『Blue Island 憂鬱之島』公開直前トークショー!!

2022.7.16(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開される『Blue Island 憂鬱之島』の公開を記念してトークイベントが開催された。『乱世備忘 僕らの雨傘運動』の陳梓桓(チャン・ジーウン)監督の長編2作目。クラウドファンディングで資金を集め、香港と日本の共同製作の形で映画ができあがった。

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登壇者:陳梓桓(チャン・ジーウン)監督/オンラインにて参加
森達也(映画監督)、堀潤(ジャーナリスト) 通訳 サミュエル周


トークゲストには、香港からオンラインでチャン・ジーウン監督が参加。そして香港デモを実際に取材し監督にもインタビューをしている堀潤さんと、同じく映画監督として現在も映画を撮り続ける森達也さんは本作をどう観たのか?
7月1日(2022)、香港が英国から中国に返還されて25年、そして香港国家安全維持法から2年を迎えた現地では何が起きているのか。

『Blue Island 憂鬱之島』作品概要
自由を求め続け、彼らが辿った激動の記録。
2014年、香港の若者たちが未来のために立ち上がった“雨傘運動”の79日間を描いた『乱世備忘 僕らの雨傘運動』でチャン・ジーウン監督は、「20年後に信念を失っているのが怖いか?」と出演者に問いかけた。その言葉は監督自身への問いかけでもあったが、運動直後のやる瀬ない思いが憂鬱さとなり島を覆い、想像を超える急激な変化の中で、20年を待つまでもなくチャン監督は自らその問いに答える必要に迫られることとなった。雨傘運動を先導していた者たちが逮捕され、市民が沈黙したことで、この島の民主主義や自由への道のりを、より深く再考しなければと本作の制作を思い立つ。一国二制度が踏みにじられた香港社会は混乱を極め、コロナ禍の影響もあり窮地に陥りながらも、香港が内包する不安と希望を描いた衝撃作『十年』のプロデューサーであるアンドリュー・チョイ、若き政治家の葛藤を描いた『地厚天高』を制作したピーター・ヤムと共に、クラウドファンディングによるたくさんの方の応援もあり、2022年ようやく完成を迎えた。20世紀後半、“文化大革命”(1966~1976年)、“六七暴動”(1967年)、“天安門事件”(1989年)と世界を震撼させた事件に遭遇し、激動の歴史を乗り越えてきた記憶。そして現代、香港市民の自由が急速に縮小してゆくなかで、時代を超えて自由を守るために闘う姿をドキュメンタリーとフィクションを駆使してより鮮明に描きだす。この映画は、自由を求めるすべての人々とあなた自身の物語でもある。(プレス資料より)
シネマジャーナルHP 作品紹介 『Blue Island 憂鬱之島』

監督・編集:チャン・ジーウン
プロデューサー:(香港)ピーター・ヤム アンドリュー・チョイ/(日本)小林三四郎 馬奈木厳太郎 
撮影:ヤッルイ・シートォウ 音楽:ジャックラム・ホー ガーション・ウォン 美術:ロッイー・チョイ
字幕:藤原由希 字幕監修:Miss D 
製作:Blue Island production  配給:太秦 
2022|香港・日本|カラー|DCP|5.1ch|97分
『Blue Island 憂鬱之島』 公式サイト    

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©2022Blue Island project

香港・日本合作映画『Blue Island 憂鬱之島』公開直前!! 
2022.7.13 トークイベント at LOFT9

日本側プロデューサー小林三四郎さんが総合司会し、もう一人の日本側プロデューサー馬奈木厳太郎弁護士を紹介。 
小林三四郎さん「香港を密室にしない、それが私たちの役目。2017年の山形で、プロデューサーのピーター・ヤムさんから協力を依頼され、この作品実現に取り組みました」
馬奈木厳太郎さん「民主化問題、意識があったわけではない。弾圧が激しくなるなるなかほっておけなかった。日本では選挙があって自分たちの意見を表せる。その権利を当然だと思っているが、それがあることをかみしめる。香港のように自分たちの批判が認められない立場になってしまうかもしれないということを考えてほしい」

二人の話のあとダイジェスト版の上映。その後トークへ

*日本公開されるにあたって

陳梓桓(チャン・ジーウン)監督 2017年に、この作品の構想が生まれました。文化大革命から香港に逃れた人たち。海を渡って香港へ。あの頃、香港は自由の地だった。1989年の天安門を逃れた学生たちも香港へ。物語のほうは2019年の学生代表だった人が演じています。1967年の“六七暴動”では、英国(香港)に生まれたのに、なぜ祖国英国に逆らう。「私は中国人だ」と主張。愛国は罪にならずと自分の正しさを人々に伝え続けました。実在の人物の経験と、その時代を演じる若い時のその人の姿を物語仕立てで組み立てました。日本の皆さんの応援で出来上がりました。
前作の『乱世備忘 僕らの雨傘運動』は香港で自主上映できていたけど、これはもう無理ですね。今作は香港では上映できない状態ですが、日本で公開されるのはありがたいです。
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堀さん この作品はドキュメンタリーの部分とドラマを融合させていますが、その構想はどのように生まれたのでしょう。

