『クレイジー・フォー・マウンテン』ジェニファー・ピードン監督インタビュー 

7月21日からの『クレイジー・フォー・マウンテン』公開を前に来日されたジェニファー・ピードン監督に、2誌合同でお話をお伺いしました。
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2018年5月30日(水)
ザ・プリンス さくらタワー東京にて


『クレイジー・フォー・マウンテン』原題:Mountain
監督:ジェニファー・ピードン
音楽:リチャード・トネッティ(オーストラリア室内管弦楽団芸術監督)
撮影:レナン・オズターク (『MERU/メルー』撮影担当)
ナレーション:ウィレム・デフォー

デナリ(アメリカ)、モンブラン(フランス)、アイガー(スイス)、エベレスト(ネパール)、メルー(北インド)、羊蹄山(日本)・・・クラッシック音楽をバックに、山々の圧倒的な映像が迫ってくる。
世界の名峰の頂を目指す人々、絶壁に挑むクライマー、さらには、マウンテンバイクで山を下ってのスカイダイビング、ウィングスーツでの山頂からの滑空、パラグライダー・・・と、エクストリーム・スポーツを楽しむ人々・・・
本作は、人と山とのかかわりを、音楽と映像で綴った映像詩。

2017年/オーストラリア/英語/74分/カラー/5.1ch/シネスコ
後援:オーストラリア大使館 
協力:The North Face
配給:アンプラグド
公式サイト:http://crazy4mountain.com
★2018年7月21日(土) 新宿武蔵野館他全国順次公開


ジェニファー・ピードン JENNIFER PEEDOM
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極限状況に置かれた人々の素顔に迫る、人の心を掴んで離さない作品で知られ、代表作として『ソロ ロスト・アット・シー 冒険家アンドリュー・マッコリーの軌跡』(08)、『Miracle on Everest』(08)、TV「Living the End」(11)、『Sherpa』(15)などの作品がある。
『Sherpa』は第62回シドニー映画祭の公式コンペティション部門に選ばれた唯一のドキュメンタリー作品。第59回ロンドン映画祭でグリアソン・アワードのドキュメンタリー長編賞を受賞。オーストラリアのドキュメンタリー映画としてはこの年の1位、史上3位の興行収入を記録した。(公式サイトより抜粋)


◎ジェニファー・ピードン監督インタビュー

◆クラシック音楽ありきで山の映画を作る面白さ
― 山の映像とオーストラリア室内管弦楽団のクラシック音楽がマッチして凄かったです。映画のプロジェクトとして、どんな点が一番面白かったですか?

監督:2点あります。まず、製作者として面白かったこととして、オーケストラありきの映画で、オーケストラから委託された点が、これまでと違うということがあります。有名な楽団で、日本でも公演中ですが、これまでにも面白いコラボレーションの実績があります。もう一つ、これまで山の映画を作ってきたけれど、語りきれなかったところを描けるのではと思いました。

― この作品にかかわって、新しい発見はありましたか?

監督:学んだのは、どの映画とも違うこと。コラボレーションすることで、ユニークな作品になりました。作る過程で、譲り合うこと、障害を乗り越えて、すべての力を合わせて出来上がって、お互いに対する敬意もわきました。


◆山は自分のいるべき場所
― 私は山が好きで、日本の山々をあちこち登りました。北アルプスと呼ばれる(長野県と岐阜県、富山県にある)山々が好きで、何度も登りました。なかでも鹿島槍ガ岳という山が好きで、この山の写真を撮るため、長野県大町市と白馬村(長野オリンピックが行われた)に5年近く住み込みしながら撮影をしていました。その後、それをまとめた写真展を八方尾根の頂上にある唐松山荘で開催しました。監督が山好きになり、山の映像をたくさん撮ってきた原点は?

