宮尾俊太郎《ロメオとジュリエット》トークイベント

8月25日(土)"METライブビューイング アンコール上映2018″開催中の東劇にて、《ロメオとジュリエット》上映前に宮尾俊太郎さんスペシャルトークイベントがありました。
 登壇者:宮尾俊太郎(Kバレエカンパニー プリンシパル) 
 司会:朝岡聡(フリーアナウンサー)
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☆宮尾俊太郎プロフィール☆
北海道生まれ。14歳よりバレエを始め、2001年に元パリ・オペラ座エトワールのモニク・ルディエールに見いだされ、フランス カンヌ・ロゼラハイタワーに留学。在学中にカンヌ・ジュヌ・バレエのツアーに参加する。2004年10月Kバレエ カンパニーに入団。『ドン・キホーテ』のバジル役で主演デビュー後、『白鳥の湖』『シンデレラ』『ロミオとジュリエット』『くるみ割り人形』『ジゼル』『海賊』『カルメン』などの主要作品で主演を担う。2015年よりプリンシパルを務める。TVドラマや映画、CMへの出演、ミュージカル出演など、バレエダンサーの枠にとらわれず、様々なメディアで活動の場を広げている。(資料より)


ー「ロメオとジュリエット」のオペラはフランスの作曲家が書いていて、ジュリエットは、ロシアのアンナ・ネトレプコという今世界中で一番人気のある人です。東劇の上のほうのアンコール上映(10月5日まで)の看板に出ている女性です。ロメオはロベルト・アラーニャ、マルセイユ出身のフランス人。共に大スター・歌手でございます。これはラブストーリーの中でも1,2を争う名作。宮尾さんは、いろんな場面を踊るわけですが、一番好きな場面はどこですか?

宮尾 有名なバルコニーのシーンはもちろん踊っていて酔いしれるんですけれども、一番気を使うのは最後の死ぬシーンですね。バレエはセリフがないので、自分の身体表現プラスオーケストラの音なんです。その音が相手を思う気持ちに聞こえたり・・・聞かせなきゃいけないわけですよ。そのへんがラストシーンになるにつれて繊細になっていくなぁと思います。

ーみなさん、まさか「ロメオとジュリエット」を知らないっていう人はいらっしゃらないですよね?

宮尾 いらっしゃいます?

ーいや、言えませんよw。宮尾さんの前で知らないなんて死んでも言えませんよ。w
シェークスピアの書いた物語です。基本的なところを申し上げておくと、舞台は北イタリアのベローナという町。ここにモンターギュ家とキャピュレット家という二つの家があって、ものすごく仲が悪い!それぞれの御曹司ロメオとお嬢さんのジュリエット。これが恋に落ちる、だけども上手くいかない。いいですか、みなさん。オペラってのはラブストーリーですが、決してうまくいかない。


宮尾 バレエもそうです。決してうまくいかない。そして誰か死ぬ、というw

ーこれはね。自分が恋するときには何にも問題がない、ハッピーなのがいい。わかったとたん両思いでお互いの家族も友だちも「良かったねー」という。めでたしめでたし。ところが、人の恋を見たり聞いたりするときはそうじゃない!人間というのは。うまくいかない、どーしてー?ひどーい!うっそー!ww これみなさん大好きだと思うんです。なぜならその方が面白いから。だから源氏物語だって、失楽園だってみんなうまくいかない恋物語ばっかりじゃないですか。

宮尾 普段お客様、みなさんが、そこまで私体験できないっていうのを代弁して、その気持ちを感じていただくっていう。
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ーさっき宮尾さんがおっしゃったバルコニーのシーンは、ロメオがジュリエットの屋敷に忍び込んでいく。ジュリエットが「なぜあの方はうちと仲が悪いモンターギュ家の方なの。その名前を捨ててほしいわ~」と独り言を言っているのを聞いて、ロメオは感激するわけです。それをどうバレエで?振り付けは決まっているんでしょうけど。

