『99%、いつも曇り』瑚海(さんごうみ)みどり監督インタビュー

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*プロフィール*
瑚海 みどり(さんごうみ みどり)1972年生まれ。神奈川県出身 俳優、声優として活動中。2020年より映画制作を学ぶ。
映画美学校にて脚本・監督術を学ぶ。
宇治田隆史氏の「自分で思ってないことを書いてはダメ。自分が本当に思っていることを書いてください」という言葉を忠実に守っている。
好きな映画:『戦場のメリークリスマス』小学生のときに観て、デヴィッド・ボウイの写真集を買って学校にも持って行ったほどお気に入り。

監督作品
『ヴィスコンティに会いたくて』(2021年)
THEATER ENYA×佐賀県LiveS Beyond映像作品募集企画 第1回演屋祭金賞
監督・脚本・主演
https://www.youtube.com/watch?v=iRaenuTs1gk
『橋の下で』(2021年)
監督・脚本・主演
Amazon Prime Videoテイクワン賞審査委員特別賞
https://www.youtube.com/watch?v=LQqvEw1nKcM

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『99%、いつも曇り』
監督・脚本・主演
https://35filmsparks.com/
第36回東京国際映画祭「Nippon Cinema Now」部門上映作品。
★2023年12月15日(金)よりアップリンク吉祥寺にて上映中
作品紹介はこちら

白:TIFF(東京国際映画祭)での『橋の下で』上映を見逃してしまって、瑚海監督の作品を拝見するのはこの映画が初めてでした。
15年前に「アスペルガーじゃない?」と言われたことがこの映画を作る力になったそうですね。


監督:ある劇作家の演出助手についてた時、「私もアスペルガーだけど、あんたもそうだと思うよ」と言われたんです。ええ!って。
私の認知としては、アスペルガーって「才能のある人」。才能あるけれど、凸凹しているからちょっとバランスが悪くて、コミュニケーションがうまくいかないこともあるっていう印象でした。
自分ではそこまでではないけれど、「変わってる」とは言われがちだったんですが。気にしていたときにワークショップでの飲み会で「私アスペルガーなんですけど、瑚海さんもたぶんそうですよ」と急に言われたんです、アスペルガーでしょと当事者から2回続けて言われたので、いよいよそうなのかもしれないと。

白:調べたことはないんですか?

監督:調べたことはなくて、今回映画を作るにあたって、自分はどうなのか、とオンラインでテストがあるじゃないですか、調べたりしたらそこまで(はっきりした)のは、いかなくて。だけど、IQを調べたりすると、いいところはぐんと良かったりするんです。ただ数学は全くダメなんです。零点とっちゃったりするような。でも英語はよかったり。

白:おんなじです。語学や、絵とかもの作りとかはいいんですよね。

監督:やっぱりそうなのかなと思ったんですよ。耳から入って来たものはどっかへいっちゃうんですけど、ビジュアルは残る。名前言われても忘れるけど、名札がついていると覚えていられる。

白:映画として面白くしなくちゃいけないから、脚色しますよね。どこらへんが監督の体験かな、ここはフィクションかなとつい思っちゃいまして。

監督:水道出しっぱなしでどっか行っちゃうはないです(笑)。

白:私はお鍋をよく焦がします。そばにいても他のことをしていると集中しすぎて匂いがするまで気づかなかったり。忘れ物も多いです。

監督:火は気をつけていますが、集中しがちっていうのはありますね。(そういう傾向が)母親から来たかなと、一緒に暮らしていて思うんです。母親もよく何の気なしにいやなこととか、ポンポン言うので。「そういうところがアスペルガーだって言ってんのよ!」と最近はこちらが言ってますね(笑)

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白:調べると「自分のせいじゃない」と落ち着くかもしれないですよ。脳の回路が違うそうなので自分ではどうしようもないじゃないですか。この映画でも就職で苦労する場面があってすごく共感しました。うまくいくといいなぁと。

監督:私も役者をやめていたこともあるんです。何か他にあるんだろうかと行ったり来たり、踏ん切りをつけてここまで、映画を作るところまでくるには時間がかかったんですよ。グラフィックデザインの事務所に勤めたこともあって、うろうろウロウロするんだけども、やっぱりここなんだっていう風に戻ってきて。書いたり、ものを作ったりすると評価されて、また厳しいことを言われたり、傷ついたりするんじゃないかとすごく怖かった。やっと、年取ってそんなこと言ってたら死んじゃう、と。4年半前くらいに、私頭蓋骨骨折してるんです。
 
白:交通事故で?