監督:ニュージーランドの山から始めました。オーストラリアには、あまり高い山がありませんので。映画作りの仲間から誘われて映像を撮りにいったのですが、体質が高所に向いていて、自分のいるべき場所と感じました。限界に挑戦できて、山には面白い物語があると思いました。
また、私は女性ですので、映画の世界には少ない女性ならではの視点で撮れると思いました。

― 女性の視点での山のドキュメンタリーは珍しいと心強く思いました。

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インタビュー光景


◆人と山の関係の変遷を描きたかった
― 山岳スポーツの映画を作る上で、山をテーマにして一番考えたことは?
また、プロセスの中で何か変化はありましたか?


監督:こういう作品にしたいというビジョンは、人と山の係わり方の変遷でした。イギリス人作家ロバート・マクファーレンの著書『Mountains of the Mind』から刺激を貰いました。山を崇めていたのが、登るようになったという流れになり、さらに登るだけでなく、エクストリームスポーツにまでなりました。短い間に、人間と山の関係が変わっていきました。これを作品の流れにしたいと思いました。人間ここまで来たけれど、原点に戻ろうよという意味で、最後、山がいかに生まれたのかを表わすのに火山のシーンを入れました。火山のシーンは、当初、冒頭に持ってきたのですが、あえて最後にしました。山という自然を忘れてはならないという思いを込めました。


◆地名はあえて入れなかった
― 山は恐れ多く、敬う対象であったことが、時折差し込まれるチベット僧の姿から感じることができました。 山の映像もですが、チベット僧も、どこの地域なのか、ナレーションで語られることから類推できるものもありましたが、できれば映画を観ながら、ちゃんと知りたいと思いました。
あえて、地名を文字で入れなかったのでしょうか?

監督:僧侶の祈りの場面は、ネパール、カトマンドゥの寺院で撮りました。あえて地名を入れなかったのは、一箇所で撮っている場面だけでなく、ジャンプなど切り替えしの多い場面があるので、いちいち文字を入れると落ち着かないと思って入れませんでした。
最後にどこで撮ったかクレジットを入れています。実は、日本の地名を入れ忘れてしまいました。ゴメンナサイ。


◆用途にあわせ3つのバージョンを製作
― 映画版とコンサート・ツアー・バージョン、それにMAX版を製作されていますが、それぞれどのように違うのでしょうか?  

監督:コンサート・ツアー・バージョンは、生演奏を邪魔しないように作っています。バイオリンのソロの時には、場面がかぶらないよう、20%映像を削除しました。ナレーションも、ずらしたりしました。
ベートーベンのバイオリン協奏曲『皇帝』で、もう1楽章あるのですが。その場面では演奏のみにして映像は真っ暗にしています。
I MAXは上映が博物館や教育目的なので、科学的解説を入れたものを作っています。

◆北海道ニセコでの合宿
― 日本での撮影でインスピレーションを受けた点は?

監督:音楽監督のリチャード・トネッティは、毎年1月にニセコでスキーを楽しんでいます。日頃時間を取るのが結構難しいので、皆でニセコに来ないかといわれ、皆が集まりました。ラフカットを見ながら、意見を交換して、変更をしたり、新しい音楽を作ってもらったり、ナレーションをどう入れるかを考えました。行く前にはどういう結果になるかわからなかったのですが、スキーを楽しみながら、10日間位、皆で夜遅くまでとことん話し合って充実した合宿になりました。
去年の1月、とてもよかったので、今年の1月、また家族でニセコに来て1週間滞在しました。

― 私は初めて行った外国がオーストラリアでした。監督は、北海道、東京、京都にはいらしたそうですが、北アルプスや白馬も素晴らしいので、ぜひいらしてみてください。

監督:ぜひ! オーストラリアからも近いですし!

◆貴重なアーカイブ映像も利用できた
― 撮影監督のレオンさんのツテで素晴らしい映像が集まったそうですが、ご自身でこの映画の為に撮った部分は? また、集める上でのご苦労は?

