武田梨奈さんインタビュー

『殺る女』
『ボクはボク、クジラはクジラで泳いでいる。』
武田梨奈さんインタビュー


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『殺る女』ストーリー
幼いころに両親を殺された愛子(知英)は、復讐のために殺し屋になった。手がかりは犯人の腕に見えた蠍のタトゥーだけ。一方加賀俊介(駿河太郎)と二人孤児院で育った由乃(武田梨奈)は看護師として働き、同僚の医師を想っている。俊介が昔の仲間に悪事を強要されたことから、娘のカナと由乃は事件に巻き込まれていく。
http://yaruonna.com/
完成披露試写会舞台挨拶リンク
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/462149176.html

『ボクはボク、クジラはクジラで泳いでいる。』ストーリー
和歌山県の「太地町立クジラ博物館」で働く鯨岡太一(矢野聖人)はクジラを愛する純朴な青年。「クジラすげー!」という自分の気持ちをみんなにも感じてほしいと思っている。来場者が減っていく今の状況を変えようと、館長は太一を飼育員のリーダーに任命する。係員がやめて、東京の水族館からピンチヒッターに白石唯(武田梨奈)がやってきて、太一と学芸員の望美(岡本玲)と同じ宿舎に入った。3人は次第に意気投合して、博物館を盛り上げるためにイベントを計画する。
http://bokujira.com/
©2018 「ボクはボク、クジラはクジラで泳いでいる。」製作委員会
★2018年11月3日(金)より全国順次公開


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『殺る女』での由乃さんは「情念の女」という感じがしました。これまでになかったタイプの役で、梨奈さん本人とずいぶん遠い気がするんですが、どんなふうに役作りをされたのでしょうか?

今回私の撮影日は3、4日しかなかったんです。撮影前に監督と役柄についてそんなに深く話す時間がないうちに、クランクインという形でしたので、自分の中で感情を追い込むようにしました。というのは、私の演じる由乃はバックボーンが描かれていません。闇を抱えている女の子として登場するものですから、どうやって表現すれば伝えられるのかと、すごく考えながらやらせていただきました。

-ポイントはどこでしたか?

この由乃さんは感情を表に出しません。いろいろなトラウマだったり、人への信頼感や恐怖感、いろんなものがきっともう切れそうになっている。無感情で生きている子なんだろうと、それを表現しようと思いました。

-先日の完成披露の舞台挨拶では、ジヨンさんとは撮影では会うことなく、その日に初めて会ったとおっしゃっていましたね。宮野監督と兄役の駿河太郎さんとも初めてのお仕事ですね。

知英(ジヨン)さんとはそうなんです。宮野監督と駿河さんには以前ロサンゼルスの日本映画祭でお会いしています。最終日授賞式後のパーティで「これもご縁なので日本に帰ったら一緒にお仕事しましょう」と話していた矢先、このお話が来てびっくりしました。

-アメリカで出会ったご縁が今回の作品に繋がったんですね。梨奈さんからぜひこの作品のアピールをお願いします。

観終わった後に、気持ちよくなる作品ではありません。どっと、胸に来る作品です。女性が過去にトラウマを持っていて、その復讐をしていくという韓国映画にはけっこうあると思いますが、日本映画にはなかなかないタイプの作品です。こういう作品こそ映画館で観ることで、伝わり方が変わってくると思います。ぜひ映画館で!

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-ありがとうございます。ではここから全く違う『ボクはボク、クジラはクジラで泳いでいる。』のほうへ。
こちらではクジラの調教師というとても珍しい役柄です。映画の中でヴィータの担当者に「私は3ヶ月かかりました」と言われています。短期間でどんな準備をなさいましたか?


まずクジラとのふれあいかたから。サインの出しかたを完璧に覚えたからといって、技をしてくれるわけではないんです。一番大切だと思ったのは、「意思の疎通」です。たぶん馬とかも一緒だと思うんです。命令や指示を出すだけではなく、ちゃんと目を見て伝えないといけない。いくら私が練習したところで、応えてもらえないとショーは成立しない、それをわりと早い段階で気づき、教えていただきました。いかにヴィータと心を通わせて仲良くなれるかを考えました。撮影に入る前に3,4日間博物館で合宿して、東京に戻ってからは泳ぎやサインの練習、イメージトレーニングを何度もしました。

-ヴィータと仲良くなれたという瞬間はわかるものですか?

