昨年の東京国際映画祭で「イスラエル映画の現在2018」の一環として、コンペティション部門で上映された『テルアビブ・オン・ファイア』。
ヨルダン川西岸地区で製作中のメロドラマのヘブライ語のチェック係のパレスチナ青年。エルサレムに住むイスラエル国籍の彼が、検問所の所長に脚本家と言ったことから、毎日のようにドラマの筋に介入されるという大笑いのブラックコメディー。今やなかなかあり得ないパレスチナ人とユダヤ人との対話を描いた笑撃の作品。
ぜひ公開してほしいという願いが実現しました。
公開を前に、9月にサメフ・ゾアビ監督が来日。インタビューの時間をいただきました。
『テルアビブ・オン・ファイア』
監督・脚本:サメフ・ゾアビ
出演:カイス・ナシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニブ・ビトン、マイサ・アブドゥ・エルハディ、ナディム・サワラ、ユーセフ・スウェイド
2018年/97分/ルクセンブルク・仏・イスラエル・ベルギー/カラー/アラビア語=ヘブライ語
配給:アット エンタテインメント
公式サイト:http://www.at-e.co.jp/film/telavivonfire/
★2019年11月22日(金)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
シネジャ作品紹介
サメフ・ゾアビ Sameh Zoabi
*プロフィール*
1975年、イスラエル・ナザレ近くにあるパレスチナ人の村・イクサル生まれ。98年、テルアビブ大学を卒業後、映画研究と英文学を学ぶため、NYのコロンビア大学でフルブライト奨学金を受け、M.F.A(美術学博士号)を取得。05年に、短編映画「Be Quiet」がカンヌ映画祭に出品され、翌06年、フィルムメイカー・マガジンによって、「インディーズ映画界の新しい顔のトップ25」の1人に選ばれる。本作は、ヴェネチア、トロント、ロカルノ、サンダンス、カルロヴィヴァリほか世界各国の映画祭で上映・受賞し、世界から新たな才能として注目を浴び、今後の作品も期待される映画作家である。(公式サイトより)
◎インタビュー
― 去年、東京国際映画祭で観て、とても気に入りました。
(去年の記事をお見せしました)
*右は、イスラエルの検問所の主任アッシを演じたヤニブ・ビトンさん
監督:1年前は、ずいぶんわかかったなぁ~! (と、写真に見入る監督)
◆和平への夢 ~アラブのドラマをイスラエル中で観ていた時代があった~
― 1991年にイスラエルを訪れ、監督の故郷ナザレも含め、あちこち行きました。まだ分離壁のない時代で、和平に向かっているのではと期待できる時代でした。今や、ガザは屋根のない監獄状態で悲しく思っています。
監督:以前を知っている方は、鮮烈に今の状況を感じると思います。
― イスラエルの方とパレスチナの方が映画について語り合うという、現実ではなかなかあり得ない状況を描いていて、監督のこうあればいいなという思いを感じました。
監督: (笑)過去へのノスタルジーかもしれませんね。
91年にいらした頃は、まだどこか希望が持てて、いつの日か和平がという可能性が見えたのが、今は分断されて希望すら見えない。ですから、この映画は私の願望かもしれません。かつて、金曜の夜7時からエジプトのドラマが放映されていて、イスラエルの人誰しもが見ていた時代がありました。もうそんな時代は来ないかもしれません。
― 昨年の東京国際映画祭の折のQ&Aで、お母様がエジプトのドラマが大好きで、当時チャンネルの選択権はお母様にあったとおっしゃっていました。お母様は、この映画をご覧になって、どんな感想をもたれましたか?
(C)Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artemis Productions C623
監督:ソープドラマの部分はわかったと思うけど、映画のほんとの意味は理解していないかも。
― お母さまとしては、ドラマの結末をどうしてほしいなど、おっしゃっていましたか?
監督:それは特に・・・。私の1作目の長編の初日を家で撮影したのですが、主人公が目玉焼きを作る場面で、後ろから見ていて、もうちょっと油を入れたほうがいいわよと言ってました。そんな母です。(笑)
― お母さまは今もナザレに住んでいらっしゃるのですか? そして監督は?
監督:はい、母はナザレで、私はニューヨークです。
◆パレスチナ人を分離するイスラエルの教育システム
― 映画の中でサラームはパレスチナ人ですがイスラエル国籍でヘブライ語のチェック係。イスラエル国籍のパレスチナ人にとって、ヘブライ語は必須。子どもたちの世代では、学校教育はヘブライ語で、アラビア語は家でしか使わなくて、ヘブライ語に馴染んで行くという状況なのでしょうか?
