自らの人生を切り開く女性たちの姿も見事に描いた!
ゾーヤー・アクタル監督、リーマー・カーグティー
2019年9月6日 都内にて
2019年9月6日 都内にて
10月18日からの公開を前に、ゾーヤー・アクタル監督と脚本を担当したリーマー・カーグティーさんが来日。9月5日の夜の新宿ピカデリーでのジャパンプレミアでは、上映後に二人が登壇。多くのインド映画ファンが二人を歓迎しました。
興奮のジャパンプレミアの翌日、N誌の男性ライターさんとの2誌合同取材の機会をいただきました。
『ガリーボーイ』 原題:Gully Boy
監督:ゾーヤー・アクタル
脚本:リーマー・カーグティー
製作:ファルハーン・アクタル
出演:ランヴィール・シン、アーリアー・バット、シッダーント・チャトゥルヴェーディー、カルキ・ケクラン、ヴィジャイ・ラーズ、ヴィジャイ・ヴァルマー
物語:ムンバイのスラムで暮らす青年が、インドの階級社会の現実に鬱屈しながらも、ラップと出会い、自身の思いを語り、スターを目指す。
作品紹介 →http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/470836702.html
2018年/インド/154分/カラー/シネスコ/5.1ch
日本語字幕:藤井 美佳/字幕監修:いとうせいこう
配給:ツイン
公式サイト:http://gullyboy.jp/
★2019年10月18日(金) より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
◎インタビュー
◆狂気の男ランヴィール・シンが普通の男を演じている!
N誌: 主役を演じたランヴィール・シンは、『ベーフィクレー 大胆不敵な二人』や『パドマーワト 女神の誕生』 いずれも悪役で、どちらも狂った男。今回どういう役柄の男を描くのか興味を持って拝見したら、普通の男を演じていて、逆にびっくりしました。ラップにめざめ、車を運転しながらラップを口ずさんでいる何者でもない人。サフィナを外から見ているところも普通の男でした。
監督:ランヴィール・シンさんを以前に主役にキャスティングした時にも、普段より静かめな役でした。彼は最高の俳優だと思っています。なんでも出来る人という意味で、なんの躊躇もなくこの役も出来るという確信がありました。
◆大女優アーリアー・バットに見合う役柄を描いた
N誌:男性が主役だけど、女性のドラマも印象的でした。家庭では父と母と愛人のもめごとが描かれているし、プロデューサーの彼女ともいざこざがある。アーリアー・バットが演じるサフィナは、何かあると真っ先に相談に乗ってくれるガールフレンド。マッチョだと思っていたインド映画で、ちょっとびっくりでした。しかも、ランヴィール・シンが主役だと思っていたら、アーリアー・バットと二人主役。お見合いの場面も、サフィナの視点から描いていました。女性がとても生き生きとしていて、両方が主役だと感じました。
女性の描き方のこだわりが面白かったのですが、その点について 聞かせてください。
(男性のライターさんが、このような質問をしてくださって、先を越された思い!)
監督:ムラドの視点だけではなく、サフィナの場面ではサフィナの視点で描いています。ほかのキャラクターは基本はムラドの目線で描いています。サフィナの見合いのシーンは、ムラドを取り返すために仕組んだもの。ムラドが絡んでいるので、展開としてOKだという理解に加えて、アーリアー・バットは大スターですのでスクリーンタイムも与えてあげたい。娯楽的な面も演じてもらいたいと思い、こういうキャラクターにしました。
◆自身で人生を切り開いて行く女性たち
シネジャ: インドでは親の決めた相手と結婚するというのが当たり前という中で、サフィナがそれをうまく利用するというのも痛快でした。彼女は自分の人生を切り開いていくし、階級が下のムラドにも対等に接する人物なのも素敵でした。
プレス資料によれば、サフィナのキャラクターは、別の映画で考えていたのをこちらに持ってきたとのこと。アーリアーさんをイメージしてキャラクターを作っていった面もあるのでしょうか?
リーマン:監督からガールフレンド役としてアーリアーさんにアプローチしてみようと言われました。元々、別に書いたものがあったのですが、映画がとん挫して、そのキャラクターがお蔵入りしかけていたので、引っ張り出してみたら、うまく『ガリーボーイ』にはまりました。アーリアーは力量のある女優。彼女を起用する以上、演じ甲斐のある役をやらせないといけないと思いました。サフィナは矛盾に満ち満ちた難しい役ですが、アーリアーさんであれば真実味を持って誠意をもってやってくれると確信していました。暴力や怒りも消化して愛すべきサフィナにしてくれると思っていました。
N誌:カルキ・ケクランがやるような役かなと思いました。今の話を聞いて、アーリアーでなければだめだったと思いました。
シネジャ: カルキ・ケクランもフランス人なのに、しっかりインド社会に溶け込んでいて素晴らしい役者ですね。
サフィナとスカイの二人の女性が、自分で自分の人生を切り開いていて、とても素敵なキャラクターでした。
インド社会の中では、女性が自分の思うように生きるのは、なかなか難しいことだと思うのですが、最近は、このような女性たちも増えてきているのでしょうか? 監督やリーマンさんは、まさにその先端をいくような活躍をされていますね。
監督とリーマンさん、二人で顔を見合わせて「ありがとう」と、にっこり。
監督:サフィナやスカイのキャラクターには、自分たちのことも大いに反映させています。 女性の活躍の機会は確実に増えています。映画界でいえば、より女性を中心にしたストーリや配役が増えています。質の高いものが増えています。特にインディペンデント映画では、観客にも女性が増えて、すべての点で質もあがって、数も機会も増えています。
◆ラップは、自分たちの言語で
N誌:インドのラップの特色は?
