*ハビエル・フェセル監督プロフィール*
1964年スペイン・マドリード生まれ。マドリード・コンプルテンセ大学でコミュニケーション学の学位を取得。著名なジャーナリストで、監督、脚本家でもあるギレルモ・フェセルを兄に持つ。1990年代半ばにいくつかの短編を監督したのち、『ミラクル・ペティント』(98)で長編デビュー。子供に恵まれない老夫婦と宇宙人の奇妙な交流を描いたこのSFコメディで、ゴヤ賞の新人監督賞にノミネートされた。
フランシスコ・イバニェスの人気コミックを実写映画化した長編第2作のスパイ・コメディ『モルタデロとフィレモン』(03)では、ゴヤ賞の編集賞、美術賞など5部門を受賞している。その後はゴヤ賞で作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞など6部門に輝いた『カミーノ』(08・ラテンビート映画祭)を発表。『モルタデロとフィレモン』のシリーズ3作目にあたる長編アニメ『Mortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo』(14)では、ゴヤ賞のアニメ映画賞、ガウディ賞の長編アニメ賞を受賞した。
『だれもが愛しいチャンピオン』作品紹介はこちら
2018年/スペイン/カラー/シネスコ/118分
(C)Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefónica Audiovisual Digital SLU, RTVE
★2019年12月27日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて順次公開
フェセル監督はこれまで1999年、2008年に映画祭などで来日されています。今回到着してまず京都に行かれた監督、「24時間ではとても足りません。また何回でも行きたいです」とのことでした。
(通訳:比嘉世津子さん)
―明るくて元気な映画で、これまでの障がい者が主演の映画の印象をひっくり返してくれました。
知的障がいのある方というのは、世界の見方がとっても前向きです。楽しくて、キラキラと光っているものとして見ています。そういうところが自分たちに元気を与えてくれるのだと思います。
みなさんが先に辛いとか苦しいとか思ってしまうのは、たぶん彼らのことをよく知らないからです。今回は、現実の彼らの考えや行動をできるだけ出そうとしました。彼らを知れば知るほど、彼らとのコミュニケーションはほかの人よりも簡単だとわかります。なぜかというと、彼らは頭でなく心でコミュニケーションをとるからです。
―私の知っている障がいのある方も裏表がなく、嘘を言わない、純真な心の持ち主です。
みんな常に本当のことを言います。それが攻撃にならないのは、彼らが裏表なく誠実だからなんですね。今の社会は知的には発達してきたかもしれませんが、精神的には本当に愚かになってしまっています。彼らの純粋な言葉を聞く耳を持つということ、彼らがどれだけ社会に貢献できるかということが、この映画を作ったことでよくわかりました。
―今回600人もの中からオーディションで出演者を選ばれたそうですが、重要視したことはなんですか?
キャスティングは柔軟に行いました。脚本はあったのですが、最初の主な出演者は7人でした。とても面白いと思った人たちを入れたら9人になりました。たとえばグロリアです。脚本には女性はいませんでした。その中に彼らの個性、話し方、まなざし、人生の経験などそれらを入れ込みました。
マリン役のヘスス・ビダルは知的障がいではなく、視覚障がい者です。彼を入れて10人のメンバーです。
―ヘススさんが一番先に出てきた方ですね。とても印象に残りました。グロリアは予定外に入った女性メンバーなんですね。
みんなそれぞれ魅力的な人々です。
グロリアは私が出会った中でも美しい人だと思います。常にエネルギッシュで力強く、同時に優しさと大きな心を持っています。グロリアはダウン症で小柄なんですが、彼女がこのチームに加わると、物語を動かす力になるということがわかりました。
―この10人のメンバーは本当に個性的で、大きかったり小さかったり、見た目もバラバラです。意識して選ばれましたか?
