『ヒューマン・フロー 大地漂流』 難民問題について考えるトークイベント
1月12日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国で順次公開される映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』。
公開に先立ち、12月18日、国際移民デーにちなんで、難民問題について考えるトークイベント付き試写会が開かれました。
『ヒューマン・フロー 大地漂流』は、中国の現代美術家で、社会運動家としても活躍するアイ・ウェイウェイが、なんらかの理由で難民となった人たちの日常に迫ったドキュメンタリー。訪れた場所は、23カ国40カ所にもおよび、自らのスマートフォンやドローンからの空撮を駆使した映像に圧倒される2時間20分。
作品紹介:http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/463529229.html
◎難民問題について考えるトーク
上映が終わり、トークゲストに、世界中の「ヤバい場所」を巡り、いまいちばん“トガってる”旅番組「クレイジージャーニー」の丸山ゴンザレスさんと、UNHCR(国連難民高等弁務官)駐日事務所副代表の川内敏月さんが登壇。約1時間にわたって、トークが繰り広げられました。
丸山: ジャーナリスト活動をしつつ、テレビに出たりして、若干キャラ立ちしているので、難しいテーマで大丈夫かと思われる方もいるかもしれませんが、世界の難民の現状も追ってますので、そのような話ができればと思っています。
川内: UNHCR難民高等弁務官事務所から参りました。去年から日本の事務所におります。その前は、9か国ほどで仕事をしていました。難民という固いテーマですが、丸山さんと一緒にお伝えすることができればと思います。
丸山: 映画は2時間20分という長さでしたが、世界の難民のことが全然収まりきってないですね。ごくごく一部をかいつまんで集めただけという感じがしました。
川内: 23カ国で取材したものですけど、ごくごく一部ですね。
丸山: この映画を観て、UNHCRの方としては、どういう思いでしたでしょうか?
川内: 現場を見てきましたので、半分、仕事を見ているようでした。
丸山: お知り合いが出てきたとか?
川内: ギリシャのレスボス島の場面で、ブルガリア人の同僚がアイ・ウェイウェイを車に乗せて案内してました。また、現在の国連難民高等弁務官フィリッポ・グランディは、カーブル事務所にいた時の代表でした。
丸山: まさにリアルな目線でご覧になったのですね。川内さんは、どのような国に赴任していらしたのですか?
川内: アフガニスタン、イラン、カンボジア、東ティモール、ブルガリア、ボスニア。南スーダンにも短期ですがいました。
丸山: 今日、この映画を観に来た方は意識の高い方なので説明は必要ないと思いますが、UNHCRについて一応説明をお願いします。
川内: ユニセフやユネスコと比べると知名度が低いですね。難民をイメージしにくいと思います。ほんとうにいろいろな人がいます。難民を担当していて、ジュネーブに本部があって、130カ国以上で活動しています。
丸山:具体的にはどのような活動を?
川内:多岐にわたるのですが、まずは“命を守る”こと。水、テントなどのアコモデーションの提供。まったく別の活動として、難民法の整備や保護の制度を国と共に行うなど行っています。難民といっても特殊な人たちでなく、人間ですので、人間が必要とするものを包括的にみています。
◆難民も人間
丸山:ポイントは、“人間”というところですね。これまで取材していく中で、腑に落ちないことがいくつかあります。2015年位から難民が増えているというニュースが増えたけど、ロヒンギャ問題はもっと前からあって気になっていました。その後、欧州での難民が増えてきて、日本にいると情報として受け取るけど、現場では現実。情報と現実の間に乖離があるような気がしていました。難民としてくくられると個々人が見えない。現状が気になると、2015年冬、ギリシャに行き、シリア難民と一緒にドイツをめざしました。シリア難民と報道されていたのですが、実はアフガニスタン難民が意外と多かった。僕の場合、大手のメディアが目をつけないところを探して個人で取材するスタンスです。実際に行ってみると、シリア難民は管理がしっかりしていて、歩いて移動しているというより、国内はバスで移動させています。早く国から出ていってほしいから。国境は車を使えないので歩いてる。食事が出るのですが、食べ物が捨ててあるので、どうして?と思ったら、まずかった。ゆですぎたパスタと味のない野菜。食べないの?と聞いたら、数か月前まで、もっと美味しいものを食べてたのに食えないと。もしかしたら、この人たちはちょっと前まで僕よりもいい生活をしていたんだと思うと不思議な感じがしました。
川内:映画の中でドイツの支援団体の女性の方が、難民としての括りでみるのでなく、一人の人間として尊厳を持って守ると言っていたのが印象的でしたね。
