マレーシア出身のラウ・コックルイ(劉國瑞)監督の初長編映画『白日青春-生きてこそ-』。70年代に本土から香港に密入国したバクヤッ(白日)と、パキスタン難民の両親のもとに生まれた少年ハッサン(中国名:莫青春)の物語。実の息子とは確執を抱えている、ちょっと頑固な老齢のタクシー運転手を演じた香港の名優アンソニー・ウォン(黄秋生)が、日本公開初日に駆けつけて舞台挨拶に立ちました。
日時:1月26日(金) 16時40分の回上映後 18:31~
場所:新宿武蔵野館 スクリーン1(新宿区新宿3-27-10 武蔵野ビル3F)
登壇者:アンソニー・ウォン(黄秋生、62歳)
聞き手:江戸木純
通訳:サミュエル周
映画を観終わったばかりの満席の観客の前に、江戸木純さんが登壇。
江戸木:アンソニーさんの演技に皆さん感動されていると思います。ここに来ていただいていますので、素晴らしい時間を過ごせればと思います。
さっそくお呼びしたいと思います。日本公開を盛り上げる為に来日してくださいました。皆さん、盛大な拍手でお迎えください。アンソニー・ウォンさん、どうぞお越しください!
紋付の羽織風の素敵なファッションで登場!
黄秋生:コンバンワ! (拍手) この場を借りてお礼申し上げます。わざわざ観にきてくださって! 皆さんと一緒にいられて嬉しいです。 ほんとうにありがとうございます。
会場の皆さまの中で、中国語のわかる方は?
(ちらほら手が挙がる)
あまり多くないですね。 アリガトウゴザイマス。謝謝、多謝!
江戸木:この作品、最初に出演依頼を受けた時に、どう思われましたか? 脚本は完成していたのでしょうか?
黄秋生:前の作品『淪落の人』をやった信頼できる制作会社からオファーがあって、新人の作品だと聞いて、会ってみましょうと。ちょうどその時、何もやることがなくて暇で、コロナもあって、これ以上撮らないと演技が出来なくなると心配に思っていました。脚本を読んだら、この物語ならと。ただ、読んだ時に、ロジカルな問題があって、足りないところもありました。監督に会ったら、監督はとても紳士で、ここは直した方がいいのではと話すと受け入れてくれました。
江戸木:アンソニーさんが演じられた白日というキャラクターは悩みを抱えた複雑な役柄でしたが、演じる上でもっとも注意した点や、難しかったことは?
黄秋生:そうですね・・・ 演じるにあたってあんまり考えすぎないようにしたことでしょうか。例えばブルース・リーは、相手を一発で倒しますよね。でも倒す前にあれこれとカンフーを見せたりはしないと思います。だから自分も同じような気持ちで撮影に挑みました。
江戸木:夜の撮影がかなり多かったですが、思い返して一番大変だったシーンは?
黄秋生:一番大変だったのは、車の中で息子と泣く場面でした。とても寒いのに短パンを穿いていて、お腹も空いてました。近くにラーメンの屋台があったから注文したのですが、出来上がったころにスタンバイしなくてはいけなくて、ラーメンがのびてしまうと思ったら、泣いてしまいました。
江戸木:サハル・ザマンさんはじめ中国人以外の方との撮影が多かったですが、エピソードは?
黄秋生:撮影現場は、とても和やかな雰囲気でした。ハッサンを演じたサハル君ですが、広東語で天ぷらのことを「ザハ(Za ha)」というので、天ぷら(ザハ)と呼んでました。一緒にゲームしたりしてましたが、とてもいたずらっ子でした。ひたすら歌って、子どもが歌ってはいけない歌も教えたりしました。 難民の父親役を演じたインダージート・シンは、ほんとはものすごいお金持ちで、一緒にご飯を食べた時にご馳走になりました。 母親役のキランジート・ギルは、美女でモデルです。最終的には皆さんとものすごく仲良くなりました。
江戸木:監督にとって長編デビュー作でしたが、彼ならではの特徴的な演出は?