監督:イスラエル国籍のパレスチナ人は、今もアラビア語を主に使っています。子どもたちも高校までアラビア語で教育を受けています。分断されていて、よっぽど混ざった町でないとアラブ人がユダヤ人の学校に行けない状況なのです。逆にいえば、イスラエル政権は教育システムを通して、分断をはかろうとしているのです。アラブ人とユダヤ人は別の学校に通っています。ヘブライ語は第二言語として小学校3年生から学びます。第三言語の英語は4年生から。大学に行きたければ、ヘブライ語しかチョイスがありません。高校までアラビア語だけで学んでいるとハンディがあります。ヘブライ語ができないと、より良い仕事につくことも難しくなるのです。
― それでいながら、イスラエル国籍だと兵役につかなければいけないのですね?
監督:パレスチナ人には兵役は義務ではありません。志願はできますが、99%は、兵役につきません。
― それを伺って、少しほっとしました。
監督:中には、よりイスラエル寄りにみせたくて行く人もいますが、ある程度教育を受けた人なら、通常は行きません、
◆米=メキシコ国境を舞台に第二弾
― とても面白くて、続編が観たいと思ったのですが、作るとしたらどのようなものを考えていますか?
監督:続編を作ろうと考えたこともあるのですが、今、アメリカとメキシコの国境を舞台にリメイクの話があって、脚本も含めて監督を依頼されています。シーズン2は、場所を変えての話になります。
― 同じような問題を抱えていますよね。本格的に考えているのですね。
監督:ホンモスがワカモレ(アボガドベースのディップ)になります!
かなり本格的になっていて、日本に着いた日、ほんとは寝たかったのですが、アメリカとの法律的な交渉をする必要ガあって、寝れませんでした。
― 面白い話になると思うので期待しています。
◆「トマトが愛の実」も「アラブ式キス」も私の創造
― 「いちじくは愛の実」というの対し「トマトが愛の実」という言葉が出てきました。
監督:私が創造したものです。監督の醍醐味は、勝手にものを作って、それがあたかも真実のようになることです。唇の触れないアラブ式キスも私が作ったものですが、もう一人歩きしています。
― ホンモスの話に戻します。
2週間家に閉じ込められて、缶詰のホンモスを食べていたといのは、ほんとの話ですか?
監督:私が実際に経験したのは、第二次インティファーダーの時、ヨルダン川西岸に住む友人のところに日帰りの予定で行ったのに、制圧で3日間閉じ込められたことがありました。独身男性のアパートだったので、その時にツナの缶詰しかなかったのです。その経験をもとに書きました。
― 毎日じゃいやですよね。
監督:フレッシュじゃなくて、缶詰ですからね。
◆イスラエル資金を得たが忖度しない
― チェックポイントがあることで、ほんとに皆さん苦労していますよね。
脚本を書かれた『歌声にのった少年』も、何度もチェックポイントを通らないといけなかったですよね。
監督:ほんとは、もっと面白い展開で書いていたのですが、監督がよりドラマチックなものに変更しました。
― 今回の映画は、自分で書いて監督したので、納得ですね。
イスラエルのファンドも付いていますが、最初のタイトルから、アラビア語と英語で、ヘブライ語がなかったことが嬉しかったです。資金がついていても、忖度しなくても文句はないのですね。
もしかしたら、アカデミー国際長編映画賞の代表になるかもしれないとのことですね。
監督:選ばれるかどうかが、明日判明します。イスラエルの代表になるかのか、ルクセンブルグの代表になるのかということはあります。
(注:9月下旬に、ルクセンブルグ代表に決定しました)
◆ユダヤ人もパレスチナ人も本作に足を運びたがらないのが問題
― 映画を観たユダヤ人の反応は?
監督:パレスチナ人を映画で観たくないという意識がどこかにあると思います。
観ていただいたなら、同じところで笑うし、同じレベルで理解して、いい気持ちで劇場を出ます。足を運んでもらうのがチャレンジです。
― パレスチナ人の反応はいかがでしたか?
監督:やはりなかなか観て貰えません。パレスチナ人が題材だと、悲惨な状況を見せられるのではと思うようです。イスラエルとのことが描かれているから観たくないという風潮ですね。テーマとして飽き飽きしているということがあると思います。
(C)Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artemis Productions C623
― ユダヤ人とパレスチナ人が顔を見合わせて意見を交わすという物語。両方の人にこそ観てもらいたい映画ですね。アカデミー賞の代表になれば、注目してもらえるのではないかと期待しています。
監督:まさにそうだと思います。きっと考えが変わって、観てくれると期待しています。
― 今日はありがとうございました。
取材:景山咲子
★アカデミー国際長編映画賞 ルクセンブルク代表に決定!
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