『旅するダンボール』島津冬樹さんインタビュー 

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12月7日より公開予定のドキュメンタリー『旅するダンボール』に登場する段ボールアーティスト島津冬樹さんにお話を伺いました。
(2018年11月14日)

=島津冬樹さんプロフィール=
1987年、神奈川県生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒。2015年、広告代理店を経てアーティストヘ。日本のみならず世界中を周り、路上や店先で放置されている段ボールの中からお気に入りの逸品に出会う旅を続けている。
「不要なものから大切なものへ」をコンセプトに、2009年より段ボールから財布を作るCartonをスタート。段ボールの良さを伝えるため、国内外での展示や、お財布作りのワークショップを多数開いている。

『旅するダンボール』監督:岡島龍介

島津冬樹さんの活動に密着したドキュメンタリー。ただただ純粋に段ボールに魅せられている島津さんは、国内外で道端やゴミ捨て場にうち捨てられている段ボールを拾い集める。絵柄やロゴを生かして世界にたった一つの財布やカードケースを作り出す。ガラクタから価値あるものを生み出す「アップサイクル」は世間の注目を集め、展示やワークショップを通じて広がっていく。ある日、市場でたまたま目についた「徳之島産のジャガイモの段ボール箱」の作り手を捜し出すことになった。カメラはその旅を追っていく。

☆岡島龍介監督インタビューはこちら
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★2018年12月7日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国順次公開


-子どものころからものを集めるのがお好きでしたか?

はい。生まれたのが江ノ島の近くだったので、幼稚園のころは貝拾いして、図鑑で調べたりしていました。当時はお土産やさんに珍しい貝も売られていたので、自分が持っていないものを親におねだりして買ってもらったり。ホネガイとか。次が、男の子がふつう通る道で、ミニカー、飛行機、船、乗り物系ですね。
植物だと、ラン。エビネとか。

-ランで、しかもエビネ!渋いですね!それはいくつのときですか?

小学3年生くらいです。知り合いのお爺ちゃんお婆ちゃんがいて、同じデザインでも色や柄がいろいろなんですね。それでちょっと興味を持ったりして。それからキノコ、菌類です。いろんな種類があって面白かったですね。キノコの図鑑も買ってもらって、見つけたキノコを調べたりして。次は魚。

-そのへんのタンポポ、スミレじゃないんですね。子どもにしては渋すぎです(笑)。たくさん集めたものは保存されたんですか?

貝は標本にして箱に入れて、今も実家にあります。キノコは残しておけないので、スケッチして絵でコレクション。自分で図鑑を作るような形で残してあります。好きなものに対してアウトプットする、じゃないですけど伝える方法を考えるというのは常にありました。

-それは後に美大に入られたり、クリエイターになられたりしたのに繋がりますね。素質ですねえ。

親がそういうふうにやったら、と促してくれたんですよ。

-じゃあ何を集めても顰蹙をかうことはなかったんですね。

はい。ただ、粗大ごみを拾ったときは邪魔だって言われました(笑)。


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-段ボールにたどり着くまで、途切れず何かしらに凝っていらしたんですね。で、ここから段ボールのお話になるんですが、段ボールを拾うポイントは?

まず色から入りますね。色でピンときて、よくよくデザインを見て、珍しいもの。例えば海外から来たもの。日本でもJA(農業協同組合)系でない、大きなところに属していないインデペンデント系の農家の(笑)。

-インディーズ!?

そうインディーズ(笑)、野菜に限らずそういうところのほうが、デザインが面白い。

-出回っている数も少ないでしょうから希少価値があると。
お気に入りになった徳之島産ジャガイモのPOTATOの段ボール箱ですが、作者を知りたい、探したいと思ったのはこの1件だけですか?

厳密にいうと、もう1件「えだまめ」の段ボールがあったんです。草加から来たえだまめで、すごくゆるいデザインで、絶対に家族の誰かが描いたにちがいないって感じの絵なんですよ。

-えだまめ家族、みたいな感じですか?