監督:前作『Sherpa』を撮ったとき、すでにこの作品の話があったので、その時にも一緒に組んだ撮影監督のレオンさんと相談しました。彼がかつて撮ったアーカイブもオープンしてくれましたし、彼の友人からも映像を提供してもらいました。ニセコなどで新たに撮影もしています。ニセコで話して、もっと欲しいシーンも相談して撮ったり、知り合いに声をかけて映像を貰ったりしました。おかげさまでリアルな登山家の姿を映画に出すことができました。すべてを新たに撮ったとしたら、5年も10年もかかってしまうところでした。ベストな形として、撮り下ろしたものと既存の映像を組み合わせました。


◆いつか親しいシェルパとヒマラヤに!
― 冒険や危険な場面があってびっくりしました。

監督:人によって脳の構造が違います。より大きな刺激を受けてないと生きている実感がわかない人がいます。これは許せないと思うのは、傲慢さや自己顕示欲。Youtubeの再生回数を競うようなことも。

― 監督が挑戦したいアクティビティは?

監督: もう無理! ロッククライミングは好きでしたが。 ヒマラヤの麓の村に親しいシェルパが住んでいますので、一緒にいつか登りたいという思いはあります。

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*取材を終えて*
私にとって山は観るもの。登山はお金を積まれても絶対したくないほど苦手です。 監督は、ロッククライミングもしたというほどの山好き。きゃしゃで繊細な風貌からは、山女のイメージはありませんでした。
最後に写真を撮りながら、「エベレスト、K2、カンチェンジュンガを、たまたま観たことがあります」とお伝えしたら、監督から「私もカンチェンジュンガを観るためにダージリンに行ったわ」の言葉が。
監督の前作『Sherpa』は、シェルパの方たちがヒマラヤ登山をサポート中に雪崩に巻き込まれて亡くなられたことを描いたドキュメンタリー。いつか友人のシェルパの方とヒマラヤに登りたいという監督の思いに、ヒマラヤを目指す人々を支えるシェルパの方々への深い愛情を感じました。(咲)

次から次へと出てくる、山や登山模様の映像。かなり難関の山々と登山の姿を撮ったのは、ほとんどが『MERU/メルー』で危険極まりない映像の数々を撮ったレナン・オズタークだという。あるいは彼の知り合いが撮影した映像を借りたものだという。そのくらいハイレベルの山の登山模様に釘付けだった。
めまぐるしく変わる登山模様や、高山からのスキーやボードによる命がけの滑降シーン。そして山に関連したアクロバットスポーツの数々に、こんなにも危険と隣り合わせのスポーツに挑む人たちの多さにびっくり。ただ、撮影場所(地名)がわからず、始めはイライラしてしまった。私がわかったのは5,6ヶ所だけだった。あるいは見たことあるけど、場所はわからないという場所も10ヶ所くらい。そんな状態で、最初はどこだろうと思いながら見ていたけど、半分すぎたあたりからは、ただその山に挑戦している人たちの姿だけを追っていた。
取材の時に、音楽監督のリチャード・トネッティさんが毎年1月、長期にニセコにスキーで滞在するので、それに合わせて編集はニセコで行ったと聞いて、またびっくり。でもとても良いアイデアだったかもと思った。

そして、今(2018年7月)、北海道旅行をしている私は、昨日(7月19日)ニセコに行った。35年ぶりくらいのニセコだったので、あまりの変わりように驚いたけど、冬は海外からのスキー客が多いのだという。それも主にオーストラリアからのスキー客が多いと地元の人は言っていた。
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そんな中にジェニファー・ピードン監督もいたのだなと思いながら、車でニセコヒラフを回ったら、監督のお気に入りの店という、ふじ鮨と登山軒を見つけた。登山軒でラーメンを食べようと思ったけどやっていなかった。夏はやっていないのか、あるいは7月20日すぎからオープンなのかも。
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ふじ鮨はみつけたけど、車のなかから写真を撮って通過した。だけどこのふじ鮨は、35年くらい前、私が車で北海道を回った時、積丹半島の美国というところで偶然入った鮨屋で、それまで食べた寿司の中で一番おいしかったと感じた店だった。そのニセコ店だった。この後、小樽に出た私がふじ鮨小樽店に行ったのは自明の理だった(笑)。(暁)

    取材:景山咲子(文) 宮崎暁美(写真)



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