ミラーライアーフィルムズ 駒谷組『King & Queen』
俳優の阿部進之介、山田孝之らが主導する、年齢や性別、職業、若手とベテラン、メジャーとインディーズの垣根を越え、切磋琢磨しながら映画を作り上げる短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」。2022年公開の『MIRRORLIAR FILMS Season2』の参加監督として阿部さん、紀里谷和明、志尊淳、柴咲コウ、三島有紀子、山田佳奈、“選定クリエイター枠”419作品の中から選ばれた駒谷揚さんにお話をお聞きしました。
駒谷揚監督 (本人提供)
[監督プロフィール]
サンフランシスコ州立大学卒業後、広告制作会社にディレクターとして勤務。
現在はフリーランスの映像ディレクターとして働きながら、長編、短編、Webなどスタイルに拘らず、様々な映像作品をつくり続けている。
長編映画「TICKET」(Chelsea Film Festivalで監督賞受賞)
2020年にスタートしたYouTubeコメディシリーズ「映画かよ。Like in Movies」は今年に入って数々の海外映画祭に入選。(Slamdance Film Festival他
―――先ず、制作のきっかけから教えて下さい。
‘20年の春に48時間以内で映画を撮るという縛りの海外映画祭があって、ちょうど自粛期間中だし家族もいるしで、みんなに打診したら即 OK だったんです。お題が出たのが金曜日。『タイタニック』の台詞「I’m King of The World!」を入れる、という条件でした。6時間で速攻、脚本を書きましたよ!弟の奥さんが妊娠中だったので、お腹の子が決め台詞を言うのも面白いかなぁと……。
金曜7時〜日曜7時までに完成させなければいけない。撮影は土曜日から。義妹は演技経験があるし、母はやりたがり(笑)。2人が中心になったら面白いだろうなぁと。
―――雪が降っていたのはなぜですか?
あの年は3月末に雪が降ったんです。それもラッキーでした!土曜はそれほど降ってなくて室内撮影。日曜はけっこう積もってて屋外の撮影に当ててたんです。順撮りではないです。ライトがないので、室内の撮影は明るい昼日中に。
母と義妹のベランダ場面、ゾンビの場面は日曜に撮りました。父と弟でゾンビの動きをよく研究してくれたんですよ。血糊を付けたり、古着を買ってきてゾンビ風の衣装に作り直したり……。
―――名演技でした!ところで、なぜ夫殺しをテーマに?
ゾンビ映画にはパーソナルな面白さがあると思っています。先ず、ゾンビが出て得をする人は誰だろう?という発想から生まれました。ゾンビに殺られちゃえばいいか!って(笑)。
―――家族からのアイデアはありましたか?
さぁ、どうでしたか……。夢中だったのであまり覚えてないんですよ。
―――特に凝った場面は?
コメディが好きなのでポジティブな感じにしたかった。逃げる時も 荷物をたくさん持って出るでしょ?ゾンビから逃げる時はたいてい手ぶらで必死こいて走りますよね?(笑)
とにかく家族全員を出したかった。 猫のキャラも込みです。ツンデレな猫なんですけど、家族でわちゃわちゃやってるから、何だろうと覗きに来たところをすかさず撮りました。
―――難しかった場面は?
父が倒れる場面は顔を写せなかったので(ゾンビメイクをしていない) カメラアングルが難しいかったです。それから 大声を出すのは1回だけと決めていました。キャーキャー叫び声が聞こえると、ご近所に、何事か?!と思われてはいけないので気を使いましたね。
―ーー撮り直したい場面はありますか?
猫を抱えて逃げられなかったことが残念でしたね。「あぁ、猫を置いてっちゃうんだ」と思われる。
でも、48時間なのでやり切った感はあります。
――ー家族ならではの逸話があれば教えて下さい。
父が倒れたり、弟が倒れる場面がある。けっこう身体を酷使するのに嫌がらずによくやってくれたました。弟が結婚して家族が増えたこともあり、撮影で更に仲良くなれました。
男性陣は演技力に自信ないけど(笑)。弟の台詞は何テイクも撮ったんですよ。弟は実演販売士なんです。だからか 本人は「やれる」と言うんですけど、カメラを前にすると照れる(笑)。
母は元教員で特別支援学校の生徒さんと舞台をやってたこともあるんです。カメラの映り方も分かってた。息子を刺す角度は難しかったけど、何度も真剣に笑わず演技してくれました。
小道具は家族の手作りです。本当に良い記念になりました。撮影時、お腹にいた甥はもう1歳 になります。
―――どんなゾンビ映画が好きですか?
