『誰もがそれを知っている』公開記念 宇野維正、 真魚八重子 トークイベント

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2012年に『別離』、2017年は『セールスマン』で2度のアカデミー賞外国語作品賞を受賞し、イランの至宝とも言われるアスガー・ファルハディ監督。
監督が15年前のスペイン旅行で目にした行方不明の子供の写真に着想を得た物語を実生活では夫婦でもあるペネロペ・クルスとハビエル・バルデムに当て書きし、念願のタッグを実現させたオリジナル脚本の本作。

現在ヒット中の本作公開前にトークイベントが開催された。登壇したのは、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正さんと、映画評論家真魚八重子さんのお二人。
「現代に於いて、もしパーフェクトな映画があるとしたら、それはこの作品」と絶賛する宇野さん、”家族の秘密”を普遍的なものとして身近に感じたと語る真魚八重子さんが、ファルハディ監督作品に通じる演出や撮影裏話などを交え、軽妙なトークを展開した。
以下、ネタばれになる部分を割愛し、採録したい。

『誰もがそれを知っている』(英題:EVERYBODY KNOWS)

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スペインの故郷で久々に再会した家族と幼なじみ。しかし、結婚式で起きた娘の失踪をきっかけに、隠していたはずの真実をめぐり家族の秘密と嘘がほころび始める…。

監督・脚本:アスガー・ファルハディ
出演:ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、リカルド・ダリン 

2018年/スペイン・フランス・イタリア/スペイン語/133分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch//日本語字幕:原田りえ
配給:ロングライド  
© 2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION - MORENA FILMS SL - LUCKY RED - FRANCE 3 CINÉMA - UNTITLED FILMS A.I.E
公式サイト:https://longride.jp/everybodyknows/
6月1日(土) Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

ファルハディ好みの女優が多く登場

宇野 :まず登場する家族関係がややこしいですよね?皆さん、分かりました?
真魚:(説明)
宇野 :2度見ても伏線になるものが分かりくい。
真魚:キーパーソンであるペネロペの旦那が後半から出てくるし。
宇野 :ファーストショットからキーポイントを提示してくる。
真魚:『彼女が消えた浜辺』 でもそう。見せておきながら謎解きしてくれない。
それから女優陣が妙にがエロいですよね?美男美女過ぎて見分けつかない。
宇野 :女優に関しては絶対ファルハディの好みでしょ?(笑)
そういえば、ファルハディは『ある過去 の行方』でペネロペをキャスティングしたかったのに、妊娠中で断念した。今回は念願のキャスティングでしょう。

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題名はファルハディ指令?

宇野:「本題と同じにしろにしろ」と言ったのはファルハディの指令。
真魚:そうそう、『セールスマン』という題名から、あの内容は想像できないですよね。
宇野:映画で描かれた田舎の閉鎖性は、日本と共通してる。
真魚:〇〇(ネタばれにより伏せ)は田舎にはいられない。
宇野:アンダルシア云々ではない 、とファルハディは言いたいのか。僕は冒頭の結婚式シーンが大好き。マドリードの田舎町の雰囲気が濃厚で。あの冒頭がずっと続いて欲しいと思うくらい。
真魚:今までファルハディのはアート系と観られることが多かった。これはアートでもありミステリーという大衆性もある。
宇野:これ見よがしのアートではないですよね。
真魚:観客の皆さんにはもう一度観てほしいんですよ。窓のひび割れとか素晴らしいんですから。

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キーワードは”荷物”

宇野:ファルハディはまだ47歳ですよね。
真魚:ファルハディで注目して欲しいキーワードが、”荷物”。『ある過去の行方』でも別れた旦那の荷物がずっとある。何だかもどかしいんですよね。
宇野:小道具とかのモチーフも大事ですね。
真魚:荷物ないというのは、謎めいたものを捨て去った意味にも捉えられる。

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コスモポリタン

宇野:日本の監督も仏で撮ってますけど、ファルハディはスペインで撮りたかった願望は以前からあったみたい。
真魚:コスモポリタンなんでしょう。スペインが合ってる気がします。
宇野:アカデミー授賞式に出なかったり、米国と喧嘩して(苦笑)多くのコメントはやばいことだらけですよ(笑)

欧州の誘拐事情

宇野:演出技法 、脚本とも完璧。全部が傑作という監督はいない。イランの風土とも違う。
真魚:映画のような誘拐はスペイン・ラテン文化圏でよくある。空き巣も多いそうですよ。有名なサッカー選手宅の試合中を狙う、確実に留守ですからね。都会の警察も 捜査能力が低いんですよ。
宇野:身代金をかき集めたら、ある。集めるフリだけでも殺されない。風土として、そういうのがあるみたい。
真魚:日本では証拠隠滅になりますよね。 向こうは払えば戻る。
宇野:お互いに信用あるんでしょうね。イランもそういうとこあるみたい。
真魚:警察が介入しないのがいい。警察が出てくる映画はつまらない。
宇野:『万引き家族』も警察は最後のほうしか出て来ない。

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ヒットしないと映画界の損失

宇野:興行面でいうと、『セールスマン』はオスカー外国語作品賞なのに(観客が)入らなかった。題名もファルハディ指令だし、キューブリック的なとこもあるけど、今回は幅広い観客に受けるのでは?
真魚:周りに勧めてほしいですね。
宇野:良い分かりにくさというか…。入らないと映画界の損失になる。2回は見てほしいですね。

『誰もがそれを知っている』トークイベント
日時:5月14日(火)20:45〜21:15 ※上映後トークイベント
場所:ユーロライブ(渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F)


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