『ゆめパのじかん』重江良樹監督インタビュー

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*プロフィール*
重江良樹(しげえ・よしき)監督 大阪府出身。37歳。映像制作・企画「ガーラフィルム」の屋号で活動中。大阪市西成区・釜ヶ崎を拠点に、映画やウェブでドキュメンタリー作品を発表すると共に、VPやネット動画など、幅広く映像制作を行う。子ども、若者、非正規労働、福祉などが主なテーマ。
2016年公開のドキュメンタリー『さとにきたらええやん』は全国で約7万人が鑑賞、平成28年度文化庁映画賞・文化記録映画部門 優秀賞、第90回キネマ旬報ベストテン・文化映画第7位。

『ゆめパのじかん』
「川崎市子ども夢パーク」通称「ゆめパ」は「川崎市子どもの権利に関する条例」に基づき公設民営で作られた。子どもたちが安心安全に遊べて過ごせるみんなの場所。約1万㎡の広大な敷地には手作りの遊具があり、泥んこになったり木登りしたり、やってみたいことが好きなだけできる。一角にある「フリースペースえん(以下、えん)」には学校に行っていない子どもたちが通っている。集まってくる子どもたちにフォーカスしたドキュメンタリー作品。
作品紹介はこちら
(C)ガーラフィルム/ノンデライコ
HP yumepa-no-jikan.com
Twitter https://twitter.com/yumepa_no_jikan
川崎市子ども夢パーク
https://www.yumepark.net/
★2022 年7月9日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

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―監督は映画少年でしたか?

いや、そんなことはないですねぇ。

―何に興味があって映画の道に来られたんでしょうか?

イラク戦争とかがあったときに、映像ジャーナリストみたいな一人でカメラ持って、パソコン持って発信していくのに憧れた時期があって。映像ジャーナリストコースがある映像専門学校に行ったつもりが、バリバリの映画学校で(笑)。

―予想とちょっと違ったんですね。

あれ?と思って。思ったんですけど、そこでドキュメンタリー映画に出逢い、そのほかにも映画表現みたいなものにも出逢えまして、ドキュメンタリー映画に憧れて。

―フィクションのほうではなく。前の『さとにきたらええやん』も『ゆめパのじかん』も子どもにフォーカスしています。お子様のほうにきたのは何故ですか?

20代の学生のときに「なんでも映像作品作っていいよ」という課題があって。ジャーナリスト志望で、大阪の人間なので西成の釜ヶ崎、あいりん地区に行けば何か社会性のあるものと出逢えるんじゃないかと、小型のカメラを持ってうろうろして。「こどもの里」という児童館があり、気づいたらそこにもう5年も遊びにいくようになっていました。撮影云々より子どもたちと遊ぶ方が楽しくなって(笑)。
「こどもの里」ではリベラルというか、学校で教えてくれないようないろんな社会のことを、僕も教わりました。子どもとの接点はそこですね。
30歳を前にして自分の生き方を真面目に考えたときに、ドキュメンタリーやりたいなと思い、やるなら、大好きな子どもの里でやらせてほしいなと。それで、『さとにきたらええやん』ていう映画ができました。

―いい映画でしたね。デメキンさんこと理事長の荘保共子(しょうほともこ)さんが懐が深い方で、ゆめパの代表の西野博之さんも、子どもにリスペクトする素敵な方です。

やっぱり長年現場でやられてきたかたには力があるし、みんな惹きつけられるんだろうなと。

―この「ゆめパ」にしようと決めたのは? 大阪にはこういう施設は見つからなかったですか?

大阪にもあるにはあるんですが、この規模で行政がちゃんと入って民間がここまでやっているというのはなかなかないんです。川崎市自体に子どもの権利条例があって、それの具現化ということで夢パークが作られたので、そこも魅力的というのがありました。
前の作品のときに、西野さんとトークイベントさせてもらったり、講演を聴かせてもらったりしたんです。常に子どもを真ん中において物事を考える、大人のほうじゃなくて。その根底にある理念が共通しているなということ。もう一つは実際にゆめパに行ったり、子どもたちと触れあったりしたときに、やっぱり魅力的な場だなということが決め手でしたね。

―いろんなニーズに応えられる場所ですね。

子どもの「やりたい」をできる限り応援するというところで、そこも素晴らしい。
フリースペースに行く子は、最初親が探していっしょに見学に来ます。近隣の子どもたちが遊びに来るのは自由です。禁止事項が極力なくされている公園です。焚火や泥遊びもできる。

―じゃあ、よく見かける立札なんかもないんですね。

「〇〇禁止」? 大人に向けた「飲酒・喫煙禁止」はあります(笑)。

―大人はそれがないとやっちゃう(笑)。

(笑)子どもに向けた禁止事項はほぼないと思います。ボランティアさんも含め、何人くらいかなぁ。えんにも外のプレーパークにもスタッフがいて、その人の手厚さもすごいと思いますね。外だけでも全員で8人くらいいて、中の事務所にもいますしね。

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―監督が撮影を始めるときは、どのくらいと目途をたてますか?