丸山:アフガニスタンから流れてくる人はお金のない人が多かったけど、シリアから来る方は、お金を持っている方が多かった。ちょっと下世話なことを言いますが、ギリシャは売春が合法で、マケドニア行きのバスターミナルの裏に売春宿があって、シリアの若者がうろうろしてる。ふつ~の男の子たちだなと思いました。売春宿の女将が、シリアの男の子は女の子の扱いが乱暴だから断ってると言ってました。普通にお客さんとしてくるんだと。実感として生きている人なんだと興味深かったですね。
川内:日本にいると難民というと遠い存在。レバノンでは、人口の3分の1が難民。まわりに普通にいます。
◆制度を整えても解決しない
丸山:スペインのスラム街に難民じゃないのですが、北アフリカの人たちが住みついていて、ムスリムとしてのコミュニティが根付いています。一つの文化がほかの文化に入った時に混ざり合うのが難しいのだなと。日常として受け入れ側はどう思うのかなと気になりました。ロヒンギャについても、地域住民に聞くと、ある日気づいたら違う宗教の人たちが居ついていて怖くなったと。制度だけ決めても解決しないと思いました。
川内:制度作りも必要だけど、受け入れ側に心の準備があるのかどうかが問題ですね。
丸山:古くから行き来をして交流のある国、例えばルーマニアでは、イタリアやトルコと交流があったけど、まざってない。受け入れているようでありながら、文化がまざらないでいる。ドイツでもそう。ヨーロッパはそういう傾向が顕著だなと思いました。日本に万単位で難民が増えた時に、どういう対応ができるかなと常々考えてしまいます。
川内:前任地がイランなのですが、アフガニスタンの人たちが百万人単位で40年近く住んでいるのに、イラン人にはなり切ってない。アフガニスタンを見たことのない若い子も、いつかアフガニスタンに帰って国の再建に貢献したいと言ってる。
丸山:イスタンブルのリトルダマスカスにいるシリアの人たちも、仕事を見つけて住んでいるのですが、いつか戻れることになったら、シリアに戻るという若者が多かったです。理屈じゃない。難民を説明するのにご苦労があるのじゃないでしょうか。
川内:アインシュタインも難民だったと、よくいうのですが、難民といっても必ずしも貧しい人たちじゃない。高学歴の人もいる。同じ人間としてみる。難民だけじゃなく、異民族の人とお互いレスペクトしながら暮らすのが秘訣。
◆知ることから始まる
丸山:実際難民の人たちと接してみると、言葉が通じなくても心が通じることがある。欧州で難民の方たちの方が綺麗な格好をしていて、僕の方が道路工事をするような恰好をしていて、かえって同情されました。ウィーンの駅の近くの難民待機所で、アフガン難民の人から日本人かと声をかけられて、空手をしてたから日本人に馴染みがあると。彼は、ドイツを目指すのをやめて、そこで難民申請すると言ってました。2015年の冬がターニングポイント。彼は滑り込みセーフ。2016年初頭、ギリシャとマケドニアの国境が閉鎖されました。日本に帰って難民報道を見ると、数字の向こうに顔が見えるようになりました。僕は難民支援ではなく、取材の立場なので、それに意味があるのかと。人の顔が見えるようになったとしたら、接し方や支援の仕方が変わるのではと思うので、伝えることが仕事になればと。
川内:一般の人たちにお伝えしなければいけないと思っても、どうしても数の話になってしまいます。なかなか顔の見える伝え方ができない。
丸山:ユニセフは黒柳徹子さん、ユネスコは世界遺産。UNHCRは南こうせつさん。どんな経緯で?
川内:南さんはUNHCR親善大使のアンジェリナ・ジョリーと映画で知り合って、彼女から触発されて、知ってしまったら何かしなくてはと。ヨルダンの王女が苦しい人から目をそむけてはいけないと言っていましたね。
丸山:存在を知ってしまうと気になって、そこへ行ってみる。行くとわかることがある。中南米の人たちがキャラバンを組んで、メキシコとアメリカの国境を目指していると聞くと行ってみたくなる。無関心が一番怖いですよね。
川内:知るところから始まる。身近に感じるきっかけになると思います。
◆答えはないけど、忘れてはいけない問題
丸山:UNHCRの職員は人数的に足りているのですか?
川内:1万人以上、132カ国で働いていますが、難民の数が増え続けているので十分ではありません。
丸山:国連の一機関として動く時には、各国の団体と連携して行うのですか?
川内:主体は各国政府や団体で、そこに国連の機関としてアドバイスをします。そのような団体がない国では、直接私たちが出ていって支援活動をします。
丸山:まとめとして、難民について僕たちに出来ることを考えたいと思います。
大学で考古学を専攻。歴史に触れることが多かった。難民問題は歴史をみると昔から人の移動はありました。今の状況は将来教科書に載るような事態。1世代で解決できないと思います。より正確な認識をして、優しい対応ができるような情報を提供すること、そして、次の世代にバトンタッチしていく必要があると思います。今、起きていることは、来年忘れていいことでも、すぐに劇的に解決することでもないと思います。
川内:同感です。繰り返しになりますが、知っていただくことが第一。前任地のイランではアフガン難民が100万人以上暮らしているのですが、30年40年経っているのに忘れ去られている状況です。なんとかしないといけないと。例えば、毎年難民映画祭を開催していますので、映画を通じて知って貰えればと思っています。
*会場とのQ&A
― 移民と難民の違いは?