もちろんキャスティングのときに似たような人はさけて、この人が唯一と思われる人を選びました。そして一人ひとりみんな違う、そういう人が一つのチームを作るところが面白いのです。
600人の人たちの組み合わせ次第で、違ってくる。いろんな物語ができるわけですね。
リメイク権を売るときにつけた唯一の条件は「ほんとの知的障がい者を採用する」ということです。それを抜いてしまったらこの映画の魂はなくなってしまいますから。
―撮影するうちに脚本が変わっていくことはありましたか?
撮影自体はなるべくシンプルに、彼らに注目して行いました。思いがけなく起こることを逃さないように努力しました。この映画の中にある面白いことの大半は、テストのときに彼らから即興で出たことなんです。それを本番に入れ込みました。だから彼らはもうこれは自分たちの映画だと、どんどんいろんなことを提案してくれるし、やって見せてくれました。
―台詞も彼らの中から自然に出てきたものが多いのですか?
キャスティングした後で書き直した脚本には、普段の言葉を入れ込んでいます。誰かを演じているのでなく自分自身であり、全てが現実のドキュメンタリーのように撮れたと思います。映画の中にグロリアが男性に「馴れ馴れしく呼ぶな」という場面があったのですが、それは実際、彼女とプロデューサーのやりとりで言った言葉なんです。
―試合のシーンがたいへん盛り上がって、観ていてハラハラしました。どんな風に流れを作って撮影されたのでしょう。
知的障がい者のバスケットボールのチームは実際にあって、彼らの試合を見ていたのですが、彼らの目的は勝つことではないんです。実力の差があったとしても、お互いにとても信頼しあっています。それを映画で見せることが目的でした。
もちろん流れというのはある程度決めてはありました。けれどもできるだけ彼らが自由にゲームをして、ほんとにそれを楽しんでいられる環境を作りました。
―バスケットボールのルールは同じものですか?
いいえ。それぞれの障がいによって違うルールがあります。たとえばボールを持ったまま走ってもファウルにならない、とか。
そしてとても面白いルールがあるんです。「20点以上入ったら、それ以降の点は相手チームに入る」というものです。
―え?? それは大きな差をつけないということでしょうか?
そうです。レベルの差がありますから、あまりがっかりさせないように。それは普段の生活でも大切な教訓になるんです。
―初めて聞きました。それでみんなが仲良く楽しんで終わるんですね。
そうそう。ですから映画のラストは私が作ったフィクションではなく、知的障がい者のチャンピオン・リーグでほんとにあったことです。2位になってもここまで来たことを喜び、相手チームが勝ったことも喜ぶ。プロのチームでは負けると自分を責めたりしますが、それと違って互いに喜び合うんです。
―日本では、親たちが亡くなった後の子どもたちのことを心配しています。スペインではその点福祉が充実しているのでしょうか?
スペインも同じです。これは世界中同じだと思います。ですから社会の中に障がい者の人たちのできる仕事、居場所が必要です。家族というよりは、社会参加の機会があり、社会の中で根付くことが一番大事です。彼らは非常に働き者で、誠実で信頼できる人たちなので、社会に対して大きな貢献ができると考えています。
―ありがとうございました。
=インタビューを終えて=
この映画が大好きで、監督が来日されると聞いてすぐに取材をお願いしました。ハビエル・フェセル監督はお髭の似合う素敵な方でした。魅力あるメンバーの1人1人について伺いたかったのですが、時間が足りず。撮影が楽しく実りあるものであったのは作品を観るとわかります。
バスケットボールのルールの違いは初めて知ることでした。勝ち負けにこだわらず、試合そのものを楽しむ姿勢はなんと素敵なのでしょう。
世界も日本も効率よくお金儲けすることばかりに走って、その間に大事なものをぼろぼろと落としてしまっているような気がします。その代表のようなマルコの姿に、いろいろと思うことがありました。最後の質問に「障がいのある子どもたちを残していく親の気持ちは世界共通、だからこそ社会の中に彼らの居場所を作らなくては」とのお答えには、深く共感しました。
スペイン語の響きは聞きやすいし、親しみがあります。ムード歌謡にもよく使われていました。覚えたら楽しそう~。どうぞ映画館で”アミーゴス”を応援してください。(取材・監督写真 白石映子)
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