すごくわかりました。初めは目も合わせてくれませんし、指示通りにいかないことも。
映画の中の「世界一ダメなトレーナーだね」というのと同じ感情になったときに、実際の飼育員の方からアドバイスをいただきました。
「武田さんが弱気で不安がっているから、ヴィータも不安がっています。もっと自信を持って、『ヴィータやるよ!』って活を入れてあげないと」と言われました。そうなのかなと自分に活を入れなおして、気持ちを変えてやったら一気に変わりました。人間対クジラという目線でやっていた自分がダメだったんだなぁって。生きもの対生きものなんだとすごく感じました。

-わあ、いいですね。Instagramで見ましたが、猫と犬を飼っていらっしゃいますよね。いつも身近にいるペットにはそういう風に考えないですよね。

見て下さってありがとうございます。ペットはいつも一緒にいるのでなんとなくわかります。怒ってるとか、機嫌悪いとか。

-クジラの手ざわりが「濡れたナス」みたいと岡本玲さんが映画の中で歌っていますね。そうでしたか?

ほんとに「濡れたナス」みたいにツルツルでした。そしてちょっと暖かい。

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-いるかと一緒に泳ぐとヒーリング効果があると聞きました。梨奈さんもずっとクジラと一緒の撮影で、たくさん癒されて元気になったんじゃないでしょうか?

そうなんですか? 不思議なのは、撮影前に合宿をしたとき毎晩クジラの夢を観ていました。ずっと一緒にヴィータと泳いでいる夢を見るんですよ。現実か夢かわからなくて、パッと目が覚めて「あ、夢か」と、あれは何だったんだろう?

-鯨井太一くんみたいですね(笑)。ヴィータが近づいてきてくれたのかも。

そうかもしれないです。ロケが終わってからも、ちょこちょこ夢に出てきます。
今回の撮影で、クジラへの思いがいっきに変わりました。合宿できたのがすごく大きかったです。

-撮影はいつごろでしたか?

10月中旬ころで、台風が2回あたったんです。何回も撮影中止になり、けっこう危機感ありました。
撮影をずらしたり、入れ替えたり変更は何回かありましたが延期にはなりませんでした。合宿のほかに、ロケは2週間くらいだったと思います。

-生きもの相手の撮影は大変でしたでしょう?ヴィータたちの機嫌次第では撮れなかったこともありましたか?

気性の荒いクジラが機嫌が悪くなると放棄しちゃうんです。しかも、クジラって団体行動するので、1匹が暴れちゃうと他のクジラにも連鎖します。ヴィータもいつもと違う声を出したりして、そういう時は一度ストップしてクジラ達が落ち着くのを待ちました。

-台風のせいで機嫌が悪くなるのかしら?

台風のせいもあったかもしれないし、今までと違う環境っていうのもあったと思います。ロケが入って、飼育員に替わって私たちがなったわけですし。これまでドキュメンタリー撮影はあっても、映画でというのは初めてみたいです。
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-大変だったんですね。では、藤原知之監督や共演の方々とのお話を。

矢野君も岡本玲ちゃんも同い年だったんです。同い年の人との共演ってあまりなかったので、逆に緊張してしまって・・・どうやってどの距離で話したらいいか、たぶんお互いが感じていたと思います。
最初は役に集中しなくてはいけないということもあって、あんまり深い会話もせず。泊まっていたホテルの目の前にラーメン屋さんの屋台があったんです。撮影終わりに一杯飲みながら「明日もがんばろうね」っていうのを何度かやっていくうちに自然と距離が縮まりました。

-映画の中ではすぐ下の名前で呼び合っていましたね。仕事場でそう呼ぶとは、時代は変わったと思っていましたが、実際そうはならなかったですか?

玲ちゃん、梨奈ちゃん、矢野君。ちゃん、君づけでした。

-若い人たちだからまたどこかで会う機会があるでしょうね。藤原監督は細かく演出されるかたですか?