監督:酔っ払って自転車に乗ってバーン!とぶつかって。

白:あらー!自損ですね。

監督:自損なんですよ。うちの近所でやっちゃったので、警察が来て「これ飲酒運転ですよ」って言われたらしいんです(記憶がない)。目が覚めたら「処置終わりましたよ」って。こっちは「え、なんですか?」、べろんべろんに酔っぱらってて「うっ、気持ち悪い!」みたいな状態で。こんな生き方していたら死んじゃうなと思って覚悟を決めまして。
頭蓋骨割れた(!?)状態でオーディション受けに行って、受かって「映画出る!」と2週間で退院しました。もっともっとやらなきゃいけないと思って。
その時なんでそんなに反省したかというと、友達が言うには酔っ払って「F●●K YOU!」てずっと言ってたらしいんです。それはおそらく自分に対して言ってたんだろうと。その、自分がうだつがあがらずにいることとかで、自分にイライラしていたんだろうなと。で、覚悟を決めたんです。

白:監督、独演会やれます!面白いです。(笑)!

暁:そんな風に行ったり来たりした経験が、きっとこの映画に生きてます。東京国際映画祭の挨拶でも「ある程度年齢がいってから監督になりました」とおっしゃっていましたが。そういう経験があって映画を作っているから、若くして作った人とは違う重みというか、深みがあります。
しかも、監督で役者でもあるということで、自分の作りたい思いと演じる思いが一致してうまくできているなと思いました。

監督:ありがとうございます。ま、リアルではありますよね。本人が感じていることを自ら演じているから、脚本読んだだけで何かやるよりも、自分がやりたい微妙なところを投影してできます。
これから、自分じゃなくほかの俳優にやってもらうときに、どれだけ監督として演出できるのかっていう怖さはあるんです。
映画美学校にいたときに、「違う人にやってもらった方がいい。自分が演じないで監督することを勉強しなさい」って、みんな先生も言ってたんです。一回だけ同期の子とホラー映画を作ったんですけど、自分が出ていた方が面白くなるんじゃないかな、と思ったんです。自分の映画だったら、主役じゃないにしても、どこかで自分が出ていた方が「私カラー(色)」が少し出ると思うので、やっぱりいつかどこかで、そういう風にやっていきたいなと。

暁:カメオ出演じゃなくて。主役じゃなくても、主役を食っちゃうような感じの役者さんっているじゃないですか。それがいいと思う。

監督:夏木マリさんが『ピンポン』っていう映画で、近所のおばさんをやっているんです。主役は男の子たちなのに、そのシーンがものすごく焼き付くみたいな。

暁:そういう演技になるんじゃないかなと予想します。
白:目指すところ?

監督:目指すところです。次回の話、まだ誰もお金を出してくれるとか、プロデューサーもついていないんですけども、考えているのがあって。そこもなぜかやっぱり自分が主役で(笑)、おばさんなんだけれども。そういうのを考えています。誰か脚本を気に入ってくれたら、ほかの人がやってもいいと思う。

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白:この映画はどんな風に作られたんでしょうか?