宮尾 そのセリフがお客様に聞こえてくるように、心の中でそのセリフを言いながら踊っています。16歳と14歳の若い男女の愛が止まらなくなっていく勢いと、その初々しさを大事にしています。

ーバレエって手の使い方が大事ですよね。「好きだ~~~」(と手を伸ばす)ww スピードとか。

宮尾 ありますね。最初初々しさを出すためには(手のふりをつけて)「好きって言えない」とか、「好き、あ、言っちゃった」とかいろいろあります。w

ーねぇ。これはオペラの歌手もそう。歌手だけじゃなく、俳優、女優ですから。だから動きがとても大事なんです。バルコニーの2人が語らっているときに、どんな動きをしてどんな表情をしているかというのも見所なんです。

宮尾 それでびっくりしたんですよ。先にDVDで見せていただいたんですが、オペラの方がシュッとされている。体格が大きいイメージだったんです。そんなに大きくない、そして、すごくよく動く!戦うシーンなんかも信じられないくらい動いていて、よくあれで息が切れない!僕もこの前初めてミュージカルに出させていただいたのでわかるんですが、あんなに激しく戦って息が切れないというのにびっくりしました。

ーとにかく動くんですよね。主役の2人もそうですが、仲の悪い両家が戦うシーンで脇の人たちが計算された動きで、戦い抜いていくんです。ここはうなっちゃうんですよね。

宮尾 今までオペラっていうのはそんなに動かないイメージだったんですけど、最近はこういうふうになってきて新しい迫力のある現代的な演出をされていて、そのうちダンサーなみに踊れるオペラ歌手が出てくるんじゃないかな、って思っちゃうんですよ。

ーほんとにね、昔みたいにばーんっと太った人が「私はもうすぐ死んでしまう」って言うんじゃなくw、美しい人が主役をするようになってきてる。棒立ちでなんて歌いません。この第4幕でロメオとジュリエットが、ベッドに入るシーンがあります。このベッドがね、宙に浮いてる。星空に浮いているようなベッドの上で愛し合いながら二重唱を歌っているんです。幻想的なまさに2人だけの世界って感じで。ベッドで見事に歌っているんです。
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宮尾 すごいですよね。ほんとに。落ちないか心配でしたけど。wとても甘美で美しいですよね~。シュッとされてるオペラ歌手の方は、この映画で「寄り」(アップ)になっても美しいんです。それを大きな画面で見て、とってもいいなと思いました。

ーライブビューングは高音質、高画質が売り物ですので、音楽はもちろん素晴らしい音で聞こえてきますけれども、今宮尾さんがおっしゃったように、アップになったりアングルが変わったりしたときに、実にいろんな演技や表情が見えてくる。リアルにわかります。
今日は5幕ありますけど、どの画面も画面に吸い込まれるように感じられると思います。それから、幕間(まくあい)に、インタビューがあるんですよ。


宮尾 あれも面白かったですねぇ。演じている人が戻ったらカメラがあって、みなさん嫌な顔ひとつせずてきぱきと応えていらっしゃって。あればっかりはこういったライブビューイングでないと見られないですよね。

ー普通は幕が閉まるとどんなふうに休んでるのかしら?と思うんですけど、さすがにスター歌手というのは「ハァーイ!」なんて言ってw またインタビュアーが歌手だからいいんですよね?

宮尾 そうですね。仲間ですから気持ちわかっていますから。

ーだから宮尾さんがね、終わった後に熊川(哲也)さんが出てきて、「今日どうだった?」なんて聞いたら?

