*プロフィール*
ダニエル・ロペス(監督・脚本)
スペイン系スイス人。2003年より沖縄に拠点を置き、映像作家、写真家として活動している。2016年『カタブイ‐沖縄に生きる‐』2020年『KAKERU 舞台の裏の物語』を監督。2022年に完成した『ウムイ 芸能の村』は3本目の長編ドキュメンタリー作品。
エバレット・ケネディ・ブラウン (Everett Kennedy Brown)
アメリカ、ワシントンD.C.生まれ、在日30年の写真家、文筆家、日本文化研究家。2003年にEpa通信社日本支局を設立し、10年間支局長を務める。また、日本有数のサスティナブル・ラーニングセンターであるブラウンズフィールドを設立。アーティストとして、幕末明治時代の湿板光画に対する革新的なアプローチで知られ、その写真は海外の主要美術館のパーマネントコレクションに所蔵されている。(HPより)
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(C)VIVA RYUKU
―ダニエル・ロペス監督と写真家のエバレット・ブラウンさんがゲストです。
本日お越しいただいたお客様に監督からご挨拶をお願いいたします。
監督 みなさんこんにちは、今日は『ウムイ 芸能の村』を観に来てくださってほんとにありがとうございます。この映画はコロナの時に撮影したんですけど、芸術とかアートは特に大事と思います。映画館にも行けなくて、舞台もできなくて、だから監督として沖縄の芸能を映画に残したい。舞台に上がれない出演者たちの「気持ち」、沖縄の言葉で「ウムイ」を聞きに行って、この映画になりました。
―エバレット・ブラウンさんがいらっしゃいました。
エバレット・ブラウン(以下ブラウン) (監督へ)おめでとうございます。
―ではここからお二人にお任せしてトークのほう、進めていただければと思います。エバレットさんからお聞きしたいこと、感想など監督へ。
ブラウン わかりました。いやー、感動しました。聞きたいこといっぱいあるんです。まずは映画祭にいくつも選ばれたんですよね。
監督 そうですね。結構選ばれました。最初は東京ドキュメンタリー映画祭で賞を獲って、ドイツのニッポン・コネクション、フランスのトゥールーズの映画祭、それからカンボジア国際映画祭にノミネートされて、ほかの映画祭は返事待ち。
海外では沖縄のことがあまり知られていないことにびっくりします。だから海外で沖縄の伝統芸能を紹介できることが、とても嬉しいですね。
ブラウン 海外ではどういう評価があるんですか?
監督 沖縄の文化や伝統が知られていないから、獅子舞の印象がとても強い。ドイツに獅子舞を連れて行った。
ブラウン すごい面白かった?
監督 うん。獅子のイメージは中国の文化でちょっと派手です。映画の中で拓也さんも言っていますけど、見守る神様のイメージです。彼らは(獅子に)入るとき、出るときもそう、とても大事にしています。ドイツでもドイツ人のスタッフも一緒にみんな集まって祈ってから入る。場所もちゃんとお祓いして。私いつもこれを観ると感動します。
ブラウン 映画の中で獅子がいろんなところを歩いているので・・・最初からそういう想いがあったんですか?
監督 ないです(笑)。最初に神社に行って、(獅子への)入り方を見たときにほんとに真面目で。本人が「入ったら自分がなくなる」って言っています。今パンデミックだから、映画の中で宜野座村に行って「邪気のお祓いをする」というインスピレーションがきて、追加撮影をしました。場所は直感で決めて、綺麗な映像と獅子が映画のつながりを作りました。
ブラウン いやすごい。考えさせられるところですね。よくあるような質問なんだけど、この映画を作るのは何がきっかけだったんですか?
監督 きっかけはさっきも言ったんですけど、パンデミックでみんなが舞台に出られない。がらまんホールの小越(おごし)さんが、「ドキュメンタリー作らないか?」「みんなに会いに行って話を聞こう」と言って出かけました。長い「ユンタク(おしゃべり、会話)」して、お茶して、その人たちの想いを聞きました。私は沖縄のことばが好きだから、前の映画も「カタブイ(晴れている片方で降る雨のこと)」、今回は「ウムイ」。エバレットさんと共通点ありますね。
ブラウン そう、何?このタイミング~!?(笑)これがもう不思議ですね。
監督 説明してもらえますか。
ブラウン 僕は去年の10月に「ウムイ」という写真集を作りました。ちょうど撮影している最中、現場で、居酒屋でヤギの刺身を食べながら同じ「ウムイ」をテーマにしているんだって、ちょっと話題になったんです。
だけど、僕たちは日本人でもないし、沖縄人でもないのに、どうして?みなさん「ウムイ」っていう言葉、この映画を観る前にわかりましたか?ちょっと手を挙げてください。はあ、ほぼ、ほぼ知られていないんだ。
これは、監督はもう十分映画に表したんですけど、言葉でいうと「ウムイ」って何?
