映画『イントロダクション』&『あなたの顔の前に』日本公開記念
シン・ソクホ オンライン舞台挨拶
シン・ソクホ オンライン舞台挨拶
3年連続ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞で注目の名匠ホン・サンス監督の新作『イントロダクション』と『あなたの顔の前に』が、6月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほかで全国公開されています。
詳細:公式サイト:http://mimosafilms.com/hongsangsoo/
公開初日6月24日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町での『イントロダクション』18:15の回上映後、主演俳優シン・ソクホが初日舞台挨拶としてオンラインで登壇しました。
●シン・ソクホ プロフィール
1989年6月15日、韓国、ソウル生まれ。ホン・サンスが教授として在職している建国大学映画学科で学ぶ。ホン・サンス監督作品では、『正しい日 間違えた日』(15)にスタッフとして参加し、『草の葉』(18)『川沿いのホテル』(19)に出演、『逃げた女』(20)では猫の男を演じ、『イントロダクション』(20)で初主演を飾った。『あなたの顔の前に』(21)では、主人公サンオクの甥スンウォンを演じている。その他の出演作は、ホン・サンス監督のプロデューサーを務めてきたキム・チョヒの監督デビュー作『チャンシルさんには福が多いね』(21)、イ・ドンフィ主演の『グクド劇場』(20、未)など。
初主演を飾った『イントロダクション』では、将来に思い悩みながら、父、恋人、母と再会を果たしていく青年ヨンホを演じた。
『イントロダクション』作品紹介
『あなたの顔の前に』では、イ・ヘヨン演じる主人公サンオクの甥スンウォンを演じ、重要なシーンで登場している。
『あなたの顔の前に』作品紹介
◆シン・ソクホ オンライン舞台挨拶
日時:2022年6月24日(金)『イントロダクション』 18:15の回上映後
会場:ヒューマントラストシネマ有楽町 スクリーン1
MC:ミモザフィルムズ 大堀知広
通訳:根本理恵
MC:スペシャルゲストとして、『イントロダクション』主演のシン・ソクホさんをオンラインでお迎えしております。 2作品の字幕をご担当いただいた根本理恵さんに通訳をお願いしております。
シン・ソクホさん、こんにちは~
シン・ソクホ:(日本語で)初めまして。『イントロダクション』の主役を務めましたシン・ソクホです。よろしくお願いします。
MC:お忙しい中、今日はありがとうございます。
ソクホ:今日はお招きいただき、皆さまと同じ空間にいることができて光栄です。
★途中で主演だと知らされた!
MC:本日は初日の上映に駆け付けてくださいましたお客様に、より作品を楽しんでいただきたいと思い、いろいろとお話をお伺いしたいと思います。
シン・ソクホさんは、ホン・サンス監督が教授として在職している建国大学映画学科で学ばれて、ホン・サンス監督作品には、『正しい日 間違えた日』(15)にはスタッフとして参加され、『逃げた女』などに出演され、今回は主演を務められています。どのような経緯で主演が決まったのでしょうか?
ソクホ:実は今回も特別な状況ではなくて、以前出演したものや、スタッフとして参加した時と同じように、気楽に参加しました。今回も俳優というよりスタッフという比重が大きいと思って参加していましたら、途中で、監督から「ヨンホの出演場面が増えるよ」と言われて、今回は主演なのだと知ることになりました。
MC:最初は主役だと知らずに参加されたのですね。
ソクホ:監督の撮影方法というのが、すべてのシナリオを事前に渡すのではなくて、その日その日に渡してくださいますので、誰が主演で誰が助演なのか前もってわからないのです。今回も撮影前に主演だというお話はなかったので、少しだけ出演するのだという気持ちで参加しました。
★主役と知ってプレッシャーより責任感が沸いた
MC:あとから主演とわかったとのことですが、別のプレッシャーは感じられましたか?
