アルテ・エ・サルーテ演劇「マラー/サド」東京公演

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2022年10月10日 イタリア文化会館

池畑美穂


イタリアのボローニャで活動をしているアルテ・エ・サルーテアソシエーションには、エミリア・ロマーニャ州立ボローニャ地域保健機構精神保健局の利用者が在籍している。
2022年、特定非営利法人東京ソテリアは、文化庁他の助成金を受け、アルテ・エ・サルーテアソシエーション、ボローニャ精神保健局と日伊協同演劇プロジェクト「世界精神保健デー 普及啓発事業 」を実施した。

アルテ・エ・サルーテアソシエーションに所属している”Teatro di Prrosa”(散文劇団)は、ボローニャ市内の劇場を拠点にし、年間2作品ほどの演劇作品を制作、イタリア国内を中心に作品を上演、また、スペイン、中国、日本での海外公演も行なってきた。

今回、日本で上演された『マラー/サド』は、18世紀のフランスのシャラントン精神病院をモチーフにした劇中劇である。

自由と公民権運動を訴え、ルイ16世からの王政を終らせたフランス革命は、市民の革命により、自由、差別のない社会が求められた。今回の上演では、自由に向けての音楽、イタリア側の俳優達の映像、そして、若い世代から熟年世代までの幅広い年齢層の当事者による日本側の俳優達の生の歌と演技が融合していた。

この公演へ向けて、日本人演者達は、オンラインと対面で舞台稽古を継続、公演直前には、イタリア、ボローニャへ赴き、現地で、リハーサルを行なっている。

監督と脚本は、イタリア人監督のナンニ・ガレッラの脚色により上演されている。

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アルテ・エ・サルーテ劇団は、本拠地であるボローニャにあるアレーナ・デル・ソーレ劇場にて、ペーター・ヴァイスのオリジナル台本を脚色した『マラー/サド』の他、シェクスピアの作品、また、2022年は、イタリアの著名な作家であるパゾリーニの生誕100周年を記念し、パゾリーニ原作の作品等、バラエティー豊かな作品を20年以上に渡り、上演をしている。
また、『マラー/サド』の中のシャルロット・コルデー役のように現役の著名な俳優達が客演することもある。

ボローニャでは、精神保健局の事業として、表現活動のプロフェッショナルを養成することを目的にアルテ・エ・サルーテアソシエーションを創立、長い養成期間を経た精神障害当事者達は、プロの俳優として劇場と契約をして活動をしている。

日本においては、2018年に東京ソテリアが、アルテ・エ・サルーテ劇団を招聘し、『マラー/サド』を公演、2019年には、同作品への出演者を決めるオーデションを国内で行い、普段は、ディケアーへ通所したり、障害者雇用で働いている精神障害当事者達が参加した。その中の一部が演劇稽古を継続している。

また、東京ソテリアでは、こころの病をもつ親とその子どもたちへのサポートをおこなっている“こどもソテリア”を利用しているこども達を中心としたこども劇団333を運営している。10月10日は、『マラー/サド』作品をわかりやすく紙芝居仕立てにした読みきかせを劇団の子ども達と一緒に前座としておこなった。
将来の当事者俳優として育成していくこともよいと思われる。
イタリアポロ―ニャでは、当事者でも専門職があり、民間でピアサポーターとしても働くもある。
ほかにもアートサークルなど、イタリアの芸術の街のように、文化と芸術の都で、オペラや、美術館など当事者も多くの楽しみたかがある。

2013年以降、東京ソテリアでは、ボローニャ精神保健サービス視察ツアーを実施し、ボローニャ市を視察している。

2016年からは、2年に及び、東京ソテリアでは、ボローニャ精神保健局、ボローニャにあるエータベータ社会的協同組合と提携し、「日伊精神障害者就労支援プロジェクト」実施した。日本人の当事者達は、1か月交代で、がボローニャに滞在しながら、パスタやお菓子作りを働きながら学んだ。また、余暇の時間には、ボローニャ精神保健局の外出プログラムへも参加した。ボローニャ精神保健局では、利用者の文化的活動が進展的で、ボローニャの劇場での観劇もしている。

障害者権利条約の8月の国連障害者権利委員会のジュネーブの対日監査での勧告では、日本が世界基準から遅れている部分として、強制入院が減少していないこと、社会定期入院入院に数が減らないこと、地域での社会参加や、共生社会、精神保健福祉包括ケアシステムが上手に循環していないことなどがあげられる。