監督 難しいね。やっぱり英語に通訳するといろんな言葉が出てくるね。気持ちとか、自分の想い、感じることとか、内面にあるものとか、結構いろんな意味があります。日本語は一言で言えないいろんな意味が入っていてすごく面白いと思います。
沖縄の言葉はウチナーグチ、もう50歳以上の人しか喋れないと言われています。言葉は使わないと消えていくけど、沖縄には唄三線があります。唄はみんなウチナーグチ。
沖縄の人はもちろん、海外の人まで喋れないけど歌える。芸術、アートとして残っていて素晴らしいと思っています。それはほかのところで観たことがない。
ダニエル・ロペス監督
ブラウン 映画の最初のほうに猫が歩いているところがあります。けっこうボロボロの顔だったけど、三線を聞いて立ち止まって座って、なんかいい気持ちになって(笑)。あれ感動しました。
監督 比嘉さんの家ね。この映画はおなかすいたときに観ないほうがいいと思う(笑)。
あの奥さんの作る美味しいオムレツとかね。
映画を撮る前に行って珈琲飲んで話したんです。三線を聞いて風が吹いて・・・あれは「癒し」。それを感じると分かち合いたい。自分の感じた気持ちを観客に見せたい、その瞬間、時間を。今回はその雰囲気ね、猫がいたりとか、風とか。だから音はすごく大事にしました。
みなさんのいいところをたくさんもらう、話してくれることに感謝の気持ちしかない。あの人たちがいないと映画ができません。
沖縄はすごい、寛大さがある。人の家に行ったらどうぞカメカメ。食べて、食べて、これ食べてとか(笑)。スケジュールとかいつもつぶれてる(笑)、長くなる。でも楽しい、とても!沖縄の面白いところ。
ブラウン あのデブちゃんいいねぇ!
監督 心誠(しせい)くん?もう中学2年生?3年生だっけ?大きくなってます。彼は相撲もやってます。舞踊ももちろん続けていますが、困ること一つあります。大きくなって衣装が入らない(笑)。新しい衣装買わないといけない。
ブラウン 彼が何か食べているとき、さりげなく後ろの子にあげてる。それがいいね。
監督 つながりね、それも。
お父さんから息子へとか、師匠から弟子へとか継承する。これすごく大事。
ブラウン ところどころ感動するシーンがあった・・・お父さんと中学生の娘と釣りに行く。あれ、普通行かないでしょ?
監督 そうですね、私もすごく仲のいい2人だと思いました。だいたいお父さんを好きと思うけど、中学生になってもね。彼女は今高校生だけど、すごい仲いい。
お父さんのことを、日本語で言う「背中を見る」?それがすごい。自分も息子がいるんですけど、言うことはきかないけど、私のやることは見ている。伝統芸能も同じこと、一緒。
心誠(しせい)くんもお母さんが琉球舞踊をやっていたから、彼はずっと見ていた。子どものときはおじいちゃんと一緒にいたから、自分の家庭からそれを受け取る。で、続く。
エバレット・ブラウンさん
ブラウン じゃちょっと次の話題にいきましょ。2人で同じ時期に「ウムイ」をテーマにして作品を作った。わ~、なんだろうね?
監督 ね、すごいタイミングでした。二人宜野座の美味しいところで食べながらウムイの話してたの、ヨーロッパでは撮影始まるときに特に何もしない。これうまく通訳できないけど、日本は神社や神様のところで無事をお願いする。沖縄は御嶽(うたき=神事を祈るところ)で挨拶する。次の日、そこで法螺貝の音がしたの。そしたら友達(松永正剛)が「あ、これはエバレットさんだ」って。エバレットさんが隣で撮影をするところだった。その前に法螺貝を吹いてた。なんでこれをしますか?
ブラウン あの~ちょっとマニアックなことなんだけど、その場所には古い記憶が残っているの。それで呼び起こすのに、法螺貝を使っている。一応修験道の経験があるので。だからその場所に宿っている神とか、ご先祖様の記憶を呼び起こして撮影しようと。写真集持ってきたので、ご興味のある方は割引きしますんで(笑)。ご覧になってください。
法螺貝を吹くと思いがけないことが起こるんですよ、不思議に。それを写真に現しているので。
監督 目には見えないところね。
ブラウン そう。そうですよ。これどうしてもこの場を借りて言いたかった。どうも日本から見ると沖縄は「リゾートとか、基地問題とか、戦争の頃は可哀想だったなぁとか」ずっとそういう想いばっかり。でも実際に沖縄に行くと、沖縄の人々が持っている心を伝えていない!これが「ウムイ」の写真集を作るきっかけだったんです。たぶん同じ?
監督 同じ。陰と陽というか。
沖縄はドキュメンタリーでもいつも社会問題で、米軍基地とか。今回はもうみんな疲れているから心を癒す映画を作りたかった。(問題は)映画の中にも出てきても、でも直接じゃない。みなさんの日常生活が一番大事と思います。
ブラウン そうです。
―時間があっというまに経ってしまいまして、そろそろ。まだ延々とありそうですが。
よろしかったらみなさん写真を撮る時間を設けたいと思います。SNSなどで「観てきたよ~」と記念に撮って発信していただければと。
ここから撮影タイム
*ブラウンさん「僕、一応写真家なので」とスマホを取り出す。「すごく面白いー!これいいね!」と客席を撮影。
ブラウン なんか別の場所でしゃべりたいんですよね(笑)。
監督 ロビーにいますから。
―写真集もパンフレットも今日はもれなくサインがついてきます。
みなさま今日はどうもありがとうございました。
サイン中の監督
(写真・まとめ:白石映子)
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