Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル 『ロンリー・エイティーン』トレイシー・チョイ監督インタビュー

2023年11月29日(水)那覇市内インタビュールームにて

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昨年2023年11月に開催された第1回Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバルのコンペティション参加作品『ロンリー・エイティーン』は、ベテラン女優であるアイリーン・ワン(温碧霞)がプロデューサーを務め、彼女の指名によりマカオ出身のトレイシー・チョイ監督により映像化されました。ヒロインは、国民党兵の落人村として知られる香港・調景嶺で育ち、親友とともに貧しさから逃れるように香港芸能界に身を投じます。作中では、芸能界で遭遇する性搾取、ヒロインと国民党軍の士官であった父との確執などが描かれます。
アフタートーク付き上映の2日後11月29日に、トレイシー・チョイ監督にお時間をいただき単独インタビューを行いました。アフタートークではお聞きしきれなかったマカオのこと、業界における性搾取について現状をどうとらえているかといったお話もうかがいました。アフタートークのレポートとあわせてお読みください。

*プロフィール*
トレイシー・チョイ(徐欣羨)監督
マカオ出身。台湾の世新大学と香港演芸学院で映画を学ぶ。処女長編『姉妹関係』(2016)は2017年の大阪アジアン映画祭コンペティション部門で上映されており、マカオ国際映画祭(澳門国際影展、略称IFFAM)のコンペティション部門でマカオ観客賞を受賞したほか、香港電影金像奬にもノミネートされた。『ロンリー・エイティーン』では2022年のマカオ国際ムービー・フェスティバル(澳門国際電影節、略称MIMF)で最優秀新鋭監督賞を受賞している。

―映画祭カタログにはマカオでも撮られていると書かれてありますが、映画自体は香港の物語ですね? ヒロインの故郷の調景嶺のシーンをマカオで撮ったのでしょうか?

監督:全部香港で撮りました。撮影当時はコロナ禍真っ只中で、最初は80年代のある風景はマカオで撮る予定でした。ですが、コロナの関係でマカオと香港も自由に行き来できなくなってしまったのです。どうしてもマカオで撮る場合、我々クルー全員が14日間隔離されなければなりません。それは非現実的だったので、仕方なく全て香港で撮るというプランに変わりました。

―監督はアイリーン・ワンさんからの御指名ということでしたが、指名されてどう感じましたか?

監督:驚きがいちばん大きかったです。新人監督は、私だけではなく往々にして自分にまつわるストーリーや自分の興味関心を撮ろうという方向に行きがちです。でも、そうではない。この作品というお題を与えられ、挑戦のしがいがありました。アイリーンさんの実際の体験のなかにいかに自分を融合させていくか挑戦的でした。

―全体の何割くらいをアイリーンさんの実際のことだったと受け止めればよいでしょうか?

監督:うーん……本当に幼少期は彼女の実話に基づいているのですけど、少女が二人出てくるところからその年代を生きた女性たちの共通性を描きたかったので、彼女自身の個の体験から離れていって、結婚して旦那さんとの絡みに関しては彼女の現実的な結婚生活とは程遠いものになっていますね。ただお父さんへの思い、お父さんとの対話・交流に関しては実際の状況をかなり反映しています。

―もしかすると監督が生まれる前のことを描かれたのではないかと思いますけど、いろいろリサーチとかも必要だったのではないですか?

監督:自分が生まれていない時代のパートに関してはかなり時間を要しました。アイリーン・ワンさんの過去作はもう一度じっくり拝見しました。もちろん古い香港の映画はこれまでにも観ていましたけど、意識的に観たことはなかったのです。まず、その当時、彼女が言うように他の俳優の方々も不本意ながらもそういったセクシャルなシーンを演じないといけなかったということについて、どういった形で作品化していったのか。時代を経た今振り返って、そのクオリティや質感をチェックしたりしました。あとは、やはりアイリーンさんのお父さんが暮らす村の部分がすごく特殊な場所なので、そこに関するリサーチ、そしてドキュメンタリー映画なども観ました。フィールドリサーチは入念にしたつもりです。

―その地区は、マカオとはかなり環境が違いましたか?

