『ライズ ダルライザー -NEW EDITION-』主演・和知健明インタビュー

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ダルライザーとは、福島県白河市の名産であるだるまをモチーフに作られたヒーロー。転んでも起き上がる不屈の精神で町の平和を守る。2008年から活動を始め、リアルに存在する等身大のヒーローを目指してきた。
そのダルライザーを主人公にし、キャストのほとんどを福島県白河市の一般市民たちが演じた映画『ライズ -ダルライザー THE MOVIE-』は第1回タイ国際映画祭でベストプロダクションデザイン賞を受賞。このほど、新たに編集を施したニューバージョン『ライズ ダルライザー -NEW EDITION-』が公開されることとなった。
“等身大のヒーロー”を生み出したのは、劇中で自らダルライザーに扮する和知健明。主演だけでなく、原作、プロデューサーも兼ね、自身の半生をモデルに物語を作り上げた。和知健明にダルライザー誕生秘話や撮影時のエピソードを聞いた。

<プロフィール>
和知健明 Takeaki Wachi
1980年生まれ。現・桐朋学園芸術短期大学演劇科卒。卒業公演で本作の監督佐藤に声をかけられ、自主制作映画やコント等の俳優活動をしていた。結婚を機に帰郷し、ウエディングプランナーをしていた頃、08年に白河商工会議所青年部でダルライザーを発案。その後地域活性を目指して一念発起し、15年に事業展開を始める。なるべく身近に感じてもらえるように自身の体験を織り込んだところ、そのリアルな物語が好評を博し、全国にファンが点在する。また演劇文化などを根付かせるため、しらかわ演劇塾の運営に携わる。15年に映画化を決意、それに伴い日本人初のKEYSIインストラクターの資格を取得。本作が初の映画プロデュース作品。

『ライズ ダルライザー -NEW EDITION-』
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東京で俳優を志しながらも夢破れ、妻の妊娠をきっかけに故郷の白河市に帰ってきたアキヒロ。生まれてくる子供のためにも安定した人生を歩もうと就職するものの、俳優業を諦めきれない彼は、ある日町おこしのキャラクターコンテスト開催を知って“ダルライザー”というキャラを考案、ご当地ヒーローとして活動を開始する。しかしその頃、秘密組織〈ダイス〉によって、ある恐るべき計画が進められていた…。

監督・脚本:佐藤克則
原作・プロデューサー:和知健明 
出演:和知健明、三浦佑介、桃 奈、山口太郎、佐藤みゆき、山﨑さやか、田村 諭、宮尾隆司、赤城哲也、古川義孝、鈴木桂祐、鈴木裕哉、湯本淳人、緑川順子、フスト・ディエゲス、井田國彦
製作:ダルライザープランニング 
配給:ダルライザープランニング/アムモ98
2018年/日本/カラ―/119分/シネスコサイズ/5.1ch  
©2018 Dharuriser Planning

★2019年3月9日(土)より、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開!


―ダルライザー誕生の経緯を教えてください。

子どもが生まれたことが大きなきっかけでした。24歳で夢を諦めて帰郷し、その3年後に子どもが生まれたのです。そのころ、地元は不景気で、衰退していく地方都市の1つでした。子どもが大きくなったときもこのままだったらどうしよう。何かできることはないかと考えるようになっていました。『バットマン ビギンズ』と自分の町の状況が重なったのも、そんな時期だったからかもしれません。ちょうど、その頃、白河商工会議所青年部でキャラクターを作ろうということになったのです。子どもが安心して暮らせるように地元を変えたい。いろいろなきっかけが一つになり、ヒーローを作って活動を始めました。
白河市の名産は白河だるまです。転んでも起き上がる。「努力と工夫で何度でも立ち上がれ」という決め台詞でそれを伝えたい。僕がいなくなっても、この言葉があれば子どもはがんばれるはず。こうして、ダルライザーの活動を始めました。

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—ダルライザーの名前の由来は、だるまは何度でも起き上がるということなのですね。

ダルライザーは名前を公募しました。採用になったのは当時6歳の男の子の案です。ダルライザーの響きに惹かれました。ただ、由来は書いてなかったので、こちらで考えたのです。

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—ヒーロー活動をしているときのエピソードがあったら教えてください。

最初のころはまだ名前が決まっていませんでした。それで、みなさんから「ヒーロー」と呼ばれていたのですが、それですっかり気分がよくなっていました。
あるとき、5歳くらいのお兄ちゃんが赤ちゃんの乗ったベビーカーを押しながら3歳くらいの弟を連れて近寄ってきました。お兄ちゃんから「僕と握手してくれませんか」と言われて、「いいよ」と言ったら、まず、「握手してくれるって」と弟の手を差し出してきました。その後に「この子もいいですか」とベビーカーの赤ちゃんの手を差し出しました。最後にお兄ちゃんと握手して、3兄弟は帰ろうとしましたが、「あっ」と振り返って、「ありがとうございました」と頭を下げてくれました。感動しましたね。ヒーローと呼ばれていい気分になっている場合じゃない、あの姿こそヒーローだと恥ずかしくなりました。
それから、「ヒーローって何なんだ」を追求するようになり、自分自身が子どもたちの模範になるよう、「食事は残さない」、「横断歩道を渡る」といったことにも気をつけるようになりました。

—本作は2018年に公開された『ライズ -ダルライザー THE MOVIE-』を新たに編集したとのことですが、『ライズ -ダルライザー THE MOVIE-』を制作することになったきっかけについて教えてください。