細かくっていうのではなく、お互いに相談し合える感じでした。監督は「こう思うんだけど、どう思う?」というタイプですし、最初の私には共演の方たちよりも役や作品について監督が一番近い距離で一番話せた存在でした。
私はこの映画が「ただの青春映画じゃない」ということを監督に伝えました。そしたら監督も同じように感じていて、一緒にやっていこうと言ってくださったので、心強かったです。
クジラを題材にするっていうことは、私の中で一番壁になっていました。いろんな作品、例えば『ザ・コーブ』とか『ビハインド・ザ・コーブ』とか、クジラをテーマにした作品があります。賛成派、反対派ってものすごく極端に分かれてしまう。社会的に問題になっていることでもあるので、この作品を「ただの青春映画」におさめることもよくないなって思います。そこを最初悩みました。

-反対運動についての知識をきちんと持ってから作品に入られたんですね。

はい、ほかのドキュメンタリーも観ました。反対派の方たちの意見もちゃんと自分で知っておかなきゃ、と思いました。でもそういう方たちにも観ていただけたらな、って思います。考えは変わらないのかもしれませんが、その中でも正解はないなというのをこの映画では描いています。

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-学芸員の望美ちゃんが一生懸命説明していました。お互いの文化をまず知って理解していくことが大事という、ただ楽しいだけじゃなく、宿題もある作品ですね。
矢野くんの演じる鯨岡太一くんですが、「さかなクン」キャラですよね。脚本はさかなクンを想定して書かれたんでしょうか?


どうなんでしょう(笑)。本読みのときは「もっと落ち着いたまじめな男の子」風に読んでいたんですけど、「クジラ馬鹿」って言われるくらいの男の子なのでもうちょっと極端に、でもぶっとんでる変な子には思われないように、とお話がありました。たぶん本人は役作りに悩んだかと思います。やっぱり中心に立って周りを巻き込む力のあるキャラだったので。けれど本人は周りに言わないで考えるタイプなんです。

-ちょっと矢野君にも聞いてみたくなりました。

私も聞きたいです。役作りどういう感じだったのか。

-太一くんは熱いけど、共感できるキャラになっていました。最後はちょっとしんみりして、これはロマンスにはいかないのか?と。

そこも監督が。私は「これはどっちなんですか?ギュってするのはラブが入っているのか、友情、仲間としてのハグなのか?」って聞いたんですが、「そこはあえて形にしないで」と仰っていたので、観てくださった皆さんの感想を聞きたいです。

-なんたって梨奈さん男前すぎる!(笑)さかなクンとハイキック・ガール(ちゃんとそんな場面あります)じゃね(笑)。最初に唯(梨奈)さんが太地に出向してくるというときに、背景をあまり説明しませんよね。富樫館長を呼び捨てにするし、態度は大きいしで、何かワケアリの人かと思っていました。

単に「東京からやってきたプライド」を持っていて、「なめられたくない」っていう気持ちでクジラ博物館に来た子なんです。

-出向して来るときの歩き方と、東京に帰って行くときの歩き方が違うんですよね。

あ、すごい。すっごく嬉しい!自分の中では変えていたのでそれを観てくださって。

-ちゃんと気持ちが出ていましたよ。「なんなのよ、ここ」とハイヒールでカッカッと歩くのと、戻るときの後ろ髪ひかれつつ新しい決意をするところ、その間の流れた時間もちゃんと乗っていました。

洋服や靴も替えているんです。ありがとうございます。

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-読みが合っていて良かったです(笑)。この辺で新作以外のことを聞いてもいいですか?(宣伝さんへ)
じゃあ始まりのほうへ戻らせていただいて。
「ジャッキー・チェンに憧れている」と前に知ったんですけれど、今も変わりませんか?


変わらないです(きっぱり)。たぶん5歳くらいから映画を観ています。父がジャッキーファンでしたので。

-お父さんは空手の先生でしたね。梨奈さんはやれといわれたわけでなく?

じゃないです。逆に父が負けた試合を観て、くやしくて仇討ちに始めて(笑)。それが10歳のときです。
その前、6歳のころからオーディションを受けていたんです。俳優になりたくてもう何でも受けました。オーディション雑誌を買ってきて。

-対象になるものにはみんな?

