映画『WALK UP』主演クォン・ヘヒョ登壇トークイベント報告 (咲)

PXL_20240606_121841117.MP 6420.jpg

韓国の名匠ホン・サンス監督の長編第28作目となる『WALK UP』が2024年6月28日(金)より日本劇場公開されることを記念して、主演のクォン・ヘヒョが緊急来日し、上映劇場の一つ、ヒューマントラストシネマ有楽町にて、6月6日(木)19:00回上映後にトークイベントが開催されました。
クォン・ヘヒョは、20年前に日本での韓流ブームの火付け役となったドラマ「冬のソナタ」(02)のキム次長役で知られ、メインストリームの大作『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20)や、Netflixドラマ『寄生獣 ―ザ・グレイ―』(24-)などでも活躍する名優。

『WALK UP』は、ホン・サンス監督常連俳優の名優クォン・ヘヒョを主演に迎え、都会の一角にたたずむ4階建てのアパートを舞台にした、芸術家たちの4章の物語。
シネジャ作品紹介 


●『WALK UP』上映後トークイベント
DSCF6174 320.jpg

ゲスト:クォン・ヘヒョ
MC:月永理絵(ライター/編集者)
通訳:根本理恵

MC: 本日は最速上映会にお越しいただきまして、ありがとうございます。
それでは、本作で主演の映画監督ビョンスを演じ、これまで「冬のソナタ」はじめ多くの作品に出演されてきましたクォン・ヘヒョさんをお呼びしたいと思います。どうぞ拍手でお迎えください。

クォン・ヘヒョ:今回はホン・サンス監督の『WALK UP』の日本での最速上映会の機会にお招きいただきありがとうございます。個人的には20年前に「冬のソナタ」で来たことがある東京にまた来ることができて、ホン・サンス監督の作品を通して、このような形で皆さんとお会いすることができて、本当に光栄です。

MC:ホン・サンス監督から特別に観客の皆様にメッセージをいただいていますので、根本さんから読み上げていただきます。

根本:「私たちが作った映画を今日観に来てくださった観客の皆さんに心から感謝いたします。私が自らご挨拶に行けなくて残念ですが、クォン・ヘヒョさんは映画の主人公であるだけでなく、私と一緒に多くの映画を作った素晴らしい俳優ですので、皆さんと楽しくお話できると信じています。私たちの映画に関心を寄せてくださった皆さんへ改めて心からの感謝をお伝えします。 ホン・サンスより」

クォン・ヘヒョ:昨日の夜遅くホン・サンス監督から届いて、私から読んで欲しいということでしたが、内容をみましたら自分で読み上げるのはどうしても恥ずかしくてできませんでした。

MC:今日はたっぷりクォン・ヘヒョさんにお話しをお伺いしたいと思います。

クォン・ヘヒョ:質問を受ける前に、気になっていることがあります。映画をご覧になっていかがでしたでしょうか?
(満席の観客より大きな拍手)
カムサムニダ。(と、ほっとした表情で笑うクォン・ヘヒョ氏。)


PXL_20240606_120041852.jpg


MC:出演された経緯、どのように出演が決まったのかお伺いします。

クォン・ヘヒョ:『WALK UP』は、ホン・サンス監督の28本目の映画で、私がホン・サンス監督とご一緒した映画としては9本目です。ホン・サンス監督からの出演オファーは、いつも同じ形でいただきます。それは、「いつからいつまで映画を撮る予定だけど、時間ある?」。それだけです。ここにいらっしゃる方なら、ホン・サンス監督の撮り方をご存じかと思います。世界でも類をみない特別な撮り方をされる方です。いつも撮影の前日までどんな映画になるのか、まったくわかりません。撮影場所に着くと、その日に撮影する分だけの台本を撮影の1時間前にいただきます。ホン・サンス監督がその日の早朝に書いた台本です。その日撮影したものの中から細かい事柄を考えて、次の日の撮影の糧にするのです。私たち俳優は、次の日の撮影内容も知りません。私はこの作品をとても気に入ってます。長く答えてしまって申し訳ありません。

MC:主演作としては、ホン・サンス監督作では『それから』以来の主演作だと思いますが、主演であることが、ほかの作品とは違うお話が監督からあるのでしょうか?

クォン・ヘヒョ:この作品については、撮影が始まる前に知っていたのは二つのことだけでした。それは監督から「主人公は君だよ」「主人公の仕事は監督だよ」とだけ言われて撮影に臨みました。このような話をすると、皆さんは脚本がないように思われるかもしれません。先ほどお話しましたように、この作品を含めて、その日の撮影を踏まえて次の日の脚本を書かれます。完璧な台本です。俳優は置かれた状況の中でアドリブは一切なく、ホン・サンス監督は28作品、そのようにしてテイクを何度も重ねて本当に精巧に精密に作品を作っています。撮影の日の朝、台本をいただくのは撮影の約1時間前なのですが、その間にセリフを覚えます。ワインを飲むシーンはワンテイクで17分間ありますが、A4で何枚もあるセリフを一言も間違えずに覚えて、3人の俳優のアンサンブルで撮るので、かなりの集中力が必要とされます。

DSCF6178 320.jpg


MC: 本作は地上4階・地下1階建ての小さなアパートで物語が進んでいきますが、実際に、1軒の建物内で順番に撮影をしていったのでしょうか?

クォン・ヘヒョ:この質問をいただいて思い出したのですが、先ほど、「いつからいつまで撮影するけど時間ある?」といわれたと話しましたが、ホン・サンス監督から特別のお話しがありました。「ソウルの江南に面白い建物を見つけた。ここで撮影したら面白い物語ができそうだ」という一言がありました。実際に、最初から最後まで一つの建物の中で撮影が行われました。

MC:1階から2階と上にあがっていくにつれ、時間が少し経過しているような、もしかして時間が経ってないような不思議な作りでしたが、実際に順番通りに撮っていったのでしょうか?