監督:昨年の令和4年に、コロナ禍で何か芸術作品を作るのであれば応援しますよ、というAFF(ARTS for the future!)2があったんです。AFF1がその前の年にあって、もう一年やるらしいというのを耳にしたんです。1は尺(長さ)の規定がなかったんですが、2は「60分以上」で映画館で上映しなくちゃいけないというルールがあったんです。それだったら、人に観てもらったほうがいいし、中編で中途半端になるよりも長編で本気で挑んでいかなきゃと。
一昨年これ(Amazon Prime Videoテイクワン賞)がありましたが、2位の私には助成金はない。でもその勢いで何か作らないと。美学校も1年でやめちゃったので誰にも強制されないから作らなくなっちゃう。人って何かないとやらないんですよね。ヤバイなヤバイなと昨年の1月くらいから考えていたんですが、お金の当てがない。ちょうどその時に助成金の話が入ってきました。思えば思うほど情報が入ってくるんですね。で、企画を立ち上げて・・・。
私、冬になると寒くて動けなくて(笑)ホットカーペットの上でゴロゴロしてyoutubeとか見ていたら、アスペルガーの人たちの動画がいっぱいあったんです。生活ぶりとか、こんなヘマしましたとか、生きづらいですよねとか。これは私がやるっきゃないでしょ!15年もスマホにアスペルガーって入れてるんだから~!(そのころアスペルガーでしょと言われた)って。
2月くらいからだんだん固まってきて、二階堂さん(夫の大地役)には「俺も出してくれよ」って言われてて、ちょい役でなくもっと濃い役を、「あ、旦那さんで行こう!」と。
3月~5月にかけてば~~っと脚本を書きあげました。その後も改稿は何度も何度もしたんですけど。助成金の申請はまたyoutubeで勉強して(笑)。

白:youtubeえらい!(笑)

監督:えらいでしょ(笑)。こんな書類を出すとか、いろんなこと教えてくれるんですよ。なんとかかんとか、いろんな人の見て申請しました。企画もフィックスしてきて、全部一人でやって。
手伝ってくれるって言ってくれたんですけど、もし思う通りにいかなかったとき、きっと人のせいにするなと思ったんです、自分が。それでパンクしそうになりながら自分でやっていました。助成金がおりるとも何とも返事が来ないうちに、どんどんキャスティングしてしまって(笑)。秋にはお金があると思うので、と全部ブッキングして(笑)。7月くらいからロケハンも。撮れるかどうかわかんないけど、先走ってやっていました。

暁:撮影そのものは何月ですか?

監督:9月半ばくらいから9日間でやったんです。

暁:え、9日間で!
白:場所はそんなにあちこち行ってないですね。ご町内って感じで。

監督:彼女の閉鎖的な、クローズドの世界を描きたかったので。もっといろんなところへ行けばよかった、という人もいたんですけどそれだと開放されちゃうわけです。この人は開放されてない。この人って(笑)私ですけど。一葉はずっと家で悶々としてるとしたかったので。
唯一出かけるのが、あの里親のセンターにちょこっと電車乗って行くだけ。

白:この舞台は・・・
暁:(エンドロールにある)フィルムコミッションは府中とか国分寺になっていましたよね。近くに住んでいました。


監督:あ、そうです。府中で。ロゴを入れておいたほうが、道路や土地の使用許可が出るみたいなことを言われて。

白:どこだろうと思ってつい地名のわかるものとか探しますね。電信柱の住所とか、看板とか。

監督:どこでわかるかというと、電車に乗っているとき「国分寺」どうのこうのと言ってるんですよ。あれでわかる人はわかるんです。ほんとはあそこ削りたかったんです。どこかわからない土地にしたかったんですけども、ちょうど音がすごく良くって。いいか、わかっちゃっても。どっちにしろJR乗ってるし。

白:地名がわかって、納得するだけなんですけど。オタクですね。

監督:そこでどういう生活が営まれているか想像しますよね。

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白:一葉さんって結構強烈なキャラクターで、髪とかファッションとか派手ですね。あのモヒカンヘアにはびっくりしました。

監督:あれになる前はこういう全然スラっとした(今のような)頭をしていました。青い髪の人とか、ファッションが奇抜な人が多いんです、こういう傾向の人は。やっぱりビジュアルが得意だから。
それでいこうと思ったときに、髪型どうしようか、ただの刈り上げじゃ面白くないなとこれになったんです。パーマかけて。

白:面白い方に行くんですね(笑)。

監督:私の選択がね(笑)。

白:より面白い方へいった髪が伸びるまで、ほかの仕事に差し支えなかったんでしょうか?

