『パパは奮闘中!』 ギヨーム・セネズ監督インタビュー 

人生は日々闘い! 私たちの話として観てほしい
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『パパは奮闘中!』の日本での公開を前に来日したギヨーム・セネズ監督にお話を伺う機会をいただきました。

『パパは奮闘中!』
  原題:Nos Batailles   英題:Our Struggles
監督・脚本:ギヨーム・セネズ 
共同脚本:ラファエル・デプレシャン
出演:ロマン・デュリス(『タイピスト!』『ムード・インディゴ うたかたの日々』)、レティシア・ドッシュ(『若い女』)、ロール・カラミー(『バツイチは恋のはじまり』)、ルーシー・ドゥベイ

2018年/ベルギー・フランス/99分/フランス語/日本語字幕:丸山垂穂
配給・宣伝:セテラ・インターナショナル/宣伝協力:テレザ、ポイント・セット
協賛:ベルギー王国フランス語共同体政府国際交流振興庁(WBI)
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@2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma

*物語*
オンライン販売の倉庫で働くオリヴィエ。残業続きで忙しく、幼い息子のエリオットと娘のローズの子育てと家事は、妻のローラに任せきり。
そんなある日の午後、学校から子どもたちを迎えに来るよう電話がかかってくる。母親が迎えに来ないというのだ。子どもたちを連れて家に帰ると、ローラは身の回りの品と共に消えていた。心当たりもなく途方に暮れるオリヴィエ。その日から、オリヴィエの闘いが始まる。仕事は忙しいのに、慣れない子育てに家事をこなさなくてはならないのだ。おまけに、職場で人望の厚いオリヴィエは肩たたきの対象になった人の相談に乗ってあげないといけない。
やがて、本格的に会社がリストラ政策を打ち出す。会社側からは、人事部のポストを今より高い給料で用意すると声がかかる。一方、組合の専従のポストが空いたから、ぜひ専従になって会社と闘ってくれと頼まれる。専従を引き受けると、遠くの町に引っ越さないといけないので、子どもたちは母親が帰ってきた時に困ると不服だ。さて、オリヴィエはどうする・・・
公式サイト
シネジャ作品紹介
★2019年4月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

◎ギヨーム・セネズ インタビュー

◆経済成長できない時代背景に世界が共感してくれた
― 日本語のタイトル『パパは奮闘中』から、ママが家出して、パパが子育てに奮闘する物語とイメージしていました。
もう一つの物語の軸が、職場でリストラが始まり、組合側につくか、会社側につくかという選択を迫られる話で、がぜん興味を持ちました。
実は、私自身、20年ほど前に、勤めていた会社の経営が悪化して、500人もの社員が希望退職という形でクビを切られました。
それまで一緒に仲良くカラオケやお酒を飲みに行っていた上司が、部下のクビを切る立場になり、内心、さぞつらかったことと、この映画を見て思い出しました。
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@2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma
妻の不在というだけでなく、このテーマを入れたことにより、多くの方の共感を得たのではないでしょうか?  フランスはじめ、各国での反応はいかがでしたか?

監督:各国で良い批評をいただきました。興行成績については聞いていないのですが、
どこでも興味を持ってもらえる普遍性のある映画だと実感できました。
商業的な公開のほかに、ヨーロッパやアフリカ、アジア、北米など各国の映画祭でも上映されて、とても良い評判を得ています。
「資本主義2.0」(★注)という言葉がありますが、世界的な状況が描かれています。多国籍企業の工場ですし、それに家族の問題が切り紙細工のように織り込まれていますので、共感を得たのだと思います。

★注:「資本主義2.0」
モノやサービスを「生産」する人と「消費」する人との分離が可視化されていた時代である「資本主義1.0」に対して、テクノロジーの進化と共に、両者の分離ができなく統合している現代を表わした造語。  
テクノロジーが進歩しているのに、経済成長できない時代でもある。


◆男と女の視点の違いを際立たせた
― 女性と男性の価値観の違いをすごく感じました。主人公の妹が手伝いに来てくれましたが、演劇のリハがあるから帰るといわれ、主人公は妹に対して大した仕事をしているわけではないのだから、それはキャンセルしてここに残れと言っていました。妹は、無償だけど大事な仕事と答えています。これは、男性と女性の価値観の違いを際立たせたものと感じました。
映画を観たシネマジャーナルの別のスタッフからは、「この場面、女性に対する偏見を感じたのですが、監督はあえて、そう言わせたのでしょうか。そういう夫だからこそ、妻は出て行ったということでしょうか?」との質問を貰っています。

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@2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma
監督:(聞きながら、笑う) あのシーンのようなことだからオリヴィエは妻に家出されたとは説明したくないです。 説明しないのがキモです。あちこちにヒントはちりばめましたので、観た方がどのように思うかは自由です。それだから妻は家出したと思うのも自由です。おっしゃるように、まさに視点の違いが問題です。つまり、家族というものに対する見方の違い。オリヴィエが再現しようとしているのは、自分が育てられたお父さんが権力を持っているような家長制の家族。妹のベティは全く反対の価値観です。オリヴィエが男で、ベティが女ということと無関係ではありません。オリヴィエがいいと思っていた家長制は男女平等をうたっている今の世の中ではうまくいきません。