クォン・ヘヒョ:ホン・サンス監督の作品世界は、非常に特別な構造を持っていますよね。繋がっているようで繋がっていない特別な構造の世界です。驚くべきことであり面白いことです。ホン・サンス監督は、いくつものシーンを撮っておいて、あとから編集して時間軸を決めたりするという編集の技術を使う形ではなく、皆さんがご覧になった順番通りに、本当に一日一日順撮りしていくので、私も撮りながらいつも驚かされています。これはいったいどういうことなのか、これは何だろうと驚きながら撮影に臨んでいます。観ている方も驚きながらご覧いただいたことと思います。皆さんまじめで、真剣に聞いていますが、この話をすると、うわ~っと笑われるのですよ。(ハハハと大笑いするヘヒョ氏)カムサムニダ。

MC:今回、監督役ですが、俳優として、どのような基準で出演作を決めていますか? 監督で選ばれるのか、脚本を読んで決められるのか?

クォン・ヘヒョ:役柄の大きさに関わらず、この作品は面白いなと思ったら出演するようにしています。私は若い頃からホン・サンス作品のファンでした。ホン・サンス監督の作品に出られることは光栄なことです。28年以上に渡り、唯一無二と言えるご自身の世界がある芸術家であり、作品を通して全世界に届けているインスピレーションは素晴らしいものです。撮影に参加できるのは、ほんとうに嬉しいことですし、今日もお蔭様で久しぶりに東京に来て皆さんにお会い出来て嬉しく思っています。

MC: 劇中でギターを弾いているシーンがありますが、今日は特別にギターを弾いていただこうと思います。

クォン・ヘヒョ: 2022年に韓国で公開されたあと、いつ歌ってくれるのですかとよく言われました。
(ギターが目の前に運ばれます)
歌えますかと言われて、自分に歌える歌には何があるだろうと考えました。

DSCF6231 320.jpg


大いに照れながらギターを手にして、「上を向いて歩こう」を日本語で歌ってくださいました。
手拍子しながら聴く観客。
最後は口笛でメロディー

クォン・ヘヒョ:(ハハハ)一つ、問題があります。私が一番恥ずかしいのが、歌っている映像を撮られたのを自分で観ることなのです。歌手と私の違いは何だと思いますか? 歌手の方はしらふで歌いますが、私はお酒を飲まないと歌えません。しらふで歌った映像を観たとしたら、もう頭がいかれてしまいそうな気になります。もし撮られた方がいましたら、自分だけでご覧ください。外に流さないでください。

MC:ほんとうにスペシャルなことをありがとうございました。

クォン・ヘヒョ:カムサムニダ。俳優になって初めての経験です。皆さんが緊張されていたのが、少しほぐれたような気がします。

MC: お時間が迫ってきましたので、写真撮影の前に一言お願いします。

クォン・ヘヒョ:ホン・サンス監督の作品を通じて皆さんとお会いできて嬉しい気持ちでいます。一方、作品というのは、観終わった後は観た方のものだと思っていますので、このように観た後にお会いすると皆さんの思いを壊してしまうのではないかなと思っていました。私にとって今日のこの場は本当に嬉しい場になりました。6月28日から日本で公開されて日本の皆さんにご覧いただけることになりますが、これからも多くの関心を寄せていただけると嬉しいです。遅い時間までご一緒していただいてありがとうございました。皆さん、健康には十分気をつけてお過ごしください。


*フォトセッション*

DSCF6250 320.jpg


観客の皆さんにも撮影タイム
PXL_20240606_121855643 320.jpg


PXL_20240606_121917007.MP.jpg

最後には、ファンの女性の方から花束も。
大いに照れるクォン・ヘヒョ氏でした。

映画『WALK UP』主演クォン・ヘヒョ登壇トークイベント Facebookアルバム
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.993600336100885&type=3


WALK UP  原題:탑 
walkup.jpg

監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス 
出演:クォン・ヘヒョ、イ・ヘヨン、ソン・ソンミ、チョ・ユニ、パク・ミソ、シン・ソクホ

2022年/韓国/韓国語/97分/モノクロ/16:9/ステレオ 
字幕:根本理恵 
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://mimosafilms.com/hongsangsoo/
★2024年6月28日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、Strangerほか全国ロードショー


*********
★取材を終えて
私がクォン・ヘヒョ氏を意識した最初の作品は、「冬のソナタ」より前、映画『ラスト・プレゼント』(オ・ギファン監督、2001年)でした。詐欺師の役で、コメディアンなのかなと思いました。その後、強烈に印象に残っているのは、ドラマ「私の名前はキム・サムスン」のキム・サムスンの姉といい仲になる総料理長役。その後、数々の作品で彼が出てくると思わず笑ってしまう存在でした。先日、再放送で観終えたばかりのドラマ「王になった男」では、政治を牛耳る悪代官的な役どころで、凄みがあって、いつもと違うクォン・ヘヒョ氏に驚きました。『WALK UP』では、いつものホン・サンス監督の作品通り、ひょうひょうと浮気者の監督を演じています。
今回のトークイベントは、笑いに満ちた楽しいものでした。根本さんが通訳している間には、会場のあちこちに愛想よく目線をおくっていらっしゃいました。終了後も、ロビーで皆さんに気さくに接していらして、思わず、私も握手。これからも楽しみな役者さんです。


報告:景山咲子

この記事へのコメント