宮尾 (明るく)「いや最高ですね!!」ってwww

ーこのインタビューは、ライブビューイングの売り物の一つ。登場した人たちの本音がすぐその場で聞ける、という。
「ロメオとジュリエット」の話に戻りますが、仲の悪い両家なのに恋に落ちた2人、ロメオがちょっとした諍いがもとで、ジュリエットの従兄弟を殺してしまう。それで追放になってしまうわけです。2人は結婚したいけど、ジュリエットには親の決めた婚約者がいる。神父に相談すると、薬をくれるんですね。一日だけ仮死状態になるけれどお墓で目覚めるから、日本みたいに火葬じゃないから、そうしたら2人で遠くへ逃げなさいと。ところが、こんな大事なことがなぜかロメオに伝わらない。


宮尾 携帯電話とかないですからねえ。w 

ーそ、メールもできない電話できない。で、仮死状態になっているジュリエットを見て、ロメオは「もう生きていけないー!」と毒を飲んでしまう。こっちは本物の毒で、効いてきてるときにジュリエットが目覚めて、毒を飲んでしまったといって死んでいくロメオに私も生きていけない!とグサッ。これがさっき言った死んで行くシーンのオーラス。死んだときって、動かなくなったらいい、ってもんじゃないですよね。

宮尾 いや、死んだ後は動かないんですwww 死ぬまでは動いてます。
真面目な話をしていいですか? 「ロメオとジュリエット」ってずっとどの時代でも愛されてきましたけど、人々の争いが消えないかぎり、この作品は愛されるていくんじゃないかと。争いがあるからこそ愛が浮き立って見えるので、そこにみなさんが感情移入できるところがある。争いがもしなかったらこの話はつながらなくなるんじゃないかなって思っちゃったんですけど。どう思います?

ーそれをいうならね、人間は恋愛が大好きなんですよ。一回愛して懲りた、もうしないとかよく言うでしょ?でもまた恋しちゃうんですよ。人間の世の中から、愛も恋も一回でOKってみんな思っちゃったら、バレエもオペラもなくなっちゃう気がするんです。

宮尾 最近厳しくなってきている浮気とかもそういったものもドラマの一つ?

ーまあ、それをしろってことじゃないんですよ。現実世界では、「愛のために死ぬ」ってことは普通できないのよ。どんなに相手のことが好きになっても、簡単には死ねない。だけど、頭の中では「愛のために死ねたらいいなぁ」とは思ってるんですよ。

宮尾 「愛のために死にたい!」という気持ちは、いつも自分でも持っています。
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ーそれをね、実現するのがバレエであり、オペラじゃないかって私思っているんですよ。疑似体験という。「ロメオとジュリエット」には、ドンピシャリ「愛と死」というテーマが入っている。音楽でも、演技でも、バレエでもしみじみ納得させてくれるんですよね。

宮尾 ほんとそうですよねぇ。いつも、舞台上でそういう愛のために死んでいるので、日常は抜け殻のようになっていますww

ー演じるってことに、それだけエネルギーは必要だってことだと思う。

宮尾 演者さんによってはその引き出しを増やすために、私生活もその近い状態にもっていくみたいな方もいますからね。

ーええー!精神状態を? 役作りというか、気持ちを作って盛り上げていくために?
今度10月に宮尾さんがおやりになる「ロメオとジュリエット」は、旧ソビエト時代の有名な作曲家プロコフィエフのですね。いろんな作曲家が心をとらえられて、オペラやオーケストラのために書いています。今日のオペラはグノーですが、プロコフィエフとの違いは?


宮尾 説明が難しいですけど、違いますね。先日仕入れた情報によると、プロコフィエフさんはアメリカに行って新しい技法を仕入れてソビエトに戻ったんですが、共産主義のもと自由に曲を書けない。実はアメリカで得た新しい技法を曲の中に入れていると聞きました。

