『カムイのうた』劇場公開前のトークイベント!

ピリカウレシカ アイヌ文化と知里幸恵さんの魅力

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9月2日(土)東京ビックサイト「@GOOD LIFEフェア2023」会場にて 
トークイベントに登壇した 左から菅原浩志監督、吉田美月喜さん、島田歌穂さん、木原仁美・知里幸恵記念館館長

映画『カムイのうた』の北海道先行公開(11月23日)と東京での公開を控え、9月1日(金)~3日(日)に開催された朝日新聞社主催の「GOOD LIFEフェア2023」でトークイベントが実施されました。
本作で主人公テルを演じた吉田美月喜さん、主人公の叔母イヌイェマツを演じ主題歌も担当した島田歌穂さんに加え、本作のモデルである知里幸恵の記念館館長である木原仁美さんと、本作で脚本も担当した菅原浩志監督が登壇。「ピリカウレシカ アイヌ文化と知里幸恵さんの魅力」をテーマにトークショーが繰り広げられ、映画公開に先立ちアイヌ民族についての歴史や貴重な話が語られました。
*「ピリカウレシカ」とは、ピリカ=GOOD、ウレシカ=LIFEというような意味で、「快適な暮らし」、「良い暮らし」というようなことだそうです。

『カムイのうた』のロングバージョンの予告編も本会場で初お披露目され、更に劇中でも披露されているアイヌ民族の楽器・ムックリ(口琴)を吉田美月喜さんが披露し、アイヌ民族に口承されてきた歌謡形式による叙事詩ユーカラを島田歌穂さんが歌いました。島田歌穂さんが歌った時には、吉田美月喜さん、菅原浩志監督が竹片を木の枝でたたき楽器にし3人のコラボになりました。さらに木原仁美知里幸恵記念館館長による本格的なムックリの演奏まで披露され、アイヌの伝統的な伝承文化を堪能することができました。

全てに神が宿ると信じ、北海道の厳しくも豊かな自然の中で暮らしてきたアイヌの人たち。その生活や文化は和人が入って来た事で奪われてしまった。生活の糧である狩猟やサケ漁が禁止され、住んでいた土地を奪われ、アイヌ語も禁止された差別と迫害の歴史。
そんな中でこの映画は、口承で伝えられてきたアイヌ民族の叙事詩ユーカラを日本語訳し、「アイヌ神謡集」を完成させた知里幸恵さんの実話がベースになっている。幸恵さんがモデルのテル役を吉田美月喜さんが演じている。

『カムイのうた』トークイベント
アイヌ文化と知里幸恵さんの業績、吉田美月喜さんのムックリ演奏と島田歌穂さんのユーカラ披露も!

映画公開に先立ち「ピリカウレシカ アイヌ文化と知里幸恵さんの魅力」をテーマにトークが展開された。

主演の吉田美月喜さん(20)は、アイヌ民族の血を引くというだけで希望する進学を阻まれたり、差別的な待遇を受けたテルを演じた。知里幸恵さんはユーカラを日本語に訳した「アイヌ神謡集」を完成させた1922年(大正11年)、19歳の若さで亡くなった

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吉田美月喜さん:この映画に携わるまで正直アイヌ文化をあまり知らなくて、今年(2023)1、2月に北海道東川町を中心に行った撮影前からアイヌ民族の歴史、文化など、役を演じるうえで必要なアイヌ文化を1から学ばせていただきました。
その中で一番驚いたのは、叔母役の島田さん演じるイヌイェマツが床にお茶をこぼしたときに言った「床の神様は喉が渇いていたんだ」というセリフです。
床にも神様がいるという考え方にびっくりしました。アイヌの方は全てに神が宿っていて、その神の中で自分たちは助けられて、生かされているという考えを凄く大切にしていて素敵だなと思いました。
実在された方を演じるのは初めてだし、自分の知らない文化を学びながら説得力のある作品にしなければいけないというプレッシャーもありました。アイヌ文化をしっかり伝えていくには自分が一番理解しなくてはいけないし、知里さんのこともイメージしながら臨みました。撮影時は私もちょうど19歳で、知里さんが亡くなられたのと同じ歳。幸恵さんはどう思っていたんだろうとしっかり考えながら演じたと、19年という短い生涯を送った主人公に思いを馳せた。

