『瞼の転校生』藤田直哉監督インタビュー

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*プロフィール*
藤田直哉(ふじたなおや)1991年北海道岩見沢市生まれ。明治大学法学部卒業。大学時代より独学で実験映画を中心に自主映画制作を始める。『stay』(2019)がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020短編部門にてグランプリ受賞。2021年には短編映画でありながら、単独で都内映画館をはじめ、全国の映画館で上映。文化庁委託事業ndjc2021に選出。『LONG-TERM COFFEE BREAK』を監督し、劇場公開。2022年、文化庁「日本映画の海外展開強化事業」に選出され、ニューヨーク現地にて長編映画企画の研修を受ける。
本作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の20周年、埼玉県川口市の市制施行90周年を記念して埼玉県と川口市が共同製作。藤田監督の長編映画デビュー作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のオープニングを飾った。

『瞼の転校生』
旅回りの大衆演劇一座に所属する中学生の裕貴(松藤史恩)は、公演に合わせて1ヶ月ごとに転校を繰り返していた。すぐに別れるからと、友達を作ろうともせず、今まで通り誰とも話さず公演時間に合わせて早退していた。ある日、担任から頼まれ不登校なのに成績優秀な建(齋藤潤)の家に立ち寄る。
後日、ひょんなことから地下アイドルのライブに行った裕貴は、偶然に建と再会する。建はアイドルオタクだった。二人は一気に仲良くなり、建の元カノの茉耶(葉山さら)も加わって、3人で過ごす時間がだんだん増えていく。裕貴は二人に舞台に立つ自分を観てほしいと思い始めるが・・・。

公式HP https://mabuta-no-tenkousei.com/
(C)2023埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 川口市
作品紹介はこちら
★2024年3月2日(土)より全国順次公開


―明治大学法学部ご卒業、全く違う分野に来られたんですね。

実は、大学に入るまで全く映画を観ていなかったんですよ。北海道の岩見沢というところの出身だったので身近に映画館がない。ただメディア系のほうに興味があったので、大学では映画研究会に入って今回脚本の金子(鈴幸)さんと会い、そこから映画を観るようになりました。

―金子さんとは何本も一緒ですか?

学生のときの自主映画から一緒です。彼が監督をやるときは僕が撮影や製作をやったり。当時は池袋に住んでいたので、新文芸坐やシネマロサによく行きました。きっかけになった映画があって…新文芸坐で今村昌平監督の『神々の深き欲望』(1968年)という作品を観ました。すげーことやってる!と感じて「映画作ってみようかな」と。実験映画とか、個人映画とか撮っていましたが、劇映画はほぼやってはいなくて。

―それが「大衆演劇」の映画撮るんですものね。不思議~!!

大衆演劇は、お風呂が好きで、茨城県のスーパー銭湯に行ったときにこういう演劇があるんだなぁと知りました。そういうときに、たまたま親戚のおばあちゃんが元役者さんだったことがわかって、急に大衆演劇の存在が身近になった瞬間があったんです。ちょっと観に行ってみようかなというのが最初です。

―その初めての劇団を覚えていますか?

女性の座長さんで、演目が面白くて…目の見えなくなった男性とその面倒を見ることになった女性の話で、目が治って見えるようになってみたら主の偉い人で、身分差を感じて恋仲になれない、みたいな…。初めて観た人にもハードルが低いというか、話に入りやすい。面白いなと。
(劇団朱光さんで、お芝居は「かげろう笠」と判明)

―監督が企画をたてられたんですね。いつか撮りたいと温めていらした?

そうですね。今までの短編では若い子を扱ったことがなくて、十代の子でやってみたいなというのがありました。大衆演劇に出会ったら、中で若い子が頑張っている。こういう人を撮ってみたいなということです。

―ストーリーは脚本の方と話しあって、だんだんと作っていくものですか?今回は監督の想いはこの中のどなたかに重なっているんでしょうか?

だんだん作っていきました。誰に重ねたというのはなかったですね。かなり客観的に作った気持ちが強かったんです。ただ、最近インタビューなど受けているうちに思ったのは、建に自分を重ねているんじゃないかなと感じました。

―建さん…不登校の子ですね。

建は、ある種のあこがれを裕貴に持っています。それは建がまだ何者でもないから。けれども裕貴は、やりたいこと、運命を背負っているようなことをやっている。でも自分はそこにいけない、と。アウトローではいたいけれど、一歩踏み出せないでいます。社会のレールの上でしか、生きていけない建の姿はなんだか自分の十代に近いなと、そんな気が最近しました。

―「いい学校に入っておけば、選択肢が増える」とも言っていました。

今は何者でもないけど、自分はすごいことやるんだ、みたいな漠然とした思いがある。ほかの人とは違うと感じているけれど、できることはないし、なんとなく勉強ができるだけで、すごい秀でることもないし。
そういう建の姿が、かつての自分に重ねているんじゃないかなと気づきましたね。

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―3人は中学3年生で、時期は春ですか?