うぅん、 ホラー映画は好きで、観るべき映画は観てますけどね。今回は制約ありきだったので、選択肢として先ずゾンビ映画が分かりやすく浮かんだんです。特にゾンビ映画が好き というわけでは……。
―――ホラー以外では?
ミステリやコメディが好きですね。『ユージュアル・サスペクツ』 が好きなんです。それから ウディ・アレン作品とか。 ミステリーとコメディがブレンドしたような映画が好きですね。
―――今後の予定は?
もう今回はビギナーズラックというか 奇跡だと思うんでっ! 2度目は失敗すると言うし(笑)。義妹も今は子育てが大変ですからね。自分からというのはないと思います。
―――国際映画祭など海外での反響については?
映画祭に来て観てくれるお客さんですからね。ホラーコメディと観てるんです。ブラックユーモアと 気付くのが早いんです。台詞を面白いと言ってくれる。
爽やかな気持ちになる、といった反響もありました。 女性の時代という帰結にしたからかもしれません。今は誰もが映画を作れる時代として、 良いお手本になったのではないでしょうか。
『MIRRORLIAR FILMS Season2』の参加監督 中断左が駒谷監督
☆助演女優賞並みの演技を見せてくれた母役の駒谷友子さんも、取材に参加してくれました。
―――映画制作は如何でしたか?
楽しかったです。48時間の企画ですし、台本を読む時間もなく、ゾンビの衣装を買ったり作ったり、忙しくてあっという間でしたけど、機会があればまた手伝いたいです。良い想い出になりましたよ。
―――演技といえど、息子さんを刺すのに抵抗があったのでは?
家で一番立派な包丁を使ったんですよ。実際に刺すことは出来ないから、身体から包丁を引いた映像を撮って、それを逆に再生するとか、なるほどなぁと思いました。
―――息子さんの監督ぶりは?
揚は怒ったり怒鳴ったりしない優しい子なので、不安感はありませんでしたよ。ほのぼのとした雰囲気が予想できました。
―――どんなお子さんでしたか?
昔から、近所の小さい子たちを集めてハイキングしたり、子どもたちと遊んで楽しむことが好きな子でした。”将来は保育士になりたい”と進路に書いていたこともありましたね。
私が子ども劇場の運営に関わっていたこともあって、努めて生の舞台を見せてきました。 揚が初めて字幕の映画を観たのは6歳の時の『スターウォーズ』なんです。それから雑誌「スクリーン」を買い始めて、英会話を習いに留学したり……。そういうことが全部この映画に繋がっているんですね。
★取材を終えて
半径1メートルの世界から撮りあげた手作り感満載の映画は、温かな家族愛に育まれた結晶なのだと実感しました。監督は「撮影後に大急ぎで編集しなければならなかったので、正直、撮影中のことはあまり覚えてない」そう。たかが6分といえど、短編は最もセンスの善し悪しが顕在してしまうもの。ボケの場面とゾンビが襲って来る臨場感の緩急が魅力な本作は、編集のテンポがカギです。家族の信頼と協力を得て順調に撮影し、編集に打ち込め「やりきった感がある」と語る監督は幸せなクリエイターですねぇ。映画が大好きな仲良し家族の雰囲気が、海外の観客にも伝わったのでしょう。叶うことなら、ゾンビのように何度でも甦って映画制作してほしいものです。
(取材・文:大瀧幸恵)
『King & Queen』の作品紹介記事はこちらです。
ミラーライアーフィルムズ 駒谷組『King & Queen』
<あらすじ>
夫の殺害を企む妻。
殺害方法に悩む彼女の元に、とんでもないニュースが飛び込んでくる。
世界各地でゾンビが大量発生したというのだ!
監督・脚本・撮影・録音・編集:駒谷揚
プロデューサー:駒谷揚
美術:駒谷卓、駒谷友子
音楽: 長谷川哲史
音響効果:田中航
出演:駒谷由香里、駒谷友子、駒谷秀一、駒谷海、駒谷陸斗、ノアちゃん
2020年5月完成/カラー/ステレオ/16:9(画面サイズ)/6分19秒
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