完成披露試写会 舞台挨拶 2018年10月30日(火)
ーいよいよ本日お客様にお披露目のはこびとなりました。ゲストのみなさんに今のお気持ちとともにご挨拶を頂戴いたしたく思います。
太賀 みなさんこんばんは。主人公の歌川たいじ役を演じました太賀です。今日こんなにもたくさんのお客様の目にこの映画がふれて・・・えーと、緊張してきちゃいましたけど、ほんとに今日という日を迎えられて嬉しく思っています。少しでもこの映画がみなさまに伝わればいいなと思っています。どうか最後まで楽しんでいってください。今日はよろしくお願いします。
吉田 みなさんこんばんは。吉田羊です。今日はお集まりいただきましてありがとうございます。高いところから失礼いたします。今の私の最大の懸念は明日の写真は全部「鼻の穴」だろうなということです(笑)。怖いな。(太賀さんへ)ね?あご引いて喋らないと。(笑)
この作品は去年の3月に撮影しました。1年半ぶりにみなさまにやっとお披露目ができますので、ほんとに嬉しいです。と同時にすごくデリケートな題材なものですから、みなさまに私たちの伝えたい思いがきちんと伝わればいいな、と願うような気持ちでおります。短い時間ではございますが、最後までよろしくお願いいたします。
監督 みなさま 本当にようこそおいでくださいました(拍手)。ありがとうございます。
歌川たいじさんが痛みを引き受けてしたためた、人生のギフトのような原作を手にしてから5年が経ちます。こうして映画が完成してみなさんに見ていただけるのをほんとうに今日嬉しく思っております。歌川さんはこの映画の母のような人ですが、母はやはり心配で心配でしょうがなくて、僕とずっと目が合っているんですけど(笑)、壇上からのご紹介で恐縮ですが、歌川さん立っていただけますか?(客席で立たれた歌川さんに満場の拍手)よろしくお願いいたします。
ーそれではここでいろんなお話を伺ってまいります。今ご紹介にありましたように、この作品は歌川たいじさんのご自身の経験を綴った同名のコミックエッセイ、実話を元にした映画ということで、キャストのお二方は演じる上で、そして監督は演出する上で気にかけた点やご苦労なさった点などあったのではないかと思います。そのあたりからお聞かせいただけますか。
太賀 やっぱり歌川さんの実人生を演じるというのはやっぱり簡単なことではなくて、どれほどの思いで、歌川さん自身がこの原作を書き上げたのか、頭の下がる思いというか・・・傍から見たら壮絶な人生をされています。この物語の本質は悲しいできごとだけを描こうとしているのではなくて、その悲しみをどうやって乗り越えていくのかという、生きる上での力強さだったり人と人とが寄り添いあう喜びだったりが描かれているんです。僕が歌川たいじという役を演じる上で、実際に歌川さんが感じてこられた喜びも悲しみも一つとしてこぼすことなく、丁寧に演じたいなと、そういう思いでやりました。
ー実際に歌川さんにお会いになって、演じる上でのヒントなどありましたか?
太賀 歌川さんは毎日のように現場に応援しに来てくださって、手料理をふるまったりお菓子をスタッフのみなさんに差し入れしてくださったりして、献身的に現場を支えてくださいました。歌川さんと、作品についての深いコミニュケーションは意図してとることでもなくて、なんかこう他愛もない会話や、歌川さんの佇まいや表情を盗み見ては、演じるヒントにしていました。
ー映画の母でもあり、現場の母でもあったというところなんですね。吉田さんはいかがでしょうか?
吉田 実在のお母様でいらっしゃいますので、歌川さん本人から聞き取りをしまして、お母様に関するエピソードをいくつか聞かせていただいたんですけれども、聞けば聞くほどほんとにひどいお話ばっかりで、どうしてもお母様が虐待するにいたった思考回路が理解できなくて、どうしようかなって、この人どうやって演じたらいいのかなって思っていたんです。
でも、ひどい話ばっかりなのに最後に歌川さんが「でも一生懸命生きた人だったんです」って笑顔でおっしゃるんですよね。その歌川さんをみたときに「あ、そうか。この歌川さんの思いを私は伝えればいいんだ」と思って。私はその光子さんを「未熟なまま母親になることを強いられた人」だと認識しているんですけれども、私が未熟に演じれば演じるほど、逆説的に「それでも息子は母の愛を求めている。愛しているんだ」ということが色濃く伝わればいいなと、半ば願うような気持ちで演じました。
ーなかなか壮絶なシーンも多くあったかと思うんですけれども、乗り越えるのはたいへんでしたか?