丸山:移民は自分の意志で、難民はやむを得ず国を出た人。
川内:難民については、難民条約に定義されています。丸山さんの言われたように、何らかの危険を逃れてきた人です。
丸山:どちらもより良い生活を目指しているのには変わらないのですが、難民の置かれている状況のほうがより深刻です。
― ベトナム系中国人で日本に帰化した人から、ベトナムで弁護士をしていたけれど、日本ではできないと。ヨーロッパなどでは、元の資格が使えるのでしょうか?
丸山:使用言語が違うとできない仕事がいっぱいあると思います。例えば、医者の免許をアメリカで取っても、日本では取り直しになります。非常に難しいと思います。リトルダマスカスで会った若者たちは流ちょうな英語を話していて、シリアにいた時は、通訳などいい仕事をしていたけれど、トルコでは売店の物売りをしていると。生きていてよかったとは言ってましたが、内心どんな思いでしょうか。大工さんなど言葉がなくても出来る仕事ならば、どこに行ってもできると思います。
― 日本は厳しいですよね?
丸山:日本で起きるようなことはほかの国でも起きています。もっと厳しい国もあります。働かせないという国もあります。
川内:同じスキルを持っていても、外国では言葉の問題もあって、なかなか仕事につけないという状況はありますね。
― この作品は、2016年の難民の状況を中心に描かれています。その後、状況は激変していると思います。
川内:おっしゃっているように事態はとても流動的です。政治的、社会的な要因や、難民自身の決断もあると思います。日々追っていないと、今の時点でどういう状況かはわかりません。
丸山:レスボス島自体は、変わらずごったがえしてます。海から漂着する人たちもいます。キャラバンのような列がなくなったのかといえば、今はメキシコで起こっています。流動的過ぎて、明日には状況は変わっているかもしれない。この映画で描かれたような光景は、今も世界のどこかにあるといっていいと思います。現状を把握するのは大変で、ちゃんと答えられなくてすみません。
― 歩いて移動しているのは?
丸山:国内をずっと歩いているわけではなくて、国境付近で乗り物から降ろされて歩かされています。
川内:人の動きですが、必ずしもキャラバンのようにシステマティックではなくて、個人でブローカーを見つけて移動している人もたくさんいます。目に見える形で移動している人たちだけではないと思います。
丸山:ニュースは、目に見えるキャラバン的な列を捉えることが多いですね。むしろ個人で密入国という形を取る人も増えています。
― 難民を取り巻く状況は変わってきているのでしょうか?
川内:ドイツのメルケルさんも政権から降りるので、政策的に変わってくると思います。
丸山:変わったとすれば、難民側ではなくて、各国の対応の方ですね。
― 解決が難しいと思います。どういう状況で解決と言えるのでしょうか? 受け入れ先に定住することなのか、いつかは故国に戻れることなのか。
丸山:解決に答えはないと思います。問題だけど、答えがない。ほんとうの意味での解決は、個々人の意志が尊重されることが、あえていえば解決だと思います。この世代では出ない答えだと思っています。
川内:まさにそうだなと思います。その国に留まる、国に帰る、別の国に行く、どういうオプションを取るにしても、人間として尊厳を持って暮らせること。難民問題そのものはなかなか解決しない。
丸山:取り組み続けていく課題なのだなと思っています。
司会:最後に皆さんにお伝えしたいことを一言お願いします。
川内:まず知っていただくことが重要だと思っています。丸山さんのように個人で難民の状況を伝えてくださる方の存在は非常に貴重だと思っています。また、この映画のように映像で伝えるということには力があると思います。私どもでは、難民映画祭を来年も開催することにしています。日本に帰って思うのは、難民問題は遠いけど、関心を持っていただける方は増えていると感じています。関心を持った方が回りに伝えていただくことも大事だと思います。
丸山:今日の映画は重い映画だったと思います。困難な課題ですが、受け継いでいくには、重いだけではなく、難民の方たちは普通の人間で、冗談も通じる人たちだということ。難民キャンプに行く機会があれば、難民の方たちと触れ合っていただいて冗談の一つも言っていただくことが次世代に受け継いでいくことになると思います。
司会:今日はありがとうございました。この映画を、一人でも多くの方に観ていただければと願っております。
取材:景山咲子
『ヒューマン・フロー 大地漂流』
監督・製作:アイ・ウェイウェイ
2017年/ドイツ/ビスタ/5.1ch/2時間20分/
後援:国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、認定NPO法人 難民支援協会
配給:キノフィルムズ/木下グループ
© 2017 Human Flow UG. All Rights Reserved.
公式サイト:http://humanflow-movie.jp/
★2019年1月12日(土)よりシアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開
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