映画『めんたいぴりり』江口カン監督インタビュー

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<江口カン監督プロフィール>
九州芸術工科大学 画像設計学科卒。‘1997年 映像制作会社KOO-KI 共同設立。
映画やドラマ、CMなどエンターテインメント性の高い作品の演出を数多く手がける。2013年、テレビ西日本放送ドラマ「めんたいぴりり」の監督を務め、日本民間放送連盟賞優秀賞、ATP賞ドラマ部門奨励賞、ギャラクシー賞奨励賞受賞。2015年 続編「めんたいぴりり2」が、前作に続いて2年連続で日本民間放送連盟賞 優秀賞を受賞。2016年4月 競輪発祥の地・小倉を舞台に、夢と人生にもがく、崖っぷちの男の映画『ガチ星』の企画・監督を務めた。同作は、2018年5月より全国公開。

映画『めんたいぴりり』
敗戦後、釜山から引揚げてきた海野俊之と千代子は、福岡中洲に小さな食料品店を開く。俊之は釜山のお惣菜だった〔明卵漬〕をヒントに再現したいと苦労を重ねていた。人情にあつく、太っ腹で、博多の祭り“博多祇園山笠”にも並々ならぬ情熱を注ぐ“山のぼせ”でもあった。そんな俊之を妻の千代子と息子たち、従業員は呆れながらも応援し続けている。
のちに福岡名物となる〔辛子明太子〕を完成させるまでの波乱万丈の物語。
(C)2019めんたいぴりり製作委員会
http://piriri_movie.official-movie.com/
★2019年1月11日(金)より福岡先行ロードショー、1月18日(金)より新宿バルト9ほかにて全国ロードショー


-今回は完全に撮りおろしなんですね。テレビ版でできなかったこと、もっとやりかったことが盛り込まれているのでしょうか?

そうとも言えますし・・・大きく変えるというより意識したのは、福岡の人には馴染みがあるので、「またあのふくのやファミリーが帰ってきたぞ」という感じをちゃんと作りたかった。一方で、まだあまり知られていない福岡以外の人たちに対して、ドラマの1回目を作ったときのように新鮮な気持ちで観ていただけるようなものを、新鮮な気持ちで作りました。

-テレビ版はパート2まで放映されていて、映画板は115分ですからぎゅっと縮めたことになるんですか?

テレビ版は主人公海野俊之の青春時代から60代までを一度やって、パート2と今回の映画は昭和30年代のある1年を切り取っています。主人公とその家族、周りの人たちのエピソードがいっぱいある中で、絶対におさえておくべきところはもう一回やっているんです。だけどドラマとは方向、見せ方を変えて作った部分と、今までやらなかった新しいエピソードで構成しています。
モデルになった実在の人物川原俊夫さんの言葉とか、素晴らしい行いをベースにしていますが、そのキャラクターも実は華丸さんに寄せて結構変えているんです。「うちの親父はあんなに女好きじゃなかったばい」って言われたりするんです(笑)。とは言いつつも、ふくやの方々も映画が好きで、そこは一観客としてすごい楽しんでいただけました。エピソードもご本人を元にはしていますが、だいぶエンタメにしています。
そもそもふくやさんからいろいろ聴くお話が面白くて。福岡の人たちは、この伝説のような話が大好き。それを華丸さんと富田靖子さんがやって面白くならんわけがなかろう、といつも思いながらやっていました。
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この海の向こうに釜山がある?