そうです。映画に出るために何をしたらいいかわからなかったので、映画には関係ないものまで応募して、とにかくいろんなジャンルのオーディションを受けていました。たとえば「モーニング娘の妹分募集」とか。それに受かった人は映画デビューもできます、というので。妹分にはなれなかったです(笑)。

-でも、受かってたらまた別の道に行っていましたよね。

そうですね、今はなかったですね。今が一番いいです。

-一番いい選択をしてこられたんだと私も思います。でないと今日会えませんでしたし、良かったです(笑)。

ありがとうございます。今の事務所も2回落ちているんです。オーディションは小学生のときから受けてきて、正確な数字はわからないですけど、たぶん300回くらい落ちています。
「もうどうしよう、誰も見てくれないな」と思ったときに、『ハイキック・ガール!』のお話をいただいたんです。たまたま監督が「空手・少女」とか「女優」とかを調べたときに私のブログにヒットして、「特技は空手です。将来は女優として活動したいです。映画が好きです」と書いていたのにコメントをくださった。「今度空手をやる女の子の話をやるので、オーディションに参加してみませんか」とあったので、父に相談して一緒についてきてもらって。それで決まったのが『ハイキック・ガール!』なんです。16歳でした。

-それがなかったら「今の梨奈さんはない」ですね!お父さんも映画に参加されたそうですが、いったいどこにいらしたのでしょう?

ほんとに蹴られてふっ飛ぶ役です(笑)。道場での練習を監督が観て「ここまで身体の大きい男の人を殴れるのか・・・ちょっとお父さん、いいですか?」って(笑)。

-え、梨奈さんがお父さんをふっ飛ばしたんですか!(笑)

はい。次の日、「痛い~」って言ってました(笑)。でも日々稽古してここまでの強さならいける、とお互いの感覚を知っていたので。父だからできたというのはあります。

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-(宣伝さんのカンペが出る)わ、あと3分ですって!(笑)

早い!嘘~!喋り足りない。

-早いですよね。私も聞き足りない。またぜひ時間作ってください。
(まだ粘る)空手が一番お好きだと思うんですが、気分転換には何をしますか?


うーん、映画館に行くことですね。

-映画館!良かったわ。そこに話題が来て(笑)。

自分の中で切羽詰まったり、モチベーション上がらないなぁというときは、絶対に映画館に行きます。
ジャンル問わず、その時間帯に合うものを観たり、始まる1時間前からロビーに一人でずっといて気を落ち着かせたりします。予告編の音を聞いたり匂いを感じたり。観終わって出てくるお客さまの顔を観るのが好きです。またリセットしてがんばろうっていう気持ちになります。やっぱり自分の夢だった場所ですので。

-ほんとにそうですねえ。いいお話を伺ってここで〆たいところですが、最後に目指している俳優さん、目標など教えてください。

志保美悦子さんが尊敬する女優さんの一人です。日本でアクション女優というジャンルを作り上げた一人で、歴史を作ってくださった。私も今日本のアクション女優として、受け継ぐだけでなく志保美さんのように歴史を残したり、作ったりしていける人になりたいです。「アクションって言えば武田だよね」と言われたらとても嬉しいですし、「日本と海外の架け橋」になって、海外の方たちにも「日本のRINA TAKEDA」って言っていただけるようになりたい。それが将来の大きな夢です。

-きっと叶いますよ。いつでも応援にいきます!
ありがとうございました。


=インタビューを終えて=
『ハイキック・ガール!』の綺麗なハイキックを観て、第2の志保美悦子さんと期待していました。今回武田梨奈さんご本人からその志保美さんやジャッキー・チェンの名前が出て、嬉しくなりました。小さな頃からの女優志望で、何度オーディションに落ちても諦めず、夢を掴みました。
今回2本続けて出演作を観ましたので、全く違うキャラクターを演じているのが特に目に焼きつきました。『木屋町DARUMA』での親の借金返済のために堕ちていく女子高生役もすごい!『世界でいちばん長い写真』のきっぷの良い従姉役も良かった!いろいろ演じ分けられる女優さんになられたんだなと感慨深いです。海外とのコラボにも積極的な梨奈さんです。オンリーワンの女優として成長されていくのをずっと見守っていきたいです。怪我のないよう祈りつつ。

(まとめ・写真 白石映子)

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