ソクホ:今回主演だと知らずに現場に入りましたので、気楽に参加しようという心構えでした。以前のように今回も楽しい作品を作ろうという気持ちでした。途中で主演だと聞きましたので、僕にとっては初めて経験する状況でしたので、言葉で表現できないくらいとてもプレッシャーを感じることになりました。けれども、ホン・サンス監督の現場は僕自身親しみがありましたし、スタッフの皆さんやまわりの俳優の先輩の皆さんもアドバイスしてくださいましたので、プレッシャーというよりも頑張ろうという責任感のほうが大きくなりました。
MC:撮影の段階では映画の全体像がわからない状況だったとのことですが、完成した『イントロダクション』を初めてご覧になった時は、いかがでしたか?
ソクホ:スタッフとして参加した作品と違って、今回は俳優として、しかも主演として参加しましたので、違った印象がありました。初めて完成した作品を観た時には、観客の目で見るよりも、出演した側として観ましたので、もっとここは頑張ればよかったとか、こうしたらよかったとか、個人的にそういう部分を探しながら観ました。
★酌み交わすお酒は本物
MC:ホン・サンス監督の作品といえばお酒が欠かせない存在ですが、本作でも第三章でヨンホたちがお酒を飲むシーンが印象的でした。ここで出されているのは実際のお酒だと聞きましたが、本当でしょうか?
ソクホ:そうですね。ホン・サンス監督の現場では、俳優たちは、実際にお酒を飲んで演技をしています。過度な演技を引き出すために無理に飲ませるということはないです。あくまで俳優本人がコントロールできる範囲でお酒を飲みながら演技しています。途中でこれ以上、お酒を飲んだらダメだなと判断したときには、監督からカットの声をかけてくださいます。
MC:映画の中で、ヨンホはあまりお酒に強くない役柄でしたが、ソクホさんご自身はいかがですか?
ソクホ:僕自身、まわりの人たちと一緒にお酒を楽しむのは好きなのですが、実際のところ、お酒はちょっと苦手です。監督は僕があまり飲めないのをご存じでしたので、無理に飲ませようとはしませんでした。自然の演技ができるように、少しだけお酒が入ったような感じで演技ができるように仕向けてくださいました。焼酎でしたら、ボトル半分くらいの量でした。
★キスシーンへの戸惑いは理解できる
MC:役者を志していたヨンホが、どうしてもラブシーンが演じられなくて役者をやめたことが明らかになって、俳優がカツを入れるのですが、このシーンを演じられて、ヨンホの気持ちをどのように理解されましたか?
ソクホ:俳優として僕が考えるには、もしかしたら自分自身の言い訳に聞こえてしまうかもしれないのですが、愛する人がいる状況だったら、悩むこともあり得ると思います。悩むに値することだと思います。僕自身も愛する人がいますので、悩んでしまうのは事実です。なかなかほんとうのことが言えないと思います。これが正しくて、これは違うといえないような気がします。映画の中では、ヨンホはその時の気持ちを言ったのだと思います。僕の考えも少し入っています。あの場面では感情移入できました。
★真冬の海に入り、しがらみを洗い流した思い
MC:ラストシーンで冬の海に飛び込んでいくシーンが切なくて印象的だったのですが、3月ごろに撮影されたと伺ったのですが、寒かったのでしょうか?
ソクホ:撮影した日は、ほんとうに寒くて風が強かったことを覚えています。あのシーンについては、撮影のために海に行ったのですが、散歩をしていたときに、監督から「ヨンホが海に入るのはどうか」と提案がありました。「いいですね。とてもきれいなシーンになると思いますよ」とお話したのですが、撮影の最後の日に、実際に「ヨンホが海に入る」と脚本に書かれていました。とても寒くて波が強かったので心配していたのですが、いざ撮影がスタートして実際に海に入ったら心配はなくなりました。ヨンホが以前に抱えていたいろいろなしがらみを海に入って洗い流すような気持ちでした。ヨンホを演じてきた本人としては、寒いというより、今までのヨンホのしがらみを洗い流せてさっぱりしたという気持ちでした。
★当日渡される台本、展開かだんだん楽しみに
MC:ホン・サンス監督のその日に撮影する台本を当日渡すというユニークな演出方法は、演じる俳優の立場としては大変なのでしょうか? それとも面白いものなのでしょうか?