-このメンバーですと、オンもオフも面白そうです。

もう大分“ファミリー感”もありますしね。僕は撮影に妥協できないほうなので、けっこうたくさん撮っちゃう。スケジュールは大変でした。

-キャストは子役さんが替わっていますね。

メインの大人たちは替えていませんが、子役はね、大きくなって(前の子は)もう高校生ですよ。毎回そうですけど、今回も子役さんたちとても素晴らしかったですよ。

-あの英子ちゃんと、ふくのやの兄弟、健一くん勝くんですね。みんなとても良かったですねぇ。

お兄ちゃん役の山時聡真くんは映画の後、菅田将暉さんと同じ事務所に入りました。

-そうなんですか!これから他の作品で観られるのを楽しみにします。

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おかっぱの英子ちゃん。小学生の健一君。

映画では、夏の山笠から始まって山笠で終わる一年を追いかけるような流れで作っています。四つの季節に毎回事件が起こり、そして日常に戻るという流れにしています。テレビのときはあまりそういう見せ方は意識していなかったんですけど。博多の一年の暮らしを感じていただきながら、縁やいろんなことが巡っていくのを映画では取り入れられました。

-山笠は本物の祭りに参加したわけでなく、映画のために特別に出していただいたんですか?

そうです。あれは「中洲流」という、まさに「めんたいぴりり」の人たちの“流れ”なんです。この人たちはもう何回目かな、3回目かな。最近はもうすごく期待してくれて「いつやるんや?早く出たい!」と準備万端です(笑)。夏のお祭りなので、みんな法被に締め込み姿で水をバシャバシャかけられるんです。それが3月の寒い日で、ブルブル震えてまあそれは大変でした。

-あれが寒い日だったとは!息が白くなったりしませんでした?

あのシーンはしてないですけど、戦争のシーンは夜中に撮ったので、息が白く出てCGで消しました。今だからできる技術です。山笠の町のシーンは、古い町並みが残っているところで撮影しましたが、今エアコンの室外機があるんですよ。美術で隠し切れなかったものはやっぱり消しました。

-みんな動いている山を見て気づかないかも、いや突っ込み好きな人いますね(笑)。室外機を一つずつ消したとはお疲れ様でした。あのたくさんの山笠見物の人たちはエキストラですか?

エキストラは全部で1000人くらいです。エンドロールに全員のお名前を出しています。あと野球場のシーンでもたくさんの方々に協力していただきました。福岡市、北九州市、その他いろいろなところから来てくださって。

-ありがたいですねえ。衣装とか美術とかテレビで使ったものは、また映画でも使えたんでしょうか?

セットはバラして、ふくやさんの倉庫に置かせていただいていました。さすがに大分使いまわして傷んでいるんで、直し直しですけれど、使えました。山笠の衣装は山笠の人たちが持ってくるんです。今も昔も(笑)。
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中洲流の人たちが舁いた舁き山

-山笠衣装は自前なんですね。普通大道具ってそうやって取っておくものなんですか?

いや、ないですね。小道具は美術倉庫などにあったりしますけど、大道具はね。シリーズ物でないかぎり置いておけないでしょうね。

-ふくやさんの協力が「大」ってことですね。

そもそも製作委員会の真ん中にいるのは、ふくやさんなんですよ。これのために「きびる」っていう映画会社を作ったんです。「きびる」は博多弁で「結ぶ」という意味です。
こうやってオール福岡で面白いものを作って、福岡以外の人たちに観て貰おうと。ふくやさんは「明太子」でそれをやろうとした。これは地元愛と、そこから文化を作り出し、それを外に出していこうという気持ちの「結晶」みたいな映画ですね。

-ふくやさんのHPを見ましたら、一大キャンペーン中で、なんとこの1月10日が「明太子の日」!1949年の1月10日に初めて商品として店に出した日なんですね!70周年のすごくいい記念ですし、ますます博多の人には忘れられない映画になりますね。

撮影のときはほんとにたくさんの人たちに協力してもらえて。それはやっぱりふくやさんがみんなに愛されているっていうことです。華丸さん、富田さんも。ここ最近も、全く映画に関わってない人が映画のポスターをじゃんじゃん取りに来ては貼りに行き、みたいに協力してくださっています。
この映画も集大成という意味で作ったというよりむしろエピソード1。全国展開の始まりですね。ふくやさんは少なくてもエピソード3まで作ろうと言っています(笑)。

-スターウォーズみたいに(笑)。でもほんとに面白いキャラが多くてまだまだ作品ができそうです。(私は博多大吉さん扮するスケトウダラにウケました。タラなのに脚があってしかも綺麗!)