裕貴が中3の春に転校してきました。進路を考える時期です。

―担任の先生がちょっとあんまりでした。

ある種、この映画では悪者のキャラクターになってしまいましたが、大人は大人なりのいいわけというか、理屈があって。それぞれの理屈をちゃんと出す意識はしました。

―建くんは「お父さんお母さんが違う」というセリフがありましたが、里親の設定ですか?それで「瞼の母」の劇が登場して、もっとその話が進むのかなと思いました。

メインに描きたかったのは、親子関係でなく、若い子たちの話です。親子の話を進めると、もともと目標としていっている題材からずれるかなと思いました。そもそも親子の関係ってけっこう重いテーマなので、サブストーリー的にしました。

―数あるお芝居の中からこの長谷川伸さんの「瞼の母」を劇中劇に選んだのは?

ちょっと悩んで脚本の金子とも話していたんです。企画が進んで行って脚本を書き始めたんですけど、せっかく大衆演劇を扱うんだから、劇中劇を入れないと意味がない。僕が個人的に、『stay』 でもそうですけど「疑似家族」とか、家族、親子というのに、興味があったこともあり、そういう要素をどうにか入れられないかなと。
大衆演劇によく使われている有名な作品ですので選びました。

―ほかにも候補はありましたか?どれにしようかな、とか。

いや、ないかな(笑)。「これ!」って感じでした。

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―監督と金子さんは、大衆演劇をたくさん観に行かれたんですね?

行きましたね。特に僕は、大衆演劇がどういう世界なのかを細かく知っておく必要があると思ってました。リサーチを進めていく中で、劇団美松の小祐司座長や華丸くんに取材させていただきました。その経緯があって、今回の作品のご協力をお願いすることになりました。
劇団のみなさん忙しいので、夜の撮影になったり、お休みのない中、舞台になる篠原演芸場も終日空けていただいたりで、本当にお世話になりました。

―舞台裏がたくさん観られて、とても嬉しかったです。それでは、若いキャスト三人のお話を。

三人ともオーディションで決まりました。
一人ずつ言っていくと…。
裕貴の松藤史恩くんは、部屋に入って来た瞬間、脚本でイメージしていた裕貴だ!と思いました。演技とかコミュニケーションとってみると、彼は自分の言葉で話してくれるんです。虚勢を張るとか、カッコつけるとかなく、いい意味で朴訥としていて、直感的にこの子とやってみたいなというのがありました。同席していた金子もほぼ同じ意見でした。
建の齋藤潤くんは、まず、演技のうまさに驚きました。僕たちがオーダーしてきたことを自分でかみ砕いてすぐ体現する、その瞬発力をめちゃめちゃ感じて。コミュニケーションもスマートだし、クールさも持ち合わせている。役のバランスを見たときに裕貴とのコントラストもあるのが良かった。
葉山さらさんは、テンプレートの役、学級委員長の雰囲気があると思うんですよ。

―しずかちゃんタイプですね。

そう、しずかちゃんタイプ、ほんとに。真面目だけど、素直な部分、葉山さんのポテンシャルみたいなもの、オーディションのときの葉山さんの頑張りを直に感じたんですよ。実直な感じが役にも通底するし、単純にこの子と一緒にやったら面白いだろうなと。
3人とももちろん演技がうまいんですけど、それより重視したのは、一緒にやっていきたいかどうかというのを、すごく考えて選びました。

―撮影当時の3人はちょうど中学生ですか?

2023年の3月の撮影で、史恩くん潤くんが中学生、葉山さんが高校生でした。学校のロケはすぐそこの高校でした。お天気にも恵まれて、春休み中の短い撮影期間の中で撮り終えました。
3人は、葉山さんが面倒見のいいお姉ちゃんみたいな感じで、仲良くしていましたよ。その仲の良いのが画にも出ていると思います。

―お姉さん、クールな長男、可愛い弟ですね。この裕貴の女形のメイクは監督の意向ですか?

細かいオーダーはないです。劇団の役者さんって、一人一人メイクが違うんですよね。史恩くんに合わせて、市川華丸くんがマンツーマンでメイクの指導をやってくれました。松川さなえ太夫元、小祐司座長、華丸くんにとてもお世話になりました。

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―普段の素顔とのギャップも映画的に必要ですが、女形とても可愛いですよね。これは予想通りでしたか?

