『彼岸のふたり』朝比奈めいりさん、並木愛枝さんインタビュー

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*プロフィール*
朝比奈めいり| Meiri Asahina(西園オトセ役)
2002 年 2 月 6 日生まれ。大阪府出身。
SAKURA entertainment 所属。イロハサクラ/Ellis et Campanule の 2 つのアイドルグループを兼任しながら、女優活動も行う。2019 年 3 月 20 日公開の映画『手のひらに込めて』の主題歌「雨降草」 でメジャーデビュー 。2019 年 6 月「幽霊アイドル」でバズる。主な出演作に『あおざくら』(短編/18)、『手のひらに込めて』(19)。

並木愛枝| Akie Namiki(西園陽子役)
1978 年 10 月 17 日生まれ。埼玉県出身。
10 代より小劇場を中心に活動。2001 年より高橋泉・廣末哲万で結成された映像ユニット"群青いろ"に参加し、2004 年の PFF アワードでは『ある朝スウプは』(高橋泉監督/03)がグランプリ、『さよなら さようなら』(廣末哲万監督/03)が準グランプリを受賞。その時の審査員長だった若松孝二監督の目に留まり『実録・連合赤軍~あさま山荘への道程~』(07)の永田洋子役を演じる事となる。2008 年、高崎映画祭・最優秀助演女優賞受賞、アジア太平洋映画賞・最優秀女優賞にノミネートされる。

作品紹介こちら
北口監督インタビューこちら
監督・脚本・編集:北口ユースケ
脚本:前田有貴
©2022「彼岸のふたり」製作委員会 higannofutari.com
★2022年2月4日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開

★映画の内容にふれていますので、気になる方は鑑賞後にお読みください。

ーこの台本を初めて読んだ感想をお聞かせください。

朝比奈 台本をいただいたときにぱーっと目を通して、ストーリーの流れは初めにわかったんですけど、自分が演じるオトセちゃんの行動の意味がいまいちわからないところが何か所かありました。何でこの行動をとっちゃったの?みたいな。それが疑問だったんですけど、撮影するまでに北口監督に何回かレッスンしていただいて、行動の意味がだんだん理解できるようになりました。撮影中は、オトセちゃんを演じないと、という意識を持たずに、自然に撮影に挑むことができて。自分に通じるものがあるキャラクターなんだなと思いました。

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並木 お話をいただいた時点で「毒親の役です」っていう風に言われていたので、あ、悪い人だなっていうのは認識していました。私は結構悪い人の役を頂戴することが多くて、いつも「悪いだけの人じゃなく演じたい」というのを心がけているんです。それは観ている人もそうなんですけど、自分がその悪いことをする立場の人になってしまう可能性もあるわけだから、それを忘れないためにも「人間臭くやりたい」と思って。「悪い人なんだけど、こんなことあったんだ、可哀そうだな」と思わせるようなことや、なぜ虐待に走ってしまったのかという理由付けを演技で表現しようと決めていたんです。
実際現場に入って監督と自分の表現したいこととかをご相談しながら進めていったときに、自分の中で子供をちゃんと育てられなかった後悔だとか、もっと違えば自分もきちんと母親になれたかもしれないという気持ちだったりとか、やっぱり離れてても自分が産んだ子だから、ああ愛しいと思う瞬間が一瞬でもあったりとか。でもやっぱりお金欲しいなぁ(笑)、働きたくないからこの子お金くんないかなぁって思ったりとか、そういういろんな、ひとつ母親らしい感情だけじゃなくてズルいことを考えているのと、あ、これが私の娘かと思ったりを入れていく作業とか、非常に難しくもあり、役者冥利につきるというか。
台本には書かれていない「ここをこうしてください」を、自分でわざと課題を作って「この時にオトセと親子になってみたい」と思ったり、着物を肩にかけたときに、「成人式とか七五三とか、こんな綺麗な姿を自分がちゃんとしていれば見れたかもしれないのに」、と悲しくなったりとか、そういうのを入れたいなぁと思ってやっていたら、やり終わった後、ただただ悪い人ではなくなって一人の女性の人生の一部が残せたかなと思いました。
時間が経って、かなり役からも離れて一個人並木愛枝として観たときは、「なんて面倒くさい我儘な女なんだろう。悲劇のヒロインになりたかったんだろうな」って冷たく思ってしまいました。

―朝比奈さんは完成した映画を観ていかがでしたか?