ベースのネタだけでも山ほどあって、寅さんぐらい数が作れるんじゃないかっていうくらい。

-あらー、それは楽しみです。できるといいですねっ!
博多弁なんですが、博多出身、九州出身のネイティブなキャストたちなのでリアルですよね。全く南と縁のなかった北の人たちが台詞を聴いてどのくらいわかるものでしょう?


それがね、作るとき「どうするの」って話はあったんですよ。その博多弁具合は落とさずに、だけど観ているとちゃんとわかるように脚本上ではしているつもりです。

-言葉は音だけ聴くのでなく、話している人の表情や身振りなどでかなりわかりますね。

僕は、そういった場所だったり、人間の違いだったり、その差を認めて楽しんでいく時代だなと思っているんです。排除するのでなく。そのほうが豊かだと思うんです。
博多弁のイントネーション(抑揚)は関西弁と違って、標準語と一緒なんですよ。それで聞きやすいんじゃないかな。

-イントネーションですか。監督はたとえば東北弁の映画を観て、ことばが入ってきますか?

僕は入ってきます。そういうのが好きなほうなんで。

-これはずっと博多弁で、私は住んでいたこともあってよくわかるし懐かしい。ほかの映画ではせっかく地方で撮っているのに標準語で喋らせていることが多くて残念でした。

そうそう。特に鹿児島や沖縄にいくともっと違って、そこが面白いなと僕は思う。そういうのを観ているとイントネーションが伝染(うつ)るくらい僕は入りこんでいます(笑)。喋りたくなってしまいますね(笑)。

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毎回辛子明太子が出る食卓

-今回は食べたり飲んだりのシーンが多いですね。特にあの家族と従業員の食卓が。

この映画で一番多いシーンは、その居間でみんなが狭い中で肩くっつきあいながらご飯食べるシーンです。

-それぞれの人の個性の出るシーンで面白いです。食べるシーンって気を使いませんか?

撮影は面倒くさいですよ。だけど、演出的なことでいうと「何かをしながら芝居が進む」というのは、そこにリアリティが出ますし、人間って決して一つのことばかりやっているわけではないので。何かをしながら、っていうのは意識しているんです。『ガチ星』のときも、やたら煙草を吸いながら芝居していました。

-ふだんの暮らしってそうですよね。前を向いて喋ってるだけってありません。

今回初めてやってみたことなんですけど、彼らの食卓の上の“明太子のアップ”を何回か入れていて、その明太子の状態が“家族の状態”を表しているんです。主人公が荒れて「最後の明太子だ」と言って、みんなが泣いているところは明太子がぐちゃぐちゃになっていますし、その後彼が気持ちを取り戻してまた日常に戻ったときには、綺麗でおいしそうな明太子になっている。彼ら自体を象徴しているものとしても見せたかった。食卓ってたぶん家族の状態が現われると思うんですよ、絶対。仲が悪ければ荒んでいくだろうし。

-そう思います。皆さんご飯食べながら喋っていますけれど、カットがかかって撮りなおしになったら、食べて減った分は足してまた食べますよね(笑)。一回の食事の何倍も用意しているんですか?

そうです。食べた分をまた同じ量に戻して撮りなおします。すっごい食べています(笑)。
もちろん、どのくらいかわからないけど、ご飯も明太子もたくさん準備してありますよ。で、残ったのはその後スタッフで食べる。だから僕らこの撮影中は、明太子めちゃくちゃたくさん食べられるんです(笑)。

-ふくやさんが提供してくださるんですか。まあ、いいですねぇぇ~(笑)。

普通家で食べるときにはちょっとずつケチりながら食べるじゃないですか。それが弁当には一腹のっけて食べられる。幸せ~(笑)。

-いいなぁ(笑)浜松町で買って帰ろうっと(浜松町駅近くと、モノレールに向かう途中にふくやのお店があります)。
ふくやさんは「特許やら取らん」と、みんなに作り方を教えてしまって、その男気に惚れちゃうんですけど、ほかの後追いした誰も、特許とるような仁義にもとる人はいなかったんですね。


