*プロフィール*
白磯大知(しらいそ だいち)1996 年、東京都出身。17歳から俳優活動を開始。役者業の一方独学で脚本を書き始める。『中村屋酒店の兄弟』が初監督作品で、数々の賞を受賞。「第30回 東京学生映画祭」グランプリ、「第2回 門真国際映画祭」作品賞・最優秀 J:COM 賞、「第11回 下北沢映画祭」観客賞。
『中村屋酒店の兄弟』
監督・脚本:白磯大知
出演:藤原季節、長尾琢磨
https://nakamurayasaketennokyoudai.com/
©『中村屋酒店の兄弟』
★2022年3月4日(金)より渋谷シネクイントにてレイトショー先行公開
3月18日(金)より全国順次公開
作品紹介はこちら
藤原季節さん、長尾卓磨さんインタビューはこちらhttp://cineja-film-report.seesaa.net/article/485701701.html
―初監督作品の公開おめでとうございます。
こんなに若い監督さんが作られたというのが意外でした。
脚本は独学でずっと書いていて、どこに出すという目的があるわけでもなく、ただ好きで短編や長編を書いていました。この『中村屋酒店の兄弟』が書き上がったときに、これは撮りたい!と今まで感じなかった衝動にかられたんです。
映像化してみたいと純粋に思って、相談できる方に話したら「じゃ、撮っちゃいなよ」って。たぶんその方も僕が本気だとはそんなに思ってなかったんでしょうけど。「ほんとに撮りますからね」と、スタッフを紹介していただいて、そこから動き出しました。
―「撮っちゃいなよ」の方は、プロデューサーさんになられたんでしょうか?
製作で入っていただきました。第一線のCM監督さんで映画に精通しているわけではないんですけど、映画を撮りたいという気持ちがあって。僕の映画作りに参加して協力していただけました。
―映画製作にはそれなりの人や時間が要りますね。何から手を付けられましたか?
それはもう、手探りの状態から始まりました。まず、紹介していただいたスタッフの中でカメラマン(光岡兵庫)さんと一番話をしました。台本上だとドラマがたくさんあるわけではないので、「じゃあまずロケ地が大事だね」とか、「どこで撮影するか大事だね」とか、この作品で一番大事にしたいものをカメラマンさんと共有しました。絵コンテも何度か描きました。
細かいことでいうと、実際にある映画の雰囲気の中で、近いものを自分たちの中で模索しながら「こういう雰囲気があるといいね」と出し合い、いろいろ探っていった感じです。
―自主映画でほんとによく作られましたね。田辺弁慶映画祭は新人監督のいい作品が集まる印象があります。応募するときのお気持ちは?
無我夢中だったっていうのが正直なところです。なんとかこの作品をいろんな人に観ていただきたい。そのときは自分のためというより、いろいろ手伝っていただいた有志の方々、限られた時間とお金の中協力していただいたので、その方々のためにもこれは出さないと、という気持ちが強かったです。映画祭の締め切り時間を気にしながらずっと編集していて「なんとかできた!もう送る!」って。切羽詰まりながらやっていました。
―それでTBSラジオ賞をいただいた。
はい。そのときにTBSの方から「せっかくなのでラジオドラマにしてみませんか」と提案を受けて作ったんです。
―本編で応募したのが受賞して、ラジオドラマが後からできたんですか。それで前のことを補うような内容なんですね。
元々同時上映しようと考えて作ったわけではないんですが、本編の前にラジオドラマを聞いて、シーンを想像していただけたら、本編を観た時に回想のように蘇ったら、より本編を楽しめるんじゃないかな、という気持ちが大きくて。
―私のように慌てる人が出ないように(笑)上映前にラジオドラマ、本編の順とお知らせを。ドキュメンタリーも続けて上映ですか?
ドキュメンタリーはイベント的な感じで別に。いろんな方に意見を伺うと、映画の世界観というか流れる時間軸に浸りたいという方もいらっしゃって。作品はすごく思い入れがありますし、僕も好きで素晴らしいと言っていただけたんですけど、急にリアルな世界に行くよりは、何か別の形でと考えています。
―映画のラスト余韻残りますものね。
そのドキュメンタリーのほうは、長く店を続けてきたご夫婦でしたが、映画を兄弟の話にしたのは、監督が創造しやすいということでしょうか?
