『フロントランナー』主演ヒュー・ジャックマン来日記者会見

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失墜した大統領選最有力候補を描いた映画『フロントランナー』が2月1日から公開されるのを前に、主演のヒュー・ジャックマンさんが来日し、記者会見が開かれました。昨年の『グレイテスト・ショーマン』以来の来日です。

2019年1月21日(月)日本記者クラブにて
 司会:伊藤さとりさん


フロントランナー
  原題:The Front Runner
監督:ジェイソン・ライトマン

1988年、米国大統領選挙の民主党予備選で、最有力候補(フロントランナー)に躍り出たゲイリー・ハート上院議員。ハンサムでカリスマ性があり、ジョン・F・ケネディの再来とまで言われたハートだが、不倫疑惑を報じられ、大統領選から葬り去られてしまう。
その顛末を、様々な人の目線で追った物語。

2018年/アメリカ/1時間53分
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.frontrunner-movie.jp/
★2019年2月1日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー

シネジャ作品紹介





◎パックン、ゲイリー・ハートの魅力を語る

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ヒュー・ジャックマンさん登壇前に、ゲイリー・ハートという人物が、どれくらい人気があったのかを、ゲイリー・ハートとゆかりのあるパックンことパトリック・ハーランさんが、資料映像を見せながら熱く語ってくださいました。

パックン:ゲイリー・ハートを知らない方のために、歴史的な事実を紹介したいと思います。時は1988年、場所はアメリカ、コロラド州。若くて、カッコ良くて、頭が良くて、勢いがあって、世界を変えようとしている男がいました。それが、この僕です。18歳になって投票権が手に入る年になりました。その僕の目に入ったのが、頭が良くて、カッコいいゲイリー・ハート。当時、民主党大統領候補。アメリカでは、大統領に同じ候補が3回続けて選ばれることはまずないと言われてましたので、レーガン副大統領は2勝しているし、ジョージ・ブッシュ氏の当選もまずないと思われていました。民主党候補がそのまま当選するだろうと思われていた時のフロントランナー、最有力候補だったのがゲイリー・ハートでした。弱者を守るカッコいい性格、弁が立つ、話がうまい、若者のハートをつかむハート。そんな大統領候補に僕も魅了されて、一生懸命応援していました。それが、それまで絶対越えてはいけないと言われていた痴情を一線を越えて報じたことによって、彼の運命が一瞬にして変わり、若者の夢が一夜にして消えてしまいました。今も、その時のがっかり感が残っている位、胸に抱えています。

司会:実際にゲイリー・ハートさんの活動をご覧になっていたのですね。どれ位、人気があったのですか?

パックン:
一つ前の1984年の時に彼が圧倒的な勢いで上り詰めたけど、当時は重鎮中の重鎮、カーター大統領時代の副大統領のモンデールがいて彼は候補になれなかった。その時、話題になったのは、ゲイリー・ハートは、コロラド州の隅々まで行って、いろいろな人とやりとりして、どんなことにもアドリブで答えてくれて、雄弁な彼に魅了されたのは、僕だけじゃない。

司会:彼が政治から退いたことについて、どう思いますか?

パックン:
複雑な気持ちです。浮気もしく浮気疑惑だったのですが報じられてしまいました。でも、歴代の大統領も皆、女性がいました。男性の愛人がいた人もいる。200年の間、浮気しても報じないという紳士協定があったのに、ゲイリー・ハートの時に初めて報道されて落とされてしまった。今の時代、浮気どころか、複数の女性から性的暴力を訴えられても、ほとんど無傷。彼だけが貧乏くじを引いたのか。
メディアと政治家の関係は、いまだにどうあるべきなのか、どこで線引きするべきなのか、課題は続いていると思います。


●ヒュー・ジャックマン 政治家とジャーナリズムの関係を語る


いよいよヒュー・ジャックマンさんが爽やかに登壇。
オハヨウゴザイマースと言いながら登場し、檀上へ。

【挨拶】

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オハヨウゴザイマース
皆さん笑ってますが、発音どうでしょう?
アリガトウゴザイマス
また素敵な東京に来られて嬉しいです。
ご存知のとおり、素晴らしいジェイソン・ライトマン監督の映画を、ぜひ皆さんに観ていただいて楽しんでいただきたい。そして、今、話し合うべき議論をしてほしいと思っています。

司会:
また来日してくださって、ありがとうございます。


ヒュー:My pleasure, my pleasure 


◆会場とのQ&A


*白黒つけていないのが気に入った
― ゲイリー・ハートを主人公にしながら、群像劇になっています。ここ数作のイメージと違う政治家という役柄、是非やろうと思った最大の決め手を教えてください。