いなかったですね。そんな人がいたら嫌われるでしょうね。特に博多では総すかんをくらうんじゃないかな。
物語の中で一番有名な台詞が「与えた恩は水に流せ、受けた恩は石に刻め」。恩や優しさは、みんなそれで返すものなんだなぁ。僕はやっぱりこんな人にはとてもなれないな、と思いながら作っているんですよ。私利私欲ありますし、とてもじゃないけどこんな人にはなれない。もちろん、だらしがないところも描いていますけど、僕にとってはスーパーマンです。博多のスーパーヒーローです。

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中洲流の法被姿。赤白の手のごい(手拭)は取締。


-博多の人たちも同じ思いでしょうね。水害にあった人を何人も連れてきて、自分の家の分までご飯ふるまってあげて。驚いちゃいます。

あれは実話なんですよ。亡くなられたときも私財が殆どなかったらしいです。あんなに大きな会社なのに、個人の私財はほんとに人のために使い尽くしていたみたいです。できないことですねぇ。

-そういうのも含めて、喜怒哀楽全部詰まった映画でしたね。何もないシーンがないくらい。

忙しいというか(笑)、僕も脚本の東さんもサービスしたくなっちゃうものでけっこう詰め込みました。もう飽きさせるのが怖いので(笑)。そういう意味では最後まで飽きずに観ていただけるかな。

-お店のセットが好きです。奥へいくほど高くなる陳列棚や、フタつきの容器など再現されていて懐かしかったです。

美術は山本 修身(やまもと おさみ)さん。ずっとフジテレビで美術をやっていた大ベテランで、その方がいなければああはできなかったですね。僕が小さいころ駄菓子やとか古いまま残っているようなところは、まさにあんな感じだったんです。さすがに福岡も今はもうほとんど残っていないですね。

-今回韓国ロケはなしですね。

ドラマではありましたが、今回はないです。
僕はドラマをやるちょっと前に、韓国にすごい興味があって、ちょうどいろいろ調べていたんですよ。そのタイミングでドラマを作ることになったので、どうしても一回目のときに釜山時代の話をやりたくて。調べると当時日本の統治ではあったけれども、すごく賑わっていたようなんです。それから戦争で日本に帰ってくるんですけど、祖国なんだけれども「移民」なわけですよ。この物語のベースにあるのはそういう部分で、移民が受け入れられていくことに対して、恩返しの一つとして明太子作りをやるという。
年上の方々にも観てもらいたいけれど、子ども連れの方に来て欲しいなと思いながら作ったんです。子ども達にとっては“新鮮な過去”になります。こういうことも知ってほしいですね。

-ありがとうございました。

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派手な喧嘩もするけれど、「好いとう」


=取材を終えて=
博多で辛子明太子を作りだして広めた「のぼせもん」の夫と「しっかりもの」の女房や息子たちに従業員、周りの人々とのあったかいお話です。俳優さんたちが生き生きと存在していて、笑いあり涙あり、ほんとに全部盛りの映画です。
モデルになったふくやの創業者川原俊夫さんの志は、お孫さんが継いでいらっしゃる現在のふくやにも、しっかりと受け継がれているように思いました。
江口監督には、長編デビュー作の『ガチ星』を世に出すまでのご苦労を前回うかがいました。『めんたいぴりり』はドラマ版のシーズン1、2、舞台版、この映画版と拡がってきました。博多弁や辛子明太子と同じく、全国へと浸透していきますように。
観終わると白いご飯に辛子明太子をのせて食べたくなります。お出かけ前に炊飯器のタイマーを忘れずに。

(取材・監督写真 白石映子)

ふくや HP
https://www.fukuya.com/
博多祇園山笠 HP
https://www.hakata-yamakasa.net/
『ガチ星』江口カン監督インタビュー(2018年5月)
http://www.cinemajournal.net/special/2018/gachiboshi/index.html

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