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島田歌穂さん:私も全てのものに神が宿っているという考えは本当に素晴らしいと思います。1番、驚いたのは、床にお茶をこぼしてしまった時「床の神様は喉が渇いていたんだ」というセリフと即答。日頃、ぞんざいに扱ったり、邪魔だなと思うものにも1つ1つ命が、神が宿っている。その考えがまさにそのセリフに象徴されていると思ったと吉田さんに同調。父親が北海道出身だという島田さんだが、「本当にアイヌの文化や歴史について知らなかったなとおもいました。アイヌの方々の考え方、色々な境遇にも負けずに自分たちの文化を守っていく生き方に感銘を受けました。
テルの叔母イヌイェマツ役の島田歌穂さんは、作曲家である夫の島健氏が作曲した主題歌「カムイのうた」のほか、ユーカラも歌唱する。

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菅原浩志監督:この作品は、北海道の雄大な自然や動物たちも登場します。
「ピリカ」というのは素晴らしいとか、綺麗とか、Goodという意味、「ウレシカ」は人生、Life、生活と言うような意味です。「ウ」は互いに、「レシカ」は育てるなので「互いを育てる」=Life(生活)というのが語源です。すごく意味深いと思います。
映画を作るにあたってアイヌのことを勉強したのですが、非常にたくさん教わることがありました。今までどうしてこんな大切なことを教わってこなかったんだろうと感じました。
先住民として独自の生活、文化を築きながら、和人が入って来たことでそれを奪われ、生活の糧である狩猟、サケ漁が禁止され、住んでいた土地も奪われ、アイヌ語が禁止されるなど、アイヌ民族は差別を受け続けてきた。
北海道の地名はアイヌ語が起源のものが多い。アイヌ民族が北海道中に住み、地名に意味を込めていたか。和人が入ってきて、その名前の上に全部漢字を書いていって、アイヌの文化、歴史が書き直されてしまった。
さらに、見た目だけじゃなくて本質は一体何か、その裏の本当の意味は何かということを我々は見ていかなくちゃいけない、そのことをアイヌ民族たちが教えてくれた。我々も12年前には「原子力明るい未来のエネルギー」と大きな看板を掲げていた原発が爆発しているわけです。我々が思っていたことが実際はそうではないということを、考えなければいけない時代がが今。そのきっかけになるのがアイヌ民族であり文化です。

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トークのあと吉田美月喜さんが、この映画のため学んだというアイヌ民族の楽器ムックリを生演奏した。撮影が始まる前から教えていただいて、家でも練習をしました。撮影が終わっても家でやるんですが、やればやるほど知らない音が出る。ちゃんと表現できたかわからないけど、主に撮影させていただいた東川町をイメージして演奏してみましたと語った。

菅原監督は「アイヌは自然と共存してきた民族。とても自然をリスペクトしています。ムックリは自分で作ることができるくらいシンプルですが音がなかなか出ない。こんなに音がでるのはすごい」と吉田さんをほめ、島田さんは「本当にとても上手に演奏されていました」と称えた。

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さらに、独自のアイヌ文化とも言えるアイヌ民族に伝わる叙事詩ユーカラを島田歌穂さんが生披露。アイヌたちは神話や英雄の伝説、自然界の動植物や神など多様な事象を文字ではなく、語り手の表現、語り口による表現方法で語り伝えてきた。ユーカラは長いものだと数時間、何日も続くものもあるが口伝えで継承されてきた。島田さんは「小鳥の耳飾り」という曲を披露。監督と吉田さんは30㎝くらいの長さの竹を木の枝のような棒でたたき、吉田さんが合いの手を入れたりしてて参加。島田さんの素敵な歌声が会場中に響き渡った。

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島田さんが謡ったユーカラ「小鳥の耳飾り」について、内容を話せば長くなるのですがかなり切ない話ですと語っていた。全国の民謡を歌っていますが、ユーカラは今まで聴いたことがない初めて聴く音楽。リズムといい、メロディといい未知の世界。でも、懐かしい感じのする音楽でした。

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このあと、知里幸恵さんのめいの娘で知里幸恵記念館の館長を務める木原仁美さんがアイヌ民族衣装で登壇。「19歳で亡くなった人におかしいんですけど、血縁としては大叔母さんです。今年は知里幸恵生誕120年、1923年発行の『アイヌ神謡集』出版100年で節目の年。この年に映画が公開されて、さらに幸恵が注目されると思います。さらに世界にまで広がっていければ嬉しいです」と語り、持参したムックリを奏でてくれた。やはりベテランの音の響きは違う。音の連弾のよう。まるでいくつものムックリがつらなうように音が重なって音が伝わってきた。
木原さんは風の音や熊の鳴き声など、自然界の音を想像して弾いてみましたと語り、
アイヌ民族は「カムイ」と言って、全てのものに魂が宿ると考えています。人間に役に立つものは全て「カムイ」なんです。火、熊、船等々、いろいろなものが神様になります。その神が見ているから物を大切にすること、命をいただいたものを全て余すことなく活用するという考えで生きています。またアイヌは文字を持たないので、記憶力がすごく良かったと聞いています。ユーカラも耳で覚えて1度聞いたら全て覚えるほどだったとと、アイヌ民族の考えや知恵などを語った。