ほんとに家族みたいな感じで絵が描かれていて、お父さん、お母さん、子ども。うまいイラストっていうのではないんですが、そのゆるさがほんとにいい。どっちにしようかなと思ったんですけど、POTATOのほうが(産地まで)距離もあるので。埼玉は近すぎるんですよね。

-ああ、そうですよね。「旅する」には遠いほうが。

はい。そっちのほうから掘ってみようということで。

-POTATOの段ボール箱を見つけて、作り手にたどりつくまではどのくらいかかったんですか?

どのくらい・・・2~3ヶ月かな。長崎でその先を教えてもらったときに、出かければその日のうちにもうたどり着いたかもしれません。でもいったん東京に帰ったんですよ。

-調べるのは、島津さんお一人じゃなくプロデューサーさんたちチームでするんですね。ある程度のストーリーというか、作った方を見つけ出して感激の対面!というような予想は立てられていたんでしょうか?

わかっていたのは段ボールにあった住所だけでした。選果場を撮影できるか、とかいう交渉や問い合わせはプロデューサーたちが。ただ、行ってみないと先方のリアクションなどはわからないことです。どういうことになるのかは、全く未知のままでした。

-作り手さんの奥様が泣いてらっしゃいましたね。私ももらい泣きしてしまいました。島津さんはいかがでしたか?

いいシーンでしたよね。映画でも言っていますが、段ボールの財布の活動がこういう違う形で一人の個人を勇気付けられたというのは嬉しかったです。

-Carton(カルトン=島津さんが段ボールの魅力を紹介するためのプロジェクト)の活動と映画撮影を一緒にやっていたんですね。

そうですね。撮影と平行してやっていましたね。ワークショップも密着して撮影されていますし。

-そのワークショップですが、ノースフェイスの箱から作ったカードケースがよかったです!

あれはね、デザインが絶対にカッコイイ!

-どこをとっても素敵ですよね。箱は提供していただいたんですね? 私も参加したかった!またやらないでしょうか?

使われない箱をいただきました。またワークショップやるんですよ。(と、11月23日開催の情報をいただき、本題へ戻る。私も申し込みしました!)

-段ボールで最初に作ったものがお財布なんですね。お財布を段ボールで作ろうとはなかなか思いつきません。

大学生2年のとき、自分の手持ちがないとき財布を作ろうとしたんです。皮もやってみたんですけど、自分には合わなくて扱えないし、どうしようと。たまたまカッコいいデザインの段ボールがあったので作ってみようかな、と思ったのがきっかけなんです。でもまだそのころは今のように段ボール好きだったわけではないんです。

-あら、そうなんですか。お財布の「素材」として手に取ったと。

段ボールのデザインが秀逸だなぁとは思っていて、それが生かせないのがもったいないという気持ちがあって。段ボールがカッコいい、お洒落だなという気持ちはずっとありました。

-そしてカッコよく出来上がって、それから改良を繰り返して。

それから9年間。今にいたるまで。

-9年間!すごい! で、今のが最終形態というか、完成品?

改善して、値段も最初は500円、4500円、10000円と上がりました。

-値段も変わったんですね。10000円は産みの苦しみ(汗と涙?)が入っているお値段だと思いました。あれは完全にオリジナルの1点ものですし。

そうですね。9年の重みと。値段は、安ければ安いほど使えないんじゃないかと思われてしまうかなと。
財布のマイナーチェンジは結構あるんです。後は新しいタイプの財布を作っています。今だとこういう小さい財布。
小銭とお札とカードと・・・(と言いながらポケットから取り出す)

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使用中の小さめのお財布。
二つを背中合わせに留めることも外して単体で使うこともできます。

-けっこういっぱい入りますね。これはなんという名前ですか?

まだ名前がないです。未公開のもので今度ノースフェイスの展示で売ろうかなと思っているんです。

-訪ねた国は映画の時点で27ヶ国。HPで30カ国に増えていましたが、どこに行かれたんでしょう。近場ですか?