監督:両方刈り上げているので、普段は下ろしていました。2か月後くらいにお母さん役が来たんですよ。中は伸びてないんですけど、大丈夫ですか?って聞いたらパーマものばすから大丈夫ですよって。それでお母さんやってきましたけどね。

白:お母さん役もされるんですねえ。

監督:普通にやってますよ~(笑)。これはワンシーンなんですけども、映画24区の作品で、片岡仁左衛門さんの息子さんの千之助さん(初めて主役)のお母さん役で、「あんた、もう。ちょっといい加減にしなさいよ~」なんて言っています。
*<ぼくらのレシピ図鑑シリーズ第3弾>『メンドウな人々』(安田真奈監督)

白:綺麗な息子と綺麗なお母さんじゃないですか。

監督:またまたぁ~(笑)

暁:今回のを観た後、そちらを観ても同じ人だとは思えないかもしれない(笑)。

監督:そうかもしれないです。髪も全然違うし。

暁:この写真(授賞式)を撮って、その顔のイメージで『99%、いつも曇り』のチラシを見たら「あれ?この人かな、違うかな」って(笑)。

監督:髪型ってすごく印象変えますよね。この頭やってから気に入っちゃって、くるくるパーマです。

白:一葉さんはもちろん、ほかの方々も個性的で面白いです。

監督:ありがとうございます。私自身がマイノリティ…と言っちゃアレなんですけど、そういう人を気に掛ける傾向もあって。ホームレスのオジサンに弁当買ってきて「おっちゃんも大変だよな~」なんて言ったり、一葉もそういう傾向がある。

白:いろんな人を呼んでカレー食べちゃったり、ね。
人当たりいいというか、いろんな人と付き合えるのはアスペルガーの人のイメージと違いますね。

監督:でも私は人見知りなんですよ。それが転じてわけわかんない方へいっちゃう(笑)。

白:お母さんの話は出てくるけど、お父さんは全く出てきませんね。

監督:早くに亡くなっちゃってるという設定です。私の父も2年前に亡くなっているんですけども、私の中では母親っていうのはものすごいキーパーソンなんです。いろんなことに口出して煩いわりには、見守っているのか?
と思えばまたやいやい言ってくる。いいのか悪いのか、わからない存在。

白:親ってそんなもんですよ(笑)。

監督:そんなもんですかね?(笑)なので、母親がキーになる。

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白:この旦那様が父親代わりみたいな気がしたんです。年もすこし離れている大人で一葉の保護者のような感じ。

監督:前の旦那さんをイメージして書いているんですけど、すっごく優しい人だったんですよ。

白:(ぼそっと)なんでそんないい人と別れたの? って近所のおばちゃんみたい。(笑)

監督:そうなんです。それ、別れた後に本人も言ってましたよ。「なんで僕たち別れたんだろうね」って。別れた後も仲良しだったんですよ。ただ向こう再婚しちゃったので、退きまして、やいやい言わないようにしようと思って。
ほんとに大事にして可愛がってくれていたので、そういう意味では自由にさせられ過ぎて我儘になって別れちゃったんですね。
彼が見守ってくれているという、そこのところを入れていますね。

白・暁:いい旦那さんでえらいと思いました。なかなかいない。

監督:いいよねー。その、前の旦那さんが言っていたのは「可哀想と可愛いが、一緒って僕は思っていて」。私を見て可哀想と思うのは「わけわかんないけどバタバタしている」とき。それがなんか可愛いと。8歳離れていたんですけど妹というよりは、子どもみたいに。
一葉もそんな風に若いときに出会って、子どもっぽいままでいられるんです。