予想してなかったですね。(すっかり変わって)びっくりしました。これまで白塗りしたことがあるとは聞いていたんですけど。史恩くんは、「化粧をするとスイッチが入る」「メイクと衣装が全部整うと別人として演じられる」と言っていました。そういう子にやってもらってよかったなと思います。

―建が初めて舞台の裕貴を観たシーンが、綺麗な映像でBL好きな人も喜びそうです。

ここは奇跡的に、良いシーンになりました。本当はこのとき二人が初めて顔を合わせるというのが良かったんですけど、時間がなくてそれは実現しませんでした。『stay』ではあの古民家を撮影当日まで主人公に見せない、とやれたんですが。

―二人がとても上手だったということですね。

うますぎましたね。ちょっとびっくりです。僕の勝手なイメージですけど、子役って、もっとディティールを指示していって、演技をするものだろうなと予想していたんです。それが本読みのときから彼らはとても自由で、現場に入ってもお互いの反応でやってくれていました。なめてました、すみませんでした(笑)。
二人とも素直なんですよ。大成するって信じています。

―裕貴は旅公演に出ましたが、残った二人はこれからどうなるんでしょう。監督はどこまで考えて作られましたか?

先のことは考えてなかったですね。出会った頃からは明らかに変わっているとは思いますが、変化が持続するかどうか、実は僕はあまり信じていない。人に出会ったからといって、その人が劇的に変わるようなことは意外とないと思うんですよ。もちろん彼らは出会いによって大きな変化の体験をしたんですけど、一方で僕自身はその変化の奇跡を信じていないかも。だからこそ、こうやって映画にしているのかもしれません。どこかで実は信じたいという気持ちがあるかもですね(笑) ネタバレになりますが、彼ら3人の別れぎわもドライでさらっと悲しくないシーンにしました。裕貴にとってそれが日常ですからね。そこはこだわりました。

―大人の俳優さんについてもお聞かせください。

高島礼子さん、佐伯日菜子さん、もちろん初めてご一緒させていただいたんですけど、とてもうまかったですね。今までインデペンデントからやってきた自分からすると、ホン(脚本)の解釈から常に想像を超えてくる演技をしてくれるんです。ここはこういうイメージなんですと伝えるだけで、それをすぐ具現化してくれる。映像的に派手さが必要な場面もあるんですが、そういうオーダーもすぐ理解して臨機応変にやってくださる。経験による瞬発力をすごく感じました。さすがこの世界にずっと生きてきた人だと思いました。

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―初めての長編でご苦労されたことはありましたか?

いや、それが意外とないです。長編だからスタッフと一緒にいる時間が単純に長くなったのが楽しかったですね。特に俳優部さんと同じ時間を過ごしていて、お互いに変化していくのを感じられました。お互いのいろんなことを共有できるし、仲良くなったからこそできる画に映るものがあると思うんです。それを直に感じたことが面白かった。

―脚本家さんは以前からのお友達ですが、ほかのスタッフさんは?

アルタミラピクチャーズさんが集めてくださったんですけど、みなさん商業映画でやっている方々で、すごく勉強になりました。特にカメラマンの古屋さんとは初めてなのに、すごくやりやすかったです。お互いに一緒に作っている感覚がすごいありましたね。僕が思ってもみなかったアイディアをポンと出してくれる。
共通の話題も多くて、歳はちょっと離れているんですけど友達感覚でいられました。だけどお互いリスペクトもあります。スタッフさんに恵まれましたし、いい出会いがあったと思います。
タイトルを赤松陽構造(あかまつひこぞう)さんに書いてもらったのも嬉しかったです。

―このクルーの方々にまた次の作品で出会えるといいですね。タイトルもぜひ赤松さんで。
では、これからご覧になる方々へどうぞ「呼び込み」を。

呼び込み…「本作は大衆演劇を題材に十代の子たちの青春もの、ジュブナイルものを作りました。一方で大人もいっぱい出てきます。出てくる人たちを肯定できるような作品にしたかった、というのがありました。
特に大衆演劇に生きる中学生は、みなさんの日常には存在していないでしょう。映画内で観たときに、どう感じるか、どう受け止めるかということを大切にしていただければと思います」
けっこうまとまりましたよね(笑)。

―はい、たくさん取材されただけあります(笑)。ありがとうございました。
(取材・写真 白石映子)


=取材を終えて=
取材の前日に試写があり、藤田監督のご挨拶もありましたがすぐ下を向いてしまって、写真が撮れなかったのです。どうも恥ずかしがり屋さんらしいとお見受けしました。翌日(1月25日)はskipシティで、映画に登場する劇団美松の方々の舞台が見られるイベントがありました。劇中劇の「瞼の母」の名場面も観られました。松藤史恩くんも可愛い女形で登場しました。そのイベント後のインタビューがこちらです。
監督と同じ北海道出身の私、20年来の大衆演劇ファンでもあります。舞台となっている十条の篠原演芸場にもよく通っていました。「人前に出たり、喋ったりが苦手」とおっしゃる監督は、予想したよりたくさんお話してくださって写真も撮れました。
映画には、いつもは見られない舞台裏や楽屋も登場して、とてもお得感がありました。大衆演劇入門になりますし、ジュブナイルものファンにも楽しめます。