ープロコフィエフは20世紀の作曲家ですからね。(宮尾 グノーさんは?)グノーは19世紀の真ん中あたりの人です。当時のフランスはとても華やかな時代。オペラの規模も大きくて、その中にバレエが入っていて一緒に楽しむ時代の作品なんです。ロートレックたちが描いた絵がありますよね。ああいう風な紳士淑女がパリのオペラ座に行って社交するわけですよ。すごく立派な建物で、中に入ると立派な階段があって、ホワイエ、ロビーが広い。イタリアの昔の劇場は玄関に入るとすぐ客席になっちゃう。フランスのガルニエ宮とオペラ座は世界で初めて鉄骨作りで作られたので大きいんです。休憩時間にボックス席から出てきてホワイエでお酒を飲んだり話したり、というのはオペラ座ができてから初めて始まったんですよ。

宮尾 シャンパンと生ハムとか。

ーさきほどDVDの感想を伺いましたが、そのほかに印象に残ったところは?

宮尾 セットですね。星座を意識して作っているセットと、現代的というんでしょうか、お洒落で豪華。これは凄いなと思いました。

ー衣装はたしかにクラッシクな感じなんですけど、回る舞台がちょっと斜めに傾いていたり、遠近法をうまく使った背景だったり後ですよね。

宮尾 そのあたり細かく“寄り”で見ていただけたら、楽しめると思います。

ーバレエの場合は舞台から正面で見るでしょ。(宮尾 そうです)オペラの舞台はセットに凹凸があったりするのが違いますね。

宮尾 バレエは舞台上でナチュラルな動きっていうのは少なく、バレエの基本に基づいた動きをしますので、あまり段差があったりするとそこから外れてしまう場合があります。ところがこの作品の戦い場面なんかは、みなさんが飛び上がったり飛び降りたりしています。

ー戦いの場面でロメオが向こうの御曹司(ジュリエットのいとこ)を殺してしまうんですが、ああいうところ迫力があって、日本の殺陣によく似た計算された動きの中でやっているんですね。

宮尾 けっこう本気で剣をふりまわしていて、リアリティがありました。

ーライブビューイングは1ヶ月くらい前に上演したものを鮮度そのままに高音質・高画質で見られるんですけど、さっき宮尾さんがおっしゃたポイントや、アップになったりアングルが変わったり、幕間のインタビューがあったり、見所がたくさんです。アンコール上映は10月5日まで、11月から新しいシーズンが始まり、その一番目が「アイーダ」です。今日ご覧になったアンナ・ネトレプコのジュリエットは10年前、アイーダのアンナが10年後。すっかり貫禄がついて。w バレエのプリンシパルも変わっていくことがありますか?

宮尾 あります。20代前半は勢いがあって、テクニックに走り勝ちですが、30代に入ってくると深みが出てきます。

ー声も同じ。若いうちは軽やかで、だんだん充実、重厚になってくる。アンナ・ネトレプコが歌う「私は夢に生きたい」という有名なワルツがあるんですけど、それが10年前。10年後は「アイーダ」を歌っている。どんな風に歌っているかは、11月にご覧下さい。

宮尾 いいですね。でも10年後は42歳です。引退している可能性が・・・重厚な踊りが踊れるようになって、僕もライブビューイングしていただけてるといいですが。

ー引退はまだまだ。バレエももちろんですが、俳優もなさっていますし、いろんな充実したフィールドに拡がっていくと思っています。

宮尾 そうですね。僕もミュージカルでもバレエでも「ロメオとジュリエット」やらせていただきました。後はオペラですね。www

ーそんな風にみなさまのモチベーションを刺激する「ロメオとジュリエット」でございます。どうぞお楽しみください。どうもありがとうございました。

宮尾 ありがとうございました。
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(取材・写真 白石映子)

グノー《ロメオとジュリエット》
上映時間:3時間28分
指揮:プラシド・ドミンゴ
演出:ギイ・ヨーステン
出演:アンナ・ネトレプコ、ロベルト・アラーニャ
(MET上演日:2007年12月15日)
配給:松竹 (c)松竹
https://www.shochiku.co.jp/met/news/956/

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配給:松竹 (c)松竹

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