白:「ちゃん付け」、違った!「君付け」で呼んでいましたね。

監督:大地君。私も君付けで呼んでたんです。思いっきり自分の生活を反映してる(笑)。

暁:社会の中で「結婚したら子どもがいて当然」みたいな周りからの圧力があって、子どもができない夫婦にとっては悩みであるということがありますが、この映画でも「やっぱり子供がほしい?」ということが出てきます。最後は「私たちは私たちでいいんだ」って落ち着いたのでホッとしました。人の意見に左右されずに自分の意思で決める。そういうところが20代、30代の若い人たちにアピールするんじゃないかと思います。
「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」っていう言葉があります。「産むか産まないか、いつ何人の子どもを持つかを自分で決める権利」という意味らしいですが、何も突っ張った主張はしていないし、監督がそう思ってなくてもそれに辿り着いた映画でもあるなと思いました。

https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/1st/2-8h.html

白:(暁へ)その言葉使うのやめなよ(笑)。
暁:私も使いたくないのよ、覚えられない英語だから(爆)。


暁:そういう「産むか産まないかを人に左右されず、自分で決めることが大事」ということをアピールできる映画だと思うんです。今でもあの叔父さんのようなことを言う人はいますよね。悪気はないまま言っちゃう。

監督:ものすごく日本の教育にも感じるところがあって、戦後もう一回日本を立ち直らせようとして、おんなじ方向を向いてわーっと働かされて高度成長してきた。もともと日本って、抑え込んでいるような教育というか、先生が一方的にしゃべってそれを子どもたちはノート書くだけ。お互いにコミュニケーションをとったり、私の考えはこうです、と言えない状態で今まで来ていると思うんですね。
だから、個性っていうのをないがしろにしてきている。産めよ増やせよという政策をとってきて、人間を人間として扱っていないような、コマみたいに。

暁:出生率がどうのこうの、とか。

監督:数年前も子どもを産まない女性は(LGBTカップルも)「生産性がない」って。

暁:今でもこういうことを言う人がいるんだ、とびっくりしました。

白:それも政治家ですからね。

監督:ああいうことを普段から軽口叩いているから、言っちゃうんですよ。

白:あとから撤回しても遅い。嘘つけと思ってしまう。
(政治の話題で盛り上がる)

白:詐欺の話もちゃんと出しましたね。時流の話題。
いろんな人との間に壁を作らない一葉さんがすごくいいです。

*ここで(暁)が登場人物を勘違いしていたことが発覚して、しばらく登場人物の説明が続く。監督はちゃんと描きわけています。

白:そういう人たちが、ひとつところに集まってカレー食べているというのがいいです。あんまり観たことがない珍しい風景で。

監督:映画でなんか気になるのが、たとえばアスペルガーの人を取り上げたら、その人以外はみんな普通の人でその人だけを浮き上がらせる、みたいな。それ、嘘だと思うんですよ。だって周りにもっといろんな人いるじゃないですか、そこが日本の映画のイヤなところ。だからできるだけリアルに…リアルかって言ったら全員がマイノリティみたいなことはなかなかないわけですけど。
でも、一葉は日常こういう人たちと付き合って生きているんだ、ってところを描きたかった。

白:わざとらしくなくて、一葉ならこうするだろうって自然な流れだったんです。だから好きな映画ですね。

監督:いい方にとらえていただいてありがとうございます。「そんなことあるの」って言う人もいますが。

白:「そんなことあるの」って言ったら、映画って「そんなこと」だらけですけど。

暁:それを「映画的」っていうね。それが映画の中で自然に存在しているように表現できるかっていうのは全然違うよね。


白:私は、監督が「見える化」していると思ったんです。黙って外に見えないようにしている人は、きっといっぱいいるから。映画は間口を広げてくれたはずです。

監督:ありがとうございます。事件がどこででも勃発したらそれは映画的になりすぎちゃうけど、事件としては一個くらい。なんとなくバラバラしている人たちが集まってそれぞれ暮らしてる。

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白:あのセンターの対応も、雨の中一葉が足引きずりながら出かけたのに、担当者に電話一本かけたらどうなの、って思いました。ああいう目に遭ったことが?