朝比奈 撮影してから、スクリーンで観たのが長い時間をおいてからでした。こういう気持ちで撮影していたというのが、自分の身体から抜けた状態でスクリーンで観ました。演じているときはオトセちゃんって人と会話するとき、びくびくしている感じがしました。パっと来られたら引く、自分を塞いじゃう、だから弱い女の子に見えるかもしれない。
だけど、アイドルのライブのチラシやみかんをいただいて、ライブ会場まで一人で行くじゃないですか。
自分がオトセちゃんだったら、ほんとにライブに行けるかな、と観ながら思いました。人がいっぱいいるだろうし、観たこともないライブハウスって入るのもたぶん怖いだろうし、と考えるだろうと。オトセちゃんは自分で足を運んで、出待ちもして、感想も伝えられる行動力があります。
ソウジュンと喋っても―自問自答ではあると思うんですけど―ソウジュンに対して出てくる言葉がけっこう強めの言葉が多いなと思ったので、本当は根ががっちりしている女の子なのかなと、終わってから思いました。

―お二人最初に会ったとき、どんな印象でしたか?初共演ですよね。

並木・朝比奈 はい(お二人顔を見合わせてクスっと笑う)

並木 どう思った…俳優のめいりちゃんの姿も、アイドルのめいりちゃんの姿も全く知らなかったんです。なんてまっすぐこっちを見てくる女の子なんだろうというのが最初ですね。返事もすごく…なんかどこから声出たかちょっとわからないくらい…(笑)

朝比奈 はい!!

並木 っていうのが宝塚かな?ってくらいの完成された「はい!」で。

―アイドルの「はい!」なんですね。

朝比奈 教育が…(笑)

並木 ちょっとびっくりして、このタイプの人初めてだなと思って(笑)。でもあんまり仲良くなっちゃっても、作品のためにも良くないし、演技経験もないということだったので。切り替えってけっこう難しいじゃないですか、俳優さんの中でもうまいことできる人とできない人がいるくらいなので、あまり楽しくなっちゃうと切り替えがもしできなかったときに、影響が出ちゃうといけないから意識的に仲良くなりすぎないように気をつけていました。
だから、もしかして「避けられてる」って感じてた?(と朝比奈さんへ)

朝比奈 あ、全然!!(笑)

並木 ほんと? じゃ良かった!ほんと、正直、接し方がわからなかったんです。

朝比奈 それは、私いろんな方にそう言われます。

並木 そうなの? そうなんだ(笑)。年齢もあるし、なんていうんだろうな、ほんと会ったことのないタイプの人間だったので(笑)、興味のあることもわかんないしね、あんまり話さなかったよね?

朝比奈 そうですね。

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―朝比奈さん、最初に「お母さん」と会ったときは?

朝比奈 すんごく緊張しました。普段のお仕事がアイドルなので、喋る人もだいたい同じ年齢くらい。歌って踊ってアイドルやって楽屋でおしゃべりするくらい。演技をお仕事にしている人としっかり話したこともあまりなかったし、(並木さんの)役もお母さん役だったので・・・何か不思議なオーラがありますよね(と並木さんへ)。

並木 そーお(笑)?そうかなぁ?

朝比奈 ほんと緊張しました。すごく。

並木 人を緊張させてしまう? 私。でも私それよく言われるのよ、「怖い」とか。ごめんね。

朝比奈 怖くはないです!でも初めて会う人だから緊張するのとは、またなんか違った不思議な緊張でした。

並木 それは私のせい?

朝比奈 はい! 