今年になって3つ増えました。アフリカに行ってきました。エジプト、エチオピア、南アフリカ共和国。

-めちゃめちゃ遠いじゃないですか(笑)!自前ですよね?

自前です。段ボールのためだったら(笑)。

-ええ~!お財布いくつ売ればいいんでしょ(笑)。誰かスポンサーがついてくれるといいのに。全ては段ボールから!この先、段ボール以外に興味がもてそうなものは?

うわぁ、ないですねぇ。ポテンシャルがありすぎてなかなか。

-今のところ究極?

まだまだ可能性が。段ボールはけっこう残っていくものだと思います。

-段ボールそのものって、これ以上変わらないんでしょうか?

構造としてもやっぱり優れていますし、変わらないんじゃないかと思います。

-避難所の間仕切りなどにも使われましたよね。まだまだ色んな方面で利用価値がありそうですね。これからどうやって活動は展開していくんでしょうか?Cartonでも島津さんご自身でも。

世界中の段ボールを拾い集めて、それを見せる場を作りたいと思っているので「段ボール・ミュージアム」という構想はずっと持っています。国ごとの段ボールの違いとかを見せていきたいと思っています。

-あと行ってみたいところは?

今は小さな孤島に興味があります。たとえば太平洋に浮かぶ小さい島々、ツバルとか気になるんです。

-ツバルってあの沈みつつあるところじゃないですか(温暖化で海面が上昇している)!早く行かなくちゃ!

だからなくなる前に急がないと。あとコーカサス地方。

-ロシア方面ですか?あんまり寒いところには行ってないですか?

ノルウェーとか、北欧にはまだ行ってないんです。

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-持ち帰れなかったことはありますか? さぞ心残りだと思うんですが。

ありますね。心残りになりたくないので、なんとかその断片だけでも持ち帰ります。
ほんとは全部持ち帰りたいんですが、時間がないこともあるし、手放さなきゃいけないときもあるので。特に周遊しているときは、1箇所でどのくらい拾えるかっていうのは未知なんですよ。予想しながらです。

-出かける前にはその国のリサーチされるんですね。

そうです。どんな言葉が使われているか何が採れるか。バナナの箱のときは、その国でいっぱい使われているだろうという予測だったんですが、国内流通には麻袋に入れて輸送していたんです。箱はあるんですが、少なかった(フィリピンに行ったけれど、築地で多く見つけた)。日本ではみかんとか全部段ボール箱に入っていますよね。あれはとても贅沢なんです。

-日本の段ボール箱って質はいいんですか?

いいほうだと思います。ただデザインがほかの国に比べるとすごく淡白です。色使いとか。ゆるキャラも含めて可愛いキャラクターが多いです。可愛くて、渋いという(笑)。あんまり同居しないようなものですが、色使いは海外のほうが慣れている。西洋の油絵と日本画みたいに、それは文化の違いがあるんでしょうね。

-文化が出るんですね~。面白い! こんな段ボールがほしいなという夢の段ボールは?

夢の・・・。宇宙に行っている段ボールあるのかな、って思うことあります。NASAで、スペースシャトルに段ボール積んでないかなぁと。あと、映画に出てくる段ボール。『チャーリーとチョコレート工場』のWonkaのチョコレートの段ボール箱がほしい(笑)。どっかにあるんじゃないかな。

-映画会社の倉庫に美術さんが作ったのが残ってるかも。いやいや奥深いです。

常にどんなときでも段ボールに目が行っちゃうので(笑)。映画見てもニュース番組見ても段ボール(笑)。警察で家宅捜査のときに箱もってくるでしょ?

ああ、あれって文字入ってましたか?