監督:ひとくちで言えないのですが、言えることは人気のある人たちのものはパーティ系、アンダーグランドでは、ムンバイではより個人的なことや、社会経済状況などを歌っています。
シネジャ: この映画の中でのラップは、英語ではなく、ヒンディーやウルドゥ―、それもムンバイのスラングで歌っているのですね?
監督:まさしくそうです。やはり、その方が自分たちの思いが語れるし、地元の人たちにもわかってもらえますので。
シネジャ: 監督の母語は?
監督:母語といえるのはヒンディー語。母がパールスイー(7世紀、イランにイスラームが侵攻した折に、イランからインドに逃れたゾロアスター教徒の子孫)ですのでグジャラティー語はわかります。 リーマンはアッサム出身なので、私たちの間では英語で話していて、時々ヒンディーも混じります。
シネジャ: まさしく多言語のインドの状況ですね。
◆シッダーント・チャトゥルヴェーディーの魅力
シネジャ: ムラドをヒップホップの世界にいざなったシェール役のシッダーント・チャトゥルヴェーディーさんは、とてもインパクトがあったのですが、映画初出演だそうですね。今後も映画界で活躍されそうでしょうか?
(注:シッダーント・チャトゥルヴェーディーさんは、演劇活動と公認会計士を両立させていた人物。その後、俳優の道に進み、連続ドラマに出演。本作でゾーヤ監督に見出され、映画初出演を果たす)
監督: すごく優秀なものを持っていると思って起用しました。役を選べば将来は明るいと思います。
シネジャ:監督ご自身、今後も彼を起用されますか?
監督:もちろん! 彼に適したいい役があったら是非起用したいと思っています。
あっという間に時間が経ってしまい、写真を撮りながら、「映画の中で歌うならガザルにしなさいと、おばあさんが言っていましたが、実は私もラップは苦手でガザルの方が好きです。でも、『ガリーボーイ』は、嫌いなラップも気にならず、とても楽しく拝見しました」とお伝えしたら、「ぜひ、ラップを毛嫌いしている人にも薦めてくださいね」と言われました。
ゾーヤ監督、この日はミニスカートでした!
☆二人のプロフィール (公式サイトより)
ゾーヤー・アクタル
1972年10月14日ムンバイ生まれ。父は有名な詩人、作詞家で、『炎(Sholay)』(75)等ヒット作の脚本家としても知られるジャーヴェード・アクタル。母は脚本家のハニー・イーラーニーだが、両親は1985年に離婚、父はその後大物女優シャバーナー・アーズミーと再婚した。弟は、監督、俳優、プロデューサーとして活躍する、『ミルカ』(13)の主演俳優ファルハーン・アクタル。
インドの大学を卒業後、ニューヨーク大の映画学校で映画製作を学び、1998年『Bombay Boys』(未)の助監督として映画界入り。その後、弟ファルハーンの方が先に『Dil Chahta Hai』(01・未)で監督デビューしたため、この作品や、次作『Lakshya』(04・未)で助監督を務めた。2009年『チャンスをつかめ!』で監督デビュー。続く『人生は一度だけ』(11)がヒットし、舞台となったスペインにインド人観光客が押し寄せる現象が起きたことから、その手腕が評価される。以後、アヌラーグ・カシャプ、カラン・ジョーハル、ディバーカル・バネルジーという個性的な大物監督たちと組んで、2本のオムニバス作品、『ボンベイ・トーキーズ』(13)と『慕情のアンソロジー』(18)を発表。その合間には、豪華スター競演の『Dil Dhadakne Do』(15・未)をヒットさせた。2019年に米アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーより新規会員の招待を受けた。
リーマー・カーグティー
アッサム州ゴウハティ出身。アーシュトーシュ・ゴーワリカル監督作『ラガーン(Lagaan)』(01)やファルハーン・アクタル監督作『Dil Chahta Hai』(01・未)等の助監督を経て、2007年『Honeymoon Travels Pvt. Ltd.』(未)で監督デビュー。この作品をエクセル・エンターテインメントが手がけたことから、製作に加わっていたゾーヤー・アクタルと知り合い、以後、お互いの監督作で脚本を提供し合ったり、共同脚本を執筆したりと、協力関係が続く。このほか『Talaash : The Answer Lies Within』(12・未)と『Gold』(18・未)の2本を監督しているが、いずれも女性監督とは思えない骨太な作風で注目された。
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