監督:中身は違う話なんですけど。
区役所って登録すると稽古場として使わせてもらえるんです。更新のときに、メンバーのハンコを捺してもらわないといけないんですが、コロナでもあるしそれができないので、問い合わせて確認して「免許証のコピーとか送れば良い」写メ持ってったんです。そしたら窓口に出てきたおばさんが、「ハンコがない」と言うので、それは電話で確認したと説明しても、何回も同じことを言うんですよ。「じゃ私が文房具屋でハンコ買って勝手に捺せばいいんですか。そういうことじゃないでしょ。担当の方に聞いてください」って言ったら、「今回は大丈夫です」って。なんなの、この人って。それで、「10秒数えて」どころじゃない、どんどん強くなって言っちゃいましたよ(笑)。

白・暁:あれ面白かった(笑)。
白:「アンガー・マネージメント」ですね。実際には?


監督:普段ですか? やらないで言っちゃいますね(笑)。でも今は抑えられるようになりました。

白:一葉さんは怒るほうに行くんですね。

監督:黙るほうですか?

白:黙るほう。いちいち言っちゃってたら(人間関係破綻してしまう)、私は今ここにはいません(爆)。

監督:「なんでもかんでもポンポン言わないで、少し考えてから言うことにしろ」って前の旦那さんにも言われてました。

暁:いろんなエピソードがきっと経験したことなんだろうな、それが生きていて面白く観られました。

監督:リアルっぽいですね。ほんとのことじゃないの?って思いました?

白:はい。小説もそうですよね。経験を元に脚色して作っていくし。映画は、2時間でおさめるのに多少都合よくなることもあるでしょ。この映画はいろんな人が出てきますが、あまりに突拍子もないようなことはなくて身近にあることを入れ込んで上手にまとまっていると思いました。

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監督:とっても大事なセリフを他の役者が言い間違った箇所があるんです。私はお芝居中で聞き逃していたんですが、助監督の女の子が「このセリフ合ってます?」って言ってくれてわかった。
そこは2字違いで、全然意味が違っちゃうんです。セリフの意味はすごく大事にしているので彼女がいてくれてほんとによかった!
熱の入ったお芝居が続いていたので、同じものは撮れない。どうしよう~とすごい騒いでいたんですが、整音の人に頼んでそこだけアフレコにして、うまく合わせてもらいました。

白・暁:全然気づきませんでした。
白:いいこと聞いちゃいました。
暁:整音ってそういうことができるんだ!


監督:じっくり見ていると口の動きが合っていなかったりするんですけど。でも観客は別のところを見るだろうと(笑)。
実はもう1箇所あって、そっちは整音で削ってもらったんです。冒頭で甥っ子が一人出てきます。一葉が「うるさい!」と怒っています。その子と最初の公園の女の子は姉弟にしていたんです。一周忌のところ、最後の楽日の撮影だったんです。参加した女の子が、撮影が始まる前に怪我してしまって登場できなくなりました。それで設定を変えることにして、みんなでわーわー話しあって、3時間くらい押しました。
怪我が治ったので、やっぱり出てもらおうと公園の女の子の部分を追加撮影しました。台本は10分くらいで書いて(笑)。

白:まあ香港映画みたい(笑)。

監督:一葉の変な「ぶり」もわかってインパクトもありました。
話が長くなったんですけど、子どもたちがいるっていうことの体(てい)で先に撮ったので、居酒屋の場面で「子どもたちと遊ぶ」って言っているんですよ。台本は「子と遊ぶ」だったんですけど、言いにくいから二階堂さん「たち」をつけちゃってる。それは編集で気がついて、今度は減らすんです(笑)。

白:編集って面白いですねー。映画は9日間で撮って、そんなアクシデントがあっては、編集には時間かかったでしょう。

監督:編集はですね。急いで作って音楽つけてもらわなきゃいけない、みんなに見せなきゃいけない、っていうのがあったんで、うわーっと10日くらいでしました。実は撮影が終わって疲れちゃったので、これから編集に入るのに何かはずみをつけたいと思ってディズニーランドに遊びに行ったんですよ(笑)。そしたらコロナになっちゃって(笑)。

白:なんでそんな余計なことを(笑)

監督:そうそうそう(爆)。そしたらもう家にいるしかなくなって、1日15時間くらい編集して。で、10日間であがった。

白:缶詰になって逆に良かったんですね。あれ?熱は出なかったんですか?