並木 私のせいですか、そうかー(笑)。その謎解きたいですね。
私すごく人見知りなんですよ。こうやって取材していただくときだと、一回しか会わないこともあれば何回もお会いできることもあるけど、大体がその時が「初めまして」じゃないですか? それだと覚悟ができるんです。一回しか会わないかもしれないし(笑)。
でもこれから何回も会わなくきゃならないとなると、あまり嫌な悪い印象も与えたくないし、と考えちゃう。人見知りの人って「気にしい」なんですね。だからあまり人とうまく接することができなくて「どうしようどうしよう」っていうのがもしかしたら、嫌な思いさせているのかも。

朝比奈 嫌な思いじゃなかったですー!ドキドキしました。初めが写真を撮るとき(とチラシを指して)。

並木 この写真を撮ったのが、二人が初めて会ったときなんです。

―まだ心の距離が近づいてなかったときですね。

朝比奈 初めての共同作業ですね。すごい寒かったんです。

並木 季節いつだったっけ?

朝比奈 なんだかすごく寒かったと覚えています。

並木 床が冷たかっただけじゃない?

朝比奈 めちゃくちゃ寒かった・・・

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―これは母と娘の愛憎のストーリーですね。私だったら違う、また、とてもわかるというところ、忘れられないセリフがあったら教えてください。

並木 私の場合、わかるっていう風にするために、脚本に描かれている役と自分をすり合わせて私ならどうするかという役作りをしていくので、私だったら違うのにな、というところは一個もないです。そのような状態に陥っているわけではないので、実際のところはわからないですけど、想像で私がこういう表現を相手に見せるんじゃないかということでやっているので、違うなっていうのはないですね。

―残っているセリフは何でしょう?

並木 予告編でも言っている「じゃあ何であんたはここに来たの?」っていう、あれって私の中ではすごく悲しくて。セリフ自体が悲しいというのじゃなくて、あれを言っている状況が私としてはすごく悲しい。ほんとはオトセが来てくれたのが嬉しい部分もあるんですよ。だけど、陽子も陽子で「どうせあんたはお母さんに会いに来てくれたんじゃなくて、お金渡しにきただけなんでしょ」と、求められていないことに対してひねくれている気持ちもあって、だから涙も出ちゃうし。

―ここ(目尻)に涙が光るんですよね。

並木 そう(笑)。なんでこんなことになっちゃうというのを、自分のせいと感じつつ、人のせいとも思っている。ほんとにぐちゃぐちゃになってて、「じゃあ何であんたはここに来たの?」の答えが「だってお母さんに会いたいから」だったらたぶん嬉しいかもしれないけど、ひねくれてるから「なんで来たのよ」半笑いだし泣き笑いだし、しかもそれを悟られたくないから言っちゃうという。

―めんどくさいですね。

並木 そうなんですよ(笑)、ほんとめんどくさい。

―なんか迷路みたいな人で(笑)。

並木 そういう風にしたくって、細かく考えてやりました。

朝比奈 セリフでいうと、状況も込みでなんですけど、包丁を向けて「私に会えて嬉しかったですか?」って聞くところが、セリフとしても一番頭に残っています。オトセちゃんは頑張って稼いだお金渡しちゃったり、ホテルでプチ事件があってお母さんのところに行ってときも、「お母さんに会えて嬉しかった」という気持ち込みの行動。「私に会えて嬉しかったですか?」と言うことだけでもすごい勇気のいる行動だったと思っています。
打掛を着せてもらうときに、おびえちゃう、拒絶しちゃうところ。セリフじゃないんですけど、ここも撮影中も後も印象に残っています。お母さんに会えて嬉しいし、お母さんを信じたい気持ちで家に行っているのに、昔虐待を受けていたことで身体がびくっとしてしまった。私は、オトセちゃんは最後のシーンの後もトラウマは消えないまま続いていくんじゃないかな、と後から思いました。

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―チラシの写真と最後の2人のシーンは、ポーズは同じだけれど、気持ちが違うわけですね。

並木 あそこまでのクライマックスになるには、俳優も時間を過ごして感じてるわけです。この時はまだなんにも始まってない、自分たちの中であるものだけだけど。やっぱり最後は二人で完結、作った時間だものね。

朝比奈 はいっ!!