ヒュー:二つ理由があります。一つは、監督と仕事がしたかったから。『JUNO/ジュノ』(2007)や『マイレージ、マイライフ』(2009)、『サンキュー・スモーキング』(2005)など大好きな作品で、機会を待っていました。彼が演出するのは、白黒はっきりしない複雑なキャラクター。毎回、違うタイプのものにチャレンジされ、感慨深い作品を撮っていらっしゃいます。
二つ目は、ストーリーに惹きこまれたからです。最有力候補となってから政界から転落するまでの3週間の話。謎めいて知性のある、自分とは違う人物にチャレンジしたかったということもあります。いろいろな疑問が生まれると思うのですが、答えを出してないのが気に入りました。政治制度などについて、アメリカだけでなく世界中のことを考えさせてくれる。どの観点から見るかが大事だし、どの視点から見てもいいように自由に考えさせてくれる。そこがいいと思いました。
21歳で大学を卒業しました。専攻はジャーナリズムでした。俳優になってなければ、皆さんの席にいることもあり得たと思います。1987年の出来事は、政治とジャーナリズムの関係を変えてしまったターニングポイントで、今に繋がります。映画の中にもありましたが、このような記者会見の席で、「あなたは浮気をしていますか?」と言う質問は、かつてはありえなかった。深夜に路地裏で待ち伏せて質問することもありませんでした。それが初めて起きた出来事でした。

*ゲイリーは家族を守った
― ゲイリー・ハートさんは、表面から見ると失ったものばかりです。彼が何か得たものがあるとすれば何だと思いますか?

ヒュー:takakoさん、ありがとうございます。ゲイリーさんに聞いてみたら、答えてくれました。これは、自分の人生において一番つらい3週間の映画です。でも、その後もいろいろなことをやってきて、つい最近、妻のリーさんと61回目の結婚記念日を祝いました。大統領選を辞退したのは、家族を守りたかったのが一番大きな理由です。選挙制度の神聖さも守りたかった。辞退しない道もあったのではと言われているけれど、それはなかった。政治家とジャーナリズムの関係が、あの時点から変わっていったということが言えると思います。

*未来を見据える力のあった政治家
― 演じる上で膨大なリサーチをされたことと思います。スキャンダル発覚まで、彼が人気を得た一番の要因は?

ヒュー:すごいリサーチをしました。今回初めて、まだ存命の方を演じるので、ご本人がご覧になってどう思うかも気になるので、責任感もありました。
彼は当時も今も理想主義者。若い人に大きな影響を与える力を持っていました。若い人に支持されて、ケネディの再来と目されていました。変革ができる政治家といわれていました。一番優れていたのは、政治家として、10年、15年先を見ていたことです。
1981年、スティーブ・ジョブスがまだガレージでコンピューターを作っていた頃、彼とランチを取りながら、これからはコンピューターの時代と話して、すべての学校にコンピューターを入れるようにしようと語っています。
1983年には、アメリカはあまりにも石油にこだわりすぎているので、中東で戦争になりかねないと発言しています。
1984年には、ゴルバチョフと会って、レーガンがスターウォーズ計画を進めている中で、もう冷戦時代は終わっている。ロシアのいた空間がなくなった後に、中東で過激派が生まれると予測しています。
2000年には、テロの襲撃を受けると警告しています。
このような人が大統領になっていれば、違った世界になっていたのではないかと思います。ほんとに人々に愛された人でした。そして、より良い世界を築けた人ではないかと思います。

*即断が必要なSNSの時代

― ヒュー・ジャックマンさんは、SNSで素敵なメッセージを発していらっしゃいます。SNSのなかった時代と、SNSのある今、ジャーナリズムはどう変わったと思いますか?
ゲイリー・ハートが今政治家だったら、SNSをどう活用されたでしょう?


ヒュー:アリガトウゴザイマス。とてもいい質問ですね。ジョージ・ステファノプロスというクリントン大統領のコンサルタントだった人が、ゲイリーのシチュエーションはすでにいろいろなことが変わりつつあった時代と言っています。今は、どんな情報にもアクセスできる。政治家は単なる政治的リーダーとしてだけでなく、人から好かれて共感できる人物でないといけない。
リアルタイムでやっていかなくてはいけないので、CMなどで政治家をかっこよく見せていますが、裏側は雑然とした状況です。即断しないといけないので、反省するとか、考え直す時間がない。ジャーナリストにとっても、かつては締切まで多少の時間があったけど、今はすぐ書かなくてはいけない。
私は91年に大学を卒業して、ジャーナリストになることも考えたけれど、状況が変わりつつあって、仕事も減ってきているし、経験があれば書けるというものでもない。今では誰でもブログに書ける。質のいいものを書くのは、皆さん、どれだけ大変な思いをしていることかと思います。
もし、SNSがあったら、ゲイリーはたぶん気に入らなかったと思います。受け入れるしかないと思いますが、かつて、「あることをやろう」と決めようとした時、ホワイトハウスに8年いるつもりなので、その間のことも考えなくてはいけないと慎重な発言をしています。


フォトセッション
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記者会見の様子は、(白)さんのスタッフ日記でもどうぞ!

☆取材を終えて

「今では誰でもブログに書ける。質のいいものを書くのは大変なこと」と、記者席を気遣うヒュー・ジャックマンさんの言葉が、ぐさりと胸に刺さりました。
インターネット時代の政治家の在り方も、考えさせられました。
ヒュー・ジャックマンさんや、パックンから、ゲイリー・ハートさんの政治家としての魅力をたっぷりと聞くことのできた記者会見でした。
歴史に「もし」はないけれど、ゲイリー・ハートさんのような方が大統領になっていたら、違った世界情勢が展開されていたことと、ちょっと残念な思いがします。
そして、SNS時代に大統領になったとしても、ゲイリー・ハートさんは誰かさんみたいに、思ったことを単純にツィッターで発したりはしないだろうなと確信したひと時でした。(景山咲子)







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