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最後に、菅原監督は「アイヌ神謡集」について、知里さんがその序文を19歳で書かれているのですが、本当に素晴らしい名文。北海道の歴史、アイヌ民族の歴史、彼女の想い、将来どうしたいかということが凝縮された2ページなので、ぜひ読んでいただきたい」と絶賛。この映画の中でもこの序文を映像で表現して‎います。知里幸恵さんがスクリーンで蘇ってほしいという思いでこの映画を作りました。また『日本の先住民族の文化を伝えるだけでなく、いじめや差別のない社会をと言う願いを込められています。
また、取材時に出会ったある子どもたちの話を例にあげた。「氷が解けたら何になる」という質問に、普通は「水になる」と答えるのですが、アイヌの子どもは「氷が解けたら春になる」と答えました。その感受性、自然を大切にし自然と共に生きてきた彼らの心を我々も学んでいきたいと思います。ぜひ、映画をご覧になって吉田さんの素晴らしい演技、島田さんの彼女でしか歌うことができない歌をご覧いただき、そしてアイヌ文化に触れるきっかけになっていただければ嬉しいです」とメッセージを語り、イベントは終了しました。


公式HPより
アイヌの心には、カムイ(神)が宿る――
学業優秀なテルは女学校への進学を希望し、優秀な成績を残すのだが、アイヌというだけで結果は不合格。その後、大正6年(1917年)、アイヌとして初めて女子職業学校に入学したが土人と呼ばれ理不尽な差別といじめを受ける。ある日、東京から列車を乗り継ぎアイヌ語研究の第一人者である兼田教授がテルの叔母イヌイェマツを訊ねてやって来る。アイヌの叙事詩であるユーカラを聞きにきたのだ。叔母のユーカラに熱心に耳を傾ける教授が言った。「アイヌ民族であることを誇りに思ってください。あなた方は世界に類をみない唯一無二の民族だ」

教授の言葉に強く心を打たれたテルは、やがて教授の強い勧めでユーカラを文字で残すことに没頭していく。そしてアイヌ語を日本語に翻訳していく出来栄えの素晴らしさから、教授のいる東京で本格的に頑張ることに。同じアイヌの青年・一三四と叔母に見送られ東京へと向かうテルだったが、この時、再び北海道の地を踏むことが叶わない運命であることを知る由もなかった…。

出演:吉田美月喜、望月歩、島田歌穂、清水美砂、加藤雅也
監督・脚本 菅原浩志 プロデューサー:作間清子 主題歌:島田歌穂
製作:シネボイス  
製作賛助:写真文化首都「写真の町」北海道東川町  
配給:トリプルアップ 
Ⓒシネボイス 上映時間:125分 公式サイト:kamuinouta.jp
2023年11月、北海道先行公開

監督・脚本 菅原 浩志
『ぼくらの七日間戦争』『写真甲子園0・5秒の夏』『早咲きの花l『ほたるの星』『北の残照』『ヌプリコロカムイノミ』
この『カムイのうた』は東川町が企画協力し製作。

取材を終えて
このイベントのあと、いくつかのブースをまわってみましたが、興味深いブースがたくさんありました。まず最初に向かったのが、この映画で企画協力している写真の町として有名な北海道東川町のブース。ジャムや米などの特産品が並んでいましたが、このブースの中で、ちょうど、この映画をもとにしたコミック(春陽堂書店より9月6日に発売)を書いた、なかはらかぜさんがサイン会をしていました。それで、普段アニメなどは見ないのですが思わず買ってしまいました。 
コミック「カムイのうた」が9月6日に発売!

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著者のなかはらかぜさん

「アイヌ民族の抒情詩ユーカラ」という言葉を初めて聞いたのは50年以上前の中学生の時、それ以来、アイヌ民族の文化がずっと気になっていたのですが、5年くらい前に平取町にある二風谷アイヌ文化博物館に行ってきました。その時に東川町にも寄りました。
そのユーカラを日本語口語に訳したのが知里幸恵さんという女性で、19歳で亡くなったというのは全然知りませんでした。その方をモデルに描いた映画『カムイのうた』を早く観てみたいです。

*スタッフ日記に、少しだけこのイベントのことを載せています。
シネマジャーナルHP スタッフ日記 
退院して、少しづつ活動始めています(暁)
http://cinemajournal.seesaa.net/article/500612667.html
取材 宮崎暁美

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