― 当初は、子どもを捨てた女性の自由を撮ってみたいと思っていたとのこと。子どものいる女性にとって、働きながら子育てするのは当然のことと思われていると思います。逆に、妻がいなくなった夫が働きながら子育てするのは、特殊なことというのは男社会の言い分だと感じます。

監督:それこそこの映画で見せたかったことです。ヨーロッパ社会ではセオリーの面では男女平等が当たり前の事実ですが、まだまだ紙上のセオリーです。実際どうかというと、やはり女性が子育てをいっぱいしなくてはならなかったりします。ほんとうの意味で男女平等を100%実現するには、何世代にもわたっての努力が必要だと思います。 今の時点では、現在進行中の闘いだと思います。フェミニストの人たちが唱えているけれど、毎日が闘いです。そのギャップを映画は見せています。
オリヴィエは女性たちに囲まれていて、女性たちが彼を成長させてくれているという面があります。パートナーを失って、その穴埋めをしてくれるのが妹だったり同僚だったり母親だったりします。女たちが彼を成長させて父になる。男性が主人公ですが、女性の視点が入っています。女性はすでに一人で働きながら子育てすることをしています。私は男性なので、男性の視点で描きたかったのです。

◆子どもに民主主義を教えるのは大変
― 最後、主人公が子どもたちも巻き込んで、民主的に行き先を決めるという素敵な場面でした。

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@2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma
監督: 最後のシーンは、子どもたちにデモクラシーを説明するのは難しいということを言いたかったのです。民主主義を実行するのは簡単なことではありません。2対1に分かれることを言って、一生懸命、子どもたちに民主主義を説明するけれど、なかなかわかってもらえない。 コミュニケーションを取ること自体が、彼の成長を表わしています。妻が家出した当初、子どもとコミュニケーションがうまく取れませんでした。冒頭では、身近な人を助けられなくて、職場の人や自分から少し遠い人を助けています。ようやく、身近な人に目を向けることができるようになったのです。

―監督ご自身、仕事では面倒見がいいけれど、私生活では気難しいとプレス資料に書かれていました。

監督:いいえ、そんなことはないです。私というより、一般論として身近な人を助ける方が難しいと言ったのがそのように書かれてしまったようです。自分の子どもに勉強を教えるのは、すぐ怒ってしまって難しいけれど、他人の子どもには、距離感があるので、簡単。近いがゆえに難しい。

◆人生における様々な闘いを感じてほしい
ー 原題 Nos Batailles は、「私たちの闘い」という意味だと思います。タイトルに込めた思いをお聞かせください。日本での公開タイトルはイメージが全然違います。 

監督:注目いただきたいのは、複数になっていること。仕事上での闘い、日常の闘い、子どもたちを巡る闘い・・・ 私一人じゃなくて、周りの人、観客も含めた、私たちの闘いです。

―人生で、選択を迫られることはよくあります。「もし」はありませんが、監督ご自身、あの時、あちらを選んでいればというターニングポイントはありますか?

監督: やはりパートナーとの別れは、大きく難しい選択でした。相手がいる問題なので、二人で決断をくだすことでした。子どもがいますので、どうやって別れたあと面倒を見るか。結果として、僕が子どもを育てながら、映画作家としての仕事とのバランスを考えることになりました。

― この映画には、ご自身の経験も反映されているのですね。
あっという間に時間が来てしまいました。次の作品を期待してお待ちしています。

監督:僕も待っています(笑)。

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ほんとに、あっという間の30分でした。
仕事と育児に頑張るオリヴィエを演じたロマン・デュリスのことや、伸び伸びとした自然な演技が可愛い子どもたちのことなどは、プレス資料に詳しく掲載されていたので、あえてお伺いしませんでした。残念ながら公式サイトには掲載されていないようです。劇場でパンフレットを是非お求めください。また、他誌のインタビューをどうぞ検索してみてください。

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Profile 監督・脚本 Guillaume Senez / ギヨーム・セネズ
 1978年ベルギー・ブリュッセル生まれ。ベルギーとフランスの2つの国籍を持つ。2001年に国立映画学校(INRACI)を卒業後、3つの短編映画を制作し、数々の映画祭に選ばれる。中でも、’’09年短編第二作目の「Dans nos veines」は、カンヌ国際映画祭・ユニフランス短編映画賞に、第三作目の「U.H.T.」(12)ではベルギー国内におけるアカデミー賞と形容されるマグリット賞の短編映画賞にノミネートされた。′16年に公開された長編第一作目となる、高校生の妊娠に焦点を当てた「Keeper」は、トロントやロカルノなど70を超える映画祭に招待され、アンジェ映画祭でのグランプリをはじめ、約20以上の賞を獲得する。長編第二作目の本作では、′18年度のカンヌ国際映画祭の批評家週間部門に選出され、今後の活躍に注目が集まる。

2006 : 「La quadrature du cercle」 短編
2009 : 「Dans nos veines」短編
2012 : 「U.H.T.」短編
2015 : 「Keeper」
2018 : 『パパは奮闘中!』(原題:Nos Batailles)
(公式サイトより)

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