フリーライター、ラジオパーソナリティなど多方面で活躍している武田砂鉄さんをゲストに、本作品、企画・プロデュースの李鳳宇(リ・ボンウ)さん、松倉大夏監督が出席しました。
*松倉大夏監督
2004年よりフリーランスの助監督としてTV・映画業界で活動。
『ちゃわんやのはなし―四百年の旅人―』が初監督作
*李鳳宇プロデューサー
製作や配給作『月はどっちに出ている』『パッチギ!』『フラガール』『健さん』『セバスチャン・サルガド』『あの日のオルガン』『誰も知らない』など
配給作『風の丘を越えてー西便制』『シュリ』『JSA』『殺人の追憶』など
『ちゃわんやのはなし―四百年の旅人―』
2023年/日本/日本語・韓国語/5.1ch/117分
作品紹介 公式HP
監督:松倉大夏
企画・プロデュース:李鳳宇
出演:十五代 沈壽官、十五代 坂倉新兵衛、十二代 渡仁、ほか
語り:小林薫
企画・製作・提供:スモモ
配給:マンシーズエンターテインメント
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★トークイベント
*この作品を作ったきっかけ
武田砂鉄さん「配給会社さんから依頼があり、ポスターや作品紹介を読み、地味な映画かと思いましたが、観ていくうちに長い歴史とか、いろんな国や地域というものが重なり合い、なんで自分たちが今ここにいるのかとか、今ここにそのものがあるのか、蓋を開けてみればどんどん広くなっていったという感覚で、扉を開けたらそこにものすごく広い世界があった」と映画の感想を。
李プロデューサー「沈壽官さんとは20年くらい親交がありますが、この映画の話をしたのは4~5年前。沈さんは、最初はあまりやってほしくない感じでした。劇映画ばかり作ってきたけど、ちょうど高倉健さんのドキュメンタリー映画『健さん』を作った後だったので、『健さん』の次なんですよと言ったら、沈さんが「じゃあ俺もやろうかな」と言ってくれました」と、オファー時のエピソードを披露してくれました。
武田さん「司馬遼太郎の『トランス・ネーション』や『国家を超越していく』という言葉や考え方がこの映画の背骨になっていると思うが、企画の段階からそこに到達できそうな見込みはあったのでしょうか?」
李プロデューサー「僕は在日韓国人の2世で、『パッチギ!』とか『月はどっちに出ている』とか色々作ってきて、韓国、朝鮮との関わりみたいなことを考えたことは何度かあったけど、司馬さんの本に触れ、沈さんの物語を聞き、おそらくこの先100年とか200年とか経ったときに、在日韓国・朝鮮人という人たちはどうなっているのかの、そのひとつの答えのようなものが沈壽官家にあるんじゃないかと思う。そういった物語もなんとかいかしてほしいと監督にお願いしました」
松倉大夏監督「狭い尺度じゃなくて広い尺度で歴史を捉えないといけないと念頭に置いて、沈壽官家のドキュメンタリーを撮りたいと思いました」
武田さん「司馬さんの言葉でもう一つ、強い日本人ということでなくて、強く日本人であるということばを大切にされていて、この言葉というのは個々に受け止め方は違うでしょうけど、ともすれば強い日本人というのは、いかに鍵括弧つきの日本を愛せるかとか、ほかの別のところから来る脅威から守れるかという、強い日本ということになっている。それは大きな間違いだと思うのですが、強く『日本人である』というのは、ともすれば今この日本がどういう国で、どういう場所であるかっていうことを、疑うとか、批判するとか、監視するっていう、その視点っていうのはすごく必要だなって思うんですよね。そのときにやはり監督がおっしゃったような、なんで今この歴史、ここにたどり着いているのかってことを考えたときに、先の戦争だけじゃなくて、もっと長いスパンでこう歴史をみていく、その視野を持つっていうのはすごく大事なことだなと改めて思った」と、この映画に対して印象を述べました。
ラストシーンについて
武田さん「エンドロールが終わったあとのあのシーンというのは印象的でしたね。あれは思い入れがあったのですか?」
松倉監督「あれはどうしても使いたいと思って編集していました。あの神社に行った時、蝶が飛んでいるのをみて、沈さんの親への気持ちというものを表現するのにどうしても使いたいなと思っていたのですが、流れの中には入らなくて。なので、一番最後に入れるのがいいのではないかと話し合い、そういう結論に達しました」
「鹿児島での先行上映の時にもお客さまからさまざまな箇所に言及してもらいました。いろいろな感想を持てる映画になったと思うので、SNSでも感想をあげて、ぜひ広めていただきたい」と呼びかけ、イベントは終了。
*トランス・ネーション 司馬遼太郎の造語
「いまの日本人に必要なのは、トランス・ネーションということです。韓国・中国人の心がわかる。同時に強く日本人である、ということです。」「真の愛国は、トランス・ネーションの中にうまれます」
トランス・ネーションとは、司馬の造語。トランスは変圧器。異なる電圧を変換して、生活に役立てるのがトランス。双方を繋ぐ役。司馬さんは橋渡し役をというような意味で言ったのでしょうか。
『ちゃわんやのはなし―四百年の旅人―』は東京のポレポレ東中野、東京都写真美術館ホールほか全国で順次ロードショー。
文:宮崎暁美 撮影:景山咲子
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