監督:出たんですけど、集中するとものすごい集中するから、ずーっとやってましたよ。面白いものはできたと思うんですね。ちょっとずつちょっとずつやるよりも、一気にやったほうがいい。

暁:編集も自分で全部? 全部できるのは強いですね。

監督:全部やりましたね。もちろんほかの人にやってもらって良いものができることもあると思うんですけど、遠慮が入ることもあるじゃないですか。自分だったらババっと切る。切りすぎて、カメラの子に「カットが短い」って言われたんですけど、「いーんだよ」って(笑)。無駄にインサートとか入れてモタモタする映画嫌いで、急に月とか入れてきたりね(笑)。「そんな雰囲気とか要らない」ってスパスパ切っていきました。

暁:自分で切ると逆に長くなる人いますね。
白:そっちが多いかも。思い入れありすぎて切れない。

監督:「110分は長い」とは言われました。最初は80分くらいで作ろうかと思ってたのに、てんこ盛りにしたのでだいぶ長くなっちゃって。

白:エピソードが。
暁:でもそれだけあっても、あれもこれもって感じはしなかった。流れの中でこういう事件が起こって、っていう。
白:そうそう。とっ散らかってる感じはしないの。


監督:ありがとうございます。自分で編集して面白いなと思ったのは、例えばですよ。音楽がわーってなったところでパチンと切る。オチみたいにする、っていうの。里親支援センターの自動ドアの前で開かなくてジャンプしたりするんですが、上のほうにポチ(ボタン)があるんです。そこでポチ、ウィーン(ドアが開く)音楽が切れる、とやっています。

白・暁:もう一度観直します。もう一時間過ぎてしまいました。今日はありがとうございました。

(取材まとめ:白石映子 監督写真:宮崎暁美)


=インタビューを終えて=

映画だけでなく、政治や年金や、将来のことまで話は広がりました。表情豊かで、声色も変える監督のお話はほんとにおもしろくて、笑っているうちに時間があっというまに過ぎました。ネタバレになってしまうところはぼかしております。
私自身「アスペルガー症候群ではないか」と疑っているのですが(昔はそんな言葉聞きませんでした)、調べたことはありません。一葉とは傾向が違うけれども、似ているところが多くとても共感しました。
なんでも分類されるのは好きではありませんが、傾向がわかれば対策もできるというものです。発達障害といわれる子どもたちが、大人になって自分で生きていける居場所を見つけられますように。理解が拡がって、自分の得意なものを生かせますように。(白)


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本誌105号(2022年発行)の表紙に瑚海みどり監督の写真を使わせていただいたのですが、これは第34回東京国際映画祭(2021)で瑚海監督が「Amazon Prime Video テイクワン審査委員特別賞」を受賞した時の写真です。授賞式での瑚海監督の表情がすてきだったので使わせていただきました。監督に105号を渡したいと思っていたのですが監督の情報がわからず、映画美学校での試写の時に事務局に聞いてみようかとも思ったのですが、そのうち監督作品で会える時が来るだろうと思っていました。そして、この作品で出会うことができました。今回、白石が瑚海みどり監督にインタビューすることを知り、ぜひ105号を渡したいと思い、白石と共にこのインタビューに参加させてもらいました。
表情がゆたかだったのは、俳優や声優を経験してきたからだと知りました。また、いろいろな経験や体験をしてから映画監督に挑戦したということで、作品にそれらの経験が生きていると思いました。自分で主人公を演じていますが、自身の思いを人に演じてもらうのではなく、自分で演じることで正確に思いを役に込められ、これまでやってきたことを生かせる。一石二鳥です。今回の作品では、それが生かされていると思いました。加えて編集も自分でできるというのは、今後とも映画を作っていくのに大いに役立つと思います。少しづつ経験を積んで、映像作家として活躍していってほしいです。(暁)

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