『白日青春-生きてこそ-』 アンソニー・ウォン(黄秋生) インタビュー

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香港の名優アンソニー・ウォン(黄秋生) 久しぶりの出演作『白日青春-生きてこそ-』。
70年代に本土から香港に密入国したバクヤッ(白日)と、パキスタン難民の両親のもとに生まれた少年ハッサン(中国名:莫青春)の物語。監督は、マレーシア出身で、18歳の時に香港に来て以来、約10年、香港を拠点に活動しているラウ・コックルイ(劉國瑞)。

1月26日よりの公開を盛り上げるため、アンソニー・ウォンが5年ぶりに来日。 初日には新宿武蔵野館で舞台挨拶に立たれましたが、前日にインタビューの時間をいただくことができました。
取材: 宮崎暁美(M:写真)、景山咲子(K:文)


◎アンソニー・ウォン(黄秋生) インタビュー

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K:アンソニー・ウォンさんにお目にかかるのは、2009年2月3日(火)の『PLASTIC CITY プラスティック・シティ』記者会見以来のことで、ずいぶん前のことになります。   

黄秋生:あ~ ほんとだいぶ昔ですね。

K:『八仙飯店之人肉饅頭』以来、アンソニーさんの迫真の演技にいつも感銘を受けています。特に、『淪落の人』は、あの年に観た映画のベストでした。

黄秋生:ありがとうございます。

◆演技を忘れてしまいそうで出演を引き受けた!
K:『淪落の人』は、フィリピンのメイドさんとの物語でしたが、『白日青春-生きてこそ-』(以下『白日青春』)は、パキスタンの家族との物語で、私にはとても身近で嬉しい映画でした。イスラーム文化が好きで、香港に行くと必ず、ミッドレベルの古いモスクに行きます。 ヒルサイドエスカレーターが出来る前から行ってました。 モスクのそばにパキスタンの人たちが住んでいて、行くと、ミルクティーをご馳走してもらってました。イスラームの人たちは、ほんとに心優しいです。 これまで、香港映画でパキスタンの家族が出てくるものは少なかったので、『白日青春』には、とても興味を持ちました。 この映画はどうして引き受けられたのでしょう?

黄秋生:なぜ引き受けたか・・・ですが、実は、暇で暇で、やることがなかったのです。そんな時にたまたまオファーしてくれたのが、よく知ってる信頼できる映画会社で、映画に出ないと演技を忘れてしまいそうなので、どんなテーマの映画でもいいから出演しないといけないと。それで引き受けたのです。

M:プロデューサーの一人、ピーター・ヤムさんとは、2017年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』の陳梓桓(チャン・ジーウン)監督にインタビューした折に同席されていて、お会いしました。 
3人のプロデューサーがいますが、それぞれ役割分担があったのでしょうか?


黄秋生:ピーターとは、この映画の製作にあたっていろいろ連絡を取っていましたが、あとの二人の方はよく知りません。配給会社の方かもしれないですね。

◆詩からつけた主役二人の名前「白日」と「青春」に、あらためて感心!
M:タイトルの『白日青春』ですが、清の詩人・袁枚(えんばい)の「苔」という詩の一節で、映画の中では小学校の授業で教えていましたが、香港の授業でも教えるくらいの中華圏では有名な詩なのですか?

白日不到処
青春恰自来
苔花如米小
也学牡丹開

日の当たらないところにも
生命力あふれる春は訪れる
米粒のように小さな苔の花も
高貴な牡丹を学んで咲く


黄秋生:どうでしょうか・・・

M:主役二人の名前をこの詩からとっていますし、皆が知っている詩なのかなと。

黄秋生:監督はマレーシアの華人で、この詩は監督の好みだと思います。
実は、今回、取材を受けるまでこの詩のことは気にしませんでした。取材で聞かれて、詩の内容のことも知って、名前にもそういう意味があったのかと初めて勉強になりました(笑)。

K:アンソニーさんも詩を書かれると聞きました。

黄秋生:ここに(書いた詩が)たくさんありますよ。(と、机の上に置いてある巾着を指されました。中にある携帯に入っているのでしょうか・・・)
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K:ご自身も詩を書く立場として、この詩は好きですか?

黄秋生:(ポスターに書いてある詩をしげしげと眺めながら) 先ほどのインタビューの方も、この詩が好きだとおっしゃってました。 なんとなく、この詩は日本的だなと思います。日本の美学でしょうか。細かいことをいわずシンプルなところ。この詩もそんな感じがします。日本の繊細さはいいのですが、中国の文化の中では、ひねくれた繊細さがあることがあります。この詩はそこまでは至ってないと思います。 詠んでいて、とても清らかで、雅まではいかないけれど、平凡ではない。言い方が悪いかもしれませんが、こんな素敵な歌と、映画の内容が合わないように思います。この詩は、「生きてこそ」というより、生命力や美しさを表していると感じます。
主役の二人の名前の付け方は見事だと思います。 白日と青春の由来を知らないと映画が何を語っているのかわからない。でも、詩の内容と違って俗っぽい世の中。思うには、純粋に監督の個人的な趣味です。いつもこの監督は、映画の中に個人的な好みを入れたがるんです。

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◆若い監督に物語をより深めるアイディアを提供
K: 今回の役は、がんこで、ちょっと嫌な老人の役でした。 監督からは、どのような要求があったのでしょうか?