僕が男3兄弟の真ん中の子なんです。兄が真面目で、僕からすると硬いんじゃない?って考え方を持っているんです。僕はどっちかというと「和馬」を自分に重ねることが多くて。
―次男だけど、下にもいるのでお兄ちゃんでもある。今回は長尾卓磨さんの弘文と年の離れた弟の和馬の藤原季節さんという組み合わせですが、監督の思いもいっぱい入っているわけですね。
2人の立ち姿から兄弟らしさを感じました。今回の映画で大事にしたのは、距離が近くなればなるほど、なかなか言葉で伝えられなかったり、伝えようとしてない、伝わってほしくないのに伝わってしまったり。難しい距離感というか、人間の中で生まれるそういうものが出ていればいいなと思って脚本を書きました。
酒屋さんを選んだのは、家の近くの酒屋さんが「閉店します」とあって、その後更地になってしまったんです。小さい頃に親父に連れられてよく行って、ビール1本買うくらいなんですけど、なんだかすごく強い思いが残っています。酒屋さん独特のあたたかさ、懐かしさが僕のイメージとマッチしていたので、東京から郊外までいろんなところを探して見つけました。
―ロケ地はどこでしたか? 山の風景もありましたが。
ロケに使わせていただいた中村屋酒店は赤羽にありました。家の中とそれ以外は山梨です。僕のお婆ちゃんの家がありまして、(映画の)和馬の部屋は元々僕のお母さんの部屋だったんです。
―あら、ほんとに思い出の部屋なんですね。
毎年遊びに行ってました(笑)。
―兄弟2人だと台詞が少な目ですが、ト書きはたくさん書かれたんでしょうか?
その当時はできるだけシンプルにと考えました。それは僕が役者のこともあるかもしれないんですけど。なんかこう明確に感情が書かれていたり、動きが書かれたりしていると役者さんを制限しちゃうんじゃないかなって気持ちがあります。できるだけ動き、行動だけを書いて、その中で自然に生まれる感情、細かい動作を役者さんが現場で感じるようにやっていただけたらいいなと。
―役者・白磯大知が演出された経験が、監督として役立ちましたか?
役者さんに対して基本的にリスペクトがある中で監督をさせていただいて、何ていうんですかね、人によるんですけど僕は何かを制限して追い詰めていくタイプではないと思うので、出していただくものを調整していました。「すいません、もうちょっと抑えて」とか、「もうちょっと出しちゃって大丈夫です」とかそんなことをしていましたね。僕も初めてで試行錯誤しながら。
僕は「本読み」をすごく大事にしたいなという気持ちがあって、現場に入る前に本読みでお伝えできることは全部お伝えします。何回か”頭からケツ(最初から最後)”までやって、僕の意図とかこのシーンはこういうことをやりたいとか。現場ではそこに持ってきていただいたものを、形にしていったって感じです。
―藤原さん、長尾さんとの現場はいかがでしたか?
お2人ともお芝居魅力的なので、やりとりの中で自然に生まれたものをちょこちょこっと、調整しました。現場ではお2人に支えられて…僕のことを「末っ子」と言ってくれているような環境でできたので…すごくタイトなスケジュールだったのに、季節くんや長尾さんの言葉に支えられたのが大きいです。
―どれくらいタイトだったんですか?ロケが山梨と東京と、あと電車内とかありますが。
撮影期間が山梨で2日、東京で2日、全部で4日でした。
―え!それは本当にすごいタイトです。夜中までやらないと間に合わないでしょう?
そうですねぇ。できるだけいろんなスタッフの方に協力していただいて。それこそ知り合いの役者さんや演出家とか、全然別業種の方とか、ほんとにみんなの手を借りてできた映画なんです。今思うとほんとによく4日で撮ったなって(笑)。
―お母さん役の女優さんはどういう方ですか?なんだかぎこちない認知症の感じと、「和くん」に気づいてふわっと嬉しい顔になる場面が印象的でした。
知り合いの方に相談して何枚か資料をいただいて、直接会ってから決めました。そう言っていただけることが多くてよかったなと思っています。
―さっき藤原さん、長尾さんお2人のお話を伺っていて、映画の中村兄弟、和くんとお兄ちゃんみたいと何度も思ったんです。すごくいいトリオで、またこの3人の映画が観たいです。
ははは。そうですね。
―初めて送り出す作品です。観客へひとことどうぞ。
中村屋酒店で撮った意味がすごくあると思うし、人間と人間の距離感、家族・兄弟の距離感の難しさを感じてもらえたらなと思います。
―ありがとうございました。
(取材・写真 白石映子)
=取材を終えて=
このたびも20代の若い監督さん取材でした。白磯大知監督はこの映画の撮影当時22歳だったそうです。家族の描き方を見て、もっと年のいった方が作られたのかと思っていました。短い中に、口に出せないそれぞれの想いがぎゅっと詰まって、無駄なシーンがありません。
試写のときに、冒頭にラジオドラマが入ると知らなかったので「音声」だけが続くのに驚いたのでした(プレスには書いてあったんですが読んでいなかった)。まず音だけで想像してみてくださいね。しばらくしたら映像がちゃんと出てきます。
俳優・白磯大知として『虹が落ちる前に』に「竜彦」役で出演しています。このインタビューとは全く違う表情を見せているのにびっくり。俳優さんってこういうところすごいし、面白いですね。そちらの主演の守山龍之介さんにお話を伺っていますので、こちらもどうぞお読みください。
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