ソクホ:正直いいますと、役者にとっては面白いとはいえないです。当日台本をもらうわけですから、台本を見た時には、はたしてできるだろうか、ご迷惑をかけるのではないだろうかという心配のほうが多かったのですが、段々慣れてきまして、プレッシャーよりも、今日はどんな内容が書かれているのだろうと楽しみになってきました。シナリオをその日にいただくと、まるで本を読んでいるような気持ちで演じることができるようになりました。時間が経つにつれて慣れてきて、面白いと思うようになりました。
◆会場からの質問
- 台詞の言い回し方が、普段のしゃべり方よりもすこしゆっくりといいますか、どの映画もホン・サンス監督の映画という雰囲気を感じます。監督からはどのように台詞を話すようにという指示はあるのでしょうか?
ソクホ:監督から台詞をゆっくり話してくれということは僕の記憶ではなかったです。その日に渡された台詞を覚えて演技がスタートすると、監督がそこは変だなと思わない限り、また、監督の意図とは違うと感じない限り、止めることはありません。監督からこうしてほしいと強い希望があるときには、こういう状況だから、こんな風に話してくれと事前に簡単な説明があります。そういうやり方でいつも撮影しているので、現場で急に指示をするということはありませんでした。
― 映画とても面白かったです。海の場面はご説明を聞いてそういう状況だったのかと思いました。ホン・サンス監督の生徒さんだったとのことですが、監督に憧れている生徒さんはたくさんいて、スタッフとして参加したり俳優として使ってほしいと思う生徒さんも多くいると思うのですが、ソクホさんが監督に抜擢されたのは、どのようなところが気に入られたのだと思いますか? 思い当たることはありますか?
ソクホ:もしかしたら自分のことを自慢してしまうかもしれないのですが、学生だった当時、ホン・サンス監督の講義のクラスで班長を務めていましたので、その姿を見て、責任感を持ってやっていると思っていただけたのではないかと思います。自分がホン・サンス監督の弟子だというのは恥ずかしいという面もあります。
― 楽しく拝見しました。スタッフとして、俳優としてホン・サンス監督の映画に参加されてきたシン・ソクホさんからみて、ホン・サンス監督の映画作りの現場の面白さはどういうところにあると思いますか?
ソクホ:僕にとっては、もはやホン・サンス監督の現場が標準値で、それが僕にとっては通常の映画の現場として親しみを感じています。ほかの一般的な現場にはない、例えば次の日はどんなことがでてくるのだろうという期待を持たせてくれる現場です。ホン・サンス監督から映画作りに対する姿勢や心構えや信念を学びました。ホン・サンス監督は映画を単なる手段として考えているのではなくて、純粋なものと考えています。同じ映画を作る者としてたくさんの影響を受けています。映画を作るときには、最初に、ほんとに簡単なシノプスで、どういう映画なのかを説明してくださるのですが、ほんとうに簡単です。これがテーマだということを最初から与えるのではなくて、観る人にとっても、映画を観て、感じて心を動かして貰えればばいいという思いで、僕たちにも簡単に説明するのだと思います。
MC:お話ありがとうございました。残念ですがお時間になってしまいました。最後にひとこと会場の皆さんにご挨拶をお願いします。
ソクホ:映像を通してご挨拶させていただき嬉しく思っております。また『イントロダクション』のような素晴らしい作品をもって、実際に日本に行ってご挨拶できる機会があればと思います。
(日本語で)来てくださってありがとうございます。おやすみなさい。
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オンラインでしたが、シン・ソクホさんの真摯に映画の現場に携わるお人柄を感じることのできたひと時でした。今後の出演作を楽しみにしたいと思いました。
また、ホン・サンス監督の、その日その日に台本を渡すという映画作りのスタイルが、俳優にとっても新鮮で、作りこんだものでない即興的な面白さが観客にも伝わってくるような気がしました。
ホン・サンス監督の作品に流れる独特の空気感が生まれる秘訣の一旦を知ることのできた舞台挨拶でした。
取材:景山咲子
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