並木 また「はい!」(笑)

―「はい!は元気よく」って言われたんですね。

並木 まだびくっとするんですよ。慣れないんですよね(笑)。

―朝比奈さんはアイドルを続けてきましたが、これから俳優としても活動していきたいですか?

朝比奈 はい! 始めたころはアイドルのことしか考えられなかったんですけど、『彼岸のふたり』ではレッスンや撮影機関が普段のお仕事よりもがむしゃらというか、夢中になってすごい楽しかったので、演技のお仕事がしたいなと思っていました。

―ここにいい先輩もいらっしゃることだし。並木さん演じるお母さんの心の揺れが表れるところ、オトセを助けに入れない姿とか、思わず涙がにじんでしまうところとか、監督に演出ですか?と伺ったら違いますということで、もう感動しました。

並木 ありがとうございます。すごく考えました。
(朝比奈さんへ)私を目指さないほうがいいですよ。大変だと思う。せっかく生まれ持った美しい容姿があるんですから、それがもうすでに武器なので。あんまりこうひねくれた(笑)ちょっと核弾頭みたいな方向はやめたほうがいいと思う(笑)。

朝比奈 わかりました。

並木 まずは綺麗でいてください。

朝比奈 はい。綺麗で・・・

―綺麗と演技力と両方あったら鬼に金棒ですよ。

並木 そうですよね。なかなかそういう人いないから。

―長く続けられる俳優さんになってくださいね。今日はありがとうございました。

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*私の大切な映画*
朝比奈 『渇き。』という映画を繰り返し観ています。主演の小松菜奈さんがとても美しいのですが、ただルックスが美しいだけでは無く、劇中の菜奈さんから滲み出る女の子の不安定さや危なさとどこか儚げで美しいルックスとの化学反応に驚き、「美しい!!!」と感じ強く魅了されました。自身の中での絶妙な後味の残り方が大好きで、「最近あまり生活に刺激を感じていないな」と感じたら思い出したようにこの映画を観ます。映画を観ている最中に心拍数が上がる経験をこの映画で初めて体験したので、大切に思っている映画です。

並木 どんな部分で大切なのかによって選ぶ映画が異なるので、今回は俳優・並木愛枝の根源という意味で大切な映画を。
それは高橋泉さん脚本・監督の『ある朝スウプは』です。
廣末哲万さんとのダブル主演で、まだ彼ら「群青いろ」が少人数で、出演者がカメラや録音、衣装や音楽など、スタッフと兼任していた頃の作品です。
当時の私はまだ、演技することが全てだと思っていましたが、彼らが求めるのはカメラの前でもありのままで、自分の中に生まれた感情や衝動を素直に体現する事でした。ゴテゴテと私に貼り付いた物を極限まで削ぎ落とす作業に初めは苦戦しましたが、廣末さんに引っ張って頂きながら感覚を掴んで行きました。「群青いろ」の現場で培ったものが、今の俳優である私を形成しているのは間違いありません。お二人には生涯感謝し続けると思います。
まだ北口監督には裏をとってないですが、もしかすると私を初めて知るきっかけになった作品が『ある朝スウプは』だったのでは?と思っています。今回の『彼岸のふたり』に繋がるきっかけにもなった…であろう映画であり、今でも演技プランに悩んだ時には必ず思い出し、余計な事をしようと企んでいたら、スッと腕を掴んで引き戻してくれるような、“私の大切な映画”です。


=取材を終えて=
北口監督のインタビューに続いて、オトセ役の朝比奈めいりさん、母・陽子役の並木愛枝さんにお話を伺いました。北口監督、プロデューサー、マネージャーさん、宣伝さんも後ろに控えて、ギャラリーの多い取材でした。どんな質問にも丁寧にお答えいただいて、率直なお二人のお話に楽しい時間を過ごしました。朝比奈さんの素直な回答に、書いてはいませんが(会場笑)となったこともたびたび。
子どもの虐待から始まるストーリーですが、母親の揺れる心情を表現した並木さん、愛情を取り戻したいオトセを夢中で演じた朝比奈さん、いい作品に出会われましたよね。オトセが自転車に乗って走るラストに希望が見えました。

(取材・写真 白石映子)