最初は西野さんに撮りたいんですと言って、持ち帰って相談してもらい許可をいただきました。
目途は全然立てていません。そこは自主製作なので、(制限ないのは)いいところでもあり、悪いところでもある(笑)。終わりが見えない(笑)。

―自主製作。それもクラウドファンディングなしで。今は映画業界大変じゃないですか。資金集め頑張ったんですね。

頑張ったというか、お金稼いでは撮っていくみたいな。まあね、あんまり思い出したくもない(笑)。

―あらー。でも良かったですね!ちゃんと作品ができて、劇場で観てもらえることになって。なんだかホッとします。

ああ、ありがとうございます。良かったです。

―カメラを回さずに何ヶ月か通い、3年間撮影されたそうですが、撮りながらこれは使おうとか、組み立てを考えるものですか?

撮影中も「ここや!」という場面はあって、そういうところはリストアップしておいて。例えば「リクト蟻を見つめている」とか、「ここは生かすところ」とか。
編集作業は東京で3人のチームでやったのですが、撮影素材を編集の辻井さんに投げて、整理してもらって、みんなで観てあーだこーだ言い合って・・・で、また撮って。

―自分の撮った映像って愛着があって切りにくいでしょう?

だから編集の辻井さんに任せてます(笑)。

―「え、ここ切るの?」とかないですか?

今回はなかったです。全部入れられるわけはない、とわかっているんで。同じ遊んでいるシーンにしても10個あったらその中の1つ選ばなあかんとかね。

―子どもたちがみんな可愛いかったです。最初のほうは全体の紹介で、いろんな人が出てきました。「えん」の子どもたちにフォーカスしたのは、魅力的な子たちがいたということですか?

それもあります。ゆめパは広くていろんなことをやっている施設なので、最初はその説明があり。僕は大阪から川崎に週に2回しか行けないので、「えん」では毎日来てる子もいてやっぱり接する回数が多い。接する回数が多い子の中で、魅力的とか、面白い子とか、必然的に「えん」のあの子たちになっていきました。保護者と職員の関係もできているので。
突然ゆめパに来た、魅力的やけど次にいつ会えるかわからん子はさすがに追いきれないし。
今回出ている子たちは、ほぼ毎日いました。

―不登校や発達障害のことが以前より注目されて、一般に知られてきました。「えん」のような居場所は、子どもたちやその親たちに必要です。全国に拡がってくれたらもっといいのになと。

そうですよね。やっぱりまだまだこういう場を必要としている子どもや保護者の方とかはいると思うんで、そういう人たちに届けばいいなあと思います。

―こういうところがあるんだとわかれば、作りたいと思う人のモデルになりますしね。いいお仕事をされたと思いました。

ありがとうございます。

―劇場とか、自主上映とかで全国に拡がっていくといいですね。

基本的に劇場が終わったら、自主上映になっていくと思います。

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リクトくん
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ヒナタくん

―映画に登場した子どもたちについて、今思い出すエピソードはありますか?

リクトは面白いですね。生き物にすごく興味持っていましたね。虫とか以外にも、自分の中の世界みたいなのがあって。よーく図鑑とかも見てる子でした。
ヒナタは、あのとき自分から悩みをポロっと言ったんですよ。「6年だけど、4年の勉強やってるからね、俺」って。そうそう、「中学どうすんの?」って聞いたんだった。「どうしようかな、でもさ~」って。

―ちゃんと考えてるんですね。親にもあんな風に言うんでしょうか? 監督だから、言えたのかなとも思ったんですが。

保護者の人たちも不登校であるとか、えんに来だすとあまり気にしなくなるというか、少し気持ちが楽になると思うんですね。
映画の前半で、不登校だったころの悩みとか話してくれたお母さんがいます。「とにかく将来が不安で」と。保護者の方たちの繋がりもあります。「えん」では保護者会が2ヶ月に1回だったかな。「えん」の外でも情報交換したりとかされているんで、大人の居場所でもあるなぁと思います。

―子どもに口を出さないところがいいです。「こどもゆめ横丁」も面白いし、私はあのミドリちゃんの作った消しゴムスタンプが欲しい。すごく上手ですよね。100円!買いに行きたいです(笑)!

ミドリたまに来ていますよ。
映画の中ではまつりの1回分しか出ていませんが、毎年11月の頭にやっています。

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ミドリさん
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サワさん

―みんな好きなものにはすごく強いですよね。映画を観たあと、あの子たちは今どうしているんだろうと思ってしまいます。幸せでいてほしいし、好きなことが仕事になっていけばいいなぁと思います。あの子たちの今は?

まだそんなに変わっていないですね。
卒業とかあるわけじゃないんで、急がずに。

―監督の子ども時代は、どんな風でしたか。大阪で育ったんですね。

活発なほうでしたね。大阪の団地で生まれ育って、同世代の子どもも多かったし、地域自体も子どもの多いところで。

―学校に行きたくない、なんてことはなしに?