黄秋生:演技指導はなかったです。もし演技指導されたら、「やめなさい」と言ったでしょう。演技指導したいなら、学校を開きなさいと言いたいです。監督には、ほかにやることがいっぱいありますから。監督はとても賢い方で、そういうことはしませんでした。現場ではいろいろ話して、監督には、いろいろ意見を出しました。撮影監督や照明担当からもアドバイスしていましたが、よく聞いてくれました。撮影現場はとても順調でした。私はずっとこういう芸術を愛する監督と仕事をしたいと思っていました。
江戸木:タクシー運転手が主人公ですが、香港映画で特徴的によく出てくるキャラクターです。アンソニーさんが出演された『タクシーハンター』(ハーマン・ヤウ監督、1993年)という映画もありました。タクシー運転手という職業に何か象徴的な意味があるのでしょうか?
黄秋生:特別象徴する意味はないと思います。単に撮りやすいからだと思います。タクシー運転手なら、1台の車で一人でもすみます。バス運転手だと乗客も大勢必要ですし、航空機のパイロットだとさらに大変です。監督は気づいてないけど、自転車ならもっと楽でしょう。
それでは会場からの質問を・・・というところで、逆にアンソニーから「質問していい?」とさえぎり、「一番後ろの列に誰もいないのは? チケットを売ってないのですか?」 マスコミ用に空けてあったのですが、「香港では逆で一番前には誰もいません」とのこと。
黄秋生:一つ条件があります。質問した人は、10枚のチケットを買って、友人に配って映画館に連れ戻してください。
*会場からの質問*
なかなか手が挙がらなくて 「皆、恥ずかしがり屋ですね。10人だと大変そうですから、5人にしましょう!」とアンソニー。
― 台湾の第59回金馬賞で最優秀主演男優賞を受賞された時に、サハル君も連れて一緒に舞台にあがったのが印象的でした。
黄秋生:天ぷら君は新人賞にノミネートされていたけど逃してしまって泣いてました。僕の受賞が発表された時に、直感として、小さい子にはこのような機会はなかなかないと思って、彼を連れて舞台にあがりました。ところがそのあと香港で彼が受賞して、僕は逃したのに、僕を舞台に連れてあげてくれなかったから僕は怒ってます!
― 南アジアの人たちは香港社会でどういう存在ですか?
黄秋生:お断りしておきたいのですが、研究している専門家ではないので、僕個人の意見です。香港では、エリアによって住み分けがされています。私のエリアにもそういう人たちはいません。多くの香港人は、こういう人たちを色付き眼鏡で見ています。悪いことが起こるのではと警戒したりします。香港では難民ではなくて南アジアからの移民が多いです。友人には南アジア系の人もいます。貧しい人もいますが、一部はお金持ちです。皆、いい人です。天ぷら君のお父さんは出前の仕事をしているけれど、教養があって礼儀正しい人。ほんとは金持ちです。
我々が相手を見る時、世の中、いい人もいれば悪い人もいる、金持ちもいれば貧乏もいる、肌の色などで判断するのでなく、人を見てほしいと思います。
江戸木:まだまだ聞きたいことは山ほどあるのですが、これからフォトセッションにさせていただきます。
黄秋生:こちらから観ると恐ろしい光景が・・・ 一番後ろの左端の方の顔がみえません。
(それって、私のことでした。フォトセッションの準備をしようと思って下を向いていたのです。顔をあげたら、手を振ってくださいました♪)
*フォトセッション*
マスコミ向けのフォトセッションのあとに観客の皆さんにも撮影タイム
ハートを作ったり、サービスたっぷりのアンソニーに、どよめく皆さんでした。
取材: 白石映子(写真) 景山咲子(文・写真)
『白日青春-生きてこそ-』アンソニー・ウォン(黄秋生) インタビュー
写真:宮崎暁美
秋生ちゃん節炸裂で言いたい放題でしたが、若い監督のことも応援しているのを感じることのできる発言の数々でした。
ぜひお読みください。
Facebookアルバム
『白日青春-生きてこそ-』アンソニー・ウォン インタビュー&初日舞台挨拶
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.895210842606502&type=3
『白日青春-生きてこそ-』
公開中
配給:武蔵野エンタテインメント
PETRA Films Pte Ltd (C)2022
公式サイト:https://hs-ikite-movie.musashino-k.jp/
シネジャ作品紹介http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/502193789.html
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