吉田 そうですね。ただ、現場にいる太賀くんがたいじさんそのものだったんです。なので、太賀くんが演じるたいじさんに反応していけば、自然と感情ができていった。そういう意味ではほんとに太賀くんに助けられました。
ーそして監督は思いも強い分こだわりもあったかと思いますがいかがでしょう。
監督 こだわりじゃないですけれど。原作を読まれてる方もそうでない方もいらっしゃると思うんですけど、これから歌川さんの壮絶な過去をみなさん目の当たりにするんですね。
僕が原作を読んで一番心を打たれたのは、「人生は循環できる」っていうことだったんです。歌川さんの人生ほど壮絶でないにしても、この会場のみなさんそれぞれ振り返るのが辛くなるような記憶、かさぶたのまま放置しているような傷、生きていたら必ずひとつや二つ抱えているものだと思うんですよ。
それを最近定着してしまった「断捨離」のごとく切り捨ててしまったり、なかったことにしてしまうんではなくて・・・嬉しいことも悲しいことも全部自分を形成してきたものだから、今現在進行形で得られた友情や愛する人から得られた優しい気持ちを、かつて愛されなかった自分の意識に、自分の中で渡してあげることができる。人生は循環していくことができるんだ、僕はそのことを原作から大きな気づきとして得られて、今日よりも明日、明日よりも明後日とちょっと気分のいいものにしていくためのエネルギーになるんじゃないかな。それを映画にしたいと思ったんですね。
ですから今日は特別なお客様なので、いたるところで人生が循環する。映画を見終わった後に、幸せな円がくるりっと心の中に描かれるような印象をみなさんが感じてくれるといいなと思っています。いろんなところにまん丸なキーワードが隠されていますので、ぜひそれを楽しんでください。
ーそうですね、キャストのお二方が演じてらっしゃるこの親子関係ひとつとってもその中に様々な関係性、メッセージがこめられているかと思いますので、受け取っていただければと思います。
続いての質問に移る予定ではあったんですけれども。実はですね、太賀さんと吉田さんにはナイショにしていたことがございまして。主題歌「Seven seas journey」を歌っていらっしゃいますゴスペラーズのみなさんが今日この会場にお越しくださっています。
(太賀さんと吉田さん顔を見合わせる)
(会場は「え~!」「きゃ~!」の歓声と拍手)
ーそれではご登場いただきましょう。どうぞお入りください。ゴスペラーズのみなさんです。(拍手)
初対面でございます。
ゴ みなさん今晩は。ゴスペラーズです。ありがとうございます。(拍手)
太賀さん、吉田羊さん、そして御法川監督完成披露試写会おめでとうございます。と、今お話にあったとおり実はお三方と我々ゴスペラーズ今日が「はじめまして」ということで、この映画のために書き下ろしました「Seven seas journey」をみなさんへのプレゼントとしてここで歌わせていただきたいと思います。
ー素晴らしい!歌を披露していただけるということで。実は監督はご存知だったんですけど、おふたりにはナイショだったので、かなり驚かれていらっしゃいます。
太賀 なんで監督は知ってたんですか。(笑)
吉田 おかしいじゃないですか。(笑)
ゴ さっきから監督だけちらっとこっちを見るんですよ。見ないで下さいよ、ばれるじゃないですか。(笑)
吉田 思いもしませんでした。
ゴ はい、トイレも一時間前に済ませまして隠れていました。(笑)
ここで準備。監督、吉田さん、太賀さんは端へ移動。
ゴ では聞いていただきます。「Seven seas journey」
ゴスペラーズさん 主題歌「Seven seas journey」を披露
ー太賀さん吉田さんいかがでした? こうして歌声を聴いてみて。
太賀 やばかったです(笑)。いやなんかこんなに・・・なんだろう。完成披露試写会でこんな気持ちになったのは初めてです。ほんとになんか・・・素敵なものを見せていただいてほんとに嬉しかったです。ありがとうございました。感動しました。歌川さん、良かったですねー!
吉田 私もそう思ってたの。聞きながら。ほんとにね、歌ちゃんが(横を向く)、いやだほんと泣いちゃう。いろいろと歌ちゃんが・・・
監督 僕がちょっとだけ、羊さんが泣いてる間に。(ゴスペラーズへ)ほんとにありがとうございます。観客のみなさんにお伝えしたいんですけど、ゴスペラーズのみなさんは原作を読んで、脚本を読んで、編集した映画も見て、たくさん候補の歌詞や曲を作ってくれたんですよ。映画を拡げるために主題歌をというのはお約束でもあるんですけど、僕はこんなに愛情深く主題歌を作っていただいたことをほんとに光栄に思いながらとても感謝しています。ありがとうございました。(拍手)
ー吉田さん、何かおっしゃりたいことがあれば(笑)。
吉田 はい、落ち着きました。ほんとに歌ちゃんがね、お母さんの愛を諦めずに生き続けてこの本を書いたおかげで、こんなに素晴らしいギフトをいただけるんだということを、きっと歌ちゃんは今しみじみと感じているんだろうなと、歌ちゃんの気持ちになったら泣けてきました。
ーひとことだけぜひゴスペラーズのみなさんにも伺いたいんですけど、映画をご覧になっていかがでしたでしょう。
ゴ はい、この映画には愛すること、そして愛されることの両方が描かれています。どちらも決して一人ではできないことで、相手がいて誰かがいて初めてできることです。一人でできないことだからこその難しさもあるし、でもだからこその美しさもあるし。そんな思いをこめて我々ゴスペラーズも決して一人では歌えない歌い方で、歌わせていただいたのがほんとに光栄でした。ありがとうございました。みなさん、この映画を見終わった後にいろんな思いが胸に降りそそぐと思うんですけれども、そんな言葉にならない思い、それを形作るための道しるべにこの歌がなったら嬉しいなと思っております。ありがとうございました。(拍手)