また、制限された権利として、文化面でも美術館やその他の公的施設での障害者手帳の使用する権利や、手帳の申請率も全体の20パーセント程度で、精神障害の当事者の手帳を申請することや、福祉サービスとして他の身体、療育手帳に増して、日本人の偏見や差別意識が強く、手帳の申請も障害者雇用に特化した部分で、割り切って雇用のために3級を取得するだけである。

イタリアでは、強制入院をする場合、二人の医師の判断、市長の承諾、その市長は、48時間以内に裁判所へ通報しないとならない。

この強制期間は、7日間で、延長が必要な場合、同様の手続きが必要となる。ボローニャには、精神保健局が運営する精神科病床を併設した総合病院が4つある。
イタリアでは、精神科の平均入院日数は、10日間で、地域のなかで、治療、生活をしていくことが基盤となっている。 
日本は、平均在院日数が、281日である。

イタリアでは、精神科医であり、“哲学者”の渾名でも呼ばれたフランコ・バザーリアが精神医療改革運動を行い、1978年、イタリアの精神保健法である通称“バザーリア法”が制定された。この法律により、精神病院の新規入院が禁止され、のちにイタリア全土の精神病院は、廃止となった。入院病床は、総合病院の中に設置され、病床は、各病院に15床までと規定されている。この法律を元に各州が地域精神保健サービスを管理、運営している。

ソーシャルファームは、イタリアで始まり、他のヨーロッパ国々へ広がったと言われているが、東京ソテリアは、イタリアや他国との地域精神保健を通した交流から学んだ経験も活かしながら、東京都のソーシャルファーム事業へ応募、そして、正式認証を受け、在日外国人の精神障害を持つ就労困難者を主な対象とした“ソテリアファーム”事業を開始し、新宿区四谷にマフィン、グラノーラ、焼き芋、季節の果物・野菜等を販売する店、そして、キッチンを運営している。ここでは、在日外国人の精神障害当事者、留学生らがスタッフとして、シフト制で働いている。

マフィンを製造するキッチンとお店は、徒歩数分の距離にあり、東京都の最低賃金の支払い、また昇給も見込まれた職場環境の中で、心のケアも職員がサポートしている。

ソテリアファームの店舗は、東京都のソーシャルファーム事業の認証を受けて、2021年に開店したものである。

東京都のソーシャルファーム事業は、令和元年にソーシャルファーム条例が発令され、令和3年の初年度には、28事業、翌年には、12事業が認証を受けた。
認証には、従業員の総数に対し、就労困難者(障害者、引きこもり、生活困窮者、高齢者、矯正施設の出所者、高齢者、ひとり親など)と認められる人を20パーセント以上雇用すること、法人格を有すること、登記や、年度末の決算が条件付けされている。

毎年事前説明会後、秋にエントリーがあり、プレゼンテーションと、審査があり、審査で許可が出ると、事業の開始になる。基本的に、就労困難者の雇用と、社会保険がつく30時間就労を目安に、雇用契約を結ぶ事業所も多い。補助金があり、企業を目指す場合にも、手段の1つだと思われる。

・ソーシャルファ―ムとは・・・就労困難を抱える方が多く、企業の一つの形である。一般的な企業と同様に自立的な経営を行いながら、就労に困難を抱える方が必要なサポートを受け、他の従業員と共に働いている社会的企業のことである。
1970年代にイタリアで誕生した。海外において、ソーシャルファ―ムと呼ばれる社会的企業が多数存在しており、現在では、ドイツ、イギリス、フランスなどにも広がり、ヨーロッパ全体で約10000社、また、韓国にも約3000社存在する。障害者雇用と、就労困難者が、一般労働者と共に仕事をしている。

・アルテ・エ・サルーテ劇団は、ボローニャ精神保健局の利用者である精神障害を持った当事者がプロの俳優として活動する劇団である。ボローニャ精神保健局(州立)保健予算、そして、劇団が契約をしている劇場の予算が活動及び劇団員の収入の資金となっている。表現・芸術分野にて、精神障害者が専門的養成を受け、プロとして就労することを目的に2000年に設立された。


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2022年 世界精神保健デー 普及啓発事業 アルテ・エ・サルーテ「マラー/サド」~世界各地の精神科病院と表現活動をつなげるプロジェクト~
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