黄秋生:監督がいうには、この老人はダメな奴ではないんです。同じ人物や出来事に対しても、監督と私の見方は時々違うんです。 例えば、監督は、この人物をみるときに、息子とうまくいかなくて、相手にしない。でも、それは表面的なことなのですよね。息子がどうしてそういう態度をとるのかというシチュエーションを考えないといけない。なぜうまくいってないかの理由をちゃんと把握しておかないといけないと監督に言いました。

K: 中国から川を渡ってきた時に持っていたコンパスをずっとお守りのように持っているのが切なかったです。 あの時に亡くなってしまった妻への思いを心に秘めているロマンチックな男だと思いました。

黄秋生:脚本には、奥さんと泳いできたとは書いてなくて、私が提案しました。「泳いで香港に入国した」とだけ書いてありました。義理のお父さんから聞いた話なのですが、学生の時、同級生たちと一緒に一生懸命泳いで密入国したのですが、振り返ってみるといなくなってしまった人が何人もいたと聞いたので、提案してみました。

K: その話が加わったことで、ぐっと話が生き生きとした感じがします。

黄秋生:創作するときの源になっているのは、自分自身の経験か、知人などの経験です。個人の経験だけですと限られていますから。


◆ザマン君に、アンソニーになんとアドバイスしたか聞いてみるといいよ!
K:パキスタンやインドの方と一緒に演技していますが、お母さん役のキランジート・ギルさんが、アンソニーさんと話す前は怖いと思っていたけれど、話してみたら、とてもいい人だったとインタビューで語っているのをみつけました。キランジートさん、とても魅力的ですが、どんな方ですか?

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黄秋生:大変な美女で、礼儀正しくて、英語の先生をしているのですが、こんなに綺麗な先生の教え子は、皆、英語が上手だと思います。しかもモデルさんでもある。ほんとにいい役者ですよ。 独特のエレガンスな気質も持っている人。

K:ハッサン役のサハル・ザマンの演技が素晴らしかったです。 彼の演技はいかがでしたか?

黄秋生:とても賢くて、可愛くて、ものおじしない。家での躾もしっかりできていて礼儀正しい子です。躾がいいというと医者などの子だったりしますが、驚いたのですが、この子のお父さんは、出前をしている人なのです。

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K:演技について、彼にアドバイスしたことは?

黄秋生:それは監督の仕事です。彼とコミュニケーションをよく取ってました。子どもには演出はいらないと思います。子どもはよく知ってます。2~3話したら、わかる。一緒にゲームをよくしました。誰が勝つかといえば、子どもですよね。 現場はいつも遊んでいた感じです。逆に、彼にインタビューする機会があったら、アンソニーにどんなアドバイスをしたかを聞いたらいいと思うよ!

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★取材を終えて★
『淪落の人』、『白日青春ー生きてこそー』と、このところ、日本で公開される秋生ちゃんの出演作はヒューマンなものが続いている。本人は「暇でやることがなかったから」などと答えていますが、きっと自分自身の思いがあってのことだと思うのです。それにしても役名の白日について、「苔」という詩の中からとった名前というのを、日本に来てから知ったと言っていたけど、ほんとかなあ。監督は、そういうのを説明しないのかなあ…。
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プロデューサーのピータ・ヤムさん(写真左端)の名前に聞きおぼえがあったので探したら、2017年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』の陳梓桓(チャン・ジーウン)監督にインタビューしたおりに同席していました。インタビューの後も、監督やプロデューサーと香港のことを話しました。最後に映画祭事務局で、チャン・ジーウン監督とピーター・ヤムさん、それにゲストサポートボランティアの方の記念写真まで撮ったので、インタビュー記事の最後に載せました。これまでいろいろな方にインタビューしましたが、同席されたプロデューサーの方の写真を載せたのは初めてだったので印象に残っています(暁)。


2日間にわたって、びっしり取材を受けていた秋生ちゃん。私たちが部屋に入っていくと、メイクのお直し中でした。オーラがすごくて、すぐに声をかけるのをためらう程でした。通訳の周先生の訳す言葉がとても丁寧なのですが、おそらく、べらんめえ調。同じような質問を受けてきたと思うのですが、たっぷり答えてくれました。さすが役者魂! 秋生ちゃん節炸裂で、言いたい放題でしたが、若い監督のことも応援しているのを感じることができました。
お母さん役のキランジート・ギルさんは、イランの女優ゴルシーフテ・ファラハーニーにも似た素敵な方なのですが、秋生ちゃんも大変な美女とべた褒めでした。
翌日の舞台挨拶も、客席から何度も笑いが起こりました。 秋生ちゃんが、ほんとに老人に見える『白日青春ー生きてこそー』。 ぜひ劇場でご覧いただければと思います。(咲)



『白日青春-生きてこそ-』 アンソニー・ウォン(黄秋生) 初日舞台挨拶
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『白日青春-生きてこそ-』アンソニー・ウォン インタビュー&初日舞台挨拶
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『白日青春-生きてこそ-』
公開中
配給:武蔵野エンタテインメント
PETRA Films Pte Ltd (C)2022
公式サイト:https://hs-ikite-movie.musashino-k.jp/
シネジャ作品紹介http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/502193789.html



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