陳監督 ドキュメンタリーとドラマをミックスしたのは、ドキュメンタリー映画の可能性を追求するため。ドラマ仕立てにすることで30年前、50年前のことを再現ドラマであらわすことができる。チャレンジでもある。真実との間に開きはあるが、個人の記憶をたどって実現させた。過去の人たちが直面した困難と現在の困難は似ている。出演者も役者ではなく運動家。自分たちが直面したことに置き換えて考えてもらうことにもなった。

森達也監督 ドキュメンタリー軸に撮っている。手をかけるということは現実をいじることにもなるが、実に見事な編集だった。ドラマを入れることで言いたいことを語ることもできる。

*香港でのドキュメンタリー映画事情

陳監督 香港では80年代、90年代、ドラマが中心で、ドキュメンタリーを撮る人がいなかった。今の香港の状況によってドキュメンタリーを撮る人が増えてきた。今を記録するということが大事。香港が変わっている状況、どうしてこうなったのかリアルに知ることができる。タイムリー。この時にしか撮れない。これからも撮ることが
できるかはわからない。

森監督 陳監督の前作『乱世備忘 僕らの雨傘運動』製作総指揮のビンセント・チュイさんは大事な友人。2017年香港のインディペンデントの上映会で香港に呼んでもらった。香港であちこち飲み歩いて話をした。この状態をその時は想像もせず、ここまで規制されるようになるとは思わなかった。

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堀さん 経済に負けない香港人に教えられた。雨傘革命の時、上の世代は冷ややかだった。あなたたち日本人も自由が奪われるのはすぐですよと言われ、教わった。経済と自由を問うシーンがあったけど、声を上げ続けている香港人ですが、負けたのかどうなのか。

陳監督 運動によって成果は得られたかというと、それは失敗。しかし、この運動によっていろいろ考えられるようになった。お金のことばかりからアイデンティティに目覚めた。自分たちが求めているものを考えるようになってきた。2017年、2015年の映像は、今、撮ろうと思っても撮れない。6・4の追悼もできなくなってしまった。一夜にして可能だったことを失ってしまった。いろいろな反応があるけど自分たちがすることはスタンダップ。沈没する船の中でも輝きを。

森監督 「勇気」ということを考える。こういう映画を撮っていて大丈夫なの? 大丈夫と言っていたけど、どうなんでしょう。

陳監督 今のところ、こういう映画を撮ることによって逮捕というのはないけれど、今後、安全ではなくなる可能性があるかもしれない。蘋果日報(りんごにっぽう)、立場新聞(香港民主派ネットメディア)なども廃刊や停止に追い込まれた。インディペンデント映画祭なども、今は活動できなくなっている。自己規制してしまい、リアルな香港を撮れるか、また資金を集められるかなどの問題が出てきている。
しかし、そのままではいられないので、最近『時代革命』の周冠威(キウイ・チョウ)監督らとともに「香港自由電影宣言」という声明に参加しました。

*民主主義とは

堀さん 民主主義の精神は何をさすと思いますか

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陳監督 香港は民主主義を追い求めてきたけど得ることはできませんでした。民主主義とは個人の自由な思いを表現できることだと思います。制度ともいえるけど、一人一人の精神が大事。イギリスや日本は選挙制度はあるけど、自分が持っている権利を行使しなければそれは活用できません。

森監督 人を傷つけない、傷つけられない世界を築いて権力を監視するメディア、弱者を助ける。あなたたち自由に映画を撮れるじゃない、自問自答しながら撮っていくしかない。自分が知りたいが出発点。ドラマ、ドキュメンタリー、そんなに違いなはい。「知りたい、記録したい、撮り続けて発信し続けたい」

陳監督 香港で生まれ育った。激変する香港を撮り続けたい。リアルタイムで撮って発信したい。メジャーは取り上げない香港を撮り続けたい。香港とは何か、どう生きていくのか。それを見い出し世界に発信したい。香港の歴史、今の香港が直面している状況を認識してほしい。

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森監督 香港での自主規制。日常的に始まっている。弱い立場の人たちが行動を起こす時、暴力が出てしまう。平和的なデモ、歌など、こういうことをやっていても実現することができないと過激な方向に進みがち。どこも似たようなことがあると思う。民主主義は多数派の意見を反映することと言われているが違う。「マイノリティの声を反映する」それこそ民主主義だと思う。

堀さん 日本や世界の人たちができることは。 

陳監督 雨傘革命、世界各地から応援の声があった。世界各国の人に関心を持ってほしい。忘れないでほしい。今の香港の若者たちに関心を持ち続けてほしい。

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まとめ・写真 宮崎暁美


*参照 シネマジャーナルHP記事
スタッフ日記
●香港返還25年  大雨だった1997年7月1日を思う 
http://cinemajournal.seesaa.net/article/489403875.html
 
特別記事
●『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017にて   2017年10月11日
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellowing/index.html

●『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
陳梓桓監督インタビュー(日本公開時)2018年07月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460641864.html

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