入ってるんですよ~。神奈川県警とか、警視庁とか(笑)。あれも(本物を)ほしいなぁって思いながら見てます(笑)。

富山の展示に出かけたおり、会場の裏が警察署だったので「ダメもとで聞いてみた」お話が飛び出しました。話だけは聞いてくれたけれども「やっぱりダメでした」とのこと。ここでプロデューサーさんも交えて、どうやったら手に入るかと、ない知恵を絞る我々。けれども身内に警察関係者もいないので、やはりわかりません。この激レアな段ボールを島津さんがほしがっております。と書いておきます。

-ワークショップを外国でも開かれていますが、その国ならではのリアクションはありますか。

総じて同じですね。日本の段ボールは人気です。漢字や平仮名など文字が使われているので珍しがられます。

-漢字のTシャツありますよね。島津さんが大事にしているのが「イスラエルのコカ・コーラ」の段ボールでしたね。あれが今もナンバーワンですか?

今は変わって、「ブルガリアで拾ったシリアの赤十字団体」の段ボールです。普通そういうのは難民キャンプでしか拾えないんですけど、ブルガリアの道に落ちていました。なぜ落ちていたかはわからない。

-ほんとになぜそんなところにあったんでしょう。その「なぜ」が物語ですね。

そこに、どういう背景があるかを考えちゃいます。

-ずっとお聞きしていたいのですが時間なので、ここまでで。ありがとうございました。

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試写受付にあった段ボール座布団。スポーツ観戦などにも。

=インタビューを終えて=

8月半ばに試写を見たときから気になっていた、主人公の島津冬樹さんにお目にかかれました。嬉々として段ボールを物色している姿が、夏休みの少年のようです。その根っこのところには、子どものときから好きなものを好きなように集めさせてくれたご両親の存在がありました。クリエイターはほかの誰も思いつかないことを形にするのがお仕事だと思いますが、島津さんの「段ボールでお財布」という発想がまずユニークです。そして珍しい段ボールのためならどこまでも行ってしまう、その愛とパワーに敬服。
レベルアップさせてきたお財布、商標登録とか特許とか申請しないんですか?と伺いましたら「難しいんです」とのこと。誰かが真似してもいいんですか?「段ボール愛に関しては自分ほどではないだろう、という自負があります」とニコニコ。島津さんを超える人はいないでしょう。
不要なものから大切なものを生み出す発想は、暮らしのあれこれに応用することができそうです。

もともと箱や袋が好きですが、試写の後、道端の段ボールにも目が留まるようになりました。段ボールは英国が発祥の地で、英語では「cardboard」、日本では「のあるボール紙」ということから命名されたそうです。古紙とパルプとでんぷん糊で作られて、何度でも再生可能な段ボールは95%以上の回収率を誇っています。エコの優等生です。なんでも軽く、小さく、簡便になっていくこのごろ、段ボールも丈夫さを保持しつつさらに軽く薄く美しくなっていくのかもしれません。
(取材・写真 白石映子)
11月23日ワークショップに参加してクラッチバッグを作ってきました。

☆段ボールに興味の出てきた方はこちらを参考に。
全国段ボール協同組合連合会 https://zendanren.or.jp/

★今後のイベント

『旅するダンボール』公開記念フェア
開催日時 : 2018/12/5(水)~2019/1/31(木)
※12/25(火)~1/8(火)年末休館
10:00~18:00 (金曜日、土曜日のみ~20:00)
定休日:毎週火曜日
(祝日又は休日に当たる場合は営業し、翌日休み)
場所 :スーベニアフロムトーキョー
東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館1F, B1
www.souvenirfromtokyo.jp
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「スーベニアフロムトーキョー」ワークショップ
・開催日 :
2018/12/20(木) 第一部 13時/第二部 15時
2019/1/26(土) 第一部 13時/第二部 15時
・所要時間 : 約1時間
・定員 : 各回4名
・会場 : 国立新美術館内B1 スーベニアフロムトーキョー
・参加費 : 3,500円(税込)
・応募方法 : info@carton-f.com までメールでご応募下さい。
予約の受付は各回前日の18:00にて締切らせていただきます。
(各回先着順4名様となります。席が埋まり次第受付終了とさせていただきます事、ご了承ください。)
・段ボールはご用意いたしますが、お気に入りをご持参いただく事も可能です。
お問い合わせ先 スーベニアフロムトーキョー 03-6812-9933

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