小学生のときはなかったです。中学1年に半年くらい行かなかった時期がありましたけど。

―行けない子の気持ちが実感としてわかりますね。

そんな苦しくなかったですけどね、僕は。部屋に閉じこもって漫画読んだり、映画観たりしていました。あんまり覚えてないんですけど、母親は「どうしてん?」ってオロオロしてた記憶はありますね。

―何かきっかけがありましたか?

小学校から中学校に変わって、周りの友達も変わって、そんなこんなんがあったんですかね。
今日は行きたくねーって。完全に行かなかったわけでなくて、気が向いたら行ってた。中2になったら、小学校のときからの友達とクラスが一緒になって、また行くようになりましたね。

―誰か一緒にいるって重要ですね、やっぱり。ちょっとでもそんな体験があると、「えん」の子たちのことも理解しやすい気がします。

あんまり意識しなかったですけどね。えんの僕の最初の印象は、みんなほぼ明るかった。どこにでもいる元気な子ども。おのおのやりたいことをやってるって感じですかね。子どもっていろんなことを悩んだり、考えたりを意識的にも無意識的にもしていると思うんで。

―どこにでもゆめパがあるわけではないので、この生きづらさ、しんどさをかわす術(すべ)は何かないでしょうか? 

この映画を作った理由は、前の映画もそうですけどそういうものを必要としている全ての子どもに安心できる場があればいいと思ったからです。映画を観た人は、ここまでは無理だけどそういう居場所を作ろうかな、とか、そういうふうになってくれればいいと思う。なんかありふれてますけど、人ってひとりじゃ生きていけないので、信頼できる他者の存在が必要だと思いますね。

―これは、監督が答えを出すわけじゃなくて、こういう場所があって、こういう子たちが来ていますよ、と見せてくれることで、自分が探したり気づくきっかけになります。どの映画もそうでしょうけど、観たことで生活や考えがちょっとでも変わればいいなと思いました。

うん、そうですね。

―「こどもの持っている力」って監督は何だと思いますか?

子どもの持っている力・・・大変なことがあっても、その困難を乗り越える力。誰かと繋がろうとする力。誰かを想う力。そういうのは大人に比べたら全然子どものほうが力があると思う。

―大人はどうして足りないんでしょう?

忙しいし、疲れてるからじゃないですか?(笑)

―それって監督のことですか(笑)?
監督が大切にしていること、生きる上でも映画を作るうえでもいいですが、それは何ですか?


なるべく人を傷つけないようには生きているつもりです(笑)。
映画を作るときも一緒ですよ。なるべく相手を傷つけないように。カメラを向けることによってとか、僕が質問することによってとか、映画が公開されることによってとか。

―カメラって力ありますものね。いい方向に向けないと。

うんまあ、凶器にもなるんで。

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シネジャを読む重江監督

―次の映画も準備されているんですか?

また子どもの居場所のことはしたいなと思っています。まだまだこれからですけど、外国ルーツの子どもも増えてきているんで、そういうのもやってみたい。

―これから映画を観る方にひとことお願いします。

登場してくる子どもたちが過ごす一見無意味に見えるような、でもすごく豊かなことを考えている時間、「子どもたちのじかん」を感じてもらえたら嬉しいですね。

―ありがとうございました。

(取材・監督写真:白石映子)


―映画界に入るきっかけになった映画と、今いいなと思う映画を。

森達也さんの『A』(1998)です。
今は・・・(しばし考えて)『海辺の彼女たち』(2020)。

―『僕の帰る場所』(2017)の藤元明緒監督作品ですね。
よく見返す映画はありますか?


あんまり見返さないな(笑)。

―好きなものと嫌いなものは?

好きなものはお酒で、嫌いなものはないです。


=取材を終えて=
重江監督は眼鏡とお髭のせいか、うちの息子と似ていてなんだか親近感がわきました(笑)。この作品、子どもたちがのびのびいい顔をしていて、「学校で見せたらいいのに」と思いましたが、そうすると「学校に行かない子」が増えるかも。それくらい居心地がよさそうなのです。
私立ではこういう学校ありますよね。公立学校でも子ども中心のこんな取り組みができるようになるといいんですが、『教育と愛国』で思わず熱が入ってしまったように、日本の学校では現場の熱心な先生たちが疲弊しています。
コロナ禍が追い打ちをかけて、社会ではますます格差が拡がって子どもも大人も生きづらい世の中になっていませんか? 子どもが子どものじかんを楽しんで生きられれば、大人にもお年寄りにもいい世の中になるのではありませんか?
この映画で「ゆめパっていいなぁ」と思ったら、あなたのそばにも学校にも「ゆめパのじかん」が流れるように考えましょう。せっかちな私は「早く」をやめようっと。(白石)

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