ーありがとうございました。
ここからフォトセッション
ー最後にキャストのお二方と監督からもう一言
太賀 ほんとにこんなに素敵な完成披露試写会になって嬉しく思います。この作品がこれから先多くの人の目に触れることを祈りつつも・・・そうですね。見てもらう方にはそれぞれの受け取り方をしていただければと思うんですけれども、最終的にこの歌川たいじという役を少しでも愛おしく思っていただければ、もちろんお母さんもそうですし、出てくる登場人物がみな愛おしくて、愛されたらいいなと思いました。ほんとに今日はありがとうございました。よろしくお願いしますっ。(拍手)
吉田 この映画はほんとにデリケートな内容ですので、いろんな議論があると思います。私は、この映画でネグレクトの当事者を救うことはできないだろうとずっと思ってきましたし、様々な取材でもそう話してきました。けれどもあるつぶやきを見ていたら「予告で流れている“あんたなんか産まなきゃ良かった!”という台詞は私自身も母からずっと言われてきた。きっとこの映画を見るのは私には辛いことになると思う。けれども母と向き合いたいから、この映画を見ます」と書いてくださっている方がいて、「ああそうか」と。この映画は「当事者の背中を押す力もあるかもしれない」と思いなおしました。私は当事者のかたにもこの映画を見ていただきたいですし、そしてその周りの方々にもこういう見方もある、支えかたもあるんだな、というヒントにしていただけたら嬉しいなと思います。
愛し愛されたいと願っている親子の姿を通して、見終わった後もしかしたらぐぐっと考え込んでしまうかもしれないですけれど、この親子の間には確かに愛があったのだと感じていただければ。そして生きていればいろんな出逢いがあって、いつからでも人生はやりなおせるんだ、いくらでも人生を変えていけるんだと、小さな希望の光のようなものを感じていただけたら、我々が文字通り戦って作ったこの作品の意味があるかなと考えております。
今日この会場には、歌ちゃんご本人と、本作をご覧になればわかると思いますけれども、歌ちゃんに大きな影響を与えたキミツ、大将、カナちゃんというとても大切なお友達、モデルになった3人が会場にいらっしゃいます。どの人だったんだろうと探しながら、帰ってください。ヒントはマスク!(笑)というわけで映画を最後まで楽しんで帰ってください。本日はありがとうございました。(拍手)
監督 僕は今日みなさんに申し上げるとしたら、おおいに笑って泣いていただきたい。羊さんが出演された4回泣ける『コーヒーが冷めないうちに』、とっても素敵な映画で僕大好きです。泣ける映画ってね、意地悪な人が斜に構えていろいろ言うけれど、そんなに自由に生きられていないと思うんですよ。普段いつも空気を読みながら、自分の本当の気持ちを抑えこんで日々営んでいると思うんですね。せめて暗闇の中でスクリーンを見つめながらふだん抑えている喜怒哀楽を解放していただきたい。さっき太賀さんも言ってくださいましたけれど、ほんとに一人の人間が懸命に生きている姿のおかしみと愛おしさ。それを大いに笑っていただきたいし、愛おしさに涙を流していただきたい。自分の体の中にこんなに涙がたまっていたんだと知ることって絶対力に転じると思うんですね。ですから今日は暗闇になってしまいますと、隣にどんな方が座っていても恥ずかしくありませんので。
今月釜山映画祭に羊さんと歌川さんと行って、初めて上映に立ち会って来たんですけれど、そのときはびっくりしましたね。(泣きまね)それがこだまするんですよ(笑)。でもね、僕はとってもすてきだなと思いました。太賀さん羊さんが伝えてくれた思いを受け止めていただくとともに、この可愛らしく元気な映画を楽しんでいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)
http://hahaboku-movie.jp/
©2018 「母さんがどんなに僕を嫌いでも」製作委員会
★11月16日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
☆御法川修(みのりかわおさむ)監督インタビューはこちら
☆歌川たいじさんインタビューはこちら
東京国際映画祭中だったので、映画の合間をぬって駆けつけました。取材席は最前列ですが、この近くにいらっしゃる若い女性ファンの方々は、ずいぶん早くから並ばれていたようです。舞台上の立ち位置を示すガムテープの数を見て、「誰がゲストなのかしら」と言い合う姿に内心「びっくりするよ~」とうふふ。プレスには知らされていましたが、ゴスペラーズ登場に吉田さん太賀さんは目を丸くして驚いていました。目の前で聴く生歌はすばらしかったです!役得~♪
映画上映後、客席にいらした歌川さんに向かって大きな拍手が沸き起こったそうです。一緒に座っていたキミツさんもたくさんの方々に握手を求められたとか。映画と同じ暖かい雰囲気で終了した試写会であったようです。その場にいられなかったのが惜しい・・・。
今回もほぼ書き起こしました。音声と歌は届けられませんので、ぜひ劇場へお出かけくださいませ。(写真・取材 白石映子)
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