
―リンと重野が近づきそうで近づけず、ジタバタするところが可愛かったです。あの場合、男性は困りますよね。
武田 どっちなんだ、と(笑)。
吉村 二人がけんかするところ?
武田 そう。
吉村 あれ困りますよね。アベラ監督に違う部屋に連れていかれて説明されたんだよね。「日本人ってこういうところあるじゃん」みたいな。「僕はこういう経験何回もしてるんだよ」って(笑)。監督の実体験に基づいて演出された記憶があります。
―お二人の意見で変わったり、アドリブが入ったりしましたか?
武田 ほとんど脚本どおりです。ただ車中のシーンはカメラを設置して二人しかいない空間で、いつカットがかかったかわからず、ずっとやりとりをしていました。トゥクトゥクは両側があいていて、周りの音がすごく大きいので、よく聞こえないんです。
吉村 エンディングの、二人が前と後ろでしゃべっているところは「カット!」と言われた後に話しているのが使われていると思います。
―牽引されているのでなく、実際に運転しているんですね。
武田 そうです。かなり長距離を運転されていましたね。
―安全運転をして、セリフもしゃべるのはたいへんですね。
吉村 そうですね。でも楽しかったですけどね。監督車は後ろにいました。
武田 羽田から横浜へ、撮影もしながら片道を走りました。
―実際に年末に撮影されたので、カウントダウン花火も本物ですね。忘れられない年末になりましたね。
武田 この撮影のあった2019年から2020年は全く年末年始感がありませんでした。ずっと胸がざわついているというか。
―それは企画・制作に携わったからでしょうか? 俳優だけでいるのとは心持ちが違いましたか?
吉村 撮影中はお芝居のことしか考えていなかったんですけど、撮影が終わってから責任感みたいなのが芽生えてきたりしました。
―このお仕事の前と後でお互いの印象は変わりましたか?
武田 変わりましたね。一緒にお仕事する前の吉村さんは“自由な少年”というイメージでした。やりたいことがちゃんとあって、それを言える素直な心を持っている方。でも、実際にお仕事をしてみると、その言葉の裏には繊細なナイーブな気持ちもあることがわかりました。
吉村 おっしゃるとおりです。(笑)
―吉村さん、武田さんの印象は?
吉村 童心といいますか、子ども心がある人です。あんまり人に頼るとか、本音を吐露するとかって今までしてこなかったのかなと。それを避けてちゃんとした人間として生きてるんだなぁと思って尊敬しています。
(武田さんへ向かって)そっちのほうが大変だろ、普通。こっちのほうが楽な生き方だと思うんだよ。辛い物食って「辛い!」っていうようなもので。辛いと思ったけど、「ん~」みたいな。「美味しいです」的な。尊敬してますけどね。
武田 吉村さん、お仕事する前は普通に下の名前で呼んでいたんですが、お仕事するようになってからは「おい、武田」と呼ばれるようになりました(笑)。だから、そんな尊敬している感じでは・・・。
―その裏には尊敬の念が。
吉村 そうなんです。尊敬の念が詰まっているんです。
―でも「武田」なんですね。
吉村 武田・・・さん。(笑)
―今度は他の心配をしないで、俳優として演技に専念できるようにお仕事できるといいですよね。今回はなかった「ちょっとお姉さんと素直な年下男子の恋愛もの」とか。「姉と弟」も似合うかもしれない。
武田 吉村さんは完全に弟タイプですね。撮影の合間にコンビニに行くと、「武田、カフェラテおごってよ」と言うので、可愛いですよ。憎たらし可愛い(笑)。
吉村 返せって言うんですよ。「後でちゃんと現金で返せ」と。
―出来上がった作品をご覧になっての感想をそれぞれ教えてください。
武田 不器用な人間たちが、大晦日に「このまま年越していいのかな」とあせります。本人たちにとってはとても大きなことなんですが、俯瞰的に見るとなんだか可愛らしかったり、人間らしいと思う部分があったりします。そういう経験って誰にもあるんじゃないかなと思うし、これから訪れる人がいるかもしれない。それはあせることではないし、一回自分を認めてあげるといいんじゃないかなと思える作品です。気楽に劇場に足を運んでいただけたら嬉しいなと思います。
吉村 今武田さんがおっしゃったことは、僕も・・・。全部言われたので(笑)、映画を楽しんでいい年を迎えてください。
―最後に大切にしている映画を1本あげていただけますか。ぱっと思い浮かぶもので。
吉村 『クレイマー、クレイマー』(1979/ロバート・ベントン)、好きです。高校生のときに初めて観て、そのあともめっちゃ観直しました。離婚したお父さん(ダスティン・ホフマン)が慣れないことを(息子のために)真剣にやる姿、「お父さんファイト!」な感じが胸打つんですよね。僕もけっこう何やっても慣れないので、素敵だなと思っちゃいます。
武田 『グーニーズ』(1985/リチャード・ドナー監督/スティーヴン・スピルバーグ製作)です。もう年に何回観直しているかわからないくらい観ていて、映画の世界に入りたいと思うきっかけになった作品のひとつです。先ほど吉村さんが私のことを子ども心があると言っていましたが、本当に自分の中でずっとどこかにあって。映画って年を重ねて観ると観方が変わるものですが、『グーニーズ』だけは保育園のときに観たときと全く変わりません。本当に特別な、映画の世界に導いてくれた作品です。
―今日はありがとうございました。
(この後、外でトゥクトゥクと撮影)
(取材・写真 白石映子)
=取材を終えて=
吉村界人さんには「初めまして」でした。ハスキーなお声で率直に語る吉村さんは、どの映画、どのドラマに出演していても埋もれることなく、存在感を発揮しています。武田梨奈さんには『いざなぎ暮れた。』以来の取材です。このときに、『ジャパニーズ スタイル/Japanese Style』のことを次に伺いたいとお願いしていたのが叶いました。
2020年へのカウントダウンのシーンも入った、大晦日のストーリーは、ちょうど年末を控えての公開です。終わらせたい二人のジタバタを身近に感じられそうです。お二人のまたの共演も楽しみにしつつ。(白)
*小ネタ*
トゥクトゥクは軽自動車ではなく、「側車付きオートバイ」というカテゴリに分類されるそうです。ハンドルやペダルはバイクのようですが、運転には普通免許が必要です。昔よく見かけたオート3輪を思い出しましたが、まさにそのダイハツ ミゼットを母体に、タイでいろいろカスタマイズされてきたのだとか。ミゼットは軽自動車なのに、変身したトゥクトゥクは日本ではバイク扱いになるんですね。