監督:調景嶺というアイリーンさんのお父さんの暮らす香港のその場所は、本来は国民党と一緒に台湾に撤退する人たちが逃げ遅れて留まってしまった場所です。彼らはいつか迎えが来ると期待を抱いていました。けれど、結局いつまで経っても迎えは来ませんでした。人々(国民党)に忘れられた場所、捨てられた場所という意味ではマカオとは違う文脈の場所だと思います。

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―エンタメ業界の性搾取の問題が出てきます。そうしたことは、まだ残っていると思われますか?

監督:改善はされていると思います。香港の以前の状況は、地元のマフィアとの関係という理由がありました。当時は映画産業で働いている女性が少なく、体制や仕組みなど女優を守ってあげられる環境になかったと思うのです。今は――私も女性だからかもしれないのですが、多くの新人監督たちがそういうセクシャルなシーンを撮るときなどに気を付けているのは、やはり女優がちゃんと納得した形で進めるために事前のディスカッションで調整をして、心地よい環境で進められるよう配慮しています。以前はプロデューサーや監督が「僕はこう撮りたいからこうしなさい」とトップダウン的で、今とはかなり違うようです。そういった点は改善していると思います。
香港映画の全盛期80~90年代に、香港映画が世界で一大ブームとなったのはアクション映画、カンフー映画だったと思います。男性主導の映画が多くて、女性はどちらかというと引き立て役、中国語で花瓶と呼びます。その当時、女優が演技力を発揮できる空間がそこまでありませんでした。でも、私のここ8~10年の観察では女性を主人公にした様々な人間模様をより広く描いた作品が増えていて、そういった意味では女性に寄り添った映画が増えてきたように見ています。

―監督はマカオご出身であるので、一昨日のアフタートークでマカオには映画産業がなかったので台湾なり香港なりに映画制作の勉強に行かれたと話してらっしゃいましたけど、マカオ出身の映画人はどのくらいいるのでしょうか?

監督:2022年の金馬奨で新人監督賞のノミネートに入った「海鷗來過的房間」はマカオ出身の監督・孔慶輝です。『ロンリー・エイティーン』で脚本を担当してくれた陳雅莉(監督作「馬達·蓮娜」は2021年華鼎獎中国マカオ最優秀作品賞)、あともう一人います。今年2023年の金馬奬でプレミア上映された作品の英語のタイトルが面白くて「I Want to Be a Plastic Chair(來世還作人)」というとてもキュートな映画の監督・歐陽永鋒。同世代なので一緒に仕事をよくします。私の作品のときは手伝ってもらって、彼らの作品のときは私も関わったりします。故郷のために映画を撮りたいという仲間なので助け合っていますね。

―マカオは撮られる側だったとおっしゃっていて、たしかに香港映画に出てくるマカオを思い浮かべます。ノワールものとか、住んでらっしゃる方には不本意な形かもしれませんね。

監督:カジノが有名でカジノの煌びやかなシーンは撮るけど、でも、カジノで働いている人にフォーカスしたものってないですよね。どういう人がカジノのなかで働いているか、たとえばカードを配るディーラーだって何を背負ってどういう生き方でどういう背景なのかということはまったく描くことがありません。そういった意味では撮られるものも限られたものになっていると思います。

―これからどういうものを撮っていきたいですか?

監督:今あたためているプロジェクトはラブストーリーで、舞台が香港・マカオ・台湾です。このラブストーリーは3つの物語構成からなっていて、17歳・22歳・34歳の話。LGBTをテーマにしていて、じつは男女ではなくて女性同士のラブストーリーなのです。

―中国との関係で作品作りに不自由も出てきているのではないかと思うのですが?

監督:逆にLGBTQの映画って、中国マーケットでは上映できないからのびのびとやりたいと思います。この3つの都市はラブストーリーの舞台としてだけではなくて、自分自身がそこで住んだり求学したり生まれ育ったりしている場所なので、自分がその都市にどういう感覚を抱いてきたのかということも描きたいと考えています。それで3つの都市を登場させようと思ったのです。

―都市の対比も楽しみですね。いま脚本を書いているところですか?

監督:書き終わってブラッシュアップしているところです。

―キャスティングのイメージは?

監督:まだキャスティング中で、34歳の女性は『姉妹関係』から一緒に成長してきたようなものなのでそこはもう決まっています。次の旧正月(2024年)には撮影の準備段階に入りたいですね。

―どうもありがとうございました。

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シネマジャーナルHP 映画祭レポート
第一回Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル授賞式
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/501913274.html

(写真・取材:台湾影視研究所・稲見公仁子)


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