大きなきっかけは2014年11月に行われた日本総研の講演会です。そこで、「2050年になると日本の人口が1億人を下回り、消滅する地方自治体が出てくる」と聞き、居ても立ってもいられなくなったのです。当時、私は結婚式場で仕事をしていましたが、ダルライザーとしての活動もやっていました。そこで、ヒーローショーで世の中を明るくできたらいいなと思い、ダルライザーで会社を立ち上げたのです。ただ、ヒーローショーでは時間がかかる。もっと何か大きなチャレンジをして、注目を集めて、転んでもいいから立ち上がるんだということを伝えたい。
そんなとき、私自身が高校生に向けて講演する機会をいただいたのです。話を聞いた高校生から「自分でも何かできる気がした」、「諦めないって大事なんだ」、「夢がなかったけれど、夢を追いかけてみたい」といった感想を聞きました。そこで、映画を作れば、ヒーローの楽しさと講演会の良さを組み合わせることができるかもしれないと考えたのです。映画を見た人ががんばろうと思ってくれれば、ヒーローが1人でも増えるかもしれない。そういう人たちが増えれば、世の中を変えることができる。しかも、映画なら、私が直接行って話さなくても伝わりますし、僕が歳を重ねても、映画は残ります。これが映画を作ろうと思ったきっかけです。

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―脚本からダイスにも理念があるのを感じました。

ダイスは洗脳することで理想社会を作ろうとする。ダルライザーはみんなとがんばって社会を変えていこうとする。2つは正義の価値観が違います。一方の価値観を押し付けるのではなく、あなたはどちらですかと問う。そして、ライバルであっても互いに認め合うことができるのではないか。そこが原点です。いろんなことが起こるけれど、転んでも起き上がっていくだるまの精神を伝えていくように脚本を書きました。
福島県内には、原発で避難した人、避難せずに残っている人がいます。同じように地元を愛しているのに、震災直後は言い争いが起きていました。逃げる人には逃げる人の、残る人には残る人の理由がある。互いに認めあえば、今は平行線でもいつか交わるときがくるかもしれない。そういう思いもあります。

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—ダイスを演じた方々はプロの役者ではなく、白河市の市民の方々ですね。

僕はダイスを演じてくれた仲間が本当のヒーローだと思っています。僕は多少なりとも演劇を学んでいましたが、彼らは白河商工会議所青年部の繋がりで出てくれたので、演技はまったくの未経験者です。今回、撮影までに1年半くらいかけて、演技トレーニングをしました。最初は辿々しかった台詞回しが、何とか喋れるようになり、感情もプロには及ばないとはいえ、多少なりとも理解してきた段階で、ダイスのメンバー6人だけの居酒屋のシーンから撮影に入りました。監督が気を遣ってくれたのです。
プロの役者さんと絡んでいくうちに少しずつ演技力が上がっていき、ラッシュ版で全編見たら、居酒屋のシーンだけ演技のクオリティが低い。みんなにもう一度集まってもらって撮り直しました。納得いくまで撮れたのはみんなのおかげです。彼らも作品を見て、こうすればよかったなどと話をしていました。それって「転んでも立ち上がる」ダルライザーの精神です。

—彼らは今もヒーローショーでダイスをやっているのでしょうか。

彼らは2008年にダイスを立ち上げたときに演じてくれていた人たちで、2010年くらいまではこのメンバーでやっていました。その後、メンバー交代が進んで、今はファンとして外側から見てくれていた人たちが中に入っています。ただ、ダイス発足当時から知っているファンたちは彼らが演じていたことを知っている。だから、映画にも出てほしいと頼んだのです。最初は「市民が演技しても面白くない」と断られたのですが、謎の集団が暗躍しているという設定なら、顔が分からない人たちが演じている方が謎の組織感があると説得しました。

—市民の方々が仕事をしながら映画に出演するのは、大変だったことと思います。

ダイス№1の田村さんは旅館の若旦那さん。朝5時には起きて、お客さんの朝食の仕込みをします。夜中の3時くらいまで撮影したときはそのまま寝ずに朝食作って、それから寝たようです。時間をやりくりして協力してくれました。

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—本作の見どころをお聞かせください。

雨の中、田村さんが傘をさしてダルライザーに話しているシーンはじっくり見てほしいところの1つ。リハーサルのとき、なかなかセリフが出てこなくて、練習を重ねましたが、本番ではノーミス。ものすごい集中力でやってくれました。
もちろん、アクションシーンも迫力があります。出演した市民の方々がトレーニングを積んで演じてくれました。スタントマンを1人も使っていません。

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―ダルライザーの今後についてお聞かせください。

僕が考えているヒーローはコスチュームを着て、ショーをする人ではありません。地元のために新しいことにチャレンジして、改革していく人たちこそヒーローだと思っています。この映画を全国に広げて、市民がチャレンジすることの大切さを伝えたい。住んでいる人たちが自分たちで町を育てていくのです。
それと、後任の育成をする自社ビルを白河市に建てたいですね。正立方体で窓が賽の目になっている巨大なサイコロビル!(笑)。株式会社ダイスは世の中を変革していく会社です。ビルの中では演技やアクションのトレーニングをし、撮影もできる。子どもたちがいろんなことにチャレンジし、それによって気づいた、自分の町の魅力を発信する。スタジオを兼ねたエンタテインメント施設にしたいと思っています。
(取材:堀木三紀)

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